題「一族・長の資格」7
 瀞霊廷の外れ、小さな酒屋に一人の若者が酒を飲んでいた。そこにもう一人の若者が近づいてきた。
「よぉ、遅かったな。チビ」
「呑太郎・・・昼間っから飲んでんのかよ」
「まぁ、そう言うな。なんかあったか?」
チビは呑太郎の席の向かいに座ると、酒を1本注文した。
「・・・お子が攫われた」
「やはり動き出したか・・・で?奥方様のご様子は?」
「かなり動揺されているようだよ。今は屋敷でご亭主がついている」
「そうか。お子は無事なのか?」
「それは大丈夫だろ。あいつがついているからな、そっちは?」
「こっちも情報を集めてるみたいだな。まぁ、確証は得られんだろうがな」
「だろうね。俺はあいつに繋ぎをつける」
「頼む。俺は大将に連絡を取るよ」
「ああ。あんまり飲むなよ、呑太郎。ところであの方はどうしてるって?」
「まだ、それらしい動きはないみたいだな」
「ふぅん・・・」
「そのうち動くだろうな。お子が攫われたとなればな」
「俺達はどうすればいい?」
「大将は何も言ってないからな、このままだろ?」
「あの方が表立って動かなきゃいいけど・・・」
「そいつはどうかな。あの方も奥方様には入れ込んでおられるようだしな」
「そん時はそん時だね・・・」
「だな」
チビは注文した酒が運ばれると、それを呑太郎に渡した。
「お?珍しいな」
「これ飲んだら、終わりだからな!暫くは飲むなよ!?」
「へいへい。判ってるよ」
チビは釘を刺すととさっさと店を出て行った。



隊舎に戻った剣八は一角と弓親を呼んだ。
「あの男は一護になんかしてきたか?」
「いいえ、あの男が近づく気配もありません」
「他には?変な奴等が周りに居たことはねぇか?」
「それもありませんね」
「何かあったんですか?隊長」
「夕月が攫われた」
「なんですって!?」
「あの男の仕業ですか?」
「違げぇみたいだな。白は『あいつはそんな事はしない』と言ってたからな」
「あの男は、白さんに危害を加えるつもりは無いってことですか?」
「じゃあ、夕月ちゃんを攫ったのは何処のどいつなんです?」
「どこぞの貴族の仕業らしい。毒菓子を贈ったり随分ときな臭せぇ事になってるらしいぜ」
「毒って・・!白を殺そうってことですか!?」
「しかし、なんで貴族が白さんを殺そうとするんです?」
「はっ!貴族の考えてることなんざ俺が知るかよ」
「そりゃそうですが・・・・」
「あの男と夕月を攫った奴等が繋がってるかどうかは判らねぇが、あいつはあの男の事を京楽には言うなと言いやがった」
「なんでまた・・・」
「京楽を巻き込みたくないんだとよ」

貴族が白を付け狙う理由は判らないが、貴族の狙いはあくまで白だ。貴族であり護廷の隊長である京楽には手は出せないだろう。しかし白の言動からすれば、黒髪の男は白や子供達に危害を加えるつもりは無いらしい。危害を加えるとすれば京楽ということになる。とすれば、貴族と黒髪の男の目的が違うということだ。
「まったく・・・・何処まで厄介なんだ、あいつはよ」
「あいつって白さん、ですか?」
「あいつ以外に誰がいるってんだ。とにかくお前等は一護を守れ。男の方は大丈夫だと思うが、貴族の方が何しでかすか判らねぇからな」
「分かりました」
「男のほうも何かあったらすぐに知らせろ。あの男が何者で、何が目的か何も判っちゃあいねぇんだからな」
「はい」
「白のほうは宜しいんですか?」
「はん、それなら他の奴等が何とかするだろうよ」
「他の奴等?」
「爺さんや六番隊の隊長だ。まぁ、護廷の隊長の娘を攫ったんだ。護廷が黙ってる訳が無ぇがな」
「彼等もエライものを敵に回しましたね・・・」
「だな」
夕月を攫った奴等はそれに気が付いているのだろうか?思わず犯人達に同情する弓親達だった。



