題「一族・長の資格」2
 漸く大虚が倒され、その跡に佇むように立ち尽くす白の姿。既にその手には白い刀は無く、その白い衣装も元の死覇装に戻っていた。
ふらり、と崩れる白の体を京楽が支えた。傍には卯ノ花が付き添っている。京楽に支えられた白の意識は無かった。
「こいつぁ驚いた。白の奴、こんなに強かったとはな」
「子供達を傷つけられて怒ったんでしょうね」
「まじでキレてたもんな」
「子等を護ろうと必死だったのであろう」
剣八、弓親、一角、白哉が白の戦いぶりを思い返して言った。
「・・・違うよ」
京楽がぽつりと零した。
「白は怒っていたんじゃないよ。怒りに任せていた訳じゃない、護ろうとしていた訳じゃないんだ」
「どういうことだ?」
「白は・・・」
「ん・・・しゅん、すい?」
「ああ、気が付いたんだね。白」
「春水・・そうだ!虚は!子供達は!?」
「大丈夫だよ。大虚は退治したよ。子供達もみんな無事だよ」
「ああ!」
「怖かったね・・・」
「しゅん、すい・・・」
「怖かったね、白」
「春水、春水!・・・お、俺、俺っ!!」
うわあああぁぁん、と大声を上げて白は京楽の胸にしがみ付いた。
「こ、怖かった!朝月が、ウルが死んじゃうんじゃないかって・・・!また、とと様やかか様みたいにっ!俺を、置いて行くんじゃないかって!怖かった!怖かった!!」
「大丈夫、みんな無事だよ」
「お、置いて、行かれるっ!また独りになる!嫌だっ!怖い!怖いよ!」
「誰も白を一人にしないから。もう誰も白を置いて行ったりはしないよ」
「う、ううっ・・ひっく・・・ひっく・・」
嗚咽をあげて縋る白の髪を優しく梳く京楽の目は、どこまでも慈愛に満ちていた。

その光景を見て生徒達はただ唖然としていた。授業で有得ぬ大虚に襲われ、席官や目にかかる事すら叶わぬ隊長達の戦闘を目の当たりにした。そしてその戦闘で圧倒的な戦いを見せ付けた白。恐怖さえ覚えたその戦いぶりは美しくもあり、見惚れてしまうほどだった。そんな白がいざ戦闘を終えてみれば、夫の腕に中で幼子のように泣きじゃくっているのだ。ただ『怖かった』と・・・・

泣き疲れ、幼い子供のように涙を浮かべて京楽の胸に縋って眠る白。
「まるでガキだな」
「白は子供だよ」
剣八の呆れたような声に京楽が答える。
「どれほどの力を持とうと、子供を産んでも。愛されるべきときに愛されなかった、護って貰うべき時に守って貰えなかった、白はまだ小さな子供なんだ・・・」
幼い頃に父親を目の前で殺され、家族から離れ一族と決別した白。
力もなく逃げ回るしかなかった幼い日からの孤独と絶望と恐怖は今も白を捕らえて離さない。
白は囚われたままなのだと京楽は言う。



「外傷は無いようですが衰弱が激しいです。恐らく爆発的に霊力を開放させた為でしょう。 四番隊にて治療いたします・・・よろしいですね?京楽隊長」
「ああ、よろしく頼むよ」
「では四番隊詰所へ。白君を運んでください」
卯ノ花に促され白を抱えて卯ノ花と共に京楽はその場を去っていった。
「で?なんでてめぇがここに居るんだ?六番隊隊長さんがよ」
「白をここに送り込んだのは私の一存だ。故に白に何かあればそれは私の責任だ。駆けつけるのは当然であろう?」
「は!随分と入れ込んでるじゃあねぇか」
「そう言う兄はどうなのだ、更木」
「俺はあいつに何かあったら一護が泣くからな、それだけだ。おい!弓親、一角!」
「「はっ!」」
「後のことはお前らに任せる。報告書も適当に書いておけ」
「分かりました」
後の指示をすると2人の隊長も去っていった。
「おら!てめえらもぼやぼやしてねーで帰るぞ!」
「さぁ、君達も帰ろう」
未だ呆然としている生徒達を一角が急き立て、心配そうにしている朝月達を弓親が促す。生徒達は漸く我に帰ったようにぞろぞろと学院へと足を進めた。



