心継ぐ者のために

 友達、という言葉がある。

 昴星も六年間の小学生生活において、たくさんの友達を作ってきた。元々は才斗だって単に「幼馴染の」という言葉を加える必要はあるにせよ「友達」であった。転校してしまった友達もいるし、何も男子の同級生にとどまらず、女子とでも特にてらうことなく話が出来る。……まあ、大概の女子からは「鮒原マジうるさい!」ぐらいのことを言われつつ、でも何となく憎まれず可愛がられているのであるが。

 ともあれ、友達の多い昴星である。それほど性格がいい方ではないが友達のことは大事にするし、本人が自覚している以上に昴星は男らしく爽やかで、何より明るい少年であるため、昴星の周りには自然と友達の輪が広がっていく。

 ただ、昴星の中でその「友達」に入る小学校生活最後の存在である相手は、ちょっと扱いに困る。諭良=ファン・デル=エルレンバルト。

 恋人、ではない。その名で呼べるところには才斗と「おにーさん」がいる、……さすがにもう定員だろうなーとは思うのだ。しかるに友達、と他の連中と同列に扱っていいものかどうか、とも思うのである。

 そもそも昴星が「友達」と定義する子供たちのほとんどは、「鮒原昴星が小学二年生のときに教室でオモラシをしたことを知っていて、でも今は忘れたふりをしていてくれる」相手だ。他方、特別なポジションにいる人たち(「恋人」である才斗と青年、そして「弟」である流斗、「妹」と呼べなくもない由利香)は全員、昴星が未だにオネショが治らないばかりか、失禁という行為に性的興奮を催し、男の恋人の陰茎をしゃぶるのが大好きだということまで知っている。抱えた秘密の一つでさえ、昴星は「友達」には話せないのである。

 ……では、昴星の秘密を全部知っていて、同じ人のことが好きで、二人きりでも秘密の遊びに興ずる諭良のことを、何と呼べばいいのか。「友達」と「恋人」の間に言葉を見つけられないまま、既にたくさんの秘密を昴星は諭良と塗り重ねてきた。

「へえ……」

「へえってなんだよ」

「いや、……意外と細かいこと気にするんだね」

「意外とって……、おれだっていろいろ考えるんだぞ、センサイなんだぞ」

 才斗が聴いたら「繊細なやつのパンツがあんな黄色いはずないだろ」とツッコミを入れて来るはずだ。その才斗はクラブ活動に参加していて、昴星と諭良は自然、二人で帰ることになる。というか、この後は当然どちらかの家に行って遊ぶ予定なのだ。

「ぼくも、やっとこのところ昴星たちの他にも話せる人が出来てきたよ」

「っつーか、おまえ元々女子からは超モテてたじゃん」

 諭良は美しい顔で、首を傾げる。「……あ、そう言えば昴星は女子にモテてるんだね。みんなこっそり、『鮒原可愛い』って言ってたよ?」

「ど、どうでもいーし! っつーか女子から『可愛い』なんて言われたって嬉しくねーし!」

 女子、昴星にとっては基本「どうでもいい」存在の集合体である。……まあ、由利香の、即ち女子の裸を見てドキドキすることはあるし、由利香ともそういうことをしたけれど、でもあいつがちょっと特別なだけであって。

 諭良も、そうじゃないのか。

 彼は少し考えて、

「ぼくは……、ぼくにとって女の子って、お兄さんや才斗や昴星とはまた違った角度でぼくのことを喜ばせてくれる人たち……、かな」

 そう答えた。

「違った角度って?」

 分かれ道にきた。右へ行けば諭良の家、左に行けば昴星の家で、真っ直ぐ行けば「おにーさん」の家と、城址公園がある。もちろん平日の昼間であるから、「おにーさん」はいない。

「うーん……、まあ、……ほら、ぼくって、その、露出狂っていうか、……そういうところ、あるでしょう?」

 ほのかに恥じらいを覚えたように諭良は言う。

「そうゆーとこっていうか、まるっきりそうじゃん……」

 諭良が前の学校の頃、一人で山の中を全裸で歩くという、……流斗のような過激な露出をしていたということは聴いた。「おにーさん」と諭良が知り合ったのも、その露出で彼を誘い出したようなものだ。

 昴星には、そういう勇気はない。

「うん……、まあそうなんだけど……。と、とにかくね、その、……一人で露出するのでも、十分楽しいんだけど、でもね、女子に見られながらって考えると、もっと興奮するから……」

 こういうの、「本物」って言うんだと昴星は思う。

 流斗もそうだ。自分の恥ずかしいところを見られるのが大好き。だから以前才斗の家族に連れられて海に行ったときには全裸で砂浜を闊歩したし、学校でも平気でフルチンになる。女子と親しくなって自分の陰茎を見せるようなこともしているという。

 結局二人は左右どちらにも曲がらず、城址公園方面へと直進した。

「すげーよな……、おまえら」

 昴星も、それに巻き込まれてしまったことが何度かある。「あいつの知り合いの女子にさ、……おれ、あいつと同級生ってことにして、ちんことか、うんこするとことか、めっちゃ見られたし……」

「初耳だよ。そんなことあったの?」

「うん……、あいつの知り合いの女子の中の一人がさ、おれらの学校から転校した女子でさ、……バレたかと思って、死にそうになった」

 思い出すだけで胃がきゅっとなる。

「ど……、どんなこと、したの……?」

「だからー……、スカイプでさ、おれは顔隠して、……その、オムツして、オモラシして……、あと、うんこして、射精……、って、なんで勃起してんだよ!」

 諭良はズボンの前を抑えて真っ赤になる。「だ、だって……、そんなすごいこと……」どうやら自分の身に重ねて興奮してしまったらしい。

「ぼくだったら、もう後先考えないで顔も見せちゃってたかも……。学校でみんなに知られちゃってもいいからって……」

 二人の足は、城址公園の敷地に入った。鬱蒼と茂った森で、子供も大人も滅多に寄り付かない。それゆえに昴星たちにとっては「秘密基地」だし、「おにーさん」ともここで遊ぶことはある。

