題「一族・長の資格」10
 茶屋の片隅で2人の男がが団子を食べながら会話をしていた。
「よぉ、繋ぎは上手くいったか?」
「ああ。お屋敷に上がるのも、ご亭主の了解を得たよ」
「そりゃあ上出来だな。でも良いのか?あまり親密になると、あの方に知れたら事だぞ?」
「・・・非常事態ってことで押し切れないかな?」
「微妙、だな」
「とりあえず、次期様にはお子はあいつがついているから安全だとは伝えたよ。で?そっちは?」
「こっちは煮詰まってるな。・・・物証が手に入らない」
「だろうねぇ。護邸には貴族に対しての裁量権は無いからね。さすがに本家の情報だけじゃあ動けないか」
「それは朽木家にしても同じだろう。相手が下級とはいえ他家への干渉はおいそれとは出来ないからな。あいつに急げ、と伝えろ。あの方もそうだが、あちら側が動いたらそれこそ大事だぞ」
「承知」
「つかよ。繋ぎの場所に団子屋はやめろ。ガキじゃねぇんだからよ」
「居酒屋だったらお前は飲むだろうが!まったく、どいつもこいつも!」
「今回の一件が片付くまでは飲まねぇよ。なに怒ってんだ・・・?」
苛立ちもそのままに茶屋の代金を置いて立ち去ったチビを呑太郎は呆然と見送っていた。




呉服屋の裏口から姿を見せたチビに店の番頭が声を掛けた。チビはこの呉服屋の手伝いをしているのだ。
「ああ。チビ、良いところに来てくれたね。悪いけど頼まれていた例の商品のお届けをして貰えないかい?」
「分りました。すぐに行って参ります」
「助かるよ。あのお屋敷の旦那様は気難しくて誰も行きたがらないからね」
「(物は言い様、だな。ただ短気で見境が無いだけじゃん。手下も柄の悪いヤツばっかだし)」
「愛妾の辻君様はご贔屓にしてくれるから良いのだけれどね。またご注文があったらお伺いして来ておくれ」
「はい。では早速行って参ります」
「気をつけて行っておいで」
チビは商品を受け取ると、足早に例の貴族の屋敷へと向かった。

貴族の屋敷の辻君の部屋に通されたチビ。部屋の周りは人払いがされている。辻君の部屋の周りは常に人払いがされていたのだった。
「ほらよ、注文の品だ」
「ご苦労様ぁ〜」
ぞんざいに商品を放り投げたチビに辻君は茶を出し座るように促した。
「呑太郎からの伝言だ。急げってよ。いつまで掛かってるんだよ!」
「隠し場所の見当はついてるんだけどね〜。旦那様がねぇ・・・」
「物証が無きゃ、護廷も朽木家も動けないんだ。今回の件はあいつらの協力を得なきゃならないんだ。解ってるだろ!?」
「解ってるわよぉ。なにカリカリしてるのよぉ〜、おチビちゃん?」
「おめぇが!次期様に抱きついたりするからだ!何考えてんだよ!?」
「仕方ないじゃないの〜。書付なんて渡したりしたらバレるかも知れないしぃ〜、証拠を残すわけにもいかないでしょう〜?」
食って掛かるチビに何でも無い様にへらりと笑って受け答えをする辻君。
「大体、おめぇがお子の誘拐について情報を得てなかったのが悪いんだからな。自慢の手練手管はどうしたよ!?」
「仕方ないじゃなぁい。あの頃はお呼びが掛からなかったんだもの〜。閨に入らなきゃ手練手管も使えないわよぉ〜?」
「は!床上手が聞いて呆れるな!ところでお子は大丈夫なんだろうな?」
「それはもう。全てのお世話はワタシがしてるもの〜」
「そーかよ・・・で?次はどう動く?」
「今のところはぁ、様子見ってとこかしらぁ〜?あるいは『生かさず殺さず』?奥方様を精神的に追い詰めるつもりみたいよぉ〜?」
「ってことは、暫くは動きは無いってことか」
「多分ね〜」
「それは伝えておく。それと、お店から注文があったら聞いて来いってよ」
辻君が呉服屋を贔屓にしているのはチビとの繋ぎをつける為でもある。
「そうねぇ・・・今度は簪にしようかしらぁ〜?花の意匠で凝ったヤツね。どうせ御代は旦那様が出すからぁ、値は幾らはって良いわよぉ〜」
「花、ね。トリカブトか?チョウセンアサガオ?ドクニンジン?」
「あのねぇ」
「それともシキミか?ああ、鈴蘭とか夾竹桃ってのもあったな。なんならシキミの種子もつけるか?」
「あんたねぇ・・・・」
「すぐまた来るからな。それまでに物証を掴んでおけよ!いいな!」
「はいはぁ〜い」
部屋を出て行くチビにひらひらと手を振って見送る辻君。
「抱きついたくらいであんなに怒るなんてねぇ・・・まだまだお子様ねぇ〜」
出された花の名前に、やれやれと溜息をつく辻君だった。




