昴星と流斗と三人の女子

 牧坂流斗は、可愛い。

 どの辺りが可愛いのかと昴星に問えば……、まず、ちっちゃくって可愛い。目がぱっちりしていて、まつ毛が長くって、ほっぺたも柔らかい。

 髪の毛にふんわりとした癖があって、おれとおんなじで生まれつきちょっと茶色っぽい色で、可愛い。

 肌が白くて、どこ触ってもすべすべで、ほんのり甘いみたいないい匂いがして、可愛い。

 そしてなにより、おれのことを「昴兄ちゃん」って呼んでくれるのが、すげー可愛い!

 ……ということである。

 かように可愛い牧坂流斗のことを、昴星は幼少期から知っている。彼は昴星の弟ではなく、才斗の従弟の、二つ年下の少年である。それでいながら昴星のことを「昴兄ちゃん」と呼び慕うのは、昔から猫可愛がりを尽くして来たから、そして。

 彼もまた、昴星の大切な「友達」の一人であるからだ。

「こーうにーい、ちゃんっ」

 改札を抜けるなり駆けてきて、飛びつく。六年一組の児童として一番前で腰に手を当てる宿命にある昴星よりももっと低い身長、そして痩せた身体、昴星であってもしっかり抱きとめることに何の難しさもなく、昴星も流斗も意識してはいないが、周囲の大人からはとても微笑ましいものと映っている。電車で二十分ほど離れた街に暮らす流斗が、学校が終わった後に地元駅の改札でこうして待ち合わせるのは何度目か。甘えん坊で、……ああそうだ、甘えん坊なとこも「すげー可愛い」流斗はいつもこうやって飛びついて来て、いっそこのまんまキスしちゃいたいぐらいだと思う昴星であるが、前にそれを才斗の前でやったら「外ですんのやめろ」と叱られたから我慢する。

 このあと、いくらだって出来るのだ。

「あれ? 才兄ちゃんと諭良兄ちゃんは?」

「あいつら、今日プールだから遅いよ。それまでおれんとこで遊ぼうぜ」

「うん!」

 そもそも才斗と諭良が遅いことを判っていながら、祝日前の水曜日に「学校終わったらすぐ来いよ」と呼び出したのは、二人で流斗と遊びたいと思ったからだ。

 恋人である才斗と「おにーさん」と遊ぶのは楽しい。しかし一方で、諭良やリリィ、そして離れて住む由利香に、この可愛い弟のような流斗と遊ぶのだって、昴星は心から楽しいと思っている。それぞれにそれぞれの良さがあって、みんなで集まればそれは全員の良さが引き立つかけがえのない瞬間であるが、一人ひとりと時間を作って個の良さを満喫するのもまたいいと昴星は思っている。例えば流斗の場合、誰よりも可愛くって、その一方で信じられないぐらいの度胸もあって、何に対しても積極的である姿勢。昴星が真似したいと思っても出来ないそういった要素をほんの少しかじらせてもらって、その甘酸っぱさに感じ入るのがとてもいい。

 流斗は露出狂だ。昴星が勇気がなくてとても出来ないような危ないことだって平気でして見せる。……確か、昴星がオモラシを皮切りに色々と教えたばかりの頃にはまだ、そんな度胸は備わっていなかったはずだ。しかるに離れて暮らすこの「弟」は、一人の時間が長かったからだろう、独自に研究を重ねた結果として、もはや誰の追随も許さない。例えば流斗は学校の教室でもそこらへんでもそれこそ電車の中でも平気でオモラシをして見せる。膀胱の管理能力という点については昴星や諭良よりはるかに優れているはずだから、要は「したいからする」のだ。そうして濡らしたズボンを見られるのが好きだし、更に言えば「おちんちん見てもらうの大好き!」ということで、流斗は地元に何人かの、年上の女友達を作って、そういう少女たちに時折「おちんちんのお勉強」と称して見せたり触らせたりしているのだという。

 ある時など、昴星もそれに巻き込まれ、しかも間の悪い偶然にも少女たちの友人に昴星の元の同級生がいるということまで判り、冷や汗をかいたものだが……。

 しかし、可愛い可愛い弟のすることだ。許せてしまうし、流斗のしたいことは何でもさせてやりたいと思って止まない昴星である。

「んで? 今日はどこ行こっか。どっか行きたいとこある?」

 流斗がこの街に来るとき、すぐに諭良や「おにーさん」と合流するのでなければ、いつも一緒に「どこか」で遊ぶ。それがシンプルに昴星の部屋であることはあまり多くない。むしろ、流斗のリクエストに応じて城址公園のような場所、すなわち彼の露出欲求を果たせる場所を選んで「遊ぶ」ことが少なくない。何せ流斗はこの極寒の二月であっても屋外で平気に裸になれるし、それでおおいに喜ぶから。

「んっと……」

 流斗は少し考えて、

「今日はおねえちゃんたちに見てもらいたいかなぁ」

 と言った。

「……おねえちゃんたちって、あいつら?」

 東葵、神谷砂南、千賀那月、昴星のクラスの三人の女子のことだ。

 ここに、流斗の街の学校に転校した宮田ハルカというのが加わって、かつて仲のいい女子の四人組というのが加わる。宮田ハルカには、顔こそ見られずに済んでいるものの、昴星は画面越しに失禁脱糞射精を見られている。ばれてはいないものの、例の「冷や汗」体験の当事者である。

 流斗のペニスは葵らにも「共有」されている。去年、こちらへ遊びに来たとき、流斗は彼女たちの前で失禁し、ペニスの勃起する様と排便する姿を披露しているのだ。

「うん、久しぶりに見てもらいたいなって……。あ、でも昴兄ちゃんがいやならガマンするよ?」

「うーん……」

 女子に自分の恥部を晒したい、見られたい、という流斗の欲が、いったいどこからどうやって生まれ育ったのか、昴星にはいまいち判らない。ただその一方で、女子に裸を見せて楽しそうな流斗を見て、……自分も……、という気持ちは昴星にもある。由利香やリリィのような存在によってその欲を満たすことはある程度出来ているし、満たされてもいるとは思うのだが。

 諭良が、おととい泊まりに来たときに言っていた。「こんど、……ぼくも流斗みたいに学校でちんちん、女子に見せたりしてみようかなぁって……」正気かと訊いた昴星に、諭良はほんのり頬を染めて頷いた。

 中学は別々になるわけだし、どうせならそういう思い出も作りたいって思っちゃったんだ……。

 昴星には、それは出来ない。昴星は才斗とともに、近所の公立中学に進学する。同じ小学校からも、かなりの数が其処へ行くことになるだろう。そうなると、彼女たちに自分のペニスを見せるということはどうしたって出来かねる。

 諭良は自分が旅立つことを、できる限り好意的に捉えようと決めているらしかった。そうでもしないと「おにーさん」や才斗と、そして昴星との別れが辛く思えてならないからだろう。

「じゃー、……まあ、いいよ。あいつら呼ぶか。そんかわり、わかってるだろーけどちんこ出すの流だけだぞ? おれは見せねーからな?」

 流斗は嬉しそうに頷いた。

「うん、昴兄ちゃんはおちんちんなしでいいよー。でもぼくいっぱい見せたいな!」

 何にせよ、流斗は嬉しそうに言うのだ。流斗が嬉しいなら、それでいいか……、と。その可愛い可愛い笑顔を見れば、この「兄」としてもそう思ってしまうのである。

 

 

 

 

 葵、那月、そして砂南。そこにハルカを加えた四人組は、昴星と一年生のときからクラスが重なること、五回。これはかなり多い方であって、学年全体を見回しても、才斗と昴星が同じく五回であることと並んで恐らく最多であろう。

 それぞれを一言で表するならば、「やなやつの葵」と「男みてーな那月」と「ぼんやりの砂南」ということになる。それだけ悪い評価が出来るということは、昴星と彼女たちが現在良好な関係にあることの裏返しでもある。葵や那月に「鮒原まじうざい」と笑って言われて、ますますもってうざくなる、という仕組みは、六年生の男女の関係としては極めて好ましいものであると言えるだろう。

 当然彼女たちのアドレスは昴星のスマートフォンに入っていて、

「流が会いたいって言うから会わせてやる」

 なんて横柄な呼び出し方をしても、

「ったくさぁ、急に言われたって困るんだけどー」

 と、葵に文句をぶつくさいいつつも集まってくれる、良き友人たちである。

「そうだよ、集まって、来月の発表の準備してたのにさ」

 葵にならって、那月も不平を唱えた。葵は髪を茶色く脱色していて、要するに不良少女のようである。話し方は偉そうだし態度もつっけんどんだが、根はいい奴、という印象は昴星の中で変わらない。一方で那月は活動的ですっぱり短く揃えた髪で、それゆえ昔から「男みてー」と散々からかってきたが、まさしくその男らしく凛々しいところがこいつのいいところ、と昴星は評価している。

 現在六年生は、それぞれ小グループを組んで「卒業発表会」の支度に勤しんでいる。昴星も才斗と諭良と三人で組んで、なにがしかの発表を義務づけられてはいるのだが、三人揃うたびやることは一つなもので、まだまるで着手していないのが現状だ。

「でもー、ぜんぜん進んでなかったし遊び行こうかーって話してたところだったしー」

 砂南は、こののんびりした喋り方が何よりもの特徴だろうか。勉強は出来る、けれど運動はからっきしで、それは彼女の、クラスでも一番発育のいい身体とも無関係ではないだろう。砂南に言われて「まあ……」「そうなんだけど……」葵も那月も頷いた。仲良し三人組である。

「それにー、流斗くん来るなら来るよー」

 この三人は、揃って流斗に首ったけなのだ。

 なぜって、流斗は「おちんちん見せてあげる」なんてことを言う、非常識で素直でそして極端に可愛い男子だから。

 加えて言えば、クラスの女子たちの憧れをかつて一身に集めていた才斗の従弟であるからだ。念のために書き添えておくと、現在も才斗は変わらず女子たちの憧れの的であるが、そこにもう一つの「的」と呼ぶべき諭良が加わったことで、やや趣が変わったことも事実である。とはいえこの二人がどちらも、昴星の汚れたブリーフに興奮する変態であることは、そしてやがて諭良がこの少女たちに流斗同様にブリーフの中身を披露したいと思っていることは、昴星しか知らない事実だった。

「えへへ、ぼくもおねえちゃんたちに会えるのうれしいな」

 可愛い流斗の可愛い笑顔は、少女たちを虜にする。

 同世代の異性の裸を見る機会というのは、恐らくこのぐらいの時期にもっとも少なくなる。昴星のように幼い体型で女顔の男子もいるにはいるが、多くは男女間の身体つきに変化が出始める一方で、精神的にはまだまだ「子供」の域を出ず、……そんな時期に男女間がおいそれと裸を見せ合うことが決して好ましくない結果を招くであろうことを、「大人」の側が恐れるからだろう。