卯ノ花の所見どおり外傷も無かった白は四番隊の個室で眠っていた。
「外傷はありません。ただひどく衰弱していますのでこのまま安静にして頂きます。恐らく明日の晩には目が覚めるかと思われますのでご安心ください」
霊力の消耗が激しいため回復には時間が掛かるが、それ以外には問題が無いとの事。京楽は白を四番隊に預け帰っていった。夕方、白の見舞いに京楽一家や隊長たちが訪れたが、眠ったままの白の姿を見て早々に引き上げていた。その後も隊士たちの見舞いがあったが『面会謝絶』の札にそれは叶わなかった。

白の見舞いから帰った京楽家では夕月が不安に怯えていた。
「パパ、ママは大丈夫ですか?お家に帰れるですか?」
「大丈夫だよ、夕月。ママは疲れて眠っているだけだからね。ただ・・・ちょっと疲れすぎちゃったからすぐには起きられないんだ」
「母上には卯ノ花様もついておられる。心配するな、夕月」
「かか様の事だから、きっと『腹減った!』って起きるわよ。心配ないわ」
「泣いてばかりいては母上が心配する。だから泣くな、夕月」
「にいちゃ、ねね様。・・・はい、泣かないです!」
「良い子だ、夕月」
「良い子ね」
「朝月もウルも疲れているだろう?もう休みなさい。夕月は僕が寝かせるから」
春水から休むように言われ、朝月とウルキオラは自室へと向かった。その途中。
「ウル・・・・・ありがとう」
「?」
「かか様を怖くないって言ってくれて」
「そのことか。俺も驚きはしたが・・・どのような母上も母上であろう?違うか?」
「そうね。あぁ〜あ、私って駄目ね。かか様のことは何でもわかっているつもりだったのに」
「朝月は母上の事を良く解っているだろう?俺は驚かされてばかりだがな」
「そうなの?でもウルって顔に出ないわよね。どうして?」
「母上は・・・ビックリ箱の様だからな」
「あー、慣れたってことね」
良い得て妙だな、とウルの例えに納得する朝月だった。



剣八が隊舎に戻ると門の所で一護が待っていた。
「剣八!」
「おう、態々出迎えか?一護」
「それもあるけど・・・、にぃにに何かあったでしょ?さっき感じた」
「ああ・・・(そういや双子だったな。なんか感じ取ったか)」
「ね・・・剣八、教えて?」
上目使いで見上げて来ては小首を傾げて強請る一護。
「ああ、後でな」

 剣八は二人の寝室まで行き、二人きりだと確かめてから話し始めた。
「学院で大虚が出てな」
「大虚?」
「簡単に言うとでかくて強ぇ虚のことだ」
「そんなのが出たの!子供達は大丈夫だった?にぃには!?怪我してない!?」
一護は剣八の死覇装の袷を掴んでガクガク揺さぶった。
「落ち着け。ガキ達は無事だ。ただ白の奴が大虚の霊圧に当てられたんでな、様子見で入院だ」
「にゅ・・・!け、怪我は・・・?」
「なんもねぇ。ただ寝てるだけだ、安心しろ」
「ん・・・分かった。良かった・・・誰も怪我しなくて・・・」
剣八の肩口に額を預け、そう呟いた一護。その頭を優しく撫でてやる剣八が居た。


その晩、灯りの落ちた白の病室に一人の男が現れた。
「我等の封印を力ずくで解いたか・・・無茶をする」
気配を隠し、誰にも気付かれることなく白のベッドの傍らに佇む漆黒を纏った男。
「護られるべき時に護られなかった、か。耳の痛いことだ」
男は昏々と眠る白の体に手を翳すと白の体に霊力を込めていった。
「・・・・これでいい。だが」
白の体から手を退けベッドから離れ白を見つめる男。
「この先、お前はどうするつもりなのだ?白」
そう言い残すと男は気配の残滓も残さず一瞬で姿を消していた。


