題「黒猫」第2話前半
「ん〜〜」
一護が寝返りを打つと腕にふかふかした感触がして目が覚めた。
「・・・ん?」
目を開けるとそこには、巨大な黒猫が居た。
「?・・え〜・・と、剣、八?」
「ぐるるる」
「・・・・・・ほぎゃああああああ!」
隊舎に一護の叫び声が響き渡った。

 人型に戻って(猫耳&尻尾付き)、一夜明け、そこに居たのは2メートル近い大きさの猫になった剣八だった。
「なんでまたこの姿に・・・」
落胆の色を隠せない一角。
「やっぱり十二番隊に直接行くしかないんじゃない?」
と弓親。
「そうだよな、この薬もおかしかったし、薬も見てもらおうぜ」
一護の手には昨日やちるが、ネムから貰ったという薬の瓶。
「でも隊長、嫌がんないかな。あそこの隊長と仲悪いんだよね・・・」
「ま、こうしてても埒あかねえし、行くぞ剣八」
一護に促され、剣八、一角、弓親が十二番隊に足を運んだ。

 十二番隊に着くとこれまでの経緯を説明し貰った薬を渡す。
「フン?何だネ、これは?こんな期限切れの薬品ワタシは知らんヨ」
「えっ?期限切れ?でもネムさんがくれたって、やちるが・・・」
「あのウスノロ!まあいい、血さえあればすぐ新しい薬は出来るヨ」
「良かった!是非お願いします!」
「ワタシは忙しいのだヨ?なぜそんな下らない事をしなくちゃならないんだイ」
あっさり拒否された。さすがにむっとした一護が横の剣八に、
「どうする?剣八。ここじゃお前の薬は作れないんだってさ?案外期待外れだな」
大げさに肩を落としてさらに、
「じゃあ、俺が現世で浦原さんに頼んでくるよ、あの人なら簡単に作れるだろうからなぁ」
じゃ、行こうか。と出て行こうとすると呼び止められた。
「待ちたまえヨ。出来ないとは言ってナイ!義理がないだけだヨ!」
「え〜、でも言い訳に聞こえますよ、浦原さんなら黙って作れるはずですもん」
と切り返す。
「奴なら何日ぐらいで出来ると言うのかネ!」
「一週間、いや5日もあれば十分じゃないですか?」
「ならワタシは3日で作ろうじゃないかネ。いいかネ!3日だ!」
「おお!さすがは現役!頼りにしてます!じゃ、早速採血を」
一護は笑顔で、剣八の前に膝をつくと、首の後ろあたりの毛を掻きわける。
マユリはそこを消毒して採血した。
「小僧、ワタシをあの男と一緒に考えるなよ」
一護の考えなどお見通しの様で、凄んできた。
「ええ、一緒だとは思いませんよ。でも科学者としてのプライドと誇りは、浦原さんも一目置いてましたよ」
「フン、当たり前だヨ、用が終わったら出て行きたまえヨ」
邪魔だ、時間の無駄だとぶつぶつ言いながらも、新薬に取り掛かるマユリ。
思わず苦笑して周りの隊員達に頭を下げる。
帰る道すがら、
「すごいね、一護君。あの隊長とやり合うなんて」
「どこがだよ?みんなあっちが付き合ってくれたようなもんだし、それにプライド云々の話は本当だしな」
「へえ、そうなのか」
隊舎に着いて3日の辛抱だと言い聞かせ大人しくさせる。やはりと言うべきか剣八は一護の傍から離れなかった。
手持無沙汰の一護は剣八の毛並みを整える。ブラシで梳いてやるとゴロゴロ喉を鳴らして喜んでいる。
何か物足りないな、と考えていると、
「ああ、首輪だ」
剣八の喉をさすりながら呟いた。黒猫にはやっぱ赤だよなと思い剣八に、
「なぁ、首輪買いに行かねえか?」
と聞いた。さして嫌がるそぶりも見せなかったので、
「じゃあ一緒に行くか?」
そう聞くと剣八がするりとその場からいなくなった。しばらくして何かを咥えて戻ってきた。
「ん?それお前の財布か?」
「ぐるる」
「これで買ってもいいのか?」
返事するようにぱたりと音を立てて尻尾を揺らした。
「じゃあ、行くか」
剣八はそこから動こうとしなかった。
「なんだ、来ないのか?」
ぐるると鳴いた。一護は剣八の顔を撫で口の端にキスをして、
「弓親ー、俺買い物行ってくるけどー」
「えっ、どこまで行くの?」
「剣八の首輪買いに行くんだけど、弓親も来るか?」
「え、いいの?」
「ああ俺一人で行ってもな」
「じゃあ、一緒に行くよ」
「そっか、あ、そうだ狛村隊長の所にも寄るけどいいか?」
「良いけど、なんの用なの?」
「剣八の食いもんとか、喰わせちゃダメなもんあるかも知んねえから聞いとこうと思って」
「あ、そうか。人間の身体じゃないもんね」
「ん。じゃあ行ってっくっから大人しく・・・」
すでに一護の隣りに座っている剣八。
「お前行かないんじゃなかったのかよ」
くすっと笑って弓親が、
「狛村隊長のトコに行くからじゃない?」
「んだそりゃ、しゃあねえな」
二人と1頭が買い物に出かけた。