 そんな状態にある中、いつでも「見せてあげる」という姿勢を(少年自身の欲のために)貫いてくれる流斗は、彼女たちにとって極めて都合がいいのである。

「んで? 流はこいつらとなにしたいの?」

「ん、あのね、……前に遊んでもらったとき、おちんちんおっきくなるの、おねえちゃんたちに教えてあげたでしょ?」

 ここが何処かと言われれば、城址公園ではない、しかし近所の公園なのだ。学校からは徒歩で五分、最寄り駅からも五分ほど。アップダウンの激しい街の片隅で、屋根の高さを走る電車を見上げる小さな……、遊具はブランコだけ、その一方で広さはそれなりで、もう少し陽気がよければぼーるなげなどして遊ぶ子供の姿も散見できるような。

 今日は一人もいない。ベンチにふんぞり返る昴星の右隣でにこにこしている流斗と、前には葵、流斗の向こうには砂南、そして後ろには那月。通行人の誰が見たって、仲のいい子供たちがおしゃべりに興じているようにしか見えないだろう。

 流斗がそんな風に唐突に「おちんちん」などと言い出すことには、一定の慣れが三人に浸透している。

「うんうん、言ってた言ってた。勃起だね」

 葵が嬉しそうに頷くのに対して、

「……うん」

 那月は今ひとつ乗り切れないような顔でいる。かと言ってここから去るのは惜し過ぎる、……そんな気持ちでいるに違いない。

「ねー、流斗くんぐらいでもそんな風になるなんて知らなかった……、ねー、鮒原くんとかもそういうこと、なるの?」

「んぉ……」

 砂南はのんきな声で案外過激なことを問うた。昴星はやや面食らいつつも、おほんと咳払いして、

「……そりゃーな、男の身体ってそうゆーふうに出来てんだよ」

 と偉そうに答えた。

「それでね、あのね」

 流斗は来てきたダッフルコートのボタンを下から二つ外して、「……だれもこないよね?」キョロキョロと、周りを見回す。来たっていい、と思っているはずだが、女子三人のためを思って言うのだろう。

 流斗は自分の半ズボンのボタンをも、ためらいなく外し、じーっとチャックを下げた。白いブリーフの中央が、ほんのり黄色く汚れているのが正面に立つ葵と隣に座る砂南にはよく見えるはずだ。

「おまえも、見てーならちゃんと見りゃいーじゃん……」

 後ろでちらちら視線を送る那月を、昴星はからかった。那月はムッとした顔になったが、唇を尖らせたまま、そこへ視線を落とす。

「んっとね、……いまはまだ、おちんちんおっきくなってないけど……」

 流斗はブリーフの窓を左右に開けて、中から小さいままの幼い茎を引っ張り出した。その指の動きはごくスムーズで、異性に自分のペニスをそうして晒すことを何とも思っていない、……いや、心から楽しく思っているということを、昴星に改めて理解させた。

 こいつ、すっげーな本当に……。と感心させられてしまう。三人の異性の視線は、流斗の小さな「おちんちん」に釘付けだ。

「もっと、おっきくなったらね、おちんちんいっぱい触って、しこしこするとすっごくきもちよくなるってわかったんだ。男の子のひみつだよー」

「へーえ……」

 砂南はそれを知らなかったらしく、そんなため息混じりの声を漏らした。

「あたし知ってるよ。でもってさ、ちんちんいっぱい触って気持ちよくなって、一番気持ちいいときに精液が出るんでしょ?」

 葵はその点、砂南よりも先進しているようだ。

「そうだよー、えっと、せーえき、っていうの? オシッコ出るとこから、白くてどろどろしてるのがびゅーって出て、それがすっごい気持ちいいんだ」

「えっ」

 那月が、驚いたように声を上げる。「そ、その、流斗は……、精液、出せるの……?」

「ん? うん、せいえきっていうの知らなかったけど、きもちよくなるとびゅーって。……なんだ、おねえちゃんたち知ってたんだ……。ぼくだけ知ってるのかと思った」

 流斗は残念そうに言って、「じゃあ、もうぼくのおちんちんでお勉強しなくてもいいのかなぁ」と、寂しそうに女子三人の憧れの的を、ブリーフの窓の中にしまいかける。

「あー!」

「あっ……」

 葵と那月が相次いで声を上げた。要は二人とも、もっと見たいのだ。

「砂南はー、もっと流斗くんのおちんちんのこと詳しくなりたいなー」

 砂南の声に、「……あおいねえちゃんとなつきねえちゃんは?」焦らすように、流斗は二人へ質問した。

「なりたいなりたい、もっとさ、いろんなこと教えてよ。ほら、那月だってそうでしょ? 那月は射精とか見たことないじゃん!」

「あ、あ、葵だってないでしょ!」

「砂南もないからー、流斗くんのそういうの見てもっとお勉強したいなーって」

 三方向からそう求められて、

「……昴兄ちゃん、どうしよう」

 流斗は昴星に訊く。

 昴星は後ろ頭を掻いて、「……いんじゃね? おまえがイヤじゃねーんなら」と許可を下す。

「ん、じゃあ、いいよー」

 その言葉を聴いて、葵がぱぁっと嬉しそうに笑ったのが見えた。那月もきっと控えめに、しかし似たような顔になったのは、見ないでも判ることだった。

「えっと……、お外でするのはじめてだからうまくできるかわかんないけど……、えーと」

 よいしょ、とベンチから降りて、流斗は半ズボンとブリーフを脱ぐ。「ほんとはね、いつもは、すっぽんぽんになってするんだけど……、でも、お外ですっぽんぽんになったらダメって才兄ちゃんにも昴兄ちゃんにも言われてるから、下だけね」

「鮒原くん、そんなこと言ったのー?」

「……まー。だってこいつさ、……前話さなかったっけか、才斗んとこの親に海連れてってもらったときさ、海パン忘れて、フルチンで遊ぶんだもん。超じろじろ見られてこっちが恥ずかしかったんだからな」

 そのとき昴星は、女児水着を纏っていた。やっていたことの異常さで言えばどちらも同じ程度であるが、そのことは上手に棚上げする。

「でもさあ、流斗ぐらいの子がすっぽんぽんでも全然問題なくない? もっと大人だったらヤバいけど、流斗のちんちん見ても不愉快になる人なんていないよねー」

 それは、確かにそうだろう。それぐらい流斗は、極端に可愛いから。

 流斗は「昴兄ちゃん、持ってて」と一緒くたになった半ズボンとブリーフを昴星に手渡す。昴星は「あいよ」と受け取ったそれを、「ったく、もっとちゃんとちんこ振ってからしまえよなー」ズボンとブリーフを分解して、広げて見せる。「真っ黄色じゃん」

「えー、でも昴兄ちゃんだってパンツにオシッコ付いちゃうことあるでしょ?」

 不意に矛先を向けられた。女子三人の顔が一斉に昴星に向く。藪をつついて蛇を出してしまった。

 流斗のブリーフは、初めからこうして「おねえちゃん」たちに見せることを予定していたからだろう、実際、かなりしっかりと汚れている。それに対して、……おれがいま穿いてるブリーフは……。

「ま……、まあ……、ちんこの形っていうか、そういうの、アレだし、多少汚れんのもアレだけどさ、でも……、ここまでじゃねーよ」

「昴兄ちゃんとぼく、パンツおそろいなんだよ」

 流斗が言った。「お揃い?」と訊き返したのは那月だ。

「それはー、鮒原くんもこういう、白いパンツってことー?」

「えー、鮒原ブリーフはいてんの……」

 ブリーフは、下着である。

 下着の形状で何が決まるというわけでもなかろうが、昴星の所属するクラスではブリーフを穿く男子は昴星の他、諭良と才斗しかいない。周りはみんな、トランクスかボクサーブリーフを着用している。

 そういう自分であることを昴星は恥じていない。おれはブリーフがいい! だっておれがブリーフ穿いてんの嬉しい人がいるから!

 ……しかるに、こうして好奇の視線を集めるとなると、その自負と自信もやや揺らぐ。

「わ、悪ぃかよ……。いろんなパンツあんだから、そんなかでどれ穿いたっていいだろ別に」

「ぼくはおそろいなのうれしいなー。昴兄ちゃんがまえにね、おそろいじゃないパンツはいてるときはちょっとさみしかった。白いパンツはね、あったかくって優しくって、おちんちんも白いパンツがだいすきなんだよ」

 流斗も心からブリーフを愛している身である。そんな少年が信じる光を大きな瞳に集めて言う声には、威力があった。

「ぼくのパンツ、……ちょっとオシッコで黄色くなっちゃってて恥ずかしいけど、でもオシッコちょっと付いててもパンツはちゃんとおちんちんのこと守ってくれるんだー」

 昴星の手からブリーフを受け取って、自分の「おちんちん」に載せて見せる。

「……えーっと、じゃー鮒原くんのパンツもそこは黄色くなっちゃうの?」

 砂南に訊かれて、……もうそれを否定出来ない。

「……ときどきな。で、でもブリーフは白いから黄色くなるだけでっ、トランクスとかボクブリは色付いてるから目立たねーかもしんねーけど、こういう風に目立っちゃうから汚さねーようにって気を付けんの! トランクスのやつらだって白かったらほんとは黄色くなってるんだぞ、……たぶん」

「ふうん……、男子はいろんなパンツあるから大変なんだねー」

 砂南は感心してるんだが何なんだか、昴星には判りかねる反応をして、一人納得しているようだった。

「鮒原のパンツがどうとかはいいや、流斗、もっとちんちん見せてよ」

 葵の関心は再び流斗の陰茎に向いた。流斗は嬉しそうに「えへへ」と笑ってブリーフをずらす。

「ぼくのおちんちん」

 そうして見せる流斗が可愛いことを、昴星は「おにーさん」と同じくらいによく知っているつもりだ。ともあれ自分の下着のフロントカラーから興味を逸らされて、昴星はほっと息を吐き出す。

「えーっと、いっつもはすっぽんぽんになって、おちんちんいっぱいさわってるうちに、おっきくなってくるんだけど、……こうやってね」

 流斗は細い指で陰茎を摘まんで、むにゅむにゅと動かし始めた。柔らかく幼く、性的なファクターとは正反対のところに位置するようなその陰茎が指に応じてひしゃげる様は、少女たちの注目を当然、集める。

 あまり集中して見ていると、……昴星だって心底流斗を可愛くて且ついやらしい少年だと思っているので、勃起してしまいそうになる。その腹部に置かれたままになっていた流斗のブリーフを取って、くるりと畳む。ズボンも同様に。

「あ、……ちょっとだけかたくなってきたかも……、わかる?」

 指を離して、流斗は確かに芯が通ったように角度を変え始めた幼茎を見せる。斜め後ろから那月が、正面からは葵が、そしてすぐ隣からは砂南が見下ろす中で、それは嬉しそうにひくん、ひくん、震えを見せる。

「やっぱ……、すっごいね流斗は……」

 葵が気圧されたように言う。彼にとって、異性の性器の変化を克明に見ることがどれほど貴重なことか、伝わって来るような声である。那月は声も出せない。

「あ」

 流斗が、不意に言って「オシッコしたくなってきちゃった……」ベンチから、ぴょこんと立ち上がる。

 先述の通り、流斗はこの女子たちの前で失禁したことがある。ときどきオネショをするということも彼女たちは知っている。その認識は、流斗という少年の「蛇口」の緩さを彼女たちに誤解させる。

