いまさらもう一つや二つ『秘密』なんて作ったって

「ひひ、おっさ……ん、じゃねーや、おにーさん、……めんどくせぇな、どうしても『おっさん』はやなの?」

「……まだ、そんな歳じゃないつもりでいるから」

 彼の名は「フナハラコウセイ」というのだそうである。「コウセイ」は「スバルのホシで昴星」ということだが、「昴」という字の音読みは果たして「コウ」なのかどうか、ぼくには判然としなかった。現在時刻は朝五時五分、ようやく東の空が明るくなり始めたか、しかしまだ夜の延長線上で、城址公園の中は秋の虫の声が響く以外静まり返っていて、……自分がまともじゃない世界に踏み入っているかのような錯覚にぼくを陥らせた。

 話は昨夜の夜に遡る。

 ぼくは急いでいた。普段はこの公園を周りこむように駅からアパートへと一般道を辿るのだけど、いつもより仕事を上がるのに手間取った上に見たいテレビがあるぼくは、この城址公園の中を息を弾ませて走っていた。ちらり、携帯の時計を見る、あと五分しかない。そう思って、丸太階段を駆け上がろうとしたところで、無様に足を滑らせてしまった。「いてて……」と誰も見ていないに決まっているのに照れ臭さからそう呟いて、ぼくは自分のスッ転んだ目の前に、小さな一枚の布が落ちているのに気付く。

 何だろう、と拾い上げてみて、思わず息を呑んだ。その柔らかな感触の白い布、広げてみれば、少年の穿くブリーフだ。しかも洗濯していないものと思われる、……携帯電話の光を頼りに確かめてみれば、その股間には黄色い染みが付いていた。

 何故、こんなものがこんなところに落ちているのかは判らない。ただぼくは反射的に、それをポケットにしまいかけた。テレビのことなど一瞬で頭から抜ける。だって、……だってこれは、男の子のブリーフだ。落ち着いて、周囲を見回して、……今一度、ぼくはそのブリーフの股間を観察した。サイズからすれば、まだ小学生ぐらいの少年の穿くものと思われる。恐らく四年生か、せいぜい五年生、……それぐらいだろう。

 一体どんな少年が穿いていたのだろう。ぼくは自分の乏しいイマジネーションを総動員したが、どうも、いい偶像は浮かんでこなかった。冷静に考えてみれば、このブリーフは何とも稀有な白布ではあるが、「ブリーフの前にオシッコの染みを付けているような男の子」というのがぼくの琴線を弾いていい音を立てるような少年であるとはなかなか思えない。何と言うか、いかにも馬鹿っぽくて、そういう汚れにも頓着しないような頭の悪い子供のような気がする。それこそ、鼻水垂らしていつでも口が開いてるような、十円ハゲでも拵えていて、「趣味は引き出しの中で飼ってるダンゴムシをいじめることです」とでも言いそうな。

 いやしかし、それでも、だ。それでもこれは紛れもなく「少年の穿いていたブリーフ」だ。これがもう少しサイズの大きいものだったら拾い上げるなり悲鳴を上げてブン投げて居ただろうが、このサイズのものを穿ける大人は居ないだろう。頭に浮かんだ偶像から目を逸らし、ぼくにとって都合のいいパーツを拾い集めて作ったような少年の顔をイメージしながら、ぼくは今一度周囲を見回した。誰も来る気配がなければ、……理想的なる少年の染みの匂いを腹いっぱい嗅いで、それからこれを持ち帰るかどうかの検討に入ろうと。

「おっさん、何やってんの?」

 振り返ったところに、小柄な少年が立っていた。中学年ぐらいだろうかと思われるが、髪が長く、一見女の子のようにも見える。しかし瞳に点る光は気の強さと悪戯っぽさを隠しきれない。半袖のTシャツにハーフパンツという、この季節にしては肌寒さを感じるような格好で、ぼくの手元をじいっと見詰めている。

「……あ、おれのパンツ」

「え、あ、……いや、その、これは……」

 おりしも、ぼくの右手は少年のブリーフの股間の部分に当てられている。ぼくはこのブリーフの持ち主である少年が、自分の想像にあったような馬鹿っぽい子でも、作り出した偶像でもない、生々しくリアリティがあり且つ「美少年」と呼んでしまっていいような子であったことに、心底から驚いている。

 もちろん、同時に「まずい」と思って居るのだ。

「こ、その、こんなところに、なんでこんな物が落ちているんだろう、って……」

 少年のブリーフを拾い上げてしげしげと観察し、あまつさえ匂いまで嗅ごうとしていたのだ。いや、ぼくだって自分が変態だということは判っている、判っているけれど、自分の性癖は下着の中にそっと隠しておきたいし、社会の窓もきっちり閉めて当たり前の顔をして生活していたい。

 ぼくの懸念とは裏腹に、少年は「へえ」と笑った。

「なにおれのオシッコんとこ弄ってんの? 変態」

 その言葉は辛辣極まりないが、決して責めるような響きは持っていなかった。「そんなにオシッコ好きなのかよ」と、ニヤニヤ笑いながら目をキラキラさせて少年は訊く。僕は夢の中に落ちたような気になって、口を開けたまま、気付いたときにはこっくりと頷いていた。

 そんなにおれのオシッコ好きならさ、おれのオモラシするとこ、見たい? みんなに内緒で見せてやろっか。

 だいたいそういった主旨のことを、少年――昴星――は言った。

 罠ではないのか、何かのドッキリではないのか、これでおいそれと首肯でもしたならたちまちぼくは塀の中に閉じ込められてしまうのではないのか。顔にモザイクを掛けられた職場の上司、ボイスチェンジされたアパートの隣人、そして近所や学校で白眼視に晒される父や母や妹の顔が走馬灯のようにぼくの脳裡を駆け巡った。

