題「一族・長の資格」6
 その日の夜、白哉は四大貴族の名において名立たる貴族を集めて訓示を示した。
尸魂界において出現する筈の無い大虚の襲撃について、貴族としての心構えを周知させる。と言う名目であった。
「学院授業中の戦闘において大虚が襲撃した件について、瀞霊廷に不安が拡がりつつある故、我等貴族は毅然とした態度で平静を保つように努めて頂きたい」
「しかしながら、朽木様。我等貴族には大虚はもちろんの事、虚に対しては対処の仕様もございません」
「そうですとも。そもそも虚の対応に関しては護廷十三隊の管轄でございましょう」
「虚の出現も左様でございますが、尸魂界のおける大虚の出現など護邸の不行き届きなのではございませんか?」
「今回の大虚の出現の関しては護邸の責任ではないのですか?」
「その件に関しては、現在十二番隊が調査しておる故、原因も程なく判明するであろう。後は護廷に任せればよい」
「しかし・・・」
「不穏な動きがあれば護廷十三隊がその威信にかけて対処する。抜かりは無い」
「左様でございますか・・・」
「我等貴族は如何なる事態に面しても、取り乱すことなく毅然としておれば良い。貴族の役目は掟を守り尸魂界の規範となることだ。決して権力に任せ己を誇示する事ではないと心せよ」
「・・・承知いたしました」

会合が終わり、貴族達が解散した後、白哉の傍に京楽の兄が寄ってきた。
今回の訓示は、表向きは貴族達への訓示であったが、その実、白を付け狙う貴族達への警告でもあった。下手な動きをすれば護邸が動く、と威しを掛けたのだ。
「やはり食い下がって参りましたな。大虚の襲撃の責任を護廷に擦り付ける所存でしょう」
「うむ。しかし十二番隊も調査しておる。涅の事だ、他人に出し抜かれるなど許せぬであろうからな。徹底的に調査しておるだろう」
「左様でございますか。私も全霊を持って協力させて頂きます」
「しかし危険も伴うであろう。無理はするな」
「一族の者を護る為ならば多少の危険は承知の上でございます」
「白も果報者だな」
「畏れ多いお言葉でございます」
これであの貴族達が大人しく手を引けば良いが。もっとも手を引いたところで許すつもりなど毛頭ない白哉であった。



「くそっ!朽木白哉め!なにが貴族の役目だ!忌々しいっ!」
屋敷に帰って不満をぶちまける貴族。そこへ銀鼠色の髪の長い男が寄り添ってきた。
「あらぁ〜・・・随分とご機嫌斜めですね〜。旦那様?」
「朽木白哉め。牽制のつもりか。儂を舐めおって!」
「気付かれたんじゃ無いんですかぁ〜?もう止めておいたほうが身の為ですよぉ〜?」
「貴様は黙っておれ。ここで引き下がる儂だと思うな。あの女狐を殺すまではな!」
「・・・・はいは〜い」
呆れたように返事をする男。貴族の情夫として屋敷に住み着いているのだった。
「でも、旦那様ぁ。これからどうするおつもりなんですかぁ〜?また大虚を使うと今度こそバレますよぉ〜?」
「ふん。大虚など使わんわ。あの女狐を誘き出して直接この手で息の根を止めてくれる」
「だからぁ〜。どうするんですぅ〜?」
「辻君、お前は黙って見ておれば良い」
「あん、いけずな旦那様ぁ〜」
貴族は強硬手段をとる覚悟を決めた。早速、配下の者に手はずを整えるよう命令を出していた。



数日後、白が夕月を伴って散歩に出た時のことだった。
突然、白に男がぶつかってきて懐に入れていた財布を抜き取ろうとしたのだ。白は夕月を後ろに下がらせると、男を追い、男を取り押さえようとその腕を締め上げた。と、その瞬間、男は白の顔に何かを浴びせた。
それはわずか数滴の液体だったが、強烈な臭いが白の鼻を突いた。鼻の良い白が思わず怯んだ白の隙をついて男は白を思い切り突き飛ばすと脱兎の如く逃げ去ってしまった。
「臭っせぇ!あの野郎、何しやがった!?」
鼻を突く臭いのせいで軽く頭痛さえ覚えたが、逃げ去った男を追う気にもなれず白は夕月のところへ戻った。

「夕月?」
夕月のいる筈の場所へ戻ってきたが、そこに夕月の姿は無かった。辺りを見回しても夕月がいる様子はない。
「迷子になったのか・・?」
慌てて夕月を探す、が夕月は見つからなかった。
「夕月!どこだ!どこにいるっ!?」
夕月を探して走り回る白。霊圧を手繰ろうにも夕月の霊圧は感じられない。臭いで探そうにも、先程浴びせられた液体のせいで周りの臭いすら嗅ぎ分けることが出来なかった。
「夕月っ!」
そんな白の背後から走りぶつかる男がいた。男はすれ違いざまに白の手に何かを握らせると、そのまま走り去ってしまった。
「何なんだ、一体・・・?」
握らされたものは小さく畳まれた紙だった。それを広げると走り書きのように何か書かれている。そこに書かれた文字を読んで、白は息を呑んだ。一文字一文字目で追っていく。そこに書かれた意味を理解して白は呆然と立ち尽くすしかなかった。