 実際には、諭良の方が、そして更には昴星の方がよほど「緩い」のであるが。

「ったく、こんなとこで裸になるから寒くなったんだろ。じゃー、トイレ行くか」

「うんっ」

 ブリーフと半ズボンを、「ほれ、おまえら持てよ」と砂南と那月に押し付ける。黄色い汚れの付いたブリーフであるのに那月は、……もちろん戸惑ってはいただろう、しかしこの汚れも含めて天使のように可愛い流斗の付けたものであるという意識が彼女の中に働くからだろうか、それほど嫌そうではない。

「って、おまえらもいっしょに入って来んのかよ」

 予測はしていたくせに、昴星は訊いた。

「だって、お勉強だもん。あ、でもオシッコ出るとこはいっつも見てるからもういらない?」

 ぶるぶると葵が首を振った。

「いるいる、めっちゃいる、だって流斗がするとこ可愛いもん!」

「うん、そう思うー、なっちゃんもそうだよね?」

 那月が紅くなって頷いた。

「んーなに流のするとこ見てーなら、撮ったら?」

 昴星はごくさりげなく、当たり前のこととして提案した。「そしたら、おまえら見たいときにいつでも流のオシッコ見れんじゃん。流は別に撮られたっていいよな? おねーちゃんたちにさ、おまえのちんこもっと見て詳しくなってもらいてーんだろ?」

「うん、ぼくいいよー」

 あくまでも、流斗は朗らかだ。

 この公園には、男女兼用で区切りのない小さなトイレがあるだけ、個室が一つに銀色の小便器が一つ。……城址公園に比べて昴星たちがこの公園にあまり来ないのは、トイレのつくりが安っぽくて、左右からも視界が筒抜けであって色々不安を覚えることがあるからだ。

 実際問題、一人の少年を囲んで女子が三人、その放尿を観察しているとなれば、(撮影していることに気づかれなかったとしても)相当なレベルで奇異なものとして映ることになるだろう。

「そんな全員で来んなよ、誰か一人がさ、ほかのやつの分も撮りゃいいだろ」

「えー、そうなのー?」

「せめーし、流がしてるとこみんなで見てたら変だろ。一人はおれが撮ってやる、んで、もう一人は自分で撮って、あとそうだな、最後の一人の分は流が撮りゃいいや」

 三人が顔を見合わせる。「早く決めろよ、流、もらしちゃうぞ」

 ブリーフを、那月は持っている。砂南は半ズボンを持っている。

「じゃ、じゃーあたし! あたし撮る」

 手をあげたのは葵だ。

「いいなー」

 素直に羨ましがったのは砂南で、那月は紅い顔のまま何も言わなかった。「ほらおまえら早く携帯、おれと流に寄越せ」と手を差し出す。砂南と那月が慌ててポケットから取り出したスマートフォンのカメラを起動し、片方を流斗に手渡す。

「ちゃんとー、綺麗に撮ってねー?」

「砂南ねえちゃんのぼく撮るよ。昴兄ちゃんは那月ねえちゃんの撮って」

 コートのボタンを全開にして、当然のこととしてまだ勃起して上を向いたままのペニスを誇示するように腰を突き出す。「怪しまれるからおまえら出てろ、人が来ねーように見張ってろよ」と偉そうに命令して、昴星は回り込むように斜め上から光を当てて流斗の白いペニスを照らす。葵もそうしたし、流斗もそれに倣う。便器自体が銀色だから、

「えへへ、ちょっとまぶしいけど、おちんちんぴかぴかしてる……」

 流斗の言葉の通り、勃起した白い陰茎は光を浴びて喜んでいた。

「出る? 流斗、オシッコ出る?」

「うん、ガマンしてたからいっぱい出る……」

 ひく、と一度震えて、

「ふう……」

 流斗が甘い香りの息を吐き出すとともに、その陰茎の、包皮の隙間から金色の尿が斜め上へと勢い良く飛び出した。

「わ、わ、すごい、超出てる、オシッコ……」

 ライトアップされた金色の飛沫は流斗の体温と同じだけの温もりを帯びて迸る。つまりそこには温かさがあって、緩やかに立ちのぼる湯気までも照らし出されていることになる。言うまでもなくそれは排泄物であるから特有の臭いがあってしかるべきであるが、それに慣れている昴星と流斗はは置くにしても、葵までも全く気にならない顔で、

「も、もっと近くで撮っていい?」

 カメラを、その噴き出し口の近くに寄せる。

「えへへ、おちんちんもオシッコもよーく見てお勉強してね」

 流斗も葵に倣って、手に持つ砂南の携帯を真上から陰茎に寄せた。那月のそれだけ遠目なのは不公平だからと、昴星もそうする。

「ん……、オシッコ、もうすぐおわり……」

 噴水の勢いが徐々に弱まる。便器に当たっていた放物線の角度が下がり、流斗の幼茎に伝って陰嚢まで垂れた。最後にピクンと震わせて、ぴゅっと高らかに打ち上げて、

「えへへ、おしまい! タマタマにオシッコ付いちゃった……」

 にっこりと葵に微笑む。葵は口を開けて、「はー……」声にならない感嘆を漏らす。昴星は撮影を終えた。

「すっごい……、超すっごいの撮っちゃった……、流斗、ありがとね! ほんっとにありがとね!」

 葵の喜び方は、背が昴星よりも高く、普段は生意気なものの言い方ならびに態度が一貫している彼女のものとしては極めて素直な心情の発露である。へー、こいつこんな笑い方するやつだったっけ。ちょっと驚きながらも、流斗という少年の魅力を持ってすればそれも当然かという気がする。

「えへへ。おねえちゃんたちのお勉強の役に立てたらいいな。他の子はきっとダメだけど、ぼくだけはいつでもおちんちん見せてあげるよ」

 流斗の髪をぽんぽんと撫ぜて、「戻ろうぜ」と昴星は促した。流斗はオシッコの垂れたペニスを気にして、個室のロールペーパーで拭いてからきちんと手を洗ってからコートの上半分のボタンを閉めて、トイレを出る。

「あ、すごーい、流斗くんまだおちんちんおっきいまんまだー」

 砂南が、コートの隙間から顔を覗かせる流斗のそれを見て嬉しそうに言う。「ちゃんと撮れたー?」

「うん! いっぱい出るところ近くからちゃんと撮っよー、はい砂南ねえちゃんの」

 スマートフォンを流斗は砂南に返す。昴星も、那月に返した。那月は両手でそれをしっかりと胸に押し抱き、相変わらず真っ赤な顔でいた。

「……見たけりゃ見たら? きっちり撮れてるぞ流のちんこ」

「んなっ……、そ、それは……」

 今更、何を恥ずかしがっているのか。昴星はヘラヘラ笑って、

「んで? まだ終わりじゃねーよな? 流、ちんこからせーし出すところも見せて『お勉強』さしてやるんだろ?」

「うんっ、……でも、ここでいいのかなあって思っちゃった。その、……まわりに人が来るかもしれないところでせーえき出しちゃったら、……誰かに見られちゃったら怒られちゃうんだよね?」

 怒られちゃう、というか。

「そ、そうだよ……、こんなことしてるってバレたら……」

 那月も急に不安になったように言う。

「でもー、そこのおトイレだと狭いし、みんなで見てたら変だよねー?」

「昴兄ちゃん、どこかみんなといっしょにぼくがすっぽんぽんでいても平気なところってないかなぁ」

 昴星は、少し考える。一番に思い付いたのは、自分の家だ。「じゃー……」と声に出しかけて、慌ててそれを塞ぐ。布団をめくれば、自分のオネショの証拠が明らかになる。ついでに言えば今朝もした。汚れたブリーフがベランダに干してある。

「鮒原んちは?」

「おれんちはダメ! 超散らかってるからダメ!」

 即答、危ういところであった。

「城址公園にしようぜ。あそこだったら広いトイレあるし、トイレでなくっても人あんまいねーし、草むらの中入っちまえばわかんねーし」

「ああ、あそこかぁ……、でも、ちょっと遠いじゃん」

「いーじゃねーか流のちんこ遠慮なく見れんだから文句言うなよ」

 家にこいつらを上げることだけは、絶対にアウトだ。昴星は強情に城址公園行きをアピールし、「でも鮒原んちはすぐそこじゃん」と葵が反論する。

「ね、ここから昴兄ちゃんちに行く途中の川沿いにある公園はダメかな……」

 流斗が言った。公園? 公園なんてあったっけ……?

「あ、流斗、あれは公園じゃなくってただの『緑地』だよ」

「……あー、あそこのことか……」

「おにーさん」の家からも比較的近い。この地域には「計画緑地」なる名目で放置された雑木林が多い。流斗が言っているのは確かに昴星の家よりもここから近いし、森のようになっていて、人も寄り付かない。

「あたしはー、そこでもいいけど。なっちゃんは?」

「……あ、あたしは別に、どこでもいい……」

「じゃあ……、そこにしよっか? 近いし、鮒原んちがダメならそこしかないか」

 流斗が機転を効かせてくれなければ、危うく自分の恥部を晒すことになってしまっていたかもしれない……。昴星はふーっと溜息を吐き、ほんのりとした尿意を自覚する。

「じゃー、ちょっと待ってろ。おれしょんべんして来るから……」

 言い置いて、集団を離れる。流斗が、

「ね、おねえちゃんたちは昴兄ちゃんのおちんちんは見なくていいの?」

 背後で、そんなことを言うのが聴こえて、思わず飛び上がった。

「えー、……鮒原の、ちんちん?」

 葵が、形容しがたい声で言う。昴星は歩みを止めかけたが、すぐに大股になってトイレへ駆け込んで、……個室の中から鍵を掛けた。

 見たい、と言われたら、どうする?

 一瞬で縮み上がった陰茎を窓から出して、……普段あれだけ無節操に出てくる尿が、なかなか出て来なくて困る。喉の辺りがどくどく言っている。尿道が細まってしまったように、緊張が昴星の神経を支配している。

「鮒原ー、あれ? 大きい方?」

「えー」

 葵と砂南の声が、不意に聴こえると同時にちょろりとようやく僅かに、尿道口から尿が零れた。

「ち、ちげーよ! なに来てんだよ!」

「鮒原くんはー、あたしたちが『見せて』って言ったら見せてくれるー?」

「そ、そっ、そんなの……」

 やっと出かかったところ、また緊張が身を走る。

「っていうかー、マジで大きい方なんじゃないの?」

「そうなのー?」

「ち、ちげー! っつーかあっち行け! バカ!」

 声を上げたことで俄かに緊張が解れたか、鬱積していた尿意が解放された、……危うく便器から零しそうになるところ、どうにかこうにか水溜りへと注ぎ込む。

「あ、なんだオシッコだ……」

「うん、……葵ちゃんうんちのほうが良かったみたいに聴こえるよー」

「そ、そういうんじゃなくって……」

 二人の会話が止まった。昴星の尿は止まらない。まっすぐに、便器の中へ注ぎ込まれる放尿の音を聴かれている……。

「男子のオシッコの音って、みんなこういう感じなのかな……」

「ねー、あたしたちとちょっと違う……」

 扉一枚隔てたところで女子が耳をそばだてているという事実に、昴星は真っ赤になる。長い時間をかけてようやく放尿を終えてすぐにペニスを摘まんで振り、壁のボタンをぶっ叩いて水を流す。

