題「黒猫」前半 | |
今日は定期報告に一護が瀞霊廷にやってくる日だ。 十一番隊では昨日から心待ちにしていた日だ。なぜなら今彼らはとんでもない事になっているからだ。 ガッシャーンッ!ぎゃああ!・・・またか・・・。という面持ちで一護を待っていた。 一護が一番隊で報告書を書いている。と言う情報が入った。すぐさま一角と弓親が出向く。 そのすぐ後ろを黒い猫が追いかけた。 バン!と勢い良く扉が開かれた。驚いて振り向いた一護が見たのは必死な表情の二人がいた。 「どうかしたのか?」 「一護!すぐうちに来てくれ!頼む!」 一角がいきなり頼み込んできた。 「うちって、隊舎だろ?この後行くけど・・、いつもそうじゃねえか」 「いやいいから、今すぐだ!」 「一角遅かったみたい・・・」 弓親が呟いた。ドスンッ!と音と共にいきなり目の前が暗くなり、前に居た一角が消えた。 「え?何だ、おい一角?」 ぐるるる、何か動物の鳴き声がした。良く見ると目の前に巨大な黒猫がいた。一角が下敷きになっている。 「うわあ!なんだ!いつの間に!って一角大丈夫か?」 「平気に見えるか?」 「いや・・・、でもなんだこの猫?でかいな、噛むか?」 「いや、君には噛み付かないと思うよ」 一角を助けながら弓親が言ったので、手を鼻の先に差し出した。フンフン匂いを嗅いで来る。やがてべろりと舐めてきた。 「へぇ〜、懐っこいな、俺、虎とかライオン好きなんだよな。あ、綺麗な毛並み。もふもふしてる」 顔を首の辺りに埋(うず)め遊んでいると、押し倒され圧し掛かられた。 「うわ、こら!重いな」 笑いながら言っていると顔を舐めてきた。そうこうしてるうちに、いつの間にか胸を肌蹴られ匂いを嗅ぎながら舐めてきた。 「こ、こら!くすぐってえな!やめろ!」 上に乗ってる黒猫の顔をうにーっと手で撫で上げる。 「あ、左目に傷あるんだな。剣八みてえ。でも目の色違うな、お前の眼は綺麗だな、トパーズみたいだ」 上半身を起して覗きこむ。確かにその黒猫の瞳は鮮やかな黄色で光によっては光彩は虹の様に色を変えた。 「外の光で見てみたいな。なぁこいつと遊んでてもいいか?そういやこいつの名前は?」 「・・・け、けんぱち?」 「なんで疑問形?そういやその剣八は?怒んねえのか?」 頭を撫でながら一角や弓親に聞いた。 「うん大丈夫だと思うよ・・・」 「ふーん、ま、いいや。じゃ、けんぱちと遊んでくるな」 「別にいいけど・・・、後で怒んないでね」 「何を?まぁいいや、外行こ」 立ち上がり、でかい猫に言う。 「どこ行こうかな、そうだあそこ!あの川がいい、涼しいし」 行先が決まり一緒に歩いていく。その後ろ姿を見ながら、 「助かったな俺ら・・・」 「うん、一護君はどうなるか分かんないけどね・・・」 小川に着いた一護とけんぱち。 「いいだろ、ここに来るの久し振りだな。やっぱキレイなとこだ」 一護が座ると膝の上に乗ってきた。 「綺麗な目だな。剣八のもオニキスみたいで綺麗だけどな。お前の毛並みみたいに黒くて光ってるんだ」 耳の後ろを掻いてやりながら喋る。ごろごろ喉を鳴らして目を細める。 「でもお前の眼はアレだな、俺のに似てるけどもっと綺麗だ。あぁ、やっぱここに来て正解だ、光を反射して虹色に光ってる」 どこかうっとりとして見つめる一護。 「剣八どこに居んのかな?見せてやりてえな」 小川のせせらぎとさわさわした風に吹かれて眠くなってきた一護が欠伸をすると、けんぱちも欠伸をして一護の膝の上で、目を閉じた。 「ん、俺も昼寝するか。起きたら剣八帰ってるだろ」 しばらくして、胸のあたりが重くて、眼が覚めた。 「ん・・・なんだ?」 視線を落とすと死覇装が肌蹴られ、今まさに舐められる所だった。 「何やってんだ!」 膝で思い切り顎を蹴った。 「グウッ!」 