題「子狐の恋」12 | |
剣八は弓親に祝言の準備を言い付けた。随伴には一角を付け、やちるには留守番を言い付けた。 「剣ちゃん、絶対にいっちー連れ戻してね」 「当たり前だ」 勝手に出て行きやがって、あの馬鹿。 「隊長、その着物なんですか?」 一角が聞いてきた。 「ああ、一護のだよ」 「いるんスか?」 「要るから持ってくんだよ、じゃあ後の準備は頼んだぞ」 「はい、隊長も頑張ってくださいね」 「ああ!」 門を出ると狛村隊長が立っていた。 「何だまだ何か用か?」 「儂も行こう」 「あ?なんでだよ」 「儂は動物の言葉が分かるからな、役には立てよう?」 「ち、勝手にしろ」 「ありがとうございます!」 「何、あの子を愛しておるのは、皆も同じだからな。あの子が居らんとまるで火が消えたようだ」 「そうですね・・・」 「くっちゃっべってねえでさっさと行くぞ!」 「で、どこか分かるんですか?隊長」 「お前が迎えに来た洞窟があっただろ。あそこが一護の巣だ」 「あそこだったんですか」 「今も居りゃあな、母親の骨と暮らしてるだろ」 その頃の一護は、狩りで取ったウサギを食べていた。 (剣八達元気かなぁ・・・、今の俺見たらホントに嫌われるね) 口の周りの血を舐めとって、巣穴に帰った。 一人ぼっちの巣穴にはまだ母の骨があった。もう大きくなったのに、前よりも広く感じてしまう。 (寂しいけど、これが普通なんだよね・・・、早く慣れなきゃ) それでも、瀞霊廷のみんなと居た時の事を思い出せば、泣きたくなるほど寂しかった。 けれどやっぱり、心の奥底が温かくもなるのだ。まるでそれを糧に生きているようだ。 今日も一匹で丸まって眠った。 満月まで、あと三日。 「確か、ここら辺でしたよね?」 「そんな感じだな、ここで虚を斬ったんだよな・・・」 狛村隊長が何やらしゃがんでいる。 「なにしてんだ?」 「うむ、更木よ一護の特徴などは分かるか?」 「特徴?金色に近い毛と足首の傷跡ぐらいだな」 「キズ?」 「ガキの時に虎ばさみにやられたとか言ってたぞ」 「ふむ、だそうだ。何か知っておるか?」 狛村隊長の足元には狐が居た。 「ふむ、一護はまだ同じ巣穴におるそうだ、急ぐぞ更木」 「ああ」 「斑目よ、道は思い出したか?」 「あ、はい。ここを真っ直ぐです」 「ここからは風向きに気を付けよ、匂いで気取られるゆえ」 「はい」 少しずつだが、確実に一護に近付きつつあった3人。 翌日、一護は川で水浴びをしていた。川から出て、身体の水気を飛ばしていると懐かしい匂いが鼻を掠めた気がした。 (まさかね、あるわけないよ) そう思い、狩りに出かけた。 「おい、あと二日だぞ。間に合うのかよ」 「知らぬ、静かにせんと気取られるぞ」 「ち」 一護は狩りで大きめのネズミを捕った。さあ、食べようとした時目に入ったのは剣八、狛村、一角の3人だった。 なんで?信じられなかった。思わず口のネズミを落としてしまった。 ガサッ。 一斉に三人が振り向いた。身がすくむ一護。だが向こうに狐の見分けなどつく訳ないと油断した。そこへ、 「一護!てめえ勝手に出て行きやがって!」 剣八が怒鳴ってきた。 当てずっぽうだ。そう思って走って逃げようとした。だが尻尾を掴まれた。 「!くぅん・・・!」 震えて動けなくなった。 「へっ、動けねえだろ一護。お前のここは俺が開発したからな。おら、人の姿んなれ」 ガブッ!と尻尾を掴んでいる腕に噛みついてやった。血が滴っても剣八は離さなかった。 「一護、ここに戻れ。お前の居場所は俺だ・・・」 腕から口を離すと、ヒトの姿になった一護。 「なんで?なんでここに来たの?」 ぺろぺろと腕の傷を舐めて癒そうとする一護。その口の血を拭ってやった剣八。 「斑目よ、離れるぞ・・・」 「はい・・・」 二人の声が聞こえない所まで下がった。 「そんなもん、お前を嫁にする為に決まってんだろ?」 「嘘だ・・・、俺が居なくても大丈夫でしょ?・・・遊廓だって行けるし・・・」 「お前だけだ。お前が居なくなって俺がどんだけ荒れたかお前知らねえだろ?」 「・・・」 「お前が居なきゃ駄目だ・・・、戻って来い一護。もし俺がお前を裏切った時は喰い殺せ。この命、お前にやる」 「剣八・・・、あいたかった・・・、逢いたかった!逢いたかった!」 抱きついて泣きだした。剣八も抱き返し口付け、 「こっちのセリフだ・・・、馬鹿野郎が・・・」 と言い、うっ、うっ、と泣く一護に母の着物を着せてやる。 「・・・、これは?」 「裸で帰る訳に行かねえだろ、時間が無えんだ急ぐぞ」 「時間?」 「満月の夜に祝言と初夜を迎えんだろうが」 「そ、うだけど・・・。ホントに俺で良いの・・・?」 「ああ」 「子供も産めないよ?それでも良いの?」 「ああ!お前一人で良いんだよ!来るな?」 「うん・・・!」 剣八に担がれる一護。全員瞬歩で瀞霊廷に戻る。ぎりぎりで間に合った。 瀞霊廷。 満月まであと丸一日となった。慌ただしく用意が整えられて行く。 「一護!あんたどこ行ってたの!心配したんだからね!」 乱菊に泣かれた。 「ごめんなさい、ごめんなさいぃ・・・」 抱きあって一護も泣いた。 「乱菊さん、ほら暇なら手伝ってください。一護君も目が腫れたら折角の花嫁なのに勿体ないよ」 「うん・・・」 一護はお風呂に入れられ、綺麗な身体になって待っていた。 白無垢に着替えさせられて行く一護。肌は元々白いので紅だけを塗った。 仕上げに、真綿の綿帽子を被った。 「綺麗よ・・・、一護」 「本当に、綺麗だ・・・」 「ありがとう・・・、剣八は?」 「向こうも着替えてるよ、一護君の為だもの。ちゃんとするよ」 後は、満月が昇るのを待つばかり。 第13話へ続く 09/02/11作 間に合いました! 次は婚礼です。間違いだらけでしょうが、広い心で笑って下さい。 |
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