題「一族・長の資格」8
 翌日、早朝より隊長格が招集され緊急の隊主会が開かれた。
「これより緊急の隊主会を行う!皆に集まって貰ったのは、『京楽隊長の娘、夕月誘拐』についてである!」
「ちょ・・・!?山じぃ!なんでそれを!?」
「ああ、悪りぃな。俺が話した」
「剣八さん!?」
夕月の身の安全を考え出来るだけ内密に、と思っていた京楽は剣八の言葉に驚いた。
「京楽。夕月ちゃんの誘拐は京楽独りの問題では無いぞ。犯人は護廷十三隊の隊長の娘を攫ったんだ、事は護廷全体にも及ぶことだ。剣八さんを悪く思わないでやってくれ」
「浮竹・・・」
「それに今回の誘拐は先日の大虚の襲撃とも関係があるやも知れぬ。兄の夕月を思う気持ちは解らぬでもないが、既に兄だけの問題では無いのだ」
「どういうことだい?朽木君」
「急くでない、京楽隊長。それについてこれから隊主会を開くのじゃ。先ずは更木、誘拐について判っておる事はあるか?」
「こいつぁ白から聞いたんだが、財布を掏ろうとした男を取り押さえようとした白に、そいつは多分香水だろうが振り掛けて逃げたらしい。その隙に夕月が攫われたらしいな」
「香水か。白の鼻の良さを逆手に取ったんだな。匂いで追われない為に」
「だろうな。で、その直後にコイツを渡して逃げ去った男が居る。・・・コイツは脅迫文だ」
剣八が懐から白から取り上げた脅迫文を出して、他の隊長達に見せた。
「態々平仮名で書いて白に渡したんだ。相手の狙いはどう見ても白だ。京楽じゃなく、な」
「だとすれば、白に個人的な恨みがあるってコトか。しかしそんな奴が居るのか?」
冬獅郎が疑問を放つ。冬獅郎は白とはさほど親しい付き合いはしていないが、副官である乱菊が妹のように可愛がっている。その様子から誰かにそれほどまでの恨みを買うとは思えなかったのだ。
「白は・・・昔、貴族を殺しているんだよ。父親を目の前で殺された復讐にね。でも!白が悪いんじゃない、相手は遊び半分で白の父親を殺したんだ。死んだのだって元はと言えば彼等が仕掛けた毒饅頭を彼等が食べただけなんだ!その後だって白はずっと追っ手に追われて・・・!」
「京楽、落ち着け!お前が取り乱してどうする!」
浮竹が京楽を諌めた。
「その貴族が報復のために夕月を攫った?でもなんで今更なんだ?白が京楽に嫁いでからは何も無かったじゃねぇか」
冬獅郎の疑問に皆が頷く。白が瀞霊廷に現れてから今まで白の命が狙われたという事実は無かったのだ。
「その貴族が最近良からぬ物を手に入れたからだという情報が入っている」
白哉が口を開いた。情報源は京楽本家だがそのことは敢えて口にはしない。彼等は秘密裏に情報を集め白哉に知らせているのだ。
「良からぬ物?」
「それが何かは未だ判明はしておらぬ」
「それはきっとコレのことだろうネ」
涅が懐からケースに入った小さな欠片を示して見せた。
「コレは滅却師が使っていた対虚用の撒き餌ダヨ」
「滅却師だって!?」
「滅却師は全滅したはずじゃ・・・!」
「そう。滅却師は我々が200年前に殲滅して絶滅した種族ダヨ。しかし彼等が使っていた遺物が残っていたとしても不思議では無いヨ」
「それが大虚襲撃の現場から見つかったのか」
「探すのに苦労したヨ。見つかったのはこの欠片だけだからネ」
「それを使って大虚を呼び寄せたのか。後はソレがその貴族が使ったという確証を得られば・・」
「うむ。砕蜂隊長、撒き餌の出所の至急つき止めよ。夕月の居場所もな」
「は!隠密機動全力を挙げてつき止めて見せます!」
「くれぐれも気付かれないでくれよ。夕月の命が掛かっているんだから」
「京楽。我等隠密機動を舐めるではない。貴様こそ動揺して相手に気取られるな」
「・・・分ったよ」
「京楽。大丈夫だよ、夕月ちゃんは必ず助ける。お前はもっと俺達を信用してくれ」
「浮竹・・・そうだね。僕も少し気が弱くなったようだね」
「しっかりしろよ、てめぇがそんなんじゃアイツを押さえられねぇぜ?アイツは思い込んだら何しでかすか分ったもんじゃねぇんだからな」
これ以上の面倒事はご免だ、と言うように剣八が言う。
「あはは。そうだね、僕はずっと白の傍に居るとするよ」
「そいつはどうかな。犯人は白を目的としているんだろう?そこに京楽が居たんじゃ接触して来なくなるんじゃねぇか?」
「それもそうだな。相手が貴族となれば京楽との接触は極力避けるだろうしな」
冬獅郎の言葉に浮竹が同意を示した。
「白の事は松本に任せてみよう。女達のほうが奴等も気を抜くかもしれん」
「ならばメンバーへは私のほうから話をしておく。良いな?京楽」
「それならば私も協力いたしましょう。白さんの状態も気になりますし」
「うん、卯ノ花さんにもお願いするよ」
「では俺は朽木君と貴族について探りを入れよう。良いだろう?朽木君」
「うむ」
各々がこれからの動きについて話し合いに入った。