 しかし、ぼくは頷いていた。頷いてから九時間近く経っていまなお自分の足で歩き、昨日昴星と出会った公園にぼくはやってきている。いまなお、夢の中を歩いているような感覚で、やっぱりぼくがこうしてノコノコやって来ているところを何台もの隠しカメラが狙っていて、一応顔にモザイクは掛けられてはいるのだけどネットその他で実名を晒されてアパートのドアに「変態」「ショタコン」などと書かれて夜逃げ同然に引っ越さなければならなくなるのではないかと思われた。そこまで至らなくても、昴星が来ていなくて、途轍もなく馬鹿らしい思いをする羽目になるのではないかと。

 それでもぼくは、夕べ昴星に指定された「朝の五時」に此処までやって来た。我ながら自分の業の深さというものに、ほとほと呆れてしまう。しかし、だ、しかし、である。あのように可愛い少年が、自分に「オモラシするとこ」見せてくれるなんてことが、今後何百年何千年生き続けることが出来たとして、一度でもあるだろうかいやない。反語のためにタメを効かすまでもなく、あるわけがない。これは千載一遇の好機である。

 待ち合わせの五分前に到着し、緊張しながら待っていたぼくの元に、昴星は本当にやって来た。夕べとあまり変わらない、Tシャツに短パンという、健康的な少年のいでたちをして。

 昴星は「ほんとにおっさん、じゃねーや、おにーさん変態だなー」と毒っぽい言葉を笑顔で吐きながら、「こっち」とぼくを林の中に招く。まだ薄暗い林を、昴星は慣れた足で先導して、叢の中で立ち止まる。「ここ、おれの秘密基地なんだ。昨日もね、ここで遊んだんだ。でも、帰る途中でパンツ落っことしちゃって、拾いに来たらおっさんがおれのパンツ拾ってたんだよ」

「……どう、どうして、パンツを落とすような……」

「んー? だって、穿き替えたんだもん、パンツ」

 謎めいた言葉を、昴星は自ら解説した。

「おれね、オモラシすんの、好きなんだ。いっつもは、おれの幼馴染、……サイトってゆーんだけど、そいつに見てもらうんだけどさ、夕べあいつ風邪ひいて熱出しちゃったから、見てもらえなくってさ。だから一人でここ来てやったんだ。一人でも、外でやればドキドキして興奮するからさ」

 ぼくの想像の範疇を、少年のスニーカーの足が易々と飛び越えた。

「で、夕べはね、オモラシしたパンツ穿いたまんま帰って、サイトに見せてやったらあいつ驚くだろうなあって。でも、うっかりしてここまで穿いて来たパンツ、ポケットに入れてたの落としちゃって、だから探しに戻ってきたとこだったんだ」

 ぱくぱくとぼくはしばらく言葉を失って、やっとのことで、

「じゃあ……、じゃあ、昨日、きみは、その……」

「うん、短パンの中でパンツぐしゅぐしゅだったんだよ。あんときはまだおっさ……、おにーさんが変態かどーか判んなかったしさ、誰かに言われちゃ困るしさ、だから見せなかったんだ。でも、あんたが変態だったら必ずまた来ると思って、……だから、今朝はちゃんと見してやるよ。知らん人にオモラシ見られんの始めてだから、ちょっと緊張するけど、……ひひ」

 ぼくは―自分を棚に上げるつもりもないけれど―こんなに愛らしい外見をした少年なのに「変態」という事実に圧倒されていた。

 これまでぼくがしてきたのは、例えば銭湯に行けば少年の裸を目に焼きつけ、駅のトイレなどで幸運にも隣に少年が立てば眼の筋肉が痙攣するぐらいに横目を使うといった絶望的で非合法的な努力。少年に欲情するなど、人間の屑だということは重々理解していた。

 神様ありがとう、これまで清く正しく生きてきたぼくに、こんなご褒美を……!

 昴星は、肩に掛けていた鞄を土の上に落とす。ぼくの視線が誘われたのに気付いて、「見る?」と挑発するように見上げて鞄の口を開く。中には衣類が入っているようだ。

「いっつもさ、オモラシするとき、普段のときはね、ズボン濡らしちゃうとめんどいから、パンツ一丁ですんだけど、ときどき、いろんなカッコでするんだー」

 昴星が引っ張り出したのは、紺色の、……「水着……?」質感は確かにそれだ、しかし、それにしては何だか布の面積が広いように思える。

「知り合いの女子にもらったんだー、女子の水着。それからこっちは、スカートと、その子の穿いてたパンツだろ、それからこれはおれの体操服。……と、これは身体拭く用のタオルね。せっかく見てもらうんだし、おにーさんの見たいカッコでしてやるよ」

 血圧が上がりすぎて、眩暈を起こした。

「……ほんとうに……、そんなことを、きみは、いつも、しているの?」

 やっとのことで訊くと、平然と昴星は頷く。「だって、愉しいし。なー、どれがいい? 順番に全部でもいいぜ。一杯水呑んできたから、オシッコいっぱい出そうだし」

 こんな機会が訪れることは二度とないだろう。「……順番に、全部、でお願いします」

「ひひ、了解。やっぱりあんた変態なんだなー。おれみてーな子供に興奮する変態がいるって聴いたことあったけど、ほんとに居たんだなー」

 ぼくは「自らオモラシを見せるような男の子(しかもきみのように可愛い)」が居るなんて聴いたこともなかったし、実在するなどとは夢にも思わない。

「んじゃー、最初は、どれにしよっかなー……、水着にしよっか」

 一人で勝手に決めて、昴星はするするとシャツを脱ぎ、ハーフパンツを下ろす。薄暗がりで白く眩しい、健康的な少年のブリーフ。そのウエストに指を掛けたところで、ぼくが血走った目で其処を凝視しているのに気が付いて、「ひひ」と笑う。