「あ、おかえりー」

「ったく、ヘンタイかおまえら!」

 砂南がいつもの通りのんびりとした笑みで言う隣で、葵はもう少し意地の悪いニヤニヤ笑いを浮かべている。

 その視線は、昴星のハーフパンツへ向いていた。

「鮒原のパンツ、今のでさっきの流斗のパンツみたいに黄色くなってたりしてー」

 喉元で、また鼓動が鳴る。

 ちゃんと、振った。いつもよりも慎重に。しかし、今日一日穿いたものだ。そうしていればどんな男子の白ブリーフだって汚れを受け止めずにはいられないし、昴星のブリーフであれば余計に。

「だっ、だから、男子のパンツのちんこのとこはみんなきたねーの!」

 昴星に言えるのはそれぐらいで、

「とにかく、早く行くぞ!」

 乱暴にそう促すのが関の山。

「あんたのオシッコ待ってたのに何威張ってんの?」

 クスクスと余裕のある笑みで葵は言い、昴星より先にトイレを出て行く。砂南が首を傾げて、

「男の子はおトイレのとき、『音消し』する子っていないの?」

 と訊いた。

「は? おとけし……?」

「うん、あのねー、女子はときどき、音聴かれるの恥ずかしいから、聴こえないように最初に水流したりするんだよー」

 その手があったか……、と後悔してももう遅い。「行こ」と砂南に促されて出て行くと、流斗がにこにこ微笑んで昴星を待っていた。流斗のけしかけた葵と砂南は憎たらしくても、その笑顔を見せられると毒気が抜ける。

 きっと、誰もがそうだろう。

「あれー? 流斗パンツ穿かないの?」

 その下半身を隠すべき布は、まだ那月の手にあった。那月は困ったように、

「穿きなよって言ったんだけど……」

 と言う。

「だって、ここからすぐだもん。どうせすぐ脱ぐのに、はくのめんどくさいなって。それにね、コート長いから、こうやって」ボタンを最後まで止めて「しちゃえば、わかんないよ。……ダメかな」

 それは流斗の露出欲を満たすには足りないはずだ。本当は昼日中であろうが全裸で闊歩したいという欲を抱いているに違いない流斗である。

「はー、なるほどねえ……」

 葵は嘆息する。そうだ、おれなんかよりこいつのほうがずっとずっと可愛い、おまえらはこいつのちんこだけ見てりゃいいんだ……。

「お腹冷やさねーように気ぃつけろよ」

 昴星に髪をなぜられて、流斗は嬉しそうに頷いた。

 

 

 

 

 雑木林、正確には「高倉二丁目第二号計画緑地」と呼ぶらしいが、そこはもちろん無人であった。流斗は三人の女子たちに、道の途中からときおり、さすがにもう萎えて垂れ下がった陰茎をボタンの隙間から披露し、写真に撮らせたりなどしていたが、周囲からは全く視界の届かない場所まで至るや、いそいそとコートもセーターもシャツも脱ぎ捨てて、

「じゃーん!」

 と自分の全裸を披露した。

「すごいすごい、外なのにすっぽんぽんになっちゃった」

 そういうやり方で彼女たちを喜ばせることが出来る、言うなればサービス精神の塊。そしてそれは昴星が恋人たちに向けて発揮するものと、質の差は皆無である。

 先ほどの公園で陰部のみを披露した際と同じく、葵は大はしゃぎで流斗の裸身を写真に収め、砂南は「ほんとだねー、流斗くんはすごいなあー」とそれがいかに淫らなものであるかも認識していないような顔でほのぼのと微笑んでいる。

 相変わらず、那月は今ひとつ流斗の裸身に対して積極的になれないでいる様子だ。一人離れたところに立っている昴星の近くで、落ち着かない。

 男らしいさばさばとした性格をしている(実際、幾度となく昴星は「男か!」と言い、怒った那月に追い回された挙句に飛び蹴りを食らったこともある)一方で、実際に自分とは違う「男」の裸を前にして、葵のように本能むき出しにそれへの興味を発露することも出来なければ、砂南のようにのんびりと観察するだけの余裕もないらしい。

「おまえは? 撮んねーの?」

 昴星が声を掛けただけで、ビクンとする。顔は真っ赤だ。

「あ、あたしは、その……」

「いまらさ流のちんこなんて珍しいもんじゃねーだろ。それに、流はおまえらの『お勉強』のために裸になってんだぞ? なのにそんな遠慮してんの、かえって流に悪くね?」

「なっちゃん、これから流斗くんが面白いの見せてくれるってー」

 砂南が呼んだ。

「おれとか他の男子はあんな風にちんこ見せたりしねーぞ。だけど流はああやって見せられる。流は特別なんだ。おまえもいっしょになってさ、流のこと可愛がってやれよ」

 ぽん、と気安く背中を押した昴星は、なぜだか那月に睨まれた。

「那月ねえちゃんもおいでよ、ぼくみんなに見てもらいたいよ」

 全裸の流斗にそう甘えられて、断れる人間などこの世にはいないだろう。

「那月もケータイ、ムービー」

 葵に催促されて、仕方ないと装うようにスマートフォンを取り出して、「……なあに?」流斗には優しい「那月ねえちゃん」の顔を見せた。

「うん、あのね、女の子にはおちんちん付いてないでしょ? だからね、おちんちんおっきくする前に、おもしろいの見せてあげる」

「面白いの、……って?」

「えへへ、見ててね?」

 流斗は手を後ろに組む。腰を突き出して、小刻みに揺らして見せた。「おにーさん」が大好きな、幼茎の振動、ごく小さな振り子の、特有の揺らめきかた。それをぽかんと口を開けて見ていた那月の横顔に、じわじわと笑顔が広がった。

「……あはっ、なにそれ!」

「えへへ。おちんちんってこうやってぷるぷるするんだよー、おっきくなっちゃうとぷるぷるしなくなっちゃうから、今のうちに見てもらいたかったの。ちゃんと撮れた?」

「流斗くん、もう一回ー」

「あたしもあたしも、ね、もう一回いまのやって!」

 リクエストを受けてまた腰を振る流斗は本当に楽しそうだ。自分の持つ、男性器の機能、……秘密を含めてそういったこと全てを女子たちに共有させて、心から楽しんでいる。昴星としては、……やっぱ、おれはあんなのムリだなー……、と「弟」のことを改めてすごいと思うばかりだ。先ほど、放尿の音を聴かれるだけで苦しくなってしまうぐらい緊張するのだから。

「じゃー、これからね、おちんちんおっきくする。……あのね、……那月ねえちゃん」

 流斗は那月に向き直った。

「ぼくのおちんちん、さわれる?」

「へっ……」

 その言葉は、完全に那月の虚を突いたらしかった。

「あのね、ぼく、思ったんだ。おねえちゃんたちにおちんちんのこと詳しくなってもらいたいって思ったら、見てるだけじゃなくって、……おちんちんがどんなか、さわったかんじとか、あと、ぼくが気持ちよくなってるとことか、もっとわかったほうがいいんじゃないかなって。あとね、……いっつもぼく、おちんちん一人でしてるけど、誰かに触ってもらったらもっとドキドキして、……気持ちよくなれるのかなって」

「おちんちん」をこんな風に振る舞ってくれる少年からの、リクエストである。

「……那月、あんた、男子の、えー、ちんちん、触ったこと、ある?」

 さすがの葵も緊張を隠さない、いや隠せない。

「あっあっあっあるわけないでしょ!」

「そんなあたしに怒んないでよ」

「流斗くんのー、おちんちん、触ってもいいのー?」

 砂南だけは、こんなときでもマイペースである。「砂南は触っちゃダメなのー?」

「さ、砂南は……、触れるの……?」

 顔を引きつらせた那月とは、全く対照的なのどかな顔で砂南は頷く。

「ダメなのかなーってー、……一回触ってみたかったけど、勝手に触ったら流斗くんに怒られちゃうかなーって思ってた。……だって、知りたいなーって、男の子、どんな風か、砂南、まだ流斗くん以外のおちんちん見たこともないし」

 流斗はクスッと笑って、

「那月ねえちゃん、さっきからぼくのおちんちんあんまり見てくれないんだもん。でも、那月ねえちゃんだって女の子だからぼくのおちんちんでお勉強しなきゃダメだよ?」

 理論の飛躍とは無関係として、黒目がちな大きな両目、それはもう長いまつげに縁取られた二重まぶたに、じいっと見つめられて耐えられるとすれば、それは一定以上の年齢に行っているか、もしくは流斗の纏う可愛らしさを認識出来ない人間か。

 地球上の老若男女総動員して、流斗より人間がはたしてどれだけいるだろう? そんなことを考えられてしまうぐらいには、流斗の相貌には破壊力があるのだった。

 だから、

「う、う……、ん、……わ、かった……」

 結局、那月は頷いた。

「で、でも、あたしそんな、男子の、……こことか、触ったこと、ないし……」

「だいじょぶだよ」

 流斗は優しく、……明らかに年下の顔でいながら(実際問題極端なほどに経験豊富な男子として)微笑む。「きっと、那月ねえちゃんに触ってもらったらすぐおっきくなっちゃうよ。それにね、……今日こうやってたくさん見てもらって、おちんちんむずむずしてるんだ、きっとおちんちんがうれしくなってて、もっともっと楽しいことしたいって思ってるんだと思うんだ」

 甘ったるい声の流斗の前に、那月がしゃがむ。

 恐る恐るの指先、を、そっと、そうっと、近付ける。葵がすぐ隣に屈んで、流斗の陰茎に向けて何度もシャッターを切る。「そうっとしなきゃいけないんだよー、おちんちんって大事にしなきゃいけないんでしょ?」何かにつけて大雑把で、だから昴星に「おとこおんな!」とからかわれる那月は緊張を漲らせた顔でがくんっと頷く。

 那月の指先が、やっと、流斗のペニスに触れた。まだ人差し指一本、ほんの少し、押しただけ。なのに、

「ひゃっ」

 那月は静電気でも走ったように手を遠ざける。

「ど、どう? どんな感じ?」

 葵が那月の指と流斗のペニスを交互に見て訊く。

「な、なんか、……ぷにゅぷにゅしてる……」

「だってまだおっきくなってないもん」

 腰を振って、揺らして見せる。「おっきくなる前はおちんちんはぷにぷにしてるんだよ。でもおっきくなるときには、だんだんかたくなってくるの。そういうのも、さわってるとわかるよ。ね、だからもっとさわって、さっきぼくがして見せたみたいにむにゅむにゅってして」

 流斗のねだる声に操られるように頷いて、

「むにゅむにゅ……」

 ごくっと唾を飲み込んで、「……揉めば、いいの?」異性の其処に触れるのだ、慎重さは必要であろうが、何だか昴星はじれったい気持ちを催し始めた。

「むにゅむにゅってゆーかさ、流のちんこつまんで、やさーしく揉んでやって、そうしたらちんこ硬くなって来るから、そしたら今度はこう、つまんだまんまで前後っつーか上下に動かすんだよ。そしたら……」

