題「捨て猫」6.追跡
 その日剣八は朝から弓親に質問されていた。
「隊長・・・、最近夜にどこへ行かれているんです?」
静かだが怒りが感じられた。
「あん?テメエに関係あんのかよ?」
と凄んでみせるも、
「僕には関係ないでしょうね」
と返され、
「ならほっとけよ」
「・・・一護君は知ってるんですか?」
と聞かれた。
「・・・あいつはいつも寝てる」
「行かれてるのは、遊郭ですよね・・・?」
口にしながらも弓親は心の中で外れてくれと願っていた。
「・・・ああ」
とバツの悪そうな、キレの悪い返事が返って来た。
「・・・昨晩、一護君が廊下で倒れてまして・・・」
「何・・・?」
「吐いて、その場で力尽きた様でした。様子もおかしかったです、何かあったのかも知れませんので注意が必要かと思います」
「何かってなぁ、なんだよ」
「一護君を良く思わない輩も居る様ですから」
とそんな話をしていた矢先の出来事・・・。

こういう事か・・・。と剣八は心の中で毒づいた。隣りの一護はまだ袖を握っている。その様が愛らしくて懐手にしていた片腕で抱き寄せ、唇を奪った。

「!なっ!なっ!いきなり!」
真っ赤になった顔が可愛かった。
「なんでもねえよ」
と一護の肩を抱き隊舎へと連れて帰った。

その夜も一護は気絶してしまうまで抱かれたが、剣八は満足していなかった。
「・・・昨日の今日だしな・・・止めとくか・・・」
だが未だ治まらない熱を持て余し、結局いつもの店に行くことにした剣八。

「ん・・・、あ、剣八また居ない・・・」
一人残された一護が隣りの蒲団を触るとまだ暖かった。
「きっとまだ近くに居るよね」
と着物を羽織り、剣八の後を追った。

 毎晩剣八がどこに行っているのか?付いて行って確かめる一護。

花街の入り口で剣八の後ろ姿を見つけた一護。バレないように後を尾行け、華やかな建物に入っていくのを見届けた。
暫くしても、出て来ないので、敷地内の木の陰に隠れて待っていると声を掛けられた。
「そこに誰かおりなんしか?子供?ここは子供の来るところじゃありんせん、お帰りなんし」
「ここ何するところなの?おねえちゃんたちなにしてるの?」
「なにって・・・、ここは遊廓、わっちらは金で身体を売ってるのっさ」
「身体って売れるの?売ってどうするの?」
「買った男に抱かれるのさ・・・。その時だけの恋人、情人さね・・・」
「ふ〜ん・・・、なんで剣八はここに入って行ったんだろう?」
と説明されてもよく分からなかった一護はぽつりと呟いた。
「?知った人でも来なんしたか?それなら、ここに来たなら遊女を抱いてるんでありんすよ」
さも当然だと言う風に言われた一護は、
「そ!そんな事無いもん!剣八はそんな事しないもん!今日だって俺の事!!」
くしゃくしゃに顔を歪めて泣き出した。
「抱いて・・っくれて・・・」
「ああ、ああ、泣きやみなんし。男なんざぁそんなもんさ」
そう言って白い手を伸ばし、一護の涙を拭ってくれた。
「くすん、ゴメンね、邪魔しちゃって。あの、またお話しに来てもいい?」
「わっちらは構いせん。いつでもおいでな」
「うん、ありがとう」
そうして一護は先に帰っていった。
(剣八と言うと、最近良く通う様になった更木の隊長様・・・、白露の姐さんと風花(かざはな)の姐さんを良く呼ぶとか・・・)
遊女は一護の姿を思い出すと、
(なるほど、風花姐さんの髪と似てる、白露姐さんの肌を思い出させる。罪なお人でござんすねぇ・・・。姐さん達は弁えてらっしゃるが、あの子にはまだ分かりゃしないだろうに・・・)
剣八が何故ここに通い出したのか、気付いた遊女。だがきっと一護にはそれに気付く事は難しいだろう。
まだ子供なのだから・・・。

隊舎へと戻った一護は、すっかり冷たくなった蒲団へ潜り込むと、
(剣八・・・女の人抱いてる、のかな?女の人の方が良いの?俺も女の人みたいな格好した方がいい?)
などと考えては眠りに落ちていった。