「なんだよ、ちんこ見たいのか?」

「う、あの……、いや」

「しょーがねーなー、じゃあ、見してやる」

 昴星は、何の躊躇いもなくブリーフを太腿まで下ろして自分のペニスを晒した。

「こんなの見て、面白いかー?」

 ぼくが思わず膝を付いて、顔を寄せるのを苦笑しながら昴星は見下ろす。「こんなさー、ちっこくて、毛も生えてねーのに」

 寧ろ、毛が生えていないからいいのだ、小さいからいいのだ。

 シャツを脱いだ段階で判ったが、昴星はいわゆる「着やせ」をするタイプなのだ。ぱっと見たときには背も顔も小さくすらりと痩せているように見えるが、その身体は何となく、触れれば柔らかそうに肉付きがいい。太っているというのとは違うが、男性的な引き締まり方は全くしておらず、お腹はふんわりと丸くて、胸の辺りにも脂質感がある、触れればぷにぷにと柔らかいのだろう。

 昴星のペニスは、そんな体型によく似合う形をしていた。長さはぼくの人差し指ほどもなくて、丸っこい輪郭をしている。ペコロスという、小さな玉葱があるだろう、あれに何となく近い。先端にはたっぷりと皮が余っていて、其処から出た物が夕べぼくの触れたブリーフに染みを付けたのだと思うだけで、堪らない気がした。

「そ、その……」

「触りたいの?」

 綺麗に先回りをして、昴星は訊いた。

「……さわりたい、です」

「んー、いいよー」

 のんびりとした声で、昴星はあっさりと許す。「でもちゃっちゃとしろよ。おれ、オシッコしたいんだからさ」と少年が言い添えるときにはもう、ぼくの指は昴星のペニスに触れていた。

「……うわ……あ……」

 我ながら、酷いと思える声が出る。ぷにぷにだ。本当にぷにぷにしている。それでいて、耳朶のようにただぷにぷにしているだけなのは、先端に余った皮の部分だけで、茎にはちゃんと男の性器であることを証明するように、太い芯が入っている。ぷっくりと膨れたような輪郭をよく観察すれば、薄っすらとカリ首の膨らみを見て取ることも出来た。

 昴星のその部分はぼくが弄っても、ほとんど反応することはなかった。まだ射精する機能は備わっていないのかもしれない。そっと皮を剥こうとしたら、「あんま剥けないよ」と声が降った。慎重に、指で摘んで引いてみると、尿道口と生っぽい色の亀頭が僅かに覗けたが、それっきり行き止まり、それ以上剥いたら痛がらせてしまうだろうと、ぼくは指を離す。昴星のペニスはすぐに元の通りの形に戻った。

 いま少し、触っていたい気がしたが、「もう、おしまい。オシッコ出そう」と昴星は腰を引く。あからさまに残念そうな表情を浮かべてしまったぼくを見て、「オモラシしたら、あとでまた触らせてやるよ」と昴星はにやりと笑って言い放った。態度は悪魔然としているが、口にする言葉は何もかも、天使のもののようにぼくには思われた。

 昴星はお尻をこちらに向けて、慣れた手付きで少女の水着を広げると、サンダルを脱いでスムーズに穿き始めた。考えてみれば、女の子が水着を着るところを見たことだってないぼくだ。下半身は通常の男子水着のように穿き、そこからは上手に引っ張り上げて腕を通す。振り返ったときには、股間の膨らみを覗けばまるで女の子のように見える昴星が立っていた。秋の城址公園の叢の中に。むっちりとした身体のラインがダイレクトに浮き出る紺色の水着は、それだけで何だかとてもいやらしいものだ。

「なあ、おにーさん、携帯持ってないの?」

 尿意を堪えているのだろう、昴星はきゅっと股間を握って、ぼくに訊く。「持って……、る、けど」

「じゃあ、撮ってよ。おれがさ、女の子の水着でオモラシするとこ」

「いぇ、いあ、あの、いいの?」

「うん、おれ、撮られんの好き。……見る?」

 昴星は自分の脱ぎ捨てたハーフパンツのポケットから携帯電話を取り出して、データフォルダを開いてぼくに向けた。そこには全裸でピースサインをしながらオシッコをする昴星の姿が収められていた。

「ひひ。サイトにね、撮ってもらったんだ」

 その写真一枚だけで、一生分のおかずになるような代物だ。ぼくは大慌てで動画をスタンバイする。どれだけ重たくなろうと構うまい、いちばん画質のいいものを。

「映ってるー?」

 ぼくが口を開けたまま頷くと、昴星はひひひと笑ってカメラを覗き込む。それから全身が映りこむ位置まで二歩後退ると、

「したら、するね。……もう、オシッコ漏れそう」

 と手を退かす。その言葉が演技でも何でもないことは、其処にぽつりと浮かんだ少量の尿で明らかだ。ぼくがそれに気を取られているのを見て、「ひひ……、チビっちゃった」とほんの少しはにかんだように笑って内腿を一度擦り合わせた。

「おれ、人よりトイレ近いんだ。ちょっと水呑んだだけなのに、すぐ行きたくなっちゃうんだ。昔、二年のとき、それでオモラシして、恥ずかしい思いしたんだけど、……でも、人よりいっぱいオモラシして気持ちよくなれんのは、嬉しいかも……」

 尿意を堪えながら、昴星は其処まで言いきったところで限界が来たらしい。「あ……あ……」と矢鱈に艶かしい声を上げて、その腹部から力が失われるのをぼくは見ていた。同時に、しゅううとくぐもった水音が昴星のスクール水着の中で立つ。上を向いた昴星のペニスから噴き出るオシッコは、ふっくらとしたその下腹部辺りを頂点とする鋭角二等辺三角形の濡れ染みを作りながら、薄い生地の外に透明な流れを作り出して外へと零れる。太腿の間に流れる液体からは、強烈なまでの尿の匂いが立ちこめ、早朝の澄み切った空気の中にかすかな湯気を漂わせた。相当我慢していたようで、昴星の股間から降る雨の勢いはなかなか収まらない。足を少し開き、ぼくと同じように陶然と口を開けたまま、昴星は自分の作る水溜りを眺めている。

