独占欲とショウマンシップ

 諭良の住んでいる高級マンションはセキュリティ管理が厳しいらしい。そういうことを何となくの知識として知っているから、マンションの入り口に着いた昴星は二の足を踏んでいた。普段ここに入るときはいつも諭良が一緒で、彼にロビーの自動ドアを開けてもらって部屋まで連れて行ってもらうのだ。

 しかるに、今日は諭良はいない。彼はどうしているのかと言えば、才斗の部屋に泊まりに行っている。こういう日、昴星は一人で過ごすのもつまらないので「おにーさん」のところへ泊まりに行くことが常態化していたが、今日は残業で遅くなるらしい。きっと疲れて帰って来るだろうし、そのうえ有り余る性欲の相手をさせるのは、……昴星だってちょっとぐらいは「わるいよなー」と思うので、以前だったら一人で時間を潰していたところだ。

 現在昴星には、そういう時間を一緒に潰してくれるもう一人のパートナーが生じている。

 リーリヤ=グラヴィティス。昴星よりも年上、でも「おにーさん」ほど歳が離れているわけでもない。彼女とは先日初めて会ったばかりだが、「いつでも遊びに来てください」と言われている。それが社交辞令かもしれないと昴星も思わないではなかったが、彼女と過ごした時間の甘美さをはっきり覚えていればこそ、ためらいを覚えつつもこうして再びマンションにやって来てしまうに至った。

 ……諭良に、「リリィと遊びたい」って言っておきゃよかったな……。そうしたらリリィに都合付けてもらえたかもしれないのに……。

 今になってそう後悔する。昴星はまだ、リリィの連絡先を知らないのだ。仮にマンションの中に入れたとしても、リリィの部屋は判らないし、今日は曇っているからプールにいるかどうかも判らない。なんだか意味もなくふらふらしていては、誰かに見咎められて怒られてしまうかもしれない。

 そう、昴星なりに色々と考えを巡らせて、……やっぱり帰ろうかな……、と、そんなことを何度も思いかけては、二三歩後ずさり、またマンションの入り口から遥かな階上を見上げて……。そういう不審な動きを繰り返していたところ。

「昴星?」

 澄んだ女性の声がした。

 振り返ったところ、リーリヤ=グラヴィティスその人が、揃いの制服を着た友人らしき女性と一緒に立っていた。昴星が振り向くと、にっこり微笑んで手を振る。

 プールでは髪を下ろしていた彼女は、今日はポニーテールに結んでいる。金髪は相変わらずとても眩しく、美しいものだった。

「リリィ、知り合い?」

 リリィの友人は日本人だった。それが、昴星を少し驚かせる。

「はい。わたしのボーイフレンドです」

「ボーイフレンド?」

 友人は、リリィの言葉をある種の冗談と解したらしかった。「へーえ、あんたにこんな可愛い『ボーイフレンド』がいたんだねえ。こんにちは」

 昴星はどぎまぎして、「あ、あう、こんちは……」珍しいほどの純情さを頬の色で表現しながら、ぺこりと挨拶をした。

「昴星、わたしのともだちのルナです」

「はじめまして、昴星。藤岡ルナ、月の渚って書いて月渚っていうんだよー」

 藤岡月渚は親しげに昴星に微笑む。明るい栗色の髪は、リリィよりもずっと短い。うっすら化粧をしているが、それはよく観察しなければ判らないほどのものだ。月渚の明るい微笑みは、おっとりとしたリリィと比べ、活発な印象を昴星に与えた。

「ひょっとして、昴星はわたしに会いに来てくれたのですか?」

 そうはっきり問われると、途端に恥ずかしさがこみ上げてくる。だって、会いに来る理由なんて一つしかない。

「へー、可愛いねー。年上の恋人に会いに来ちゃったんだ? 昴星くんいくつ? まだ小学生だよね?」

「月渚、わたしは昴星の『恋人』ではありませんよ」

「似たようなもんでしょ。あ、紅くなってるかわいいー」

 いつも「おにーさん」に見せる強気な態度もどこへやら、昴星は紅くなって「あう」とか「その」とか断片的かつ無意味な言葉を繰り返すのみになった。リリィはもちろんこの月渚に自分の恥ずかしい秘密を告げてはいないだろうとは思うのだが、リリィに会えたときのために溜めていた尿意が俄かに強まるような気持ちになった。

「リリィはこういう可愛い子が好みだったんだね。そりゃー内崎くん振るわけだよ……」

「ですから、昴星はわたしの『恋人』ではありません。内崎くんには、わたしよりももっといい人がいます」

「もー、何度も『恋人じゃない』なんて言ったらこの子可哀想じゃん。……可愛い子来てるんなら、あたしはまっすぐ帰ろうかなー」

 昴星は、この月渚という女性がリリィのところへ遊びに寄ったのだということを理解した。もしそうなのなら、

「あ、あの、……リリィ、おれ、今日はいいや……」

 という遠慮を繰り出すのは、咄嗟のこととはいえ当然のマナーである。

「えーいいよいいよ、昴星くんはゆっくりして行けばいいじゃん」

「で、でも……」

 リリィはにっこり微笑んで、

「昴星も月渚も、どうぞ、わたしの家に寄って行ってください」

 二人に向けて、そう言った。「昴星、寒かったでしょう。あたたかいお茶を淹れてあげます」

「えっ……」

 でも。

 ……でも、何だ? 何と言えばいいのか、昴星には判らない。判らないまま「じゃー昴星くん、行こっか」月渚にぽんと背中を押され、二人の女子高生とエレベーターに乗り込むことになってしまった昴星だった。

 

 

 

 

「お茶を淹れるので、昴星、手伝ってください」

 リリィの家は昴星や諭良の家同様、両親が家にいない時間が多いのだそうだ。諭良もそうだが、このマンションの住民は外国人が多く、片方は母国にいるケースが多いらしい。諭良の家と同じ造りの広いキッチンで、尿意をいつ切り出そうか考えながら一人でお茶を淹れるリリィの側で所在なく立ち尽くしているところに、

「昴星。月渚は、少し誤解をしているようです。昴星には大切な人がいるのに、わたしを昴星の恋人だと思っています」

 昴星はリリィのことも大切な人だと思っている。しかし「おにーさん」と才斗の存在があることもまた否定できない。加えて言えば諭良に流斗に由利香も恋人に等しい存在だ。

「その誤解は解かなければいけないと思います。そして、昴星はわたしと今日、セックスをするために来てくれました」

「なっ……、そ、……そういうわけじゃ……」

 リリィは昴星の髪をいとおしげに撫ぜた。

「オシッコがしたいですか?」

「えっ……」

「さっきから、落ち着きがありません。エレベーターの中で、おちんちんに触っているのが見えました」

 リリィは嬉しそうだった。昴星の髪に口づけをして、「わたしは、早く昴星のおちんちんが見たいです。そして、昴星のような可愛い男の子のおちんちんはわたしだけでなくほとんどの女子が見たいものであると思います」

 昴星の身体がびくんと強張った。恐る恐る見上げたところで、リリィはあくまでも優しく微笑んでいる。

「更に、昴星は女子におちんちんを見られるのが好きですね?」

「うあ……」

 リリィの考えていることの中身の、……すべてではないだろう、しかしかなりの割合を昴星が察知するのは容易なことだった。

「で、でもっ、あの、月渚って人が、もし誰かに言ったら……」

「現在、彼女は昴星がわたしの恋人であると思っています」

 リリィは紅茶の満ちたポットをゆっくりと揺らしながら言う。「このままでは、月渚は明日学校で昴星がわたしの恋人であること、わたしとセックスをしているかもしれないことをクラスメイトに言ってしまうでしょう。それは昴星にとってもわたしにとっても、いいことではありません」

 リリィの言うことは理解できた。「おにーさん」ほどではないだろうが、その年齢で小学生の「恋人」がいると知れ渡ることが彼女にとって都合がよくないということは判る。リリィが困るのは、昴星にとっても困ることだ。

「ですから、わたしとしたようなことを、月渚ともすればよいのです。そうすれば月渚は昴星のことを誰かに言うことは出来なくなるでしょう。……昴星は、この間わたしにそうしたように、昴星自身のことを素直に話せばいいのです。もしも勇気がないのなら、わたしがお手伝いをしてあげます」

 氷の満ちたグラス三つに均等に紅茶を注ぎ、昴星のものにはシロップを足す。「さあ、行きましょう」

 トレイにそのグラスを乗せたリリィは昴星にそう促し、スリッパの足音も軽やかに自室へと入って行った。

「お待たせしました月渚、紅茶が入りました」

「わーサンキュ。リリィのとこの紅茶おいしいんだよねー」

 昴星は緊張しきって、雲の上を歩くような心持で部屋に入り、ぺたんと座った。心臓がどくどく鳴っている。指先が冷たい。肌が、熱い……。

「月渚」

 ストローで一口紅茶を吸ったリリィは、

「繰り返してしまうことになりますが、昴星はわたしの恋人ではありません。しかし、昴星はわたしの大切な人です。昴星とわたしが出会ったときの話を、きちんと聴いてください」

 柔和な微笑みを浮かべて言った。月渚は首を傾げて、「ん? まあ、別に聴くけど」恐らく、彼女はこの部屋に来るときいつもそうするのだろう、クッションを膝に乗せて応じる。

「昴星とわたしが知り合ったのは、まだ一週間前のことです。そうですね? 昴星」

「うあ、……う、うん……」

「月渚、このマンションの最上階にプールがあることは知っていますね? わたしがそこでいつも、日光浴をしていることも」

 リリィは小麦色の肌をしている。それが彼女の金色の髪を、より一層美しいものとして際立たせていることは明白だった。太陽が好きという彼女は太陽にその肌を愛させる代わりに髪に太陽の色を宿しているのかもしれない。

「あー、うん……、って、え、あんたまさか……、この子といるときもあの、いつもと同じに……」

「はい」

 月渚はどうやらリリィが「裸で」日光浴をしていることを知っているらしかった。

「そして、わたしだけでなく、昴星も裸でした。そのときには、昴星ともう一人、このマンションに住んでいる昴星のクラスメイトがいました。わたしはその男の子ともとても仲良しです」

 あんぐり、月渚の口が開いた。数秒、そんな間抜けな表情のまま過ごして、

「あ……、いや、まあ……、うん、大丈夫。それで、……えっ、何で昴星くんとその男の子は裸だったの?」

 気を取り直したように座り直し、月渚の視線は昴星に向けられた。

 リリィは答えない。昴星自身に答えさせようとしているようだった。

 素直に。リリィに言われたことを思い出す。

「……そ……、その……、おれ、……おれは、あの……、その、ともだちと、……ふ、フルチンで、泳いだら、楽しいと思って、誰もいないと思って、……そしたら、その……、リリィ、いて……」

「昴星と、昴星のお友達の男の子は、二人でフルチンで泳ぐという秘密の遊びをしていました。裸になるのは、水や太陽と一緒に遊んでいるような気持ちになってとても楽しいものだとわたしは思います。わたしたちはそれで仲良くなり、三人で一緒にお風呂に入りました。月渚も知っている、プールに隣接したバスルームです」

「さんっ、三人でお風呂入ったの!」

 びっくりするような声を上げて、「……ごめん」と慌てて月渚は謝った。

「バスルームで、わたしたちは色々な話をしました。昴星とその男の子が普段、どんな遊びをしているのか。二人とも、いつも外でフルチンになって、とても楽しく遊んでいるのだそうです。わたしはあのプールで裸で寝ていると、よく変な目で見られることに困っていました」

