題「捨て猫」5 | |
次の日になると一護がお手伝いしている事は護廷中に広まっていた。 理由は皆知らない。一護も広まっているとは気付いていなかった。 「可愛いですね〜」 「ホントにね」 「更木隊長がうらやましい!」 そんな声の中に一護を良く思わない者の声もあった。 一部の死神や、貴族たちだった。 何故?自分達では無くあんな猫風情が隊長格に可愛がられるのか? 特に貴族達は白哉が一護を可愛がっている事実に歯噛みしていた。 その日も一護はお手伝いに精を出していた。 今日は卯ノ花隊長に言われて浮竹隊長の所へ薬を持っていくのだ。 大事そうに抱えた紙袋は胸の所でカサカサと音を立てていた。 もう少しで雨乾堂だと言う所で一護は足を引っ掛けられて転ばされた。 「あうっ!」 「イッテェな!どこに目ぇ付けてんだ!このガキ!」 自分で転ばせておいて頭ごなしに怒鳴りつけてくる数人の男達。 「あ、あの、ごめんなさい。怪我はない?大丈夫?」 と心配そうに聞いてくる一護に、 「まぁ猫だからしょうがねえよなぁ?」 「なんだ、コイツ人じゃないのかよ?」 「知らねえの?つい最近猫から人になったんだってよ」 「げ!化け猫じゃん!どこで暮らしてんだよ」 「十一番隊だとよ」 「はっ!あそこなら考えられるな!野蛮人ばっかじゃねえか!」 ぎゃはははは!と笑う男達に一護が、 「皆を馬鹿にしてるのか?だったら取り消せよ!」 と言い返した。 「別にぃ?なあ?」 「ああ、らしいって言ってんだよ」 くっくっく、と低く笑いながら一護を値踏みするかの様にじろじろ見て来た。 「な、なんだよ」 「いやぁ?その身体で隊長格と遊んでんのかと思ってよ?」 「遊ぶ?俺の身体なんだから俺が遊ぶだろ?」 言われた意味を額面通り受け止める一護を哂う男達。 「なんなんだよ!お前ら!」 「別に・・・、ただお前がむかつくんだよ!」 ドボッ!と一護の腹に蹴りを入れて来た。 「がッ!かは!けほ!な・・にすんだよ!」 「ムカつくつったろ、なんでお前ばっか可愛がられてんだよ?こっちは死にモノ狂いで戦って、今の生活手に入れてんだよ!ヘラヘラ笑って寝てるヤツがよぉ!」 あちこちから罵声と共に蹴りが飛んできた。 「う!ぐっ!ぐう!」 全ての攻撃は、傷が見えない腹など着物に隠れる所に付けられた。 「ったく、猫は猫らしくそのままでいりゃあ良かったのによ!」 「まったくだぜ。もしかして『愛』されてるとか思ってんのか?」 「馬鹿みてぇだな、義理だろ?分かり切った事じゃん」 「だよなぁ、コイツを人にしちまったからただのアフターケアだよな。義務でやってんだよ」 そんな事を言い捨て、気が済んだのか一護を解放し帰っていく男達。 「いたた・・・、あ!薬!」 周りを見ると少し離れた所に転がっていた。 「良かった・・・!綺麗だ。わ、服が土だらけだ・・・」 涙が込み上げた。あいつらは一体誰なんだ?なんであんな事を言われないといけないの?身体の痛みと心の痛みが綯い交ぜとなった。 「だめ!泣いたらダメなの!俺は、俺も更木隊なんだ!こんな事で泣いちゃだめなんだ!」 と立ちあがると服の土を払い落すと雨乾堂に急いだ。 雨乾堂に着くと一護は浮竹を呼んだ。 「浮竹さん、居ますかー?」 すぐに返事は返され、中に通された。 「やあ、いらっしゃい一護君!今日はどうしたんだい?」 「今日はお仕事なの!これをね、卯ノ花さんから届けてってお願いされたんだよ」 「そうかそうか!エライなぁ、一護君は!」 なでなでと頭を撫でてやった。 「やッ!」 「一護君?」 「あ・・、ごめんなさい、まだお仕事あるからもう帰るね!」 と急いでその場を離れた。 一護は急いで四番隊へ戻ると、仲良くなった花太郎を探した。 「居ないのかなぁ?花・・・」 次第に痛みがひどくなってきたので花に治してもらおうと思ったのだ。 「あれぇ?一護さんじゃないですか。何してるんです?そんなとこで」 「あ!