 そのぐらいのタイミングだろうか、ぼくは昴星の股間の膨らみが、先程より一回り大きくなっていることに気が付いた。水着と自分の身体に挟まれて潰れたようだった小さなペニスの輪郭は、いまやくっきりと水着に浮かび上がっている。其処からは依然として昴星の排泄するオシッコが溢れ出しているのだが、……昴星の顔を見ると、羞恥心だけとは思えない色の紅が差している。

「ひひ……」

 昴星は自分のペニスに指を当てて、「ここ、もっと、撮って。オシッコ漏らしながら、硬くしてる、おれのちんこ……」と強請る。ぼくがカメラを寄せると、気のせいか、そこはますます硬くなって、完全に勃起してしまったようだ。

 徐々に音が遠退き、昴星の失禁は終わった。昴星はもう一度、ピースサインをカメラに向けてから、「まだ、撮れる?」とぼくに訊く。

「うん、……その、電池、切れるまでは、撮れる」

「そっか。ひひ、じゃあ、ずっと撮ってて」

 昴星は、ぐっしょり濡れた自分の股間に指先を当てて、其処から陰嚢、そして勃起した陰茎へと指を這わせた。

「……オモラシすんの、すっげー、気持ちィんだ……」

 昴星は、失禁という行為そのものに興奮しきっているようだ。

「えと……、きみは、……何年生?」

「六年生」

「え」

 あっさりと齎された答えに驚いた。四年生くらいに見える。

「だから、ほんとはこんな風に、オモラシしちゃいけないんだ。けど、……気持ちぃんだもん、しょうがねーよな……」

 ほら、と昴星はカメラに尻を向けて突き出した。サイズが少し小さいようだということは気になっていたが、お尻に食い込んで、何だかTバックのようにも見える。露出した尻にも、尿の雫は伝っていた。

「こんな風にね、お尻のほうまで濡れんの、気持ちぃし、……あとね」

 ふたたび振り返って、下腹部を撫ぜる。「女子の水着だとさ、こうやって、お腹の方まで濡れてさ、……フツーにパンツですんのと違って興奮すんだ。……でも、水着だとすぐオシッコ外に出ちゃって、そういうとこは、パンツ穿いてるときの方がいいかも」

 自分の失禁を解説する昴星のペニスは、ずっとピクピクと震えている。ぼくは絡まりそうな舌をどうにか操作して、

「昴星は……、その、……射精、出来るの?」

 と訊いた。昴星は何を今更というように頷く。「出来るよー。オモラシすると、こうやってさ、ちんこ硬くなって、せーしも出したくなるから、だからそのまんま、いっつもね、こうやって……、ちんこ、ビショビショの上からいじって、せーしもオモラシするんだ……」

 言いながら、昴星は既に自分の膨らみを掌で擦り始めていた。

 少女の水着を纏った少年が、ぼくの目の前で失禁し、挙句、オナニーまでしている。

 何処がおかしいのかさえ判らなくなるくらい、何もかもがおかしい。ついでに言うなら、そんな昴星にカメラを向けて食い入るように見詰めているぼくもどうかしている。狂っているとさえ言っていい。

 しかし、この空間ではどういう訳か其れが許されるようだった、……急に其れが不安に思える、本当にこれは何かの罠じゃないのか、やっぱりどこかでカメラが回っていたりするんじゃないのか。

「あの……、こう……、昴星?」

「んん……?」

 うっとりとした顔で、右手を動かしながら昴星は訊き返す。変声期までまだ遠い甘ったるい声に、思わずぼくの身体には武者震いが走る。

「君が、こんなことをしてるのは、……誰にも内緒なんだよね? ぼくが、此処に居ることも」

「んン、……こうやって、ね、オモラシ、して、オナニーしてること、サイトと、あと、サイトのいとこのリュートとか、あとこの水着おれにくれた女子とか、何人かは、知ってる……、けど、内緒。だって」

 ぞくぞく、昴星の身体に悦楽の電流が走った。「こんなん……、恥ずかしいもん、こんな風に……、オモラシして、気持ちよくなるなんて、知られたら、表歩けねぇよ……」

 ぼくだって、男の子がオモラシしながらオナニーしてるとこ撮影してるなんて知られたら、陽の当たるところを歩けなくなる。

 そして、昴星が一応「一般的な」感覚というものを持ち合わせた上でこういうことをして居るのだと知って、ぼくはますます興奮を覚えていた。禁忌の背徳の、快感に身を委ねて堕ちて行く昴星は、文句なく性的だ。

「じゃあ……、ぼく、誰にも言わないから。昴星が、そんな風に、オモラシして、その、おちんちん大きくしてオナニーするような子だってこと、誰にも言わないから」

「ん……」

「でも、その代わり、……ぼくのことも言わないで。もし、ぼくのことを誰かに言ったら、いま撮ってるこの動画をばら撒く……、それで、いいね?」

 昴星が、こくんと頷いた。右手の動きが忙しなくなる。「ん、ン、もぉ……、っちゃう……! おれのっ……、おれの、せーしもオモラシするとこ……ッ」

 撮って、という言葉までは待てなかったようだ。昴星が指を離すと、水着の内側でビクンと性器が弾む。恐らくそれはぼくのような大人の射精よりもずっと不慣れで、でも元気だけは一杯、勢いも激しい。濃い紺色の濡れた水着の表面に、じわりと白い粘液が滲み出た。

「……ン……はぁあ……」

 膝をがくがく震わせて、昴星がバランスを崩してそのままぼくの頭に手を置いた。顔のすぐ側にある股間の膨らみから、匂いがはじけてぼくの鼻腔に殺到する。思わず携帯を持つ手をだらんと下げて、その部分に鼻を寄せていた。

「……昴星……、すごい……、臭いだよ、オシッコの……、あと、精液の」

 もちろん、二十四年間生きてきて少年のそういう液体の臭いを嗅いだことなんてない。というか、誰かのそういう匂いをつくづく嗅いだことがある人間なんて稀有だろうし、ぼくも、大概の少年の臭いに反応するわけがないと思っていた。

 しかし、……多分「悪臭」と言ってしまっていいだろうその臭いが、この愛らしい少年の身体から零れた液体によって齎されて居るのだというだけで、「悪臭」のままであっても全く違う意味を持つ。