 人がいつ来るかわからない。とはいえ、見つからないように安全に関しては慎重に慎重を重ねて。

「昴星は露出って、興味ないの……?」

 そう問われると、「ねーよ」とはっきり否定できない部分もあることを、昴星は自覚している。ついこの間だって、ここでひどい映像を作り出した昴星であるわけで。

「……おにーさんといっしょのとき、何度か、したけど……」

 この公園で、あるいは少し離れた場所で、裸になって、恋人に撮影してもらう。そういうとき自分が普段より興奮してしまう傾向があることは、昴星自身も認めざるを得ない。

 黙りこくった昴星に、

「ぼくは、……恥ずかしいところ見られるのすごく興奮するから、お兄さんがときどき意地悪してくれるの、すごく嬉しいんだ。この間も、……おうちからこの公園、裸にコート一枚着ただけで往復したって言ったでしょ? あのとき、本当に嬉しかったんだ……」

 似たようなことを、昴星もした。

 諭良のように「嬉しかった」と言えるかどうかは判らない。ただ怖くて、恥ずかしくて、……そればっかりだった。

 しかし、昴星が「誰かに見られる」シチュエーションに心を燃え上がらせてしまうこともまた事実である。「流みてーなのは無理」と思いはすれど、……でも。

「ねえ、……昴星?」

 諭良が林道の半ばで立ち止まって振り返った。「今日、露出、……してみる?」

 言葉が聴き取れなかったわけではない。

 ただ、リアクションが取れなかったのだ。

「多分だけど、……違ったらごめんね? でも、昴星も、……お兄さんに撮ってもらうの好きでしょう? その、撮られたものがお兄さん以外の誰かに、……例えばクラスの女子に見られちゃったらどうしようって思って、……それはすごく怖い、でも、どこかで、……普通にするときより、ドキドキするんじゃない?」

「……そ、それは……」

「でも、流斗にそれは話せない。あの子はぼくよりもずっと強いし、すごい。おちんちん出したまま人のたくさんいるところ歩いても平気だし、……電車の中でオモラシするのだって怖くない」

 それは。

「でも、……ぼくは露出はするけど、昴星の気持ちもわかるんだ。昴星のガマンできる範囲で、でもちゃんとね、気持ちよくなれるような方法を、教えてあげられる、……ぼくだったら、ね」

 諭良は優しく美しい微笑みを昴星に向けて、長ズボンの前に手を当てる。

 社会の窓を下ろして、僅かに覗けたブリーフの窓を開けると、中から白く、皮の余りのせいで細長い印象のペニスを引っ張り出した。

 勃起している。

「おっ……」

「昴星の話聴いてたら……、久し振りにこうやって、露出、してみたくなっちゃった……」

 諭良は頬を染めて、下半身の欲の証を晒したまま歩き出す。

「だ、誰か来たらどうすんだよっ……」

 慌ててその後ろを追った昴星に、「どうしよう?」諭良は静かに言う。

「……ね。誰かにこんなことしてるところ見られたらおしまいだよ。でも、……そういうこと考えると、どんどんちんちん熱くなってくるんだ……、ぼくがこんなヘンタイだって、知られたらどうしようって……」

 言いながら、……意図的にではないだろう、勃起がピクピク震えた。

「昴星にはこんなの無理かな……? でも昴星だってお兄さんと一緒にさ、すっぽんぽんでこの公園を『お散歩』したんだよね?」

 昴星はまた答えられなくなる。諭良という、普段は昴星がいくらだって左右出来る相手が、こと「露出」というフィールドに限っては、昴星のはるか先を行くのだと思い知らされる。

「だって……、だって、あんときは夜だったし……!」

「今だって誰もいないよ?」

 諭良は勢い付いたようにズボンのベルトを外して、ブリーフと一緒くたに太腿まで下ろした。グレーのブリーフの穴からそのペニスが抜けて、ぶるんと弾んだ拍子に長い余り皮から腺液が飛び散る。

「……ふふ、ちんちん、もうヌルヌルになっちゃった……。ここで射精しちゃいたいくらい……」

 露出なんて、ヘンタイのすることだ……、それぐらいの判断は昴星にも付くし、その理解はそのまま自分へ翻ってくる。……六年生でオモラシなんて……。

「でも、ぼくはどうせなら昴星といっしょに遊びたいな」

 諭良は言う。「昴星は、こんな明るいところでちんちん出すのは怖いんだよね? だったらさ、初めはトイレでしてみようよ。……ぼくだって初めは怖かったから、家のベランダとかでこっそりちんちん出すだけだったよ」

 諭良はズボンを穿き直し、社会の窓を閉めて昴星に手を差し伸べる。

「行こう。……ぼくに教えられること、全部教えてあげる」

 

 

 

 

 城址公園は昴星の知る限り、いつもほとんど人がいない。いるとしても、遊具のある林の隙間に親子連れが少しいるかどうか。あとは散歩の老人をたまに見かけるぐらい。アップダウンの激しい地形で死角も多く、だから「秘密基地」の場所選びにも困らない。これまで昴星が才斗や「おにーさん」と茂みの中で遊んで、「見つかるかも」と危惧を抱いたことはほとんどないのだった。

「昴星はお兄さんと一緒にすっぽんぽんで『お散歩』したときはどんな風にしたの?」

 トイレに行こう、と言ったのに、トイレを眺める四阿に座ってカバンを置いた諭良はマイペースに訊く。

「どんなって……、だから、その……、おにーさんが、おれがフルチンになって公園で遊んでるとこ見たいって言うからさ……」

「してあげたんだ?」

 こく、と唇を尖らせて頷く。しかしそもそもそんな表情を浮かべる権利自体、昴星にあるかははなはだ疑問だ。

 だって昴星は「おにーさん」が喜ぶと思えばそれだけで「やらなきゃ」という使命感に駆られる。

「そこの、トイレで……、フルチンなって、それから、あのジャングルジムとかで、写真撮って……」

「うん、それから?」

「そっからは……、あんま覚えてねーけど、たぶん、……あっちのほう、展望台まで歩いて、……展望台のとこで、おにーさんとセックスした……」

「へえ……」

 感心したように諭良は息を漏らす。「昴星も、勇気あるんだね……」

「ねーよ! ……でも、おにーさんそれで嬉しいと思ったから……。それにさ、おにーさんいるからさ、イザとなったらおにーさんが護ってくれるって思ってたのもあるし……」

 自分の肛門への侵入を許した相手であるから、それぐらいの信頼は当然持っている。だいたい、恋人だし。

 喜んでくれる顔が見たいと思う、それだけでも、怖くてもやってみようという気持ちにさせられるのだ。……おまえだっておにーさんの恋人なんだから、そんくらいわかんだろ。

「……ぼくは一人のとき、誰かに守ってもらわなくても露出してたよ。流斗と一緒のときも、……流斗に守ってもらおうなんて思ってないしね。それぐらい面白いことだってわかってるからさ」