けんぱちは呻いて一護の身体から退いた。 「あー、びっくりした。何なんだお前は!」 死覇装の袷を閉じて、辺りが薄暗くなっているのに気付いた。 「もうそろそろ帰るか、ったく剣八に見られたら殺されっぞ?お前」 ぐるる、返事なのか、喉の奥で鳴いた。 「さっ!帰るぞ、けんぱち」 一緒に隊舎に戻る。 縁側から中に声を掛ける。 「おーい、誰かいるかー?」 弓親が顔を見せた。 「お帰り、どうしたの?そんなトコから」 「うん。こいつの足拭いてやりたいからなんか雑巾ないか?」 「ああ、ちょっと待ってて」 弓親が奥に行って、雑巾を取りに行ってる間ずっとけんぱちは、尻尾を一護の腰に巻き付けていた。 「はい、お待ちどう・・・」 「なんだよ、どうした?」 「いや、なんでもない。はい、これ」 気付いてないのか、慣れなのか、判断し辛いとこだね。心の中で呟いた弓親。 井戸から桶に水を汲んで雑巾を絞る。 「ほら、前足から出せ」 膝をついて足を拭いてやる。後ろ足も拭いて縁側に上がるように言うと大人しく上がって待っている。 桶の水を庭に撒いて桶を返す。 「風呂入りたいんだけど、皆はもう入ったのか?」 「うん、あとは君だけだよ」 「ふーん?じゃあ入ってくる」 着替えを取りに行って風呂場に行くとけんぱちが扉の前で待っていた。 「なんだ?お前も入んのか?」 「がるる」 「珍しい猫だな、じゃあ洗ってやるよ」 一緒に湯殿に入る。先に自分の髪を洗う。何故か視線を感じる。 泡を流して視線を感じた方を見るとけんぱちが、こちらを見ていた。なんなんだ?こいつ 「ほら、次お前。こっち来い」 目の前まで近づく。シャワーで毛並みを濡らす。先に頭を洗って流してから、石鹸を泡立て身体を洗う。 嫌がるかと思ったが腹側も尻尾も大人しく洗われいた。シャワーで泡を洗い流す。ぶるぶるっと身体の水気を飛ばす。 「わっぷっ!てめ!」 ペッペッと口の中に入った水と毛を吐き出した。後ろを向いて自分の身体を洗い出した。流し終わると湯船に浸かった。 けんぱちも身を乗り出して中に入ってきた。お湯が溢れた。 「ほんとに珍しい奴だな、水嫌がんねぇなんて」 充分温まったので湯船から出る。先に脱衣所に出て、 「お前はそこで水気飛ばしてからこっち来い」 と言った。一護が身体を拭き終わると浴衣に着替え、けんぱちを脱衣所に呼ぶ。手ぬぐいで拭いてやるが、水気が多い。 「弓親ー。ドライヤー貸してくんね?」 「はーい、今持ってくー」 誰に使うのか察したのだろう。早足で持ってきた。 「早えな、ありがと」 「どういたしまして、一護君今日一日大丈夫だった?」 「あ、まあ何もなかったけど?」 ドライヤーで毛並みを乾かされ大人しくしているけんぱちを見てると、確かに大丈夫そうだった。 「あのさ、一護君。話があるんだけど」 「なに?」 手櫛で毛並みを整えてやり、立ち上がった一護に、 「まあ、居間にお茶用意してるからそこで」 「うん、分かった」 不思議に思いながらもついていく。 用意されていたお茶を飲みながら、 「なあ、そういや剣八は?遅くね?」 「うん、話って隊長の事なんだけどね。君の隣りにずっと居る黒猫、それが隊長なんだよね・・・」 「・・はあ!?何言ってんの?」 「実はさ、昨日、副隊長と喧嘩したらしくて、その仕返しに薬でこうなったんだよね」 「喧嘩の理由は?」 「さあ?聞いても教えてくれないし、昨日から帰ってないんだよね」 「大丈夫なのか?やちる一人で」 「まあ、他の女性陣もいるし、大丈夫でしょ。それより僕らは隊長の方が大変で・・・」 弓親から、昨日から今日あった事を聞いた。それは一護も同情を禁じ得ないものだった。基本が我が儘な猫だから、 気に入らない事があるとすぐに暴れるのだそうだ。