「そりゃ、あんた……」

「そして、昴星もわたしの裸を見て、とても緊張したようです。でも、わたしには不思議とそれが嫌ではありませんでした。なぜならば、昴星も同じように裸で、そして昴星の裸はとても可愛らしいものだったからです」

 月渚が、また口を開けて、縮んで座る昴星に目を向けた。昴星は月渚に自分の裸を見られているような羞恥心を堪えることで精いっぱいだ。

 そこに追い打ちをかけるように、

「昴星は、自分の秘密をわたしに打ち明けてくれました。昴星はいま六年生で、おちんちんから精液を出すことが出来るほどに大人なのに、……まだオネショが治らないこと。自分のおちんちんが小さいと気にしていること、そして、……そのとき、わたしの前でおちんちんを見せていることが恥ずかしいのに、興奮してしまうことを」

 さらさらと、ごくスムーズに、昴星の恥ずかしい秘密を全部暴露した。

 月渚の口はしばらく開いたままであった。それから彼女は慌てたように、

「えー、えー、ちょっと待って、たんま、待って」

 ちゅうううとストローでグラスの紅茶の大半を吸い上げた。彼女の昴星を見る目は、先程までの「リリィの可愛い恋人」に向けられるそれとは明らかに異なるものとなった。

 リリィは、全く動じない。

「月渚。あなたはまだ、男の人の裸を見たことがないと言っていましたね。わたしに内崎くんや原田くんや磯部くんと付き合うように言って、『どんな風だったか聴かせて欲しい』と何度も言いました」

「いや、いやそれは……」

「わたしは、内崎くんたちはとても魅力的な男性だと思います。しかし、内崎くんたちの身体にはそれほど強い興味は持ちません。しかし昴星や昴星のお友達の身体はとても美しく、まだ男性の身体を見たことがない月渚にも見やすいものであると考えます。そして」

 リリィのてのひらが、昴星の髪を撫ぜた。昴星の頭が熱いことは、きっとその手のひらに伝わっているはずだ。

「昴星は、月渚に裸を見せることが出来ます。そしてこのことは、わたしと昴星と月渚の、三人だけの秘密です。……そうですね? 昴星。昴星は月渚のことを、誰にも言いませんね?」

 うん、という簡単な返事すらうまく出来ない。だから結局、小さく頷くだけにした。

「り……、リリィ、あの、それって、つまり……」

 んぐ、と唾を飲んで、まっすぐに昴星を見る月渚の言葉はリリィに向いていた。

「その、……その子、その、昴星くんの、え、……裸、を、これから、あの、ここで、見る、って、こと……?」

 昴星? とリリィが答えを求める。

 口の中がからからだ。腋の下が汗で湿っぽい。

「お……、お、おれはっ、その……っ」

 見られたい!

 ……痛烈な欲求が鋭い針の形をして昴星の股間に刺さるようだった。

 リリィに、優しくもてなされることだけを夢想していた。やわらかなおっぱいに顔をうずめて、赤ん坊みたいに甘やかしてもらおうと思っていた。そして、……そして、たくさん射精させてもらうのだ、と。

 そこに一人の女子高生が加わることは、単に視線の数に伴って快感が倍に増えるのみならず。二倍、三倍、あるいはもっとか。

「お、お、おれのっ……、おれのちんこっ……、おれのっ……おっ……」

 じいん、と下半身が痺れた。初対面の異性にそんなことを口にすることが、しかも諭良という保護者の存在なく一人でそれを言うことが、どれほどリスクの高いことかは判っているはずなのに。

 一瞬、気が遠くなった。言葉が出て来ない、どうにかして言わなければいけない、そう思えば思うほど、昴星のハーフパンツの腿の辺りをぎゅっと握る手に力が籠った。

「あ……!」

 月渚が――これ以上何も驚くことなどないはずなのに――声を上げて腰を浮かせた。

「ああ、昴星、またオモラシをしてしまいましたね」

 リリィが優しく、優しく髪を撫ぜる。「昴星は、よくわざとオシッコを漏らすのだそうです。赤ちゃんみたいにオシッコを漏らしてしまって、でも、それが昴星には楽しいと言っていました。でもいまは、……わざとではありませんね?」

 昴星は呆然と、自分で作った水たまりの上に正座しているのだった。絨毯敷きの部屋でなかったことが不幸中の幸いだろうか。

 月渚の前での失態は、もう後戻りできないことをそのまま形で証明することにしかならない。

「え、えー、ちょっと……、六年生でオモラシって……、え、っていうか、わざとって何」

「月渚」

 リリィは冷静さを保ち切っていた。「昴星のおちんちんを、一緒に見ましょう。オモラシをしてしまったズボンとパンツで帰らせるわけには行きませんし、洗ってあげないといけません。さあ昴星、お風呂に行きましょう。プールのバスルームほど広くはありませんが、わたしの家にもまた、お風呂があります」

 

 

 

 

 洗面所で、シャツとハーフパンツを脱がされたところで、

「では、わたしは部屋を拭いて来ます。月渚、昴星のことをよろしくお願いします」

 リリィはさっさと出て行ってしまった。昴星は真っ赤になり、月渚は「え、え、マジで? ちょっと」リリィがいなくなることに途端、心細さを隠せなくなったようだ。それでも失禁した少年よりは気を確かに持たなければという思いがあるらしい。

「えーと……、えー、昴星くん?」

 腰に手を当てて、黄色く濡れたブリーフからは目を逸らして、月渚が言う。

「あの、……君は、えー、君と、その、友達だっけ? っていうのは、何、あの、普段から、その……、すっぽんぽんで、えーと」

 月渚が気まずい思いを抱いているのはよく伝わってくる。冷静になるまでもなく、昴星は自分が変態だということをよく自覚していたし、「野外露出」だとか「故意のオモラシ」だとか、一般的な人生を送る人間にとっては非常識以外の何物でもないと判っている。だからこそ知られてはいけないと思うのだし、こうして知られた以上は普段の露出狂欲をどう押しとどめたらいいのか、大いに焦るのだ。

「誰かに見られちゃったら、どうするつもりだったの? その、もうリリィに見られちゃってるわけだけど……、あ、あと、六年生でオモラシとか、そういうのはあんまり……」

 常識に、叱られているような気分になる。してはいけないことだから「失禁」なのだ。それをこうして、常識の目の前で晒してしまって、これからどうしたらいいのか昴星にはまったくわからなくなる。

「おにーさん」に才斗、諭良、流斗、由利香。昴星の周囲にいて昴星のことが好きな人間はみな一様に昴星の失禁を「好き」と言う。汚れたパンツの臭い尿臭を、口をそろえて「いいにおい」と言ってくれる。しかし常識的に考えれば「おかしい」と一言断言されるに過ぎない行為だ。

 そもそもは、ここに来たのが間違いだった。リリィが一人でなくて、この人と一緒にいるということが分かった時点ですぐ「帰る」って言えばよかった。リリィの身体目当てで冷静な判断を下せなかったことが悪いのだ。

 鼻の奥がツンとなった。

「……だ、だって……」

 声を、無理に出そうとしたら、濡れた。

 年上の異性の前で、故意ではない失禁をした。挙句、汚れたブリーフ一枚というみっともない姿で叱られている訳だ。昴星はこれまでこれほど屈辱的な状況をイメージしたことさえなかったし、この期に及んでそれを悦びと思えるほど深い部分まで露出狂であるわけもなく。

 ただ年相応の羞恥心がキャパシティを満たし、溢れた分は涙になってこぼれだす。

「だって、っだって、おれっ……、おれはぁっ……」

 六年生にもなって泣いている、と思った時点で、もう止まらなくなった。両手で押さえても涙は溢れて止まらない。オシッコを漏らして泣くのは、二年生のときに教室で失敗したとき以来のことだ。そもそも度胸はあるほうで、泣くこと自体が稀有な昴星である。

 少年の泣き顔を見て、慌てたのは月渚の方だった。

「え、あ、あ、ごめんっ、その、あのね、怒ってるわけじゃないんだ、そうじゃなくって、ああ泣かないで泣かないでごめんね」

 月渚は焦りを帯びた声でそう言い募り、「大丈夫、大丈夫だから。ね、その、あたしはただ、昴星くんがそういうことして、その、外で例えばすっぽんぽんになってるとこ誰かに見られて嫌な思いしたりしたら可哀想だからと思って……」

 彼女が出来るのは、リリィがそうして昴星の心を和らげていたのを見たままに真似することぐらいだった。明らかに不慣れで戸惑った手のひら、昴星の髪に乗った。

「よしよし、ね、大丈夫大丈夫……、ごめんね、怒ってないよ、大丈夫……」

 甘やかされている、と思えば再び強い勢いで涙があふれ出しそうになる。唇をぎゅっと噛んでそれを堪えて、しゃくりあげながらもどうにか涙の発作を押し留めようとして、目をぐいと擦る。昴星に視線の高さを合わせて、「ごめんなさい」と震えた声で言った昴星に、わずかにほっとしたように月渚が笑みを浮かべる。

「ちょっと、ビックリしただけだからさ。でも、マジであんまし危ないことはしない方がいいよ……? フツーに、外で裸になったりしてるとこ、誰かに見られたらどうなるか……」

 昴星は、月渚の常識的な発言に対して素直にこくんと頷いた。やっぱり、自分には向いていないことだったのだ。諭良や流斗のようには出来ないし、出来なくてもいいことなのだ……。

 月渚は微笑んで、先程よりも少し慣れた手で昴星の髪を撫ぜる。

「でも……、さ、昴星くん、リリィにその……、いろんなこと話したんだね? えっと……、オネショのこととかさ。昴星くん、オネショ治んないんだ? いや、いいんだけど。何かその、昴星くん可愛いしさ。六年生って聴いたときぶっちゃけウソだと思ったし。こんな六年生ってもっとほら、可愛くないって思ってたからさ」

 月渚のお世辞がくすぐったい。おれよりもっと可愛い男子はいっぱいいるし、そもそもおれそんな可愛くなんかないよという言葉は、まだ上手には出て来ない。

「……その、さっきさ、リリィが言っちゃったけど、あたしまだ、男子のそういうとこ、見たことないからさ。正直あの、パンツいっちょの昴星くんと一緒にいるだけでけっこう緊張してるし……」

 そう言われて、昴星は思い出した。

 月渚は、リリィのことが好きな同級生とリリィに付き合うように勧めていたという。そして「どんなだったか教えて」と求めていた、とも。

 つまり、この人は男の裸に興味があるのだ。

 ようやく、リリィが求めていた理解に昴星は辿り着く。何よりリリィが、そういう月渚であることを知ったうえで昴星と一緒に部屋にあげたのだということにまで考えが至った。

 深呼吸を一つして、

「……あの、……おねーさん、……は、……ちんこ……、見たい、の……?」

 恐る恐る、昴星は訊いた。

 月渚は、あっけないほどうろたえて、

「えっ、あ、いや、そういうわけじゃーないんだけど、その、っていうかさ、自分にないものだし、どんな風なのかとかはぶっちゃけ気になるもんでしょ? ね? 昴星くんだってその、リリィのこと見てドキドキしたわけだし、だからその……」

