消えてなくなるわけじゃない

 諭良の家に来たのはまだ数える程だが、その部屋の構造などにはすっかり詳しくなっている。諭良の家はこの付近一帯ではひときわ高く目立つマンションの上層階で、同じく「マンション」に住んでいる昴星の家とは比べものにならないほど広く、浴室には床暖房が付いている。こいつんちすげー金持ちなんだよな、とわかってはいたけれど。

「ひえー!」

 まさか、最上階に住民専用のプールが付いているとは思わなかったもので、昴星はそんな声を上げてしまった。

「ぼくが、昔から水泳が好きだったから、父さんがここを選んだんだ」

 と諭良が何でもないことのように言うのを聴いて、いやそれはえらいことだぞおまえ、と昴星は珍しく常識的なことを言いそうになった。

「この温水プールで、ときどき一人で泳ぐんだ。滅多に人も来ないし、静かで、景色もいいし」

 住民だけが持っているというカードキーでロックを解除して、服を着たまま脱衣所を抜けて入ると、……なるほど確かに。才斗とともに諭良が通う水泳教室に、昴星もほんの一時期通ったことがあるけれど、あれと比べても引けを取らない広さの清潔な空間、天井も壁もガラス張りで、街を一望出来る。のみならず、「こっちはお風呂」と諭良が開いた扉の向こうには確かに、……駅の向こうのスーパー銭湯ほど広くもないが、しっかりとした造りの大浴場がある。

「……すっげー……、おまえ、すっげーな、おまえすっげーな、すっげー」

「……そうかな。別にぼくがすごい訳じゃないと思うけど……」

「いやこれは間違いなくすげー。おにーさんとか才斗とか連れてきたことあんのか?」

 ううん、と諭良は首を振った。

「連れて来ようかなって思ったこともあったけど、でも、ここは一人で遊ぶための場所。お兄さんと遊ぶときはやっぱりベッドの上が一番幸せだと思うし、才斗ともね。それにここは、セックスをするための場所じゃないから」

 そりゃーまーそうだろーよ……。さっきまで公園で相当にハイレベルにいかがわしいことをしていたし普段から浴室と寝室がイコールで結ばれるような行為に興じているとはいえ、昴星はそれぐらいわきまえている。

 しかるに、……ならば、ここでどんな「遊び」をしようと言うのだろう?

 そもそも、プールで泳ぐのに必須と思われるものを昴星は持って来ていない。そのことに思い至ったところで、

「ぼくね、ここでよく、裸になって泳ぐんだ」

 諭良は、あっさりと言った。

「裸、……はだか!」

「うん。外と中のさかい目みたいな場所でしょ? だからここなら安心して裸になれるし、解放感は外ですっぽんぽんになるのと同じくらい。だからね、昴星もここでいっしょにすっぽんぽんで泳ごうよ。お外ですっぽんぽんになるよりはずっと気持ちも楽だと思うよ」

「そ、それは……」

 確かに、そうかもしれない、とは思う。

 けれど、引っかかることがひとつ。

「ここ、……住んでる人、みんな入って来るん……、だよな?」

「ん? そうだよ、もちろん。このマンション住んでるのはだいたい外国人だけど、みんな昼間は仕事してるから、夜になると運動に来る人も多いよ。でもぼくがすっぽんぽんでいても誰も気にしない。だからかえって物足りないくらいだよ」

 ヌーディズム、という文化の存在を、昴星はまだ知らない。そういう人々のために開放されたビーチでは、老若男女みんなが一糸纏わぬ姿で闊歩することが許されているのだ。

 諭良はつまり、一人でそのヌーディズムを謳歌しているのである。

「でも、裸でいると、けっこう楽しいこともあったりするし……。とりあえず昴星、服脱ごう?」

 諭良に手を引かれて、脱衣所に戻る。諭良はずっと昴星のオモラシパンツを穿いていた。ズボンにもその臭いが染み付いていたっておかしくないが、気にするそぶりは全くない。まあ、どうせプールに入る前には不潔ではいられない。シャワーをきちんと洗ってから。

 とはいえ、

「うー……」

 誰もいないし、誰かいたとしてもどうせ誰も気にしない、と言われてはいても、こんな明るく解放的な場所で全裸という状況に緊張しないはずがない。快適な温度のプールであり、高台の高層階だから窓の外に見えるのは山並ばかりであるが、何だか全裸で空に放り投げられたような心持ちを抱く。

「入ろう、昴星。……そんな隠さなくたって平気だよ」

 諭良は皮の長く余ったペニスを歩くのに合わせてふるると揺らして平気な顔だ。

「う、うん……」

 昴星は、まだそこから手を離せないが。

 諭良が、綺麗なフォームでプールに飛び込む。プールサイドで一人だけ裸でいるというのは余計に心細いから、昴星もどばんと音を立てて温水の中に逃げ込んだ。

「あったかいでしょ?」

「お、おう……、あったかい」

 けれど、遮るもののない股間をぬるい水が抜けて行くというのはやはり不慣れなものだ。興奮とは真逆の感情、昴星の小さなペニスは一層縮み上がる。諭良は伸び伸びと泳いでいるが正直彼のようになれる日が来るのかどうか、昴星には全くおぼつかなかった。

「……あ」

 しばらく平泳ぎを楽しんでから水から顔を諭良は、何かに気付いたようにふと、声を漏らす。ただ、昴星にはそれが何かわからなかった。不意に、

「ねえ昴星は、潜水は得意?」

 そんなことを訊かれる。

「せんすい……? あの、息止めて長いこと泳ぐやつ?」

 それなら、才斗がとても得意だ。肺活量に優れていて、25メートルプールの端から端まで一気に泳げてしまう。その肺の強さはひょっとしたら、昴星の匂い(あるいは臭い)を出来るだけ深く長く嗅いでいたいと思うがゆえに発達したものかも知れない。

「まあ……、才斗みたく端っこまで行くのは無理だけど、……そうだなー」

 いま昴星が立ち泳ぎをしているのは、25メートルプールの、端から10メートルほどのところである。やや深くなっていて、昴星は足が付かない。結構深いな、とさっきから思っている。

「じゃあ、ぼくと潜水で競争しない?」

「競争て……、んなもん、お前のほうが速いに決まってんじゃん」

 何せ、才斗よりも更に泳ぎが得意な諭良である。

「うん、だからハンデつけるよ。ぼくは端っこから泳ぐ。昴星はここからでいいよ。息継ぎしたら反則」

 十メートルのハンデ。……昴星は少し考えて、「まあ、そんなら……。罰ゲームは?」

「ええと、考えてなかったけど、……ぼくが勝ったらさっきのあのパンツ、ぼくにちょうだい。昴星が勝ったらぼくのパンツで好きなの一枚あげるよ」

 昴星にとっても諭良にとっても、大した罰ゲームではない。

「ならいいよ」

 昴星は請け負った。諭良はにっこり微笑んで、すいすいと端まで行く。

 小さなことであっても勝負事、どうせやるなら、負けたくはないと思う。ましてやハンデを付けられている。昴星だって体型の割りには決して運動が苦手な男子ではない、五十メートル走ならクラスでもトップクラスに速いのである。

「じゃあ行くよー、よーい、どん!」

 せこい、とは思う。しかし、お腹いっぱいに空気を溜めて昴星はフライングして深く潜った。

 水中眼鏡はかけていないから、視界はない。全力で手と足を動かして、両手両足で必死に水をかく。

 ……水中ながらに判るのは、ずっと後ろにいたはずの諭良が、想定よりもはるかに早く距離を詰めてきているということ。残り五メートルのラインがうっすら見えたときにはもう、その気配は極めて濃厚。あと少し、あと少し、苦しくなってきた息を堪えて必死に水をかいたが、

「ぶはっ……はぁ、はぁ、はっ……」

 昴星が顔を上げたとき、既に諭良は髪をかきあげていた。

「くっそ……、なんで、そんなっ、はえーんだよ……」

 息も絶え絶えに、昴星が恨めしく言ったところだ。

 ……ぱちぱち、ぱちぱち、何かの爆ぜるような音がした。……爆ぜる、ちがう、これは……、拍手の音だ。

 諭良の両手は水中にあった。

 音のした方、……自然と昴星の視線は、すぐそばのプールサイドに吸い寄せられた。

「んなっ、……人!」

 人、である。少なくともそれはすぐに判然とした。プールサイドであるから、裸足。その足は細く、……つるりとしている。肌の色は、季節に似合わず小麦色だ。

 見上げた先にあるのは、男の下半身ではなかった。昴星の全身が、かあっと熱くなる。

「こんにちは、リリィ」

 諭良は平然と、その身体の持ち主を見上げて挨拶をした。

「こんにちは、諭良。今日もいい天気ですね」

 リリィ、と呼ばれた外国人は、愛想良く挨拶を返す。昴星はプールサイドに立つ彼女を見て、外国人だ、女の人だ、大人だ、金髪だ、……そんなことを、口をパクパクさせながら断片的に思う。

 大人だ、と判断はしたものの、年齢はわかりづらい。事実として、昴星には諭良以外、外国人の友達は一人もいないし、諭良は外国人だけれど半分は日本人で髪も黒い。しかし、「彼女」は間違いなく外国人である。

 っていうか、……女の人だ!

「これ、ぼくの学校の友達の昴星。仲良しなんだよ」

「そうなのですか」

 女性のたっぷりとした長い金髪は美しい艶を帯びて波打っていた。どうしてこの女性と諭良がこんなに親しげなのか、どうして年下の諭良に対して敬語を使っているのか、……諸々の疑問への答えを待つより先に昴星がしたのは、とにかく水の中の陰茎を両手で隠し守ることだった。しかしにっこりと愛らしい微笑みを浮かべた「リリィ」なる女は、

「はじめまして、昴星、リーリヤ=グラヴィティスです。リリィと呼んでください」

 すっと膝を降り、握手のための手を差し伸べる。

 昴星は、結局自分を守るための手の片方でそれに応じることとなった。もっとも、片手だけでも十分隠れるサイズに過ぎないけれど。

 リリィの言葉遣いは教科書のように丁寧で、発音に間違いはないようだった。

「リリィはね、ボランティアで、この辺で働く外国人に日本語を教えているんだ」

 諭良の言葉で、彼女の不思議に窮屈な日本語に納得が行く。彼女は美しい微笑みを浮かべて、

「諭良から、わたしはたくさん日本語を教わりました。だからわたしの日本語は、半分くらいは諭良のものです」

 と言う。

「わたしはこのマンションに住んでいて、学校は電車で少し離れたハイスクールに通っています。十六歳です」

 もっと、大人に見えた。外国人の年齢は昴星には全くわからない。

 ただ、綺麗な人だということは女性の審美眼に関しては疎い昴星にも判る。睫毛が長くて、顔立ちはとても整っている。金髪と、小麦色の肌のためか、とても華やかな印象を与える。加えて、……異性の裸など、一つ年下の由利香のそれとしか親しんでいない昴星にはどこを見たらいいのかわからなくてどこも見られなくなるようなスタイルである。細身でありながら、バストは豊かである。

