題「一族・長の資格」4
 翌朝、白は子供達を伴って学院へと向かった。子供達を何時までも休ませるわけにはいかないと、一緒に行こうと言う京楽には夕月のお守りを任せて送りにきたのだった。
「じゃあな、ちゃんと勉強するんだぞ?」
「はい」
「かか様も気をつけてね?」
「判ってるよ。さぁ、早く行け」
学院の門の前で子供達と別れ、子供達が学院に入るのを見届けると白はその場を離れた。足は自然と人気の無い場所へと向かっていた。


その頃、京楽邸では春水の兄が菓子折りを持って訪れていた。
「おや?兄貴、どうしたのさ?」
「白君の見舞いだ。白君は居るのかね?」
「白なら子供達を学院に送りに行ったよ。一緒に行こうって行ったのに、夕月のお守りと留守番をさせられちゃった〜」
「では、白君は居ないのか。ちょうど良い」
「兄貴?」
「昨日、ある貴族が白君の見舞いにと菓子折りを持って家に来たのだよ」
「へぇ、それがそうなの?」
「いや、これは私が用意したものだ。あれは処分した」
「・・・何があったの?」
「その貴族は『奥方様が大虚に襲われた』と言ったのだ。白君が大虚に襲われたことは未だ内密のはず。それを知って尚且つ私の所へ来たのだ。そんな者が持ってきたものなど素直に渡せるわけが無いだろう?」
「確かにね。学院の授業中に大虚が出たのは隠せないけど、そこに白が居たことは公表されていないものねぇ」
「しかも相手が白君達の父上を毒殺した貴族の家の者となれば、なおの事持っては来れないだろう?」
「何、だって・・・?」
「その事についてはお前には詳しくは知らせていないが、それを調べたのはうちのヤツだ。彼等はまた何か良からぬ事を企んでいるやも知れぬ。・・・気を付けるのだぞ」
「判ったよ。ありがとう、兄貴」
兄は白の見舞いと称して警告に来てくれたのだ、と京楽は陰ながら白を気遣ってくれている兄夫婦に感謝した。



学院からの帰り道、人気の無い場所まで来ると、白はその歩みを止めた。
「・・・出て来いよ、居るんだろ?」
「相変わらず勘の良い事だな、白」
「・・・天鎖・・・・」
黒髪の漆黒を纏った男が白の目の前に現れた。
「私と一緒に来る覚悟は出来たか?白」
「だから、何で今更なんだ?俺は一族を棄てたんだぜ?」
「一族はそうは思ってはいない。未だお前を『次期』と推す者も多いのだ」
「俺が次期長(おさ)候補だったのは、まだホンのガキの頃だぜ?今は・・・お前が次期だろう?」
「確かに今は、な」
「だったら、なんで今更俺を迎えに来るんだよ?」
「言っただろう、お前を『次期』と推す者は多い。今のお前の力は今の私と何ら変わらない。暴走すればさらにその上を行く。そのことが一族に知れたのだ」
「何・・・だって?」
「今にお前を次期にと騒ぐ者も出てくる。そうなる前に一族に戻れ、白」
「嫌だ」
「白!」
「長は・・・長は何て言っている?」
「何も言ってはいない」
それを聞いて白は安心した。白の一族にとって長とは一族の最終意思決定を担うのだ。その長が一言、自分を次期だと言えばそれは決定事項となる。もう自分の意思ではどうにもならない、逃げられる事は出来ないのだ。
「・・・だが、父はお前のほうが長に相応しいと思っている筈だ」
「長としては何も言わない、が・・・斬月さんはそう思っているのか?」
「恐らくはな」
「・・・・」
行きたくない、戻りたくはない・・・ここには春水が居る、子供達も居る。一族に戻り次期ともなれば、もう戻ってくることは叶わない。一族の長として一族の為だけに生きていかなければならなくなる。白は唇をかみ締めた。
「お前を連れて行く。もちろん子等も一緒だ」
「俺は行かねぇって言ってんだろ!?」
「それは解かっている。だが一族が黙ってはいない」
「長はお前がやればいいだろ?俺には無理だ!」
「お前の気持ちは解かっているつもりだ。だがせめて顔見世くらいはしろ。騒ぎになるぞ」
白と天鎖の霊力が同じであれば、一族には一族から離れて長い自分よりも、一族に身を置いている天鎖のほうが長には相応しいはずだった。しかし、霊力の一番強い者が長となる一族の慣わしからいけば、天鎖を越える霊力が自分にあるとすれば一族は黙ってはいないだろう。