「えっちょっと待って鮒原もオナニー出来んの?」

 葵がハッとした顔で声を上げる。その反応に、思わず昴星もハッとする。

「そ、そんなもんおまえ、当たり前だろ! 六年生だぞ、ちんここすって気持ちよくなるやり方ぐらいみんな知ってるに決まってんだろ」

 慌てて言い繕ったが、「へーえ、鮒原くんってもう大人なんだねー」という砂南ののんびりとしたインプレッションに恥ずかしさを覚える。まあ、年齢的にはしていてもおかしくない時期であるとはいえ、それを才斗と諭良以外のクラスメートに公言したことは一度もなかった昴星なのだ。

「わ、悪いかよ……」

「やー、ちょっとびっくりしただけー。鮒原くんってちっちゃいし女の子みたいな顔してるからそういうのぜんぜんないのかなってー……。でもそっか、流斗くんが出来るんだもんねー」

 オナニーを、どんな風にしているかまではもちろん離さない。ただ昴星は、

「そんなの、プライベートなことだ。みんなしてても言いやしねーし、……おまえらも言うなよな」

 ぶっつり、言うに留める。自分のオナニーのやり方など、事細かに知られたら表を歩けなくなる類のものだという自覚はもちろんあるから。

 ……おれ、口滑らしそうになんの気ぃつけなきゃやべーな。昴星は自分に言い聞かせるために一度口を噤んてから、

「とにかく、今言ったみてーにやりゃいいんだ。おまえらのために流はフルチンなってんだし、那月おまえ流のことふつーに好きだろ」

「ばっ……」

 那月にまた睨まれた。だが、これは核心を突いた結果のものに違いないと昴星にも確信出来た。

「ふふ、なっちゃん紅くなってる」

「ななな、なってない!」

「恥ずかしがらなくてもいいよねー、砂南もね、流斗くんのこと大好きだよ? 葵ちゃんもそうでしょー?」

「ん、んー、まあ、……うん、好き」

 好き、という言葉を口にするときには、葵のように髪の茶色い派手好きの少女でも純情にほおをあからめるものなのだ、ということを昴星は知る。まったく、女ってよくわからんなという感慨とともに。

「だって、だってさ、こんな風にちんちん見せてくれてさ、でもって、流斗は超可愛いし、いい子じゃん? 好きにならない女子なんていないよ!」

 男子もたいがい好きになるような流斗であるから、況や女子を。

「那月は?」

「なっちゃんは?」

 那月は左右の親友二人から同時に訊かれて、「う」とか「あう」とかさんざん言葉とはぐれたすえに、

「……す、す、好きだよっ、……あたしも、流斗のこと大好き……」

 やっと、那月は認めた。

 おれの大好きな流のこと、こいつらも「好き」っていうのは、なんだか嬉しい気がする……。

「……ひひ、よかったなー流、おねーちゃんたちみんなおまえのこと好きだってさ」

 ごしごしと頭を撫ぜてやったら、はにかんだように頷いて、

「ぼくも、おねえちゃんたち大好き。ぼくのおちんちん、見たりさわったりしたいときがあったらいつでも言ってね?」

 と可愛らしく言う。「兄」の立場として才斗は多いに嘆くはずだし、「おにーさん」も色々と複雑かも知れない。しかしこれこそが「流斗」という少年のありかただし、こんなことを言いながら流斗はもう一つの言葉は「おにーさん」以外の相手には使ったことがないはずだ、すなわち、……「愛してる」という言葉。

 昴星もまだはっきり理解できているわけでもないほど大きな感情を、流斗はまっすぐに「おにーさん」に向けている。なおかつ、「お兄ちゃんがいちばん楽しいのがぼくもいちばん楽しいよ」と、昴星も諭良も、女子である由利香のことまでも、彼が「恋人」として扱うことを認めている。最終的にどういう形になるのかはまったく計り知れないが、流斗はあの人と添い遂げる覚悟でいるのだ、昴星よりも二つも年下でいる今からもう。

「ね、おちんちん、もっとさわって。あと、タマタマも。……タマタマはおちんちんよりもっとそうっとだよ?」

 好き、と言ってしまった那月は相変わらず紅いままの頬でこくんと頷き、いっそう慎重な左の指先で流斗の陰嚢にそっと触れた。右手は先ほど昴星が言ったように、優しく揉む。その甘ったるい弾性が、見ているだけの砂南と葵にも伝わる。

「すごーい……、ほんっとにプニプニしてるんだ……、ねえ流斗、あとであたしにも触らせてよ」

「ん、いいよー……、みんなでね、いっぱい、ぼくのおちんちんさわって、お勉強して……、ぼくのおちんちん、気持ちよくしてほしいな……」

 流斗の声がほんのりと濡れ始めた。

「えへへ……、おちんちん、ちょっとずつかたくなってきたの、那月ねえちゃんわかる……?」

 那月の口は空いたままだ。「は」と声を漏らし、慌ててこくんと頷く。

「へー、流斗くんおちんちん気持ちよくなってるんだねー……、あーほんとだ、ちょっと大きくなってきたねー」

「うん、……あのね、おちんちん、気持ちよくなると、オシッコでるとこから、ちょびっとだけおつゆ出てくるの」

「おつゆ……?」

「ん、でも、オシッコじゃなくって、ちょっとぬるぬるするの……、おちんちんしこしこしてるとどんどん出てきて、泡になってね……、もう、出てきてるかなぁ」

 流斗の陰茎は斜め上を差してピンと反り返った。那月は左手に陰嚢を、右手に陰茎を支えて、いかにも不慣れな手つきでの愛撫を続けていた。

「那月ねえちゃん、おちんちんの皮、ちょびっとだけ、剥いて……」

「か、かわ……」

「ん、あのね、そうっとつまんで、下に、ちょびっとだけずらすの……、そうするとね、おちんちんの中身出てきて、オシッコの穴が見えるよ……」

 那月の指は、「こ、こう? 合ってる?」もともと真性包茎であり(それは昴星も諭良も同じだ)少ししか剥けない流斗の包皮を繊細な手つきで剥いて行く。窮屈なシャツの襟から頭を出すように、ほんのわずかな面積、流斗の亀頭が顔を出した。生白い亀頭に走る、ごく小さな亀裂には、既に透明な蜜が滲んでいた。

「ここがね、オシッコのでるところ……、でも、ぬれてるの、オシッコじゃなくって、ぼくが気持ちよくなってる証拠だよ」

「へーえ……」

「っていうか、あたし知らなかったこと一つ知った気がする……」

 葵が感心しているのか興奮しているのか、……おそらくそのどちらでもあるのだろうが、流斗の亀頭を立て続けに撮影しながら呟く。

「なんだよ、知らなかったことって」

 昴星の質問に、葵は「ちんちんのこと」と素直に答える。

「ほら、……あたしが今まで見たことあるちんちんって、パパとか親戚のおじさんとか、とにかく大人のちんちんと、あとは流斗とか同い年かちょっと下ぐらいの子のばっかりだったから、……大人と子供のじゃぜんぜん形違うでしょ?」

「あー、おとうさんのはもっと大きいよねー、毛も生えてるしー」

「そうじゃなくって、いやそうなんだけど……、その、ほら、皮? が大人になると剥けて、だから大人になるとああいう形になるんだって、いま初めてわかった……」

「ぼくのおとうさんもおちんちんは大人のおちんちんで、皮むけてるよ。でもぼくはまだここまでしかむけないし、あんまりむくの、得意じゃないんだ……。前におちんちんいじってるとき、先っぽさわったらどうなるかなって思ってさわったことあるんだけど……」

「どう、どうなったの?」

「んっと……、オシッコちびっちゃった。ひゃってなって、びっくりして……」

 それが本当かどうかは定かではないが、「ひゃっ」となるのは昴星もよく判る。

 そもそも大人の亀頭を舐めるのが好きな昴星ではあるが、自分の小さな包茎がいつかああなる、というのは未だ想像が出来ない。無知が露呈するのも面白くないので、黙っていることにした。

「ね、ねえ、淵脇くんとか諭良くんとかのちんちんって、もう……、あの、大人の、なの?」

 葵が急いたように訊いた。「ほら、あんたたちよく三人で泊まってるじゃん、お風呂とかで見たりしないの?」

「なんでおれだけ呼び捨てなんだよ……」

 憧れの大きさがそれだけ違うということだろう。昴星は少々気分を害しはしたけれど、それよりも何と応えるべきか考えた。勝手にあいつらのちんこのことなんて言っちゃっていいのかな、と。

 躊躇いの数秒を、流斗が埋めてしまった。

「才兄ちゃんは、まえにお風呂いっしょに入ったとき、おちんちん大きかったよ。形はおとうさんのとは違って、ぼくのみたいだったけど、ぼくよりずっと大きかったし、ちょびっとだけ毛が生えててカッコよかった」

「カッコいいって言うのかあーいうのを……」

 自分でも「カッコいい」と思っている才斗のペニスについてのコメントに敢えて異を唱えてから、……流が言っちまったんならしょーがねーかと、

「諭良は、まだ毛ぇ生えてねーよ。形も流斗のとだいたいおんなじだ」

「皮が伸びてて、腰を振るとそれが太ももとかお腹とかに当たってすげーおもしろい」ということは、友情に免じて言わないでおく、いや、言った方が良かったのかもしれないが。

「へー……」

「人それぞれだろそんなん。才斗も諭良も声変わりしてねーし、逆に荻野とか唐沢みてーにゴツいやつの方が毛もボーボーなんじゃねーの? ……いや待て、っつーか何でお前ら才斗と諭良のどうか訊いといておれには訊かねーのか」

 言ってから、あっまた滑らした、と思いかけたが遅い。ただ、それは大きな問題にはならなかった。

「だってさ、あんたどうせ生えてないし剥けてないっしょ。そんなの訊かなくったってわかるし」

「んなっ……」

 いやしかし、ここで必要以上の抗弁をするのは良くない。

「昴兄ちゃんもぼくとおそろいだよね? おちんちんもパンツもぼくといっしょ」

 にっこり流斗が笑って、「ふーん、そうなんだー……」「ほらやっぱり。鮒原はちんちくりんだからきっとちんちんもちんちくりんだって思ったんだー」砂南と那月に笑われても、ぐっと堪えるのが誇りを保つためには肝要だ。

「ん、んなことより、流は気持ちよくなりてーんだろ、でもってこれ『お勉強』だろ、ちゃんとやれよ!」

 話を逸らす、というより元に戻すために言って、「さっき言ったみてーに、ちんこ摘まんでいっぱい動かせ」那月に催促する。

「わ、わかった。……でも、動かすってどれぐらい?」

「速く」

「速くじゃわかんないよ!」

「だから、出来るだけ速くだよ! でも流のちんこが痛くねーように優しくだ。っつーか、おまえ終わんねーと砂南と葵に順番まわんねーだろ」

 急かすことで、力づくで誤魔化す。那月がむっと唇を尖らせつつも、昴星の言葉に素直に従って扱き出すなり、

「あ……、おちんちん、きもちぃ……」

 流斗が喘ぎ始めた。

 少年がそんな風に淫らな反応を示すことは、

「わー……、流斗くん女の子みたいな声してる……」

「なんか、……なんか年下の男子なのに、なんだろ、すっごいね……」

 葵と砂南にとっても新鮮なことであるらしい。流斗は甘い声を垂らして、もう自分の性欲を満たすことに集中し始めたようだ。那月の不慣れな指でも、流斗の陰茎には十分すぎるほどの刺激になっている。

