題「捨て猫」7.空回り | |
一番隊に書類を持って行った一護はその帰り道、弓親に貰ったお駄賃でお菓子を買った。 「剣八食べてくれるかなぁ?大事な書類ダメにしちゃったし・・・」 とその手に握られた百環で買えるお菓子を買った。いわゆる駄菓子だったけれど一護は大好きなお菓子を少しずつ買って袋に詰めて貰った。 「これだけあれば、どれか食べてくれるよね」 てくてく歩いて十一番隊に戻った一護。 「ただいま!剣八!コレね、お菓子なんだけど・・・」 隊首室に帰って来た一護が色んなお菓子が詰まった袋をおずおずと差し出す。それを一瞥すると剣八は、 「甘いモンはあんま好きじゃねえんだよ」 と言ってお茶を啜った。 「あ・・・そうなんだ・・・さっきの事ごめんなさいしたかったんだけど・・・」 しょんぼりした後にっこり笑って、 「好きじゃないなら、しょうがないよねぇ」 と言って呼び止める間も無く隊首室から出て行った。 とぼとぼとお菓子を持って道を歩く一護。 「どうしようかなぁ、これ・・・」 誰かの為に選んだのに自分で食べるしかないのかな?なんだか悲しいや・・・。 「いっちご!どうしたの?今日は一人なの?」 後ろから乱菊が抱き付いて来た。 「乱菊さん・・・、あの、これ、食べる・・・?」 「どうしたの、これ」 「えっと、俺のせいで書類がダメになったから、剣八にごめんなさいしたくて買ったんだけど、甘いの好きじゃないって言われてそれで・・・」 「ああ分かったわ。そうね、とっても美味しそうだわ、皆と一緒に食べましょ?卯ノ花隊長も呼びましょうよ」 「ままも・・・?」 「そうよー?一護も一緒にね」 「いいの?俺も?」 「当たり前でしょ!さ!行きましょ!」 と乱菊と一緒に女性死神協会のアジトに遊びに行った。 そこにはメンバー全員と卯ノ花隊長が待っていた。 「・・・まま!」 ばふっ!と卯ノ花隊長の胸に飛び込む一護。 「あらあら、どうしました?一護君」 「俺・・・俺、困らせるつもりじゃなかったの!お花あげたかっただけなの・・・でもそのせいで書類が水に濡れてダメになっちゃったの・・・」 「あらあら・・・」 優しく一護の髪を撫でる卯ノ花隊長。 「その事ごめんなさいしたくてお菓子買ったんだけど、剣八甘いの好きじゃないって、俺、役立たずだ・・・!」 「まぁ!そんな事ありませんよ」 「でも、だって・・・」 「じゃあ一護、手作りのお料理でも作ったら?」 「でも、俺、お料理出来ないもん・・・」 乱菊の提案に弱気の一護。 「だぁいじょうぶよ!あたしが教えてあげるから!ね?」 しばしの沈黙の後。 「俺にも出来るかな?」 「練習したら出来るわよ!」 「今度は喜んでもらえるかな?」 「もっちろんよ!」 「じゃあ・・・、俺、やりたい。乱菊さん教えてくれる?」 「良いわよ!じゃあ早速今日から教えてあげるからね!」 「うん」 「慣れてきたらお弁当作って渡せばいいわ」 「うん!」 漸く笑顔になった一護に他の者もホッと息を吐いた。 その日から剣八には内緒で一護の料理レッスンが始まった。 さて、根付の軍資金は? 「あとちょっとだ・・・あと百環・・・」 明日には買えるかも知れないと嬉しくなった。 翌朝、一番隊に書類を持って行く一護。 やっと千五百環が貯まったのでにこにこしながら書類を届けると総隊長に声を掛けられた。 「何か良いコトでもあったかの?一護」 「えへへ、あのね、剣八あげたい物があってね、お手伝いしてお駄賃貯めてたの」 「ほう」 「やっと買えるまで貯まったんだ~!」 「そうかそうか。じゃが丁度の額じゃ不安じゃのう」 「そ、そうかな・・?」 