題「変化」第4話
今日の見舞客は、女性死神協会の面々だった。やちるは一護の懐に陣取ってご機嫌だ。
昼飯時だったので、剣八が粥を持って一護の病室に入ろうとした時やちるの話に足が止まった。
「ねぇねぇ、いっちー聞きたい事あるんだけど?」
「うん?何だよ」
「あのね、現世じゃどうやって夫婦になるの?」
「は?そりゃ結婚式挙げたり、色々あるけどよ。何だ急に」
「ねぇ、その結婚式ってどうゆうの?詳しく聞きたい!」
乱菊や他のメンバーが身を乗り出す。
「え〜と、和と洋があって、和の方はコッチと変わんないと思います。洋の方は、教会で式を挙げるんですけど・・・」
「それから!?」
「女の人はウェディングドレスを着てヴェールを被ってて、牧師か神父の前に新郎、旦那ですね。
と一緒に誓いの言葉を交わすんです」
「どんな?」
「え〜と『汝、病める時も健やかなる時も、死が二人を別つまで、この者を愛し慈しむ事を誓いますか?』って
で、お互い誓いますって言って牧師さんか神父さんが夫婦として認めて誓いのキスをしてお終い?指輪の交換とかも
ある様な・・・、まぁこんな感じで」
「ふ〜ん、素敵ねぇ」
「ウェディングドレスってどんなのですか?」
「えっと大体純白ですね。お色直しで色々着替えたりしますよ」
「わ〜。見てみたいわね」
女性陣は、この話で盛り上がっていた。
「入るぞ、一護」
剣八が入ってきた。首に包帯を巻いている。
「どうしたんだ?それ」
一護が聞くと剣八は、
「寝違えた」
とだけ答えた。
「だせぇな。寝過ぎるからだ」
と笑う一護。・・・やっぱり覚えてねぇ。
「うるせぇ、粥持ってきたから喰え」
「サンキュ」
やちるが一護の上から退く。粥を一口食べて、
「やっぱ粥でも味がある方が良いな」
それを聞いた勇音が、
「一護さん?朝のお粥、普通に味付けしましたよ?私も食べましたから」
「え?俺食べた時、味無かったですよ・・・?」
暫く沈黙が流れた。
「良いから喰えよ。冷めちまう」
剣八が一護の口へ粥を運ぶ。
「んっ・・・」
温かい粥を飲み込む。
「で?何の話でもりあがってんだ?」
「ああ、現世の結婚式の話だよ。今度来る時ドレスのカタログ持って来ましょうか?」
「わ!本当?楽しみだわ」
「ねぇ、指輪の交換って言ったけど、どうやるの?」
「左の薬指にお互いに相手の指に指輪をはめるんですよ」
「何で左の薬指なの?」
「心臓に一番近いからだって聞きましたよ」
「へぇ〜」
「じゃあ、食事の邪魔しちゃ悪いから帰るわね」
女性陣が全員退室し、剣八と二人きりになった。
「死が二人を別つまで、か・・・」
剣八の呟きに、
「ん?」
首を傾げてこちらを見る一護。
「何でもねぇよ」
がしがし頭を撫でる剣八に一護が、
「お前もうすぐお見合いあんのに、こんな事してて良いのかよ?」
「・・・なんで知ってる?」
「随分前から噂になってた。色々用意とかあんだろ?こんな所で油売ってたら、一角達に怒られるぜ?」
笑って語り掛けてくる一護に怒りが込み上げて来た。急に黙った剣八に一護が、
「何?どうしたんだ?」
「何でもねぇ、早く喰え」
「うん、これも剣八が作ってくれたのか?」
「ああ・・・」
「ありがと」
心底嬉しそうな顔で礼を言う一護。
「あのさ・・・、大分体の調子が良くなって来たんだけど、剣八今度の非番の時、予定あるか?無かったらこないだの、
仕切り直しって言うか、その」
粥を混ぜながら早口で喋る一護に、
「ああ、別に良いぜ。後で予定教える」
「よかった。今度はさ弁当作るからさ、こないだの場所で食べよ?」
「そうだな」
剣八の答えに笑って頷いて、黙々と粥を食べた。
「ご馳走さま、美味しかった」
残さず食べて薬を飲む。
「剣八・・・」
一護の髪を梳きながら、
「なんだ」
と応える。
「呼んでみただけだ」
一護は、剣八の手の温もりを感じながら、想いを込めて剣八の名を呼んだ。
「剣八・・・剣八・・・剣八・・・」
一護は剣八の死覇装を握り締めていた。
「そんな声で呼ぶな」
「ごめん・・・」
俯いていた一護が顔を上げた。その顔には笑顔が乗っていた。
「ほら、もう仕事の時間だろ?来てくれてありがとな。非番の日楽しみにしてるから」
ニコニコしながら送り出す。
一護はある決意を胸にその日から笑顔を絶やす事は無かった。
ある者には痛々しく映り、ある者には安堵を与えた。