「那月、ちょっとずれとけ。せーし飛んでかかるぞ」

「え、あ、はい」

「葵も、そこだと顔面に食らうしスマホにかかっちゃうから。砂南とおんなじぐらいんとこまで下がれ」

「おっ、うん」

 女子たちが身を引く頃にはもう、那月の指先からは流斗の腺液が皮に擦れて白く泡立ち、そこからクチュクチュと淫らな音を立て始めていた。砂南も「撮っていいかなー? いいよね?」スマートフォンを構える。

「あ……、あっ、おちんちん……っ、おちんちんきもちぃっ、おちんちんっ、んっ、ふあ、あっ、あっ、出るっ、おちんちん出るよっ、出る……っ、あっ」

「あ!」

「わあ」

「あ……」

 その指先に伝わった脈動に驚いたか、那月が反射的に手を引いた。流斗の精液はとぷんと射出され、足元の枯葉に零れ落ちる。中途半端な愛撫ではあったけれど、

「あは、出てる……っ、おちんちん、おちんちん……、ふあぁ……」

 それでも流斗はこの日最初の射精による快楽に浸り切っているようたった。屋外で存分に全裸を披露し女子たちの前で射精するという体験は、経験豊富な流斗にとっても貴重なものであったろうから。

「はぁ……、はあ。……えへへ、いっぱい出ちゃった……、えっと、ぼくの、せええき……」

 しゃがんで、手を引いたままでいた那月に、それはもうキラキラした笑顔を流斗は向ける。那月の指にはまだ、流斗が刻んだ脈動の余韻が残っていたかも知れない。

「ど、どう? 那月、どんなかんじ?」

 那月は今しばらく呆然としていたが、

「……すっごい、ビクビクってしてた……。ちんちんが、なんか、破裂しちゃうみたいになって、思いっきり硬くなって……」

「精液って、こんな感じなんだねー……。もっと臭いのかと思ったけど、あんまりにおいとかしないし、あと思ってたよりずっと白いんだー……」

 流斗は立ち上がって「こうやって気持ちよくなるまでに時間がかかると、白いのがたくさん出るんだよ。ぎゃくにね、あんまり時間おかないで出すともうちょっと透き通ったのが出てくるの」と教える。

「流斗くんのちんちん、まだ大きいねー?」

「だんだんちっちゃくなるよ。いまはまだ気持ちよくってどきどきしてるから。……つぎは砂南ねえちゃんの番だよ。えっと」

 流斗はくるりとお尻を砂南に向けた。「こんどは、後ろから、ぼくがひとりでするときとおんなじにおちんちん動かして欲しいなー。あ、でもその前に、砂南ねえちゃんおちんちん持って。でもって、葵ねえちゃんも那月ねえちゃんも見てて」

 流斗が何をするのか、昴星にはすぐ判るのだ。砂南が立ち上がってまだ勃起の収まらないペニスから、透き通った液体をまっすぐに噴き出させた。

 慌てて葵がカメラを向ける。

「わー……、すごい、おちんちんの中オシッコ通ってる感じするー……」

「うん、だってオシッコしてるもん。男の子のオシッコはね、こうやっておちんちんの中から出てくるのわかるでしょ? さっきは二人見てなかったから、こんどはちゃーんと見せてあげる」

「すごいなー……、流斗、っていうか、男子のちんちんにどんどん詳しくなってってる……」

 顔が可愛いものだから誰も気付いていないのかも知れないが、ほぼ全て、変態の所業である。それが許されるのは流斗が極端に可愛いからであって、……そう考えると、諭良の願いもきっと遅かれ早かれ叶う。あいつだって、極端に綺麗な顔をしてるから。

 流斗の放尿が終わった。「全部出たら、おちんちん振って。ぷるぷるって、……あ、でもいまおっきいからはぷるぷるは出来ないや……」

「男の子はー、オシッコのあと拭かないの?」

「うん、ふだんは。でも砂南ねえちゃん気になるならふいてもいいよ。昴兄ちゃん、ティッシュちょうだい」

 もとより、流斗と遊ぶつもりで来ているのだ。ティッシュは箱ごと持って来ている。それを見て、「へえ、鮒原そんなティッシュ持って来てるんだ……?」葵が意外そうに言う。

「えへへ」

 砂南に陰茎の先を拭かれて、流斗は上機嫌だ。「おちんちんきれいにしてもらっちゃった。オシッコしてすっきりしたから、また白いの、せーえき、出したいな」

 そんな風にねだられて、砂南はなごやかに微笑んで「うん、いいよー。こうかなー……」流斗のペニスを摘まんで動かし始める。

「んふ、そう……、きもちぃ、砂南ねえちゃん、おちんちんするの、じょうず……」

 単に角度と積極性の問題だろう。那月は紅くなって、しかし流斗のペニスと反応にまた釘付けになっている。葵はもちろん、延々と撮影に没頭している。

 昴星としてはまた退屈な時間である。しかし流斗が楽しいならばそれでいいと思うし、……こうして楽しませてやればやっただけ、後で流斗がありがとうの気持ちを込めて施してくれるであろうということは、経験上判っている。

「んぅ……、あはっ、おちんちん、すっごいうれしくなってる……、ぼくね、おちんちんこうやって、可愛がってもらえるの、ほんとうにうれしいな……、あ、はっ……」

「砂南も嬉しいよー、流斗くんってすっごい可愛いしー」

「ん、もっと、いっぱいおちんちんのお勉強、してね? そしたら……」

 甘えた声を上げて、恍惚にそのまま浸り切るかに思われた流斗が、思いもよらないことを言ったのは次の瞬間。

「ぼくのだけじゃなくって、みんなの、昴兄ちゃん、とか、才兄ちゃんとか、諭良兄ちゃんのおちんちんにくわしくなるのと、おんなじだよぉ……」

 砂南と那月が昴星に目を向けた。

「ん、どういうことー?」

 葵はそれどころではない、「あ、また何か透明なの出てきた!」と撮影に夢中だ。

「だって、おちんちんは、男の子みんなについてるもん、ぼくのおちんちんは、昴兄ちゃんのおちんちんといっしょだもん、昴兄ちゃんだって、ね、ぼくとおんなじなおちんちん付いてて、こうやっておちんちんしこしこして気持ちよくなるし、形だって、ちょっと違うけど似てるもん」

 つまり、流斗が晒しているのは流斗自身のみの陰茎ではないということだ。

 陰嚢の中に珠が二つ、そして陰茎が一本、……言うまでもなく無毛で包茎。そういう構造じたいは、昴星だって流斗と同じなのだ。つまり、流斗が陰茎を見られているという事態はそのまま、昴星が彼女たちに下半身を見せることに等しい。

 そういう仕組みになっていることを、昴星はこの瞬間初めて知った。

「そっかー、……鮒原くんも、こういうおちんちんしてるんだね」

 砂南が、ちらりと昴星に目を向けた。昴星は、何も言葉を返せない。

「ん、だって昴兄ちゃんだって男の子だもん。ぼくとおそろいでおちんちんとタマタマがついてて、ぼくとおんなじでおちんちんはつるつるだよ?」

「……ふうん」

 昴星は固まっている、なにも言えない。何と言うのがこの場で最も相応しいのかも判らない。ただ全身がかーっと熱くなって、……まるで自分の陰茎を砂南に覗き見られているような気持ちになるばかりだ。

「さっき、言ったでしょ? 昴兄ちゃんもぼくとおそろいのパンツだから、きっとおちんちんのとこ、オシッコ付いて黄色いんだよーって。……あん、砂南ねえちゃん、もっと早くしこしこがいい……」

 流斗の甘え声に、「あ、ごめんねー、……こう?」砂南の意識は再び流斗の陰茎に注がれた。「おお、ちんちん先っぽ濡れてる……」ずっと撮影に夢中の葵の隣で、那月の視線もまたちらりと昴星の下半身に向いたような気がした。

 それら全ての、散漫な思考を、

「んっ、あっ……、あはぁ、きもちい……っ、ぼくおちんちんきもちぃの大好きっ……っん、んっ、ん、んあっ、また出ちゃうよっ、せーえき出ちゃうっ」

 一つ身に集めるような声を流斗が上げる。昴星は喉の辺りが熱くどくどくと鳴るような気持ちに苛まれていた。

 二回目の射精を終えたばかりの流斗のペニスを興味深そうな顔でいじりまわして、流斗に細かな悲鳴を上げさせる葵の隣で、那月が葵にカメラを任されて、一緒になってごく近くで観察する、空いた指はときおり流斗の陰嚢に触れた。

「ふふ、那月ねえちゃん、タマタマ好き?」

「す、好きっていうか……、その、こんな、触るの初めてだし……」

「えへへ。ぼくタマタマさわられるのも大好きだよ……、っひゃ、葵ねえちゃん、皮そんなひっぱっちゃダメだよぉ……」

 流斗が楽しければいい、とこういうシチュエーションを自ら作り出したくせに、昴星は帰りたい気持ちを催していた。流斗が三回目の射精をしたら、とっとと帰ろう……、疲労感を覚えてそう思い決める昴星のジャンパーの裾を、

「ねー、鮒原くん、ちょっといーい?」

 砂南が、引っ張った。

「な、なんだよ……」

「んー、ちょっと、訊いてみたいことがあってー……」

 どうせろくなことじゃない、……そういう予感を抱かなかったわけではない。三人から少し離れたところで「あのねー」と砂南が切り出したのは、予想以上にろくでもないことだった。

「さっき流斗くん言ってたけど、鮒原くんのおちんちんもああいう感じなのー?」

「なっ……」

「ほら、鮒原くんってちっちゃいし、流斗くんのとおんなじなのかなーって思っちゃったんだー。鮒原くんは砂南たちにおちんちん見せてくれないのー?」

 砂南は、何を考えているのか読めない淡い微笑みを浮かべていた。とはいえこれは、砂南の普段通りの笑みである。

「み、見せられるかよ、そんなの……! っつーか、ちっちゃいのはおまえだっておんなじだろ!」

「んー、そうだけど、流斗くんは四年生だから、おちんちんも四年生で、鮒原くんは六年生だから六年生のおちんちんなのかなーって」

 そこを突き詰めて考えて行けば、……残念ながら昴星の「六年生の」はずの「おちんちん」は総じて流斗とほとんど変わらない印象を与えるはずだ。いや、勃起時のサイズに関しては流斗にも劣る。

「……だ、だから、……その、おれはちん毛まだ生えてねーし、剥けてねーから、だいたいああいう感じっ、それでいいだろ!」

 まさか、見せるわけには行かない。だからそういう言葉で押し切るしか昴星に手立てはない。

「んー、そうなんだー……」

 納得したのかしていないのか、いまいち判らないような頷き方を砂南はした。離れたところから、「あは、きもちぃ……、もっとぉ……」流斗が那月と葵にねだる声が聴こえてくる。

「鮒原くんのおちんちんって二年生のときより大きくなってるの?」

 ビクン、と背中に氷を入れられたように、昴星の身体は跳ねた。

 砂南は、覚えている。

 ……二年生のときの、教室でのオモラシ。その際、養護教諭がいなかったせいで、昴星は教室の後ろで着替えさせられた。

 砂南はそのときに昴星の下半身を見ていたのだろう。

「なっちゃんも、葵ちゃんもね、あのとき見た鮒原くんのおちんちんが、最後に見たおちんちんで、それから流斗くんが見せてくれるまでずっと鮒原くんの覚えてたからー……」

 昴星は真っ赤になって何も言えなくなった。

 こいつは、こいつらは、おれのちんこを、覚えてる……!