「ん……、おれの、オシッコ、くさい……?」

「……臭い、……けど、……ぼくはこの臭い、好きだ……」

 昴星はぼくの頭を両手で抱えて、「サイトと、おんなじことゆってる」とどこか嬉しそうに言って、膨らみにぼくの鼻を押し付けた。ぬるりと、昴星の精液で滑る。そこは生温かい。頭が真っ白になって、気付けばぼくは其処に舌を這わせていた。もちろんその「味」を知るのも初めてだが、無我夢中にぼくは、舐めている。

「んひひ……、おにーさんも、おれのにおい嗅ぐと、ちんこ硬くなるのか?」

 ぼくは「うう」と舌を昴星に這わせたまま答えた。「でもって……、おれのオシッコの味、好きなのか?」同じように、ぼくは答える。昴星は心底嬉しそうに「おれらと、おそろいだ」と言って、一歩、ぼくから離れる。まだ鼻先には昴星の精液と尿の匂いが混じって漂い、舌にはざらつく水着の生地の感触と、潮に似た味が残っていた。

「おにーさん、マジで変態だなー。サイトみてーにすっげー変態。さっきも、おれのちんこ触るとき鼻息荒かったしなー」

 ぼくの顔は、いつから紅いだろう。ただ、改めて耳が熱いことを自覚する。

「なあなあ、おにーさんってさ、いっつもおれみてーな子供でちんこ弄ってんの?」

「い、……う、……それは」

「おれといましてるみてーなこと、他の誰かとやってんの?」

「そ、そんなことはしてない、っていうか……、出来ないよ怖くて!」

「じゃあ、おれが初めてなのか」

 昴星は「サイト」なる幼馴染とこういうことをしているのだろう。そして想像するに、「リュート」というサイトの従弟、あるいは水着を譲ってくれた女子たちともしているのかもしれない。一方でぼくは童貞である。概念的には何人もの少年に操を立てる形で、純潔を保っているのである。

「じゃーさ、おれのちんこ、また見たい?」

「み……、見せてくれるの……?」

「うん、そんかーしさ、おにーさんのちんこも見してよ。おれさ、サイトとかリュートとか、あと自分のさ、毛ぇ生えてなくって剥けてねーちんこしか見たことないんだー」

 水着を腰まで脱いで、昴星は手を止める。ぼくがベルトを外すのを、待って居るのだ。

 もちろんぼくのジーンズの中で、其れは苦しいくらいに勃起している訳だ。

 これは……。

「……見る、だけ?」

「おにーさんはおれのちんこ見るだけだったっけ?」

「いや……、触ったり、した、けど」

「でもって、もっといろいろしたかったんだろー」

 決まってる! だって、少年のおちんちん……、どんな味がするんだろうって、気になるに決まってるじゃないか!

「……わかった……」

 何よりもそれはぼくにとって嬉しい申し出に決まっている。

「一応……、言っておくけど、ぼくのは、その、昴星のおちんちんみたいに、可愛くはないよ?」

「ふーん……、おれのちんこって可愛いんだ……?」

 ベルトを外し、ジーンズを下ろすぼくを昴星はじっと見詰めている。トランクスの段階でもう、其処が焦熱を孕んでいることは隠しようがない。「じゃあ、いっせーのせーでな」と昴星は言って、水着の腰に手を掛けた。ぼくはただ、こくりと頷くだけだ。

「いっせーの、せっ」

 昴星の、ぼくの、ペニスが同じように弾んだ。「おお……、すっげー……!」昴星は目を丸くして、ぼくが止める間もなく、ひょいと手を伸ばして怒張に触れた。「うわー……、大人のちんこでかくなるとこんなんなんのかー……」其処に在るのは純粋なまでの興味か。大きな目をキラキラさせて跪いて、

「ちょっとっ……」

 気付いたときにはぼくのペニスの先は昴星の口の中に在って、その舌で舐められていた。

「うわ……」

 もう、以降改めて断ることはしないが、……何もかんも初めてである。理解可能な領域はとうに超越していて、それでもぼくは自分の身に起きている現象について言葉で説明しようとする。

 昴星のさほど大きくもない口の中から、ぼくの性器が生えているようにも見える。屋外で失禁するような少年だ、そもそもがそんなに上品な少年ではない訳だが、その口からはじゅぷじゅぷと、品性の欠片もないような音が立つ。繰り返される往復に、……是非書き加えておかなければならないが、舌がやたら器用に絡み付いてくる。少年の、……恐らくは、少年特有の、生温かく柔らかい頬肉、閉じ込められて蕩けるどころか、……弾けそうだ。

「んひひ……、きもちぃ?」

 れろれろと舌で先端を巡りながら、昴星はぼくを見上げる。「おれなー、ちんこの味、好き。……いちばん好きなの、サイトのちんこで、リュートのオシッコくせーちんこも好きだけど、……おにーさんのちんこも三番目くらいに美味しいや」

 つっても、まだ三本くらいしか咥えたことねーけど。昴星はにひひと笑う。

「ぼく……、も」

 息を堪えながら喋る、声が震える。昴星はまるで其れが当然と言うように、ぼくの言葉を待つ間も竿を舐め、陰嚢を擽り、裏筋までまた舌で上ってくる。

「……昴星の、おちんちんは、美味しそうだなって、思う」

「んーとに? ……ひひ、じゃあさ、あとでおにーさんもおれのちんこしゃぶってよ。おれ、ちんこしゃぶられんのも好きだよ。ってーか、気持ちいいのは、全部、大好き」

 なるほど、その舌が器用なのは、少年自身が欲深いから。

 性器の味が好きだからか。ぼくは段々と昴星が異常なまでに偏った性のベクトルを持っていることを把握し始めていた。だってこの子、同性愛者ってことでしょう、でもって、失禁、露出、女装だって……。

 こんなに可愛い、最高の男の子じゃないか……!