力も加減しないからほとんどの隊員が四番隊に担ぎこまれ、 一角や弓親が何故か嫌味を言われるのだそうだ。 「大変だったな。弓親も一角も」 「ありがとう、今日一日、一護君に隊長が懐いててくれて助かったよ・・・」 「そうか、じゃ、ちょっと出てくる」 「ど、どこ行くの?」 「四番隊にちょっとな。剣八、俺が帰るまで大人しくしてろよ?」 パタンと尻尾を揺らし返事する。 「よ〜し、もし帰ってきて、誰かが怪我してたら、分かってんな?」 ぐるる、と鳴いて見上げてくる。 「よし。じゃ行ってくる」 一護は、瞬歩で四番隊に出向いた。 「今晩はー。卯ノ花隊長はいらっしゃいますか?」 と呼びかけると奥から本人が現れた。 「お久しぶりね。一護君」 「そうですね、挨拶もそこそこで悪いんですが、やちる知りませんか?」 「どうして私が知ってると思ったのです?」 「だって、卯ノ花さん、女性死神協会の理事ですよね?やちるに聞きましたよ。なら隠れてるとこくらい分かると思って」 「そうですか。やちるちゃん、いらっしゃい」 呼ばれると姿を現した。 「よう、やちる。剣八と喧嘩したんだってな。なにが原因なんだ?」 やちるの目の前に膝をついて、穏やかに尋ねた。 「だって・・・」 「ん?なんだ?」 「だって剣ちゃんが悪いんだもん」 やちるの頭を撫でてやりながら、 「何がわりぃんだ?言ってみ?」 優しく問いかけた。 「だって、剣ちゃんばっかいっちーと仲良くしてる!あたしだって、いっちーと遊びたいのに!」 「それで、喧嘩したのか?」 「うん・・・、ごめんね。いっちー」 「そうか、初耳だ。でも謝る相手間違ってるぞ?まず剣八に謝んなきゃ、な?もし元に戻らなくなったらどうすんだ?」 「だ、大丈夫だよ。ネムネムが解毒剤持ってるって言ってた」 「それ本当に効くのか?成功したのか?」 「だって、マユリンが作ったって言ってたよ」 「追い詰めるようで嫌なんだけど、ホントに信用出来るんだな?」 「う、うん」 「じゃあ、その解毒剤持って帰って剣八に飲ませよう。それから謝ろう?俺も傍にいてやるから。な?」 「うん。分かった。ほんとにゴメンね、いっちー」 「もういいよ。それよか遊びたい時はちゃんと言えよ」 ポンポン頭を撫でで言った。 やちるが解毒剤を持って帰ってきた。 「これを飲ますのか?」 「うん、コップ一杯のお水にスプーン一杯だって言ってたよ」 「ふーん、じゃ帰るか」 「おんぶしてくれる?いっちー?」 「別にいいけど?ほら」 「わあ、ありがと、いっちー」 「ふふ、おんぶなんて妹達がでかくなってからやってないから久しぶりだ」 一護はやちるの為にゆっくり歩いて帰った。 「ふふっ、一護君は優しいですね。あのやちるちゃんがああやって甘えるのは更木隊長ぐらいですものね」 一人呟く卯ノ花。 「帰ったぞー。剣八ー、解毒剤貰ってきてやったぞ」 「ほんとか!一護!って、あー!このドチビとんでもねえことしてくれやがって!どうすんだ元に戻らなかったら!」 一角が怒鳴りつける。 「まあ落ちつけよ一角。やちるもちゃんと反省してんだからよ」 「こいつが、素直なのは隊長かお前にぐらいだ!ったく」 「ほら、コレが解毒剤だって。コップ一杯の水にスプーン一杯混ぜて飲ませるんだって。な?」 背中のやちるに聞く。 「うん、ネムネムがそう言ってたよ」 「だってさ」 「・・・誰が飲ませるんだ?」 「誰って皿に入れたら飲むだろ?」 「甘いな、一護。昨日それやって何人担ぎ込まれたと思う?」 「分かったよ、俺がやりゃあいいんだろ」 背中のやちるを降ろし、台所へ向かう。水にスプーン一杯の薬液を溶かし混ぜる。見た目無色透明だ。 剣八の所へ行く。顔を上げてこちらを向いた。 「ただいま、剣八。ほら、解毒剤」 コップを持って剣八の傍に行く、鼻先に近づけてみる。飲む気配が無い。