貴族の屋敷の座敷牢。そこに攫われた夕月が居た。
「ここはどこですか?ママはどこですか?おうちに帰りたいです・・・」
いつもピン!と元気に立っている大きな耳は不安そうに寝てしまっている。ふわふわの尻尾を所在無さげに握り、泣きそうになって牢の外に居る男達に訴える夕月。しかし男達はそんな夕月を冷たく見るだけだった。
「うちに帰りたいだぁ?帰れる訳がねぇだろうが!」
「おめぇはここで死ぬんだよ!」
「死ぬですか?そんなのいやです・・・ママ!ママ!」
「心配しなくてもママと一緒に死なせてやるよ!」
怯える夕月を見てゲラゲラと哂う男達。
「いやです!ママ!ママァ〜〜!」
「ちっ!煩せぇガキだ!」
大声で泣き出してしまった夕月を手に持った長い棒で突き倒そうと、牢の檻に男が棒を差し込んだ時、その手を止める者があった。
「あら〜?何をしているのかしらぁ〜?」
「っ!貴様!辻君・・・!」
「貴方達、その子を傷つけたらどうなるか、解かっているのかしらぁ〜?」
「は!ただの子狐だろうが!」
「ただの子狐ねぇ〜・・・」
辻君は掴んだ男の手を突き放すと冷たい目で男達を見た。
「確かにこの子の母親は狐だけどぉ〜。この子は護廷八番隊隊長・京楽春水の子でもあるのよぉ〜?判ってる?」
「だからどうしたっ!」
「ほ〜んとに解かって無いのねぇ〜。この子を攫ったって事は、つまり護廷を敵に回したってことなのよぉ〜?」
「何・・?」
「この子は総隊長さんや他の隊長さん達からも可愛がられていて〜、更にこの子の母親はあの戦闘集団の十一番隊の隊長の義兄でもあるのよ〜?そんな子を傷付けてただで済むと思ってるのかしらぁ〜?」
「う・・!」
「だ、だが!護廷といえど貴族に手は出せまい!?」
「ふぅ・・・・何も知らないのねぇ〜・・・」
「何?」
「この子の母親って〜、朽木家御当主自らが『烏帽子子に』と望むほど執着しているのよぉ〜?朽木家が敵に回れば、護廷よりひどいことになるわよ〜?」
朽木家当主が烏帽子親になると言うことは、それは朽木家が白の事実上の後ろ盾になると言うことだ。もっともその話は白が再三断っているのだが・・・
「この子の事はアタシが全て見るから、貴方達は下がってなさい」
毅然とした態度に押されて、男達は地下から出て行った。この屋敷の当主の情夫と、金で雇われただけの見張りでは立場が違いすぎた。

「・・う・・・ひっく・・・・」
「あ〜あ。泣かないで。可愛いお顔が台無しよ〜?」
牢の檻に手を入れ、着物の裾で夕月の顔を拭ってやる辻君。
「・・おうちに帰りたいです・・・」
「大丈夫よ。アタシがママの所へ帰してあげるから、ね?」
「ほんとですか・・・?」
その言葉にピクッと夕月の耳が動いた。
「約束するわ、夕月ちゃん」
「夕月を知ってるですか?ママも知ってるですか?」
「夕月ちゃんのことも、ママのことも、よ〜く知ってるわ。だからね?安心して?」
優しい顔で微笑む辻君。家に帰してくれると約束してくれた男に、母親の事を知っていると言われて少しだけ安心した夕月だった。辻君は夕月が落ち着いたのを見ると、牢に入り食事を差し出した。
「さぁ。お腹が空いたでしょう?ご飯持ってきたからお上がりなさい」
「はいです」
「良い子ね〜。これからはアタシが持ってきたもの以外は食べたり飲んだりしちゃダメよ?」
「ダメなのですか?なぜですか?」
「お家に帰れなくなっちゃうから、ね?」
「わかったです!」
「良い子ね」
行儀良く食事をする夕月を、辻君は優しく見守っていた。やがて食事を終えた夕月が大きなアクビをしだした。
「あらぁ〜?お腹が膨れたら、おねむになっちゃたかしらぁ〜?」
「・・・はいです」
「お布団があるから、そこで眠りなさい。暫く傍にいてあげるから」
「はいです。おやすみなさいです」
「おやすみなさい」
布団に入るとすぐに寝息を立てる夕月。
「・・・薬が効いたようね。今はゆっくりお休みなさい。夕月ちゃん」
そう言うと、辻君は食事を下げ牢から出て行った。



「辻君、何処へ行っていたのだ?」
屋敷の主の部屋に入ってきた辻君に貴族が不機嫌も露に問いただした。
「あん。可愛いお嬢ちゃんのお顔を見に行ってたんですよぉ〜?」
「あの子狐をか?」
「だ〜ってぇ〜。旦那様があーんなに執着する人のお子ですよぉ〜?気になるじゃないですかぁ〜」
「たかが子狐だ。お前が気にする事もあるまい」
「いけずな旦那様ぁ。2人とも独り占めですかぁ〜?お嬢ちゃんのお相手くらいさせて下さっても良いでしょう〜?」
辻君は部屋の主に擦り寄ると妖艶な笑みを浮かべて強請った。
「あの子のお世話、私にやらせて下さいな」
「そんなに気に入ったのか?あの子狐が」
「ええ。とっても」
「ふん。まぁ良い。あの子狐はお前に任せる。但し逃がすなよ。牢からは出すでないぞ」
「承知いたしましたぁ〜・・・ありがとうございます、旦那様ぁ」
にたり、と哂いその目に怪しい光をうかべた辻君。しかしその表情は部屋の主が見ることは無かった。


第8話へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

若者達が動き出しました
そして一護を守る為にいろいろ画策する剣八
隠し事は苦手っぽいけど一護をが絡むと別



12/02/01にアップしました。こちらも金魚の加筆修正は後ほどになります。
02/03に加筆しました。小さな子って不安な時に何か弄るよなぁと、服とか髪とか。そんなの思い付いて書いてみました。



ギャラリーへ戻る