 目当ての店を見つけて中に入るとちょっとした騒ぎになったが、他の客が居なくなって一護達には都合が良かった。
「どんな色にするの?」
「ん〜、色は赤に決めてるんだ。後は素材かなあ」
「なんで赤なの?阿散井の髪の色と同じじゃない」
「は?なんでそこで恋次が出てくんだ、赤にだって色々あるだろ?紅色とか朱色とか」
「そうだけど、さ」
「俺は剣八に似合う赤を探してんだよ」
首輪を探しながら答える一護。
「おっ、コレがいい!剣八来てみ」
呼ばれて横に行くと首輪を宛がわれる。
「うん、これがいい。毛並みに映えて綺麗だ」
革製の幅広い赤い首輪。それを買った。
「あ、ここで着けて行きます」
「いや一護君さすがにそれは・・・、ほらこれから狛村隊長のトコにも行かなきゃだし」
弓親が止めると、
「え〜、早く見たいのに・・」
言いながらも一護はそれを包んでもらう。ホッとした弓親。
店を出てホクホク顔の一護。可愛いなあと見ているとぐるるると低い唸り声が聞こえた。
剣八が眉間に皺を寄せ牙を剥き出しにして唸っていた。
(こわ・・・)
弓親が身震いした。
「何だ、どうかしたか?剣八」
顔を覗き込む一護。その顔に尻尾を這わす剣八。
「わっぷ。なんだよ」
「早く行こうよ、一護君」
「あ、うん」
七番隊に着いた。
「すいません、狛村隊長はいらっしゃいますか?」
「あ、はい。どのような御用件ですか?」
「少し相談がありまして・・・」
「黒崎ではないか?何用だ」
「あ、狛村さん、こんちはっす。実はですね・・・」
耳打ちしようと一護が狛村に近づき背伸びすると、
「ぐうるあああ!」
突然剣八が大声で咆えた。びくっとした一護が振り向くと怒りの形相の剣八がこちらを睨んでいた。
「・・・更木か・・?」
「そうです、何怒ってんだ?お前の事聞くだけだろ?」
「聞きたい事とは?何だ」
「ええと、こいつの食べる物についてなんですけど、やっちゃダメなモノってありますか?」
「ふむ、普通の猫と同じであろう。玉ねぎやねぎ類がそうだ、気を付けたほうがよいな」
「はあ、勉強になります。後は肉とか魚って生の方がいいんですか」
「どちらでも良い、好む方をやれば良いのではないか?」
「そうですか、急に来たのに聞いてくれて、どうもありがとうございます!」
深く頭を下げる一護に狛村の目も優しくなる。
「じゃ、失礼します」
弓親と一緒に軽く挨拶して帰っていく。そこに狛村が、
「黒崎よ、一つ聞きたい事があるのだが、良いか?」
「なんですか?」
「もし、更木がそのままの姿から元に戻れなくなったら、お主はどうする?」
一護は迷うことなく、笑いながら、
「もしそうなったら、俺も猫にしてもらいますよ」
あっけらかんと言いきった。会釈して帰っていった。
「ふっ、同じ姿になって一緒にいるか」
羨ましい事だ・・・。

 隊舎に着くと足を拭いてやり、縁側から入る。いそいそと首輪を取り出し剣八に着ける。
「苦しくねえか?」
首輪の間に指を入れて確かめる。
ぐるると返事する。
「良かった、うんやっぱり赤が良く似合ってる」
頭を撫でる。包み紙を丸めてゴミ箱に投げる。狙いが外れて壁に当たった。
「あ、外れた。くそ」
膝をついてゴミ箱まで歩いて拾って入れる。そこに剣八が圧し掛かってきた。
「なあっ?重!なにやってんだお前!どけ・・・」
ぐっと腰を押しつけてきた。
「てめえ、まさか・・・」
振り向くと、興奮しているのか黒眼の部分が細く縦長になっていた。
「っ!どけ!」
下顎を拳で殴りようやく退かせる。
「この馬鹿猫!3日後には元の姿だろうが!弓親!」
ダスダスと廊下を歩いて弓親のいる方へ行く。剣八はペロリと舌舐めずりして寝転がった。
「弓親!居るか、俺はもう寝るからな!あいつの世話・・、ああもういい!」
怒って出て行く一護に何かあったな、と感じ密かに人払いした方がいいなと考えた。
一護は風呂に入ってすぐ蒲団を敷いて潜りこむ。昨日今日と色々あったので眠気はすぐ訪れた。

 一護が寝入って数時間たった頃、障子がからりと開いた。そこからするりと入ってきたのは剣八。
掛け布団をはいで寝ている一護。浴衣の合わせ目も乱れ開いている。
「う〜ん・・・」
寝返りを打つ時、裾が開き足が露わになった。
剣八が一護の足の間に入って上に覆いかぶさるように乗るが重さで目が覚めないように加減する。
一護の胸に舌を這わせた。起きる気配はない。ざり、ざり、と舐めていると、
「ん、あ、剣、ぱち・・・」
と声が聞こえ顔を見るが寝ている。胸の突起も舐める。
「ああ・・・、んん」
まだ起きない。ぴくっと手が動く。真ん中の刀傷をざらり、と舐める。手が空を掻くように持ち上がった。
ざりざり、と舐め続ける。その度に一護の口から、
「は、あ、ん、剣八、剣八」
と寝言が零れた。剣八はどんどん下肢の方まで舐める。脇腹や腰骨のあたりを舐めていると太腿のあたりが、
震えていた。中心を見るとそこは主張を始めていた。布の上から舐めると、
「あっ!な、何っ?」
一護が目を覚ました。暗くて良く見えないが何かが自分の上に乗り何かしているのは分かった。
「誰だ!なにしてんだ!どきやがれ!」
だが剣八はまた一護の中心を舐めあげた。
「あっ!やめろって・・・」
闇の中に光る二つの物を見て確信する。
「剣八か・・・」
「ぐるるる」
「ぐるるじゃねえ!早くどけ!」
足を閉じようとしたが間に剣八がいるので叶わなかった。

後半へ続く




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