しょうがない。一護はクイッと一口分、口に含むと口移しで飲ませた。漸く一口、もう一口と口を付けようとすると剣八が自分からコップの中身を飲み干した。 ホッとしていると剣八が唸り出した。 「お、おい大丈夫か?」 5分程唸り続けると、そこには人型になった剣八がいた。しかし耳と尻尾は残ったままで・・・。 「おい、剣八?」 「ぐるる・・」 「え?まじで?嘘だろ?ほら名前呼んでみろ、一護って」 「ぐるるる」 中身は猫のままだった・・・。 「どうすんだよ・・・。隊長がこんな事んなっちまって・・・」 一角が溜息と共に吐き出した。 「兎も角、十二番隊に責任取って貰わなきゃ・・ね」 いつになく凄味のある笑みを見せる弓親。 やちるは一護によって先に四番隊に避難していた。 「ごめんね。一護君。また君に押し付けて」 「いや、うん、なんつーか、運命共同体みたいな気がしてほっとけねえから」 一護の横から離れない剣八。まるで自分の伴侶を守ってるようだなと弓親は思った。 「なぁこいつのメシどうすんの?」 「ああ、食べやすいようにって、お粥作ったけど食べるかな?」 「食べるだろ、昨日からなんも食ってないんだから」 「じゃあ、一護君お願いできる?今の隊長に近づけるの君だけなんだよね」 「ああ、しょうがねえよ」 「ありがと、持ってくるよ」 弓親がお粥と焼き鮭を乗せた盆を持ってきた。剣八の名誉のためと、二人きりでの食事となった。 「ほら、剣八、あーん」 ほぐした鮭を混ぜたお粥を匙に掬って口許に持っていくと大人しく食べた。鍋の粥を全部平らげた剣八。 一護は安心した。何はともあれ食事をしてくれれば安心できる。 「ん?剣八、口の周り汚れてるぞ」 親指で拭って舐める一護。 「昼は握り飯でもいいかな。あれも食べやすいし、こぼしてもあんま汚れないしな」 言いながら、鍋を片付け始めた一護。その一護の後ろをついて歩く剣八。 変なトコ可愛いな。などと考えながら洗い物を片す一護。昼の分にと握り飯を作る。濡れ布巾を被せて置いておく。 「さてと、昼飯まで暇だな。剣八、縁側で毛並み梳いてやるよ」 櫛を貸してもらい、剣八の髪を梳いていった。思った以上にさらさらで櫛の通りも滑(なめ)らかだった。どうやって毎日あの髪形にしているのだろう。そのうち剣八が船をこぎ出した。 「ほら、膝枕してやるから、来いよ」 自分の膝をポンポン叩いた。ちらっとこちらを向いて大人しく頭を乗せてきた。 「素直じゃねーか」 また髪を梳き始める一護。さく、するり。さく、するり。心地よい手触りの髪は梳く度にツヤを増していった。櫛を置いて、手で撫でる。気持ちいいと素直に思った。 昼飯時になるまで撫でていた。こうものんびり過ごしたことはあまりなかったなと、思いながら一護も腹が空いたので握り飯とお茶を取りに行こうとしたが、足が痺れていた。 「あたたたた、痺れた」 剣八を起こして暫らく呻いた。痺れが取れて握り飯を二人で食べる。剣八は動かないので一護が口に運んでやる。 剣八が一口食べた握り飯に齧りつく一護。そんな様子をじっと見つめる剣八。 一護の指に付いた飯粒を舐めとる剣八。 「ん!そんなことしなくていいから、喰え!」 少し赤くなりながら卵焼きを口許に持っていく。指ごと口に入れる剣八。 「あっ!こら、やめ!」 舌を絡め吸い付いてきた。 「だ、だから飯を喰え!飯を!」 少し憮然としながらも言われた通りに握り飯を食べた。一護も自分の分はきちんと食べた。 「ったく、手間掛けさせんなよ。ほら、飯粒付いてんぞ」 指で取って自分の口へ運ぶ一護。 それを見た剣八の目つきが鋭くなった事に気付かなかった。 後半へ続く |
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