 その言葉の間だけでも二度、昴星の失禁したブリーフに視線を落とした。昴星の視線も誘われるように自分の恥ずかしいブリーフに降りた。

 数秒、沈黙が流れる。

「……ああもうっ」

 月渚は大きく肩を上下させて、真っ赤になった。

「そうだよっ、そりゃ、女子だって男子の身体には興味あるし、そりゃ、見られたいって言われたらびっくりするけど、見せてもらえるんなら見たいよ!」

 どきん、と昴星の心臓が高く跳ねた。

「お……、おれ、平気だよ、おれは……、でも……、誰にも言わないで。おれがオモラシ、したこととか、ちんこ、外で出してるとかっ、リリィとその、……エロいこと、したとか、ナイショにしてくれんなら、おれ……」

 自分の息が、熱くなるのを昴星は覚える。

 喜びの気配が熱を帯びて、心臓からゆっくりと全身へと広がっていく。

「おれ……、おねーさんに、ちんこ、見てもらいたい……」

 月渚は真っ赤になって、黙り込む。そこにリリィが廊下からノックをしたから、「ぴゃ」と妙な声を上げて彼女は飛び上がった。

「月渚。わたしは昴星のズボンを洗って、もう少し部屋の掃除をしようと思います。昴星のことを洗ってあげてください、シャワーはお湯が出るようになっていますし、着替えも用意しておきます」

「わわわわ、わかった、わかった!」

 滑稽なほど狼狽して、月渚は言い、リリィの足音が去っていくまで身を固くして待つ。

 それから、

「……いいの……?」

 心細そうな顔になって、昴星に訊く。

 昴星は、ん、と頷いた。

 これまで多くの相手に自分の股間を晒してきた。恥ずかしい思いをたくさんしてきた。ただ共通しているのは、例外なく「見たい」という気持ちを内包している相手だったということ。これだけ多くの人がそう思うのだから、実は本当はみんな「ちんこ見たい」って思ってるのかもしれない……、と昴星は初めてそんなことを思った。

 緊張しながら、昴星はブリーフのウエストゴムに指を入れる。

 月渚も緊張しきった顔で、昴星のブリーフを凝視していた。

 ゆっくり、ゆっくり、昴星はぎこちなくブリーフを下ろす。湿っぽい下腹部が晒され、まだ一本の毛も生えていない根元が露わになる。それからわずかに遅れて、ぷるんと震えて縮こまった陰茎がこぼれた。

 これが、藤岡月渚という女子高生が初めて目にする男性器である。

 月渚は声さえ立てなかった。小さく幼い昴星のペニスを前に、ただそれを見つめることしか出来ないでいる。

「お、おれの……、ちんこ……、ちっちゃいから……」

 もとより「小さい」ものであることは知っている。加えていまは緊張しているから、普段よりさらに小さくなっている。本当はもっと大きい物のほうがよかったんじゃないだろうか。高校生ぐらいの。そういうもののほうが、このおねーさんだって見てうれしいはず。

「いや……、いや」

 月渚は、一つ、深呼吸をして、

「……可愛いんだね」

 とぎこちなく微笑んで、昴星の顔を見て言った。

「で、でも、いま、オシッコついてて、くさいし……、おれ、諭良……、いっしょにちんこ出したりオモラシしたりする、友達にも、あと、そういう友達ほかにもいるけど、あと、恋人にも、臭いって言われる……」

「恋人? 昴星くん、恋人いるの?」

「あ……」

 やべ、と思ったけれど、言ってしまったものは仕方がない。こくん、小さく頷いて、

「……ふたり……。幼馴染のやつと、あと、年上の、おにーさん……」

「ん? 『おにーさん』……、え、ってことは、男の人……」

 あ、ほんとにやべ。でももう遅い。

「……幼馴染も、男……」

「……つまり……」

「……お、おれ、もともと、幼馴染のちんこ、しゃぶんの、好きで、その、幼馴染はおれのオシッコの臭いとか好きだって言ってて、それで、付き合うようになって……、あと、おにーさんは、たまたま知り合って、ちょっとビックリさせてやろうと思って、その、おれの、見せてやるって言って、そしたら、すごい優しくて、おれ、好きになっちゃって、だから……」

 言えば言うほど墓穴にはまっていく気がして、昴星は黙った。月渚の感想は、

「……最近の男子、すっごいな……」

 というものであった。

「つまり、あれか、昴星くんはホモ……、ってことだよね」

「で、でも、おれ、そういうこと、女子ともする……。リリィも、女子、はじめてじゃなくって、でも……、その、年上の、女子は、はじめて……」

 自分の陰茎がこれ以上ないくらい小さくなって、消えてなくなってしまうような気がした。

 でも、これだけは伝えておかなければならない気がする。

「おれは……、自分の、ちんこ、こんな、ちっちゃくて、……オネショなおんねーし、オシッコ、ガマンすんの、得意じゃないけど、でも、こんなの、好きって、見たいって、言ってくれる人、いたら、その人が嬉しいなら、見せたいって……、思うから……。おれの、オモラシも、見るの、好きって言ってもらえて、うれしくて、してるうちに、おれも気持ちよくなれるって思って、だから、する……。その、……見てもらえると、恥ずかしくって、どきどき、するけど、でも、それだけで、悪いことだってわかってるけど、でも、うれしいし、でもって、……おれのちんこ見た人が、うれしいって思ったら、いいなって、思う……」

 月渚は、昴星の、昴星自身あまり意味が伝わらないのではないかと懸念するような言葉をゆっくり時間をかけて咀嚼しているようだった。

 やがて彼女は、

「あたしも、嬉しいな。男子のパンツの中、どうなってるんだろうってずっと興味あったし、でも、そんなこと言えないじゃん? だからこんな風に見せてもらっちゃって、嬉しい」

 にいっと微笑んで言った。リリィよりも女らしさには乏しい。髪が短いせいもあるだろう。でもはっきりした顔立ちは年上でも「可愛い」ものだと昴星は判断するし、その笑顔は昴星を安心させ、昴星の笑顔をも呼び出すほどの力があった。

「昴星くん」

「よびすてで、いいよ」

「じゃー、昴星、とりあえずさ、その、ちんちん洗おうか。カゼひいちゃつまんないし、ね?」

「うん」

 昴星はブリーフを脱ぎ、浴室に入る。リリィのバスルームは、リリィの身体からする甘い匂いが満ちている。月渚が靴下を脱いで入って来た。彼女は制服の袖をまくり、てきぱきとシャワーの湯の温度を調整する。

「昴星、手ぇ出して。これぐらいで平気? ちんちん洗うときって、いっつもどれぐらいでしてるの?」

「ふつーに、身体洗うのとおんなじぐらい」

「そうなの? ……ちんちんって物凄い大事にしてるもんだと思ってた」

 どうやら月渚は、本当に男の身体を何も知らないらしかった。少し照れたように、

「あたし、父親いないんだよね。きょうだいもいないから、ずっと母さんと二人だけで、男と付き合ったこともないし、だからちんちんのこと何も知らない。クラスにはさ、彼氏がいて、そういうことめっちゃしてる子もいるんだけど、あたし何か、男子とそういうことするの怖い気がしてさ」

 昴星の股間に向けてシャワーの湯を掛けながら、言う。

「……おれの、彼氏のやつの、いとこ。ちんこ、女子に見せんのおれよりもっと好きで、学校でいっつもオモラシして、フルチンになってるって言ってた。いっしょに海行ったときも、そいつ、フルチンで……」

「……マジで? すっごいね……」

「おれより、二個下なのにすっげー勇気あって……。おねーさんも、そいつみたいなのがいる学校だったらもっと早くちんこ見れたよ」

 実際問題、流斗のような男子があっちこっちにいるはずがない、……いてたまるか、とも思うのだが、……もし月渚が流斗と出会っていたなら? 月渚の中にある「見たい」思いを察知して、自ら「お姉ちゃん、ぼくのおちんちん見せてあげる」ぐらいのことは言っていたかもしれない。そんな想像を巡らさせるぐらいに、流斗は常識外れの存在だ。

「……もし、おねーさん見たいなら、こんどそいつ、連れてくる。あと、リリィと会ったときにもいた、おれの学校の友達も……」

「い、いや、いや、いいよ、……その、そんないっぱい見なくても、……わりとあの、昴星のちんちん見せてもらえただけでお腹いっぱいっていうか……」

 別にそれなら構わないが、……諭良も流斗も、きっと嬉しいし、楽しいと思ったのだ。

 流斗が「楽しい」と思う行為の楽しさは、昴星にも判るつもりだ。

 月渚は靴下を脱いだだけ、他はきっちりと身に纏ったままである。そんな年上の少女の前で昴星は全裸を晒しているのだ。オモラシの後始末をしてもらっているのだ。

「……昴星は……」

 月渚の視線は昴星の股間から離れない。湯を浴びて、先程よりもほんのりと珠袋の緩んだそこを、興味津々の目で見つめている。

「あのさ、……リリィと、その、えっちなこと、したの……?」

 遠慮がちな言葉の隙間を、シャワーの音が流れる。

「……ん、した……」

「それは、えーと……、つまり、今日もしに来たんだよね……?」

 こくん、昴星は素直にうなずく。

「リリィ、の前で……、こないだ、おれ、オシッコ漏らして、うんこするとこ見てもらって、……そのあと、リリィ、いっぱいほめてくれたんだ。おれ、可愛いって言ってくれて、……おれそんな可愛くないって思うけど、でも、うれしくって……、おれ、リリィの赤ちゃんみたく、なってたとおもう……」

 さすがに恥ずかしさが理性を超えて、紅くなりながら昴星は言った。「赤ちゃん……?」月渚が訝る。

「……おっぱい、吸わせてくれた。あと、ちんこ、すごく、かわいがってくれて……」

「……昴星、ホモなのにおっぱい、っていうか、女子の身体、興味あるの?」

「だ、だって……」

 おっぱいは、おっぱいとして、……つまり異性の身体も異性の身体として、大いに魅力的なものである、と昴星は思っている。そうでなかったら、由利香とセックスをして楽しいとも思わないし、リリィのところへこうして来たりもしないのである。

「……おれ、おっぱい好きなんだと、思う……。ホモだし、その……、おれ、ちんこしゃぶんの、好きなんだ、でも、……おっぱいしゃぶんのも……」

 真面目な顔して言うようなことじゃなかったかもしれない。「あはは」と少し笑った月渚を見て、昴星はそう思った。

「まー、そっか、男の子だもんね。それにあの子ぐらい大きかったら興味出ちゃうよね」

「そ、それは……」

 昴星の目は、思わず月渚の胸に向いた。……リリィほど大きくない。リリィがかなり大きい部類に入るのは確かなようだが、月渚がどちらかと言えば控えめであるのもまた本当だろう。……そういう考えまで見透かされたとは思わないが、

「あ、エロいなー、ねえ、六年生の男子ってそんなエロいの?」

 からかうように咎められて、真っ赤になる。

「そ、それはっ……」

 気まずい思いに俯いて、黙りこくる。月渚も黙って、しばらく昴星のペニスにシャワーを振りかけ続けていた。石鹸を使ってこそいないものの、これだけ洗い流せばもう清潔さを取り戻しているはずなのだが、月渚はなかなか湯を止めない。

