題「子狐の恋」4 | |
一護はすぐ目が覚めた。蒲団の中でごろごろと寝返りを打った。 「寝れないや・・・、ん?」 蒲団に残った剣八の匂いに気付いた。鼻を擦り付けてクンクン嗅いだ。 「剣八の匂いだ・・・、早く帰って来ないかな・・・」 その匂いに安心したのか、また眠る一護。 その頃剣八は、遊女と蒲団で寝ていた。 (落ち着かねえな・・・、すっきりはしたけどよ・・・) 「煙草でも吸いなんしか?」 白い手で煙管を差し出すオンナ。 「帰る・・・」 起き上がって服に着替える剣八。 「そうですか、お手伝いしましょう」 「ふん・・・」 着替えが終わり一角を置いて一人で帰ってきた剣八。 部屋の戸を静かに開ける。蒲団には丸まって眠る一護が居た。 「ちゃんと寝てたな・・・」 起こさないように隣りに入る剣八。 「ん・・・」 身じろいだ一護の身体を引きよせた。嬉しそうに鼻を鳴らす一護。 「くふん・・・」 何時まで持つかね・・・。そう思いながら剣八も眠った。 空が白む頃、一護が目を覚ました。隣りに剣八が居たのに驚いたが嬉しかった。クンクンと匂いを嗅ぐと剣八のじゃない匂いがした。誰だろう?一角でも無い。乱菊でも無い女の匂いだ・・・。 一護は何とも言えない嫌な気持ちになった。どうしたらこの匂いは消えるんだろう? 「ん?」 剣八の首筋に赤い跡を見つけた。怪我かな?と思い触ってみるが血が出ている訳では無いみたいだ。 一護は治そうとそこを舐めた。 ペロペロ舐めてると上から声を掛けられた。 「何してんだ?お前・・・」 「あ、おはよう剣八。あのねここに、赤い跡があるから怪我かと思って、治るかなって」 再度舐めようとしたのを止めた。 「やめろ・・・、怪我じゃねえよ気にすんな」 「ふうん、痛くないの?」 「ああ・・・」 「じゃあいいや・・・、剣八、知らない人の匂いがするね・・・」 「ああ?匂い?」 「何かいや・・・落ち着かない」 「そうかよ・・・」 「うん・・・」 立ち上がってどこかへ行こうとする剣八。 「どこ行くの?」 「朝風呂だ、お前はどうする?」 「一緒に入っても良いの?」 「構わねえよ」 「じゃあ入る!」 「剣八の身体ってキズだらけだね」 「若い頃のだ、最近のはねえな、お前は綺麗なもんだな、ん?」 剣八の目が足首で止まった。 「何だその傷?」 「ああこれ?子供の時に虎ばさみに引っ掛かったの、痛かった」 「だろうな、母親が助けてくれたのか?」 「うん、後ですごい怒られた」 「ふうん、ほれ、湯に入んぞ」 「うん・・・、あ、熱くない」 「昨日の残りだからな、こっち来い冷えんぞ」 「うわっと、わあ剣八あったかい・・・」 「・・・匂いは・・・」 「え?」 「匂いは取れたか?」 言われてクンクン匂いを嗅ぐ一護。 「うん、無くなった、剣八の匂いだけする」 すり、と顔を擦り寄せた。 「そうかよ、もう出るぞ」 「う、うん」 一護の髪を丁寧に乾かしてやった。着替えはもう自分で出来る様だ。 「剣八って髪を下ろすと感じが違うね、カッコいいな」 「お前な、普通言わねえぞ、そんなこと」 「そうなの、ほんとのことなのに」 不思議そうに首を傾げる一護。 「早く着替えろ、何時まで褌一丁で居る気だ?」 「あ、うん」 一護は母の着物を着た。 「お前それ好きだな」 「うん!かか様の匂いまだ残ってるもん」 「そうかよ」 風呂からあがると弓親が朝食を用意していた。 「おはよう!弓親!わぁ、美味しそう」 「おはよう一護君。今日も可愛いね」 「ありがと、弓親も綺麗ね!弓親の匂いだ」 「おっはよー、あー、いっちーとゆみちー仲良しだ」 「おはよーやちる。やちるの匂いー」 クンクン匂いを嗅ぐ一護。やちるを抱く一護の後ろ姿に色気を感じた剣八。 「おはよーっす。隊長もう帰ってたんスね」 「一角だ、おはよー。・・・何の匂い?変な匂い・・・」 「お前失礼だな、風呂入ったつーの!」 「なんか女の人と他の匂いが混じった匂いがする・・・」 剣八の後ろに隠れる一護。 「ああ、そりゃ遊廓行ったんだから当たり前だろ」 「なんで?」 「隊長も同じことしてんのに何で俺だけ避けてんだよ?」 