走り書きを手にして呆然とする白。そこに剣八が声をかけた。
「おい、どうした?真っ青じゃねぇか。何があった?」
「あ・・・剣八・・」
剣八の顔を見るなり糸が切れたように崩れる白。慌てて抱えた白からする匂い。現世で女達が使う香水に似ていた。
鼻の良い白がこんなものを使うわけが無い。ふと見れば手にはしっかりと紙切れが握られていた。白のその体を支えて剣八は思案する。そして白を抱えると近くの馴染みの店へ行き、個室を頼んだ。
「オヤジ、個室を頼む」
「おや、更木の旦那・・・そちらの方は?」
「一護の兄貴だ。そこで倒れてな、悪りぃがここで休ませる」
「判りました。こちらへ・・・」
「それと、これは誰にも言うんじゃねぇぞ。一護が心配するからな」
「はい、承知しました」
剣八は白を休ませると、その手にしていた紙を抜き取った。そこにはつたない文字で

「  む す め は あ ず か っ た  」

と書かれていた。
「攫われたのか」
朝月は学院にいるから攫われたのは夕月だろう。
「う・・ん、剣、八?」
「気が付いたか」
「ここは?」
「俺の馴染みの店だ。おめぇは道で倒れたんだよ」
「そうか・・・すまねぇな」
「・・ガキが攫われたんだな、夕月か?」
「な!?何でそれを!?」
「これをおめぇが握ってたからな。相手は誰だ?おめぇが逢ってる黒髪の男か?」
「!!・・あいつの事を知っているのか!?」
「お前らが話してんのを一角達が見てたんだよ。で?そいつが夕月を攫ったのか?」
「いや・・・違う、と思う」
「あぁ?でもそいつは子供も連れて行くって言ってたんだろ?」
「あいつは、あいつはそんな事はしない!・・・でも、何が起こっているのか・・解からないんだ!」
子供を攫われて混乱しているであろう白はいつに無く不安定だ。
「なぁ・・・あいつの事、春水には言ったのか?」
「いや、まだ言ってねぇ」
「お願いだ!春水には言わないでくれ!春水には余計な心配はさせたくねぇ!・・・春水を、巻き込みたくないんだっ!」
必死の形相で縋る白。
「(コイツ、また何か抱え込んでいやがるな)」
朝月が生まれた時、春水の立場を考えて独りで身を引く決意をして屋敷を出た白。その時も口止めをされた。今回もそうなのだろう。ぼろぼろになってなお、助けを求めなかった強情さは目の当たりにしてよく解かっている。黒髪の男と何があったかは解からないが、下手に口出しをすれば何をしでかすか解かったもんじゃないな、と剣八は思った。
「わーったよ。男の事は言わねぇよ。それで良いんだな?」
「うん・・・」
黒髪の男が攫ったのではないとしても、わざわざ平仮名で書かれた脅迫文を白に渡したとなれば、相手は白を追い詰めるのが目的なのだろう、相手の狙いは白だ。憔悴する白を見て、剣八はそう確信した。



まだふらつく白を連れて店を出る事にした剣八。店の亭主が声をかけた。
「おや、もう宜しいので?」
「ああ」
「まだお加減が宜しく無いようですが大丈夫なんですか?」
「ああ、後はコイツの屋敷で休ませる。世話になったな」
「いえいえ。ではお気をつけて」
剣八は白を抱えると瞬歩で京楽の屋敷に向かった。屋敷に着くと剣八の霊圧を感じた京楽が出迎えた。剣八に抱きかかえられ蒼白になっている白の様子を見て京楽は慌てた。
「白!?どうしたの?何があったの!?」
「とにかく中に入れろ」
剣八は白を抱えたまま屋敷に入ると白を下ろした。
「夕月が攫われた」
端的にいう剣八。
「何だって!?どういうことだい、白!」
「俺が・・・俺が目を離した隙に・・・どうしよう!俺のせいだ!俺のせいで夕月がっ!」
「白!落ち着いてっ・・・!」
「おい、とにかくコイツを休ませろ。さっきも道で倒れたんだ」
「あ、ああ。さぁ、白。こっちに来て」
憔悴し混乱している白を、京楽は寝室に運ぶと着物を脱がせその体を布団に横たえた。白が落ち着くようにと薬湯も用意した。
「春水・・・夕月が・・・俺のせいで・・」
「白、落ち着いて?君のせいじゃないよ?だから、ね?」
「しゅん、すい・・・」
「大丈夫だよ。さ、これを飲んで?」
「ん・・・」
「大丈夫、夕月は無事だから・・・ちゃんと助けるから。安心して?」
「夕月・・・夕月・・・」
「大丈夫、大丈夫だから・・・」
薬湯が効き、漸く眠りについた白。寝室の障子が少し開けられ、剣八が顎をしゃくって京楽を誘う。京楽は白の目に浮かぶ涙を指で拭うと、額にキスをしてそっと寝室を出た。それから2人は居間へと移動した。

「あいつはもう良いのか?」
「今、薬湯が効いて眠ったよ・・・」
「そうかよ。あんまりあいつを責めんなよ、相当参っているはずだからな」
「そうだね・・・・」
「夕月を攫ったやつに心当たりはあんのか?」
「ああ・・・」
「へぇ・・・で?誰なんだ、そいつはよ?」
「恐らく、白を良くは思っていない貴族のうちの誰かだろうね」
「へぇ、よく解かってんだな?」
「前にも毒入りの菓子を贈って来たらしいからね」
「・・・随分ときな臭せぇ事になってんだな」
「何で今更っ!白が何をした・・?夕月が何をしたって言うんだっ!!」
「おい、落ち着けよ。お前までそんなんでどうするんだ?お前はあいつを支えてやんなきゃいけねぇんだぜ?」
「剣八さん・・・」
「あいつは思い詰めると何しでかすか解かんねぇからな。しっかりしろよ京楽」
剣八は京楽に、思い詰めた白が危険を冒さないようにと釘を刺すと、京楽家を後にした。


第7話へ続く

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やっと悪代官(笑)とオリキャラが動き出しましたw
これから辻君(つじきみ)達が出張ってきますよ



12/02/01にアップしました。こちらも金魚の加筆修正は後程になります。




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