 昴星も、もう少しこの「おねーさん」といっしょにいたい、と思った。そっと伺うと、月渚の目はまた昴星の股間に向いている。どんなに小さくとも彼女にとって初めて見る、異性の裸なのだ。

 その視線がそこにあるだけで、昴星は嬉しい。

 一度、唇を開けて、……また閉じて。

「ねえ、……おねーさん」

 二度目は、ちゃんと声が出た。勇気を振り絞る。オモラシ見られちゃったんだぞ、もう、何見られたってたいしたことないぞ、……でもやっぱり、恥ずかしいことは否定できないけれど。

「あの、あのさ、おれの、ちんこ、面白いの、見せてあげる」

「おもしろいの?」

 シャワーから一歩引いた昴星に、月渚が不思議そうに首を傾げた。

「あのね、おれの……、ちんこ、見てて」

「ちん……、う、うん」

 昴星は昴星なりに、色々なことを考えるのである。

 リリィが、月渚と自分を二人にしたこと。……このひとも、ちんこ見たいんだ。でもって、おれが見られたいこと知ってる。だから、二人きりで、仲良くなれるようにって。

 昴星は手を後ろに回して、

「ちんこ、ぷるぷるっ」

 腰を左右に小刻みに振って見せた。小さい陰茎が左右にぷるぷると小刻みに震える。みっともないとは思うけれど、これを見て「おにーさん」はすごく喜ぶし、リリィも「可愛い」と言ってくれたし、だから。

 おれがいましなきゃいけないことは、これなんだ。

 月渚は、きょとんとした顔で昴星の作り出す振動を見つめていた。昴星の幼い茎が左右に揺れ、腰の振りの激しさに応じて時折上を向く。ごく小さなプロペラが回るように見えるときさえある。男性器を目撃するのもこれが初めての月渚にとっては、純粋に興味の対象となっただろう、が。

「ぷっ……、なにそれ! 超おっかしい……、あはっ、ちんちん超プルプルしてる!」

 笑った。

「ひ、ひひ……」

 昴星も知らず、笑顔になっていた。月渚をもっと楽しませたい一心で、激しく腰を振り過ぎたせいで、少し呼吸が乱れた。

「へーえ……、ちんちんって、そんなプルプルするんだー……」

「うん、……おれのちんこはちっちゃいからあんまプルプルしないけど、いっしょにリリィと遊んだ諭良のちんこはね、おれのより長くて、さきっちょの皮があまってて長いから、もっとぷるんぷるんするんだ」

 月渚はシャワーを止めて、改めて昴星のペニスを観察する気になったようだ。腰掛に座った彼女の、目の高さに近いところに昴星の陰茎はある。

「昴星のちんちんって、同い年の子たちと比べてちっちゃいの?」

「ん……、二個下の、流斗のちんことおんなじくらい……」

「そうなんだ? ……まーでも、いきなりすっごい『男!』って感じの見るよりよかったかなあ。あんまりでかいの見ても、なんか怖いかも。昴星のは何かあれだね、可愛いって感じ」

 月渚の、昴星のペニスを見る目に遠慮がなくなった。それだけで、昴星は月渚の前で陰茎を振って見せてよかったと思える。

「おれ……、おねーさんにちんこ見てもらえて、うれしい」

「そうなの? そっか、昴星は見せるの楽しいんだっけ」

「ん……、おねーさんのまえで……、オシッコもらして、恥ずかしいとこ、いっぱい見られちゃったけど、でも……、リリィだけじゃなくって、おねーさんにもこんな風にちんこ、見てもらえんの、うれしいよ」

 月渚が、久しぶりに昴星の股間から視線を上げた。月渚は笑顔だった。

「そっか。……んーとね、あたしも昴星のちんちん見れてうれしいかな。そりゃ、びっくりしたけどさ、いきなりオモラシしちゃうし、ホモだって言うし、外ですっぽんぽんで遊んでるとか……。でも、こんなことでもないとあたし、ずーっとちんちん見れなかったと思うし。だからぶっちゃけこれでオッケーなのかな。ね?」

 うん、と昴星は頷き、また月渚の前で腰を振る。月渚は楽しそうに「すっごい、マジぷるぷるするんだねー」と笑ってくれた。

 もっと見せたい、見てもらいたい。

 思いが昴星に言葉を紡がせる。

「ねえ、おねーさん、おれオシッコしたくなってきた」

「へ? さっきしたばっかじゃないの?」

「ん、でも……、したい。その、リリィと会ったら、えっと……、オムツして、赤ちゃんみたいにしてもらえるって思ってた、そんで……、そのためには、いっぱいオシッコしなきゃなんねーし、だから……、水いっぱい飲んできて……」

「あー……、そうなんだ……。トイレまでガマンできる?」

「んん、ここでする。おねーさんに……、おれ、おねーさんにオシッコするとこ見てほしいんだ……」

 素直な言葉が月渚を戸惑わせることはなかった。月渚はまじまじと昴星の顔を見上げて、ふっと笑みを零す。

「しょうがないなあ……、じゃあ、いいよ。でも内緒だよ? あたしが昴星のオシッコ見たって」

「うんっ、じゃーオシッコする! ちゃんと見ててよ」

「はいはい」

 月渚にかからないように、昴星は排水口に向けてペニスを構える。

 さっきオモラシをした直後は、不幸のどん底にいるような気持ちだった。

 それなのに、

「じゃあ、いくよ」

 いまは、こんなに楽しい、こんなに幸せだ。

「おー……、すごい、男の子のオシッコこんな風に出るんだ……。小便小僧のアレとおんなじだね」

 薄い黄色のオシッコをしながら、昴星は大いに満ち足りた気持ちになるし、そうなるとそれだけでは足りなくなる。

「おねーさん、ちんこ見るのはじめてなら、ちんこ触ったこともないんだよな?」

「……ん? うん、ないよ」

 月渚の返事は昴星の陰茎からほとばしる尿に意識を向けていたせいか、少し遅れた。

「……おれの、オシッコ、もうすぐ終わるから、触ってみる?」

 嫌がられるかな、と思った。また少し返事が遅れたのは、迷っているからだと思った。

 しかし、

「ねえ……、昴星、ちんちんの向き変わって来た」

 彼女の興味は昴星の陰茎が見せる表情にとらわれているらしかった。

 オシッコを噴き出させているさなかから勃起してしまうことは珍しくない。特に「おにーさん」に撮られているときなどしょっちゅうだ。

「んっと……、ちんこ、勃起、してきた……」

 尿の勢いが治まり、絞るために括約筋を働かせると、ぴくん、ぴくん、月渚の視線の先で短い茎が脈打つ。

「へー……」

 月渚はまたぽかんと昴星の性器の変化に目を奪われているようだった。「勃起って、こんななんだ……、こんな簡単にするもんなんだねー……」

「っていうか……、おれは、ちんこ勃起しやすい……。おねーさんの前でオシッコして、ドキドキしたから……」

「……ってことは、えー、あたしが見てるだけで興奮しちゃったってこと?」

 こく、と昴星は頷き、自らシャワーでペニスをすすぐ。それから空の浴槽の、ちょっと冷たい縁に尻を乗せた。足を開いて、

「だって、見られんの、……ドキドキするもん。おねーさん、女子だし……、女子の前でオモラシして、ちんこ洗ってもらって、でもって、オシッコするとこ見せて……、って、全部おれ、すっげードキドキする」

 濡れた陰茎はくっきり上を向いた。月渚が抵抗感なくそれを目にできるのは、

「あんま大きさ変わんないんだね?」

 という要素が大きいようだ。

「ふ、ふつーは、もっと変わる……、でかくなって、おれの、彼氏とかは、ちんこ皮向けて、大人っぽくなる。けどおれ、勃起してもちんこかたくなるばっかりでぜんぜんでかくなんないんだ」

「ふーん……、ぴくぴくしてる」

「お尻の穴、きゅってするとちんこもきゅってなるんだ」

 恋人や「おにーさん」や諭良や流斗と遊ぶときには洗わない。臭ければ臭いほど喜ばれるし、もっと汚すことがセックスの主眼となるから。

 けれど月渚の前では洗わないわけにはいかなかった。月渚は何も言わなかったけれど、昴星のオシッコは極端に臭い、それも気になる。

「おねーさん、……ちんこ、さわってみる?」

 昴星は自分の鼓動が早くなるのを覚えながら、訊いた。

「ちんこ……、ちんちん、え……、でも」

「おれ……、おねーさんにちんこ触ってほしい。ちんこ……、ダメ?」

 これで「ダメ」と言われたなら、……そういうことまで昴星は考えていた。そのときにはしょうがないから、自分で処理しよう。でも、そうするところを見ていてもらおう。

「どういう風にするのとか、わかんないけど……、でも、昴星触ってほしいの?」

 ぴくん、とまた震えた。

「……さわって、ほしい……。その、はじめて会ったばっかの人に、こんなこと言うのおかしいって、わかってるけど、でも……」

 月渚は、しばらく昴星のペニスと顔とを見比べていた。少し、緊張している。でも、昴星だって緊張している。無理やりにさせてはいけないようなことだということは理解しているから、あくまで幼い少年は「お願い」をするのだ。

「……んーっと……、えー、でも、昴星、それで気持ちよくなれるの? その、ぶっちゃけ触んのとか初めてだしさ、痛くしちゃったりしたらまずいし……」

「だいじょぶ」

 昴星は急き込んで応えた。

「ちょっとくらい痛くなっても、平気だし、おれ……、おれ、おねーさんに触ってもらえたらうれしい、それだけで、きっと、すっごい気持ちよくなるから、だから……」

 月渚は、そんな昴星に戸惑う様子もなく、

「ん、……わかった。ぶっちゃけあたしもちょっと、触ってみたかった」

 少し微笑んで言った。そう言うとき、月渚が自分より四つも年上なのだということを、昴星はとくと感じさせられた。

 月渚の指が、……やや恐る恐るの趣で、昴星の陰茎に近づく。

 細い指だ。綺麗な爪だ。でも色は付けていない、短く切って整えられている。健康的な印象の指に触れられることは昴星にとって何の恐ろしさもない。

 親指と人差し指の先が、挟むように、上を向いた茎の半ばほどを摘まんだ。

「あ……、思ってたよりぜんぜん硬いんだ……」

 月渚はぼんやりと呟きながら、昴星のペニスがそれだけでビクンと震えるのに反射的に指を離す。

「……あのさ、えーと、昴星、……射精、するときはちゃんと、教えてね?」

「ん……、ちゃんと、言う……」

「いきなりビュッとか出されると、びっくりするからさ……」

 そうぎこちなく言ってから、月渚の指の動きは彼女自身の興味に導かれるように色々と動き始めた。「こっちはぷにっぷにしてるんだね……」と陰嚢を指で下から持ち上げたり、茎に顔を寄せて、「すごい……、すっごい、ぴくぴくしてる、血管透けて見えるんだ……」観察に時間を掛けたり、