 諭良は先輩ヅラして言う。何だか、ちょっぴり悔しい気がする。流斗にはかなわないにしても自分だってある程度はなんだって出来るという気でいたから。……張り合うようなことじゃないとわかってはいるけれど。

「昴星は、これまで外ですっぽんぽんになったときどう思った?」

 諭良は包み込むように訊く。

「……どう、って?」

「うん。恥ずかしいとか怖いとかだけ? お兄さんがっていう気持ちも一旦なくして考えてさ、……すっきりしたような気持ちになったことはない?」

 昴星は、……思い至る。

 例えば露天風呂の解放感。普段は絶対に裸にならないような場所で、全てを脱ぎ捨ててたときの心地よさ……。

「流斗はそれを自然と感じてると思う。小さい子が、すっぽんぽんで水遊びするみたいな気持ち良さを、いまのぼくらだって感じることが出来るんだと思うよ。でもってぼくらは、小さい子がまだ知らない気持ちいいことをたくさん知ってるから、それと結び付けて、……ね」

 諭良は昴星の髪を撫ぜる。身長的に、それはとても自然な仕草として行われるのだった。

「トイレで、してみよう。……昴星はしっこ出る?」

「……ん」

「じゃあ、してるとこぼくに見せて。他の誰かなら怖いだろうけど、ぼくに見られる分には平気でしょ?」

 諭良が再び手を取り、導く。城址公園の昼間のトイレは、夜に来るよりも少し広く、それだけに緊張を覚える。

 小便器の前に立った昴星の脇に諭良は立ち、「ズボンもパンツも、全部下ろして」と言った。

 そのやり方自体は、「おにーさん」に言われてまさしくこの場所でやったことがある。しかしあれは、夜だった……。

「怖い? ……ぼくが先にして見せる?」

 諭良は微笑み、隣の便器の前に立つと何のためらいもなくズボンとブリーフを下ろす。包皮の濡れた勃起を晒して、

「前も話したけど、ぼく、お兄さんと初めて会ったときもこうやってちんちん大きくして、お尻丸出しにしてしっこしたんだ。……お兄さんに見えもらえるの、すっごいドキドキしたし、嬉しかったよ」

 諭良は、誇らしげでさえある。真っ白な肌の股間に反り立たせた、いっそ「派手に」と言っていいぐらい余った皮の細茎を晒して。

 しかし、放尿はしなかった。また、ブリーフの中に自分をしまって、「ほら、昴星……?」と、優しく促す。決して無理強いではない。

 だって、昴星自身がそこへの興味を捨てられないでいる。「おにーさん」の庇護の元で味わった興奮と緊張を、……「おにーさん」のいないところでも得ることが出来るのならば。

「わ……、わかったよ、出せばいいんだろ……」

 昴星はいつもハーフパンツだ。内側にしっかり自分の陰部を支え守ってくれるブリーフを着用している反動からか、きっちりチャックやボタンで止めるのは面倒に思えてしまって、この季節でもゴムウエストのものを穿いて過ごしている。

 だから、引き摺り下ろすのは簡単だ。

 中から顔を出すのは、……今日は少し大人びた下着。白のブリーフだが、ウエストや裾、前の縫い目は紺色で、引き締まった印象だと昴星自身思っている。このところお気に入りで、まだしばらくは汚さないようにして、大事に穿こうと思っている。とはいえ昴星が半日も穿けば、その内側には黄色い汚れが付くことも避けられないのだが。

「ほら……、パンツも下ろして、ちんちんも出して……?」

「わ、かってる……よ……」

 オシッコをするだけだ。そう言い聞かせる。側で見てるのは諭良なんだ。おにーさんと変わらない。おれのことよく知ってる相手なんだから……。

 だいたい、「おにーさん」の前でこうした時には自分から「見て」と言い「撮って」と言い、ずいぶん便器から離れて放尿したのだ。……とはいえあれも全て、「おにーさんが守ってくれる」という、絶対的な安心感があったから……。

 意を決して、ブリーフを膝まで降ろした。ブリーフがめくれて内側の黄ばみが露わになると同時に、細身の諭良と比べてもはっきりと小さく、そして今はこの場にはいない二歳年下の流斗にも勃起時には負けるサイズの陰茎も晒されることとなる。もとより小さな場所は、緊張のせいで一層縮こまっていた。

 しかし、勃起とは真逆の状態ではありながら、募る尿意とは裏腹に詰まったように出てこない。縮こまって尿道が狭まっているのだ。

「まだ?」

「う、うるせっ、すぐ出るよ……!」

 早く出して、スボン上げたい。……しかし焦れば焦るほど、上手く出せなくなる。

 その上、

「昴星のお尻、可愛いね」

「ひゃっ……」

 後ろから臀部をするりと撫でられれば、ますます。……睡眠中など全く出したくないときには幾らだって出てきてしまうくせに、昴星の尿道はままならぬものである。

「ねえ、昴星、……もうちょっと頑張ってみようよ」

 諭良は尻を撫ぜつつ後ろに屈んだ気配がある。

「もう、もうちょっとってなんだよ……!」

 ツンと染みるような尿意が尿道にこみ上げまで来た。もうすぐ出る、出せる。

 それなのに、

「下、全部抜いじゃおうか」

「ぴゃ!」

 諭良はやすやすと昴星の右足首を掴んで持ち上げる。危うくバランスを崩しかけて気が緩んだところ、短茎から尿が鋭く迸った。右足を再びつかされたとき、既に昴星のハーフパンツとブリーフは右足からは抜かれていた。諭良は間髪置かず左足に取り掛かりながら、臀部に顔を当てて昴星を支えながら臭いを嗅いでいる。

 結局放尿中に下半身はスニーカーとソックスだけ残して奪われてしまった。昴星が不安定な体勢で放尿を続けてしまったせいで、いやそもそも諭良がバランスを崩させたせいで、小便器の周囲も昴星のオシッコが撒き散らされている。