花!良かった、探してたの!」 「どうしたんです?」 「あのね、誰にも言わないでくれる?」 と固く口止めをして、さっきの事を話して怪我を治してもらった。 「でも、良いんですか?更木隊長に言わなくても・・・」 怪我を見た花は心配になった。内臓には影響はなさそうだったが、内出血がひどかった・・・。 「うん・・・、だから花も絶対言わないでね?迷惑掛けたくないの・・・」 「良いですけど、怪我したらいつでも来て下さいね?治すくらいしか出来ませんけど・・・」 と申し訳無さそうに告げると、 「そんな事ないよ!すごく嬉しいよ!ありがとね、花」 そう言って帰って行った。 ○月7日 しらないひとたちに、いじわるいわれた。だれなんだろ?あのひとたち。いっぱいけられた。いっぱいいやなこといわれた。むねのおくがいたいな。 だが、腹への攻撃は後からじわじわと襲い来る・・・。 その日も剣八に抱かれ気絶した後、眠っていた一護は気持ち悪くて目が覚めた。 「ん・・、うえ、気持ち悪い・・・、なんだろこれ?」 隣を見ると、やはり剣八は居なかった。 取りあえず厠へ行こうと廊下に出て立ちあがると、腹部に鈍い痛みが走った。 「あ!う・・・!早く、かわや・・・」 ほうほうの体で辿りつくも、中に入れず外にある水道の所で戻した。 「うっ!うえ!げえっ!げえっ!げほっ!え!うえぇ!」 ジャー!ジャー!と水の流れる音が長く聞こえるのに気付いた弓親が見に来ると一護が倒れていた。 「一護君!どうしたの!何があったの!隊長は!」 ゆさゆさと一護を起こした。 「あ・・、弓親・・・?ごめん、ちゃんと帰るから・・・」 「そんな事言ってない!何があったの!隊長は?」 「・・・剣八居ないの。いつも居ない・・・」 「もう大丈夫だから・・・、迷惑かけてごめんね?剣八に心配かけたくないから、内緒ね?」 そう言ってよろよろと部屋へと帰って行った。 次の日のお昼時、一人で食堂で昼食を食べている一護を貴族と思しき男達がやって来て取り囲んだ。 「な、なあに?」 戸惑う一護に、 「猫はネズミを食うんだろう?捕ってきてやったぞ、早く喰え!」 と一護が食べていたうどんの中にネズミを放り込んだ。 「俺、こんなのもう食べないよ?ヒトは食べないんでしょう?」 不思議そうに、悲しそうに聞いてきた一護。 「猫が人に盾突くか?喰えばいいんだよ!ガキが!ほら!ほらよ!」 一護を押さえつけて無理矢理口へと持っていった。 「やあっ!やだ!痛!痛いよ!やめてよ!」 派手な音をさせテーブルの上の食器や食べ物を巻き込み床に倒れる一護。 「は・・・!喰ったぞこいつ・・・。はは!ははは!ヒトの振りをしていても猫だな!ははははは!」 床に蹲った格好の一護が男達を睨みあげた。 「うるさい・・・、なんだよ・・・お前・・・。そんなに偉いのか、こんな事するのが人間だっていうなら俺は猫のままでいい・・・!」 一護の身体から溢れる霊圧で周囲の物は薙ぎ倒され、他の死神も倒れていった。 怒りのあまり恐ろしい形相になる一護。髪は逆立ち剥き出しになった牙は大きく尖り、目の虹彩は縦に伸びている。 食堂が半壊した頃に剣八が現れた。力の籠った指がピクッと動いた時、一護を止めた。 「落ち着け一護」 「だって!コイツが!」 「こんな野郎の命をお前が背負うこたぁねえよ」 「ば!ばけもの・・・!この化け猫がぁ!さっさと始末すればいいものを!」 「ばけもの・・・」 「聞くな、お前の耳が汚れる。帰るぞ」 まだ何事か喚く男達を捨て置きそこから立ち去る剣八と一護。 「化け猫ってなんだろ?・・ね?剣八・・・」 「知らなくていい事だ。お前は人だ、忘れろ」 「う、うん・・・」 きゅうっと剣八の袖を握り締める一護だった。 第6話へ続く 10/01/27作 ノーコメントで・・・。 |
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