「ひゃ」

「あ、あ、ごめん、痛かった?」

「へ、平気だけどぉ……」

 皮の先っぽに指を当てられたり。

「お、おねーさん、そこ……、おれ、ガマン汁出てるから、おねーさんの指汚れちゃうよ……」

「……ん、えーと、ぬるってしたね。糸引いてる……」

「おれ、他の人よりガマン汁多いんだって。……その、ちんこ、オシッコガマンできないだらしないちんこだから、ガマン汁もいっぱい出ちゃうし……」

「ふつうの子はこんなに出ないの?」

「……少しは、出るだろうけど、……流斗は、こんな出ない……」

 だらしないちんこ、と思っている。このまま中学に上がってしまって大丈夫なのかと、このところ不安を覚えるぐらいに。

「そうなんだー……、でも、これ出てるってことはさ、気持ちいいってこと……、なんだよね?」

 月渚は余り皮の先と指との間に繋がった粘液の糸を伸ばして訊く。指を当てて離されるたび、そこはささやかにちゅぽちゅぽと音を立てていた。

「……ん、だって……、ちんこ、女の人に触られてんだよ……? 恥ずかしいし……」

「恥ずかしいけど、昴星はそういうの好きだからこのぬるぬる出てくるってこと?」

「……うん……」

 ちゅぽ、ちゅぽ、音を立てる粘液は月渚の清潔感のある指をどんどん汚していく。自分のペニスから溢れて止まらないものでそんな風に汚してしまう陰茎のだらしなさが恥ずかしくて、昴星にとっては嬉しく気持ちいいのだった。

「ふーん……、あたしはさ、何ていうんだろ、あんま上手く言えないけどさ、……昴星のちんちん触れて嬉しいって思うし、昴星のこと気持ちよくしてあげられるかどうか自信なんて全然なかったけど、でもこういう形で『気持ちよくなってる』っていう、証拠? みたいなの、判りやすく見せてもらってる感じでいいかな。その、……ちんちんにこんなイタズラしちゃいけないんだろうけど」

 粘液を纏った指で、月渚が砲身を撫ぜた。舐められているのともまた違う感触に、「うあぁう……」昴星の唇からは声が漏れた。その少女めいた反応も、月渚には昴星の快感の発露と解釈されたらしい。月渚は昴星の陰茎の、皮の上からでも判るカリ首のふくらみから根元まで丹念に腺液を塗り広げるように撫ぜながら、

「……気持ちいい? 昴星」

 見上げて、訊く。

「んっ……、おねーさん、してもらう、のっ……、きもちぃ……!」

「……ひょっとして、もうすぐ射精する?」

「んっ、もうちょっと……! お、れ、っ、おれね、すっごい、いま、すっごいうれしいっ、おねーさんに、恥ずかしいとこ、いっぱい……おれの、恥ずかしいとこ見られて、ちんこにっ、イタズラしてもらうのっ、すっごいうれしいっ」

 こみ上げてくるものがあった。月渚はそれを指先で察知したかもしれない。しかし昴星は、

「出るっ、せーしっ、せーしでるっちんこっ、せーし出ちゃうっ」

 少しでも月渚を汚してはいけない気になって、恥ずかしい告白に声を上げた。

 月渚は、指を離さなかった。

「おっ……、……おお……」

 なんて、手品を見せられたような声を上げて、昴星が人の家の浴室の床に散らした白い液体と、それを放った小さなクラッカー、それから運動後のように息の上がった昴星の顔を運に見る。

「すごい、昴星、いますっごいビクビクして、……ちんちんの先っぽからびゅびゅって出たの、いまの、精液?」

 強い快感の引き波に、よろよろと浴槽の縁に尻を落として、昴星はこくんと頷いた。

「じゃあ、昴星気持ちよくなったんだ……」

 昴星は、ゆっくりと深呼吸をして、

「ん……、すっげー……、気持ちよかった。こんな風に、知らない人に、女の人に、ちんこ、いっぱいしてもらうの、……すっげー、きもちよかった。おねーさん、指、上手だと思った」

「……んー、そうなのかな……」

 月渚の指は昴星のガマン汁でべとつくのだろう。シャワーで洗い流して、そのまま昴星の股間も、股間から出たものも丁寧に濯いで首を傾げる。「どういう風にすればいいのかとか、あんまわかんないし……、ほら、その……、恋人同士とかだと、ちんちんしゃぶってあげたりするって聴いたことあるけど、なんか、まだ友達っていうか、知り合ったばっかだし、昴星がイヤかなって。だから舐めたりする代わりに指でそんな感じに……」

 昴星は恥ずかしそうに、「おれのちんこ、臭いからおねーさんみたいな人が舐めたらダメだよ」と股間を隠す、反射のように「あ、隠しちゃった」と月渚が残念そうに言う。

「……もっと、見たい?」

「んーっと……、うん、見たい。昴星のちんちん可愛い」

 月渚は開き直ったように笑った。昴星も「おれも、ほんとは見て欲しい……」両手を退かす。抵抗感なく月渚はそこに指を当て、

「あっ、めっちゃプニプニになってる。……精液出してすっきりしたから?」

 その甘ったるい指触りを愉しんでいる。

「ん、でもあんま触るとまた勃起するよ」

「へーえ……、ねえ、勃起とか射精とか、どれくらいのペースでするの? えっとつまり、一日に二回とか三回とか?」

 本当に月渚は男子の性事情について知らない様子だった。けっこうきれいな人なのに、世の中はそういう不思議がたくさんある。「不思議」そのもののような存在でありながら昴星は無責任に思った。

「毎日そんなやったら疲れちゃうよ。でも、ここんとこは毎日かも……。学校で諭良と遊んだり、夜はおにーさんとこか才斗んとこでセックスするし、休みの日は流斗来たり由利香来たりするし……。でも、みんながみんなそうじゃないよ。だいたい、まだちんこからせーし出せないやつだっていると思うもん」

「んー……、それっていうのは,アレ? ちんちんとか身体の大きさで決まるの?」

「んーん、……ただ知ってるか知らないかってだけじゃねーかな……。だって、流斗はおれより二個も下でちっこいけど、せーし出せるし……」

「そうなんだ……、へー……、男子のちんちんって全然わかんないなあ」

 月渚は途方に暮れたように溜め息を吐く。しかし指は飽かず、昴星の陰茎にあった。「でも、昴星のちんちんは可愛くってあたし好きだよ。それだけ判ってたらまあいいかなー」

 今度こそ、月渚の指は離れた。もう弄ってくれないのか、とちょっと寂しい気持ちになった昴星である。しかし月渚がにっこり笑って髪を撫ぜてくれたから、良しとする。

「……内緒ね?」

 月渚が訊き、

「うん、ナイショ」

 昴星も頷く。「……おれ、おねーさんがちんこ見たいときあったら、……もっと勉強したいときあったら、いつでも言ってくれたらちんこ見せる。おれ……、おねーさんにちんこ見てもらえて、よかった」

「やー、びっくりしたけどね。でも、あたしも昴星のちんちん見せてもらえてよかった。……じゃあ、出よっか。昴星は、……えーと、リリィと遊びに来たんだもんね?」

 あ、そうだった。失禁以降それどころではない状況に陥って忘れていたし、リリィではない人の手によって射精までしてしまったが。

「あたしはじゃー、帰ろっかなー」

 月渚がそう言ったところで、

「何故ですか?」

 いつの間にか開いていたドアからリリィが顔を覗かせて訊くものだから、月渚の口からは「ぴゃッ」と妙な悲鳴が上がった。

「昴星と月渚、仲良しになりましたね。仲良しはとてもいいことです」

 リリィはにっこり微笑んで、手にしたものを昴星に向けて掲げる。「昴星、パンツを穿きましょう。そして月渚、わたしといっしょに昴星の面倒を見てあげましょう。わたし一人よりも月渚がいっしょの方が、昴星は嬉しく、また、たくさんの幸せを得ることが出来ることでしょう」

「って……!」

 月渚は親友の言葉に対してよりも、「それっ、そんなの穿かすの……?」彼女が手にしているもののほうに意識を捕われた様子だ。

「はい。昴星だけではなく諭良も、これを着けていないと先程のように再びオモラシをしてしまうかもしれません。だからわたしの側にいるときは、これを着けていた方がいいと思って買って来ました」

 月渚の視線は昴星とリリィの手にあるものとを何度も往復する。昴星は恥ずかしさがこみ上げてくるが、「ん」と頷いた。

「おれ、……恥ずかしいの好きだもん。リリィに、赤ちゃんみたいにしてもらうの、気持ちよくなれる……。でも……」

 こく、と唾を飲んで、勇気を出して。だってもう、この人は全部見た後なのだ。自分の情けないほど小さな陰茎を「可愛い」って言ってくれたのだ。

「おねーさんも、いっしょなら、おれもっと気持ちよくなっちゃうと思う……」

 昴星は素直にリリィの前に立った。リリィは丁寧に昴星の身体を、ふかふかでとてもいい匂いのするタオルで拭き清めてから、昴星に高学年用のオムツを着用させた。テープタイプのものだ。「買って来た」と言っていたけれど、恐らくこれは諭良がプレゼントしたというかこの部屋にキープしているものだろう。

「昴星は可愛かったでしょう?」

 リリィは月渚に訊く。リリィの問いに、

「……そりゃ、可愛かったよ、こんな、男の子ってこんな可愛いなんて思ってなかったし……」

 少しどもりながら、月渚は答えた。

「昴星はこれからもっと可愛くなるのだと思います。わたしもまだ、昴星の可愛いところは一度しか見たことがありません。でも月渚がいっしょにいることで、昴星がもっと可愛くなるのならば、わたしはそれを見ることを望みます」

 親友がそういうことを言う人間だとは、月渚は知らなかったはずだ。せいぜい知っていたのは裸での日光浴ぐらいで、それも実際に見た訳ではなかったろうから他人事。しかしリリィが知り合った昴星と、一般的ではない「知り合い方」をすでにしてしまった月渚である。

「昴星、月渚に色々なことを教えてあげたのですね」

「ん、……教えた、……その、ちんこのこと、いっぱい」

「いい子ですね。昴星はとてもいい子です。いい子だから、わたしはご褒美をあげなければいけませんね」

 リリィは膨らんだ胸元を清楚に隠すブラウスのボタンをためらうことなく外していく。現れた淡いピンク色のブラジャーに、迷うことなく昴星は顔をうずめた。その柔らかい熱、感触、優しく甘い匂い、……しばらく収まっていた欲が、ぎゅうっと股間に集まってくる、無意識のうちに肛門がヒクヒクする。

「あぁ……、リリィの……、おっぱい……!」

 リリィの、母性そのもののような手のひらが昴星の髪を緩やかに撫ぜた。「昴星はおっぱいが好きですね。六年生なのに甘えん坊です」少しいじめるように言いながらも、その手はとても優しく、安心できる。幼稚園児か、もっと幼い赤ん坊になってしまうような……、そうなることに、少しもためらいがなくなるような気持ちになる。

「月渚は、昴星にまだ何も見せていないのですね?」

 月渚が、頷いたのだろう、ただ気圧されているのか、言葉はない。

「月渚は、昴星に裸を見せるのは恥ずかしいと思いますか?」

「そっ……、それは……」

「昴星は、月渚にたくさん恥ずかしいところを見せました。この後、きっともっと恥ずかしいところを見せてくれると思います。そういう昴星のために、少しだけガマンしてあげることは不可能ですか?」

 月渚は応えない。けれど、彼女がすぐそばまで来たことは、気配で感じた。

 リリィの手のひらが外された。

「昴星……」

 月渚の手のひらが、代わりに髪に乗った。リリィのおっぱいに顔をうずめ、寝息のようにあまやかな吐息を漏らして恍惚に酔い痴れる少年の髪を、とまどいながらも、……確かに可愛い生き物を扱うように、そっと、撫ぜる。

