題「一族・長の資格」11 | |
「ごめんくださいまし。奥方様、チビでございます」 京楽家の屋敷の玄関でチビが声をかけると、ややあって白が出迎えに出てきた。 「来たか。どうだった?夕月の様子は」 「お子はお元気にされているそうです。食事もきちんと摂られているそうです」 「判った。夕月は元気なんだな、良かった」 此処に来る前に夕月の様子を聞いてきたと言うチビに安堵の表情を浮かべる白。そこに剣八と狛村が現れた。 「白。玄関で立ち話など、身体は良いのか?」 「なんだぁ?そのガキは?」 「ひぇ!」 2人の隊長の姿を見て怯えたチビ。思わず白の後ろに身を隠した。 「その子供・・・狐だな。白の縁の者か?」 「狐だとぉ?」 「ひっ!」 剣八と狛村に顔を覗き込まれるように見られて恐怖で固まるチビ。2人とも巨漢で一方は見るからに凶悪そうな強面であり、一方は人狼だ。しかも隊長なのだ。耳と尻尾が出なかったのは良く耐えたと賞賛すべきだろう。 「それと・・・・そこに居る者も出てきてはどうだ?隠れているのは判っておるぞ」 「人狼とはやっかいだな。気付かれていたか」 「隊長格を舐めるではない」 姿を現したのは1人の男。黒髪に漆黒のコートを着ていた。その風貌に剣八の表情が僅かだが険しいものに変わった。 「天鎖」 「天鎖・・・様」 天鎖は2人の隊長を前にしても動じない。まるで2人など存在しないかの如く表情ひとつ変えずに白を見た。 「私と来る覚悟は出来たか、白」 「それ、は・・・」 天鎖の言葉に言い淀む白。そこに剣八が割って入った。 「おい。俺はてめぇに聞きてぇ事がある」 「貴様に話す事など無い」 「てめぇ、なんで白を連れて行こうとしやがる。何企んでいやがる?」 「我等の問題だ。貴様に関係は無い」 「なんだと!?こらぁ!」 「やめろ!」 今にも斬りかかりそうな剣八を白が止めた。 「私は騒ぎを起すつもりは無い。貴様等さえ騒がねばな」 「・・・・とにかく中に入ってくれ。話は、それからだ」 白は4人を屋敷の中へと招き入れた。 「無様だな」 天鎖が白の姿を見て言い放った。少しやつれた白の今の姿は、内掛けこそ羽織ってはいるが内掛けの下は夜着だった。 「なんだ、その姿は。私を失望させるな」 天鎖の言葉に、天鎖からしてみれば今の自分は情けない姿なのだろう、と返す言葉の無い白。 「で、貴様は何故此処に居る。白との接触は禁じていたはずだが?」 「あ、あの・・・じ、事情が・・・ありまして・・・」 天鎖に睨まれしどろもどろに答えるチビ。 「お、お子が・・・攫われたん・・・です」 「なんだ?てめぇは知らなかったのかよ?夕月が攫われたんだ」 おろおろと説明するチビ。剣八の言葉を聞いてか、天鎖はいきなりチビの胸倉を掴み上げた。 「貴様等は何をしている!何をしていたっ!?」 「も、申し訳ございません!天鎖様」 「何の為に貴様等は白の傍に居たのだ!あれほど白を護れと言ったではないか!」 「申し訳、ございません・・・」 掴んだ胸倉を締め上げる天鎖。チビは首が絞まり苦しそうに喘いだ。 「離してやれ。お主はその子供を殺す気か」 チビの首を締め上げる天鎖を狛村が嗜めた。放り投げられたチビはごほごほと咽た。それを介抱する白と狛村。 「子は無事なのだろうな?」 「は、い。今は辻君がついております」 「辻君・・・あの男か」 少し思案した様子の天鎖。しかし、すぐにチビのほうを見た。 「私は一族に戻る。一族は私が抑えておく。一族が動く前に事を収めろ、良いな!」 そう言い放つと天鎖は屋敷から姿を消した。剣八と狛村はただ呆然とするしかなかった。 「・・・・一族が、うごく・・・?」 白がぽつりと言った。その声は弱弱しく、見ればひどく怯えていた。 「どう、しよう・・・一族が・・・動いてしまう。一族が・・・一族を、巻き込んでしまう!どうしよう!どうしよう!」 「おい!白!?」 「落ち着け、白!」 「今更!