「昴星……、ぼく、もう……、出すよ……? いい……?」

「んー」

 ぼくのものを咥えたまま、昴星は嬉しそうに目を微笑ます。その目、罪深いほどに愛らしい、いや、愛らしいから罪深いのか。いずれにしてもいまのぼくにとってその目は、破壊力抜群の代物だ。

 昴星が深々と咥え込むその口の中へ向けて、ぼくは自分の欲をそのまま解き放った。

「……ッん……んー……」

 ぼくの性器の脈動が収まるまで口を外さなかった昴星は、ゆっくりとぼくの性器から引き、ぼくの零した性器をしばらく口の中でむぐむぐと味わっているように見えた。それからやがて満足したように「ん」と頷いてから、まだ尖っていない喉を動かして嚥下する。ぷぁ、と溜め息混じりに口を開けて、「おいしいや、おにーさんのも」と笑った。「サイトやリュートのと比べると、どろどろが濃いね。でもって、量もたくさんだった」

「う……、そう……」

「やっぱり大人の方がせーしいっぱい出せんのかなー」

 夕べは、自分の身に起きた事態を把握し切れなくて、オナニーをする余裕もなかった。五分遅れで見たかったテレビの前に辿り着きはしたけれど、正直内容はほとんど頭に入ってこなかったくらいで、夜もなかなか寝付けなかった。それでも一晩、ぼくの頭の中から昴星の白いブリーフに付いた染みが消えることは無かったから、きっと普段以上に溜まった状態だったのだろう。

「なー、おれのちんこ出来る? ……それとも、ちょっと休憩しなきゃダメ?」

 立ち上がった昴星の股間、皮の縁が濡れているのは恐らく先程の失禁の影響もあるだろうが、一回いったぐらいじゃ収まらないと言うように元気一杯のペニスが反り返っている。既に射精の能力を備えていると判っていても、やっぱり何かこう、それは奇跡に近いことのように思われた。

 ぼくの股間にずきんと刺さる。

「出来るよ……」

 昴星に替わって、ぼくがひざまずく。昴星の股間に顔を寄せると、思わずむせ返るほどのオシッコの臭いがそこから漂っているが、相当近付かないとその臭いは判らないことが以外だった。

「んひひ……」

 ぼくが指で触れる――「摘む」と言った方が正しい――と、ピクンと、恐らくわざとだろう、そこを震わせる。勃起してもあまりサイズ的に変化のないように見える昴星のそこは、びっくりするほど硬く引き締まっていて、乾き始めた少年自身の精液と尿によってぺとぺとしている。

「おにーさん、口開いてんの、バカみてー」

「バカ……」

「ひひ。だってさー、男子のちんこしゃぶんのに、すっげー嬉しそうな顔してんだもん」

「そっ……、そんなこと言ったら、さっきのきみだって……!」

 六年生、と言っていたっけ。性格は子供っぽいし、この場所も子供っぽければ、総じての見た目は四年生くらい、間違いなく背の順でいちばん前だと思う。けれど性格は、……これだけのことをしているだけのこともあるかもしれないけれど、ませている、というか、頭は良いようだ。「……昴星は、勉強得意?」

 なんでそんなこと訊くの? と言いたげな顔で首を傾げて、「超苦手」と答える。何だかそんな気もする。

「しゃぶんなくていいの?」

 しゃぶってくれないのかと。多分そういう意味を篭めつつも、これだけのことをしていながら恥じらいを捨てきれたわけではない昴星の気持ちまでぼくは覗けた。開けっぴろげであっても思春期のとば口に居て、自分のしていることのおかしさは認識しているのだろう。多分、あの、昴星の勃起したおちんちんを目の前にしているから、ぼくにもそこまで判るんじゃないかという気がする。

「……じゃあ、うん、しゃぶる」

「ん」

 ……しゃぶりたい、……しゃぶりたいよ、だってこんなの夢みたいだ。男の子の、おちんちん! いやエクスクラメーション付けたってしょうがないのだけど、やっぱり、目の前に、等身大の立体の臭いさえ伴って男の子のおちんちん!

「ひあっ……」

 口に含めば頭の中はもう真っ白だ。ぼくの口の中に、弾けて広がる男の子の臭い味鼓動……、昴星がそうしたようにぼくも出来るだけ器用に舌を動かす。もちろん大半は興味本位で、だけど、ぼくの口にすっぽり収まってしまう昴星のそこは、オシッコと精液に加えてもう一種類、明らかに違う潮の味をぼくの舌に教えた。それが「ガマン汁」だろうということにはすぐ察しがついた。

 こんなに可愛い少年がぼくで気持ちよくなっている……!

「んぅ……っ、にぃさ、っん……っ、舌、すっげ、えっちだよ……! キンタマ、きゅうってなる……っ」

 昴星がぼくの髪をぎゅっと握った。一度口から抜いて、「きゅうって」なったらしい場所も舐めた。大事な場所を護るにしては薄すぎる質感の皮膚は音もなく何かむゆむゆと蠢いて、皺の隙間からは特に濃いオシッコの味がした。昴星はもう「ひひひ」と笑う余裕もないらしく、甘ったるい吐息をその唇から垂らしながらぼくの鼻におちんちんを押し付けていた。「いきたいの?」

「んん、もぉ、せーし出したい……!」

「さっきいったばかりなのに……、一日に何度も、こんなエッチなことしてるの?」

 こく、と昴星は頷く。

「だって、さ、オナニーすんの、気持ちぃじゃん……。おにーさんだっていっつも一人で、おれみてーな男子のさ、ちんことか想像してするんだろ……?」

 それは……、うん、そうです。

「けど……、一人でするのも気持ちぃけどさ……、ちんこ、しゃぶってもらったほうが気持ちぃだろ……?」

 それも、確かにそうだ。生まれて始めてこの身に受けたフェラチオは、……それはもう、至福。

「わかった。じゃあ……、うん」

 勃起しても皮が先っぽに余る。それでも平常時よりも剥きやすい。昴星の亀頭にはやはり透明な露が光っていて、それは舌先で掬い取るとぬるりと潮っぱく、いつまでも味が舌に残る。

