題「一族・長の資格」9
 京楽が仕事に向かって間もなく、松本が京楽家にやってきた。
「乱菊?どうしたんだ?朝っぱらから・・・」
「聞いたわよ、白!夕ちゃんが攫われたんですってね」
「! ど、どうしてそれを!?」
「今朝の隊主会で隊長が聞いてきたのよ。それで白の様子を見に来たの。不安だったでしょう?でも大丈夫よ!隊長達が夕ちゃんを助けてくれるから!心配しないで」
「隊主会って・・!なんで!?」
「当たり前じゃない。隊長の娘が攫われて護廷が黙ってるわけ無いじゃない。まして攫われたのが夕ちゃんで白の娘なのよ?皆が黙ってるわけ無いじゃないの!」
そう言うと松本は白をぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫よ。隊長達が夕ちゃんを助けてくれるわ。私達は皆、白の事も夕ちゃんも事も大切で大好きなの。だから信じて?私達が夕ちゃんを助けるから」
「ああ、ありがとな」
「それと!これからメンバーが入れ替わりで様子を見に来るから!」
「え?なんで・・・?」
「決まってるでしょ、白が心配だからじゃない!」
「で、でも仕事があるんじゃ・・・?」
「これも仕事の内よ?隊長からの命令なのよ。白が不安がっているだろうから様子を見に行ってやれって」
「どんな命令だよ。それって良いのか・・・?」
「良いの良いの、気にしない!、私は嬉しいわよ?堂々とサボれて白と居られるんですもの!」
「俺でサボんな!」
「気にしない、気にしない♪」
それからきゃあきゃあと騒いだ後、松本は帰って行った。

お昼近くになって卯ノ花が勇音と共に京楽家を訪れた。夕月が誘拐された時に倒れたこともあり、軽い診察を受けた白。
白の体調を考えて作られたお重に入ったお弁当を白に渡すと、卯ノ花達は白と昼食を済ませ帰って行った。午後になると砕蜂が黒猫のぬいぐるみを持って「我等、隠密起動が必ず夕月を助ける!だから心配するな!」と力説していった。
「はぁ・・・疲れたな」
立て続けに見舞いが訪れ、少し疲れた白。しかし一人で居るときとは違い気が塞ぐことはなかった。皆が皆、自分を励まし、『夕月は必ず助ける』と言ってくれた。それが何より白は嬉しくもあり有難かった。




夕方になり、京楽が2人分の弁当を持って帰って来た。
「ただ〜いま、白。具合はどう?淋しくなかった?」
「ん、朝から乱菊や卯ノ花さんや砕蜂が来てくれたからな。賑やか過ぎるくらいだった」
「そう、それは良かった。ずっと元気が無かったか心配したんだよ?」
「う・・・ごめん。でも夕月のことは皆が助けてくれるって言ってくれた。だから、大丈夫だよな?」
「そうだよ。どんな事をしても夕月は助けるよ。だからね、心配しないで?」
「うん。わかった・・・」
「それじゃあ、お弁当食べようか。今日は久々にハンバーグ弁当だよ。白、好きでしょ?」
「ああ。じゃぁ、茶淹れてくるな!」
本当なら茶など自分が淹れたい京楽だったが、久々に見る白の元気な様子にそれを止めることは出来なかった。

夕食を済ませまったりとしている時、白はふと何かに気付いたように外の気配を伺った。
「白?どうしたの?」
「ん。なんか声がする」
白にそう言われて耳を済ませると屋敷の外から「つじうら〜、いらんかね〜」と声が聞こえてきた。
「ああ、辻占売りだね。珍しいね」
「辻占って、あの?見に行って良いか?」
「駄目だよ、まだ無理しちゃ」
「むぅ・・・だったらつれて来いよ。辻占売りってのに会ってみたい」
「そんなに辻占が気に入ったの?しょうがないねぇ。ちょっと待っててね」
白のおねだりを断ることも出来ず、京楽は屋敷の外で辻占を売る少年を屋敷の庭に迎え入れた。白は待ちきれなかったのか縁側まで出てきていた。
「態々すまねぇな。それが辻占?ひとつ選んでくれ」
少年は手持ちの辻占から迷い無く赤い(ふち)のものを選ぶと、それを白に渡した。
「春水、なんて書いてある?」
辻占を京楽に渡して白が聞いた。
「えーとね。『急いては事を仕損じる』 焦って事を急ぐと、しなくてもよい失敗をするものだっていう意味だよ」
「ふぅん・・」
白が少年を見遣ると、少年は小さく頷いた。
「春水。出来ればこいつと話をしたいんだけど・・・良いか?」
上目遣いに京楽を見る白。どうしても話がしたいと目で訴える。それを京楽が拒めるはずも無く。
「白ったら!そんな目をされちゃ駄目って言えないじゃない。少しの間だけだよ?君も悪いね。少しだけ付き合って貰えるかな?」
「はい」
京楽は縁側では白の体に障る、と少年を屋敷の中へと招きいれた。白が2人で話をしたいと言ったので京楽は少しだけ、と席を外した。