「昴星」

 こんがらがって一つになったハーフパンツとブリーフを抱えた諭良がいつの間にか横に立って呼ぶ。その手には彼のスマートフォンがあった。

「んなっ……」

 フラッシュ付きで、シャッターが切られる。まだ尿を垂らし続ける陰茎まで含めて、諭良に撮影されてしまった。

「うん、……すごく可愛いよ。お兄さんだったら興奮して襲っちゃうぐらい可愛いし、女子が見てもすごく喜ぶんじゃないかな」

「おっ、お前それっ……、まさか……」

 女子に送られるのではないか。そういう恐れが走って青ざめる。

「ううん、そういうことはしない、……まだ、ね」

「ま、まだって……」

「昴星がいつかね、ぼくみたいにそうして欲しくて仕方がなくなっちゃったらそのときには、クラスの誰かに送ってもいいかなって思うけど。でも、いまは送らないよ。見せるにしてもお兄さんにだけ」

 ようやく放尿は終わった。昴星が「パンツっ、早く、穿くからっ」

 当然の権利として求めても、諭良は全くそれに応じなかった。

「まだ穿いちゃダメ。……ぼくはそんな風にお尻出してオシッコしたら、それだけで勃起しちゃうし、そのままオナニーだってするよ、……すごく気持ちいいからね。だけど昴星にはまだハードルが高いだろうから……、そうだな、とりあえずそっちに入って待っててよ」

 そっち、と諭良が指差した先は個室だ。

 個室ならばまだ、下半身を出しっ放しにしていても平気だ。昴星自身、個室の中で全裸になったこともある。その場所は「秘密基地」と同等に扱うことが可能なのだ。

「おまえは……?」

「ぼくもすぐ入る。でも、ちょっと待っててね」

 諭良は昴星の下半身の衣類を持ったままトイレから出て行ってしまう。どこへ行くのか気になるが、とにかくこんな格好でこの場所に居続ける勇気は昴星にはなかった。とにかく個室に身を隠すと、すぐに諭良は戻ってきた。

 穿いていた長ズボンもブリーフも、脱いだ状態で。

「お、おまえっ、そんなカッコで……」

 勃起していた。にっこりと微笑むその顔がどう見たって美しいことが、その変態そのものの姿とあまりにも矛盾している。

「昴星見てたら、ぼくももっと頑張らなきゃって。……そこからここまで、本当にすぐなのに、ものすごく長く感じたよ。いっそ誰か来ちゃえばいいのにって思っちゃった。そしたらぼくの、こんな恥ずかしいちんちん見られちゃうのにって」

 それだけで、こんなに、……濡らすほど勃起してしまうのか……。昴星は呆れるというより、圧倒される。流だってちんこ出しただけで勃起したりなんか……。

 諭良が後ろ手に個室の戸を閉めた。密室には、下半身丸出しの少年が二人。昴星にはもちろんまだ、勃起する理由もない。

「露出の、いいのって、……恥ずかしいのとおんなじぐらいに、『解放感』なんだと思う。普段『絶対しちゃいけない』って、ぼくら頭でわかってて、無意識のうちに守ってる約束事を破るのが、すごくいいんだと思うんだ」

 諭良は昴星に歩み寄り、その恥部を隠すように抱き寄せた。昴星よりも諭良ずいぶん背が高く、諭良の勃起は昴星のセーターを通して腹の辺りにコツンと当たる。

「外でね、ちんちん出して、……しっこしたりオナニーしたり……、たくさん気持ちよくなれるのは、それ自体が気持ちいいのはもちろんだけど、それだけじゃなくてね、……本当はダメってみんなが守ってる決まりごとを、自分が一人の力で破って壊してる……、そういうのが、すごく嬉しいんだとぼくは思う。女子にちんちん見せるのもね、……恥ずかしいのがぼくで、女子ばっかり得をしてるって思うのは間違いだよ。ぼくだけルールを破ってて、彼女たちはぼくの作った新しいルールに従ってるってだけ。ぼくの気持ちよさのために、ぼくが彼女たちを使ってるんだよ」

 諭良の言葉は、昴星にはずいぶん難しく響いた。よくわからんけど要するにおまえ露出狂なんだろ、流もそうなんだろ……、それだけで片付けるわけにはいかないのか。

 昴星が理解に至らないのを見取ったように、

「昴星は、撮られるの好きだよね?」

 諭良は質問の矛先を変えた。

「それは……、そう、だけど……」

 自分を見て、「おにーさん」が喜んでくれるというのが何より大きい。

「それを見る人が嬉しいと感じるのは、女子にちんちん見せてあげるのと同じ。ぼくだけが嬉しいんじゃなくて、やっぱり彼女たちだって嬉しいんだからね。……でも、女子に見せるのは勇気がいるし、ぼくだって流斗の助けがあって初めて出来たことだ。昴星にはまだ早いだろうし、出来るようにはならないかもしれないね」

 ……そういう言われ方は、何だか侮られているようで気に入らないのだが、……では先程の写真を女子に見せられるかと言われれば、それはやっぱり無理なのだ、いまの昴星には。

「……どうやって、おまえも流も、そういうの平気になってんだよ……」

「どうやって?」

「だって、そんなの……、どうすんだよ、おまえ、オネショのこととか学校で知られたら、そんなの……」

 昴星自身、二年生のときに教室でオモラシをするというトラウマ級の経験がある。あのときは才斗が助けてくれたけれど、いま同じことになったとして、同じように助けられるかどうか。

「流斗は、やっぱり特別だろうね。あの子はものすごく強い。そしてあの子の場合はぼくなんかよりずっとずっと可愛いし、じっとしてるのを見るだけでみんな幸せになる。そんな子だから、……例えば学校でオモラシしたってちんちん丸出しにしちゃったって、みんな幸せになるだけなんだ。流斗自身もそれはわかっててやってると思うよ」

 流斗が特別、というのはまあ、判る。確かにあの「弟」は極端なくらい可愛いし、「昴兄ちゃん」と呼ばれるだけで昴星でさえ、あの子の願いは何だって叶えてやんなきゃという気持ちにさせられるのだ。