7番隊隊主室。そこに剣八が乗り込んできた。ノックもせずにガン!と戸を開ける剣八。
「狛村!居るか。話がある」
「もっと静かに入って来れぬのか、更木。何の用だ?」
「2人で話がしてぇ。良いか?」
「うむ。射場、すまぬが少し外して貰えるか?」
「へい。話が済んだら呼んでくだせぇ。失礼致します」
射場が退室するのを確認して、狛村は剣八に聞いた。
「お主から話があるとは珍しいことだな。何の用件だ?」
「白の事だ。一緒に見舞いに行って貰いてぇ」
「それは構わぬが・・・何ゆえ儂となのだ?」
「ああ、なんだ。獣同士ちょうど良いかなと思ってよ」
獣同士、という言葉に狛村の耳がぴくりと動いた。狛村の不快を感じて剣八はがしがしと頭を掻いた。
「あー・・・俺は人間だからな。狐の事は良く解らねぇ。おめぇはそういう事は詳しいと思ってな。おめぇなら何か気が付くんじゃねぇかと思ってよ」
「そういうことならば構わぬが・・・」
この男はもっと素直に物事を頼めぬのか。と狛村は内心呆れていた。
「時間が空いたら一緒に行ってくれ。後で迎えに来る」
「今では駄目なのか?」
「今は女共が行ってるからな。あいつ等が居ねぇほうが良いだろう」
「そうだな。ところで更木。一護のほうは良いのか?心配しておるだろう?」
「ああ。事が事だからな、白の傍には近付けられねぇ。なんとか説き伏せてはいるんだがな」
「一護も心配しておろう。あの2人は仲が良いからな」
「まったくな。まぁ一護にゃ一角と弓親を張り付かせてあるから心配は無ぇ」
「お主も大変だな」
「まったく、アイツときたら厄介ごとばかり抱え込んできやがる。悪りぃが厄介ごとに付き合ってもらうぜ、狛村」
「仕方が無いな。付き合わせて貰おう」
剣八は狛村と女性メンバーが居ない時間を見計らって白の見舞いに行くと打ち合わせると、隊主室を後にした。




京楽廷では松本が白の見舞いに来ていた。
「乱菊。いい加減帰らないと冬獅郎が怒るんじゃねぇのか?」
「大丈夫よぉ〜。これも仕事の内なんだから!」
「知らねぇぞ。怒られても・・・」
見舞いに当てられた時間を過ぎても帰ろうとしない松本に白は呆れていた。そこに辻占売りの少年が屋敷にやってきた。
「あ、チビ。悪いな。先客が居るんだ」
「あら、白のお友達?はじめまして。私は松本乱菊。宜しくね?」
「俺は辻占売りのチビと申します・・・お見知りおきを・・・」
「辻占?珍しいわね。一つ良いかしら?」
「どうぞ。中に御神籤が入っています」
「へぇ〜・・・・なになに?『働かざる者、食うべからず』?ええ〜。なによ、これ」
「えっと・・・・お仕事頑張ってください?」
とりあえず、とチビが答えた時。
「松本ーーーーー!!てめぇ何時までサボってるつもりだぁーーーーっ!」
凄まじい怒鳴り声と共に冬獅郎が現れた。多分、瞬歩を使ってきている。
「サボっていませんよぉ〜。これも仕事の内だって、隊長言ったじゃないですかぁ〜」
「様子を見に行けとは言ったがな!サボって良いとは言ってねぇっ!」
物凄い剣幕で怒鳴る冬獅郎にさすがに怯えるチビ。そんなチビに気が付いた冬獅郎。
「ひ!」
「なんだ?お前は?」
「辻占売りですよ。白のお友達ですって」
「ああ・・・京楽が言っていた・・・」
「駄目ですよ〜、隊長。そんなに睨んじゃ。こんな子供を脅かしてどうするんですか!」
「脅してねぇ!つか、帰るぞ松本!邪魔したな。白」
松本を掴むと、やはり瞬歩で姿を消した冬獅郎。後には呆然とした2人が残された。
「怖っ!あの人メチャクチャ俺の事睨んでましたよ!?」
「お前と見た目は同じでも、冬獅郎は隊長だからな。つーか、やっぱサボってたんだ」
「マジ、ビビッた!あの隊長、怖っ!」
「あー・・・まぁ、中に入って落ち着こうか」
白は怒りで跳ね上がった冬獅朗の霊圧に怯えるチビを屋敷の中へと迎え入れた。




居酒屋で話をする2人の男のところにもう1人が現れた。
「よぉ、チビ。遅かったな。何かあったのか?」
「ちょっと・・・いやなんでもない。アイツからの繋ぎは暫くは動きが無いって。『生かす殺さず』で奥方様を追い詰めるつもりらしいってさ」
「そうか。で?物証は?」
「まだらしい。急げとは言ってきたよ」
「奥方様には?」
「あいつ等の思惑に合わせて外には出ないようには言ってきたよ。尤もご亭主が外には出さないっぽいけど」
「あの方のほうは?あちら側はどんな様子だった?大将」
「あの方もあちら側も、お子が攫われたことには気付いて無い様だな」
「そりゃあ何よりだ」
「後は物証を手に入れて、あの方が気付く前に手を打たねばな」
「あちら側が動く前にな。出来ればカタをつけねぇとな」
「俺はアイツを急かして来るよ」
「なんだ、やけに積極的だな?」
「こっちにも事情があるんだよ・・・・」
隊長が怖くてさっさとカタをつけたいのだ、とは言えないチビだった。


第11話へ続く


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白ちゃんのお見舞い事情
なんだかとっても賑やかな様子
若者達と護廷のそれぞれの思惑が絡んできます
これからどうなることやら・・・・

例えに出てきた花
どれも下手をすれば死に至る毒花です
おチビちゃんの精一杯のイヤガラセwww



12/02/01に頂きました!
02/10にアップしました。




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