 ぼくのを「おいしい」と昴星が言った。ぼくのでさえ「おいしい」なら、昴星の精液は一体どんな味がするのだろう……。

「んぁンっ、んぅ、んっ……! んン、ちんこ……っ、すっげ、きもちぃっ……、おにーさんっ、おれ……、せーし出る、せーしっ、出るっ……!」

 甘酸っぱい声と共に、びくん、舌の上で、びくん、弾む。どくん、鼓動が。腺液よりもずっと重たさを伴って、クラッシュしたゼリーみたいな質感の薄ら潮っぱい液体がぼくの口の中に注ぎ込まれた。

「んぁあ……、……出た……、せーし……、すっげ、いっぱい出た……」

 ぼくの口から昴星が腰を引く。立っているのがしんどくなったらしい、そのまましゃがみ込んで、ぼくの顔をじっと見詰める。ぼくの口の中には少年の二回目の量としては驚きを感じるほどの精液が絡んでいて、……飲み込んだ。喉から鼻の奥へ、一斉に臭いが弾けた。何と言うかその臭いは、ぼく自身のそれと大差ないように思える。だけど、「……おいし?」と昴星に訊かれて、ぼくはこっくりと頷く。

「ひひ……」

 昴星は嬉しそうに微笑む。その顔は、ひとりで屋外で失禁したりオナニーしたり、こんな風によく知りもしない男にフェラチオしたりされたりするような危険な性意識を持った少年のものにしてはあまりに清純である。そのまま昴星は、膝を付いて自分のスニーカーの踵に尻を乗せるぼくの足の間で勃ち上がったままの性器に触れながら、「またこんな勃起してんの?」とくすくす笑う。

「……するよ……、そりゃあ、するよ……!」

「ひひ、変態だ、おにーさんマジすっげー変態。おれのオモラシちんこ咥えてこんなガチガチにしてんだー」

 くるんと背中を向けて、「よいしょ」と昴星はぼくの膝の上に座った。賢者タイム、……ではないだろう。ただぼくに甘えているだけだろうと思う。股間の性器はゆっくりと力を失って、元のように太腿の間にこじんまりとへたり込んだ。やっぱり、何かの球根のように見える。

 ぼくは、ぼくがいつからこんな風に昴星のような少年に性的な魅力を感じるようになったか記憶していない。気付いたときにはそうだった、多分、生まれたときからそうだったのだろう。何となくだけど、いまの昴星よりも幼い歳の頃から水泳のときにタオルを巻かないで着替える同級生にどきどきしていたような気がする。

 いつかこんな風に、男の子、……出来れば可愛いこんな子と、いわゆるエロいことを出来たらいいな、なんて思っていたけれど、もちまえの度胸の無さと道徳心がブレーキになっていた。実現性は限りなくゼロに近い、というか、「それをやったらさすがに人間失格」ということも判っていたから、あくまで夢の中で転がして遊んでいただけだ。

 それなのに、いまは膝の上に裸の男の子がいる。昴星のお腹は先に書いたように程よくむっちりとしていて、胸も、丁度成長期を迎えつつある女の子みたいに乳首がほんの少し尖るくらいに柔らかそうに見える。でも、足の間おにーさんとおちんちん。ぼくの目の前でオモラシをして、ぼくの口で射精した、男の子の。

 夢みたいだ。夢じゃない事を確かめるために、ぼくは本当に自分の頬を抓る。涙が滲むくらい痛いことに安心して、もう断りもなく昴星の肌にぼくは触っていた。掌に吸い付くように瑞々しい、お腹も柔らかい。「……おれ、太ってる?」と少し気にするように昴星が言ったのに、「普通」とだけ答えた。少なくとも太腿にかかる体重はちっとも苦にならなかった。

 柔らかくなったペニスを、そっと摘む。ああいう「遊び」をしているわりに、そこは白くて綺麗なように思えた。ぼくが訊くと、

「だって、気ぃ使ってるもん。普段さ、オシッコまみれにしてるから、風呂んときにはよく洗うんだ。変なビョーキになったりしたら困るし、夏場はシッカロールつけて寝るし」

「そうなんだ……」

「だから、オモラシしてねーときのおれのちんこはフツーのやつのちんこよりも綺麗なんだぜ。……んぁ、でも、オモラシしてねーときでもパンツ黄色かったりするか」

 そうだ、と昴星は立ち上がり、下土の上に転がった鞄の中をごそごそと探って、「ひひ、あった」とブリーフを一枚引っ張り出して、ひょいとぼくに放った。

「それ、おにーさんにやるよ」

 受け取って開いたそれは、夕べぼくが拾ったブリーフに違いなかった。昴星はもとの通り膝の上に納まって、後頭部でブリーフの染みをしみじみと見詰めるぼくに、

「ほんとはね、結構ドキドキした」

 と独り言のように言う。

「おれのー、……みんなにはナイショの、オシッコついたパンツ見られちゃって……、恥ずかしくって、でも、興奮したんだ」

 鼻を近づけると、まだ微かオシッコの臭いが感じ取れる。「ひひ……、いい匂いか?」

「……うん」

「そっか。……もっと欲しい?」

 躊躇いはなかった。「くれるなら」……昴星は「ひひ」と笑うことを忘れなかった、もちろん「変態だなー」と付け加える。

「おにーさん、住んでんのこの辺?」

「うん、……ええと、あっちの街道沿いに古本屋があるよね。そこから一本入って、川沿いの」

「……ひょっとして、うんこ橋の側?」

「そう。あの川沿いの、青い屋根の家に住んでる」

 うんこ橋、と昴星は言ったが、正式には「青山橋」という。欄干についたオブジェがそう見えるから、子供たちはそう呼ぶし、かく言うぼくも昴星ぐらいの頃には当たり前のようにそう呼んでいた。その酷い俗称をすんなり言ったことに、ぼくは今更のように閃いた。

