題「子狐の恋」3 | |
六、八、十三、と数が書かれていた。 「その数字の隊の隊長さんに渡せばいいからね」 「絶対に本人に渡すの?」 「そうしてくれると助かるな」 「分かった頑張る」 一通り道順を教えてもらい、一護の初仕事が始まった。 「大丈夫かよ・・・」 一角が心配している。 「大丈夫でしょ、もう見たとこ15,6なんだし」 「そうだな、誰かに聞くなりするよな」 「六番隊、六番隊・・・、どこかな?」 一護は必死に紙の数字と隊舎の壁を見比べていた。 「あった!ここだよね・・・」 六番隊に着いた一護は中に入って書類を届けに来たと告げた。 「御苦労様です。お預かりいたします」 と言われ一護は、 「あの、隊長さんに渡してって言われたから、俺が渡す、の」 「はあ、ではお願いします」 一護はホッとした。お仕事だものちゃんとしないと。 「隊長はこちらのお部屋です」 「はい、ありがとう」 にこっと笑ってお礼を言う。えっとノックをするんだよね・・・。コンコンコンと控えめにノックすると中から、 「入れ」 と静かな声が聞こえてきたので、 「し、失礼します。あの、十一番隊から書類を持ってきました。お願いします!」 「・・・うむ、そこに置け」 「隊長さんに渡せって言われたの。隊長さんってだあれ?」 「私だ」 「良かった。あのね、弓親が遅れてごめんなさいって言ってたの。怒らないでね?」 「奴に怒った事など無いが?」 「そうなの?剣八はよく怒られるって言ってたよ」 「期日までに出さぬからだ。それで、更木に文句を言おうが部下である綾瀬川には何も言わん」 「?あやせがわって誰?ざらき?」 「今、兄が言った、綾瀬川弓親と更木剣八のことだ」 「二つお名前がある・・・」 「いや・・・、兄は名は?」 「一護だよ」 「名字は?」 「みょーじ?」 「ないのか?」 「かか様、そんなもので呼ばない・・・」 「そうか、名字とは名前の前に付く家を現すものでもある。まあ、よい」 「ふうん、いろいろだ」 「うむ・・・」 「お兄ちゃんは?なんていうの」 「朽木白哉だ」 「びゃくや、白哉、うん覚えた。色々教えてくれてありがとう、白哉!」 「お前、隊長に向かって呼び捨てって・・・」 「だあれ?紅い髪だ。キレイね」 「う、阿散井恋次だ」 「れんじ、恋次。白哉が隊長さん、恋次は?」 「俺は副隊長だ」 「やちると同じ」 「ああ。これ喰うか?」 「なあにそれ」 「鯛焼き、知んねえのか?」 「お魚・・?恋次のお昼?」 「いや、飯じゃねえよ」 「?お魚はご飯でしょう?」 「一個喰えよ・・・」 「う?うん・・・」 あむ、と一口食べる一護。 「あまぁい・・・」 にっこり笑う一護。 「初めて食べるのか?」 「うん、こんなおいしいもの初めて!お魚なのに甘い!」 不思議だぁ・・・。あむあむ食べ続ける一護。 「こりゃ魚の形した菓子だよ。中に入ってんのが餡子だ」 「ふうん、饅頭じゃなきゃいいや」 ぺろぺろ指を舐めていう一護。 「何でだよ」 「とと様が毒饅頭で殺されたから。食べちゃダメってかか様言った」 「そうか、でその母親は?」 「半年前に化け物に斬られて死んだよ」 「そうか、ワリィ」 「なんで?恋次が殺したわけじゃ無いよ?」 「そうだけどよ・・・、なんか・・・」 「駄目だよ、元気出さなきゃ、キレイな髪が可哀そう、恋次の髪は紅葉みたいにキレイなんだから」 なでなでと恋次の頭を撫でる一護。 「元気出た?かか様よくこうしてくれたの」 「ああ。あんがとな、一護」 「じゃあ、俺まだお仕事あるから行くね。バイバイ白哉、恋次」 「おうまたな」 「うむ」 上司の言葉に少し驚いた恋次。 次の八番隊には楽に着いた。 