「じゃあ、おまえは……」

「ぼくは、三月でいなくなるっていうのがあるからね」

 諭良は少しさみしげに笑う。「前の学校でも、……それぐらい開き直れてたら教室でオモラシぐらい出来てたかもしれない。でも今だったらって」

「ん、んなこと言ったらおれは……」

 昴星と才斗は近所の公立中学に進学することが決まっている。現在のクラスメイトはそのまま何割か同じ顔ぶれが中学に上がってもそばにいる。そこに他校からやってくる者を加えた状況で、「あの鮒原はオモラシしたしちんこはこーんなちっちゃい」というようなことが知れ渡ったら……、もう昴星は二度と学校には行けなくなるだろう。

「……でも、卒業したらもう会えなくなる女子もいるよね? 受験で私立に行く子たち。彼女たちの持ってる秘密と引き換えにすることだって出来るとぼくは思う。……まあ、昴星がしたいならって話だけどね」

 諭良はふっと、余裕のある笑い方をして昴星を離した。

「今日は、本当に昴星がそういうことをするかどうかは別にして、でも昴星も露出がもし昴星にとって気持ちいいことってわかったら、したいって思うようになるかもしれないし、……だから、簡単なところから教えてあげる」

「さっきのオシッコの時点でもう簡単じゃねーよ!」

「そう? でも次のはもっと簡単だと思うな。昴星がいつもお兄さんとセックスするときにしてることとほとんど同じだから」

 おれが、おにーさんとセックスするときにしてること……?

 諭良は再びスマートフォンを手にする。

「と、撮んの……?」

「大丈夫だよ、誰にも見せない」

 ビデオの撮影が開始される音が、個室に響いた。

「ぼくはね、いつも一人で露出するとき、いろんなことを言うんだ。……詳しく言うと、自分がいま何をしてるか、どんな気持ちでいるのか、……ちんちんが、どんな風になってるのか。最初のうちはそんなことしなかったんだけど、そうする方が気持ちいいって学んだんだ。自分がルールを破って、どれだけ恥ずかしいことしてるか、自分で言葉にして自分で聴く……、それで確かめられる。例えばね……」

 諭良は、スマートフォンのカメラを自分の勃起した下半身に向けた。

「諭良=ファン・デル=エルレンバルト、……第二小学校六年一組です。いま、学校の近くのトイレの、うんちするところで、ちんちんを出しています。外で裸になって、ちんちんがすごく勃起しています……」

 このところ、学校でよく見るようになった場面だが……。

 始業式や朝礼などで校歌を唄う機会は小学生にしょっちゅう巡ってくる。そもそも音楽の授業だって週に二回はあるのだ。その際に、「声が出ていない!」と叱声が飛ぶ。……特に、六年生を対象に。

 六年生ともなると、男子は変声期を迎える者も出てくる。それまでスムーズに発声出来ていた高音域が思うように出なくなるのは仕方がない。一方で低学年の頃には元気よく唄うことに何らの抵抗もなかったのに、自我が発達するとともに「大きい声でみんなで唄うなんて……」という気持ちが芽生え始めるのだ。それは概ね、高校ぐらいまで続く。「みんなの前で発表」なんて機会にも、なんとなくぼそぼそとしか喋らなくなったしまったりして。

 しかし、諭良は嬉しそうに、堂々としているのだった。……それこそ教室で、クラスのみんなに自分の変態性欲を発表するかのように……、何より、嬉々として。

 ……すげーな、こいつ……。

 率直に言って、ありえない姿である。しかしながら昴星の口から凡庸な、つまりそれだけに当然な言葉が出て来ないのは、この諭良の姿が魅力的であるという判断を下せてしまうから。

「ぼくの、ちんちんは、……皮が、こんなに、余ってて……、みっともなくて、……でもいま、ちんちん出して興奮しているので、皮の中、ヌルヌルになってて……」

 諭良はすっかり自己撮影に没頭しつつあった。指先を皮の中に突っ込んで抜いて、「……ふふ、すっごい、糸引いてる……」うっとりと実況するのだ。

「なー……、おまえ、ほんとにいっつもそんなこと、してんの……?」

「ん」

 熱中し過ぎていたことに気付いたか、「そう……、うん、そうだよ。他にもいろんなところ、一人で撮ってる」やや気まずそうに答える。

「……それが、……その、普段一人でちんこしこしこするより、気持ちいいのかよ……」

「うん」

 諭良はきっぱり、頷いた。

「すっごく、気持ちいいよ。昴星がまだ知らないところにある、最高のオナニーだと思う」

 ……オナニー。一人で陰茎をいじって快感を得る方法。その作法については、昴星だって諭良を笑えない。才斗の「味」が欲しくて自分の失禁ブリーフにしゃぶりついてしたことがあるし、オネショをした布団の中でそのまま下着に精液まで放ったことも、……身体の柔らかい昴星は自分で自分にフェラチオをしたことさえ。

 一人で、なら。

 女子に見られるわけじゃない、オナニー、なら。

「ぜってーに……、それ、誰にも見せねーんだな……?」

「もちろん。約束するよ。ぼくが昴星と一緒にちんちん出して遊んだ記録としてしか使わないよ」

 昴星の中で、気持ちが固まったのを諭良はつぶさに感じ取ったのだろう。ずっと自分の股間に向けていたカメラを、昴星に向ける。

「じゃあ、昴星……、ぼくがやって見せたみたいに、出来るよね?」

 気の強さを自覚している昴星にしては珍しく、自信なさげに頷いて、ずっとそこに当てていた右手をどかす。

「……えっと……、第一小学校の、六年一組出席番号十七番の、鮒原、昴星です」

 諭良は黙って続きを促す。

 ……こいつのしてたみたいに……。

「い、いま、……近所の、公園のうんこするとこで、……ズボンと、パンツ脱いで、……ちんこ、出して、ます。……あの、おれのちんこ、は……、こう……、こんな風に、ちっちゃくて、……その、……ちっちゃくて、丸っこくて、いま、すごい緊張してるから、ちぢこまってて」

 見下ろしたところにある自分の性器、その特徴を、思いつくままに言葉にして行く。

「毛が生えてなくて、皮、むけなくって、……いま、さっき、オシッコしたばっかだから、先っぽ、ちょっと、オシッコが付いて、……ます」

 昴星としては、……十分に恥ずかしいことをしているという感覚がある。まず「ちんこ見せてる」というのがかなり恥ずかしいし、「ちっちゃい」と自覚している場所をことさら説明しなければならないというのも。