「ふ、……ふな、鮒原、昴星、です。あの、じゅ、に、さい、です」

 リリィと握手した手が熱い。年上の女性と触れ合うことなど、これまでほとんど経験のない昴星である。

「ねえリリィ、君が来たらいいなと思ってた。今日は昴星と三人で遊ぼうと思ってたんだ」

 リリィは微笑みを絶やさない。

「いいですよ。……昴星は、諭良のガールフレンドなのですか?」

 ガールフレンド、という言葉の意味が一瞬わからなかった昴星である。

 わずかに遅れて理解に至ったときには、

「違うよ。昴星はこんなに可愛いけど、ちゃんと男の子」

 リリィがびっくりしたように目を丸くして、その口からわずかに彼女の母国のものであろう驚嘆の呟きが漏れた。

「びっくりしました。ごめんなさい昴星、とても可愛いから、女の子だと思ってしまいました」

「でも、ぼくにとってはとても大切な友達だよ。……昴星、上がろう。リリィは今日も泳ぎに来たわけじゃないんだよね?」

「はい、そうです。わたしは泳げません。……か、か……」

「カナヅチ」

「そう、カナヅチなのです。代わりにわたしには、ここでしたいことがあります」

 泳ぎに来たわけではないのに、ではなぜ彼女が水着なのか、昴星にはわからない。年上の女性の前で前を隠さずプールサイドに上がれる諭良の神経についてはなおのことわからなかった。

 昴星はどぎまぎしながら、もちろん前をぎゅっと隠して親しげに喋る二人の後を追う。……もうこれ以上誰も来ねーだろうな……、と恐れながら。

 

 

 

 

「わたしは、お日さまが好きです」

 リリィの「したいこと」とは、日光浴であった。広々とした窓からさんさんと差し込むプールサイドに置かれたデッキチェアにその肢体を横たえ、気持ちよさそうだ。

「いつも学校から帰った後にはこうやって、ここで横になるのです。先月ここに引っ越しして来て、初めてここで寝たときに、諭良と友達になりました」

 昴星は相変わらず前をしっかり隠しながら、同時にリリィのどこを見たらいいのかわからないまま所在をなくしているばかりだ。

 だって、リリィの水着はとても大人っぽい。……際どいデザインの水着は由利香が着ているところを見せてもらったことがあるが、大人の身体をしたリリィのそういう水着姿は昴星には刺激の強いものだ。基本的に人見知りせず概ね物怖じしない昴星が落ち着かない理由が何か判っているはずなのに、

「昴星、おとなしいんだね?」

 諭良が、言う。

 んなもん、だって、決まってんだろ……!

 しかし昴星にはもう、諭良が何を考えてここへ招いたか判っているのだ。この時間にここへ来れば、リリィも来るということを知っていて、……女性であるリリィの前で「裸」でいるという行為を、きっと諭良はいつも楽しんでいて、昴星にもその楽しさを分け与えようと思ったに違いない。

 楽しい、かどうかは別として。

「昴星、さっきわたしが女の子と見間違えたことを怒っているのですか?」

 リリィが身を起こし、心配そうに訊く。

「いいいえ、あの、そんなんじゃ、なくって……」

 チェアから降りて前屈み、昴星に目の高さを合わせて、……ずいぶんと顔の距離を寄せて。

「昴星は、リリィの前ですっぽんぽんでいるのが恥ずかしいんだよ」

 諭良が説明する。要はそうなのだけど、その通りなのだけれど!

 前屈みになるのはやめてもらいたい、昴星はそう願う。その布地面積の少ないビキニタイプの水着のバストが、必要以上に強調されてしまうから。

「スッポンポン?」

「裸っていう意味だよ。『フルチン』って言ったりもするんだ」

「そうなのですか?」

 少し、安心したようにリリィは笑顔になった。「初めて諭良が、『フルチン』でいるのを見たときは、少しだけ、驚きました。わたしはこちらの男の子は、裸を見られても大丈夫なのかと思っていました」

「平気でいるのが普通なのかそうじゃないのか、ぼくにはわからないけど、でもぼくは平気だよ。平気っていうか、……リリィの前で裸でいるのはぼく、好きだよ。リリィはぼくの裸を褒めてくれたし」

「諭良の身体はとても綺麗だと思いました。昴星の裸も綺麗だと、わたしは思います」

 こんな、だらしねー身体を「綺麗」だなんて言うのはおかしい。この女性の日本語の半分は諭良が教えたと言っていたけれど、諭良がずいぶんと適当な教え方をしているらしいことを昴星は察した。

 リリィは諭良(と昴星)の裸を見ても、「綺麗」という感想しか抱かないらしかった。しかしながらそれは当然のことで、事実として(昴星自身はどうかと思うけれど)「綺麗」という感想をまず持った上で、いやらしい意味での「可愛い」が重なって、もっと見たいと思うのは昴星たちの恋人ぐらいのもので十分、そして彼はいわゆる「ヘンタイ」なのである。

 昴星はただただ困惑するばかりで、相変わらず股間を隠す手を外せない。諭良がどういうつもりでこの女性の前で裸身を晒すことを選んだのかは判るが、それにしても、これからどうするつもりなのかは全くわからない。

「ねえ、リリィ、今日はおっぱい見せてくれないの?」

 諭良の問いかけに対して、

「は?」

 と声を上げたのは昴星だ。諭良は何でもない顔で、

「前に背中を焼いてるときは、上は外してたじゃない。そのときはリリィのおっぱい見せてくれたよね?」

 言葉を重ねる。そこにはある種の信念と、恐らくは友情が込められていた。

 リリィは目を丸くして、それから小さく笑った。

「諭良はわたしのおっぱいが見たいのですか?」

「うん。見たいよ。だってリリィがぼくの裸を『綺麗』って思ってくれるように、ぼくもリリィの裸を同じように綺麗だって思うもの」

 諭良は、この女性の裸身を見たことがあるのだ。……その事実は、昴星にとっては恐るべきことだ。こんな、年上の女の人の裸なんて……、もちろん昴星は見たことがないし、仮に「見たい」と思ったところでそれを叶える術は持っていない。昴星にとって異性の裸とは、一つ年下の由利香の、つまりは子供のそれであり、それすらも緊張なしで直視することは難しいものであるから。

「……昴星も、わたしのおっぱいを見たいのですか?」

 リリィに問われて、昴星は真っ赤になる。

 そりゃ、見せてもらえるんなら、見たいよ……。

 昴星だって、……自分の身体を女子のように扱われることが悦びとして染み付いていたとしても、異性の裸身には興味がある。しかるに、諭良のようにそう思う感情に何のためらいもなく肯定的になれるわけでもない。

 だから、真っ赤になって口ごもっているばかりだ。

 リリィがふっと笑った。

「わかりました。リリィだけ見せてもらうのはアンフェアだと思います。だからリリィも『フルチン』になります」

「女の子にはちんちんが付いていないから『フルチン』とは言わないんだよ」

「おお、そうなのですか。……日本語は難しいですね」

 なんでそんな平然としていられるのか、……諭良だけではなくて、リリィも。信じられない思いで昴星はいる。仮に学校で同級生に「おっぱい見せて」なんて言ったなら一瞬で彼女たちの堪忍袋の緒を切るのみならず導火線に火を付ける結果になることは目に見えている。木っ端微塵、後には骨も残るまい。

 外国人だからか……? そんな疑問が昴星には浮かぶ。諭良など、髪は黒いし顔は、鼻こそ高くまつ毛も長いけれどそこまで掘りが深いわけではないし日本人として扱うことに何ら問題はないようにも思えるけれど、やはり感性というか根ざす文化が昴星とは違うのかもしれない……。

「あ、あ、あのっ、こ、こ、ここでっ……?」

 昴星は一人パニックになりながら(全くもって、なぜ全裸の自分が案じなければならないのか不明であるが)訊いた。リリィの手はすでに彼女の豊かな乳房を支え護るビキニの上の肩紐を外しかかっている。

「リリィが前に見せてくれたのって、ここだったよね?」

「はい、そうです。リリィは太陽が好きなので、肌を焼こうと思ってここに寝ていました。リリィのことなんて他の人は見ていませんでしたから、諭良に見せてあげたのです」

「で、でも……、それでもっ、誰か、来るかもしんないし……」

 依然としてプールは無人である。時折水がちゃぷちゃぷと音を立てるぐらいで、空間全体が眠りに就いているかのように思える。

「昴星は、リリィのこと心配なの?」

 諭良が訊いた。心配、なのだろうか。しかし自分たちが裸でいる一方で、彼女のことまで裸にして、……そんなところを誰かに見られたら?

 うまく答えを出せないでいる昴星を、じっとリリィは見てから、

「では、移動しましょう。心配してくれてどうもありがとう、昴星は優しいのですね」

 リリィはもう零れそうなところまで下ろしていた肩紐を戻して立ち上がる。

「うん、昴星は優しいんだよ。だからぼくは昴星のことが大好きなんだ」

「わたしも、昴星のことが好きになりました」

 そんなことを顔色一つ変えずに言う感性を、昴星は持ち合わせていない。どぎまぎする昴星に、リリィが手を差し出す。

「一緒に行きましょう」

 手を、繋ごうと言うのだ。

 行くって、どこへ……、と訊く余裕も昴星にはない。二本の手のうち片方をリリィの手に取られ、引かれている。全身がまたかぁっと熱くなった。三人以外無人のプールサイドをぐるりと回り、彼女の手に引かれて、

「あ、あのっ、こっちってっ……」

 女子更衣室に繋がるシャワールームを抜けた先。

「昴星が、『フルチン』が恥ずかしくないといいと思ったのです」

 真面目に丁寧に、リリィが言ったのは女性の利用者のためのバスルームだ。男子側とほぼ同じつくりだが、タイルの色合いがピンク色で女性的である。たっぷりと湯の満ちた、広い浴槽からはふわふわ湯気が漂っている、何とも贅沢なものだ。

「昴星、ぼくとリリィはね、他の人がいないとき、ときどき一緒にここでお風呂に入ってるんだよ」

「うぇ……、い、いっしょに、……いっしょにって!」

 諭良もリリィも平然としている。それが彼ら外国人にとって全く問題のない交流の仕方なのだろうか、……って、そんなはずがないということぐらい、昴星にだって判る。

「諭良に、日本語を教わったお礼に、何かプレゼントをしたいと思って、欲しいものを訊いたんです。そうしたら、諭良は、わたしといっしょにお風呂に入ってみたいって、言いました」

 リリィが少しばかり恥ずかしそうにそう言ったのが、昴星にとっては僅かに救いだった。その求めに全く問題視せずに応じたのだとしたら、昴星にとっては何一つ理解できないことであるから。

「だって、ぼくはリリィの裸を見てみたかったし、もっとぼくのことをリリィに見せたかったんだ。ぼくの秘密をリリィに知ってもらって、気持ちよくしてもらいたかったから」

「諭良は、ゲイなのにわたしの裸を見たいって言いました。一緒に身体を洗って、お風呂に入って、楽しく過ごしました。だから諭良はわたしの裸を見ています。昴星がもし『フルチン』が恥ずかしいなら、リリィも『フルチン』になります」