○月8日
剣八がどこにいってるか、わかった。ゆーかくってところで、おんなのひとだいてるみたい。おれもおんなのひとのカッコのほうがいいのかな。

次の日、一護は乱菊の所に相談しに行った。
「乱菊さん、あのね、俺ね・・・」
「なあに?どうしたの、切羽詰まった顔しちゃって」
「ん、俺、剣八好きだから誰にも取られたくないの、でねどうしたらいいのかな?」
「どうしたらって・・・、ん〜そうねぇ。お花を贈ってみたり、一護の好きな物をあげたり、そうだわ!手作りのお弁当なんかも良いかもよ!」
「贈り物・・・、お弁当・・・、でも俺、お料理作れない・・・」
しゅん・・・と項垂れる一護に、
「大丈夫よ!あたしが教えてあげるわ!味の保証は出来るから!安心なさい!」
と励ましてくれた。
「うん!ありがとう!よろしくお願いします!」
とその日から一護の料理のレッスンが始まった。

○月8日
らんぎくさんにおねがいして、おべんとうのつくりかた、おしえてもらう。剣八ににあうおはなってどれかなぁ?

一護は道端で咲いていた花を何本か摘んでは、上に翳して眺めたりしてニコニコしていた。

隊舎。
「弓親〜、このビン貰っても良い?」
「うん?ビン?何するの、ああ、お花を飾るんだね」
「うん!剣八にあげるの!」
と水を入れた瓶に野の花を活け、隊首室へと持って行った。
「剣八!・・・あれ、いないや。ま、いいか、ここに置いとこうっと!」
隊首机の目立つ所に花を置くと出ていった一護。

その後帰って来た剣八がそれを見つけると、
「なんだこりゃ?」
と全員を見回した。
「ああそれですか?お昼過ぎに一護君が飾ってましたよ」
可愛いですねぇ。と弓親が言えば、
「ふん・・・」
と鼻を鳴らす剣八。
書類を片付ける時にも目に入り、和みはするが、邪魔になる。そう思っていると溜めに溜めた書類の一部が雪崩を起こした。

バサバサッ!ガシャン!
「あ〜あ〜・・・」
花を生けた瓶が倒れ、書類と机は水浸しになった。
「どうしましょ・・・」
「しょうがねえだろ。新しいの貰って来い」
「ええ〜!溜まってる上に新しいの貰うんですかぁ!何言われるか分かりませんよ!」
「ったく!一護のヤツ・・・」
一角が呟いてると、ぴょこっと顔を出す一護。
「呼んだ?あ、お帰り剣八!あのね!今日ね!綺麗なお花があったから剣八にあげようと思って・・・どうしたの?」
「どうもしねえさ・・・」
机の上を見るとぐちゃぐちゃになり、花も何もかもが潰れていた。
「あ・・・お花・・・」
「花じゃねえよ、あのビンが倒れた所為で書類が駄目になっちまったぜ」
「え・・・俺のせい?」
「そ、そう言うわけじゃねえけどよ・・・」
「ごめんなさい・・・、俺、新しい書類貰ってくるから!」
「良いよ、一護君。良かれと思って飾ってくれたんだし・・・」
「でも・・・。ごめんなさい・・・俺、役立たずだ・・・」
ぐずっと洟を啜る音が聞こえた。

こんなはずじゃなかったのに・・・。

喜んでもらいたかっただけなのに・・・。

どうしよう・・・。

「おら泣いてんじゃねえよ、弓親」
「あ、はい」
「最近こいつになんかやらしてんだろ?気が紛れる様になんかやらせとけ」
と剣八が言うので、
「そうですね・・・、じゃあ一番隊にこれを持って行ってもらおうかな?」
「うん・・・、頑張る!」
「じゃあこっち来て?」
と部屋から出すと、
書類とお駄賃の百環を渡した。
「・・・今日はいい・・・」
と一護が言えば、
「お使いはお使いだよ。ハイ!」
と握らされた。
それを持って一番隊に行く一護だった。


第7話へ続く



10/05/25作  剣八がどこへ通っているのか付き止めた一護。さてこれからどうなる?



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