10分の間に、人はこれほど能力を発揮できるのか。 というくらい、は今、自室であたふたと片付けをしていた。 たまたま忙しく部屋を整理していない時に限って、ハプニングはやってくる。 床に転がった雑誌や、テーブルに朝から置きっぱなしのマグカップと郵便物。 あるべき物をあるべき場所へと、普段は使われていないであろう細胞をも呼び出して戻していく。 今が、まさにそんな状況。 そんな事をしている内に、約束の10分後はあっという間にやってきて 同時に、の耳に来客を知らせるチャイムの音が聞こえてきた。 小走りで玄関へ近づき、はドアを開ける。 そこには先程申し訳なさそうに電話をかけてきた和浩と、和浩の肩に捕まって上機嫌で笑う疾斗の姿。 Love ★ Shower 「それじゃ、悪いけど僕はそろそろ…。」 酔っ払った疾斗をソファーへ座らせると、和浩は経緯を説明しながら に謝罪し、申し訳なさそうに帰っていった。 自分が悪い訳ではないのに、心底心配してくれる和浩が逆にには申し訳なかった。 いつものメンバーで食事してお酒を飲んで、いつものように疾斗は航河と喧嘩して。 いざ帰ろうとしたら、疾斗が部屋の鍵をサーキット場のロッカーに忘れたと騒ぎ出して。 の所へ泊まるとフラフラした様子の疾斗を心配して、連絡をしてくれた上に送ってくれた。 そんな和浩の、一体どこに過失があるというのだろう。 そもそもの根源は、申し訳ないなんて微塵も思ってなさそうにソファーで寝転がり笑っている。 呆れ気味にため息を吐いて、はキッチンから水を持ってきて疾斗へ差し出した。 「はい、水飲んだら?」 「おぉ〜。サンキュ〜、ちゃーん。」 嬉しそうにゴクゴクと水を飲む疾斗は、どうしてこう憎めないんだろう。 は思わず苦笑する。 「…なに、笑ってんだ?」 「ん?…別に……。」 別になんでもないと言いかけたの腕を掴み、疾斗は座ったまま自分の前まで引き寄せてそのまま抱きついた。 お腹とも胸ともいえそうな微妙な場所に顔を埋められ、は慌てて抵抗する。 「ちょっ…疾斗、…離して。」 「柔らけ〜。」 「……っもう。」 人の話など全く聞く耳を持たない疾斗にはきっともう何を言っても無駄だろう。 今までの経験上、そう思うのが常だ。 がそんな諦めを含んだ言葉をこぼすと、疾斗はしてやったりという表情で静かに笑う。 相手は酔っ払った人間なんだからとは思っても 力強い腕が強引なまでに腰に巻きついて、あやふやな感情がを取り巻く。 「ねぇ、もう寝たら?」 そんな邪念を抱く自分が恥ずかしくて、は拭い去るようにそう促してみる。 「……んー。」 けれど返ってくるのは間延びした生返事。 そして、疾斗は甘えるように何度も顔を擦りつけ、の顔を見つめた。 「…ねぇ、風呂貸して。」 「えぇっ?お酒はいってるんだから…。」 「シャワーだけにするから。」 そう言うと疾斗はに巻きつけていた腕をほどき、ゆっくりと立ち上がる。 今まで見上げていた、とろんとした甘い疾斗の瞳がその途端高い位置に変わってを見つめた。 「…大丈夫?」 「心配なら一緒に入るか?」 の心配を余所に、どこから生まれてくるのかは分からない不確かな余裕を見せ 疾斗はふざけた口調でそう発し、そのままに軽く口付けた。 唇が触れた瞬間に感じる疾斗とアルコールの匂いが混ざって、の脳内を軽く刺激する。 酔った人間は大胆になると聞くけれど、当てられたように自身の理性も麻痺しそうで 慌てては疾斗の胸を押し返して、自身を取り戻そうとした。 「ひ、ひとりで入ってきて。」 「ちぇ〜っ、のケチ。」 は、唇を尖らせて不満を口にする疾斗の背中を押し、浴室へと向かわせる。 疾斗の事だからもう少し食い下がってくるかと思ったが さすがに酔っているからか、疾斗は思いのほか大人しくに素直に従った。 「タオルはここにあるから好きなの使って…って!?」 が浴室前でサニタリーラックの戸を指差し疾斗の方を振り向くと 既に、シャツを床に脱ぎ捨てて上半身を露にした疾斗の姿があった。 驚きのあまり言葉に詰まるを余所に、疾斗は『りょ〜かいっ』とニッコリと笑ってそのままベルトへ手をかける。 何事も無いように鼻歌を交じらせて事を進める疾斗に、は慌ててその場を離れた。 恥ずかしさを誤魔化すように、以前置き忘れたままというか常備というか、その疾斗の服を用意する。 パタンと浴室の扉が閉まる音が聞こえ、それと同時にの胸の高鳴りはなんとか静まり出した。 子供じゃあるまいし、疾斗の裸を見た事が無いわけでもないのに情けない…。 そんな想いを胸には深く息を吐いて、少し困ったように浴室の方を見つめた。 あとがき カウンタ24000を踏んでくださったハーミットさんに捧げます。 リクエストは裏疾斗という事で…。 一応初疾斗…という事で、のりにのって長ったらしくなってしまいました。 お楽しみは後編で… ←BACK NEXT→ |