題「子狐の恋」5
 四番隊から帰って来た一護。弓親に、
「弓親、弓親、見て見て!卯ノ花さんがほっぺ治してくれたよ!」
と報告した。
「そう、良かったね」
にっこり笑って答える弓親。
「うん!手がね、光ってあったかくなったなって思ったらもう治ってたの!すごいねぇ」
すごい、すごいとしきりに言う一護。
「一護君、お腹は空いて無いの?」
「ん、空いてる・・・、弓親は?」
「僕はまだお仕事あるから、今日は一人で行ってくるかい?」
「え?俺だけで?出来るかな?」
「大丈夫だよ、そんなに高くないし、もう覚えたろ?」
「う、うん、やってみる。お仕事頑張ってね」
「ありがと。行ってらっしゃい」
「うん」

 食堂。
「えっと、何にしようかな・・・?」
何故か今日は見られてる気がする・・・。
やだな・・・。帰ろうかな・・・。もじもじしていると、
「一護!」
と呼ばれた。振り向くと恋次が居た。何人かと一緒だ。
「あ、恋次・・・、お昼?」
「おう、お前もか?」
「うん・・・、でもなんかじろじろ見られてるみたい・・・、帰ろうかな・・・」
「じゃあ俺らと喰えよ、一人じゃねえなら良いだろ?」
「うん!ねえ、この人達は?恋次の友達?」
「ああ、こっちの黒髪が檜佐木先輩とこっちの金髪が吉良だ」
「?先輩・・・?」
「まあ一護には関係ねえよ」
「ふうん、よろしくね」
「おう」
「こちらこそ、よろしく一護君」
「恋次は何食べるの?」
「なんにするかな・・・、お前は?」
「まだ決めてない、きつねうどん美味しかったけど成長期だからって剣八が何か言ってた」
「へえ、じゃあ定食にすれば良いんじゃね?色々入ってんぞ」
「定食・・・、お魚の入ったヤツってどれ?」
「あ〜、鮭と秋刀魚とぶりの照り焼きか?」
「鮭、秋刀魚・・・、どっちにしようかな?」
「好きなのにしろよ・・・」
呆れたように言う檜佐木。
「ん、じゃあ食べたこと無いから秋刀魚食べたい!」
「そうかそうか、じゃあ頼んで来い」
「うん!」
「食ったこと無いって・・・」
「ああ、山育ちだからみたいですよ」
「ふうん・・・」
3人も好きな物を頼む。
「あっ、来た」
「なんだお前待ってたのかよ」
「うん、皆で食べた方が楽しいでしょ?」
にこっと笑う。
「そうだな、じゃあ明日は隊長と喰ってみろよ、一護」
「白哉と?良いよ!楽しみ!」
ふー、ふー、と味噌汁を冷まして飲む一護。
「おいしいねぇ、お味噌汁は熱いけど美味しいなぁ」
「い〜ち〜ごっ!」
ん?と振り向くと柔らかい物に顔が埋まった。
「ん?んん?んむ〜?」
「やっぱり可愛いわぁ〜」
「乱菊さん、一護が死にますよ・・・」
「あらやだ、ごめんなさい」
ぷはっと顔をあげると乱菊が居た。
「あたしもここで食べてもいい?一護」
「うん、良いよ」
「あら、今日は一人なのね、弓親は?」
「まだお仕事なの。大変だよね、俺も他になんかできないかなぁ・・・」
「いい子ね、一護は。ゆっくりやっていけばいいじゃない」
「ん〜、でも邪魔じゃないのかな?俺・・・、ずっと一緒に居たいな・・・」
「おい、一護冷めんぞ。秋刀魚初めて喰うんだろ」
「あ、そうだ」
真ん中から切って出された秋刀魚に齧り付く一護。
「美味しい!ここのご飯すごく美味しいねぇ!」
満面の笑みで言う一護に食堂で働く職員が顔を綻ばせた。
「そう良かったわね」
「うん!ここで食べるものって今まで食べたことないのばっかだけど、すごく美味しいねぇ」
パクパクと食べて行く一護。
「今まで何食って来たんだ?」
と檜佐木。
「え〜と、山で採れるもの。川で魚とか、ネズミとか、木の実とか、色々だよ、かか様から色々教わった食べちゃダメなものとかは取らない様にしたけど、やっぱり毒キノコとかまだ分かんないや」
「そうか・・・、じゃあ米の飯とかもここが初めてか」
「うん!お味噌汁もそうだよ、あ、鯛焼きも恋次に貰ったのが初めてだった。ありがとね、恋次」
「いいよ、大したもんじゃねえし・・・」
「一護、あんた、魚の骨は?」
「食べたよ?どうかした?」
「強い歯してんのね・・・」
「そう?でもきっと とと様の方が強いよ」
「あら、あれって狛村隊長じゃないの?」
「ほんとだ、射場さんも居るっすね」
こちらにやって来た。
「おお、ここに居たか一護、儂らもここで食べても構わんか?」
「良いよ?今日は何かたくさんだ」
にこにこ笑いながら食べ続ける一護。
「おう、一護はまだ居るか?」
「あっ!剣八だ!お仕事終わったの?」
「ああ、まあな、まだ食ってんのか」
「うん、皆とお話しながら食べてたらゆっくりになったの」
「ふうん、ま、俺も今からだけどよ」
「じゃあ、ここに座るの?一緒に食べる?」
きらきらと期待のこもった目で見上げて来た。
「ああ、ああ、ここでな」
ぽんぽんと頭を叩いて食事を取りに行った。えへへと嬉しそうに笑う一護。
「で、何の話してたんだ」
「何だっけ?あ、山じゃどんな物食べてたかとか?」
「ふうん、お前は幸せそうだな」
「幸せだよ?剣八は幸せじゃないの?俺は幸せ、今は皆がいるもん、だから幸せ」
一人じゃないもん・・・。と呟いて残りを食べる一護。
「変わったガキだぜ・・・」
「ご馳走様でした」
「綺麗に食べたわね、エライエライ」
なでなでと頭を撫でてやると、
「やーん、くすぐったいよぅ、乱菊さん」
ときゃらきゃら笑った。
「そういや、お前さっき貴族相手に喧嘩してたよな?原因なんだったんだ?」
檜佐木が聞いてきた。
「肩があたったの、謝って大丈夫?って聞いたら汚いから触るなって怒られたから、汚くないよ?って言ったらなんか親の顔が見たいとか言って、とと様とかか様を馬鹿にしたの・・・」
湯呑みを握り締め説明した。
「流魂街のやつはこれだから嫌だって・・・、貴族ってそんなに偉いものなの?誰かを馬鹿にしてもいいの?」
「ほっとけ、んな奴ら。拘ってる時間が惜しい。お前はその時間使って強くなれ」
「剣八・・・、うん、強くなりたい・・・今度こそ大事な物を護るんだ・・・、俺の名前は一つのモノを護れるようにって意味だから・・・、剣八、どうやったら強くなれるの?」
「あん?そんなもん毎日戦ってりゃ嫌でも強くならぁ」
「更木隊長らしいですね、でもとりあえず基本から教えたらいいんじゃないっすかね」
「誰が教えるのよ?」
「明日、うちの隊長に頼んでみろよ、一護」
「白哉に?いいの?みんなお仕事あるのに・・・」
「いいんじゃねぇかな、なんか構いたいみたいだし・・・」
分かる気がするとみな心の中で頷いた。
「うん!お願いしてみる!」
食事を終えた剣八と帰っていく一護。