「流斗くんのおちんちん初めて見せてもらったとき、鮒原くんのとちょっと違うなーって思ったんだー。だから、比べてみたらどんな風なのかなーって思っちゃったんだー。……ごめんね、やっぱり恥ずかしいよねー」

 砂南がまたほんのりと笑うと同時に、流斗が三回目の射精をする声が届いた。砂南が「行こ」と昴星に促す。硬直した身体の昴星はぎこちなく頷いたが、しばらくその場から動くことは出来なかった。

 

 

 

 

 流斗を叱ることは誰にも出来ない。なぜってそれは、流斗が何もかもを許させてしまうぐらいに可愛いからだ。そもそも昴星に、万が一流斗を叱る度胸が備わっていたとしても、どうやって叱ればいいのか思いつくことは出来ない。

「ありがとう、昴兄ちゃん。いっぱいきもちよくなれたよ」

 女子たちと別れて意気消沈、……砂南の言葉のトゲが刺さって抜けない昴星だったが、にっこり笑ってそうおじぎをした昴星はうっすらと笑って頷くぐらいしか出来ない。だからその手に引かれて向かう先が家ではなくて城址公園だということに気付くのに、少し遅れた。

 そろそろ才斗たちだって来るはずだ……、そう思ったけれど、

「ぼく、昴兄ちゃんと二人っきりでもうちょっと遊びたいな。昴兄ちゃんおちんちんずっとしてないでしょ? ぼくがんばってするから、昴兄ちゃんにきもちよくなって欲しいなーって」

 周りに誰もいないことをきちんと確かめてから、ちょっとだけ背伸びをして、キス。その甘い音色に、

「……しょうがねーなー……」

 なんて言葉は自然に導き出される。はたして流斗を縛ることが出来るとしたら、それは何という名前の鎖だろう……。

 結局たそがれの城址公園に入って、いつもの「秘密基地」へと。

「じゃあ、昴兄ちゃん、パンツいっちょになって。ぼくがいーっぱいサービスしてあげる!」

 きっと、そんな顔で声で、「おにーさん」に言うのだろう。流斗の表情のきらめきは先ほど三人の女子と一緒にいたときよりももう一段階、まばゆいものになったかに思える。

「パンツ……、おまえは?」

「だからー、いまは昴兄ちゃんが気持ちよくなる分なのっ、はやくはやくっ」

「んー、わかった……」

 ジャンパーを脱ぎ捨て、シャツを脱ぎ捨て、……ハーフパンツを下ろして。

「ね、昴兄ちゃん撮っていい?」

 流斗がスマートフォンを構えている。

「あー? おまえおれなんて撮っておもしれーのかよ……」

「おにーさん」じゃあるまいし。流斗が一人のときにどんなオナニーをしているか、全く計り知れないけれど、少なくともおれではしてねーだろ……、とは思っている。

「別に、いーけどさー……」

 流斗が「おにーさん」大好き、というのは知りすぎるくらい知っている。普段は演技、……先ほど三人の女子たちにあそこまで淫らな様を見せてはいたけれど、あれすらも。しかし「おにーさん」の前でだけは違う。どこの誰の前にいるときよりも可愛くなる。だから流斗がオナニーをするとしたら……、おにーさん、で。しかし、どのくらい可愛いのかという点についてはもう想像さえ出来ない……。

「撮ったの、ハルカねえちゃんたちに見せてもいーい?」

 完全に不意打ちだ。昴星のパンツ一丁にシャッターを切ってから、流斗はそんなことを言い出した。

「うえ……、あ、あいつらに……」

「うん。このあいだ会ったとき、『昴星くん』のおちんちんまた見たいって言ってたよ。顔は撮らないし」

 顔は撮らない……。ブリーフの高さに顔を合わせるためにひざまずいて、見上げる。

「ダメ?」

「そ、それは……」

「きっと昴兄ちゃん、気持ちよくなると思うけどなあ……」

 それを否定しようにも、……そういうシチュエーション下において凄まじい勢いで気持ち良くなってしまったところを流斗は知っている。いや、そのシチュエーションさえも流斗が作ったということもできる訳で、

「ぼく、昴兄ちゃんにいっぱい気持ちよくなってほしいんだ」

「……でも……」

「顔写さなくても、ダメ?」

「それは……」

 ちんこだけなら、バレないだろうか。

 顔さえ写ってなければ、大丈夫だろうか。

 ……考えを巡らせる。「おにーさん」がいつだったか、「おちんちんは一人ひとり違うから可愛い」という言葉を下敷きにするならば、陰茎や陰嚢の形は人それぞれ、指紋のように違うのでは……。

「んっ……」

 思考は、立ち上がった流斗の唇で止まった。

「昴兄ちゃんさっき、すごくドキドキしてたでしょ? おねえちゃんたちが見てるおちんちんは、男の子みんなのおちんちんだよって言ったとき。昴兄ちゃんは自分ではおちんちん見せられないから、ぼくが代わりに言ったんだよ」

 そこまで言って、もう一度。

「……ほん、とに、バレない……?」

「うん、ぜったい大丈夫。おちんちんだけしか撮らないもん。あとパンツ。それならへいきでしょ?」

 二つ年下の、こんなにも幼い流斗に、……全て見透かされているような感覚があった。

 流斗のあの言葉は、やはり意図してのものだったのだ。あの状況でもそんな風に頭を巡らせる、……それぐらい、賢い流斗には何の苦もなく出来るはずだろう。

「えへへ、『昴星くん』のパンツ、おちんちんのとこ黄色いね」

 再びひざまずいた流斗が、もう許可なくシャッターを切る。昴星がそっと見下ろすブリーフの前部には、確かに薄く黄色いシミが広がっていた。十円玉ほどのサイズ。六年生の男子としては、間違いなく恥ずかしい陰茎をした証だ。

「『昴星くん』おちんちん見せて」

 昴星は、……鮒原昴星ではなく、「昴星くん」として、ブリーフのゴムに手を掛ける。んく、と唾を飲み込み、……ずらして、おろして、緊張に縮み上がった陰茎が、震えて零れた。

「あは、やっぱりちっちゃいね。さっきおねえちゃんたちに見せてあげたら、どんな風に言われてたかなあ」

 まず間違いなく、そのサイズの小ささが彼女たちの興味を惹いただろう。二年生のときに教室で演じた失態、あのときに、例えば砂南がはっきりと「覚えている」と言った陰茎とこの陰茎と、いったいどれほど違うことだろう……。

 シャッターが、切られる。

「あ、いいこと思い付いちゃった……。ね、昴兄ちゃんって、セイラねえちゃんたちにおちんちん見られちゃったことあったでしょ? セイラねえちゃんたちの学校のおトイレで」

 ぱちり、ともう一枚。

「そ、それは……」

 あれも、流斗の同級生の「昴星くん」として。ただあの場には宮田ハルカはいなかった。

「でも、きっとあれよりも、砂南ねえちゃんたちに見られた方がほんとはもっとドキドキするよねえ……?」

 また、一枚。すくみ上がった二年生並のペニスを。

「今撮ってるの、『おともだちの』って言って砂南ねえちゃんに送ってもいい?」

「なっ、な、いいわけないだろ!」

「えー、なんでー?」

「な、なんでって……!」

「おちんちんだけなら、きっとみんな昴兄ちゃんってわからないと思うよ? それに、……ほんとは昴兄ちゃん、みんなに見てもらいたいんでしょ? ぼくみたいに」

 昴星の中を覗き込むような目で、流斗は言った。

「諭良兄ちゃん、このあいだぼくのとこ来て、ハルカねえちゃんたちにおちんちん見せたんだよ。おちんちんだけじゃなくって、オモラシもうんちも、せーし出すとこも。ぼくが気持ちよくなりたくて行ったのに、諭良兄ちゃんのほうがいっぱい気持ちよくなっててずるかったんだよー」

 その情報はハルカたちのところで止まっているはずだ。だから砂南たちはまだ知らない。

 そして諭良は、より強い快感を求めて、砂南と那月と葵、あの三人にも「見せたい」という欲を抱いている。いや、抱くのみならずその実現に向けて着々と計画を練っているかもしれない……。

「昴兄ちゃんも、諭良兄ちゃんやぼくみたいに気持ちよくなりたくない? ……才兄ちゃんやお兄ちゃんとするのもしあわせだけど、昴兄ちゃんはそういう恥ずかしいのも大好きでしょ?」

 じいっ、と目が見詰める。

 ここで、「うん」と頷いたなら、流斗は一切のためらいもなく、昴星の下半身を撮影し彼女たちに見せるだろう。

 現実問題として、彼女たちがこの縮こまったペニスを見て、それを昴星のものであると判別することが出来るかどうかはわからない。特徴的なペニスであることは確かだが、昴星が「おれのこんなんじゃねーし」と言い張って押し切ることは可能だろう……。

 ギリギリのところにいる自分を、昴星ははっきりと自覚する。

「おれ、は……」

 喉が、またどくんどくんと脈を刻んでいる。

 強い強い快感が、欲しいと心が喚いているのが聴こえて来るようだ……。

「……いい、おれは、いい、こわい……」

 震えた声で昴星は言い、首を振った。

「こわい? おちんちん見られるのが、そんなこわい?」

「ん……、こわい……」

 流斗はいましばらくじっと昴星を見つめていたが、

「そっか」

 納得したように頷いてから、微笑んだ。

「ごめんね、昴兄ちゃんのイヤなことはしたくないよ。ぼく昴兄ちゃんのこと大好きだし、……お兄ちゃんや、おねえちゃんたちに会わせてくれたのすごくうれしいって思ってるから、昴兄ちゃんの気持ちいいのの役に少しでも立てたらいいなって思ってたけど」

 それが、流斗の本当の気持ちだということは判った。流斗のように心を見透かすような目を持ってはいなくても、流斗が全て良かれと思ってしようとするのだということは、昴星にも伝わってくるのだ。

「……ん、……ごめん……」

「んーん、じゃあ、ふつうにしよ? でも、……いま撮ったおちんちんだけ、ハルカねえちゃんたちに見せてもへいき?」

 本当は、それも少し「怖い」けど。

「……ん、おれだって、わかんねーように撮っただろ?」

「うん、えっとね、こう」

 流斗が見せてくれたのは、縮こまった陰茎だけをアップで撮影したもの。包皮のシワにブリーフの糸くずが付着しているのが見えるほど近い。体型も含めて、判らない。

「なら……、それだけなら、いーよ」

「うん、ありがとう。……えへへ」

 流斗が、ぎゅっと抱き着く。「ぼくね、昴兄ちゃんがもっと幸せになったらいいなって思う。……それにね、昴兄ちゃんが幸せになることで、ほかの誰かもいっしょに幸せになればいいなって思ってるんだ。砂南ねえちゃんたちみんな、ほんとうはぼくのおちんちんじゃなくて昴兄ちゃんのおちんちん見たいんだと思うし……」