「うむ。一護、駄賃をやるでな、儂の肩たたきをやってくれんかのぅ?」 「かたたたき?俺でいいの?やったことないけど?」 「よいよい、ほれ早速やってくれんかの」 「うん!」 一護は総隊長の後ろに行き、その肩を拳でトントン叩いた。 「こう?」 「そうじゃ、気持ち良いのう」 「えへへ、良かった」 トントン、トントン、リズミカルに叩くこと十五分。 「もう良いぞ、良う頑張ったのう。これは駄賃じゃ」 と一護に手に乗せた額は、これまでで一番多い五百環だった。 「こんなに!多いよ!おじいちゃん!」 慌てて返そうとする一護に、 「良い、儂の感謝の気持ちじゃて。受け取ってくれまいか一護」 そっ、と手を握らせる総隊長。 「ん・・・。ありがとう!おじいちゃん!」 にっこり笑う一護につられてほっこり笑う総隊長だった。 その日の夕方に一護はいつかの出店へビードロの根付を買いに行った。 「こんばんは、おじさん約束通り買いに来たよ。あの根付まだある?」 頬を薄紅色に染め、息急き切って店のおじさんに聞いた。 「やあ、この間の坊やだね。本当に来たんだねぇ。丁度最後の一個だよ、はい」 とその手に乗せてやる。 「わぁ・・・!やっぱり綺麗・・・」 うっとりと眺めた一護は、 「あとね、コレとコレ・・・おかね足りるかな?」 「そっちはまだ安いからねぇ・・・、全部で千八百環だね」 「足りた!えっとこれで!」 十八枚の百環玉を渡すと、 「コレどうしたんだい?」 と数えながら聞いて来たので、少し誇らしげに、 「えへへ~、毎日お手伝いしてもらったの!で、今日貯まったんだよ!」 「へえ!えらいねぇ!」 数え終わり、品物を一つずつ分けて袋に入れて行く。 「はい!お待ちどうさま!」 「ありがとう!」 満面の笑みでお礼を言い、隊舎へと帰る一護だった。 「ただいま!剣八!剣八!」 「お帰り一護君。隊長なら部屋だよ」 「ありがと!弓親」 「ふふ!根付買えたのかな、嬉しそうに」 一護の後ろ姿を見ながら呟いた弓親。 「剣八、居るの?」 「おう」 すらりと障子を開けると蒲団の上に胡坐を掻いて座る剣八が居た。 「どこ行ってた?」 「あのね、これ買いに行ってたの」 かさりと小さな紙袋を差し出す一護。 「なんだそりゃ?」 「あのね、ビードロの根付なの。とっても綺麗でね、剣八に似合うと思ったの」 微かに温かいそれを受け取ると中身を出した。 「ほお・・・」 緑青色の透き通ったビードロの根付。雫の形に赤い組み紐で編まれていた。 「剣八のお目目の色と似てるでしょ?とっても綺麗・・・」 「・・・どうやって買った?」 「え?えと・・・」 「最近なんかやってたなぁ、コレの為か?」 「う、うん」 怒ったのかな?コレも要らないの、かな? ドキドキと緊張して来た一護の頭にぽすん、と手が置かれた。 「ふえ?」 「ありがとよ。気に入ったぜ」 「~~っ!良かったぁ!」 ぎゅうっと剣八に抱きつく一護。 ○月8日 おはな、あげたけどしっぱいしちゃった。おかしもすきじゃなかった。おじいちゃんのかたたたきしたら五百かんもらった。びーどろかえた!剣八がよろこんでくれた!おれもうれしい!こんどは、おべんとうたべてくれるかな? その夜も剣八に抱かれたが気持ち良すぎて気絶した一護。 物足りない剣八は遊廓に足を運ぶ。 「・・・居ない、やっぱり女の人が良い、のかなぁ・・・」 剣八が居ない隣りの敷布に顔を擦り付け匂いを探す。そのうち眠ってしまった一護。 ○月8日よる また剣八いない。ずっとねむったままならいいのに・・・そんなおくすりあるかな? 