「リリィ、女の子は『フルチン』とは言わないんだよ。『フルチン』の『チン』は、男の子にしか付いてないところのことを言うんだもの」

「ああ、そうなのですね……」

 諭良、すげえ。

 昴星は震えながらそう思う。ただ同時に思うのは、……きっと流も似たようなこと出来るんだろうということ。流斗は流斗で、家の近くの、昴星と同い年の女子と付き合いがあり、裸を見せて遊んでいる。

「みんなで『スッポンポン』になったら、昴星も恥ずかしくないですよね?」

 リリィははにかんだように微笑んで、バストを覆う布を、外しにかかる。

 昴星がぼんやりと気付くのは、……この人が諭良に「見たい」ってムチャなこと言われて、それに応えたのって、……この人もそういうことに興味があるからじゃないのか、ということ。

 異性の裸には誰だって興味がある。由利香だってそうだろう、他の女子たちだって。だからこの人も同じように、男の裸を見たいって思ったんだ……。

 そんな考えは、リリィのバストがあらわになったところで止まった。

「綺麗でしょ? リリィの身体」

 昴星は口を開けたまま、諭良の言葉に頷くことも出来ないでいた。もちろん、その言葉には全面的に同意する。小麦色の肌が彼女の地肌の色ではなく、あくまで日焼けの結果であるということが判った。抜けるような白い肌に、甘そうにさえ見えるピンク色の乳首が実っている。そしてそれは、何度か見たことのある由利香のそれよりもぷっくりと大きく、乳輪もバストに相応して由利香よりも大きい。

「そうでしょうか。……昴星は女の子の裸を見たことはありませんか?」

「あるよ。ぼくと昴星にはガールフレンドもいるから。前に話したことあるけど由利香っていう、一つ年下のね。彼女の裸もとても可愛いんだよ」

 彼女は自分のバストを隠すということは考えもしない様子で、そのままビキニに指をかける。

「きっと世界にはもっとたくさん、綺麗な人がいます。でもわたしは、諭良にそう言ってもらえて嬉しいです。もしも昴星が同じように思ってくれるなら、それはもっと嬉しいことです」

 彼女は言いながら、するりとビキニを下ろした。そこにあるのは昴星の知るスリットではなく、薄くまっすぐだが毛足の長い陰毛を備えている。それが彼女の髪と同じ色であることに、昴星は生々しい驚きを覚えた。

「昴星、リリィもすっぽんぽんになったよ?」

 諭良が言う。この手を退けろと言っているのだ。しかし昴星は全く動けなかった。

 リリィがクスッと笑って、昴星の前に跪く。

「あ……、あう……」

 緊張した幼児のように、昴星はそんな言葉しか口に出来ない。リリィの手が、そっと昴星の手首に触れる。彼女の手にほとんど力のこめられないうちに、昴星の両手はあっさりと退けられた。

「おう……」

 と彼女の口から呟きが漏れた。昴星のペニスは全裸の女性を前にした緊張にすくみ上がっていた。元々小さなその陰茎は、ほとんど身体にめり込みそうになっている。

「緊張しなくてもいいのに。……でも昴星のちんちんは元々そんなに大きくないんだ。ぼくはそれが可愛いと思ってるんだけど、リリィはそう思わない?」

「……いいえ」

 リリィは微笑みを取り戻して昴星を見上げた。

「諭良のおちんちんをよく見せてもらったとき、わたしはすごくどきどきしました。いまも、昴星のおちんちんを見て、どきどきしています。昴星はとてもキュートで、可愛い男の子だと思いました。昴星の男の子のところも、とても可愛いです」

 屈辱的な言葉と解釈することも出来る。しかしそれに怒ることも出来ず、昴星は下腹部の辺りに染みるような痺れを感じた。由利香のように親しいわけでもない異性の目の前で、自分の恥部を晒しているという事実に、心の芯が痺れている。

「昴星とぼくは、仲良しなんだ。二人で、リリィとしてるよりももっとすごいことをたくさんしてるんだよ」

 諭良はスラスラと秘密を晒して行く。「今日もここに来る前に、二人で遊んだんだ。……どんなことをしてたか知りたい?」

「どんなことをしていたんですか?」

「うん。……ぼくがときどきオネショをしちゃうこと、リリィは知ってるよね? それは昴星もお揃いなんだ。昴星もよくオネショをしちゃう」

 同情するような微笑みを、リリィは昴星のペニスと顔に向けた。

「でも、オネショをするのって気持ちいいんだよ。リリィはわからないかもしれないけど、オネショをしたり、オモラシをしたりするのって、すごく興奮するんだ。だからぼくたち二人でよく一緒にオモラシするんだ。でもって、一緒に気持ちよくなるんだよ」

「気持ちよくなる……、それは、セックスをしているという意味ですか?」

「うん、セックスもする。フェラチオだけのときもあるよ。今日はまだフェラチオだけしかしてない。あっちの、公園でね、二人でフルチンになって、誰かに見られたらどうしようってどきどきしながら気持ちよくなったんだよ」

 リリィは感心したように溜め息を漏らして、

「諭良だけではなくて、昴星もおちんちんを見られるのが好きなのですか?」

 と、昴星にではなく諭良に訊いた。

「本当はね。でも昴星はまだ怖いんだ。ぼくたちのパートナーの一人に、学校でみんなにちんちんを見せたくてオモラシをする子がいる、……その子もすごく可愛いよ。昴星は本当はそういう風に気持ちよくなりたいんだけど、でも学校でそういうことしちゃうと色々問題があることもわかるよね? だから、リリィに日本語を教えてあげたみたいに、ぼくが出来るようなこと、出来て、気持ちよくなることを、昴星に教えてあげたんだ」

 全部、言われてしまった。もっともいまの昴星には止めることなど出来はしない。ただ縮み上がった自分のペニスを四歳年上の異性の目に晒しているばかりだ。

「だから、今日は昴星のちんちんをリリィにいっぱい見てもらいたかったんだ。もちろん、リリィはそれ嬉しいでしょ? それに、昴星にとっても幸せなことだから」

 昴星は固まっていた。冷静さなどない。しかしこのシチュエーションは諭良の言う通り、昴星が潜在的に願い続けていたものである。

 恥ずかしいところを見られたい。

 その欲を叶えることになって、ただ戸惑っているばかりであっても。

「わかりました。今日は昴星のおちんちんを、いっぱい見せてください。でも、見るだけでは悪いと思うので、諭良にしてあげたみたいなことも昴星にしてあげようと思います」

「うん。……でも、ぼくも一緒がいいな。ぼくも昴星のこと大好きだから。……ちょっとの間待っててくれる? ぼく、持って来たいものがあるんだ」

 そう言うなり、頼みの綱(こんなに危うい綱もなかろうが)の諭良はさっさと浴室から出て行ってしまった。リリィの二人で取り残されて、昴星はただ震えているばかりである。

 そんな昴星の痛々しい様子を見兼ねたのか、

「昴星は、女の子とキスをしたことはありますか?」

 年上の少女は美しい顔で訊いた。

「う、……あ……」

 言葉が出てこなくとも、頷くことぐらいは出来た。

「では、わたしとキスをするのは嫌ですか?」

 それには、頷くことも首を振ることも出来なかった。だって、……だって! ついさっき初めて会ったばっかの人!

「ついさっき会ったばっか」の「おにーさん」をブリーフを餌に釣ったり、「ついさっき会ったばっか」の由利香相手に童貞を捨てたりと、相当にハイレベルなコミュニケーションを経験してきてはいるけれど、やはり年上となると勝手が違うし、「おにーさん」は同じ男同士、そして由利香のときには側に「おにーさん」も流斗もいた。

 いまは諭良において行かれて一人ぼっち。

 しかし、答えられずにいるうちに、リリィの唇はほんの短い時間、昴星の唇に重なった。

 ピクンと震えて、唇が離れた途端に「わ、わあ……」と声が漏れた。

 リリィはにっこりと微笑んで、「昴星はまだ女の子に慣れていないのですね。でもそれは諭良も同じでした。諭良も初めてのときには、少し緊張していたと思います。わたしも緊張していました。今も緊張しています」

 ほんとうかよ、と昴星は少し疑う。それがリリィにも伝わったのかもしれない。彼女は昴星の手を取り、自分の裸の胸へと導いた。昴星が「わあ!」と声を上げる間も無い。その豊かなバストの向こうにあるはずの鼓動がどんなか、昴星には全く把握出来ない。ただ、その触れたことのない柔らかさに、ずっと無意識でいた自分の欲が目覚め始めてしまったことを自覚する。

 リリィの乳房は綺麗だ。そして由利香のそれよりもずっと柔らかく、ほのかに冷たい。

「あ……、あ……」

 どう頑張っても、それは止められない。ずっと小さかった昴星のペニスは、呼吸のたびに角度を上げて行く。

 リリィはそれを見ても少しも驚きはしなかった。甘い微笑みを浮かべて、「昴星のおちんちんを見せてもらいました。わたしも、いっしょに裸になっています。ですから、昴星もわたしの裸を見ていいのです」ともう一度昴星にキスをする。

 リリィの金色の髪からは、嗅いだことのないいい匂いがした。

「……わたしの胸、触っていいですよ」

 そう言われたときにはもう、リリィの大きな胸を両手で揉み始めていた。リリィが褒めるようにキスをくれる。夢中になって昴星もその唇に唇を重ねていた。

 興奮したときの悪い癖で、

「おっぱい……、おっぱい、……やらかい、おっぱい……!」

 思うことがそのまま口からだらだらと漏れてくる。リリィはそんな昴星を笑わず、温かい両手で抱きしめてくれる。

 同世代の、まだはっきりと膨らんではいない由利香の裸とは異質な感触に、昴星は夢中になっていた。リリィは昴星の髪を撫ぜ、導くようにその顔を自分の胸に寄せる。すぐ目の前にあるピンク色の乳首へ、昴星はすぐに吸い付いた。

「んッ……」

 僅かにリリィが震え、声を漏らした。彼女のその反応が大人っぽくて、昴星はまるで自分の口の中で「おにーさん」の性器が反応の脈動をもたらしてくれたときのような強い興奮を催した。