「・・・次期様」
京楽が居なくなったのを確認すると、少年は小声で白をそう呼んだ。白もまた小声で返す。
「夕月は何処に居る?無事なんだな?」
「お子はある貴族の屋敷の地下の座敷牢に。仲間がついているのでご心配は無用です」
「仲間ってぇのは辻君という男か?」
「はい。・・・って、あいつをご存知で!?」
「ああ。2度ほど会った。今日もいきなり抱きつかれた」
「〜〜!あんのエロ狐!次期様になんつーことを!」
「え、えろ狐・・・?」
「あ!お気になさらずに・・・次期様。お子がご心配だとは思いますが、今暫くご辛抱してください。あいつは性格はアレだけど腕は立ちますから。性格はアレだけど、アレだけど!」
「・・・お前、あいつの事嫌いだろ」
「・・・・・腕は立ちます。それだけは保障します」
「(嫌い、なんだな)」
半目(はんなま)な上、棒読みで辻君の腕の良さを強調する少年にそう思う白。少なくとも好感は持ってはいない様だ。
「俺達もお子は命に代えましてもお守り致しますから!どうかご安心ください」
「でも、なんで・・・・お前達はそこまでしてくれるんだ?」
「? 次期様?」
「俺は一族を捨てたのに」
「それは・・・奥方様が次期様だから。俺達にとって『次期』様は奥方様だけですから」
少年はさらりと言った。
「それと俺のことはチビと呼んで下さい。普段は呉服屋の手伝いなどしてますが、繋ぎには辻占売りとして来ますので」
「分った」
その後取り留めのない話しをしていると京楽が現れた。
「白。もう良いかい?君も遅くまですまなかったね」
「いえ・・・」
「なぁ春水。俺、こいつともっと話がしたい。また呼んでも良いだろ?来て貰って良いよな?」
「そんなにこの子の事が気に入ったの?」
「ああ。だから、良いだろ?」
「しょうがないねぇ。君も嫌じゃなかったら時々で良いから・・・来てやって貰えるかな?」
「はい。俺のような者で宜しければ」
少年は丁寧に辞すると屋敷を後にした。「またな!」と手を振って送り出した白。その顔は嬉しそうに笑っていた。

大虚襲撃からどこか気鬱になっていた白。そのうえ夕月が誘拐され心身ともに弱ってしまっていた。自分や他の隊長格や女性メンバーの皆が慰め励ましても、今回の一連の事件の関係者なのだ、自分達は。白を外に連れ出し気分を紛らわせてやりたいが白の体調が思わしくない。しかも貴族の事もあり白を外に出すことは危険だと京楽は思っていた。部外者を屋敷に招き入れることは快くは思えないが、それで白の気が紛れるならば。
「しょがないねよぇ・・・」
例え一時とはいえ白の気が逸れるのであればそれで良い。白が笑っていられるのならばそれで良い。そう京楽は自分に言い聞かせていた。      





朽木邸では白哉と京楽の兄が密談をしていた。
「夕月の誘拐の件で護廷が動き出したそうでございますね」
「夕月は京楽の娘だからな。隊長の娘が攫われたとあれば護廷が動くなど当然のこと。今、隠密起動と十二番隊が動いておる」
「この事は護廷全体に知らされていますので?」
「いや。隊長と副隊長、あとは白と親しい極一部の者だけだ」
「それはご賢明な判断でございます。例の貴族が手に入れたものはどうやら現世で手に入れた物。死神が絡んでいるのは明白でございます」
「現世へ出向くことが出来るのは死神だけであるからな」
尸魂界から現世へ行き来するには穿界門を通らなければならないが、そこを通ることが出来るのは地獄蝶を携えた死神だけなのだ。
「大虚襲撃には滅却師が使っていた撒き餌が使用されたことが涅の調査で分っておる」
「滅却師・・・・現世の退魔の眷属でございますね」
「うむ」
「手を貸したと思われる死神については目星がついてございます。元々義弟に対して邪な感情を持っていたようで、大金を掴まされて協力したようでございます」
「そうか。しかしよくそこまで調べられたものだな」
「調べたのは私の妻でございます。妻は情報収集に長けておりますゆえ。妻曰く『他人の不幸は蜜の味。女性の井戸端会議を甘く見てはいけません』だそうで」
「女子(おなご)とは恐ろしいものだな」
「全くでございます」
白哉は京楽の兄の妻の情報収集の能力の高さに内心感心していた。雑談ともいえる井戸端会議から必要な情報を引き出し分析する。恐らく聞き出す手腕にも長けているのだろう。その妻に全幅の信頼を持って応える京楽の兄の姿に、夫婦としての絆の強さと当主としての覚悟を見て取った。
「状況証拠は揃いつつあるな。後は夕月の救出をすればカタがつくであろう」
「それでは手緩いのではございませんか?朽木様」
「と言うと?」
「あの貴族は相当に強かな者でございます。例え夕月が屋敷に捕われていたとしても、犯人から救出して保護したと言い張るやもしれません。夕月の証言にしても混乱した幼子の言い分として取り合わないでしょう。状況証拠だけでは嵌められたのだと言い逃れされるのがオチでございます」
「確かにな。ではやはり物的証拠を掴む必要があるか」
「はい。ただそれが難儀なのでございますが・・・」
「うむ。如何したものか」
あの貴族を追い詰める為に必要な物的証拠。それを掴むことが容易ではないことに白哉は苛立ちを覚えた。
                          


第10話へ続く


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白ちゃんを励ます女性メンバー達。堂々とサボれる乱菊さんは棚から牡丹餅w
9話がギャグになりかけた・・やべぇwwwww
兄様2人が行き詰ってきた模様?



12/02/01に頂きました。行き詰って来たW兄さま。
02/08にアップしました。



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