今更一族を巻き込めない!今更。俺のせいで・・・!」 白はガッ!と剣八の襟元を掴んで縋るように叫んだ。 「剣八!お願いだ!早く・・・早く夕月を取り戻してくれっ!一族が動く前に!俺が一族を巻き込む前に!お願いだ!」 「次期様!大丈夫です!天鎖様が一族を抑えると仰ったんです、今は天鎖様が次期です。だから・・・きっと、大丈夫です!」 「一族が動いたら、春水に一族の事が分ってしまう!天鎖が迎えに来たことが判ってしまう!春水はきっと一族を傷つける!俺のために!そんなのは嫌だ!春水が傷つける前に!春水が傷付く前に、夕月を取り返してくれっ!」 「白!落ち着け!」 「俺はどこにも行かない!だから!早く夕月を!剣八!・・・狛村も!一族のことは春水には言わないでくれ!」 「次期様っ!」 「お願いだ!春水には言わないでくれ!頼む、剣八!狛村!巻き込みたくないんだ!俺が、俺のせいで・・・!」 「ちっ」 泣き叫ぶように縋る白に、剣八は当身を食らわせ気絶させた。かくん、と気を失った白の身体を支える剣八。 「次期様っ!?」 「・・・更木」 慌てふためいて剣八を睨むチビ。見咎めるように剣八を見遣る狛村。 「しょうがねぇだろ・・・コイツを大人しくさせるにゃあ、これしかねぇと思ったんだからよ」 剣八は溜息をつきながら白の体を支え直した。 「白は、良いのか?更木」 「今、寝かせてきた。暫くは寝てんだろ」 「そうか」 「なんだってんだ、まったくよぉ」 白を寝室に運び休ませた剣八が部屋に戻ってぼやいた。部屋では白の混乱に興奮気味だったチビを狛村が落ち着かせていた。 「いろいろ事情が込み合っている様だな。説明をしてもらえぬか?・・・少年」 「・・・チビ、です」 「チビと申すか。話してはもらえぬか?」 「・・・・・・・・・・」 何を、何から話せばよいのか迷ったのだろう、チビは俯き黙ったままだった。 「じぁあ、俺から聞くがさっきの男は何モンだ?なんで白を連れて行こうとしやがるんだ?何を企んでいやがる?」 「天鎖様は・・・俺達一族の次期です。天鎖様は次期様を・・・奥方様を一族に迎え入れようと迎えに来たんだと思います」 「次期というのは長の跡目のことだな?そなたが白を次期と呼ぶからには、白もまた次期だと申すのか?」 「じ・・・いえ、奥方様は生まれて間もなく天鎖様と共に次期の候補になったと聞いています。今は天鎖様が次期ですが、今も奥方様を次期にと望む者が多いと聞いています。多分、そのせいかと・・・」 「しかし解せぬな。次期である者がなぜ今更、白を次期にと迎えに来るのだ?」 白が仮に次期の候補者の1人だとして、何故現在の次期である者が迎えに来るのか。後継者争いになるだけではないのか、と狛村は疑問に思った。 「それは・・・俺には、良くは・・・」 「分からぬ、とな?」 「俺は幼い頃、人間に・・・引き取られて育ちましたから」 「だがよ、今まで放ったらかしにしておきながら、今頃になって迎えたぁな。いい気なもんだぜ、見捨てたくせによ」 「・・っ!ち、違います!見捨ててなど・・・!一族は次期様を見捨ててなんかいません!」 「見捨てたんだろ。追っ手に追われるアイツに、お前等は何もしてやらなかったんだろうが」 詳しくは知らないが、白が追っ手に追われ孤独な幼少期を過ごしたことは聞いている。そのことがどれだけ白を傷付け今尚傷付いているかは京楽からも聞いているし、何より白との付き合いで判っている事だった。 「それはっ!・・・・事情が、事情があったんです!一族が動けない事情が!現に俺の仲間はずっと次期様を護ってきていた!今だって・・・!」 「落ち着け、2人共」 険悪な雰囲気になりそうなところで狛村が2人を諌めた。 「チビ。そなたには仲間がおるのか。その者達は今どうしておるのだ?先程、夕月の傍に誰かついている様なコトを申しておったが」 「・・・仲間が1人、お子についています」 「腕は立つのか?」 