「ふふ……、昴星は、おっぱいが好きですか?」

 優しい、優しい手で髪を撫ぜてくれながら、リリィは訊く。

「ふぁ……、ふ、ひ、好き、れすっ……!」

「そうですか、……嬉しいです。わたしも昴星のおちんちんが好きですよ……」

 リリィは優しい。昴星は心がとろとろに溶けて行くような感覚に陥る。自分自身が角砂糖のようになって、リリィの舌で舐めとかされて行くかのような。

「昴星は、おちんちんが気持ちよくならなくてもいいのですか?」

「は……、え……?」

「諭良はわたしに色々なことを教えてくれました。男の子のおちんちんがどうしたら気持ちよくなるかどうか……」

 胸への興味の尽きない昴星を、リリィが離した。跪いた彼女の指が、昴星のすっかり勃起しきったペニスに近付く。

「あ……っ、だ、ダメですよそんなのっ……」

「敬語は、使わなくていいのです」

 リリィが昴星の、コンプレックスとなっている膨らんだ胸に口付ける。

「昴星は諭良と同じ、わたしの大事な友達です。だから、普段の通りに喋っていいのです」

 彼女の言葉に昴星が何も言えないでいるうちに、リリィは口を開け、昴星のペニスをそこに吸い込んだ。

「おあっ……!」

 諭良としか、こういうことをしたことがないのだろうという想像は一瞬で掻き消される。リリィの唇は昴星の小さなペニスを全て含み、その中で舌を小刻みに動かしてきた。諭良がどういう教え方をしたかは知らないが、そんなことを考える必要もないぐらい、心地よいフェラチオだ。その口にするには相応しくないほど小さいサイズの昴星のペニスを、「可愛がる」と言う意識が伝わってくる。

「お、おっ、ち、んっちんこ……っ、ちんこぉ、ちんっひんっこぉっひゃ、あ、あ、出るぅ、でるっいくっいくいくっでるぅ!」

 リリィに見つめられたまま、昴星は射精した。その口に熱を受け止めたリリィは一度目を伏せて、昴星の尻をぽんぽんと、赤子の頭にするように撫ぜてから、喉のこくんと鳴る音を聴かせた。

 昴星は膝から崩れ、リリィの胸に抱きとめられる。

「昴星、気持ち良くなりましたね。わたしにそれが伝わってきました。昴星が気持ちよく慣れてよかったと思います」

 リリィの身体がひんやりとあたたかくて心地よい。重たいかもしれないと考えることを昴星は忘れていた。柔らかな身体に、こうしてしばらく甘えていたい気にさせられる。

「……昴星? わたしは質問をしても構わないですか?」

「……ふえ……、しつもん……?」

「はい。……昴星はおちんちんのこと、別の言い方をしましたね。あれは、なぜですか?」

 質問の意味を、昴星ははかりかねて、少しの間考え込んだ。

 ようやく意味が判っても、……はたして何と説明しようか……。

「え、えっと……、お、おれはいっつも、自分の、……あそこのこと、……その、『ちんこ』って言ってて……、だから、その」

「おにーさん」も昴星のそれを「おちんちん」と呼ぶ、流斗もそうだ、諭良も、少し前までそう呼んでいた。けれど、自分のそれは何だか「おちんちん」なんて可愛らしい呼び方が相応しくない気がする、だって、

「そ、そうだ……、あの、おれの……、その……、臭く、なかった、……ですか?」

 リリィは首を傾げて、「臭くはないと思いました」とごく丁寧に応えて昴星を安心させた。「おにーさん」や才斗は昴星のそれの臭さが好きだと言ってくれて、それが昴星も嬉しいのだが、女性に臭い思いをさせてはいけないという気持ちがなぜだか生まれる。

「昴星のおちんちんは小さいけれど、精液の量は諭良よりも多いのですね」

 褒められても、やはり恥ずかしい。昴星が紅くなって顔をうずめるとしたら、それはリリィの乳房ということになる。それもまた恥ずかしい。けれど、リリィのおっぱいに吸い寄せられるように昴星は結局顔をうずめた。柔らかくて窮屈でいい匂いのする空間に、もっと酔い痴れたい気持ちにさせられる……。

「すっかり仲良しだね」

 不意の声に驚いて顔を上げた。何やらいろいろ持った諭良が、いつの間にか戻って来ていた。

「昴星、リリィに気持ちよくしてもらってたんだね」

 恐らくそうなることを予め判っていたのであろう諭良は余裕のある笑顔であるが、その手に持っているものを目にした昴星からはあっという間に余裕がなくなる。だって諭良が持って来たのは、

「リリィ、これが何だか判る?」

 昴星を抱きしめたまま、リリィは首を振る。

「これはね、ぼくと昴星のパンツ。……広げて見せればすぐ判るかな」

 リリィはじっとそれを見つめているようだった。

 やがてその唇からもたらされた質問は、

「……それは、そういうデザインのものなのですか?」

 彼女にとってそれが、驚くべき「デザイン」のものであったことを証明するものであったろう。

「昴星がオモラシしたパンツ。だから黄色いのは全部、昴星のオシッコなんだよ。……こっちの白いのは昴星が公園からここまで穿いて来たほう。だから全然汚れてない。……それからこれは判る?」

 一度、彼女は母国語で答えた。それを日本語で何と呼ぶのか、リリィはまだ知らないらしかった。

「昴星、リリィに教えてあげてよ。……日本語でこれ、なんて言うんだっけ?」

 おれに振るなよ! 思わず声を上げかけたが、昴星よりもずっと年上のはずのリリィは、純真無垢な顔で昴星の答えを待っている。

「……お、……おむつ……」

「おむつ?」

「……ん……」

「昴星は、オムツをするのですか?」

 出来るならば、この柔らかいおっぱいの中に逃げ込んでしまいたい。

 しかし、それは許されないだろう。少なくとも女性に一度、気持ちよくしてもらった後ならば……、昴星の、十二歳なりの「男」の部分はそう自覚している。

「……ひとんち、泊まるときとか、オネショ、を……、しても、へいきなように……」

「でも、起きてるときにおむつするのも昴星は好きだよね?」

「そっ、それは……!」

 諭良の言葉には全く何のためらいもなかった。

「ぼくも好きだよ。パンツを穿いたままとか、オムツを着けたままでオシッコして、あったかくて恥ずかしい気持ちになるのがぼくたちは大好き。いつも一緒にそうやって遊んでるんだ。今日は、リリィの前で遊ぶところ見せてあげる。……リリィが別に見たくないならやめておくけど」

 リリィは、真っ赤な顔の昴星と平然とした諭良とを見比べて、

「見てみたいです」

 ごくごく素直にそう言った。「リリィはもし昴星と諭良が見せてくれるならば、それを見たいと思います」

「よかったね昴星。……昴星はね、ずっと女の子にオモラシするところを見てもらいたかったんだ。ぼくより、もっとね」

 諭良は昴星の言葉を全て代弁しているかのようだった。事実として、昴星が「女子に見られたい」という欲を抱いて久しいことはもう否定しようがない。

 自分一人ではどうすることも出来ない欲と希望を、昴星が傷を負わない形で叶えようと諭良は言うのだ。

「ほら、昴星」

 白い方のブリーフを開いて諭良が待っている。よろよろと、花に誘われる蝶のように覚束ない足取りで立ち上がった昴星は、僅かに息を震わせながら諭良の手でブリーフを穿き、リリィの前に立たされた。

「昴星の『フルチン』もキュートです。でも、パンツを穿いている姿も、とてもキュートですね」

 リリィは手離しで昴星を褒めた。昴星だって「キュート」という言葉の意味くらいは判る。

「昴星? 夢が叶うんだよ? リリィにして欲しいこと全部話して聴かせてあげなきゃ……」

「昴星の、して欲しいこと?」

 リリィは胸を隠していない。彼女の顔を見ないようにしていても、昴星の目にはその胸が飛び込んてくる。しかし緊張してしまって、それを見たところで身体が反応を催すことはない。

 代わりに催すのは、……ブリーフを穿いたことによって喚起された尿意である。プールでの水泳、異性との邂逅、行為……、昴星の緊張を高め、膀胱を硬くする理由となるものは山ほどあった。

 オシッコ、漏れそう……。

 その感覚を、心の底から恥ずかしいと思うのは久し振りのことだった。

「お……、おれ、おれは……」

 一度感じた尿意はあっという間に昴星の思考から冷静さを奪った。膀胱の破裂しそうな感覚に遅れて、尿管を通って漏れ出すより先に自分の頭の中がオシッコでいっぱいになったかのように思われる。普段、一人で(或いは恋人たちと一緒に)失禁する際には、出すタイミングまで自分できっちりと計ることが出来るのに。

「おれはぁ……!」

 括約筋のコントロールが失われた。意志とは無関係に、ブリーフが濡れて行く感触ばかりを昴星は覚える。リリィは目を丸くして、ブリーフを黄色く汚して行く昴星を見つめている。異性に見られている、自分の一番みっともないところを、リリィに見られている……、黄ばんだ頭の中で考えられるのはそれぐらい。そして昴星が覚えるのは、通常の失禁よりも遥かに大きな量の解放感だ。

「あ、あ……、ああ……っ」

 足元に出来た大きな水溜まりから濃い尿の臭いが漂う。自分のあからさまな失態を、じっとリリィに見つめられて、昴星は震えた。全身が熱い。火がついたように肌が燃え上がり、その一方で自分の尿に濡れたブリーフは早くも冷たく感じられ始めた。

「……すごいでしょ、昴星……。ぼくも初めてリリィにオモラシ見てもらったとき、そのまま気を失っちゃうんじゃないかってぐらい、気持ちよかったよ」

 諭良の声が遠くに聴こえる。いつからかキィンと耳鳴りがしていた。そうか、リリィは諭良のオモラシ見たことあったんだ、……でもおれのオモラシ、おれのオシッコ、臭いし……、おれ、諭良みてーにきれいじゃねーし……。

「言って、昴星。本当はオシッコするまえに言わなきゃいけないと思ったけど、でもちゃんと説明できるよね? ……どうしてちんちんがそんなになっちゃってるの?」

 諭良は昴星を導く。昴星は、いまだ尿を滴らせる陰茎をブリーフの窓から出そうとした。いつもは失禁直後でも平気で出来ることなのに、指が強張ってそれさえも上手く行かない。

 やっと、引っ張り出すことが出来たそれは、炎の塊のように熱く欲を滾らせている。

「お、おれはぁ、……オモラシ、するのっ、気持ちよくってっ、……おれの、おれのね、おれの、ちんこ……っ、ヘンタイのちんこっ、女子に、見て、もらいたくってっ……」

 昴星が見せた一連の生理現象を、リリィは興味深そうに見つめていた。やや首を傾げて、

「昴星の、オモラシを見ました。昴星はわたしがそうすることで、幸せになれるのですか?」

 昴星は震えながら、こくんと頷いた。首が軋んだ。頷いてからそれが、自分がどれだけ汚れた存在か、初対面の少女にはっきりと伝えることになるのだということを悟るがもう遅い。出し切ってしまった尿と同様に、もう盆に返らぬ覆水である。

「リリィ、ぼくもオシッコガマンしてるんだ。ぼくがオモラシしたら、この間お願いしたみたいにしてくれる?」

 諭良が訊く。リリィは「はい」と首肯した。

「この間のようにします」

「昴星は少しだけ待っててね。……その恥ずかしいオモラシパンツとオモラシちんちん、リリィに見ててもらって」

 そう言った諭良は、いつの間にかオムツを装着していた。リリィは、

「諭良はオムツをするのですか?」

 と不思議そうに訊く。

「うん。……赤ちゃんみたいで変?」

「少しだけおかしいです。でも、面白いです」

 諭良はリリィの前に跪き、「ぎゅってして欲しい」と強請る。リリィはにっこり笑って、オムツ姿の諭良を抱きすくめた。諭良は甘えるようにリリィの乳房に顔を埋めて、「うン……」と微かに声を漏らした。リリィは慈母のように諭良の髪を撫ぜ、くぐもった水音をオムツの中でせせらがせる諭良をずっと抱きしめていた。