翌朝、白が目覚めたとの報を受け京楽一家が駆けつけた。朝月とウルキオラは学院から休暇が出されていたのだ。
病室には卯ノ花とベッドに座る白が居た。病室に入ると白の膝に飛び乗り甘える夕月。朝月もウルキオラも白の傍に駆け寄っていた。そんな子供達の様子を見守りながら、京楽は卯ノ花に話しかけた。
「随分と早いんじゃない?確か目が覚めるのは今日の晩だって言ってたでしょ?」
「ええ。霊力の回復が早すぎます。しかし検査の結果も異常はありませんのでこのまま退院なさっても結構ですよ」
「ホント?良かったね、白。もう退院できるってさ」
「おう!春水、早く帰えろーぜ。俺腹減った!」
「かか様ったら現金ね」
滲んだ涙を指で拭いながら鼻声のまま笑う朝月。
「ねね様の言ったとおりです!ママ、お腹すいたって言ったです!」
「だって昨日の朝から何も食ってねーんだ、仕方ないだろ?」
「では、帰ってすぐに食事の準備をします」
「え?でも、お前ら学院は?」
「暫くの間、学院から休みを頂きました」
ウルキオラが答えた。
「そっか。じゃぁ帰るか。ありがと、卯ノ花さん」
嬉々として退院準備を済ませると白は子供達と病室を後にした。
「京楽隊長」
白たちの後を追うように病室を出ようとした京楽を卯ノ花が呼び止めた。
「何?どうかしたの?卯ノ花さん」
「白君ですが、検査では異常はありませんでした。霊圧も安定しています。しかし・・・」
「しかし?」
「戦っていた時の記憶がありません。暴走ともいえる霊力の開放の影響かと思われますが、そのことで白君を刺激なさらないほうが宜しいかと」
「・・・判ったよ。ありがとうね、卯ノ花さん」
京楽は卯ノ花に礼を言うと、白と子供達の後を追った。


その日の隊主会で、白の学院授業の参加は朽木隊長の個人的な要請によるものと不問にされ、白の戦闘行為は内密とし大虚出現で隊長格が出動した、となった。
「かか様、格好良かったのに・・・」
残念だわ、と肩を竦める朝月。
「かか様は覚えていないんだよ。だから、ね?」
「うん、分かった」
「学院のほうも口止めしてあるからね」
「噂にする者があれば私が止めます」
「・・・殺しちゃダメだよ?ウル」
「・・・・・・・分かりました」
京楽は子供達にも白への口止めをしておいた。




白が退院して暫くして、四番隊を訪れた数人の若者がいた。
「すみません、こちらに京楽隊長の奥方様がいらっしゃると伺ったのですが」
「なんだ?お前達は?」
「はい、以前奥方様にお世話になった者でございます。奥方様が倒れられこちらにいらっしゃると耳にしまして」
「奥方様のご様子が気になり、こうして参ったのでございます」
「奥方様のご様子は如何なものでしょうか?」
「白さんなら、もう退院されましたよ。」
「退院された?奥方様はご無事だったのですか?」
「今頃はお屋敷のほうでしょう」
「それは良かった」
「もう回復なされたのか」
「ご無事で良かった」
若者達は安堵の表情を浮かべ、喜び合っていた。
「奥方様がご無事と知り安心しました。有難うございました」
若者達は隊士に丁寧に礼を言うと帰っていった。その姿を遠くで見つめる黒い影があったが、それに気付く者はいなかった。



第3話へ続く


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やっと黒い人出ました・・・・
ついでに余計な人達まで出しちゃいました・・・
この先の展開、どーしろと・・・?

京楽家の会話加筆
白ちゃんはビックリ箱w



12/01/30にアップしました。今回は何も加筆しておりません。
12/02/01に加筆しました。剣八と一護の会話の所です。双子なのでちょっとシンクロします。(『新婚旅行』参照)
02/03にちょい加筆。

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