「ただいまー!」
「お帰り。一護君、ちゃんと出来たかい?」
「うん恋次と一緒に食べたよ!檜佐木さんと吉良さんと乱菊さんと左陣さんと鉄さんと剣八とで食べたの!」
「へえ、すごいね。楽しかっただろ」
「うん、楽しかった!明日は白哉と食べるの、そんで、えっと強くなる基本?教えてもらうの」
「へえ、頑張ってね!一護君」
「うん!」
そんな話をしながら時が過ぎた。一護達は夕飯を食べ、風呂に入った。
「剣八は?」
「出掛けるって言ってたよ。一人で寝れるかい?」
「寝れるもん」
剣八はその日から、遊郭に通いだした。一護は気付いていたが何も言わなかった・・・。
「一緒に居られるだけで良いんだ・・・、剣八は生きてるもん、帰ってきたら一緒に寝てくれるもん・・・」
呟きながら眠る一護。
本当は行って欲しくないけど・・・。そんな事言えないよね・・・。
やがて帰ってきた剣八が隣りに寝ている事に気付くと、気付かれないようにクンクン匂いを嗅いだ。
やっぱり、違う、女の人の匂いがする。でも剣八の匂いもした。
「ん・・・」
一護の身体がむずむずしだした。
「あ・・・」
怖くなってそのまま眠った一護。なんだろう?病気なのかな、俺・・・。
起きていた剣八が眠った一護の髪を梳き始めた。
「ん、くふん・・・、ん・・・、ふ」
もぞもぞしだす一護。はふ、と息を吐く一護に、やばいな・・・、と思い始める剣八。