「昴星は……、来なくていいですか?」

 リリィがそっと訊く。「さっき昴星は、わたしの胸が好きだと言っていました。わたしも昴星のことを抱きしめるのは好きです」

 そう言われると、その乳房を独り占めする諭良のことが急激に羨ましく思え始める。諭良の隣、同じように、左の乳房の乳首に吸い付いた。横目にそれを見た諭良が、すぐ同じようにする。

「は……う、……諭良、噛んでは、ダメです……」

 口の中で、ほんのりと甘さを感じさせるリリィの乳首が先ほどより少しだけ硬くなったように思える。そうだおっぱいって気持ちいいと硬くなる……、自分の身に起きる現象を思い出すと同時に、リリィのことを自分が気持ちよくしているのだということを理解し、昴星は一層強い興奮を催した。

「リリィ、……全部出ちゃった」

 諭良が赤らんだ顔でリリィを見上げる。

「ぼくの……、ぼくだけじゃなくて、昴星のも、この間みたいに、ね……?」

 この間、一体何をしたのかもちろん昴星には知る由もない。ただリリィは頷いて、二人の頬に一度ずつキスをする。

「可愛い、諭良と昴星。わたしに素敵なところをたくさん見せてくれてどうもありがとう」

 リリィは、諭良を横たえた。内側の湿り気をどうにか保持するオムツのウエストゴムに手を入れて、ゆっくりと脱がせた。露わになるのは激しく勃起した諭良の陰茎である。リリィは「すごいたくさんのオシッコをしましたね」と驚いたように言い、オムツを諭良の足から抜き取る。

「リリィに見て欲しかったんだ……。この間も、さっきの昴星もそうだったけど、ぼく、オモラシするとすぐ勃起しちゃうし、女の子に見てもらえるの、すごく嬉しいから……」

「わたしも、見せてもらえるのは嬉しいです。諭良のおちんちんはすごく可愛いと思います」

「ふふ……、ぼくもリリィのおっぱいすごく好き。ねえ、昴星のもしてあげて?」

「はい。……昴星も、横になってください。リリィがパンツを脱がせてあげます」

 リリィの言うことはもはや昴星にとっては魅力的なことでしかない。失禁の窓から小さいながらも一杯に勃起したペニスを晒したみっともない状態をもっと見てもらえるのならば、どんなことだってしたいと思うのだ。

 それでも、

「ん、で、でも……」

 諭良ほど思い切りよくいられるわけではない。

「おれの、オシッコ、……諭良のより、くさい……」

 戸惑った昴星に、膝で立つリリィは口付ける。

「大丈夫です。オシッコは誰のものでも同じだと思います」

 そういう尺度は、リリィは持っていないらしい。いや、持っている昴星たちの方がどうかしているに決まっているのだが。

 昴星はリリィによって横たえられた。

「おちんちん、一度しまいましょう。引っかかってしまいます」

 彼女は昴星の汚れたブリーフに触れることにためらいはない様子だった。優しくブリーフの中にしまわれたことで、昴星のペニスにぐっと力が篭ったのを見てリリィは嬉しそうな微笑みを浮かべた。それから諭良にしたように、ブリーフのウエストに指を入れて、ゆっくりと脱がせて行く。自然、尻を少し持ち上げる体勢になる。

「あ……っ」

 思わず、声が出た。諭良は気にならなかったのだろうか。その体勢になれば……。

 しかし、ためらいを超えて、昴星自身思いもよらぬ言葉が溢れた。

「おれのっ、お尻の穴っ、……」

 ここまで口にしたところで、自分が口を滑らせたことを自覚し慌てて両手を口に当てる。

「はい?」

 ふるふる、首を横に振る。しかし諭良には伝わっているようだ。

「……ねえ、リリィ、ぼくのお尻の穴見て」

「お尻の穴、ですか?」

「リリィにもお尻の穴は付いてるけど、ぼくのを見たことはまだなかったよね」

 自分で太ももを抱えて、その場所を晒す。

「見える……?」

 リリィが昴星を脱がせる手を止めて、そちらに視線をやる。覗き込んで、「はい、見えます。男の子のお尻の穴も初めて見ました。……『肛門』と呼ぶんですよね?」

「うん……、ぼくの肛門。ねえリリィ、ぼく、オシッコだけじゃなくてうんちもしたくなっちゃった」

 そんなことまですんのかよ、と昴星が思わず顔を向けた。だが、リリィはそれを拒絶することはなく、

「困りましたね……、トイレまで我慢は出来ませんか?」

 と冷静に訊くばかりだ。

「うん、出来ない。オシッコいっぱいしたからいっしょに出てきちゃったみたい」

 諭良は排便の様子さえもリリィに見てもらうつもりなのだ。

「おれもっ……」

 昴星はまた、無意識に声を上げた。「おれもっ、おれもうんこっ、うんこしたい……、うんこするとこ見てほしいっ」欲に乗じて、素直過ぎる言葉が零れた。

「リリィ、洗面器にしちゃダメ? あとでちゃんと洗うから」

 リリィは少し迷ってから、「もう我慢出来ないのですね?」と確認してから、洗面器を二つ持って戻ってきた。諭良が嬉しそうに立ち上がり、「年上の女の子では、リリィだけだよ、ぼくのうんちするところ見せるの……。臭いかもしれないけど、ちゃんと見ててね」パステルピンクの洗面器を、リリィに背を向けて跨いだ。

「んふッ……」

 諭良が力むと、昴星からは真正面に見える勃起したペニスからオシッコが噴き出す。リリィは物も言わず、同時にその肛門から便が産み出される様子をじっと観察しているようだった。

 昴星はそれが羨ましい。

「はぁ……っ、見える……? ぼくのうんち……」

「はい、見ています。肛門から諭良のうんちが出ていますね」

「ん……、っと……」

 比較的スムーズに、足元の洗面器の中へと収まって行く便から漂う臭いにもリリィは決して嫌な顔はしない。それよりも、諭良のような少年が排便をするシーンを観察しているようだった。

 いつまでもぼんやりとしてはいられないのだ、と昴星は思う。諭良は全部一人でこの空間を手に入れた……、裸でプールサイドを闊歩し、リリィとの縁を作り、それをこういった行為にまで発展させるに至っている。招かれた自分が欲しいものを手に入れるために、ぼやぼやしていてはいけない。

「り……、リリィ、おれもうんこでるっ、パンツ脱がしてっ」

 太腿に引っかかったブリーフ、自分一人で下ろすことなど容易いのに、昴星は駄々っ子のようにねだった。リリィはクスッと笑って、「はい、脱がせます」と昴星の願いを叶える。諭良がふふっと笑って、「昴星は甘えん坊だね」とからかった。その言葉だってもう、昴星の心を煽るものにしかなり得ない。

「おれのっ……、ちんこも、うんこも、全部見て、リリィ、おれの、ぜんぶっ……」

 昴星は尻の下に洗面器をあてがうなり、足を開き両手を後ろに下ろし、……先日あの「秘密基地」にて一人で「おにーさん」のための撮影を行ったときにとった体勢を選ぶ。自分の恥部を全てさらけ出すためには、もうそうすることしか考えつかなかった。

「ああ……、すごい、昴星は身体が柔らかいのですね」

 リリィがそんな風に感心してくれた声が聴こえて嬉しくなる。

「昴星もぼくも、自分で自分のちんちんしゃぶれるぐらいに身体柔らかいんだよ。……すごいね昴星、全部丸見え。……リリィ、これ」

「これ……? 諭良にしたみたいにすればいいのですか?」

「うん。昴星はぼくよりもっと嬉しいから」

 二人の会話がうっすら聴こえて来るが、もうそれどころではない。

「うんこでるっ、うんこでるっ、見て見てっ……」

 思い切り力を込めると同時に、肛門がジンと熱くなった。元々太く健康的な便を出せる昴星である、肛門がギュッと拡がって、自分の汚物が其処から顔を覗かせ、ジワジワと垂れて行く重さを感じながらペニスから噴き出させたオシッコを身体に浴びる。

「すごいですね……、昴星のウンチは、諭良のウンチよりも太いです。オシッコもまた、たくさん出ています」

「ん、ひひっ、オシッコもっうんこもっ、いっぱいっ……」

「嬉しそうです」

「んんっ、うれひいっ、うんこっちんこっみられてうのうれひぃっ……」

 夢の中にいるみたいな心持ちだ。そしてこれは、幸せすぎる夢である。どれほど強く願ったって叶えようのなかった夢を、昴星は叶えているのだ。

「んぉ……ッおぉ……」

 びたん、と音を立てて、洗面器の中に昴星の便が転がった。便の太さはそのまま昴星にとって快感に繋がる。流斗や諭良のように学校のトイレで排便している最中に勃起してしまうというところにはまだ至らないものの、腹の中がスッキリした分、余計に陰嚢の辺りが重たく感じられる。

「全部出たのですか?」

 リリィの問いに、「うんっ、全部出たぁ……、ひひっ、うんこ、いっぱい……」体勢を立て直しながら、答えたところで気がついた。リリィの手にあるのは諭良のカメラだ。先ほど出て行ったときに、部屋まで取りに行ったに違いなかった。

「昴星の肛門がピンク色になって、ウンチの分だけ広がっているところが見えました」

 リリィは素朴に言い、それからじっと昴星のペニスに目をやる。「昴星の陰嚢は諭良のものより大きいです。おちんちんの大きさは諭良の方が大きいのに、不思議ですね」

 排便を撮られていたのだ。しかしそれを責める気にはもちろんならない、どころか、感謝したい気にさえなる。

「いんのう……?」

「昴星のタマタマのことだよ」

 諭良が補足する。

「うん、おれ、キンタマでかい……」

「『タマタマ』に、『キンタマ』……? やはり日本語は難しいです。同じところなのにいろいろな言葉があるのですね。……それとも昴星のは『キンタマ』で、諭良のは『タマタマ』と呼ぶのですか?」

「ううん、昴星のだってタマタマだし、ぼくのだってキンタマだよ」

「……難しいのですね」

 見たいと思う人がいる分だけ、見せなくてはいけないと使命感を抱くのである。そして何より「見せたい」という欲が沸くのである。

「ねえ、ねえ、リリィ、おれのちんこもっと撮って、おれのね、うんことちんこっ」

 膝をつき、右手を股間の短茎にあてがい、動かす。ニチャニチャと音を立てて、溢れた腺液が白く泡立つ。

「おれ、おれね、いっつもっ、こうやってちんこしてんのっ、うんこしてっきもちよくなってっ……ずっとっ、ずっと見て欲しかった、女子にぃっ、おれのはずかしいとこ全部ぜんぶっ、見て欲しかったんだぁ……」