「昴星は、とても可愛いです。わたしの、弟、あるいは、子供のように思います」

「子供って……、あんたねえ……」

「確かに昴星はわたしが産んだ子供ではありません。ですが、昴星といっしょにいると勉強になります。いつかわたしが子供を産んだとき、赤ちゃんをどうやって扱えばいいか。……昴星は、とてもいい子です」

 甘い甘い、少女のにおいだ。昴星はとろんとした気持ちでリリィを見上げる。リリィは優しく優しく微笑んで、昴星の頬を撫ぜ、額にキスをしてくれた。甘えたい気持ちがますます溢れるような、慈しみの情のこもったキスだ。

「リリィ、おれ……、またオシッコしたくなっちゃった……」

 月渚の見ている前であることを自覚したうえで、欲のまま昴星は訴えた。

「……もう少しだけガマン出来ませんか?」

 全て判ってリリィが訊く。昴星はこくこくと頷いた。「オシッコ」を、「したい」のだ。こうして二人の、年上の異性に甘やかされている状況で、そういうことをしたらどうなるか……、思いを巡らせるだけで既に強張りを帯び始めた短茎がより熱くなるように感じられる。だから、「したい」のだ。

「えっと……、トイレ、連れてってあげればいいの……? その……、昴星、今、赤ちゃん、なんだよね?」

 月渚が戸惑いながらもリリィに訊く。リリィは再び昴星の額に口づけをした。

「赤ちゃんです。赤ちゃんはおトイレまでオシッコをガマンすることは出来ません。そうですね? 昴星」

 許しを得て、昴星は頷く。

 リリィの腕が解かれた。そのまま、昴星はころんと洗面所の床に横たわる。リリィのスカートの中が覗けて、淡いピンク色の、……由利香が穿くよりも大人っぽい、レースの付いた下着が覗けた。

 それを見詰めながら、ゆっくりと下半身の力を抜く。

 オムツの中が、急速に温かくなっていった。

「昴星……、いま、オモラシしてる、の?」

 月渚が、リリィに訊く。リリィは満足げにうなずいて、「赤ちゃんだから、オモラシをします。たくさんオシッコをしたら、月渚、昴星を褒めてあげてください。ちゃんと『オシッコしたい』って言ってからオシッコをしたのですから」

「褒める……、そういう、もんなんだ……?」

 困惑の中から顔を上げたように、月渚の表情から迷いが消えていた。この状況が尋常かどうか――もちろん、尋常であるはずがないのだが、それを――精査するよりも、もっとシンプルに、初対面の少年と親友とが揃って楽しんでいる状況を、一緒になって楽しんでしまうのが得だと考えたのかも知れない。

 昴星は月渚が自分のオムツを見詰めているのを覚えながら、大いに満ち足りた気持ちでオムツの中を自分の尿で満たした。

「あ、ぶるってした……。男子もするんだ……」

「月渚。勉強になりますね」

「えー……、うん、そうなのかな、まあ……」

「ちゃんと覚えておくために、わたしは月渚に一つアドバイスをします」

 月渚が、昴星を洗うために浴室に入った際に洗面台へと置いたスマートフォンをリリィが取って、持ち主に手渡す。

「昴星のことを、しっかり見てあげてください。何度も……、何度でも。貴重な資料になるでしょう?」

「しりょ……、え、と、撮るってこと……?」

「ええ。昴星がこれだけ協力してくれているのです。わたしたちは、この機会を大切にしなければいけません」

「……いいの?」

 昴星に月渚は問う。「いいのです」と答えたのはリリィだった。

「……っと……、うん、わかった……」

 月渚にだって、リリィの提案が魅力的に感じられたに決まっていた。これまで一度も目にしたことのなかった異性の陰部、一度見るだけでその興味が尽きるはずもない。

 昴星は身体がじんと熱くなるのを覚えた。ぽん、と鳴った動画撮影開始の音が、より強い悦びへと昴星を運ぶエレベーターのスイッチだ。

「昴星、オシッコいっぱい出ましたか?」

 月渚が口を開けて見つめるカメラに向けて、こく、と頷いて、

「オシッコ、いっぱい出た……」

 素直に応える。「おれ……、おれ、ちんこから、オムツに、オシッコいっぱい出た……、オモラシ、しちゃった……」そう言葉にするだけで、ぐんぐんと力が籠る。括約筋は何度もひくついて、オムツの中の短い茎を震わせる。

「……こういうのが、いいんだ」

 感心、少しぐらいは呆れも混じっているだろうか。月渚が呟いて、「よーし」としゃがみ込んで、にぃと笑う。何か、吹っ切れたように、

「昴星にはオムツがよく似合うでしょう?」

 リリィの問いに、「そうだねー、おっきい赤ちゃんって感じするね。でも可愛いよ。男子がみんなこんなだったらあたし、もっと早くに誰かと付き合ってたかも」笑顔で月渚は応える。

「あのさ、オモラシしちゃうって、どんな感じ? オムツの中びちょびちょで気持ち悪くない?」

「え、っと……」

 確かに、オムツの中は「びちょびちょ」である。横たわってしたから、前部のみならず股下へ、特に尻にかけて冷たい。赤ん坊の頃ならばそれが気持ち悪くて泣いていたはずだろう。それなのに今は、自分の作った情けない状況、冷え切ってしまうかもしれない腰回りにあって、熱を集めて陰茎が硬く硬く、さわられてもいないのに震えている。

「さっき……、おねーさんに、オシッコ、見せるより、もっと、ドキドキする……、ちんこ、すっごい、硬くなってる……」

「昴星のおちんちんは元気ですね」

 リリィがくすりと笑った。「オシッコだけでなく精液もガマン出来ませんか?」

 こくこく、また頷く。

「ちんこ、せーし、ガマンできない……、出したい」

「ねえ、男の子の……、こういうのってさ」

 月渚が、今のところ昴星の扱いという点に関してもあらゆる知識についても「先輩」に当たるリリィに訊いた。「こんなに、頻繁なもんなの……?」

「こういうの、とは?」

「だ、だからさ……、その、オシッコとか……、あと、射精? とかも、ほら、実際こんなしょっちゅうしたくなってガマン出来なくなってたら、大変じゃん。でもそんな感じ、しないよね……」

 本当にガマンが出来なくなっていることはまあ事実だが、他方、「ガマンをしたくない」から「しない」ことを選ぶのである。そういう感情というか、……判断をしたがる心がここにあって、そういう心を宿した少年が昴星なのだということにまで、まだ月渚は理解が至らないのかも知れない。

 とはいえ、

「本当は、もっと我慢できます。そうでなかったら昴星は、学校で毎日のようにオシッコを漏らしてしまうでしょう。昴星はこの前教えてくれました、昴星が最後に学校でオモラシをしたのは、小学校二年生のときだと」

「へえ……」

 いま目の前で失禁したことよりも、そちらの方が昴星にとっては恥ずかしかった。月渚は少し笑って、

「じゃー、今は昴星、赤ちゃんだからオシッコとかいろいろガマン出来ないってこと?」

「そういうことになります」

「そうなんだ……。大変だね。でも、赤ちゃんの面倒は大人がちゃんと見てあげなくちゃいけないか」

 六年生ともなれば、甘やかされること自体が貴重なものとなってくる。例えば「おにーさん」などは大いに昴星のことを甘やかしてくれはするが、どちらかと言えばそれは「恋人」としての対応であり、いまリリィと月渚がしてくれているような、「保護者」のそれとは異なる。もっとも昴星だって子供なりに「『男』のおにーさんにこんな風にしてほしい、とは言いづらい」という気持ちというか、理解は持っている。

 だから年上の女子二人の言葉が嬉しくて、くすぐったくて、昴星は微笑んだ。

「オムツ、取ってほしい、……でもって、ちんこ、せーし、出したい……」

 月渚はふうっと溜め息を吐いて、「しょーがないなー、全く甘えん坊なんだから」と、それでも楽しそうに言って、「えっと、ここから外すのかな?」オムツのサイドテープに手を掛けた。

「あ……」

 慌てて、昴星はその手を止める。「待って、待って、おれ、オシッコすっごいくさいよ……」

「オシッコは誰だって臭いでしょ」

「そ、そうだけどっ、その……、おれのは、特にくさいって言うか……、その……、そうだ、人がひっくり返っちゃうぐらい!」

 自分で自分の尿の臭さをアピールするのも馬鹿な話だが、これは実際に「おにーさん」から訊いたことで、……最近「おにーさん」の元に出入りするようになった、昴星や才斗も共通して知っている――そもそも、諭良が「おにーさん」へと導いた――少年・空太は興味本位で昴星の失禁ブリーフを嗅いだ瞬間、悲鳴を上げてひっくり返った、と言う。確かに人より臭いが強いことへの自覚はあったが、そこまでか……。「おにーさん」に聴かされたときには大いに複雑な気持ちになってしまった昴星である。

 だから、慎重に慎重を期してほしいと思う。せっかく仲良くなったのに、オシッコが臭すぎるせいでこれっきりになってしまうなんてあんまりだから。

「確かに、昴星のオシッコはとても強い臭いがします。今はオムツで塞がれていますから、判りません」

 リリィにまでそう言われて、月渚が「そう、なの……?」昴星のオムツに目を落とす。

「オムツって、すごいんだ。オシッコしてもほとんど臭い出てこねーし、うんこ漏らしても、ちょっとは臭いけど、そんなめちゃめちゃ臭いってこと、ないし……」

 昴星の言葉を再び耳にして、月渚は、……覚悟を決めたような顔になって、

「でも、昴星はオムツ、外してほしいんだよね?」

 訊いた。

「……ん」

「オムツ外して、あたしたちに『勉強』させてくれるんだよね?」

「……うん」

 月渚の顔に、微笑みが戻った。

「じゃー、いいよ。いつかさ、あたしの子供、赤ちゃんが、昴星ぐらいオシッコ臭い子かもしれないじゃん? オシッコ臭かったとしても面倒は見なきゃいけないわけだし、昴星ぐらい可愛い子だったらオシッコ臭くっても平気でしょ」

 まだ油断があるような気がした。しかし月渚に確認された通り、早くオムツを外してほしいという気持ちだって強い。

 だから「ここでいいのかな……」再び月渚がサイドテープに指を掛けるのを、止めることは出来なかった。

「えーと、こうか、……っと……」

 わずかに隙間が空いた途端、他の何物でもたとえようのない臭いが漂い始める。ある程度予期していたとはいえ、やはりその臭いは月渚にとって圧倒的なものだったのだろう。一瞬、動きが止まって、

「……ひっくり返っちゃうっていうか、目ぇ覚めるような感じの……、臭いだね……」

 呆れたように笑って、彼女は言った。しかし月渚はその臭いでめげるようなことはなかった。

「あ、ちんちん……、えー、ちんちん勃起してるんだ……。リリィのおっぱいしたから?」

 小さいくせにあさましく上を向き、濡れて震える陰茎を興味深げに見つめる月渚は昴星に問う。昴星は仰向けのままこくんと頷いて、「あと……、オムツで、オモラシしちゃったのと、おねーさんに、ちんこ見られてるって、いうのと……」自分の変態性欲を、言葉にすることで、またヒクンと震える。