 数日後、診察を終え卯ノ花隊長に相談があると一護が言った。
「なんですか?一護君」
「あの・・・俺、剣八と別れた方が良いと思うんです・・・」
「何故です、更木隊長がお見合いするからですか?」
「それもありますけど、邪魔でしょう?霊力も出ないんじゃ、あいつのしたい斬り合いも出来ねぇし」
笑いながら言う。
「それを決めるのは私ではありませんよ。霊力の方は体が治れば元に戻ります。
それに一護君は更木隊長を愛しているのではないのですか?」
弾かれた様に顔を上げ、
「・・・分かりません、俺は16年しか生きてないし、剣八やここの人達みたいに永い時間を生きてる訳じゃないし、
愛・・・とか正直分かりません」
「でも好きでもない人と身体を合わせる事はしないでしょう?」
その言葉に自嘲の笑みを浮かべ、
「そうですね。俺はあいつが好きなんです、だから別れようと思うんです」
「・・・なぜ・・・」
「・・・俺の名前はね、卯ノ花隊長。何か一つを護るって意味なんだって。そう教えられた時、大好きな母を護りたかった。
・・・でも護れなかった。・・・護れなかったんですよ俺は・・・」
今にも泣きだしそうな顔で言う一護に卯ノ花隊長は黙って聞いていた。
「だから今度は家族や俺の周りの人達を護ろうと思ったんです。俺が居なくてあいつの幸せが護れるんなら、
それで良いんです」
卯ノ花隊長は悲痛な面持ちで一護を見つめる。
「でもこれ内緒ですよ?バレたらうるさいだろうから」
口許に人差し指を立てて笑う一護に、
「それが更木隊長の幸せとは限りませんよ」
卯ノ花隊長の忠告に一護は、
「でもこの話は総隊長から来たんでしょ?断ったら十一番隊が・・・」
それに対して、
「それはありません。そんな事で怒るほど総隊長は心の狭い方ではありませんよ」
「相手は貴族だって・・・」
だんだん一護の声が震えてくる。顔は今にも泣きそうに歪められていた。
「一護君・・・?」
「もし・・・剣八が断って隊長の席を奪われたら?」
「・・・」
「やちるは?一角や弓親はあいつに付いて行くでしょ」
拳を噛みしめる。皮膚が裂け、血が流れ出した。
「折角、帰る場所を見つけたのに、また無くす様なコト、アイツ等にさせられない・・・」
顔を見られない様に俯いていた一護の手のキズを治しながら卯ノ花隊長は、
「そこまで考えているのなら、私はもう何も言いません。貴方の思う様になさい」
涙の滲んだ目元を拭い、
「はい、今度の非番の日に言ってみます。笑って言えたらいいんですけど」
「非番の日?」
「はい。このあいだの仕切り直しって感じで約束したんです」
「そうですか・・・」
こないだ何かあったのだろうか?楽しかったと言っていたが。それに今度の非番の日は、見合いの当日ではなかったか?
卯ノ花の頭の中には疑問が掛け抜けた。
「じゃあ、部屋に戻りますね」
一護の声にハッとしながら笑顔で見送った。何か企んでるなと思いながら。
 診察室から出ると一角と弓親が立っていた。
「わ!びっくりした。何やってんだ?お前ら」
「そんな事より、なんだ今の話はよ・・・」
一角が口を開いた。
「・・・なにが?」
聞かれた?コイツ等に。どうする、口止めしないと。
「心配しなくとも、僕達は隊長には言わないよ」
弓親が言った。
「君が決めた事だろう?それに僕達が何か言う事はしないよ」
その言葉に、ふっと笑って、
「ありがとう、弓親、一角」
そう言うと一護は病室に帰った。
「やれやれ、非番の日は人払いしなきゃね」
溜め息交じりに弓親が言うと一角が、
「そうだな、馬鹿だなぁ。あいつ」
と返した。