「腕は立ちます。長からも一目置かれていると聞いてますから。お子のお世話はアイツが全てやってるって言ってましたから、お子が危険な目に逢うことは無いです」 「そうか。夕月は無事なのだな」 「でもよ、だったらなんですぐに助け出さねぇんだ?」 「それは・・・俺達にも事情があるんです。何れ筋を通しますから、今は全てを内密にして下さい。お願いします」 チビはそう言うと2人に深々と頭を下げた。 「何れ筋を通すと申すのだな?」 「護廷の協力が要るのです。そのためにも必ず筋は通します。だから・・・!」 「承知した。更木もそれで良いな?」 「ち・・・しゃあねぇな。わーったよ」 剣八はがりがりと頭を掻きながら承諾した。 「だがな、これが終わったらおめぇらは白をどうするつもりなんだ?言っとくが、白は死んでも京楽から離れねぇぜ?」 「それは・・・次期様のお心次第です」 チビの言葉に2人はそれ以上は追求はしなかった。 「俺は仲間に繋ぎをとりますので、これで失礼します」 チビはそう言うと屋敷を後にした。残された2人は白の居る部屋で白の様子を見守っていた。やがて目を覚ました白に、今日あったことは他言せぬと約束をした2人。勿論、京楽に対しても気付かれないようにすると約束した。 「一族のほうも天鎖とか言うヤローが止めるつってたから大丈夫だろ。おめぇは京楽を心配させねぇようにしとけ」 「剣八?」 「寝込んでる所を見りゃあ、京楽だって心配するだろうが。まぁあれだ、見舞いが多くて疲れたとでも言っとけ。口裏は合わせてやっからよ」 「松本などは見舞いと称して仕事をサボっていると日番谷隊長がぼやいておる事だしな。理由としてはちょうど良かろう」 しかし、それでは乱菊に悪いと渋る白を宥めるうちに京楽が帰って来た。 「あれぇ〜?剣八さんに狛村さんじゃない。見舞いに来てくれてたんだ・・・白?どうしたの?具合悪いの?」 白の様子を見て心配そうに抱き寄せる京楽。 「あぁ?最近見舞いが多くて疲れたんだろ」 「休んでもらっていたのだが、白を1人にさせておくわけにも行かず様子を見ていたのだが・・・・長居をしてしまったようだな」 「そうなの。態々すまないねぇ。ありがとう、2人共」 「いやいや。それでは儂等も帰るとしよう。大事にな、白」 「じゃあな」 挨拶もそこそこに席を立つ2人。京楽は改めて礼を言うと2人を送り出した。 京楽の屋敷を出た剣八と狛村は道すがら今日あった事を思い返していた。 「狛村。悪ぃな、厄介ごとに付き合わせちまってよぉ」 「やけに殊勝だな、更木。それは承知の上であろう?」 「いや・・・思った以上に厄介なことになっちまったからな」 「それも承知の上だ。確かに事情が込み入っているようだが、あの者達は何れ筋を通すと申しておった故そのうち何とかなるであろう」 「だと良いがな」 「チビと申す少年もそうだが、仲間のほうも一族のほうも白を想うておるようだ。悪い様にはなるまいて」 チビの仲間は既に行動を起しているようだし、天鎖という男はチビに『白を護れと言ったではないか』と声を荒げていた。白の一族が何故表立って白を護らないかは判らないが、そこはチビの言うように事情があるのだろう。 「まぁな。少なくとも夕月が安全だって事が判っただけでも一安心だがな。ちきしょう、一気にカタをつけられりゃ楽なのによ」 「相手が貴族ではそうも行くまい。護廷が未だ動けぬのも護廷に貴族への裁量権が無いからだ。護廷といえど確たる証拠も無しに貴族の屋敷に乗り込むことなど出来ぬからな」 「ちっ!めんどくせぇな」 「今はあの者達の動向を見守るしかあるまい」 「さっさとこんな面倒な事は終わらせて欲しいぜ、まったく!」 アイツと関わると面倒しか起ねぇ、とぼやく剣八。一護の為と言いながらも白に気を配る剣八に、かつての戦闘狂も変わったものだと胸の内に思う狛村だった。 2人が帰った後、寝室で白を抱きしめる京楽。 「剣八さん達と何を話したの?」 