「……わかんねーよ、そんなん……。あいつらにとったらちんこなんておれのだろうがおまえのだろうが一緒だろ……」

「んーん、そんなことないよ。おねえちゃんたちみんな、昴兄ちゃんのこと好きなんだなあって思うし」

 ますます、意味が判らないことを流斗は言った。ほとんど謎である。

「大好きなひとのおちんちんはみんな見たいと思うよ?」

 きっとそれは間違いないことだ。しかし「昴兄ちゃんのこと好き」ということに限っては、珍しく流斗は見当違いなことを言っている……、昴星はそう思った。

 昴星のそんな考えをよそに、

「おちんちんしゃぶっていい?」

 流斗がひざまずく。頷くよりも先に、鼻を当てて、

「んー……、ふふ、昴兄ちゃんのおちんちん、やっぱりすごいにおい」

 嗅いだ流斗が嬉しそうに笑って見上げる。

「ぼくね、昴兄ちゃんみたいなおちんちんのにおいになったらいいなーって思って、パンツいっぱい汚したりオモラシして洗わなかったりしたけど、どうしてもこのにおいにならなくって残念だったよ。でも昴兄ちゃんのおちんちんこうやってかがせてもらえるから、ぼくがこうならなくってもいいのかなあ」

 流斗のペニスも、多少はそういう臭いを纏っている。尿で汚れやすいペニスの構造をしていることもあって、それは不可避なことであろう。

 しかし、昴星自身、……おれのがいちばんくせーんだよな、ということは自覚していた。

「んな、別にくせーちんこになんなくたっていいじゃねーかよ……」

「んー、でもぼくもお兄ちゃんも諭良兄ちゃんも才兄ちゃんも、昴兄ちゃんのおちんちんのくさいの大好きだよー」

 ちゅ、とキスをされて、昴星は縮み上がっていたペニスが普段ほどの大きさに緩んだことに気付いた。撮影されない、となれば、単純にこの可愛い可愛い流斗と愉しく遊べるということである。幸せそのものの状況であると言っていい。

 陰茎に、陰嚢に、鼻を当ててすんすん臭いを確かめている流斗に、昴星は求めないではいられなくなった。

「……流、しゃぶって」

「ん、いいよー」

「おにーさん」のペニスを咥えるときには、きっと少しは苦しく思いながら、大きく口を開けてやっとのことで収めるのだろう。

 昴星の短小包茎が相手ならば、そんな無理をする必要はない。飴玉を咥えるようにつるんと口に収めて、あっという間にペニスの根元に上唇が触れる。口の中では舌がにゅるにゅると這い回り、あっという間に昴星を翻弄し始める。

「う、……あっ、……すげっ、流……!」

 年下なのに、こんなにも器用。昴星や諭良はもちろん、才斗や、「おにーさん」のことまでも全く苦労することなく射精させてしまう流斗の口だ。

「んふ……、こぉにぃひゃ、おひっこ、ひょうらい……」

 すっかり勃起したペニスに指を当てて、皮を剥き、多少の垢が溜まっていてもおかしくない亀頭を舌先でくすぐりながら流斗は求めた。

「んっ、……ん……は……」

 濃い金色の尿が、勢いも不安定なままにその唇の中へと注がれて行く。流斗は再び深く咥え込んで、誰より一番臭いはずの昴星の尿を目を細めて飲み込んで行く。

「んー……、ぷは。……えへへ、おいしかったぁ、おちんちんごちそうさま」

 皮を指でつまんだまま、ちゅ、ちゅ、とキスをして、そのたび昴星が「っん! んぁ……」と細かく反応するのを楽しそうに見上げている。

「昴兄ちゃんのおちんちんもオシッコもやっぱりすごくおいしい……、おいしくって、えっちで、大好きだよー。ほら、ぼくもおちんちんおっきくなっちゃった……」

 半ズボンの前を開けて、ブリーフの窓から昴星よりも一回り大きいことが明らかなペニスを晒す。

「……流、さ、……おまえも、おれなんかで勃起、すんのなー……」

「ん? うん、だいすきだもん」

「……そっか……」

 流みたいに可愛くなくとも、そもそも「ちんこくさい」おれでも、そんな風に思ってもらえることは嬉しいのだ。

 天使のことが大好きな人間が、天使に好きと思われているという事実は幸福なものだ。「おにーさん」もそう思っているのかもしれないと昴星は想像した。ただ昴星の想像が及ばないのは、「おにーさん」は昴星のことも流斗同様「天使」だと思っているということ。

「ね、……昴兄ちゃん、うんちは出る?」

「うんこ……? え、おまえ、入れたいの?」

 恥ずかしそうに、流斗はそれを認めた。

「昴兄ちゃんのお尻、ぼくのちっちゃいので気持ちよくしてあげられるかわかんないけど……、でも、ぼくのおちんちんも、ときどきは男の子のことしたいなって……」

 いつも、流斗は受け容れる側だ。唯一の例外は女子である由利香が相手の時で、そのときはまさしく「男の子のこと」に没頭出来るのだが、才斗や諭良、そして何より「おにーさん」を受け容れることを、流斗は心から喜びと感じている。

 昴星も、それは同じだ。

「ん……、わかった」

 流斗のしたいようにさせてやりたい。昴星はブリーフから足を抜き、その場に屈む。流斗が「見ていい?」と後ろに回っても、

「すっげーくせーからな……?」

 そちらに気持ちを向ける。

「んー……、んっ、……っお」

 力を籠めると、案外にスムーズに肛門は開いた。いつもながら健康的な腸内環境であり、数時間前に食べた給食が茶色い塊に変わり、ゆっくりと直腸から肛門へ、そして外へと溢れ出す。

「あは、やっぱり昴兄ちゃんのうんちってすごぉい……」

 ぱちり、シャッターが鳴って、思わず振り返った。しかしペニスだけで判らないものが、肛門でわかるものか。

「アップでしか、撮っちゃダメだぞ……、ほかんとこ撮ったらバレるかも、しんねーから」

「うん、お尻の穴のとこしか撮ってないよー……、わーすごいすごい、どんどん出てくるねえ……」

 立て続けに何枚も、シャッターの音がする。

 うんこしてるおれの肛門、見られちゃうんだ……。

 昴星は、心地よい排泄をしながら、徐々に「それでもいい」という気持ちに染まって行くことを意識していた。

 おれのくせーうんこ、うんこで思いっきし広がってる肛門、ハルカたちが見るんだ……。

「ん……? 昴兄ちゃん、おちんちんしてるの?」

「……っ、そ、れは……」

「じゃあ、はい」

 流斗が手に持つスマートフォンを昴星の手に握らせる。

「うんちしながらおちんちん気持ち良くなるとこ、撮ってもいいよ? ……ハルカねえちゃんに見せてもいいなら」

 そのとき昴星の心からためらいが消えていたとは思わない。

 ただ、スマートフォンのカメラをインサイドに向けて、画面いっぱいに自分の勃起した包茎を映し出したとき、そこがビクンと強張ったのは事実であるし、その拍子に肛門がぎゅっと引き締まって便を切断した様子は流斗も見ていただろう。

 ほどよく硬く、とても太く、熱い便が肛門を押し広げて顔を覗かせたときにはもう、昴星は夢中になってシャッターを切っていた。

「あ……、あっ、……んう、っんこ……、うんこぉ、しながら、ちんこっ……ちんこ見せてるっ……」

 機械的な音の一つひとつが、昴星の陰茎の強張る様子をつぶさに収める。先端から露が浮かんでいるところを、右手の扱きに応じて大きめの陰嚢が揺れているところを、見せたい、見られたい、思いのままに、女子の目の前で昴星は排便オナニーに没頭するのだ。

「あはっ、ちんこ見られてる……! ちんこっ、ひもちぃっちんこいっぱい、見られてるっちんこっちんこ、ぜんぶっぜんぶぅっ……いくとこっ、いくとこもっおっ見てっちんこのいくとこぉおっ」

 射精の瞬間、バランスを崩した。危うく自分の出したものの上に尻餅を付きかけて、反射的に放り出したスマートフォンが宙を舞う。幸か不幸か、昴星もスマートフォンも汚物の上に落下することは避けられたし、スマートフォンは昴星の腹の上にぺたんと鳴って落ちた。

 はあ、はあ、と後ろ手で身を支える昴星の腹からスマートフォンを拾い上げて、

「昴兄ちゃん、こっち向いてー」

 しどけなく開かれた足で自分で築いた山を挟むような格好の昴星に、流斗が上から声を掛けた。ペニスから、細いせせらぎが溢れ出している。未だ排便は続いていた。

 涙目で見上げる昴星の全身が、写真に収められる。

「すっごいいい写真が撮れちゃった。……これもハルカねえちゃんに見せちゃおうかなー」

「ひっ」

 まだオシッコが噴き出している、便も足の間にぶら下がって揺れている。「や、やだやだっ、そんなのダメっ……」泣き声を上げた昴星に、くすくす笑って流斗がキスをする。

「じょうだん。……でもやっぱり昴兄ちゃんは恥ずかしいとこ見られたいんだねえ。いつものときより気持ちよさそうだったもん」

 クスクス笑って、流斗は幼い茎を自分でぱちりと収める。

「昴兄ちゃん、気持ちよくなっちゃったからもうぼくのおちんちんいらないかなあ?」

 まっすぐに上を向いた、可愛らしいペニス。しかし雄の欲を持て余して、ひくんひくんと震えている。

 それを目にすれば、昴星のようやくすっきりとした内奥が、また、疼く。

「ほ、欲しい、流のちんこっ、ちんこおれ欲しい……!」

「ほんとに? 昴兄ちゃんのうんちより細いけど、ほんとにほしい?」

 がくがく頷いて、四つん這いになった。便の付着した肛門を見せびらかして、そこに向けてシャッターを切る音が届いても「ほしいっ、ちんぽっ、流のちんぽ入れてよぉ」もう、何も考えられないままに浅ましくねだる。

「やっぱり昴兄ちゃんはすっごくかわいいなあ」

 細い陰茎にはややぶかぶかのコンドームを装着して、流斗が溜め息を吐きながらろくに慣らしてもいない肛門に侵入した。

「おっあ……!」

 昴星の肛門と内壁に催すのは、大きさの問題ではない熱、快感。

「ぼくも昴兄ちゃんみたく、もっとかわいくなりたいな……、んっ、お尻の穴、昴兄ちゃん、すっごい……、やらかくって、ぷにぷにしてて、きもちぃ……!」

 流斗が今日初めて、ごく素直になっていることを昴星は悟れない。尻肉に腰を思い切りぶち当てられて、ささやかな、しかし確かな、幸福を生み出す摩擦に喘ぐ間、何も考えなくてよくなるのはもちろん昴星も同じこと。

「あはっ、こうにいちゃっ、こおにぃちゃ、おちんちんぎゅーってしてるっ……」

 幼い両手に、男のくせに柔らかい胸を散々揉みしだかれ、雌のような在り方を強いられて、……ただ、ただ、ただ、気持ち良くなるばかり。

 昴星のみならず、「おにーさん」が、そしてきっと誰もが溺れる。「天使」と呼ばれるに相応しい生き物。

 それが、可愛い可愛い牧坂流斗である。


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