題「子狐の恋」11
 手紙を書き終わり、墨が乾くのを待って折りたたんだ。
廊下に出て、満月の光に浮かぶ庭を見ながら呟いた。
「いつ、出て行こうかな・・・」
懐に入れた手紙にそっと触りながら、非番の日にデートしてくれるって言ってたけど、してくれるかなぁ・・・。
等と考えていると剣八が部屋から出てきた。
「何してる・・・?」
「・・・別に、何も・・・」
満月の光を弾く一護の髪はきらきら光って幻想的だった。
「冷えるだろ・・・、さっさと戻れ」
「うん・・・」
蒲団に入ると手紙を蒲団の下に隠した。
「こっち来い、冷えちまってるじゃねえか」
「あ、ごめん・・・」
向かい合わせで逞しい腕に抱きこまれ、冷え切った体はじんわり温まった。
「あったかい・・・」
剣八が一護の髪を梳きながら、
「そうかよ」
と呟いた。とくん、とくん、と聞こえる鼓動、温かさ、匂い。忘れたくない。そう思いながら一護は眠りに落ちた。

 朝早くに目が覚めた一護は隣りで剣八がまだ眠っているので、その寝顔をじっくり見つめた。
剣八の寝顔って初めてだなぁ・・・。と思い見続けた。髪を梳いたり、その頬の傷に触ったりした。
こころの奥底から、愛しい、愛しい、という感情が溢れて来た。切なくて切なくて涙が溢れた。
両手で顔を覆った時、
「何、泣いてやがる・・・」
何時から起きていたのか剣八が問い掛けてきた。
「・・・分かんない・・・、剣八の寝顔見てたら、溢れてきたの・・・」
「・・・一護、今日は非番だ。どこ行きたい?」
「え?」
「昨日の今日だぞ?もう忘れたか?」
「いいの・・・?」
「ああ・・・」
俺は狐なのに?嫌・・・じゃないの?なんで?でもお別れしなきゃいけないんだよ、剣八・・・。
「どうした?」
「俺・・・、今日は朝からしたい事あるから、お昼からでもいい?」
剣八を破滅に追いやる事は出来ない・・・。
「ああ、構わねえよ」
「ありがとう・・・」
剣八の胸に顔を擦り付けた。一護の足に熱くて硬い物が当たった。ん?と蒲団の中を覗き込む。
「なにこれ・・・?」
さわさわと手を這わせる。
「ッ、こら、朝から悪い子だな・・・」
「え?あ!剣八の・・・!」
赤くなって手を離す一護の手を掴みそのまま宛がう。
「あう、剣八?」
「折角だ、お前が俺をイカセテみるか?」
「・・・どうやって?」
「手でも良いし、口でも良いぜ」
「くち・・・、やってみる・・・」
もそもそと蒲団に潜ると剣八の下帯も付けていない下肢に手を伸ばした。
「熱い、大きいし、びくびくしてる・・・」
剣八の匂いが濃いそこに口付けた。ちゅっちゅっと可愛い音をさせて全体に口付けていった。
「ん、ふ、剣八・・・」
ぺろぺろと舐め始めた。とろとろと先走りが溢れ出した。
「ん、んくん」
「く、一護、一護、咥えてみろ・・・」
いつの間にか蒲団を取り払われ、見られていた。くしゃくしゃと髪を撫でられた。
「あむ・・・」
「く・・・、そのままで、先の方舐めてみろ・・・」
「んふ・・・、んく、ちゅ、んくん・・・」
こぷっと溢れて来たモノをチュッと吸い取った。
「あ、はぁ、ん、ん」
今度は根元から舐め始めた。どうやら自分がされた事を思い出しながらやっているようだ。
「一護・・・、俺も手伝ってやるよ・・・」
自身を扱きだした剣八。
「剣八・・・?溢れてるよ?」
先端をペロペロ舐めながら一護が見上げてくる。
「くっ、煽んなよ・・・!咥えろよ?一護」
「あ、うん・・・」
はむ、と口に含んだ一護。ちゅうちゅうと吸い取っていった。
「くっ!出すぞ!一護!」
「んっ!くふっ!んくん!ゲホッ!ゲホッ!びっくりした・・・」
顔を白濁に塗れさせ、息を荒くさせている。
「あ、汚れたよ、剣八・・・?」
今まさに解放されたそこに舌を伸ばし、舐め清めていく一護。
「お前の顔もひどいぞ・・・?」
口許の白濁を親指で拭うとそれに吸い付く一護。
「美味そうだな・・・、一護」
「ん?苦いよ?」
「苦きゃ不味いだろう」
「ん〜、でも剣八のだから。嫌な味じゃなかったよ?」
桜紙で顔を拭ってやった。
「風呂、行くぞ・・・」
「うん」