「今も、気持ちよくなっているのですね」

「うんっ、んっ、ちんこっすっごいっきもちぃ……っ、リリィっ、おれの、おれの見てねっ、ちんこっせぇしっ、せーし出るのっ、きもちよくってせーしっせーし出るでるっうんこにだすとこぉっせーしでるっでるっでるっでるぅうっ」

 とびきりの解放感、短い茎が指を弾くように激しく脈打った。洗面器の中に横たわった自分自身の汚物にのみならず、撮影するリリィの胸へと。

「あたたかい……」

 リリィは乳房に浴びた精液にそんな感想を漏らした。「そして、……二回目なのにとても濃いです。昴星のタマタマ、……キンタマが大きいことと、関係しているように思います」

 そのまま昴星は尻餅をついた。

「あ、はっ……、いっちゃった……、女子に、ぜんぶ、見られちゃったぁ……!」

 嬉しさが、身を包む。諭良が祝福するように、「よかったね、昴星、本当によかったね……」昴星の髪を撫ぜる。昴星は快楽の大きさに戸惑うように、「ん、ひ、ぃひひ……」ひくひくと笑って頷いた、その頬に喜びの涙が伝う。

「リリィ、ぼくのももう限界だよ……、ちんちんして欲しいな。この間の……、ね?」

「はい」

 リリィがカメラを置く。諭良は昴星の傍に立ち上がり、腰を突き出す。「オシッコの匂いがすごいですね。まだお尻も綺麗にしていません。後で昴星も諭良も、洗わなければいけないと思います」

「うん、洗ってよ。でもその前に、ぼくのちんちん」

 とんとんと踵を付いて、陰茎を諭良して見せる。リリィはこっくりと頷いて、諭良のペニスを口に含む。横たわったままの昴星は、……いっつも諭良、リリィにあんな風にちんこしてもらってんだ……、とまた羨ましい気持ちを抱く。

 が、昴星はその段階で羨むのが間違いだったとすぐに知る。

 諭良のペニスをしゃぶって濡らしたリリィはそのまま自分の手のひらに唾液を垂らし、それを乳房の谷間に塗り付ける。両の肘で支えたバストへと、諭良がペニスを挟み込むような格好で、挿入する。

 すぐに、諭良の陰茎はリリィの胸に埋れてしまった。

「はあぁ……」

 諭良の唇から喜悦の声が溢れた。

「……諭良は、これが好きですね」

 リリィは腰を使い、乳房の中に埋れた諭良のペニスをその場所で扱いていた。

「んぅ……、だって、おっぱいやわらかいんだ……、あは……、ちんちん、幸せ……、すごい気持ちいい……!」

 異性の裸と言えば一つ年下の由利香のものという認識で長らく過ごした昴星である。リリィほど大きく柔らかいバストを知らないで来たし、その場所をそんな風に使うこともまた驚きだ。果たしてどれほど気持ちいいのかわからない。ただ、諭良の上げる声が答えになっている。

 二度の射精を経てもなお、昴星はリリィに強い欲を催す。

 そのことを、リリィに気付かれただろうか。

「諭良、わたし横になります」

 諭良のペニスを乳房から解放して、リリィが横たわる。諭良はリリィの腹部に跨って、自らの両手で乳房を揉みしだきながら、その谷間に自分のものを出し入れする。

「あ、ああ……、リリィ……っ」

 そんな諭良の腹部を愛撫しつつも、

「昴星」

 リリィは昴星を招いた。「わたしのおまんこを見せてあげます」

「おっ……、おま……」

「どうぞ」

 膝を立て、リリィは足を開く。大人の(と言っても自分と四つしか違わないが)性器は、由利香のそれとは全く印象が異なるものだった。

 ありていに言えば、……思ってたよりちょっとグロいな、ということになる。由利香のもこんな風になんのかな、……でもあいつまだ毛も生えてねーしな……、などと、などと。

 それでも昴星はその場所が、うっすら湿り気を帯びていることを見て取る。

 おれたちとこういうことして、このひと、濡れてるんだ……。

「ん……っ、ッンっ、んううっ」

 リリィの乳房の中で、諭良が達した。そんなことに意識も向かぬまま、昴星はリリィの性器に目を奪われているままだった。

「はあ……っ、はぁ……、やっぱり、リリィの、おっぱいでいくの、すごい、幸せだった……」

 諭良がリリィの身体から降りる。リリィが身を起こし、「諭良が喜んでくれて、わたしも嬉しいです」と微笑み、諭良の射精直後の陰茎に口付けた。

「昴星もまた、諭良と同じように幸せになってくれることを、わたしは望みます」

 膝で立ったリリィの乳房は、諭良が出したばかりのもので白く濡れていた。乳首は諭良の指で弄り回されたからだろう、勃起して、ピンク色の度合いを濃くしている。

 立ち上がった昴星のペニスはすぐにリリィの谷間に吸い込まれ、見えなくなった。

「う、あっ、……あはっ、おっぱい……っおっぱいっ……」

 リリィの手に導かれて、両側からリリィの乳房で自分を挟み、手の甲に重ねられたリリィの手によって上下に揺する。リリィの胸そのものの重さと柔らかさを手のひら全体で感じ、昴星のペニスはあっという間に快感で包まれていく。

「う、うぁあっ、いくっ、いくいくっちんこっちんこっ」

「はい。昴星も、『ちんこ』幸せになってください」

「んんっ、ちんこぉっちんこいくぅううっ」

 包容力に伴う冷静さを保って昴星を受け止めたリリィと、リリィに飲み込まれるように声を散らした昴星の二人は、その性に始まって終わりまで見事なまでに対照的だった。リリィが昴星の腰に手を回し、ゆっくりと崩れる少年の身体を抱きとめる。彼女は優しい微笑みとともに、昴星の唇にキスをして、

「よかったです」

 と囁いた。昴星の腰はいまだビクビクと、強烈な快感の良いんになぶられていた。

「リリィも昴星も幸せになったね。……ねえリリィ、こういうのっていいと思うよね? ぼくら男と女だけど、こんな風にいっしょに幸せになれる方法があるんだ」

「はい、わたしはそう思います。他の人には言えないですが、諭良と昴星の裸をこんな風に見て、いっしょに幸せになることは、とても幸せだと思います」

 身体を洗おう、と諭良がリリィを導くが、

「その前に、……わたしたちはそれを片付けなければいけません」

 彼女の視線は二人が便器代わりに用いた洗面器に向いた。

「ああ……、それもそうだね」

「わたしは平気ですが、他の人は少し苦手な匂いかもしれません」

「うん、……じゃあぼく、昴星とぼくのぶん、トイレに流してきちゃうよ」

 諭良はさっとシャワーで身体をゆすいで、洗面器を二つ抱える。「すごいにおい……」と苦笑しながら。

 再び昴星は、リリィと二人で取り残された。それが諭良の気遣いであることは判る。

「あ、あの……、ごめんな、さい」

 昴星は慌ててリリィから離れて、ぺこりと頭を下げて謝った。「その、おれの……、えっと……、恥ずかしいとこ、見て欲しいのとか、……くさい、うんことか、……おっぱい、さしてもらったり……」

 冷静さが戻ってくると、ますます恥ずかしさが募った。……とんでもねーことしちゃった、初めて会った人と。

「昴星は、楽しくなかったですか?」

 リリィは首を傾げ、不安そうに訊く。

「そ、そんなの、あの……」

「わたしは、昴星が楽しくなれたらいいと思いました」

「そ、それは、あの……、……すっげー、……楽しかった……」

 だって、願いを叶えてもらったのだ。このひとに。

「そうだとしたら、わたしは嬉しいです。昴星と諭良と、……二人がわたしの弟だったらいいのにと思わずにはいられません。こんなに可愛い弟たちがいたならば、きっとわたしは毎日のように昴星たちを可愛がるに違いありません」

 リリィは昴星の髪を優しく、優しく撫ぜる。「おにーさん」がときどきそんな風に甘ったるく撫ぜてくれる。そうされると昴星は心がふわりと軽くなって、あったかくなって、……この人がしたがることを何でもしたいと思う心を持っている。

「昴星は、わたしのことをお姉さんと思ってくれますか?」

「……え……っと、……あの、……はい」

「昴星には、ガールフレンドがいるのでしょう。そして諭良や、他の何人かの人と、とても仲良しなのだと思います。わたしはその人たちと昴星が幸せに過ごすことを望みます。でも、昴星がわたしと仲良くして、素敵な時間を過ごしてくれることを同じように望みます」

 それは、ものすごーく堅苦しい言い方ではあるけれど。

「お、……おれ、なんか、と、……仲良く、してくれる、の……?」

 昴星にとっては、この上なく魅力的な申し出である。

 目の前に、自分が触れていい異性の裸身を前にして頷けない男がいるはずがなかったし、……昴星だって男である。

 例外ではない。

「……ん、ん」

 こく、こく、頷いたときに、リリィが見せてくれた笑顔は男が好きな昴星の心をとろかせるには十分過ぎた。

「昴星の身体を洗ってあげましょう」

 リリィは自分の身体がべたべたするはずなのに、そう言って昴星をシャワーの前に立たせた。昴星が主に下半身を中心とした汚れを丹念に洗い流されていく間、昴星はまたあっけなく勃起した。だってリリィはずっと裸である。リリィは昴星のペニスの表情の変化を笑わない。いや、それを見る顔は笑ってはいるけれど、ごく優しいものだ。

「昴星は諭良と、そして昴星の何人かの仲良しの人たちと、普段どんなことをして遊んでいるのですか?」

「どんなって……」

 昴星はリリィの身体を洗いながら、……どうしても、一番汚してしまったバストが中心となり、息を乱しながら、そんなリリィの問いに答える。

「……その……、さっき、諭良が言ってたみたいなことだよ。だから……、オシッコ、したりとか、オモラシしたり……、あと、お互いの、ちんこ、しゃぶったり……、セックス……、したりとか……」

「男の子同士でセックスをするときには、肛門を使うのですね? でも、痛くはないのですか?」

「……ん。その……、おれ、の、うんこ……、太かっただろ? だからうんこしたあとは、お尻の穴やらかくなってて、だから、でかいちんこでも、ちゃんと入る……」

「そうなのですか……。それは気持ちがいいことですか?」

「……ん」

 初めて才斗と繋がろうとした時には「ギャー!」と悲鳴を上げて泣いた。こんなに痛いものだとは思っていなかったのだ。しかし持ち前の健康的な便によって広げたあとは苦もなく収められることを学習した。そして今では「おにーさん」の逞しいペニスだって身に収められるし、それは昴星にとってかけがえのない幸せである。

「昴星は、ガールフレンドともセックスをしているのですね?」

「……ん」

 由利香には、……当たり前のことではあるけれど、ちんこ、付いてない。だから彼女とセックスをするとなれば、昴星が彼女の膣なり肛門なりに挿入する形となる。

「ガールフレンドの前では、オモラシをすることはないのですか?」

「……したこと、あるけど……、やっぱり女子の前では恥ずかしいし……」

「でも、昴星は恥ずかしいことが気持ちいいのですよね?」

 そうやって改まって訊かれると、やはり気持ちいいより恥ずかしいことの方が強いような気持ちになる。何とも身勝手な神経である。

「なんていうか……、あのな、おれの……、ちんこ、見たいって言ってもらうの、おんなじ男だったら、……見せてあげたいって気持ちになる。けど女子が相手だと、見られたいんだけど、恥ずかしいっていうか……、でも、その、……恥ずかしいの、おれ、好きで……」