「すいません、十一番隊から書類を持ってきました」 「はい、ありがとうございます」 「隊長さんは?」 「は?」 「隊長さんにちゃんと渡してって言われてるの」 「そうですか、こちらです」 眼鏡を掛けた女の人の後を付いていった。 「入りますよ、隊長」 「は〜い、どうぞ?」 がチャッと戸が開けられた。 「ふにゃっ!」 酒臭い。 「だあれ?その子・・・」 「十一番隊から書類を持って来てくれました。さっ、隊長も働いて下さい」 「ハイハイ」 「あ、あの、これです・・・」 じーっと見てくる一護に、 「何だい?何か用?」 「剣八と白哉と全然違う・・・」 「?何がだい?」 「口の周りに何かある。それ何?」 「それって髭の事かい?彼は剃るからね。僕は剃らないの」 「なんで?」 「何でって言われても、すぐ伸びるんだよ」 「ふうん、あれ?おねえちゃん、乱菊おねえちゃんのにおいがする」 「はっ?」 胸元に鼻を近づける一護。 「元気だった?」 「え、ええ」 「良かったぁ」 いきなりの事でどぎまぎする。 「じゃあ、俺帰るー」 「はい、御苦労さん。七緒ちゃん珍しいね遅れをとるなんて」 「はあ、あまりに邪気がないと言いますか」 「そうだね、僕辺りがやったとあっちゃあボコボコでしょ」 「当たり前です」 次は十三番隊だ。途中十一番隊があった。早く帰りたくなった。 十三番隊に着き隊長さんに直接渡せと言われたというと、雨乾堂に連れて行かれた。 「ここに居るのが隊長さん?」 「そうです、浮竹隊長、十一番隊からの書類だそうです」 「そうか、入って貰ってくれ」 「はい、どうぞ」 「あ、はい」 中に入ると臥せっている人間が居た。 「やあ、君が持って来てくれたのかい?」 こくんと頷く一護は固まって、じーっと浮竹を見ていた。 「どうかしたのかい?」 「あんたこそ、どうしたの?病気なの?怪我したの?どっか痛いの?」 「ああ、ちょっとね元々身体が弱いだけさ」 「ふうん、大丈夫なの?お仕事しんどくない?」 「大丈夫だよ、そこの机に置いてくれるかい?」 「・・・・」 「どうしたんだい?」 「机って何?」 「・・・その後ろの木でできた4本足の・・・、そうそれ」 「これが机・・・」 ぺしぺし叩く一護。 「一護君は今までどこに居たんだい?」 「山。かか様とずっと一緒に居た」 「へえ、母上は?」 「死んだ」 「そうかい・・・」 「なあ、あんたは何でも知ってるの?」 「いや、何でもは知らないよ。何だい?急に」 「何で死ぬと腐るんだ?虫も湧く、俺はかか様の隣りでずっと見てた。虫は俺も噛んだけど俺は腐って無いから骨にならなかった・・・、かか様は骨になった。なんで俺は残されたの?かか様に会いたいよ」 かか様、かか様、と泣きだした。 「一護君はどうして十一番隊にいるんだい?」 「剣八がかか様を殺した化けもの殺してくれたから、お礼を言いにきたら居ても良いって」 「そうか、じゃあきっと母上が引き合わせてくれたんだ。さっ、泣きやんで」 「うん、もう帰る、剣八に逢いたい」 「そうかい、またおいで」 「お仕事終わったらね」 はにかむ様に言った。 十一番隊に帰った一護。 「ただいま!お仕事ちゃんとやったよ!」 「お疲れ様、一護君。じゃお昼でも食べに行こうか?」 「うんお腹空いた」 「じゃ、隊長、お先に失礼します」 「おう」 「剣八は?お腹空かないの?」 「まだ、書類があるんだよ・・・」 「大変だね。俺、字を書けるようになったら手伝える?だったら頑張る。頑張って覚える」 「そうだね、助かるよ、さっ、今日は何を食べようか?」 「え〜とね、あ、きつねうどん?狐が入ってるの?」 「まさか、じゃあそれにしようか?」 「うん」 目の前にあるうどんには、狐のきの字も無かった。 