 風呂で、剣八は一護の全てを洗ってやった。髪から足の先まで・・・。
湯船に浸かりながら、一護がぽつりと、
「ねえ、さっきのって、子種だよね?」
「?、ああ」
「そうかぁ、あれ飲んだら子供出来ないかなぁ・・・」
どこか遠い目をして呟いた。
「一護?」
「無理だよね・・・、俺、オスだもん・・・。子供“孕ます”事は出来ても産む事は出来ないんだ・・・」
寂しいね・・・。
最後にそう呟いた一護をギュッと抱き締める剣八。
「別にいいじゃねえか、ガキなんざいなくても・・・!」
「うん、そうだね・・・」
(でも、居たら山に戻っても俺一人じゃないし、剣八の子だから・・・、欲しいんだけどな・・・)
風呂からあがると朝食が出来ていた。いつもと同じように皆と食べた。食べ終わると部屋に帰って財布を出して中を見た。
「足りるかな?」
この間花束を買って、貯金は半分になっていた。
「じゃあ、俺出掛けるね?」
「行ってらっしゃい、一護君」
この後、剣八が無理矢理休みをもぎ取っていったのを一護は知らない。

「こんにちは!」
「おや、この間の・・・。花束は受け取ってもらえたかい?」
「うん!それでね、今日はね、これで買えるだけお花が欲しいの。どれ位買える?」
「おや、お金持ちだね、また花束にするのかい?」
「違うの色々お世話になってる人たちにあげるの」
「そうかぁ、偉いなぁ。よし!じゃあ大サービスだ!とりあえず店先にある咲き切った花はタダにしてあげよう!」
「駄目だよ!おじさんが困るでしょ?」
「いいから、いいから!ほら持って行きなさい!」
ソコにあるのは、色とりどりの花たちだった。ガーベラやカーネーションにバラ、ひまわりまであった。
「わあ、おおきなお花。でもこれ夏のお花だよね?もう秋だよ?」
「企業秘密だよ」
「ふうん?でもとっても綺麗ね!」
「坊やの髪の色に似てるね」
「えへへ、こんなに奇麗じゃないよ?」
花屋の店主の気づかいで一護の貯金は手つかずで済んだ。
「ありがとう、おじさん!」
一護は両手に抱えきれないほどの花を持って、瀞霊廷に戻った。
そして最初に一番隊に行った。
「こんにちは!おじいちゃんいますか?」
「おや、一護君。いらっしゃいますよ、待ってて下さいね」
「うん!」
「なんじゃ一護?なんちゅう格好じゃ」
「あ!おじいちゃん、こんにちは!あのねコレあげる!」
「花・・・?」
「うん!お世話になったお礼、雀部さんにも」
「ありがとう」
「色々、教えてくれてありがとうね!嬉しかった」
「一護・・・?」
「次の人にも配るから、じゃあね」
「気を付けての」
「はあい!」