「では、昴星の『ちんこ』をわたしにもっと見せてください」

 リリィに、また改まって言われた。

「……い、いいけどー……」

 リリィを洗っているうちに、昴星の包皮の先には泡が白く付いていた。それが小さな陰茎に似合いのアクセサリーのようである、と評価するのは「おにーさん」であり、昴星自身はそれさえも恥ずかしく思える。リリィは不思議そうに、

「『勃起』は終わってしまいましたか? ほんのついさっきまで上を向いていたのに、今は下を向いています」

 と言う。

「お、男のここは、キンチョーするとちっちゃくなるようにできてんの」

「おお、そうなのですか」

 リリィが泡を流して、顔を寄せて見る。由利香以外の異性にこんな間近で観察されることなど、……しかもリリィは裸である。

「わたしは、昴星の『ちんこ』が可愛いと思います」

「かわいい……、どーせちっちゃいからだろ……」

「はい。でも諭良のも可愛いと思います。わたしにとって男の子のおちんちんはみんな可愛く、そして幸せにしてあげるべきものであると思います。昴星のおちんちんを、わたしはこうして見ているのだから、昴星のおちんちんを可愛がって幸せにしてあげなければいけません」

 リリィが、指を当てる。その短い茎を指で押さえては離し、また押さえては離す。そのたびに昴星の陰茎はぷるぷると揺れた。

「とても興味深いです。わたしにはないものなので」

 彼女がそう言うのが、性欲によるものなのかそれとも単純な興味に基づくものなのか、昴星には判然としない。

 しかし、見られて嬉しいことに変わりはない。それがどんな理由であっても。

「……男の、ちんこの……、ぷるぷるしてんの、見て楽しい……?」

「はい、とても楽しいと思います。なぜなら、わたしの身体にはこんな風にリズミカルに弾むものは付いていないからです」

 猫の首輪についた鈴のように、リリィは飽かずに昴星のペニスを揺らしている。どうやら諭良はまだ、見せていないらしいと昴星は悟る。

「リリィ、撮って」

 昴星は、強請った。

「おれのちんこ……、プルプルしてるとこ、撮って。おれ、撮られんの好きだから」

 諭良はカメラを置いて行った。防水の、とても高価なカメラだ。昴星はそれをリリィに手渡す。

 勃起は、まだしていない。先程から収まったままだ。それは昴星にとっては好都合である。あれをするには、勃起していないほうが見栄えがいい。リリィを楽しませることだってきっと出来るはずだ。

 リリィは昴星が求めるままにカメラを向ける。リリィにそのダンスを、諭良より先に披露して、彼女を喜ばせることが昴星にとっても誇りのように思われた。

「ひひ……、おれの、ちんこ……、撮っててくれよな……、きっと、リリィ、面白いから……」

 腰を、ぴくん、ぴくんと振って見せる。伴って短い陰茎がぷるんぷるんと揺れる。リリィは小さく感嘆の声を上げた。

 元はと言えば「おにーさん」の目を楽しませるための「ダンス」である。しかし、「おにーさん」だけしか楽しんではいけないという法律はない。幸せはみんなで共有されるべきだ、それはリリィだって例外ではない。

「すごいですね昴星。おちんちんが震えています」

「ん、ひひ、おれ、ちんこちっちゃいから、いっぱいプルプルすんだ……、諭良のは、皮がね、長くって、足とか、お腹の、下とか、当たって、それもおもしろいけど……」

 滑稽なダンスであろうとは思う。実際、才斗はそれを見てもバカにするだけで喜んではくれない。けれどこうして楽しんでくれる人がいるという事実は、あまり自分の体型に自信のなく、ペニスの小ささも自覚している昴星にとってはおおいに嬉しく、誇らしいことなのだった。

「なー、リリィは、……諭良のちんこ、どんなこと、したの?」

 ダンスを終えて、鏡の前に尻を下ろす。カメラを下ろしかけたリリィに、「あ、撮っててよ、……ちんこ、いっぱい撮って欲しい」と昴星が強請ったから、リリィは頷いてその足の間にまたカメラを向ける。昴星はリリィに見せるように、その小さなペニスを摘まんで引っ張って見せたり、皮を捲って見せたり。そうこうしているうちに、どんどん力が篭り、勃起したところまで披露することとなる。

「諭良は、初め、わたしにおちんちんを触って欲しいと言いました。そしておちんちんが勃起した後は、おちんちんを舐めて欲しいと言いました。おちんちんを舐めるのは初めてでしたが、わたしは嫌だとは思いませんでした。諭良のおちんちんが喜んでいるということが判ったからです」

「そう、なんだ……」

「そして諭良は、オシッコをするところを見て欲しいと言って、パンツを穿きました。わたしは驚きましたが、諭良は、たくさんオシッコが出来たら、褒めて欲しいと言いました。諭良はとてもたくさんのオシッコを、パンツを穿いたままして見せてくれたので、わたしは約束通り諭良のおちんちんをたくさん褒めてあげました」

 たくさんのオシッコ、という言い回しが昴星には新鮮に聴こえた。

「じゃ、じゃあ……、おれもたくさんオシッコしたら、ほめてもらえんの……?」

「それは、はい。昴星はまたオシッコがしたくなりましたか?」

「ん、うん、したい……」

「わかりました。ではどうぞ」

 リリィが身をずらしたことで、諭良が持ってきたおむつが目に入る。

「おれも、さっきの諭良みたいなのがいい……」

 諭良はオモラシをするとき、いつでも例外なく幸せそうにしている。恐らくそれは昴星もまた同じなのだが、……リリィに身を委ねて失禁するさまを見て、昴星が羨ましく思ったのは事実である。

「わかりました。昴星はさきほどの諭良のようにオモラシがしたいのですね」

 リリィは優しく、甘かった。これほどまでに昴星を甘やかすのは「おにーさん」とリリィだけである。もう六年生、春からは制服を着て学校に通うようになるというのに、いまだ甘えたいと思う。それは文字通り、昴星にとって甘美な体験に他ならなかった。

「昴星は可愛いですね、本当に可愛いとわたしは思います」

 もうそういうものの世話にならなくてもいいはずの年代でありながら、実際に泊まりのときにはそれが必要になるし、装着すること自体にも楽しみを見出す昴星だ。濡れていい匂いのするリリィに抱きしめられ、その乳房の柔らかさを額に鼻に頬に感じながら、うっとりとした気持ちになる。顔を動かして乳首に吸い付く。ミルクなど出てくるはずもないのに、なぜだかそこが甘く感じられる、……異性の身体の神秘に、すっかり昴星は浸り切っていた。

 強張っていた下半身から力を抜く。

 その弛緩は、リリィにも伝わったのだろう。彼女は温かい手のひらで繰り返し昴星の髪を撫ぜてくれた。おむつの中を自分の尿で溢れさせる悦びと、リリィの甘やかしてくれる悦びと、二つ重なって、夢の中にいるみたいに思える。

「リリィ……、オシッコ、ぜんぶ出たぁ……」

 声が少し眠たいものになった。リリィは昴星の額にキスをして、「すっきりしましたか?」と訊く。

「んん、もうちょっと、こうしてたい……。リリィ、おれのちんこ触って……」

 リリィの乳首に吸い付き、ちゅぷちゅぷと音を立てて甘えながら昴星が求めた愛撫に、リリィは応える。重たく水を含んだおむつの上から完全に勃起しきってコリコリとした昴星のペニスを探り当てて、揉みしだくように刺激する。

「昴星は、赤ちゃんみたいです。おっぱいがそんなに好きですか?」

「ん、んん……」

「でも、おちんちんはちゃんと男の子ですね。赤ちゃんと男の子の両方が昴星の中にいるみたいです。とても可愛いですね……」

 女性的な円さを帯びたリリィの、四角い言葉が昴星の中で軋む。おむつ越しの愛撫に甘え切りながら、口の中の乳首を執拗に吸い、空いた方は手のひらで存分に揉んで柔らかさを堪能する。確かにそれはリリィの言うとおり、赤子と男の両方の悦びを同時に味わうやり方だったろうし、内と外の両方の希求を満たすものでもあった。

「んっ、ふっ、んっんっ、んんっ、んーっ! ……ぷぁっ、は……っ、はぁ……」

 ずぶ濡れのおむつの中で、その手のひらに脈動を届けた昴星を両手で抱きしめて、

「昴星」

 リリィは嬉しそうに囁く。

「もし昴星が可能なら、わたしは今日だけでなくて、これからももっとたくさん昴星のことを可愛がってあげたいと思います。わたしは昴星の姉として、たくさん昴星の気持ちよくなるところを見たいと望みます」

「あ……、ん、……おれもぉ、おれも、リリィも、こうゆうこと、したい……、リリィにいっぱい、ちんこ、かわいがってもらうの、うれしいよ……」

 才斗と「おにーさん」は「恋人」と呼ぶ。では同じ行為をする流斗に諭良に由利香に、このリリィは何と呼ぶ?

 当然決まっている。昴星にとって大切な「友達」だ。

 諭良が、……昴星がさみしくないようにと贈る、諭良と同じくらいに大切な、「友達」なのだ。

「とてもたくさん、たくさんのオシッコと、精液を出しましたね。気持ちよくなってくれたのが判って、とても幸せです」

 横たえられて、リリィに恥ずかしいおむつの中を覗かれて、昴星は喜悦に震え、「ひひ……」と笑ったところで、

「ただいま。昴星のうんちなかなか流れなくって時間かかっちゃった」

 諭良が戻ってきた。リリィに可愛がられた昴星を妬むそぶりも見せず、

「ねえリリィ、ぼくらにリリィのしっこするところを見せてよ」

 と強請り、昴星の顔を覗き込む。「昴星も見たいよね?」

「ん、うん、見たい」

「わたしの、オシッコをするところ」

 リリィはきょとんと目を丸くしたが、すぐに「わかりました」と承諾した。

「……わたしはここで、するべきですか? それともトイレに行った方がいいでしょうか?」

「ここでいいんじゃない? ほら、ぼくも昴星もここでオシッコしたし、……昴星なんて二回もしちゃったしね」

 諭良に抱き起こされたときには、リリィはきょろきょろと辺りを見回して、「では、ここでします。でも、わたしがたくさんオシッコをしたら、二人からも褒めて欲しいと思います」

 うん、と諭良は頷く。「いいよ、褒めてあげる。昴星もいいよね?」

 ……年上の女の人を「褒める」と言われても、具体的にはどうすればいいのか判らない。とはいえうなずくのだ。だって、昴星もリリィの放尿を見たいと思う気持ちを強く抱いている。

