題「記憶喪失」第5話 | |
「うう、痛ぇ・・・」 目を覚ました一護は、ぼんやりした頭で何かを思い出しかけていた。 「あ、風呂、入んなきゃ・・・」 風呂に行く用意をして、風呂場に行った。もう皆入り終わったようだから、ゆっくり入ろう。 「ふう・・・」 湯に浸かりながら、目を瞑る。もう少しで何かを思い出せそうなのに・・・。 「何か、思い出しちゃ駄目なんじゃ・・・?」 何だろう・・・?物凄い不安が底の方から湧き上がって来た。 「もう出よ」 風呂から上がり、着替えて部屋に帰る。目の端に赤い物が入った。 「ん?」 下を見ると楓の葉だった。 「あ・・・、ああ・・・、剣・・・八」 瞬時にあの日の記憶が甦った。嬉しくなって思わず剣八の部屋に向かって走った。 「剣八!」 返事も聞かずに勢いよく障子を開けてしまった。そこで見た物は、お互い裸で女を組み敷いている剣八の姿だった。 驚愕に見開かれる目。 「あ・・・、あ、あ」 「なんだ?どうした一護」 ゆっくり顔を横に振ると、 「邪、魔、して、ごめん・・・」 ぴしゃんっと障子を閉めてその場を離れた。 「なぁにあの子?いきなり・・・、失礼ね」 「おい、お前もう帰れ・・・、約束は守ってやっただろ。てめえの一方的なもんだがな」 「ふん・・・、まあ良いわ、でもあなたもあの子とは終わりね・・・。だってあの子・・・」 くすくすと嫌な笑い方をした。昼間の一護の笑みと、この違いはなんだ。 「うるせぇよ・・・、とっとと消えろ、二度と現れるな・・・」 「ふんっ・・・」 「一護君?」 ビクッと身体を揺らして声の主を見た。 「どうしたの?泣いてるの?」 「〜・・・。ごめん・・・、ごめん・・・、思い出さなきゃ良かった・・・、ここに居ちゃいけないのに・・・、もう・・・、消えるから・・・」 そう言うと俯いて涙を流した。 「何言ってるの?」 「もう・・、良いから・・・、今日はもう、寝るから・・・」 ぐいッと顔を拭うと立って部屋に帰った。 「一護君・・・?」 部屋に戻った一護は蒲団に入って、まるで身を守るかの様に丸くなって目を閉じた。 一時間程経って、一護が身体を起こした。ふらふらとそのままの格好で外に出た。裸足のまま隊舎を出て彷徨い歩いた。 白い寝間着を着て、ゆらゆらと歩くその姿はまるで幽鬼のようだった。 「黒崎?」 声を掛けたのは散歩の途中の白哉だった。夜の散歩は彼の趣味だ。髪飾りも外していた。 ゆっくりと振り向くと、にこりと笑った。 「何をしている?このような時刻に?そのような格好で」 ゆらゆらと近付くと、その顔に手を伸ばし、愛しげに髪を触った。そしていきなり抱き付いた。 「なっ!」 「けんぱち・・・、けんぱち・・・、抱いて、抱き締めて・・・」 「黒崎・・・?」 自分を更木と間違えている?失礼な、と思ったが様子がおかしい。 「お願い・・・、抱いて・・・、けんぱち・・・」 「正気に戻れ、黒崎!」 「俺が嫌い・・・?けんぱち?」 「何やってんですかぁ?朽木隊長?」 「む、松本か。丁度良い、こ奴の様子がおかしいのだ。先程から私を更木と間違えて抱きついて離れん」 「一護?大丈夫?」 「乱菊さん、ダイジョウブですよ・・・」 「全然大丈夫じゃないわよ!あんた、この人誰だか分かってんの?」 「けんぱち・・・、抱いてくれないの」 「一護・・・?」 「剣八、剣八、お願い、道具でもいいから・・・、玩具でもいいから、そばに置いて・・・、居させて・・・、お願い・・・」 「い・・ちご・・・」 「黒崎・・・」 「離さないで・・・、離れないで・・・、もう邪魔しないから、あの女(ひと)の邪魔しないから・・・!」 「あのひと?更木隊長の浮気相手の事!?一護!」 「邪魔、しない、からぁ・・・!」 泣きじゃくって、白哉に縋る一護。そんな一護に乱菊が、 「一護!目を覚ましなさい!」 頬を強く打った。 パァンッと音が響いた。数回瞬きをして一護が、 「痛ぁっ!何すんですか!乱菊さん!て言うかここどこですか?」 「あんた何にも覚えてないのね・・・、いい加減、離れたら?」 「へ?わぁ、白哉!」 「ようやくか?兄は夢遊病の気でもあるのか?」 「はっ?無いと思うけど・・・」 「ならば、その格好はなんだ?」 素足に寝間着姿。 「なっ、なんで!」 「一護、あんた何か思い出したでしょ」 「あ・・・、思い出さなきゃ、良かったのに、ね。思い出しました・・・」 「なんで?」「何故だ?」 「だって、俺もう用済みだし・・・、あそこに居られませんよ・・・」 新たな涙が溢れて来た。 「ああもう、みっともねえ。もう大丈夫なのに・・・」 「ねえ一護、あんたなんで大丈夫って言うの?」 