 四番隊。
「こんにちは!卯ノ花さん居ますか?」
「あらあら、可愛いこと」
「コレあげる!お世話になったから」
「まあ、綺麗なお花ですこと」
「まだあるから好きなの選んでもいいよ」
「そうですか?ではこの、向日葵を、あなたによく似ていてこちらまで元気になりますわ」
「えへへ・・・」
「次はどちらまで?」
「白哉んとこだよ」
「お気を付けて」
「はあい!」

 六番隊。
「白哉ー、恋次ー、居るー?」
「んん?なんだ?」
「一護、何だ?その格好は?」
「あのね、お花持ってきた。あげる!」
「なんで?」
「お世話になったお礼!好きなの選んで?」
「ふむ、一護、兄が選んだ物を頂こう」
「?ん〜、じゃあ、コレ!」
一護は大きなラッパ水仙を差し出した。
「一護、お前その花の花言葉知ってんのか?」
確か水仙は自己愛や自尊心だったか?
「うん!知ってる、卯ノ花さんに教わったの」
「へ、へえ・・・」
「これはね、「尊敬」だって、白哉はとても偉いと思うの。だから」
「ありがとう、一護・・・」
「えへへ、じゃあ、恋次はこれね〜」
オレンジ色のガーベラ。
「なんで?」
「花言葉「我慢強さ」だから」
「そうか・・・、あんがとよ一護」
「うん!じゃあね」

 七番隊。
「狛村さん、居ますかー?」
「んむ?ここだ、一護」
五郎に餌をやっている。
「う・・・」
「やはり苦手なようだな」
「うん、あのね狛村さん・・・。狛村さんにだけ教えるね・・・」
「なんだ?」
「俺の正体剣八にバレちゃった・・・、だからね、ここ、出て行く・・・」
「何故だ、何ぞひどいことでも言われたのか?」
「ううん何にも・・・、ただね、俺のせいで、剣八が破滅に追いやられるのは嫌なんだ・・・。それだけだよ・・・」
「一護・・・」
「それでね、欲しい物があるんだけど狛村さん持ってる?」
「なんだ?」
「人を金縛りにするお札なんだけど・・・」
「更木に使うのか・・・、持ってくるからしばし待っておれ」
「うん・・・」
「あったぞ一護。これだ。更木では10分もつか分からんが持って行け・・・」
「ありがとう。ああ、そうだ、これね皆に配ってるの、お世話になったお礼に、好きなの選んで?」
「ありがとう、一護・・・」
カーネーションを貰った狛村。射場を呼ぶ。
「へい、何ですか、隊長!」
「一護がな、世話になったお礼として花を配っておるから、呼べとな」
「ハイ!射場さん、ありがとうね」
「おう・・・」
バラの花を貰った。
「綺麗でしょ?乱菊さんもそのお花好きなんだって。後で持っていくの」
「気をつけえよ?」
「はあい!」
「ええ子ですな・・・」
「うむ・・・」

 十番隊。
「乱菊さん、居ますかー?」
「はーい、ここに居るわよー?」
乱菊の姿を見るとにっこり笑った一護。
「あっらやだ、今日はまた可愛い格好してるじゃないの、どうしたの?」
「うん、お世話になったお礼にね、みんなにお花配ってるの」
「可愛いわねぇ・・・」
「乱菊さんには特別!好きなバラを全部あげる!」
一護は、持っていたピンクや赤、黄色、白のバラを差し出した。
「ありがとう一護。こんなにたくさんのバラの花束貰ったの初めてよ」
嬉しいわ、とおでこにキスしてくれた。
「えへへー、とーしろーは?」
「中に居るわよ」
「とーしろー!」
「日番谷隊長って呼べつってんだろ」
「これやる」
「ひまわり?」
「いつも乱菊さん助けてくれてるんでしょ?そのお礼!」
「いや、あ?ありがとう・・・?」
「じゃー次浮竹さんとこ行ってくる」
「行ってらっしゃい」