「では、ここでします」

 リリィがためらいがちに、タイルの上にしゃがんだ。秘されているべき女性の局所が、少年の前に露わにされる。やっぱり、「……すっげー……」と気圧された昴星は、さっきおむつの中で射精したばかりの場所を洗い流されてもいないうちに、またそこが硬くなる。

「いいよ、リリィ。オシッコして」

「はい……」

 さすがに人前での放尿はリリィにとっても恥ずかしく思えることらしく、頬が染まっている。しかし彼女は足の間を隠そうとはせず、ゆっくりと息を吐き出しながら、身体の中に溜まっていた温水をそこから噴き出させた。

 何度か見たことのある由利香のそれよりも勢いが強い、量も「たくさん」だ。

「すごい、いっぱい出るね。リリィもガマンしてたんだね」

「はい、……オシッコを、我慢していました」

「ぼくと昴星の前ではガマンなんかしちゃダメだよ? だってぼくたちはガマンしないって決めてるんだから。ね?」

 同意を求められても昴星はただ口を開けて、リリィの放尿に見惚れているばかりだ。

 勢いの長く続いた放尿も、終わりを告げた。そこに滴る液体が、昴星の目には美しいものと映る。

「は……、あう」

 異性の身体でも、大人であっても、放尿を終えた後には身体に震えが走るのだ。そんなことを学習する。

 無意識のうちに弄っていた右手を、諭良が止める。

「いい子だよ、リリィ。しっこしてるリリィもすごく可愛いと思った。だからほら、昴星はまた勃起してる」

「……昴星は、わたしのオシッコするところなんて見て、勃起するのですか?」

 シャワーの湯で下半身とタイルの水たまりを洗い流すリリィは不思議そうな顔をしていた。

「だって昴星はしっこが大好きだからね、するのも見るのも。もちろんぼくもそうだよ。リリィへのご褒美に、ぼくたちのちんちん好きにしていいよ。ね、昴星?」

「お、あ、う、うんっ……」

 リリィは大きさも形も違えどキンと硬くなった二本のペニスを見比べて、

「わかりました。では、昴星も諭良も、わたしにおちんちんを舐めさせてください。二人のおちんちんがわたしは好きです」

 諭良に促されて、リリィの前に並んで立つ。二本の幼い茎の先端を接するほど近付けたところで、リリィの両手がそれぞれのペニスをいとおしげに摘まんだ。

「昴星のおちんちんは、さっきのオシッコのにおいがします」

「おあ、あ、洗ってからでいいよっ」

「いいえ、昴星は恥ずかしいのが好きなのでしょう? オシッコの臭いおちんちんのままでいて欲しいです。そして、諭良のおちんちんもオシッコの臭いがしますね?」

「ふふ」

 諭良は密やかに微笑んで、微かに恥ずかしそうな表情を浮かべた。「だって、……さっきうんち流して洗面器洗ってたら、したくなっちゃったんだ。でも今度はちゃんとトイレでしたんだよ? だからぼくのちんちんのことも褒めて」

「はい。諭良のおちんちんはおりこうさんです。……二人はおちんちんの大きさが違うだけでなく、タマタマの大きさも違いますね。昴星の方が大きいです」

「そ、それは……」

 するり、撫ぜられてぞくりと震えた。陰嚢もまた、昴星の性感帯の一つである。

「リリィ、昴星のばっかりじゃなくてぼくのタマタマもして」

 諭良が強請り、リリィが微笑みとともに応じる。

「ぼくと、昴星の、……ちんちん、いっしょに気持ちよくして。そうしたらリリィはぼくたち二人の精液ひとりじめ出来るんだ」

「はい。嬉しいです」

 リリィは両の指で昴星と諭良の皮をめくる。あらわになったごく脆弱な色の亀頭を重ね、紅い舌が這うところを昴星は見た。

「っん」

「ふあ……っ」

 咥えこまれるほど強い快感ではない。しかし、オモラシをした自分の亀頭を舐められているということを、昴星は強く感じた。

「昴星の方がしょっぱいです。さっきオモラシをしたからですね。昴星のおちんちんはわたしに抱っこされながらオモラシをして、たくさんの精液をオムツの中で出しました。だから昴星のおちんちんは我慢が出来ない赤ちゃんのおちんちんです」

「あ、赤ちゃんのっ……」

「そして諭良のおちんちんはきちんとオシッコを我慢して、おトイレでしたおりこうさんのおちんちんですね。でも二人のおちんちんのどちらも、とても可愛いとわたしは思います」

 正しすぎる日本語で形容されると、なおさら自分の股間にあるものが恥ずべきものであるかに思われてくる。膀胱と睾丸の機能そのものを嗤われているような、得難い快楽に膝が震える。しかしリリィの舌が重点的に舐めるせいか、

「り、リリィっ、リリィっ、ちんちんっ、ちんちんきもちぃ……! きもちぃよぉっ」

 透き通った高い声を上げて快感を訴える。

「お、おれのもぉっ、おれのちんこもっ」

「昴星のおちんちんは、オシッコだけでなく精液も我慢出来ないのですね」

「んっ、ガマンできないっ、おれの赤ちゃんちんこっ、ちんこしてよぉっ、おっ!」

 哀願に、リリィはそれ以上の意地悪はしなかった。二本のペニスを一口に収められた瞬間に、

「んあっ、あっ、あかちゃんっ、赤ちゃんちんこっちんっちんこいくっいきゅっ、い、ひっ、いっ」

「あ、あはぁっ、あっ……ああんっ」

 好き勝手に声を散らし、リリィの口中へと精液を叩きつけた。脈動の収まらないペニスを、リリィは口から零さないようにと強く吸い上げる。

「ひぎゅっ」

「んはあぁ!」

 途端に、二つの尿道口から薄い尿が噴き出すに至っては、リリィも思わず口を外した。

「あ、あっ……おひっこ……、おひっこもれひゃった……」

「ん、ん……、んっ、しっこ……、ふふ、ぼくも、赤ちゃんのちんちんだね……、ぼくも、昴星も、リリィがしてくれると、赤ちゃんのちんちんになっちゃう……」

 ペニスの形状に個性があるのは、人間性そのものの違いと比例することはないなりに、人間も十人十色、少年の性欲のベクトルやサイズ、そしてそもそもその質もまたそれぞれ異なるのだということを、リリィに「教える」ことになっただろう。ただ彼女は昴星と諭良を平等に扱うと決めたように、二人を座らせるとそれぞれの頬に二度ずつキスをして、また改めて抱き締める。

「わたしは嬉しく思います、諭良に昴星、二人とこんな時間を過ごせることを。そしてこういう時間がこれから何度も繰り返し生じることを希望します」

 リリィはそう言って、昴星にとって最も好ましい形の関係を定義付けた。初めて知る、「女性」の蕩けるように甘美な身体には、まだ知らない悦びが詰まっているように思われてならない。頭から蜂蜜の中に突っ込んだような心持ちで、五時の鐘が鳴るまで昴星はリリィの腕の中にいた。

 

 

 

 

 送って行くよと諭良は言った。どうせ買い物に行く用事もあるし、公園でお兄さんに見せるためのムービーを撮りたいから、と。

「どうかな」

 諭良は、そう訊いた。

「ぼくは、昴星を少しでも寂しがらせないで済むかな」

 腰の辺りがだるい。昴星はガードレールに尻を乗せて、じっと友達の顔を見る。笑顔である。しかし、少しの憂いがそこにあることを見逃せて「友達」で居られるはずもない。

「……おまえいなくなんの、どんなに色々あったって寂しくねーわけねーじゃん」

 唇を尖らせて、昴星は応えた。それが諭良の思いに報いることの出来ない答えだということは自覚した上で、それでも嘘をつくのは嫌だから。

「そう……、リリィとの時間は、昴星、あんまり楽しくない……?」

 ううん、と首を振る。

「そりゃ、楽しかったよ。楽しかったし、……だってあんなんおまえ、見てたろ、おれあんななってたんだぞ」

「まあ……、うん」

 でも、それとこれとはやっぱり別なのだ。諭良の努力を無駄だと思うのではない、決してない。

「昴星は彼女のこと、好きになれない?」

 頭がいいはずなのに、意外とわかんねーのな。昴星は手を伸ばして諭良の黒髪を撫ぜた。昴星は生まれつき明るい色の髪であり、半分は日本人ではないのに青ささえ感じさせる黒髪をした諭良が、少し羨ましく思われる。

「好きになったよ。才斗やおにーさんとはちょっと違うけど、『好き』は『好き』だ。でもって、おまえのことだっておれは好きだから、……なんて言やいいのかな、その、……おまえが何をくれたって、おまえそのものじゃねーから、おまえがいなくなんの寂しくならないはずがねーじゃん。おまえのこと『好き』って思う気持ちがさ、他の誰か『好き』って思ったからなくなるわけじゃねーと思うし、……いやもちろんリリィに会わせてくれたり、その……、外でああいうことしたりとか、そういうの、……ありがとうっておもうけど、……んーと、あんまうまく言えねーけど」

 ややもどかしい気持ち、じれったさ。自分の中にあるのはごく分かりやすい気持ちだということはわかっているのに、それをどう言葉にすれば分かりやすく伝わるかが判らない。ただ事実として、リリィと会えたことは昴星にとって貴重な体験だった。彼女が見せてくれた反応はささやかなものではあったけれど、自分が「おにーさん」や才斗に抱かれるとき、あんな風に可愛かったならいいのになと憧れを抱かしめるような……。

 なんだか諭良は、心配そうに見えた。

「……おまえ、ちんこ、まだ出んの? オシッコとかせーしとか……」

「え……? あ、うん、まだ……」

 すぐそばを、犬を連れてジョギングするおばさんが通り抜けたから諭良は数秒口を噤んだ。「……出せる。しっこも、ほら、もう一時間ぐらいしてないし、いまも行きたい」

「ふうん……」

 ちろり、とその股間を見た。細い諭良の足は、細いジーンズで包まれている。黒いコートを着ていて、長身とあいまってとてもスマートだ。誰が見たって「美少年」であり、昴星の視線の奥にあるペニスを辱められることを悦びと思うような変態だとは思うまい。

「……どーせ撮るんならさ、おれが撮ってやろーか」

「え……?」

「その……、ほら、おれ、ちんこ好きだし。女の人とすんの楽しかったし、外でフルチンに」

 また、人が通る。数秒黙る、もういいやと、諭良の腕を掴んで歩き出す。

 公園に向かって。

「……なんのも、すげー興奮したけど、でも、今日まだおまえのちんこしゃぶってねーし、うんこしたけどちんこもらってねーし、……だから」

 ずいずい、歩く昴星の足を導くように、いいタイミングで信号が青に変わった。

「昴星」

 公園への近道、長い上り坂の途中で諭良が止まった。そのまま、掴んでいた腕を逆に掴まれて、

「大好きだよ」

 と諭良がキスをする。思わず紅くなって、……誰かに見られてなかったが、周囲を見回すが、暮れ行く坂に二人きり。

「ん。おれもおまえ好きだぞ。だから行くぞ」

 ぶっきらぼうにそう言って、またずんずんと歩き出す。


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