 しかしながら、昴星の努力も諭良にはまるで物足りないらしい。

「昴星の好きなことは何?」

「す……、好きなこと?」

 走り回ったり、寝たり、食べたり、あとは、……セックス。

「昴星はそのちっちゃくて丸っこいちんちんで、どんなことして遊ぶのが好きなんだっけ?」

 それは。

「……お……、オモラシ……、すんの、好き、です」

 羞恥心が一気に身体を駆け巡り始めるのを、昴星は覚えた。

「教えて。昴星のちんちんの秘密、全部説明してよ」

 諭良は優しい声で昴星を導く。彼は相変わらず勃起したままだが、今は昴星を優先すると決めているのだろう、そこに触れもしない。

 昴星は、

「お、おれの、……おれの、ちんこ、は、……オネショ、が、まだ、なおんなくて……」

 自分の声が震えていることに気付く。

「今朝はした?」

「今朝も……、しちゃった……」

「それで? オネショしたあとどうしたの?」

「オネショ、して……」

 言葉にすることで昴星の股間に、今朝の感覚が鋭く蘇って来た。いつものこと、……いつも通りのこと。尻もペニスも、パジャマの腹部や太ももまで冷たくて、タオルケットが重たくなっていた。めくった布団の内側からは篭った尿の臭いが一気に広がる。

 けれど、昴星にとってはそれはちっとも不快ではなかったのだ。

「オネショ、して……、オシッコ、洗わなきゃって、思った……、んだけど、ちんこ、びちょびちょになって、……勃起してて、……そんで、オナニー、したくなって……、そんで……」

「そのときは、どんなこと考えてしたの?」

 どんなこと、って……。

 自分のオシッコで作った水溜りの上で、パジャマのズボンの中に手を突っ込んで、濡れた下着の中で狂おしい熱を訴えるそこを、

「お……、おれの、おれのちんこは、オネショしちゃう、恥ずかしい、ちんこで、……誰にも知られちゃいけない、んだけど、でも、恥ずかしいちんこしてる、の、考えてっ……、だ、誰かに知られちゃったら、どうしようって……」

 下着の上から散々にいじり回して、声さえ散らして。

「ちんこ、……その、パンツの中に、せーし、出して……」

「気持ちよくなっちゃった?」

 こく、と昴星は頷く。

「そう……。多分それはね、本当は昴星は、自分では気付いてないだけで、恥ずかしいちんちんしてるってこと、見られたいって思ってるんだと思うな。そうでなかったら、……普通のひとはオネショしてそのままオナニーしたりなんかしないもん。恥ずかしいばっかりだったらね……?」

 そうなのだろうか、……いや、きっとそうだろう。こんなの、ヘンタイだ……、昴星自身、オモラシをするたびそれは自覚している。

「昴星、ちんちん見て。昴星のちんちん、どうなってる? 教えて」

 勃起していた。短い茎は短いまま上を向いて、ひくっ、ひくっと昴星自身ではコントロールできない震えを繰り返し催していた。

「ちんこ……、勃って、る……」

「もっと。詳しく」

「……お、お……、おれ、……の、ちんこ、……勃起、しても、ぜんぜんおっきくなんなく、って、……でも、すっげ、かたくなってて……」

「どうして勃起したの?」

「……オネショ……、した、ときの……、こと、思い出した、から……」

「オネショしたシーツとかお布団、どうしたの?」

「ふ、布団は、干した……。シーツとか、パジャマは、洗って……」

「じゃあ、干した布団見たら昴星がオネショしたこと他の人にバレちゃうね?」

 昴星は首を振る。その点はもちろんぬかりない。「布団、濡らしたとこ、内側にして、干してるから……」

「そうなの? ……ぼくは干すときみんなにわかるように黄色くなっちゃったとこ外側にして干すよ。……でもうち、最上階だしベランダの柵から干すところまで距離あるから見てもらえないんだけど。でもすっぽんぽんになってね、『ぼくはオネショしました、これがぼくのオネショしたちんちんです』って言いながら……」

 自分のオネショで汚れた布団を、誰かが見る、……想像しただけなのに、また昴星のペニスはびくんと震えた。

「昴星、もう一回ちんちんのこと話して見せて」

 諭良のすすめに、もう抗う理由が見つからなかった。

「おれの……、おれのっ、ちんこはっ、オネショしちゃう、ちんこですっ……、オネショして、そんで、勃起してっ、……オネショパンツの中にせーし出す、恥ずかしい、ちんこっ、ですっ……!」

 解放感、と諭良の口にした言葉の意味を、昴星は身体ではっきりと理解しつつあった。

「おにーさん」とするとき、……自分のそこのだらしなさを目にして彼が喜んでくれるのが嬉しくて「もっと見て」と言ってしまう。そのときに、非常に近い興奮が、止まらなくなる。

「おれの、おれのちんこっ……、外でフルチンになって、勃起してますっ、ちんこ、すっげ、ピクピクしてぇ……っ、ガマン汁出てきてるのっ、ヌルヌルいっぱい出てきてるッ……」

 知らず知らずのうちに腰を振り、はからずも「おにーさん」が見るのが大好きな、性器の揺れを披露することとなっていた。先端からは蜜が溢れ、糸を引いて飛び散る。

「昴星、射精したいの? みんなに見られて、そんなに濡らしちゃったちんちんから精液出すところ見てもらいたい?」

「あ、あう……っ」

「嫌なら、ちんちん触らなきゃいいだけのこと。……でももし触りたいなら……、判るよね昴星」

 諭良の言葉が、「判る」のだった。もう、何を言われるまでもなく。

 昴星は右手の二本の指で自分の性器を摘まむ。

「お、っおれ、おれっ、オナニー、してますっ、ちんこヌルヌルっ……ヌルヌルの、オネショしちゃったちんこ、つまんでっ、シコシコして……、外なのにっ、外なのにっ、オナニーひてるっちんこっ、ちんこちんこっきもちいひっちんこきもちぃっ……ちんこいっちゃうちんこいっ、いくっいくいくっいくっいくぅううッ!」