「月渚、手袋を使いますか?」

 尿に濡れた昴星の陰茎に触れることは、初体験であればためらわれるに決まっていた。だからリリィの提案は当然である。

 しかし、

「んー、いいや、平気」

 月渚は首を横に振った。「だって、ねえ。赤ちゃんのお世話するとき、……あたしが赤ん坊の頃にさ、お母さんとかそんなの使ってなかったと思うし。だから平気」

「で、でも、きたないよ、オシッコだし……」

 慌てて昴星が言っても、月渚は譲らなかった。

「いいのー。ほかの子のだったらイヤかもしれないけどさ、昴星のだし……。すっごい臭いのは確かだけどさ、考えてみたらオシッコなんて、飲んだ水が身体通って出て来ただけでしょ? それにさ、……昴星、ちんちん触ってほしいんでしょ?」

「そ……、れは……」

 言葉をそれ以上継ぎ足すことはなく、月渚の指は昴星の短い茎を摘まんでいた。先程のバスルームのときよりも、ずっと積極的なことだった。

「お、ねーさ……っ」

「すっごいね……、ほんとにオモラシで興奮しちゃってるんだ……?」

 月渚はもう遠慮なく昴星の陰茎を観察することに決めたらしい。リリィは昴星の頭を腿に乗せて、再び髪を撫ぜながら、訊く。

「月渚、昴星のおちんちんを可愛いと思いますか?」

 すぐに、月渚は頷いた。

「可愛いと思う。っていうかさ、昴星ってぶっちゃけすごい可愛いじゃん。顔も声も。……こういうこと抜きにしても、リリィが昴星の彼氏だったらちょっと嫉妬しちゃうぐらい可愛いよ。でもって、こんなことさせてくれるなんて、最高の男の子だと思う……、昴星、顔真っ赤」

 だって、恥ずかしい。その「恥ずかしい」は股間を見られていることよりも、年上の「おねーさん」にそんな風に手放しに褒められるという不慣れな事態ゆえである。

「わたしも、月渚と同じ気持ちです。昴星はとてもキュートな男の子であり、昴星と出会えたことをわたしはとても幸せだと感じています」

「ひゃん!」

 リリィが後ろから昴星の乳頭に指を当てた。男でありながらツンと尖ったそこを、豊かなバストを持ったリリィに突かれるというのはなんとも奇妙な恥ずかしさがあり、同時に快感をも伴い、

「すっごい、ぴくぴくしてる……、男の子って胸気持ちいいもんなの?」

 昴星の感情表現器官を指でつまんだ月渚にはつぶさにそれを伝えることになる。

「ここだけではなくて、昴星はお尻が気持ちいいのです」

「お尻?」

「肛門が」

「へえ……、ああ、そっか、男の子同士でするときってそこ使うんだっけ。昴星はじゃあ、えーと諭良くん? あと他の、『おにーさん』だっけか、彼氏とそういうセックスしてるんだね……、こんなちっちゃい身体で」

 そういう風に扱われることがとても幸せなのだと、言葉にしたいけれどもうならない。月渚が昴星の肛門をじっと覗いているのが判る。

「……肛門、初めて見た。ヒクヒクしてるんだね」

「自分のを見たことはありませんか?」

「ないよ、……ってか、リリィ、あるの?」

「鏡を使えば見えますから。自分の肛門がどのような形をしているか、知っておくのは大切であるように考えます」

「大切、かなー……、判んないけどまあいいか。ふふ、昴星のお尻の穴見ちゃった」

 月渚にくすくす笑われて、……普段、恋人たちに晒し彼らのペニスを受け容れることを悦びとする場所は、恥ずかしさにきゅうっと窄まった。

「月渚、あとで一緒に昴星が排便するところを見ましょう」

「排便、……え」

「昴星のうんちはとても立派です。きっと月渚も驚くと思います」

「ちんちん見て、もう十分驚いちゃってるけどねー……、いいよ、昴星はおねーさんたちにうんち見せたいんだ?」

 もう、真っ赤になって涙目で頷くことしか昴星には出来ない。そうされたい、と願う気持ちがそのまま、「お、またピクピクしてる」ペニスの脈動で表現される。

「昴星? ちゃんと、月渚に言わなければ伝わりませんよ?」

 リリィが咎める、ついでに、きゅっと乳首をつねった。

「ひゃう!」

 腰が一度跳ねる。乳首への刺激だけで射精することはまだ一度もないが、そこをされると腰にむずがゆい電流が走るように思われて、切ない。

「ち……、ちんこ……、ちんこ、おねーさっ、ちんこっ、おれのちんこっ」

「んー? ちんちん? どうしたらいいのかなー?」

 月渚もリリィのやり方に同調したように、意地悪く訊く。「ちんちんって面白いねー、こっち、キンタマ? のほうはやらかくってシワシワになってるしさ」

「ちんこぉっ、ちんこっちんこシコシコっシコシコしてっ、ちんこいっぱいっシコシコぉっ」

 今さら恥も外聞もない。

「すっごい、昴星こんななっちゃうんだ……」

 感心したように月渚が呟き、再び顔に微笑みを満たした。

「いいよー、ちゃんと言えたから、じゃあ、ちんちんシコシコしてあげるね」

 陰嚢を揉んでいる手は外さず、右手で昴星の陰茎に摘まむ。「わあ……、すごい、ちんちんの先っぽからめっちゃ垂れてる」

「昴星は嬉しいんです。月渚がそれだけ嬉しい気持ちに昴星をしてあげているということです」

「そっか……、へへ、何かあたしも嬉しい。初めてなのにさ、あたしでも昴星のこと気持ちよくしてあげられるんだーって思う」

 昴星の陰茎を摘まんだ月渚は、昴星自身や「おにーさん」や才斗、つまり男がするよりもずっと優しく慎重な指先で動かす。それは彼女が男に慣れていないがゆえに、男に対して丁重に扱わなければいけないという思いの現れかもしれない。

 しかし、昴星の受ける刺激は弱い。

「もっとぉ、おねーさんっ、ちんこもっとシコシコっ」

「もっと? こう?」

「んっ、シコシコっ、シコシコきもちぃっ、ちんこっちんこきもちぃっ」

 月渚がクスクス笑う声も、昴星の肌を撫ぜた。「シコシコーって、こう? シコシコー」

「んっ、んっ、ひっ、ひっひゃっ、ひっ、ちんこいっちゃう、いっちゃういっちゃういっちゃういっちゃうっ」

 無遠慮に声を散らして、幸福な、……それはもう、幸福な快感に身を包ませながら、昴星は月渚の手によって射精した。先程よりも勢いは強く、しかし量は少なく。じいんと痺れるような快感が、肛門と陰嚢を結ぶラインに満ちた。

「よかったですね、昴星。とても気持ちよくなれましたね」

 リリィが優しく昴星の髪を撫ぜ、その身に散った精液を指に絡めて、昴星の唇に塗り付ける。浅い呼吸を繰り返す昴星に新しい酸素を与えるように、リリィがその唇に唇を重ねた。

「すっごー……、男子射精させちゃった。何か感動」

 月渚はため息とともに言って、「よかった」と笑って昴星の陰嚢をふにふにと撫ぜた。

「昴星のおかげですね、月渚。昴星はわたしたちに、いろいろなことを教えてくれます」

「ほんとだねー……、感謝しなきゃ」

 リリィに抱き起された昴星の髪を、さらさらと撫ぜて、……リリィが何か、月渚に促した気配がある。昴星はまだ余韻に酔い痴れて動けない。

「そっか、うん、そうだね、……わかった」

 月渚が一つ深呼吸、それから、昴星に顔を近づけて、……ほんの一瞬、ごくごく小さな音を立てて、キスをした。

「あたしのファーストキスだからね、今の。あたしにさ、男子の、最初のちんちん、見せてくれたからお礼」

 呆然の中で、頬が紅く熱くなって行く。異性とキスをするのは、まだ同性とのそれに比べてまるで慣れていない。

 お礼、と言われたことも一瞬で忘れて、

「おねーさん……、おねーさん、もっと見たいの、見せる、おれ……、おねーさんに何でも見せてあげる」

 そういうことを、言わずにいられなくなる。月渚はにっこりと微笑んで、

「じゃーさ、昴星の、さっき言ってたうんこ? するとこ見せてもらおかな。昴星、見せたいんでしょ?」

「う……、ん、いいよ、だけど……」

 月渚は、昴星の臭いの半分しかまだ知らない。少し心配になってリリィを見た。リリィは安心させるように頷く。

「大丈夫ですよ。昴星、月渚に見せてあげてください。……でも、ここではいけません」

 リリィの両手が昴星の髪を撫ぜて、立ち上がらせる。確かに、人の家の浴室で排便することなどそうそう許されるはずもない。月渚も「そうだよねー」と頷く。昴星も、そしてきっと月渚も、移動する先は当然トイレであろうと思っていたに違いない。

 リリィがブラジャーをしないままシャツを着て、「上に行きましょう」と長くて綺麗な人差し指を上に向けた。

「うえ……?」

 月渚が、昴星が、その指に導かれるように顎を上げた。浴室の白い天井が、そこにはあった。

 

 

 

 

「ほ、ほ、ほんとにだいじょぶなんだよね? ね? リリィ、ねえ」

 泡を食って月渚が親友に訊く。その親友は平然と、

「ええ、大丈夫です。仮に誰かが来たとしたって、誰も困りません」

 むちゃくちゃなことを言う。

「いやあたしわりと困るんだけど! 昴星も……、ねえ?」

「昴星は、もし誰かが来たらきっと嬉しいはずです。あるいは、それを望んでいるかも知れません」

 優しい声のリリィは、昴星の左手を。

 そして、緊張しきった月渚は、昴星の右手を握っている。

 女子高生二人に手を繋がれた昴星は、シャツを着ていた。靴もきちんと履いていた。しかし逆に言えば、身に着けている者はその二種類だけ。下半身を遮るものは何一つない。

「もし誰かに見られたら、わたしはこう言うつもりです。『この子はオシッコでパンツをびしょ濡れにしてしまいました、こんな風に』」

 リリィの左手には、昴星の汚した下着があった。「『だから、これからプールのシャワールームでこの子を洗ってあげなければいけません』と。それで何か問題があるのでしょうか? ないですね?」

 恐らく大アリなのだが、髪に隠れた耳まで紅くしながら、昴星はふわふわと雲の上を歩くような心持になっていた。多分、二人の手が解かれた瞬間にへたり込んでしまうだろう。不安と恐怖に苛まれている。しかしその一方で、夢を見ているような気持ちなのだ。

 リリィの部屋を出て、フロアのエレベーターに乗って最上階まで至り、プールの入り口に辿り着くまでの間、昴星の陰茎は極限まで縮み上がりながらも、内側からじりじりと焦げるような感覚があった。信じられないほど激しい興奮が、表面的な恐怖心の膜を今にも突き破ってペニスの表情となって現れそうだった。一歩、一歩、手を引かれてゆっくり足を進めるたび、強烈な尿意が突き上げて来る。緊張のせいもあったろう、しかしそれ以上に、こんな状況下で失禁すればまた、更に上のステージに行けるかもしれない……、そんな妄想を、昴星はした。

 それでも、縮み上がり細化した尿道は、昴星の脆い膀胱を考えれば奇跡的なことにプールに至るまで放尿を堪えた。リリィはにっこり微笑んで、「よく頑張りましたね、えらいです」と昴星にキスをした。