翌日、六番隊へ遊びに行く一護。 「びゃーくや!居る~?」 「どうした、一護」 「えへへ、あのね、これあげる」 「なんだ、それは?」 「ビードロの筆置きだよ。青いのがあったから、要らない・・・?」 「いいや。有り難く頂こう。礼にこの菓子を食ってゆけ」 差し出されたお菓子に、 「辛いお菓子?」 と首を傾げる。 「いいや、甘いはずだ」 「うん、いただきま~す!」 ぱくん!と一口食べると上品な甘みが口中に広がった。 「ふわぁ。美味しい!」 「好きなだけ食べるが良い」 「うん!」 一口大の大福を食べる一護。 「あ、おじいちゃんの所にも行かなきゃだった」 「そうか、ではな」 「うん!またね~」 と出て行く一護。 一護は他の隊のお世話になった人に筆置きを配った。 四番隊。 「まま!こんにちは!」 「こんにちは、一護君」 「あのね、剣八に根付買えたの。まま達のおかげなの。これそのお礼」 と差し出したのは紫色のビードロの花が付いた髪飾り。 「まあ、かわいらしい。これを私に?」 「うん、ままお花好きでしょ?」 「ええ、ありがとう一護君」 嬉しそうに笑う卯ノ花隊長に安心した一護。 最後に総隊長の所へやって来た。 「おじいちゃん!こんにちは!」 「おお、よう来たの」 「あのね、今日はお土産があるの。さてなんでしょう?」 悪戯っ子の様に後ろ手に何かを隠す一護。 「ほう、お土産なぁ?なんじゃろうな?」 「それはとてもきれいな物です」 「ほ、ヒントをくれるのか。ふうむ、なんじゃろうな?花かの?」 「それは硬くて冷たい物です」 「硬くて冷たい?ほほう」 「分からない?」 「降参じゃ、教えてくれ一護」 「えへへ!正解はこれです」 紙袋を渡す一護。 「開けても良いのかの?」 「うん!」 カサカサと開けて行くとそこには中心がオレンジ色で周りが赤い丸いビロードの文鎮だった。 「ほお、綺麗なもんじゃの」 「おじいちゃんはいっぱい書類があるから、それだと飛ばされたりしないでしょ?」 「そうじゃの、ありがとう一護」 わしゃわしゃと頭を撫でてやった。 「喜んでくれて嬉しいな」 「早速使わせてもらおうな」 「うん!」 一番隊を後にすると乱菊の所へ行った。 その途中でまたもや知らない男たちに転ばされた一護。 「痛ぁ・・・」 起き上がろうとする一護の腹を手加減せずに蹴りあげる。 「げほっ!な、何する、の!」 「うるせえ猫だなぁ?にゃーにゃーとよぉ」 「なんの芸もねえんだったらこっちのストレス解消に役立てよな!」 一方的な暴力に只管耐える一護。 「化け猫が、ヒトの振りなんざ土台無理なんだよ!」 「猫は猫らしく丸まってりゃ良いんだよ!」 「お前はヒトじゃねえんだからよぉ!」 聞かされるのは呪詛に近い罵詈雑言だった。 「う・・・っ、く・・・」 やっとのことで男たちが去ると暫く木の根元で休んで花太郎に怪我を治してもらった。固く口止めをして・・・。 「乱菊さ~ん!来たよー」 「遅かったわねぇ。さ、始めましょ!」 「はあい!」 練習の甲斐あって火も上手く扱えるようになった。 「ん!もう良い頃でしょ!明日お弁当作って更木隊長に渡しなさいよ」 「うん、ガンバるね!」 第8話へ続く 10/09/02作 見えない所での陰湿ないじめは続いています。決して悟られまいと隠し続ける一護。 孫の様に一護を可愛がる山本爺ちゃん。 旦那=剣八。兄=弓親。第二の母=卯ノ花。お祖父ちゃん=山本。大体こんなポジション。 |
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