 昴星の、顔の高さにまで噴き上がった精液はどっぷりと濃い塊だった。顔に、服に、散って、……昴星には大いなる「解放感」を味わわせる。初めて才斗の前で、意図的に失禁したときのような……。

「気持ちよかった?」

 壁に背中を委ね、膝を震わせながらも何とか身を支える昴星を下からのアングルで撮りながら、諭良が訊く。

「き、……きもち、よかった、……です」

「昴星は、すごく恥ずかしい子なんだね。こんな風にお外で自分のちんちんの恥ずかしいこといっぱい言いながらオナニーして気持ちよくなっちゃうくらい……」

 答えようがない。否定したところで昴星が射精し、強い快感を得てしまったことは、紛れもない事実なのだ。

 撮影を終えて諭良が手を差し伸べた。

「すっごい、可愛かった。本当に、昴星、ぼくもうガマンできなくなりそうだったよ……!」

 右手を動かして、昴星の弛緩しつつあるペニスを余り皮で擽りながら、諭良は昴星の唇を貪る。くぐもった喘ぎに遅れて、既に粘液で濡れていた昴星のペニスは、諭良の熱い精液によって更に濡らされる。

「ん……、ふ……、ふふ。……昴星も、もう……、わかったよね……? お外で、こんな風に……、ちんちん出して、えっちなことするの、すっごい気持ちいいでしょ……?」

 気持ちよかった。

 だから昴星は身体に再びぞくぞくとした震えを催しながら、頷く。

「だから……、もっと教えてあげる、……もっと、しようね?」

 昴星は、諭良に導かれるままに頷いてしまった。

 

 

 

 

 昴星のズボンとブリーフは、諭良の手によって四阿の中のベンチに置かれていた。それは、トイレからそっと顔を覗かせれば見える。わざわざ目立つところに、股間の恥ずかしい黄ばみを表にして置かれているのが見える。

「あ、あんなとこに……」

「もう誰かに見られちゃってたりして」

 クスッと笑って諭良は意地悪を言う。「次の練習はね、……昴星に、あそこまで行って、ズボンとパンツ取ってきてもらう」

 あそこにそれらがあるということは、言うまでもなく依然として昴星はそれらの布で秘匿されてしかるべき場所を晒しているということだ。付け加えるのであれば、諭良はこの通り一糸纏わぬ姿であそこにあれを置いてきたということだ。

 いや、それのみではない。「精液付いちゃったから」という理由で上も脱がされている。だから昴星は全裸でいるのだ。……一応、スニーカーとソックスはまだ穿いているけれど。

「寒い?」

 諭良に訊かれて、……寒くはない。では何故諭良はそう訊いたんだろう? ……無意識のうちに震えていた自分に昴星は気付かされる。

 恐怖に? ……いや、怖いもんは怖いに決まってんだろ! こんなとこ、誰かに見られたらおしまいだ……。

 だけど、……だけど。

 それだけじゃ、ない。腹の奥底、ついさっき諭良に撮影されながら、自分のペニスの状況を事細かに口にしながらしたオナニー、からの射精。昴星の身体がこれまでに感じたことのないものを知り、まだその先があるということを諭良に知らされて、……何の期待も抱いていないならこんなことをしてはいないだろう、とも思うのだ。

 ……昴星自身は無意識の中の記憶だが、かつて擬似的に女子に見られているという状況を演出された際にはかつてないほど乱れ狂い、……それこそ理性が少しでも残っていればしないような脱糞までしてしまった(この後に、その際を撮影した動画の中で「ひひっ、おれ、おれっ、うんこもらしてるっうんこっ、オムツの中でうんこしてるのぉっ」よだれを垂らしながらそう喚き散らす自分の姿を見せられて、昴星は失禁した)ことから、昴星の持つ変態性欲のうち、目覚めているのがいまだ一部分に過ぎないことは確かなようだ。

 しかし何もかもを起こす必要はない。それをタブー視し、隠しておくために人間はルールを守るのだとも言える。

 が。

 ……これぐらい、諭良も流もやってる……。

 昴星の目には美しく可愛らしく見える二人の辿った道筋の上にある場所だということには、奇妙な安心感があるのもまた事実だ。

「昴星、パンツ取っておいでよ」

 諭良が笑顔で言った。

「すっぽんぽんでいるの、心細いんでしょ? だから、持ってきていいよ。……その代わり、ひとつ条件がある」

 何を言われたって驚ける。諭良が平気で出来ることのうちいくつを、おれはまともに出来るだろう……?

「今からぼくが言うものだけ、持って来て。いい? まず、昴星のパンツとズボン、それからぼくのズボン、……あとカバンも、重たいかもしれないけど、ぼくと昴星の、両方ね?」

「ちょ、ちょっと待って、……えーとおまえとおれのカバンと、おれのパンツとズボンと、おまえの」

 パンツは?

「ただ取りに行くだけだとつまらないから、ぼくのパンツは置いてきて欲しいんだ。……あのブランコの手すりのところにでも引っ掛けて来て欲しいな。でね、……そのパンツを、昴星のオシッコでビショビショにして来て欲しいんだ」

「なに……」

「わかるよね? ぼくのパンツでオモラシをしてきて欲しい。でもって、昴星のオシッコでビショビショになったら、それを穿いて戻ってきて欲しいんだ。ぼく、昴星のオモラシパンツ欲しいから」

 わかるよね、って言われたって、……わかるかそんなん!

 しかし諭良は自分の提案の妥当性を全く疑っていないような顔でいるのだった。

「それが、次の目標だよ昴星。ぼくも流斗も、お外でオモラシする。……まあぼくは流斗ほど強くもないから、あの子みたいにまわりに人がいっぱいいるところではまだしたことないけど、でも一人でこの公園に来てしたこと、何度もあるよ。だから昴星にもそれを経験してもらいたいんだ。……昴星の大好きなオモラシ、外で、……誰が来るかもわからないような場所でさ、したら、どんな気持ちになるんだろうね……?」

 昴星の耳元で、諭良は囁く。「オシッコ、ガマンしてるんでしょ? ……えっちなことするときにオモラシしないなんて、昴星、満足出来る……?」

 出来ない、……出来ないのだ。昴星はオモラシが好きだ。偏愛している。才斗とするとき、「おにーさん」とするとき、……流斗やこの諭良と一緒のときには二人ですることだってある。あの感触なしでは仮に射精まで至ったとしても、それは仮のものでしかない。