「あれ?あそこに居るの、白さんじゃない?」
「ホントだ。だけど一緒に居るのは誰だ?見たことも無ぇ奴だな」
「そうだね、何の話をしているんだろうね?」
学院授業での大虚襲撃の件で事後所理や報告書の作成の為、学院に出向いていた弓親と一角はその帰り道に見知らぬ男と話し込む白を見つけた。
「ちょっと聞いてみるか」
「ちょ・・!盗み聞きなんて良くないよ、一角」
「あの白が人気の無い所で男と逢ってるなんておかしいだろ!?」
「それはそうだけど。まったく・・・あとで怒られても知らないよ」
2人は霊圧を極限まで下げて白達に近づいて聞き耳を立てた。

「お前を連れて行く。もちろん子等も一緒だ」
「俺は行かねぇって言ってんだろ!?」
「それは聞けぬと言った」
「しつこいぞ!」
「私は騒ぎを起こすつもりは無い。大人しく私に付いて来い」
「嫌だ!」
「何れ迎えに来る。それまでに覚悟を決めておけ」
言うだけ言うと風の様に消えた男と、呆然と立ち尽くす白。
「お、おい、今の・・・」
「何か、大変なもの見ちゃったね・・・」



隊舎に戻った弓親達。隊主室の剣八の元に行く。
「ただ今戻りました」
「おう、ご苦労だったな。後始末は終わったか?」
「はい、粗方は。後は現地調査だけです」
「それと、隊長。気になる事が・・・」
「あん?何だ?」
「それが・・・・」
弓親はちらりと外を見た。外では一護が幾望と一緒に庭掃除をしていた。
「何だ?一護に聞かれちゃマズイ事か?」
「ええ、ちょっと・・・」
剣八は机の上の書類から何枚かを抜き出すと、署名と判子を押した。それを束ねると外にいる一護に声をかけた。
「おい、一護!」
「何?剣八?」
「悪いがこれを届けてきてくれ」
「これを?・・まだ期限前じゃない。珍しいね、剣八が期限前に書類を提出するなんて」
「いつも提出が遅せぇって厭味ばかり言われるからな。たまにゃぁ早く出してもバチは当たらんだろうがよ」
「ふふ、そうだね」
「慌てなくてもいいからな。ゆっくり行って来い。何なら買い物でもして来い」
「判った!じゃあ行って来るね。晩ご飯のお買い物もしてくるね」
一護は書類を手にすると幾望と一緒に隊舎を後にした。

「さてと、何があった?」
「はい。今日、学院の帰りに見知らぬ男と話をしている白さんを見かけました」
「見知らぬ男だぁ?」
「男は白に自分と一緒に来いと迫っていましたぜ」
「何だと?」
「途中から聞いたんで詳しいことは判りませんが、子供も連れて行くと言ってました」
「白さんは突っ撥ねていましたけど、相手はかなり強引でしたね」
「ああ。有無を言わせねぇって感じだったよな」
「そいつはどんな男だ?」
「年の頃は一護君達と同じくらい、背格好も白さんとあまり変わらない、黒髪の男です」
「顔は見たのか?」
「いえ、後ろ向きだったんで顔までは見ちゃいません」
「現世でいうフード付きの黒いシンプルなロングコートを着ていました」
「お互い顔見知りって感じでしたけど・・・色恋沙汰ですかね?」
「そいつはあり得ねぇな。あいつが浮気なんざする訳が無ぇ」
「そうっすよね、過去の男って言うのも考えづらいしな」
「そうだよねぇ」
「何れ迎えに来るって言ってましたから、また来ますぜ?」
「どうします?隊長」
白に男の事を問い詰めた所で、白に言う気が無ければ聞き出すことは無理だろう。白が突っ撥ねていると言うことは大人しく付いていく気も無いようだ。
白のことだ、何があっても付いていく事は無いだろう。だが、問題は男の方だ。子供まで巻き込むつもりなら、一護をも巻き込むかもしれない。剣八はそれが心配だった。
「おめぇらはその男が一護に手を出さないか気を付けてろ」
「白さんのほうは良いんですか?」
「あいつはあいつで何とかすんだろ。下手に首突っ込むと余計ややこしくなる」
「判りました」
「一護には気付かれんなよ」
「判ってますって」
2人が退室して一人になった剣八は椅子にどっかりと座ると溜息をついた。
「まったく・・・あいつはいつも厄介ごとを運んできやがるぜ」
思えば最初の出会いからして厄介ごとだったな、と剣八は白い義兄弟の事を思い出していた。


第5話へ続く


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天ちゃんやっと名前出ましたww
立ち聞きはゆみちー&つるりんでw
某キャンペーンガールだと収拾が付かなくなりそーなんでね;



12/01/30にアップしました。





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