題「捨て猫」1.お祝い
 庭で蟻の行列を見てたら弓親に声を掛けられた。
「一護君、何見てるの?」
「あり」
「あり?あ、蟻か。面白い?」
「うん、みんなで虫の死骸運んでる」
「そう、それより良いことがあるからこっちおいで」
とにこやかな顔で呼ばれたので一護は、タタタと走って行った。

「なあに?弓親」
「こっちだよ、隊首室」
と誘われるまま、一緒に隊首室へと入って行った。そこにはやちるや一角などが待っていた。
「なに?どうかしたの?」
「ふふ!あのね一護君が人になってから一ヶ月経ったでしょ?それのお祝いだよ」
「おいわい!」
「僕からはコレ。もう字も書けるようになったしね、日記を付けるのも良いんじゃないかと思って。日記帳だよ」
「わあ!ありがとう!弓親」
「俺からはコレだ、ラクガキ帳とクレヨン。なんでも好きなもん描けよ」
「ありがとう!一角」
「あたしからは、コレ!」
と大きなビンに入った金平糖を貰った。
「わあ!綺麗!ありがとう!やちる!でもこんなに一人じゃ食べれないから、半分こにしよ?」
「いいの?いっちー」
「うん、いいよ!」
「ありがとう!いっちー!」
「俺こそ嬉しい!みんなありがとう!」
隊首室の扉が開いて剣八が入ってきた。
「おかえりなさい!隊長!」
「おう」
「おかえり!剣八!見て見て!コレね、みんながくれたの!おいわいだって!」
「ああ、ほれコレもやる」
「え?」
ぐい、と差し出されたのは、ショルダーバッグ。丁度日記帳が入る大きさだった。
「え?え?あ、えと、う・・・」
嬉しすぎてどうしていいか分からない一護。
「しゃぁねえな、貸してみろ」
剣八が一護が持っていた金平糖以外の物をバッグに入れ、首から掛けてやった。
「ほれ、これでいいだろが」
「う、うう〜、うあ〜!」
「何泣いてやがる」
ポスポスと頭を撫でてやった。
「だって、だって〜!」
日記帳はその日の晩から使われた。
○月×日
きょうはみんなからおいわいされた。たくさんおくりものくれた。うれしかった。よるごはんに弓親がおれのすきなものいっぱいつくってくれた。おいしかった。
よる、剣八とこうびする。おわり。



 次の日から一護はバッグに日記帳やクレヨン、やちるから貰った金平糖を一握りずつ懐紙に包んだモノを幾つか入れて遊びに出掛けた。

「いらっしゃい。良く来てくれましたね、一護君、やちるちゃん」
卯ノ花さんの所にはたくさんの女の人が集まってお花で遊んでた。
「何やってるの?」
「これから生け花をやるんですよ」
「ふーん、見てて良い?」
「もちろんですよ」
やちるはお菓子を食べたらどっか行っちゃったから一人で見てた。
卯ノ花さんが一本一本花を生けていくとどんどん綺麗になっていった。
「ふわぁ・・・、すごぉい!生きてるみたい!」
「ふふふ、ありがとうございます。そうやって褒めてくれるとお花も喜びますわ」
と一護の頭を撫でてやった。一護がバッグから金平糖の包みを一つ取り出すと、
「はい、これあげる!さっきのお菓子のお礼!」
と差し出した。
「まあ、ありがとうございます、可愛らしい金平糖ですこと」
にっこりと柔和な笑顔で応えてくれた卯ノ花隊長。
「じゃあまた来るねー」
と四番隊を後にした一護。

○月×日
きょうはやちるがうのはなさんのところの、おはなのかい、につれてってくれた。やちるはおかしをたべたらどっかいった。


次に一護は雨乾堂に行った。
「こんにちわ!浮竹さん」
「やあ!いらっしゃい一護君。良い物があるから入っておいで」
「はーい!」
中に入ると浮竹は蒲団に入って居た。一護の姿を見た浮竹が、
「今日は可愛い格好だなぁ、どうしたんだい?そのカバンは」
「コレね!剣八がくれたの!俺が人になって一ヶ月のお祝いだって!そんでね」
バサバサと中身を出して一つ一つ説明した。
「これが弓親がくれた日記帳でしょ、これが一角がくれたクレヨンで、やちるがくれた金平糖なの!」
にこにこ笑って話す一護に、
「そうかそうか、良かったなぁ一護君」
と笑って話す浮竹。
「うん!あ、これ一個あげる!一緒に食べよ?」
と金平糖の包みを一つ差し出す。
「ありがとう、お茶でも出すよ」
と言うと、
「失礼します隊長、お茶をお持ちしました」
と二人分のお茶を持って女性隊士が入ってきた。
「こんにちは!清音さん、お邪魔してます」
「こんにちは、一護君。いい子ね、ちゃんと挨拶が出来て」
「弓親が教えてくれたの!」
「そう、じゃ、ゆっくりして行ってね。一護君」
「ありがとう」
そう言って清音は出て行った。
「さ、一護君。さっき言ってた良い物だよ」
「なあになあに!」
出されたのは絵本で、題名は「人魚姫」だった。
「漢字、読めない」
「にんぎょひめ、と読むんだ。外国の昔話だそうだよ。こっちにおいで、読んであげよう」
「うん!」
蒲団の中の浮竹の足の間に納まって、おとなしく絵本の読み聞かせを聞いていた。

「人魚姫、可哀想だね・・・」
「そうだね」
「折角人間になれたのに・・・。そんなに王子様の事が好きだったんだね・・・」
すごいや・・・。と一護は呟いた。
「一護君?」
「ううん、なんでもないよ。もう一回読んで?」
「いいとも」
今度は呼んでいるうちに眠ってしまった一護。
「一護君?おや寝てしまったか」
お昼寝の時間だったかな?と口元を緩ませ、隣に寝かせてやる。
「むにゅ・・・」
「ふふ、子供だなぁ」

1時間ほどして起きた一護。
「ごめんね、寝ちゃって」
「いや、良いんだよ。寝る子は育つという言葉もある。そうだこの本は一護君にあげよう」
「え!いいの?」
「ああ、俺からのお祝いだ」
おめでとう、と言葉を添えて絵本をくれた浮竹。
「ありがとう!わあ〜、俺本なんて貰ったの初めてだ、嬉しいな、大人みたいだ」
「ふふ!喜んでもらえて嬉しいよ」
「俺こそ!ありがとう!浮竹さん!」
大切にバッグにしまうと、
「あ、もう帰らなきゃ。また遊んでね、浮竹さん」
「ああ、またおいで」
「お邪魔しました」
雨乾堂を後にする一護。

○月×日
うのはなさんのとこから、うきたけさんのとこにあそびにいった。おいわいに、えほんくれた。いいひと。うれしかった。


「ただいまー!弓親!弓親!見て見て!浮竹さんが絵本くれたの!」
「へえ、良かったねぇ一護君」
「うん、人魚姫だって!ちょっと可哀想なお話だけどね」
「そうだね、もうすぐ夕飯だから、ちゃんと手洗い、うがいしなよ」
「はーい!」

手洗いを終え、部屋に行くとバッグを置いた。中から絵本を取り出すと、ぺらぺらとめくって絵を眺めた。
「綺麗だなぁ、俺海見たことないや」
ご飯だよ、と呼ばれたので食堂に行く一護。


第2話へ続く



09/10/09作 これから先が思いやられます。中盤辺り。


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