「?、弓親?」 可愛い仕草に思わずくすくす笑ってしまった。 「どこにも狐居ないよ?なんできつねうどん?」 「ふふ、おアゲが入ってるだろう?お稲荷様の使いである狐が好きだって話に掛けてるみたいだよ」 「?ふうん?アゲ・・・?」 「あらぁ、一護じゃない!今日は元気?」 「あ、お姉ちゃんだ。うん!今きつねうどんのお話してたの」 「そう、あ、七緒から聞いたわよ?あんた七緒の胸の匂い嗅いだんですって?」 「えっ、一護君、そんな事して怒られなかった?」 「なんで?怒られなかったよ?それにお姉ちゃんの匂いがしたから嗅いだだけだもん」 「でもね、一護。女の人の身体に無暗に触ったり匂いを嗅いだら駄目なのよ?」 「?なんで?悪いことなの?嬉しかったのに」 しゅんと項垂れてしまった一護。 「嬉しいって何が?」 「お姉ちゃんの匂いがしたから・・・、この間はゴメンね。怒られなかった?」 「可愛い!大丈夫よ、誰にも怒られなかったわ」 「良かったぁ!」 きゅ〜くるるる。 「あう」 「ねえ、一緒に食べてもいいかしら?」 「良いよ!俺お姉ちゃん好きだもん」 「あたしも一護が好きよ、あたしの名前は乱菊よ」 食事を取りに行っている間に、 「らんぎく、乱菊・・・」 ぶつぶつ言っていた。 「うん、覚えた」 「なあに?」 「なんでもないよ?ねえ乱菊さん、乱菊さんにもみょーじってあるの?」 「あるわよ?なあに急に」 「俺にはない、あのね今日お仕事で白哉のところに行ったの。そしたら剣八にも、弓親にもみょーじがあったの!」 興奮気味に話す一護の後ろに剣八が立っていたが気付かない。 「白哉が教えてくれたの!剣八は更木で、弓親はあ、やせ、がわだって!二つも名前があるのかと思ったら違うって言うの。何かね、家を現すとか言ってた、恋次にもあったよ、乱菊さんのみょーじは?」 「あたしは松本って言うのよ、そう勉強したのね」 「うんっ!後ね、恋次が鯛焼きくれたよ!お魚の形してた!なのに甘かったの、初めて食べた〜」 「一護、あんたってお菓子とか食べたこと無いの?」 「ないよ?甘いのはかか様が果物を取って来てくれたり、でも酸っぱかったりするの。かか様やとと様にもあげたかったなぁ・・・、頭がとと様でお腹がかか様、尻尾が俺」 「3つ食べれば良いじゃない」 「?でも俺が貰ったのは一個だよ?だから分けて食べるの」 「一護君、うどん伸びるよ・・・」 「うどんて伸びるの?」 まじまじとどんぶりの中を覗くと後ろの剣八が見えた。 「剣八だ!お仕事終わったの?」 後ろを振り返って、腰のあたりに抱き付く。 「ああ、まあな一段落だ・・・」 「くふん、大変だね」 「おら、離せ飯取れねえだろ」 「あ、ごめんね」 つるつると自分のうどんをすすり始める一護。 「冷めちゃって丁度良いや」 「一護君、猫舌なんだねえ」 「俺、猫じゃないよ?」 「熱いものが苦手な人の事をそう呼ぶのよ」 「ふうん、あ、アゲ甘い」 「良かったわね」 「うん、ねえ七緒さんに謝った方がいいかなぁ?」 「どうして?」 「だって、悪い事したんでしょ?俺」 「でも知らなかったんでしょ?だからって許される訳じゃないけど、もうしないでしょ?」 「うん・・・」 「だって、どうする?七緒?」 「え?」 「もう結構です、謝罪のお気持があるのは分かりましたから」 くいっと眼鏡を持ち上げた。 「ご、ごめんね、七緒さん」 「何の話だ?」 剣八が戻ってきた。 「いえいえ、女の人に対する常識を少し」 「ふうん、おい一護お前うどんだけで足りんのかよ?」 「さあ?分かんないけど美味しいよ」 汁を飲んでいると天麩羅をポイポイ入れられた。 「食え、成長期なんだ」 「ありがとう!」 