「昴星は……、四小?」

 昴星は「そだよ」とすんなり頷く。

「……ぼくも、四小だった」

 この子はぼくの後輩にあたるのか。もちろん歳は六つ以上離れているから、同じタイミングで同じ空間に居たわけではないけれど、何だか小さな運命と言ってしまっていいような気がする。

「そんな近所に住んでたんだなー。……なー、ひょっとしてさー、去年くらいかな、この辺でおれみてーな男子に声掛けて回ってたのっておにーさん?」

 ぶんぶんとぼくは首を横に振った。「そんなことしないよ!」というか、出来るわけがない。ぼくに出来るのはせいぜい、夏休みに子供が例のうんこ橋の側から川べりに降りて遊んでいるのをこっそり眺めるぐらいだ。何年か前までは男子は当たり前のようにパンツ一丁になって、……低学年の子供だとそれこそすっぽんぽんになって遊んでいて、毎年夏が恋しくなるくらいだったけれど、最近はそもそもそんなところで遊ぶ子供が少なくなったし、もし居たとしても、低学年からきっちり水着を穿いていたりする。世知辛い世の中になったものだ。

 でも、今年の夏は久しぶりにいいものを見た。盗撮は犯罪だからしないけれど、くっきりこの目の印画紙に焼き付けた。男の子たちが三人で遊んでいた。年かさの二人はハーフパンツの裾を気にしながら遊んでいたけれど、その中の一人は一紙纏わぬすっぽんぽん、三年生ぐらいだろうか、本当に貴重なものを見た。

 そんなことを思い返していたら、

「うんこ橋んとこで、今年の夏さ、おれ、サイトとリュートと遊んだよ」

 と昴星がさらりと言った。

「そんときね、リュート、すっぽんぽんだった。あのときおにーさんと知り合いだったら呼んであげたのに」

 ぽかん、とぼくは昴星に貰ったブリーフを握ったまま口を開けていた。

「……ひょっとして、……あの、ちょっと髪の毛がくしゅっとした感じの、小さい子……、がリュート?」

「そうだよ。……って、見てたの?」

 その三人の中に昴星が居たという驚きに、ぼくは声を失っていた。あの無邪気な少年、……いちばん小さいのが「リュート」なら、ぼくはその子を何度もおかずにした。何せあの子は、本当に隠すと言うことをしなくて、川べりに人が歩いていても平気な顔で、終いには川に向かって小さなおちんちんを突き出してオシッコまでしていた。

 そして記憶が確かならば、あの子が穿いたパンツの前はずいぶん黄色く汚れていた。……昴星の友達ならば、何の不思議もないことのように思えた。

「なー、今日のことさ、……おれのパンツ、あげるからさ、ほんとに誰にもナイショにしてくれよな?」

 昴星はぼくの手を股間に導いて、ほんの少し不安げに言った。やっぱり賢者タイムの趣もある。

「もちろん……。ぼくのことも誰にも言わないでくれる?」

「うん。あんたがナイショにしといてくれるなら、絶対言わねー」

 ぼくが抱き締めても、昴星は笑わなかった。ぼくの「秘密」と昴星の「秘密」は全く同じ重さでつりあうようだった。

「……おにーさん、今日暇?」

「……ん?」

 今日は、土曜日だ。仕事は休み、もちろんデートの予定なんてない。

「おれさ、……サイト、風邪まだ治ってねーから暇なんだ。だから、リュート読んで、一緒に遊ぼうって約束したんだけど、……おにーさん暇ならさ、一緒に、三人で遊ぼうよ」

 昴星はひょいと立ち上がり、「リュートのちんこもすっげーえっちだよ。でもってあいつ、おれより変態だ。だからさ、きっとおにーさんも楽しいし、気持ちぃぜ」

 ぼくはいまいちど、自分の頬を抓る必要性を感じながら口を開けていた。空は青から白へ少しずつ色を変え始めている。この公園は近隣住民の犬の散歩コースにもなっているから、この秘密の時間はもうそろそろ終わらせなければいけないだろう。

「おにーさんにちんこしゃぶってもらうの、気持ちよかったしさ、それに、もっといろんなことしてーし……、な? 誰にも言わねーからさ」

 名残惜しさは当然ある。もっと、もっと男の子とこういうことがしたい。ずっと内心に秘めてきた欲が呻き声を上げている。

 頷くことがそのまま、人間性の喪失に繋がることは判っている。判っているけれど、気付いたときにはもう頷いていた。

「んじゃー、おれ、一回家帰って、ちょびっとだけ寝て、飯食って駅までリュート迎えに行ってから、おにーさんち行くよ」

 ひょいと立ち上がって、昴星はぼくに小指を差し出す。「約束な」それは等量の互いの秘密を、自分の中に隠しあってこれから先の時間と愉楽を共有するためには欠かせない儀式だった。ぼくも、まだ少し納まりのつかないペニスをトランクスの中にしまって小指を結んだ。しっかりと絡めて離して、まだ繋がっているような気がする。「あ」と昴星がパンツを穿いてから、おもむろに窓からおちんちんを引っ張り出して、「撮らなくていいの? オシッコするよ」とぼくを振り向く。ぼくはどこまでもバカみたいに、正直にカメラを構えていた。昴星のたっぷりと余った皮の先から、オシッコが噴き出てくるところを、口を開けたまま撮影していた。

 

 

 

 

 この日より、ぼくの人生は多分間違ったほうに面舵いっぱい。オモラシが趣味と言って憚らない昴星との秘密の関係は、ぼくにとって罪深さの苦味を感じさせながらも、昴星曰く「ナイショのところで」続いていくこととなる。ときおりぼくは、自分の置かれた状況の恐ろしさに震えてしまうことさえあった。

 しかし昴星はいつでも飄然と、「ひひひ」と笑って、

「だって、おれの人生なんて『秘密』だらけだもん、いまさらもう一つや二つ『秘密』なんて作ったって、別に何ともねーよ」

 また、ぼくの見ている前で下着を濡らしてみせる……。


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