「ん。夕月の事・・・早く取り返してくれって」 錯乱してしまったが多分そんな事を言ったはずだ、とぼんやりと思う白。 「大丈夫だよ。夕月は無事だよ。夕月は無事に助けるから」 貴族の狙いが白ならば、人質である夕月は無事であるはずだ。 どんな扱いを受けているかは判らないが、それは白を心配させるだけなので敢て口にはしない京楽。見舞いで気が紛れても夕月が心配なのだろう、白の身体を抱く手に力が篭る京楽だった。 「夕月は僕が助けるから。信じて待ってて?」 「春水・・・ごめん」 一方、白は自分は夕月が無事な事は知っている。しかしその事を京楽に伝えるわけにも行かず、また自分を苛むのは別の心配事なのだとも言えず、微かに後ろめたさを感じながらただ春水に身を任せるしかなかった。 白の身体を優しく抱きしめ、額や頬、唇に触れるだけの口付けを繰り返す京楽。 「ん・・・、ん、春水、春水、ん、ん・・・」 薄らと目を開けた白が京楽の首に腕を絡め、自分から口付けを深いものに変えて来た。 「ん、ん!ふぅん、あ、ふ、んく・・・」 自分から舌を絡めてくる白に驚きながらも受け止める京楽。 「ん!ふあ!く、ふ、ん、ん!」 絡める舌を甘く噛み吸い上げる。敏感な上顎をぞろりと舐め上げ、互いの唾液を啜りあった。 くちゅ、と音をさせ口付けから白を解放すると、上気した頬は赤く染まり唇は妖しく濡れ光っていた。 「白・・・」 ちゅ、とその唇に触れると、 「春水・・・抱いてくれ・・・!」 と懇願する白が京楽の死覇装の袷から覗く逞しい胸板に手を這わせた。 「怖いんだ・・・、まるで ぎゅう、と両腕で自分の腹を抱き込みながら、寒い、寒い、怖い、怖いと訴える白。 「白・・・」 怯える白の顔色は蒼白だ。そんなに怯える妻に例え この事件が解決するまで白はきっと自身を責め、怯えるのだろう。 「愛しい白、僕の体温を、熱を君にあげるから・・・泣かないで・・・」 静かに流れる白露の如き涙を唇で吸い取り、首筋へと顔を埋めた。 はぁはぁと熱の籠った吐息と甘い泣き声が部屋に響く。 「あ!あ・・・はぅん!しゅん・・・すいぃ・・・!あ、あつい!ぁあっ!しゅんすい!しゅんすい!」 「っくう、白、白!」 「ふぁああ!イく!イっちゃう!しゅん!すい・・・っ!」 「クッ!」 二人同時に達した。 「んあぁ・・・あつい、おなか、しゅんすい・・・」 快感に潤んだ眼で京楽を見上げる白。ほっそりとした両腕を京楽に伸ばすと舌足らずな甘い声で、 「ちゅう・・・してぇ・・・しゅんすい・・・ちゅう、してぇ・・・」 と強請った。 「白・・・!」 ちゅ、ちゅ、と啄ばむものから次第に深く貪る様に口付けた。 「ん、ん、ぁ、ん、んん!ふぅ、んあ・・・」 「白、白、ああ・・・!愛してる・・・!」 「んん!俺・・・も、しゅんすい、あいしてる・・・」 だからもう少しこのまま繋がっていたいんだ・・・。 「まだ俺の中から出て行かないで・・・」 「君の望むままに」 そして白が意識を失うまで愛の営みは続いた。 自分の腕の中で漸く安心した様に眠る白の寝顔にちゅ、と口付け、 「早く君がずっと笑える様に、いつもの君に戻れる様にこの事件を終わらせなくちゃね・・・」 最愛の者を苦しめる者への怒りを滾らせながらも、白を優しく抱きしめ京楽も眠りに落ちた。 第12話へ続く ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 剣八&狛村、チビ、天鎖の鉢合わせ 天鎖のスルースキルは斬月さん譲り♪ んでもって白ちゃんが予想外に取り乱してしまった; そして相変わらず擦れ違う白ちゃんと京楽さん さて、この後どうなることやら・・・ 12/03/12に頂きました。 12/04/19 ようやくエロが書き終わりました! |
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