「ほんとに?剣八」 「ああ・・・」 「なにするトコなの?ゆうかくって」 「酒飲んで、女買うんだよ」 「楽しいの?」 「ガキにゃ分かんねえよ」 へっと笑いながら食堂に消える一角。 「・・・剣八も、同じコトした、だから知らない人の匂いがした・・・」 独り言は続いた。 「いつになったら大人なの?大人になったら俺も行けるの?」 「あ?行きたいのか、お前」 「別に行きたくはないけど、馬鹿にされてるみたいだ」 ぷくっと頬を膨らます一護。 「いっちー、あんなトコ面白くないよ、きっと」 「やちるも行ったことあんの?」 「ないよ?でも何となく分かる」 「そう、だよね。うん」 それで終わって朝食になった。 「はい、一護君。今日はこれお願いね」 「うん!えっと。十番隊と七番隊、ふたつだけ?」 「うん、ゆっくりでいいよ」 「分かったー、行ってきまーす」 「行ってらっしゃい」 十番隊。 隊首室に通された一護。 「失礼します」 中に入ると乱菊が居た。 「乱菊さんだ!ここの隊の人なの?」 「そうよ、今日はここに書類持って来てくれたのね一護」 「うん!隊長さんは?」 「ここだ・・・」 ん?と振り向いた一護が見たものはやちるよりは大きい男の子だった。 「子供だ・・・」 「・・・お前年は?」 「多分、16・・・」 「お前よりは年上だ、ひよっこ」 「ひよこじゃないもん・・・」 「まあまあ、良いじゃないですか。ほら一護もそんな顔しないの、お日様みたいな髪が勿体ないわよ」 「乱菊さぁん・・・」 一護は乱菊に抱き付いてぐりぐり顔を擦り付けた。 「かか様もいつもそう褒めてくれた・・・、撫で撫でしながら褒めてくれたのに」 「よしよし、いい子ね一護」 「まだお仕事あるから帰る・・・」 「あら、もう帰っちゃうの?」 「うん、またね乱菊さん」 「またね、一護」 「おい、なんだアイツは?」 「さあ?十一番隊でお手伝いしてる子みたいですよ、両親とも殺されちゃったとかで一人ぼっちみたいですよー」 「ふーん・・・」 七番隊。 「すいません、十一番隊から書類持ってきました」 「入れ」 「はい!」 「おう、御苦労じゃのう」 「お仕事だもん・・・、ぴっ!」 「うん?」 狛村がこちらを向いた。 「おおかみだ・・・」 「ああ、済まぬ、怖がらせたか・・・?」 「ちょっとだけ・・・、狐食べる?」 「いいや、食べぬよ」 ホッとした様に肩の力を抜く一護。 「良かったぁ・・・」 「書類は?」 「あ、これなの、遅れてごめんなさい」 「まあ、出されただけでも良しとするしかあるまい」 「ふうん・・・、じゃあ俺帰るね」 「ああ、御苦労であったな」 「ううん、またね、おおかみさん」 「儂の名は、狛村左陣だ、お主は?」 「俺は一護だよ。みょーじは無いの」 さじん、左陣と呟いて、 「うん、覚えた。おじさんは?」 「射場鉄左衛門じゃ、鉄で良いぞ」 「鉄?じゃあ鉄さんだね、覚えた。またね左陣さん、鉄さん」 その場を後にして帰る一護が庭に出ると犬が飼われていた。その犬を見た途端一護が叫んだ。 「ひぎゃああああ!」 「何事だ!」 「はあ、あの子が五郎を見た途端にいきなり・・・」 「一護、どうした何があった?」 「い、犬ぅ!犬やだ!やだやだ!怖い!」 狛村によじ登りながら泣いている。ぷるぷる震える一護に 「何がそんなに怖い?五郎が何かしたのか?」 「あの子は何もしてないけど!犬は怖い!子供の時喰われそうになった!かか様にも噛みついた!」 だからいや!と一護は狛村の耳に顔を埋めた。 「そうか、怖かったな。門まで送ってやろう」 「あ、ありがとう、左陣さん優しいね」 「んん?普通であると思うが・・・」 「とと様もこんな感じかな?剣八みたいな感じかな?」 「さあ、だがあ奴は父という感じではあるまいよ」 「そう・・・、覚えていたかったなぁ・・・」 「知らぬのか?」 「小さい時に毒饅頭で殺されたの・・・、よく覚えてないけど悲しかったのは覚えてる」 「母上は?」 「半年前に化け物に斬られて死んだ・・・、俺のせい・・・」 「そのように言うてはならん。母上や父上が悲しむぞ」 「・・・うん」 門の所で下ろされた。 