 雨乾堂。
「浮竹さん、居ますかー?」
「いるよ」
と返事を返したのは京楽隊長。
「あれ?浮竹さんは?」
「やあ、一護君、ちょっとね」
「しんどいの?大丈夫?」
心配そうに顔を歪ませる一護。
「あのね、俺今、お世話になったお礼にお花配ってるの。で浮竹さんのトコにも来たんだけど、これとこれとこれ」
3本のガーベラを抜くと残った花を、
「これ!全部あげる!だから元気になってね?」
「ああ、ありがとう一護君。とても嬉しいよ・・・!」
「良かったぁ、じゃあ帰るね。お大事に」
雨乾堂を後にした一護。手には3本のガーベラを握って隊舎に帰った。
「可愛いねえ・・・」
「ふふ、そうだな。あの子が来てからとても安らぐよ」
「じゃあ、早く良くなってお菓子でもあげたら?」
「いや、一度饅頭を上げて怯えさせてしまった。どうしたものか」
「それだけがお菓子じゃないでしょ?金平糖でもあげたら?やちるちゃんと一緒にさ」
「そうだな・・・、今度あげるよ」

 十一番隊。
「ただいまー!弓親居るー?」
「ああ、一護君。どうしたの?」
「あのね、これあげる!」
「綺麗だねありがとう」
黄色のガーベラ。
「あー!ゆみちーだけずるい!いっちー、あたしは?」
「はい、やちるも」
ピンクのガーベラ。
「一角はオレンジね」
「あんがとよ」
「あのね、弓親のガーベラの花言葉はね、「究極美」って言うんだって。やちるのは「祟高美」で一角のは「我慢強さ」だって」
「へえ、僕にふさわしいね、ありがとう、一護君」
「剣八は?」
「ああ、部屋じゃないかな」
「ふうん」
「隊長にも何かやんのか?」
「うん、今から探しに行くの」
「ふーん」
探すと言ってもこの季節の河原にはたくさん咲いているが・・・。
「ああ、あった!一番綺麗なの・・・」
そういいながら一護は一本だけ切って持って帰った。
部屋に戻ると剣八は居なかった。
一護は文机に昨日書いた手紙と花を添えた。そして母の着物に着替えた。

「剣八!お待たせ!」
門の所で剣八が待っていた。髪は下ろされ、さっぱりした着流しを着ていた。
「なんだ、その着物にしたのか」
「だって、特別な日なんだもん・・・」
もじもじと胸元の鈴をいじって俯いて言った。
「そうだな、どこ行く?昼飯食ってねえから飯にするか?」
「うん、剣八にお任せします!」
「流魂街に美味い飯屋があるからそこ行くか」
「うん!」

「ココだ、俺の馴染みの店だ」
「なじみ?」
「よく来るって意味だ」
「ふうん」
一護と剣八はそこで食事をした。一護はしきりに美味しい!美味しい!と感動していた。
「で、次はどこにする?」
「うーん、あ、あそこ!」
「うん?」
そこは女性のアクセサリーを売っている店だった。
「なんだ、お前が付けんのかよ?」
「違うよ!やちるになんか買おうかと思ったの!」
「へえ・・・」
「何が良いかな?」
「あいつはすぐ暴れて無くすんじゃねえのか?」
「んー、じゃあこの髪飾りは?」
「うん?」
「かわいいでしょ?」
鈴と小さな花が付いた髪留めだった。
「鈴が付いてるから剣八とお揃いになるからきっと大事にするよ」
「そうだな、じゃあそれ買うか」
「うん!」
いそいそと会計まで持っていった。
「一護、金足りんのか?」
「う、後ちょっと足りない・・・」
「しょうがねえな、ホレ、俺が買う」
さっさと払ってしまった。
「俺が出したかったな・・・」
「良いじゃねえか、お前が選んだんだからよ」
「ん・・・」

「あ、鯛焼き屋さんだ、ちょっと待っててね!剣八」
「あん?」
一護が鯛焼き屋で鯛焼きを一つだけ買って戻ってきた。
「なんだ?」
「えへへ、はい剣八」
一護は半分に分けた鯛焼きの頭の方を差し出した。
「ありがとよ・・・」
「えへへ・・・」
幸せそうに食べる一護。
「一緒に食べたかったんだぁ、半分こにして」
「そうか・・・」