「ふん!」 「熱っ!美味しいけど熱い・・・」 「そこまで面倒見れるか」 野菜の天麩羅も海老もくれたので全部食べた。 「美味しいねぇ、これなあに?赤い魚?」 「海老だ」 「えび・・・」 「なあ、一護お前ホントに誰とも会ったこと無いんだなあ、京楽が言ってたぞ、髭が珍しいみたいだってな」 「だって、俺には生えないんだもん、剣八も弓親もないじゃん」 「俺らは朝剃ってんだよ、アイツは剃っても一時間持たねえんだよ」 「ふうん?大変だ・・・」 「食ったか。帰るぞ」 「うん!」 「またね、一護」 「またね、乱菊さん、七緒さん」 バイバイと手を振った。 隊舎に着くとまだ仕事が溜まっていた。 「一護君、もう良いよ。遊んでおいで」 「う、うん・・・」 遊べと言われても何処に行けばいいか分からなかったので、日当たりの良い縁側で昼寝をした。 丸くなって寝ている一護を見つけた剣八が近付いて頭を撫でた。 「んん・・・、くふん」 また、母親の夢でも見ているのか?と思ったが次の瞬間一護の口から出たのは、 「剣八・・・」 と言う自分の名前だった。固まってると一角が歩いてきた。バチッと目を覚まして起き上がる一護。 「うおっと・・・」 「あれ?剣八?と一角・・・」 「何だお前遊びに行ったんじゃねえのかよ?」 「どこ行って良いか分かんなかったからここで寝てたの・・・」 クあぁあと欠伸をした。ふわっと鼻を掠めた匂いに鼻を動かす。 剣八の首筋に顔を埋めてクンクン匂いを嗅ぐ一護。いい匂い。なのに身体がむずむずする・・・。 「何やってんだ、お前は」 「剣八の匂いだなって思って」 「そうかよ」 無意識に煽ってやがる・・・。押し倒してやろうか・・・。そんな自分の考えに一護に欲情しているとはっきり気付いてしまった剣八。 「どうしたの?」 「いや、何でもねえ。一角なんか用があったんじゃねえのか?」 「ああそうだ、隊長、今晩空いてますか?一緒に行きません?」 クイっと手を動かした。 「ああ、良いぜ」 「どっか行くの?俺も行きたい!」 「ガキはダーメ、ちゃんと寝とけよ」 「ぶー、ずるいずるい、俺置いてきぼりだ」 「弓親が居るから良いだろ?」 「うー、帰ってくるの?ちゃんとここに帰ってくるよね?」 「はあ?当たり前だっつーの」 「じゃあ、いいよ」 「あっさりしてんな、おい」 「帰ってきてくれるんならいいの、でどこ行くの?」 「遊郭だよ、決まってんだろ?」 「ゆうかくって?何?」 「・・・酒飲むとこだよ」 投げやりに説明する剣八。 「ふうん?京楽さんが飲んでるやつ?」 「あ?ああ」 「飲み過ぎちゃやだよ?あれくさい」 「ぶはっ、お前結構ひどいぞ」 「何が?」 そんな会話をして時間が過ぎた。 一護は夕飯も済ませ、弓親と風呂に入っていた。 「でね、一角がガキは駄目って、ずるいよね?」 「そうだねぇ、でもつまんないとこだと思うよ?お酒飲めないでしょ?一護君は」 「う、うん、大人になったら飲めるの?美味しくなるものなの?」 「うーん、人によるよ。好きになる人とやっぱり嫌いって人と」 「ふーん、弓親って物知りだねぇ」 「ふふ、ありがと。さっ、もうあがろっか。明日もお仕事よろしくね」 「うん!頑張る!」 髪を乾かして、着替えて蒲団に入る。 隣りに剣八が居ないだけでひどく不安だ。部屋がいきなり暗く、広く感じた。 それでも睡魔には勝てず眠りに落ちた一護。 第4話へ続く 09/01/21作 初仕事からお昼ご飯。剣ちゃん遊廓行っちゃいましたね。さて一護の反応は? 一護に対する感情を剣八はどうするのか? |
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