「ありがと、バイバイ」 「うむ、気を付けてな」 「はーい!」 やれやれと門を閉めて隊舎に戻る狛村。 一護が一人で隊舎を目指していると前から何人かの死神が歩いてきた。 その内の一人と肩がぶつかった。 「あっ、ごめんなさい」 「なんだ、最近十一番隊に居る子供か」 「う、うん。ゴメンね、大丈夫?」 「触るな、汚らわしい。我らは貴族だぞ、まったくこれだから流魂街の者はいやなんだ」 「俺汚くないよ?朝もお風呂入ったもん・・・?」 首を傾げる一護。 「はははは!言葉の意味も分からんらしいぞ!親の顔が見てみたいわ!さぞやおかしいことだろうて!」 ムッとした一護が、 「おかしくないもん!かか様綺麗だもん!綺麗だったもん!」 「ふん!どうせあばずれだろうが!下賤の者が何を言うか」 「違うもん!かか様もとと様も優しいもん!お前なんかよりずっと、ずーっと強いもん!」 「はっ!ではここに連れて来てみよ!」 「うっ・・・」 「ほれ、どうした?連れて来れぬのか?ではやはり嘘なのだな」 「嘘じゃないもん!とと様毒饅頭で殺されちゃったんだもん!かか様も化け物に殺されたんだもん・・・」 「はん!この親にしてこの子供ありだな。どうせ乞食風情だろうが、汚らわしい」 「とと様とかか様を馬鹿にするな!」 「何を言う。馬鹿になどしてないではないか、本当の事を言ったまでだ」 「おんなじだ!馬鹿にしてる!謝れ!お前にそんなこと言う資格なんか無い!」 周りに人が集まり出した。 「一護じゃねえすか?あれ」 「そのようだな・・・」 白哉と恋次。 「一護の声だな、鉄左衛門」 「そのようで・・・」 狛村と射場。 「やだ、あの子、怒ってるわ初めて見た」 「何があった?」 乱菊と日番谷。 「謝れ!謝れよ!とと様とかか様に謝れぇ!」 「ふん!なんで貴族の俺がお前なんぞの親に」 「とと様は病気で肉も魚も食えない俺の為に饅頭を取って来たんだ、それに毒が入れられてたんだ!かか様は化け物から俺を庇って斬られたんだ!二人とも俺を助けようとして死んだんだ!俺を護って死んだんだ!お前なんかに馬鹿にされる謂れは無い!」 「ふん!馬鹿な親が居たもんだな、こんなガキの為に死んでなんになる?貴族でもない、ただのガキが・・・」 「貴族がそんなに偉いのか!お前なんか貴族じゃなきゃ何にも出来ないんだ!誰かを護る事も戦う事も出来ないくせに!」 「何をぉ?ガキが甘い顔してたら付け上がりやがって」 「だったらなんだ!貴族貴族貴族!名前だけじゃないか!他に何にも持ってないくせに!お前に比べたら、乱菊さんの髪の方がずっと綺麗だ!恋次の髪の方がずっと綺麗だ!弓親の方がずっと綺麗だ!剣八の方がずっと強くて優しい!みんなみんな!ずっと綺麗だ!」 「一護・・・」 「落ち着け、一護」 後ろから声を掛けられる一護。 「あ、恋次、白哉も・・・」 「ふん!だからと言ってお前の親が馬鹿には変わりがないだろうが!」 「・・・殺してやる、取り消せ!今すぐだ!謝れよ!とと様とかか様に謝れ!」 「はっ!馬鹿馬鹿しい、なんでこの俺が」 「殺してやる!殺してやる!今すぐ殺してやる!」 「ばっ、ヤメロ!一護」 羽交締めにされた一護に殴りかかる貴族の男。目を反らさず拳を受けた一護。 「謝れ・・・、お前なんかに、動けない相手じゃなきゃ何にも出来ないお前なんかよりずっと強い、ずっと気高いとと様とかか様に謝れ」 「くっ・・・、この」 「謝れ・・・」 どんどん一護の霊圧が膨らんでいく。 「ちょ、一護!落ち着け!」 「この様な者、兄が気に掛けるほどのものではない・・・」 「でも・・・、とと様とかか様を馬鹿にしたんだ・・・」 しゅんと今の霊圧が嘘のように項垂れてしまった一護。 「一護!」 「あ、乱菊さん、左陣さんに鉄さんも・・・」 「大丈夫?可愛い顔が腫れてるじゃないの」 「痛くないもん・・・、とと様の子だもん、かか様の子だもん、痛くない・・・もん」 「そうね、一護は強い子だわ一人で立ち向かったものね」 「一護」 「あ、剣八・・・」 「帰んぞ・・・」 「うん・・・」 恋次から離れると剣八について帰っていった。 