病室に着くと一護は、どうやって話を切り出すか考えていた。うんうん考えていると夕飯の時間になっていた。
「一護、入るぞ」
剣八が入ってきた。
「あれ?もうそんな時間か?」
「ああ、喰えるか?」
今日は粥の他に卵焼きと漬物が盆に乗っていた。
「多分、体力つけなきゃ、デート出来ねえし」
一護の口からデートと言う単語が出るとは思わなかった剣八は、口の端を持ち上げて笑った。
「それにしても、毎回ワリィな。飯時に来てもらって」
卵焼きを一口食べて言う。若干甘いそれは、やちるの好みだろうか。
「別に好きでやってんだ。気にすんな」
頭をがしがし撫でられホッとする一護。
「非番の日決まったぞ。3日後だ」
パッと顔を明るくする一護は、
「じゃあ、昼頃に行くから、寝てんじゃねぇぞ」
「ああ、分かった分かった」
頭をぽんぽんと叩いて言われた。笑みを深くして食事を続ける一護を眺めながら、剣八は3日後の事を考えていた。
一護は弁当のおかずを考えていた。
「なぁ、弁当のおかず何が良い?」
「何でも喰う」
コイツは・・・。
「じゃあ、入れちゃ駄目なモンは?」
「納豆だな」
「了〜解、じゃあ俺が作れる範囲で作るからな」
「ああ、楽しみにしてるぜ」
「やちるの分も作るか」
「好きにしろよ」
食事を終えた一護は、弁当の内容を考えながら、
「そうする」
と答えた。