 もう夕暮れだ。
「どうする?もう帰るか」
「もうちょっと、一人占めしたいな」
「・・・じゃあそこの茶屋で茶でも飲むか・・・」
「うん・・・」
中に入ってお茶を頼む。
「菓子は?いいのか?」
「剣八は?」
「あ〜、じゃあみたらし団子でも食うか」
「なにそれ?」
「串団子にタレがかかった団子だ」
「甘い?」
「ああ」
「食べる」
みたらしを二人分頼む。出てきた団子ににんまり笑う一護。
「髪やらに付けるなよ?」
「うん!いただきます!」
はむ!っと食べる。
「〜、美味しいねぇ」
「良かったな」
「うん!」
ゆっくりとお茶を飲んでいると陽は完全に沈んでいた。
「出るか?」
「あ、うん」

「剣八、手、繋いでも良い?」
「ああ」
差し伸べられる手を掴む一護。
「剣八の手は大きいねぇ、乱菊さんとか、浮竹さんは小さいのに、俺の手、全部包まれちゃった・・・」
にこにこしながら喋る一護。

 ぴたっと足を止める一護。
「何してんだ?帰んぞ」
「・・・ゴメンね剣八。俺は帰れないよ」
「はあ?何言ってんだ!お前は俺と一緒に帰るんだよ」
「帰れないの・・・。分かって?もう一緒に暮らせないの・・・」
「なんでだよ!訳言え!」
「お前はヒトで、俺は狐だからだよ・・・」
「なっ・・・!」
「最後まで聞いて?俺達は本来結ばれないのが普通なの、それなのに無理に結ばれると必ず破滅が訪れるの・・・」
「で・・・?」
「だからね」
一護が繋いだ手にキスをした。それに気を取られた隙をついて、お札を胸に貼った。
「なっ、動けねえ!」
「だから、俺はお前の前から消えるの。俺のせいでお前を破滅に追いやる事は出来ないの・・・」
「待て、一護・・・!」
「俺ね、剣八にお手紙書いたんだ。部屋に置いてあるから読んでね。これが最後のお願い」
「一護!」
「さようなら・・・」
にっこり微笑んだ一護の身体が小さくなっていった。そして着物の下で何かが動いていた。
「?」
するり、とそこから姿を現したのは金色に輝く毛並みの美しい狐だった。金色の体毛は十六夜の月の光を受けて白く浮くように輝いていた。
近付いて、足先をぺろりと舐めた。ちりんと胸元の鈴が鳴った。
「一護・・・!待て!」
くるりと背を向けると一護は山へと走り去った。後に残されたのは髪止めの包みと、一護が着ていた着物だけだった。

 金縛りが漸く解けた剣八はそれらを持って隊舎へと帰った。
「お帰りなさい、隊長。一護君は?」
「・・・山に帰ったよ・・・」
「何でです?」
「知るかよっ!!」
大声で怒鳴った。
「やちる、一護からだ」
「うん・・・、ありがとう・・・」
部屋に帰る剣八。文机を見ると彼岸花と手紙が置いてあった。
破り捨てようかと思ったが何を書いたか気になったので開けてみる。

剣八様へ―
そう書かれてあった。中は・・・。

剣八様へ。
これを読んでいる時は俺はもう正体を明かしてるね。
俺、白哉に字も教わってたの。
初めて書く手紙がこんなのでごめんなさい。
俺の正体は狐なの。騙すつもりは無かったの、ただお礼を言って帰るつもりだったの。
でも剣八がここに居ても良いって言ってくれて甘えちゃった。
剣八、ありがとう。たくさんのモノをくれて。
美味しいご飯、ふかふかの蒲団、あったかい家、友達、帰る場所。
大好きだよ、剣八。
貴方と居ると安らげた。いつも傍に居ると何かが溢れてきた。声に出してみたら貴方の名前になったよ。
畜生の分際で貴方を愛してごめんなさい。
俺はとても幸せだったよ。貴方を愛して、素晴らしい日々を過ごせたの。ありがとう。
願わくば貴方の未来が幸福で満ちていますように。
皆の未来が幸福に満ちていますように、心からお祈りいたします。
                                                   一護