 朝、目を覚ました一護。隣りにはまだ剣八が寝ていた。
もぞもぞと起き出すと、ヌル、とした感触が下半身からした。
「ん?気持ち悪・・・」
厠に行き褌を外すと白濁したモノが付いていた。
「え・・・?何?なに?こわい・・・」
やっぱり病気だ・・・。お腹の中、腐ってるの?いや、こわい・・・!
急いで風呂場に行き、身体と褌を洗った。怖くて怖くて誰にも言えない。卯ノ花さんなら・・・。
部屋に帰ると剣八は起きてどこかに行っていた。ほっとして急いで着替えて四番隊に行った。

「あ、あの、う、卯ノ花さん居ますか・・・?」
一護は見ている方が気の毒なほど怯え、震えていた。
「はい、いらっしゃいますよ。少し待っていて下さいね」
副官の勇音が優しい声で言ってやった。
「うん・・・」
卯ノ花はすぐに来た。
「一護君、おはようございます。どうしました?」
もじもじと手をいじりながら、
「あ、あのね、あの、俺、び、病気かも知んない・・・」
「まあ、どうしたんですか?」
「あの、卯ノ花さんだけに言っちゃだめ?」
「良いですよ。勇音、二人きりにして下さいな」
「分かりました」
「さ、二人きりですよ、どうしました?」
「あ、あのね、あ、朝起きたらね、褌に何か付いてたの・・・」
「何かとは?どういうモノですか?」
「えっと、白くて、ヌルヌルしてた、俺のお腹、腐ってるの?」
堪え切れず涙を零す一護。卯ノ花はやさしく微笑んで、
「大丈夫ですよ、一護君。それは一護君が大人になった証拠ですよ」
「?大人・・・?」
「そうですよ、怖がることはないんですよ、でも一人でよく頑張りましたね」
「大人・・・、じゃあ、俺もゆうかくに行けるの?」
「行きたいんですか?一護君は」
「だって、一角が子供には分かんないって、大人だったらいいんでしょ?」
「一護君、大人と言っても体がそうなっただけです、一護君は子供を作る事が出来るようになっただけです。精神的にはまだ早いでしょう。行かなくてもいいですよ」
「子供が作れるの?好きな人と?」
「まあ、そうですが、好きな人はいるんですか?」
「うん!俺剣八が好きだよ!」
「・・・一護君、更木隊長とは子供は出来ませんよ」
「なんで?俺子供作れるようになったんでしょ?じゃあ剣八の子供が欲しいな」
「・・・説明不足でしたね、貴方は子供を孕ます側で、男同士では子供は出来ないんですよ・・・」
「そ・・・うなの・・・、じゃあ、俺が変なんだね・・・、男相手に子供が欲しいなんて・・・」
「変ではありませんよ。恋愛の形は自由です。実る実らないは別ですが・・・」
「うん・・・、そうだね、剣八は女の人が好きだものね。ねえ、卯ノ花さん今の剣八には内緒にしてね?」
「良いですよ。さ、涙を拭いて」
「嫌われたら一緒に居られないもんね・・・、また一人ぼっちになっちゃうのはもう嫌だなぁ・・・」
「一護君・・・」
「ありがとうね。卯ノ花さん、俺帰る」
「そうですか、気を付けて下さいね」
「うん、バイバイ」

 隊舎に戻ると弓親に、
「どこに行ってたの!心配したんだよ?」
「ごめんね、四番隊に行ってたの・・・」
「怪我でもしたのかい?」
「ううん、ちょっとお腹痛かったの・・・、もう大丈夫だよ・・・」
「そう?じゃ、朝ごはん食べて、今日もお仕事がんばろ?」
「うん!頑張る!」


第6話へ続く




09/01/24作 何気に友達の増えた一護と、大人になってきた一護でした。難しかったです。



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