「花言葉」前半 | |
一護が目覚めると、いつも隣に剣八の体がある。お互い裸だ。二人には、肉体関係がある。 何時からだっけ・・・。軋む体を動かして、一護は思い出していた。初めて関係を結んだのは、酒宴の後のどさくさ紛れの流れだった。 コッチの都合なんてお構いなしで嫌がる俺を無理矢理抱いた。終わった後で理由を聞いてみた。 「何で、こんな事したんだよ・・・?」 それに対しての答えは、 「理由なんざ無ぇよ、シテぇからした。お前も楽しめよ」 ・・・俺は頭を鈍器で殴られた様な気がした。だって俺は、少なからずコイツの事を想っていたから・・・。 始まる前から終わりの言葉・・・、笑っちまう。 「何 笑ってる・・・?」 真っ暗なはずなのに、気配が伝わったのか剣八が聞いてきた。俺は、 「別に?お言葉に甘えて、楽しもうかと思ってよ」 努めて明るく、虚勢を張った・・・。早くこの場所から逃げだしたかった。体中が軋んで重いのに無理に起きて、着物を身に着けて、 「じゃあな」 と言って自分に与えられた部屋に帰った。部屋に着くとまだ剣八の名残が体内に残っているのが分かって、何故か吐き気が込み上げてきた。共同浴場を使うのも気が引けて、俺は双極近くの地下温泉に行った。湯に浸かりながら声を殺して泣いた。 それからも体だけの関係は続いた。初めの頃に比べて、痛みは無くなってきた。その分、体は快楽を貪る事を覚えた。 虚しさと胸の痛みは募っていくのに。肌を合わせる毎に想いも募っていって・・・。 何度目かの夜、剣八が訊いてきた。 「おい一護、お前本当に楽しんでんのかよ」 「ハ?何で?じゃなきゃ付き合わねぇよ、こんな事」 俺はそう返した。 「そうか?その割にゃ、いつも上の空じゃねぇか」 身体に指を這わせながら、なおも訊いて来た。 「うるせぇな、シねぇなら帰るぞ、早く来いよ」 強引に誘って俺は質問を止めさせた。快感に身を任せてしまえば、何も考えなくてすむ・・・。俺は必死になって快楽を貪る。 ふと、コイツは今、何を考えているのか気になった。気持ちも心も通わない行為、反吐が出そうな、無益な行為なのに。 考えても無駄だと一護は思考を中止した。 手を伸ばせば届く距離に身体は在るのに、心は必要とされない、頭を掠めた事実に自嘲の笑みを漏らす。 「何だ、何がおかしい?」 剣八が尋ねてきたが、 「さあ?早く挿れろよ、楽しませてくれんだろ?剣八」 わざと挑発する様に言うと、ちっ、と舌打ちして腰を掴むと無理矢理捩じ込んできた。 「痛ってぇ・・・手前ぇ少しは慣らせよ」 と言ったが痛みがある方がマシだと思った。快楽だけを求める己の身体が疎ましくて、気が狂いそうになっていたから・・・。 粉々になった心と同じ様に身体も引き裂かれればいいのに・・・。 「うるせえ、黙ってろ・・・」 何故だか不機嫌な声がして、今日も俺は気を失うまで犯された。 ふっと気が付くと、隣で剣八が眠っていた。起こさない様にそぅっと蒲団を抜け出し、寝間着を簡単に着て、部屋を出て行った。 汗と体液にまみれた身体が気持ち悪かったから、いつもの温泉で身体を清めた。その帰り道、珍しい花を見つけた。 「ほととぎすだ・・・」 一護は呟いた。地味で目立たない花だけど一護は、その花の花言葉を識っている。簡単なのに強烈な印象を持つ、その言葉。 一護は小振りな花が寄り集まったその花を手折り、剣八にやろうと思いついた。 「どうせ花言葉なんて知らないだろーな」 と呟いた。どうせ受け取らないだろうけど、貰ってくれたら良いなと思いながら、自分の想いの丈を花に託して剣八の部屋に戻った。 剣八は一護が蒲団から抜け出し、部屋をでた時から起きていた。小さく息をつくと、 (何がしてぇんだ俺は・・・) 初めの内は、確かに楽しくはあったし、それなりの充足感もあった。だのに最近、訳の分からない感情が、芽生え始めてイライラする事が多くなった。一護に対してなのか、自分に対してなのかも分からない。頭をガシガシ掻いて考えるのをやめた。 (面倒な事考える頭なんか持っちゃいねぇしな) と思っている所へ一護が戻ってきた、その手に一本の花を持って。 