「だって、そう言ってれば、大丈夫だから・・・、我慢出来るし、耐えられるし・・・、今までそうだったから・・・」 袖で涙を拭いながらそう言った。 「来たぞ・・・」 白哉が言った。 「何が?」 「一護、何してやがる・・・」 「あ・・・、あああ・・・、あぁあああ!」 口を押さえて茂みの中で吐いた。 「おい、一護!」 恐怖に慄いた顔で剣八を見て一護は、 「許して、許して!もう邪魔しないから・・・!もう思い出さないから!ごめんなさい!ごめんなさい!もう来ないから!消えるから!ごめんなさい・・・!」 謝りながら、頭を抱えて震えた。 「お・・・い、何言ってんだ・・・?一護」 「更木隊長、ちょーっと良いですかぁ?」 「ああ?」 振り向きざま、乱菊の渾身の拳を頬に叩き込まれた。グラッと身体が揺れた所を今度は白哉が、反対側の頬を殴った。 「〜、何しやがる、てめえら!」 「それが分からんほど愚かなのか?黒崎がこうなったのは兄のせいであろうが」 未だ、がたがたと震えている一護に歩み寄り話しかける。 「おい・・・、一護・・・」 ゆっくり顔を上げる一護。その顔は涙で濡れていた。 「要らないなら・・・、早く棄てて・・・。期待させないで?お願いだから・・・」 「一護・・・、あの女とは、その・・・、なんだ」 「何でもいいよ・・・、ごめんな、気を遣わせて・・・、あんたを愛してたのは俺だけだった・・・、愛されてるなんて思って、ごめん」 「違うっ!聞けよっ!一護」 「やだ・・・、聞きたくないよ・・・」 「聞けっ!」 「いやっ!終わりなんか聞きたくないっ!」 「こいつっ!来いっ!帰るぞ!」 「やだぁ!離して!」 その肩に担がれて連れて帰られる一護。 「やだ!やだ!離して!」 瞬歩でその場から消える剣八。 「やれやれ・・・、いい加減、更木隊長も一護がまだまだ子供だって分かってくれてもいいのに」 「ふん・・・、それ以前の問題であろう。愛する者以外を抱くなどただの裏切りだ」 「手厳しいですね」 「ふん、帰る」 「弓親!風呂の用意だ、それと人払いしとけ!」 「嫌だ!離せ!触るな!」 そんな一護を無視して風呂場に連れて行き、寝間着のまま湯船に落とした。 「ぶはぁっ!何すんだよ!」 「こうすりゃ逃げらんねぇだろうが」 「知るか!帰る!そこどけ!」 湯船から出て、帰ろうとする一護を捕まえて離さない剣八。その首筋にキスマークを見つけた一護。 「なんだよ・・・、それ・・・、やることヤッテんじゃねえか!離せえ!」 暴れて剣八を殴る一護。抵抗しない剣八。 「てめえ、馬鹿にしてんのかよ?ああ?俺はお前のダッチワイフじゃねえんだよ!」 「そんな風に見た事なんざ無え・・・」 一護の腕を掴むと真剣な眼差しで見据えてくる。何も言えなくなって、動きを止めてしまった一護。 「とにかく、足、洗えよ・・・、土付いてんぞ」 石鹸を泡立てて、優しく洗ってやる剣八。 「!やだ!自分で洗うから!」 「黙ってろ・・・」 泡を落とした足の指を口に含む剣八。 「な、何やってんだよ!あっ、やっ、ああっ」 ちゅるちゅると舌を動かす。 「やだぁ・・・、あ、やめ・・」 「やめねぇ・・・、一護、一護!俺から離れるな・・・、頼むから、離れないでくれ・・・!」 「・・・・・」 「お前だけだ、お前だけなんだよ・・・!」 「嘘だ!さっきだって俺じゃない女の人抱いてたくせに!誰でも良いんじゃねえか!」 「違う!お前じゃなきゃ駄目だ!確かに抱くこた出来たが、違うんだよ」 「なにが・・・?」 「落ち着かねえんだ、満たされねえ・・・、空っぽのままだ、昔みてぇに・・・。お前は違う!何かうまく言えねえけど! お前と繋がると何か満たされる・・・、お前が俺の名前呼ぶだけでもそうだ!だから、頼む!消えるとか、離れるとか言うな!」 こんなに必死に言い募る剣八を未だかつて見た事が無い。 「剣八・・・、剣八は俺を愛してるの?愛されてるって思っても良いの?」 不安に揺れながら、聞いてみた。 「ああ、お前だけだ」 「じゃあ、お前の口から聞きたい・・・、教えて?俺はお前のなんなのか」 「一護、愛してる!お前は俺の・・・、俺の伴侶だ」 「伴侶・・・?」 「俺の片割れだ」 そう言って、久し振りの口付けをしてきた。 「あんん・・・、ふ、っん、あ、もっと・・・」 「此処じゃ風邪引いちまう・・・、蒲団で可愛がってやるよ・・・」 チュッと額にキスして部屋に連れていった。 第6話に続く 08/12/30作 記憶戻りました、一護。ふたりの本音爆発です。乱菊姐さんオットコ前〜。 へたれ気味の剣ちゃんになってしまいましたな。 もうあの女は出て来ないですよ〜。立ち入る隙がないですからね。 |
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