「月渚?」

 促されて、月渚も昴星に唇を当てた。その頃にはもう、昴星の陰茎はシャツの裾で上を向いていた。

「昴星、たくさんの秘密を月渚に教えてくれたから、わたしも月渚の秘密を昴星に一つ教えてあげようと思います」

 タオルも巻かずに水着に着替えるリリィが、悪戯っぽく言う。「よろしいですか? 月渚」親友は、タオルをしっかり巻いて隠しながら。唇を尖らせて、「……いいけど、別に」と応じた。

「おねーさんの……、ヒミツ?」

「月渚は、泳げないのです」

 へ? と思わず反射的に月渚を見てしまった。水着を纏った月渚は真っ赤になって、

「だ、だって、しょうがないじゃん! 人には向き不向きがあるのっ」

 抗弁する。

 俄かには信じられない事実だった。……だって、おねーさんめっちゃ運動得意そうじゃん……。

 はー、と月渚が肩を落とした。

「昔からさ、走るのは男子に負けないぐらいだったよ? 高跳びも幅跳びも中学のときは学校で一番だったしさ、でも……」

 泳ぐのだけは、どうにもからっきし。他がオールマイティーにこなせるものだから、余計にその欠点が目に付く。「だから体育で『5』が取れなくってさ……」中学に上がると成績が五段階の数字で評価されるということは、昴星も知っていた。水泳以外は満点なんだから、「5」をくれたっていいだろうとは昴星も思うのだが、どうもそういうものでもないらしいのだ。

「ですから」

 親友の苦悩をリリィが引き取る。「月渚は、いつもここへ来ます。そして、わたしと一緒に水泳の練習をするのです。わたしと昴星が初めてあった日にも来ていたら、もっと早く昴星は月渚におちんちんを見せることが出来ていたでしょう。昴星のみならず、諭良も」

 人にはいろいろな秘密がある。それは昴星が自らの身を省みれば明らかなこと。諭良にしろ「おにーさん」にしろ、人に言えない秘密を抱えて生きている。それが理由で、人とうまく付き合えなかったり、ぎこちなくなってしまったり……、人間にはそういうところがあるということを、昴星はもう知っている。一般的には「コンプレックス」と呼ばれるのだということも、最近になって知った。

「……そうなんだ……」

 昴星は、泳げる。

 才斗と、諭良は、もう「泳げる」なんて言葉で括るのが失礼なぐらい、泳ぎが得意だ。しかしその二人ほどではなくても、何となくだらしない身体付きでありながら俊敏性に秀で、各種運動は水泳も含めて得意と胸を張って言える昴星である。

 言葉を口に仕掛けたところで、「あっ」と股間を抑えた。勃起は収まっていた。尿道が元のサイズに戻って、急激に尿意が強まったのだ。「オシッコ出そう……!」

「そ、そ、そうだよ、あたしの水泳のこととかどうでもいいし! 今は昴星のこと、その、してあげる時間でしょ?」

 慌てて月渚が言う。リリィが「そうですね」と平然と頷いて、「月渚も、昴星のことを可愛がってあげたいのでしょう」と微笑んだ。二人の手に導かれて更衣室を出て、女性用トイレの個室で洋式便座に跨った瞬間、勃起する暇もなく昴星の幼茎の先端から淡い金色をした尿が一気に噴き出した。

「昴星、トイレ近いんだね」

 さすがにもう放尿は見慣れたのか、月渚はそれほど表情を変えることなく言う。「そういう、洋式のトイレでするときもそうやってしゃがんでしてるの?」

 大きく足を開き、自分の放尿の様子を観察させながら昴星は首を横に振った。

「いっつもは、ちゃんと座ってするよ。でも今は……、ちんこ、見てほしいし……」

 放尿の終わりかけから、改めてこうして「披露」していることが悦びに思えて来る。まだ先端から滴を落すペニスが、徐々に上を向き、やがて完全に勃起するまでのところを見せて、

「リリィ、……うんこ、したい。うんこしていい?」

 幼子のような気持ちになって、甘えた声で強請った。

「はい、もちろんです。わたしたちに昴星の肛門からうんちが出て来るところを見せてください」

 嬉しさで、身体がかぁっと熱くなる。この二人に、どんなところも見せたくなる。一度便座に座り直し、自分で自分の太腿を抱え、便座の蓋裏に寄りかかるように背中を預けて、肛門を大きく見せびらかした。リリィは余裕の表情で、月渚は「おお……、すっごい……」小菊の蕾を晒す姿に気圧されたように呟いて、やや身を乗り出す。

「あ……、おねーさん、おれの、臭いよ……?」

「そりゃ、そこから出て来るもんは臭いでしょ」

「そ、そうだけどぉ……」

 肛門の内側がじいんと熱くなる。「おれのっ、おれのうんこはっ、特別くさいからっ……!」

 ぎゅう、と力が外側へと働く。塊が僅かにきしむような音を立てながら括約筋の扉を開いて、ゆっくりと顔を出すのが判った。

「ひゃー……」

 月渚が、目を丸くした。「そんな風に……、出て来るんだ……? 初めて見た……、あ」漂う湯気、伴って、その形のいい鼻に臭いが届いたらしい。

「あー……、なるほど、くっさいね」

 その言葉に反応して、思わず括約筋が閉まる。出掛かっていた太ましい便が、ひゅっと身体の中へ逃げ戻った。

「お、隠れちゃった」

 月渚は、その臭いを感じても鼻を摘まんだりはしていなかった。寧ろ、昴星が見せた反応に興味深そうな顔をする。「昴星はぜんぜん恥ずかしがってないのに、昴星のうんこは恥ずかしがってるみたい」

「は、恥ずかしくなく、なんて……っ」

「そうですよ、月渚。昴星は恥ずかしいから嬉しくて、おちんちんがこのように勃起しているのです」

「あ、そっかそっか、……恥ずかしいの嬉しいんだった。あと、……えーと、あの『おにーさん』って人と、昴星そこ使って……、してるんだもんね」

 月渚は昴星が視線を浴びる悦びのみならず、自身の排泄行動そのもので悦びを感じていることも見抜いているようだった。排便は、臭いを伴って長く続く。勃起してもなおささやかなサイズの昴星自身のペニスよりもずっと太いものをひり出すところを、どこに隠し持っていたのかリリィがスマートフォンを向けて、撮り出した。

「あ、すごい……、昴星」

 カメラの起動音を聴いた瞬間、一層肌が燃え上がったように感じられた。思わず括約筋を引き絞り、便を便器の中へ横たえる。露出の悦びを感じる昴星の陰茎を、月渚は目を煌めかせて覗き込んだ。尿臭と便臭のるつぼに顔を近づけるようなもので、一瞬「んっ」と月渚の身は強張ったが、すぐに気を取り直したように昴星を見上げる。

「嬉しい、んだよね?」

 がくがく、頷く昴星に、「えーっと……、あたしも、何か昴星が気持ちよくなるの手伝ってるみたいで嬉しい」月渚は微笑んだ。その微笑みが、女性のものとしては極めて美しいということが、昴星は理解できた。

「月渚はもっと昴星のことを気持ちよくしてあげることができます」

 リリィがスマートフォンを昴星の下半身に向けたまま、昴星の傍らに屈み、男児としてはふくよかで柔らかさのある胸部、その乳頭に唇を当てた。

「あう!」

 敏感に昴星が震え、また陰茎を強張らせたのを見て、「へー……、男の子もそんなとこがいいんだ……?」月渚は放尿直後であることを忘れたように、昴星の陰茎に指を当てた。

「ん? ちんちんって肛門と繋がってるの?」

 拍子で便がまた千切れたのを、月渚は見ているに違いなかった。「じゃあ……、昴星がうんこするの、邪魔しちゃおっかな」

 摘まんだ陰茎に、月渚が二回目の手扱を施す。

「ひ、やっ、あっ、あぁ! んっ、こっ、うんこぉっ」

 昴星の意志とは無関係に、肛門括約筋が引き絞られる。まだまだたくさん出るはずの便がそこで詰まり、強烈な排便欲求が募る。しかし、短い茎を扱きながら「わー、こっちマジでぷにぷに、……かわいいなあ」珠袋を撫ぜる月渚の両手に、僅かに緩んだ隙間から顔を覗かせた便をひり出すことしか出来ない。それは女性二人に愛撫されながら、肛門までをも蹂躙されているかのような、異様で、それでいて異常なほどの快感だった。

「ひっ、いっ、いっ、いくっ、おれぇっ、ちんこいくいくっ」

「んー、気持ちよくでき……」

「ひぃいいんっ」

「……たね」

 月渚の指を弾くような勢いで、昴星は多量の射精をした。射精のたびにきつく閉じられる括約筋のせいで、肛門から顔を覗かせてはまた隠れる焦げ茶色の便を見て、「わ……、すっごい」月渚が感心したように声を上げる。ただ、この点においては彼女が驚くのはまだ少し早かったかもしれない。昴星の性器のバウンドが収まると同時に、肛門が大きく円状に広がり、行き場を喪っていた大量の便が、太く凝り固まった棒のように、ぬちぬちと音を立てながら垂れ出て来る有様にこそ、

「すっごい……」

 という言葉は相応しかったはずだ。

「昴星は、お腹よっぽど健康なんだねー……、あたしも良い方だけど、こんなのしたことない」

 リリィによって肛門を拭き清められながら、便を褒められて昴星は頬を染めた。すっげーの、見せちゃった……、すっげーこと、してもらっちゃった……、落ち着きを取り戻すにつれ、またどきどきと心臓が鳴る音が大きく聴こえて来る。

「昴星のうんちは、昴星のおちんちんよりも太いです」

 肛門を拭き終えたリリィが、「昴星、こちらを向いてください。昴星の可愛い姿を、写真に撮ろうと思います」スマートフォンを向ける。

「んー……、やっぱ昴星って、すごいね。すごい」

 月渚がそう評して、「……ねえ、リリィ、あたしもその写真欲しい。あとでちょうだい」と親友に強請った。

「……おれの、こんなとこの写真、おねーさんも欲しいの……?」

「うん」

 月渚は、少し照れくさそうに頷く。

「だってさ、こんな……、ねえ? 見せてくれる男の子なんていないと思うし、……それが昴星だったら、昴星すっごい可愛いし、だから欲しいよ」

「ええ、昴星はとても可愛らしい少年です。昴星がそこにいるだけで、わたしたちはとても幸せになれるのです」

 リリィも、親友の発言に全面的な同意を示した。

 恥ずかしい、けれど、やっぱり嬉しい。だから、

「……ひひ」

 自然と笑顔が浮かんでくる。幸せな時間を自分にくれたリリィと月渚が、この上自分を求めてくれるのが、喜びでないはずがない。

 繰り返されるシャッターの音、二人の中で共有される自分の姿が、どこか誇らしくさえあった。

「では、泳ぎましょう。月渚は泳ぎの練習です。……昴星は可愛い赤ちゃんですから、水着を穿かなくても平気ですね?」

 リリィに言われて、「うん」と頷く。もう、この二人の前でいるときには何も身に着けなくっていい。色々な角度から、二人が喜んでくれる限り、裸で居続けようと決める。

「おねーさん、おれ、おねーさんに泳ぎ、教えてあげようか」

 月渚を見上げて、昴星は訊いてみた。月渚はちょっと恥ずかしそうに、こくんと頷いて、

「よろしくね」

 と昴星の髪をいとおしげに撫ぜてくれた。


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