「どこ行ってた…?一護」 部屋に戻るなり声を掛けられて叫びそうなくらい驚いた。寝てるとばかり思っていたのに・・・。 「別に、汗かいたから、流して来ただけだ。それよりコレあんたにやるよ」 一護は手にした一本の花を男の方へ差し出した。心の中では突っ返すなと、受け取ってくれと祈りながら。 これが最後のチャンスだから、受け取ってくれたら、花言葉を教えよう。 「そこで見つけたんだ、珍しいから持ってきた。ほととぎすって言ってさ、鳥の名前と同じなんだ。模様が似てるんだってさ。そんでさ・・・」 珍しく饒舌な一護を見てから、花に目を移す。そして、 「要らねぇよ花なんか、そんなモン飾る趣味なんざ持ってねぇよ」 と言い再び一護の顔を見ると、今にも泣き出しそうな笑い出しそうな、そんな不思議な顔でこちらを見つめていた。 「そっか・・、じゃあ、お前捨ててくれよ、すぐソコに屑籠あんだろ?」 と一護が言ってきた。自分の部屋にでも飾れば良いものをと思い、 「持って帰りゃいいじゃねえか、珍しいんだろうが」 「いや、俺は要らねぇ、いいから捨ててくれ」 伏し目がちに言ってきたので、剣八は渋々言うとおりにした。 「じゃあ俺自分の部屋に戻って寝るわ、明日早えーし」 そう言いながら部屋を出ていった。 一護は部屋に着くと柱にもたれ、ズルズルとその場にへたり込んで、声を漏らさない様に口を手ぬぐいで押さえて泣いた。 本当はただの我が儘だと分かっていた。剣八が花言葉を知らない事も、花を受け取らない事も剣八の自由だ。 それを、その場で捨ててくれと頼んで『花なんか無かった』事にして。それでも溢れる涙が止まらない。せめて声だけでも止めようと手ぬぐいを口に押し付けた。 一通り泣けば、いつもの自分に戻ると心で言い聞かせて。 次の日の朝、剣八はいつも通り、やちるに起こされていた。 「剣ちゃん!朝だよっ!早く朝ごはん食べよー!」 「あ〜、朝か早えな」 と言いながら起き上る。 「あれー?剣ちゃんダメだよ、お花さん屑籠に捨てちゃあ」 (花ぁ?そういや昨日の晩、一護のヤロウが・・・) 「可哀相だよー?お花さん、もらってもイイ?」 「アーまぁいいか、おう、持ってけ」 「やったぁ!!剣ちゃんありがとう!大事にするね♪」 (エラい喜びようだな、俺もこんなにする事なくとも、花ぐらい貰っときゃ良かったな) 食堂に行くと一護の姿があった。こっちに気が付いたのか目が合った。がすぐ逸らされた。 「あーっ、いっちーおはよ〜!ねーねーコレ見て、剣ちゃんにもらったのー!ねぇ、いっちーこのお花の名前知ってる?」 やちるが一目散に一護の方に飛び付いて聞いていた。無論知っている筈だ。昨日、一護から渡され名前を聞いたのだから。 しかし、チラッと一瞥すると、 「さぁ悪ぃけど知らねぇな。卯ノ花さんあたりなら知ってんじゃねぇかな、生け花やってんだろ?」 優しいけれど、ハッキリと答えていた。 剣八は耳を疑ったが、やちるの、 「うん!後で聞いてみる!」 と言うセリフで我に帰った。 あらかた食べ終えていた一護は、先に食堂を後にして部屋に戻ってぼんやりしていた。 (あの花やちるにやったんだな。やちる、すげぇ嬉しそうだったな。コレであの花も無駄にならなくて良かった、やっぱ喜んでくれる人が居るってイイな) 寝転んで、天井を見ながらそんな事を思っていた。 (でもやっぱり剣八、花言葉知らないんだな、あの花やちるにやるなんてある意味すげぇ) そう思って目を瞑ってくすくす笑った。 「何、一人で笑ってやがる一護」 「うわあっ」 自分一人しか居ないと油断しきっていた所へ声を掛けられ心底驚いて、大声を出して跳び起きた。 「なっアンタいつの間に!俺の部屋だぞココ!何で居るんだよ!」 「うるせぇな、それより何だ?さっきの会話はよぉ、お前ぇあの花の名前知ってんのに、何で知らない振りした?今の一人笑いも関係あんのか」 剣呑な霊圧に気圧されながらも、 「そんなもん、アンタにゃ関係ねぇな!さっさと仕事に行けよ隊長さんよ?部下が待ってんだろ」 と返してやった。 