その後、護廷が動いたと気付かれぬよう通常と変わらぬ業務を行いつつ、貴族の動きに目を光らせると言う内容で隊主会は閉会した。特に京楽には無駄に動き回るなと釘を刺されていた。
「これを機に溜まった書類でも片付けるんだな。伊勢君も喜ぶだろう」
「ひどいなぁ、浮竹は・・・・最近そんなにサボってないよ?」
「でも溜まってはいるんだろう?気晴らしにもちょうど良いじゃ無いか」
「気晴らしが書類って・・・・それもなんだかねぇ〜」
京楽はやれやれ、と溜息をつくと浮竹と共に隊舎へと向かって行った。この先、表立っての行動は迂闊には出来ない。そのことで白は不満を訴えるだろう。どう言い訳をしようかと考える京楽だった。




隊主会が行われていた頃、京楽家を訪れた者がいた。例の貴族の当主が情夫である辻君を伴って来たのだ。
「誰だ?あんたら」
玄関で見たことも無い来客に不機嫌を隠さない白。
「これは奥方様。お初にお目にかかります。私は下級貴族ではございますが奥方様のお見舞いに参りました」
「見舞い?」
怪訝な表情で当主を見遣る白。穏やかな表情だがどこか胡散臭い。と、そこへ。
「奥方様ぁ〜!お久しぶりですぅ〜!」
がばぁ!と辻君が白に抱きついた。
「うわっ!?な、なんだ・・・!??」
「(・・・御子は無事です、次期様)」
抱き付いたままの状態でそっと白に耳打ちをする辻君。
「!!・・・お前は・・っ!?」
「うふふ〜。覚えてくれていたんですね〜、奥方様ぁ〜」
「止さぬか、辻君!」
「あらぁ〜、嫉妬ですかぁ?旦那様〜?」
「そうではない!しかし、奥方様はこれと顔見知りで・・・?」
「あ、いや・・・・この前、散歩のときに俺がぶつかったんだ」
「そうなんですよぉ〜。でも奥方様はぁ〜、自分が悪いからって、わたしに謝ってくれたんですよぉ〜。なんて優しい奥方様ぁ〜」
辻君は更に白に抱きつき頬擦りをしてきた。白はどうして良いか分らずたじたじである。
「そんなお優しい奥方様に〜、わたしからぁ、ささやかなお礼を致しますねぇ〜」
そう言うと辻君は袂から何かを取り出すと、白の掌にそれを乗せた。
「辻君、いい加減にせぬか。・・・奥方様。供の者が大変失礼を致しました。私共はこれにて失礼を致します」
「あ、ああ」
「それじゃあ、奥方様ぁ。御機嫌よう〜」
そそくさと帰る当主の後をついて行く辻君。振り向き様に口の動きだけで『後はお任せを』と伝えてきた。それに頷くと辻君は満足そうに笑い当主と共に帰って行った。
「辻君、あれはどういうつもりだ。お前がどうしてもあの女狐の顔を見たいとせがむから連れて来てやったのだぞ!」
「だってぇ〜。あんまりにも奥方様が可愛いんですものぉ〜」
「とにかく!お前は2度とあの女狐に近づくでない。解ったな!」
「はぁ〜い。嫉妬深い旦那様〜」
道すがら貴族の当主は辻君に釘を刺していた。
「(ええ。逢いませんよ・・・・私は、ね)」
にぃ、と哂う辻君に貴族の当主は一瞥をくれただけだった。