 翌日の朝、一護は勇音に買い物について来てもらえるか尋ねた。
「別に構いませんが、何を買うんですか?」
「弁当作るからその材料です」
「お弁当ですか?」
「今度剣八の非番の日にやちるの分も作る事になって、何が良いかなって」
「そうですね、じゃあお昼休みにご一緒します」
「ありがとうございます!良かった〜」
安堵の笑みで食事を始める一護。食事が出来る様になってから点滴はしていない。
 昼休み勇音と一緒に買い物に出た一護は弁当のおかずの材料を探した。
「え〜と、卵と鶏肉とウィンナーと・・・、それから野菜っと」
かごの中に材料を入れていく。
「どんな感じのお弁当にするんですか?」
勇音が聞いてきた。
「えと、唐揚げと卵焼きと、ウィンナーと、金平ゴボウとおにぎりにしようかなと」
足りないかな?とおにぎりの具に塩鮭を片手に呟く。
「そうですね、お野菜が少し足りない気がしますね」
「ふむ、じゃあ、ホウレン草の胡麻和えも入れるか・・・」
ホウレン草をかごに入れて、
「大体こんなモンかな?あ、海老フライも入れようかな」
エビを見ながら一護が呟く。
「一護さんはお料理が得意なんですね」
勇音が聞いてきた。
「得意つーか、ただ味付けして揚げるだけの物選んでるだけですよ」
と答え、海老をかごに入れ会計する一護。詰所に戻ると、材料を台所に持って行って準備に取り掛かった。
後は火を通すだけの所で夕飯の時間になったので、病室に帰って一休みする事にした。
そうだ、卯ノ花隊長と勇音さんの分も作ろう。足りるかな?などと考えていると剣八がやって来た。
「あ、剣八」
「おう、飯だ。喰え」
「うん、サンキュ」
粥を受け取り食べる一護。
「おい一護、明日は何時頃来るんだ」
剣八が聞いて来た。
「んー、昼飯時だしなぁ、12時10分前ぐらいにするか」
「ふ・・・ん、それぐらいが丁度良いか」
剣八が頷いた。
夕飯を食べ、他愛ない話をして剣八が帰った後に弁当作りに取り掛かった。
唐揚げ、卵焼き、タコやカニやウサギの形にしたウィンナー、海老フライ、金平ゴボウ、ホウレン草の胡麻和え、
それにおにぎり。中の具は鮭と梅干し。
剣八と俺。やちる。卯ノ花隊長と勇音さん。それぞれの重箱に詰めて一段落ついた。
傷まない様に涼しい所に置いて一護は、病室に帰ってシャワーを浴びてから一服した。
「ふぅ〜」
髪を乾かし着替えて、手拭いを持って、『温泉に行く』とメモを置いて一護は、十一番隊隊舎に向かった。
いつもの様に中に入り剣八を呼んだ。縁側に居た。
「なんだ。何か用か?」
「ああ、温泉行かねぇ?」
隣りに座る。
「ああ?温泉だぁ?」
「ああ、キズと体に良いトコ知ってんだ。どうだ?」
剣八の着物の袷に手を置いて、上目遣いに見上げる。天然だ。これは・・・。
「しょうがねえな。近くなのか」
「ああ、双極の近くだ」
一護が立ちあがった。こちらを見る剣八の瞳には、今日は三日月が映っていた。立ち上がった剣八に一護が、
「手拭いなら二人分あるぞ」
と言った。
「用意が良いな」
「そっか?早く行こうぜ」
他の連中には目もくれず剣八だけを見ていた。二人で歩く後ろ姿を見ていた弓親が、
「痛々しいね・・・」
と呟いた。
 やがて地下温泉の場所に着いた一護は、
「着いたぞ」
と言うと剣八が、
「何もねぇじゃねぇか」
と言った。
「へへ、入口があんだよ」
悪戯小僧の顔で言うと一護は入口まで案内し、温泉の前まで行った。
「ほう」
剣八の声に気を良くした一護が、
「此処は夜一さんと恋次ぐらいしか知らねぇんだ。穴場だぜ」
と言うと、
「何で阿散井が知ってんだ?」
不機嫌な声で聞かれて、
「此処で修行してた時に霊圧でバレた。さっ、入ろうぜ」
と説明し、浴衣を脱いでいく一護にならい剣八も脱いでいった。湯に浸かりながら、
「時々一人で来てたんだ。治るかなって思って。でも効き目ねぇや」
と笑った。
「キズだけなのかな?残念。でも剣八だったら生傷なんかしょっちゅうだろ?」
振り向いて言う。
「大きなお世話だ」
寛いで湯に浸かる剣八に、
「なぁ、気に入ったか?」
「ああ」
「へへ、良かった」
笑いながら側に寄っていった。
「なんだ?あんまり擦り寄ると襲っちまうぞ」
「いいよ。夜までには帰らなきゃいけないし・・・」
一護は自分から剣八に口付けた。すぐに離れようとしたが、首の後ろを掴まれ深く口付けられた。
「ん、ふぅ、あ、はぁ」
「相変わらずテメェは俺を煽るのが上手いな」
くたりと自分の胸で息を乱している一護に剣八が言った。 

 一方その頃の四番隊では、卯ノ花隊長が一護の霊力が出ないのは、霊力が無くなったのではなく、
何かに押さえられているのだという結論に至っていた。
すぐにでも、霊力を解放すれば体も元に戻るだろう。しかしどうやって?無理矢理吸い取る訳にも、そんな術はない。
どうするか・・・。

「剣八・・・。お前、さ。今の俺の身体と、元の身体どっちがいい・・・?」
「あん?何だ、いきなり。前も言っただろ、中身が同じなら関係ねえよ」
こめかみに口付けして言った。
「でも、俺、お前の子供、産めないぜ?卯ノ花隊長が言ってた。完全に女じゃないんだって」
「欲しいのか?」
「分かんね・・・」
でもなんだかさみしい・・・。と思った。
「まだガキなんだからよ、焦るこたねえんだろうよ」
髪を梳きながら、言い聞かせた。
「うん」
「さ、どうする?まだやるか?もう帰るか?」
「う・・、明日起きなきゃいけないし・・・、もう帰る・・・」
「そうか、そうだな」
身体を拭き、着替えると剣八が一護の身体を抱きかかえ、瞬歩で詰所まで送ると、
「明日な」
と言って帰った。
一護は病室に帰ると、目覚ましを掛けてから眠った。

第5話に続く


剣八の手によって拒食症が治りました。次はどうなるでしょう。書置きここまでなんですよ。こっから新しく書いていきます。
どこまで長くなるんだろう。



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