「関係あるなしは俺が決めるこった、仕事も部下も手前ぇにこそ関係ねぇ、何なら身体に聞いてやろうか?一護」 「朝っぱらからサカッてんじゃねーよ。さっさと帰れよ、俺は現世に戻る用意があんだよ」 そう言って、はぐらかそうとしていた一護の背後にいつの間にか回り込み、背中から押し倒した。 「ぐぇっ!」 剣八の重みに思わず声を上げた一護は、 「重い!退けよ剣八、朝メシ吐いちまうだろうが!」 「ハッ!じゃあ早いトコ理由を言えよ、俺ぁ最近イライラが溜まってんだ。手前ぇの身体で発散しても良いんだぜ、一護」 そう言って片方の手を袴の中に入れてきた。 「なっヤメっ信じらんねぇ!どけっ!」 暴れる一護の肘が剣八の頬に当たった。 一瞬動きが止まった隙に一護は、剣八の下から逃げだした。 やけにゆっくりした動きでこちらを見る剣八、 「いい度胸してんじゃねぇか、毎晩人の下でアンアン啼いてるくせによ」 凶悪な光を宿した目を向け、そんな言葉を叩きつけた。 「なっ、なっ」 何も言えず口をぱくぱくさせる一護の足首を掴んで引っ張って、自分の身体の下に引きずり込んだ。 「うわっ」 一護が声を上げている間に袴の腰紐を解き、一護の両手を頭の上で縛り上げた。 「うっあっ!痛ぇ」 剣八は長い舌で、舌舐めずりをして、 「いい格好だな一護、大人しく喋っちまった方が身のためだぜ?」 そう言われて一護は、無言で剣八を睨み付けた。 「へっ!良いじゃねぇか、いつまで持つか試すとするか」 言いながら一護の唇を舐め口付けし、舌を捩じ込んだ。 「!!っぐ」 剣八が一護から顔を離すと口から血を流していた。一護が剣八の舌に噛み付いたのだ。 「手前ぇ・・・、覚悟しろよ」 血の止まってない舌で、一護の首筋に舌を這わし、片手で胸の袷を開き、肌を露わにして行く、その間も一護は一言も声を上げず天井だけを見つめていた。その様子にイラつきを覚えた剣八は、一護の乳首に思い切り歯を立てた。 堪らず一護は腰を浮かすが声は上げなかった。 益々イライラしてきた剣八は、そこかしこに歯型を付けた。肩や、背中、脇腹に至るまで・・・。そこでフ、と昨晩付けた跡が無い事に気付いた。 いつもは部屋が暗かったので気付かなかったが今は、陽も高く明るいので一護の身体が良く見える。 「おい一護、お前昨日の跡が無ぇぞ、どうやって消してんだ?」 「・・・・・・・」 その問いに答えは無い。 「いい加減にしろよ、手前ぇがその気ならこっちも好きにすんぜ」 奥歯を噛み締め低く言うと、剣八は、指を二本一護の口に捩じ込み、唾液を絡めて、慣らしもせず後庭に捩じ込み、強引に動かした。 引きつれる様な痛みにも耐え、声は漏らさなかった。 「・・ちっ、もういい足開けよ、さっさと終わらす」 言うなり指を抜き、自身をあてがい一気に刺し貫いた。それでも声が聞こえないので一護を見ると、自分の手で口を押えていた。 「へっ!頑固だな、素直に楽しみゃいいのによ」 動きに拍車をかけながら一気に放出した剣八の視界に赤いモノが映った。一護の口から血が滴り落ちて畳まで汚していた。 「おっ前まさか!」 手を引き剥がすと、そこには、くっきりと歯型が付いて血が流れていた。息を荒くした一護の目から止める事の出来ない涙が零れていた。 「終わったんなら早く行けよ、ココに居る理由なくなったろ」 横になりながら、吐き出す様に言う一護に何も言えず剣八は出ていった。一護は障子が閉まるまで男の後ろ姿を目に焼き付けていた。 誰も居なくなってから厠で一護は胃の中身を全部吐いた。 何なんだクソッ!廊下をダンダン踏み締め、剣八は自分の部屋に戻った。そこにはやちるの姿があって、開口一番、 「あっ剣ちゃん待ってたんだよ!早く卯ノ花さんトコ行こ!」 「あ”?何で俺が行かなきゃなんねんだ?」 「だって、このお花の名前剣ちゃんも気になるでしょ?」 そう言われると、知っているとは言えなくなって一緒になって四番隊に向った。 |
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