「あんなに怒った一護、初めて見たわ・・・」 「俺もっすよ、それにしても嬉しい事言ってくれましたね」 「ああ、あたしらの髪の方がずっと綺麗だってね。ホント可愛い事言ってくれるわねあの子」 「で、こいつどうします?」 「どうって、分かりきった事言うもんじゃないわよ」 「そうですよね」 笑顔の二人だが目の奥は笑っていない・・・。 さてどうなったかは、推して知るべきって事で・・・。 「泣くな・・・」 「だ、だって悔しい、なんであんな奴に、何にも知らないくせに!俺がもっと強かったら!あんな奴にあんな事言われないのに!」 「だったら強くなりゃ良いだろうが」 「どうやって・・・?」 「お帰りなさい、隊長に一護君ってどうしたの!一護君!」 「ん、と、喧嘩したの」 「痛かっただろうに、薬塗ってあげるからこっちおいで」 「痛くないもん・・・」 「それでも薬は塗るの!さっ、おいで」 「うん・・・」 「何があったんですか?」 剣八が見たまま、聞いたままを説明した。 「ふうーん、一護がねぇ」 「その貴族様はどうなったんです?」 「さあな、松本と阿散井が始末しただろ」 部屋で膝を抱えている一護に話しかける弓親。 「一護君、聞いたよ、僕の事貴族より綺麗だって言ってくれたんだってね?」 「ホントのことだもん・・・、あんな奴よりずっとずっと綺麗だ・・・、乱菊さんの髪も恋次の髪も綺麗だもん・・・」 「そうだね、君も綺麗だよ?一護君。君の心の方が一等綺麗だ、嬉しかったよありがとう」 「う、うわぁああん!弓親ぁ!強くなりたいよう!もう誰にもとと様とかか様を馬鹿にされないように!二人の誇りを護れるくらい強くなりたいよう!」 流れる涙を拭いながら、嗚咽を漏らしながら言った。 「うっ、うっ、ひっく、ひっく・・・」 「一護君は霊力が強いみたいだから、強くなれるさ、大丈夫だよ」 「ほんとに?」 「僕は嘘は言わないよ」 「うん・・・、ありがとう弓親」 「どういたしまして、午後も書類の配達あるけどどうする?」 「やるよ!もう痛くないよ、弓親がお薬塗ってくれたんだもん」 「ふふっ、じゃあ早速お願いしようかな」 「うん」 書類は四番隊への物。 「四番隊・・・」 「そう、頑張ってね、一護君!」 「うん!」 「わざとだろ?弓親」 「まあね、口の中も切ってるし、何より見てられないよ・・・」 「まあな・・・」 四番隊。 「すいません、十一番隊から書類持ってきました。隊長さんは居ますか?」 「はい、私です受け取りましょう」 卯ノ花隊長は書類に目を通すとくすりと笑って一護に向かって、 「貴方が一護君ですね?やちるちゃんからよく聞いていますよ」 「やちるを知ってるの?」 「ええ、先程の騒ぎも知っていますよ、さ、怪我を見せて下さいな」 「え?いいよ、弓親がやってくれたもん・・・」 「いい子だから、言う事聞いてくださいな」 「ぴっ!」 「ほら、痛いでしょう?早く治さないとご飯も食べれませんよ?」 「う・・・」 すっと一護の頬に手をかざすと鬼道ですぐに治した。 「あったかい・・・」 「さ、治りましたよ」 「え、もう?」 「ええ、早かったでしょう?誰にでもという訳ではありませんよ?貴方が怪我した理由が自分の為では無かったからです」 「?」 「ご両親の為に怒ったのでしょう?」 「うん・・・、だってあいつ何にも知らないくせに!貴族なんか嫌い!」 「貴族が皆ああいう人ばかりではありませんよ。朽木隊長も京楽隊長も浮竹隊長も貴族ですよ」 「嘘・・・。ほんとに?」 「ええ、ですからほんの一部の人を見て嫌いにならないで下さいな」 「うん、その3人は好き・・・」 「良かったこと・・・」 「じゃあ、俺帰るね。ほっぺ治してくれてありがとお姉ちゃん」 「まあ、お姉ちゃんだなんて、私の名前は卯ノ花烈です。よろしく」 「俺は一護って言うの、こちらこそ、よろしく・・・?」 「はい、よろしく一護君」 「バイバイ、卯ノ花さん」 隊舎に帰る一護。 第5話へ続く 09/01/22作 ちょっとヤキモチ焼く一護と喧嘩する一護でした。 |
|
きつねのおうちへ戻る |