「馬鹿野郎が・・・」
花の意味が分からない。ただ何か意味があるのだろうと思い日番谷に言って氷漬けにして枯れない様にした。

 それから二週間。
瀞霊廷は静かだった。食堂もどことなく寂しい感じだ。

 剣八は表面上は変わりなかったが酒の量が増えた。遊廓にも一時通っていたがすぐ止めた。
この日の夜も浴びるように飲んでいた。
そこへ、狛村隊長がやってきた。
「更木・・・、貴公に聞きたい事があるのだが・・・、良いか?」
「ああ?手短にやってさっさと帰れ」
「何故一護を探しに行かんのだ」
「手前に関係あんのかよ?」
「貴公だけの問題ならば、首など突っ込まぬ。だが一護はどうなる?」
「知るかよ!あいつが勝手に出てったんだろうが!」
「貴公は、一護と離れても大丈夫なのか?」
「あ・・・?」
「貴公にとって一護はその程度の存在なのか?と聞いている。一時は遊廓にも行っていたな?貴公にとって一護は何だ?金のかからん性欲処理か?」
「てめえ!!」
「それとも、なくてはならん存在か?どちらだ!」
「ただの性欲処理相手にこんなザマになるかよ!くそったれが!」
「ならば、一護の正体を知ってなおあの子を愛せるか?一生添い遂げる事が出来るか?」
「なんだ?」
「答えよ、更木。答え如何によって貴公は永遠に一護を失うぞ」
永遠に・・・?一護を失う・・・?
「てめえ、何か知ってるな?何を隠してやがる!」
「先に質問したのは儂だ、答えよ!」
「・・・花のよぉ・・・」
「花・・・?」
「意味が分からねえんだ、そっから先に進めねぇ・・・」
床の間の氷漬けにされた彼岸花を見る二人。
「花言葉ではないのか?」
「それなら弓親に聞いた。「悲しい思い出」だとよ」
へっ、と自嘲気味の笑みを漏らした。そこへ卯ノ花隊長が現れた。
「やちるちゃんから呼ばれました。お酒が過ぎると」
「うるせえ・・・」
「それと先程のお話聞かせて貰いましたが彼岸花の花言葉はもう一つありますよ?更木隊長」
「何だよ・・・?」
「想うは貴方一人」
「なん、だと?」
「どうですか?まだ動けませんか?」
「あの、馬鹿・・・」
ああ、馬鹿は俺も同じだ、ちくしょう。
「狛村!一護はどこだ!」
「知らぬ、ただ互いに離れる事が出来ぬ程想い合う二人が、満月の夜に祝言を挙げれば結ばれるそうだ。祝言を挙げ、初夜の儀を済ませれば月の魔力を借りて結ばれるのだと一護が言っておった」
「なんでてめえにそんなこと話したんだよ?」
「儂があの子の正体に最初に気付いたからだ。一日でも、一秒でも長くお主と居たいと言っていたがな・・・」
「くっそ!」
後、二週間じゃねえか、間に合うか?
「探すのか?更木」
「当たり前だ、見つけたらもう逃がしゃしねえ、鎖に繋ごうが傍に置いとくぜ」
「ならば、総隊長からの伝令だ」
「ああ?」
「一護を見つけるまで戻ること罷りならん」
「へっ!上等だ!」


第12話へ続く




09/02/09作 朝から何を・・・。お花屋さん一護。
最後のデートを楽しむ一護。別れを告げ山へと帰ってしまった一護。満月までに見つかるのか?



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