見舞いだとやってきた貴族が帰った後、白は寝室に戻り布団の上に座った。そして白は辻君から渡されたものを見た。
「(繋ぎはこれで)」
そう言って渡された、白く(ふち)に色が付いた紙を包んだようなモノ。甘い匂いがするから菓子なのだろう。
最初に赤い(ふち)の物が掌に置かれ、すぐさま色の違う物が数個乗せられた。つまり『繋ぎ』は赤い色の物だということだが、それが何を意味するのかは判らなかった。
暫くして隊主会を終えた春水が帰って来た。隊舎に行く前に白の様子を見に来たのだった。
「し〜ろ」
「あ、春水。おかえり・・・」
「おや?どうしたの?それ」
春水が白の掌にあるものに気が付いて聞いた。
「ああ、これか?この間、散歩のときにぶつかったやつが見舞いに来てくれたんだ」
敢えて貴族の事は言わない白。繋ぎも無いままに言うのは良くないと思ったからだ。
「そう。辻占だね、それ」
「つじうら?」
「お菓子だよ。中に御神籤が入っているんだ。ひとつ貸してごらん?」
そう言われて赤い(ふち)の物を春水に渡すと、春水はその中から小さく丸められた紙を取り出した。
「ほら、コレに字が書いてあるでしょ?これが御神籤なんだよ」
「なんて書いてあるんだ?」
「ん〜。『果報は寝て待て』・・・良い知らせは自然に来るから静かに待っていなさい、と言う意味だよ」
「(つまり、此方から動くなって事か)」
「白?」
「え?ああ、ありがとな。ところで春水、仕事は?」
「今から行くよ。白が心配で顔を見に来たんだ〜」
へらりと笑うと白を抱き寄せキスをする春水。
「ん・・・早く行かないと七緒が怒んぞ」
「はいは〜い。早く帰ってくるから無理しちゃ駄目だよ?」
「うん。だから・・・早く帰って来い」
「姫の仰せのままに」
春水は白にキスをすると隊舎へと向かうべく屋敷を後にした。

春水が居なくなった後、屋敷はしんと静まり返っていた。いつもなら夕月と2人でいた。歌を歌ったりおはじきをしたり。1人でこの屋敷に残るのはどれだけ振りだろうか。この屋敷はこんなにも静かだったろうか。
「・・・・・・・」
ふと手にしていた辻占を見た白。
「(・・・御子は無事です、次期様)」
辻君という男は自分を『次期』と呼んだ。間違いなく一族の者だ。そして夕月の安否を知っている。恐らくはあの貴族は夕月を誘拐した犯人の一味なのだろう。何故一族の者が犯人の下にいるのかは判らないが。
「・・・・天鎖・・・か?」
天鎖の手の者だろうか?天鎖は自分を『次期』と推す者が多いと言っていた。辻君という男もそのうちの1人なのだろう。
そしてその彼が夕月の事を『任せろ』と言ったのだ。ならば夕月は安全だ。白がそう確信できるほどに一族の結束は強いものだった。


第9話へ続く


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夕ちゃん救出に皆さんが動き出しました
自分に味方がいると知って一安心の白ちゃん
京楽さんは暫くは書類と格闘?



12/01/25に頂きました。
12/02/06にアップ!




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