 諭良が屈んで、きゅっと縮こまった昴星のペニスに優しい口付けをした。……「優しい」としか解釈出来ないような、やり方で。

「それが出来たら、きっと昴星はぼくの感じるのと同じくらいの気持ちよさ、きっと感じられるはずだよ……?」

 ほら、がんばって、と立ち上がった諭良に尻を押される。トイレから二歩、三歩と出たところで、全裸の諭良がにっこり微笑んでいた。

 屋根のないところへ出ると、途端、恐ろしさが極まった。すぐにでも、どこかから、誰か知った顔が現れそうな予感に駆られた瞬間、この格好でここにいる時間は一秒だって短い方がいいのだというごく当たり前のことに気付く。無意識のうちに身を屈めながら、急ぎ足でベンチへ駆けて行く間、昴星の耳には必要以上に弾んだ自分の鼓動と呼吸と靴が足元の土を蹴る音だけが届いていた。

 周囲に人の気配はない。

 ベンチの服の山から、諭良の白いブリーフを大急ぎで選り分けて、それに足を通す。急いでいるせいで、前後を間違えて余計に焦る。ほとんど泣きそうになりながらウエストまで上げたところで、ほとんど意識していなかった尿意が痛烈にこみ上げて来た。

「う……あ……っ」

 諭良が元々付けていた黄ばみの中心へ、小便が染み込んで行く。何の力も入れないままに、ブリーフの前が股間がどんどんと濡れて行く。そうして自分のオシッコでブリーフに失禁の証を刻み付けながら、昴星は半泣きになって服の山とカバンを抱え上げ、自分の足跡と水跡を土の上に散らしながら駆け足でトイレに戻った。全裸の諭良に迎え入れられたときにはもう、ひっくひっくとすすり泣きが止まらなくなっている反面、ブリーフからの黄色い雨は止んでいた。

「昴星、よくがんばったね。本当に可愛い、いい子……、ご褒美あげなきゃね?」

 昴星の頬に伝った涙をキスで吸い取り、それが諭良の舌には甘く感じられるのだろうか、唇に映す。

「緊張したね。でも、昴星のちんちんすごく興奮したって言ってる」

「っ、え……っ……?」

「気付いてなかった? 向こうから戻ってくるとき、……ううん、オモラシしはじめたときからかな、ちんちん、勃起してて、嬉しそうだった」

 個室のドアは、開かれたままだ。

 諭良は昴星の手から荷物を全て受け取り、個室の中の棚に置く。それから後ろから抱きしめて、……触れられて初めて、自分のそこが失禁の証の中で激しい興奮を訴えていることに気付かされる。

「そ、んなぁ……っ」

「やっぱり、昴星もぼくや流斗と同じなんだ。恥ずかしい思いがしたいしたいって、ちんちんが言ってるの聴こえてくる。……お兄さんもそれを知ってるから、昴星が気持ち良くなれるようにって、この公園ですっぽんぽんでお散歩したり、外でセックスしたりしたんだろうね……」

 まだ搾ればいくらでも尿が滴り落ちそうなブリーフを、諭良が優しい手で脱がせにかかった。柔らかなウエストゴムに短くも激しく昂ぶったペニスが引っかかって、跳ねた。散った液に残尿のみならず、腺液までもが含まれていることには自覚的にならない訳にはいかないほどきつく勃起している理由は判然としている。

 快感が残尿感のようにもどかしく昴星の尿道を焼いている。

 それが、昴星の現状だった。誇りを著しく損ねるような事態に陥ることを恐れる一方で、そうすることでしか手に入らない快感を幸福を既に知り、それを求める自分を否定することもできない。

 そして、……能うならば、もっと強く、もっと激しくと望む。

 恐らくもう、「秘密基地」における一人での野外オナニーだけではとうに飽き足らなくなっているだろう。しかしそもそもそれは、そういう行為を始めた段階からあらかじめ定められていたことだ。

 緩やかな下り坂に自転車で差し掛かって、……一度勢いが付いたならば加速して行くばかり、止まることは容易ではない。ましてや昴星は、「おにーさん」という知らない大人と現在のような関係に浸りきることが出来るくらい無鉄砲な、ブレーキの壊れた自転車なのだ。

 ただ、まだ、乗りこなせない。諭良に後ろを支えてもらいながらでなくては。

「ど、どこ、行くの……」

「大丈夫、すぐそこだよ」

 全裸のまま、背中を押されて再び個室の外へと連れ出された。足を止めることを許されたのは、白い、陶器の小便器の前だ。

「昴星のタマタマ」

「うあ……」

 指で後ろからすいと掬い上げられただけで全身がぞくぞくする。「……に溜まってる精液、出したいでしょ? ……ほら、前にお兄さんと流斗もいっしょのときに、ぼくの身体を『トイレ』にしてくれたことがあったよね? 精液はちゃんと、トイレに出さなきゃ。……ね?」

 外からの、春まだ浅く冷たい風が吹き込む。諭良の指に皮を剥かれて、決して清潔ではない亀頭を風が舐めた。自分自身から漂う尿その他の臭いを、こんな場所で晒しているということがこれまでにないほどはっきりと感じられて、昴星は反射的に括約筋を引き締める。諭良にはそれが、より強い刺激を求めるメッセージとして伝わることだろう。

「ま……、待って、待って、マジで、ここですんの……?」

 昴星自身の耳に届く昴星の声は、弱々しく震えて濡れている。それを未だ昴星は恐怖に駆られるがゆえのものであると信じて疑わないが、とうの昔に諭良は昴星が快感を求めるがゆえにそうなるのだということを把握し切っている。

「うん。ちんちん気持ち良くなりたいんでしょ? 怖いことなんて何もないよ、……気持ち良くなるの、昴星は好きでしょ……?」

 諭良の指にしっかりと摘ままれる。勃起してもなお、「握る」というよりは「摘まむ」というべき大きさの陰茎は、諭良の指にほんの少し動かされただけで昴星の四肢を支配するような強く大きな快楽を産み出した。

「ゆ、らぁ……、ゆらっ……」

「……これから、もっともっと教えてあげる。昴星のこと、大好きだから、昴星の幸せになれるようなこと、……ぼくが教えられること、ぜんぶ教えてあげるからね……」

 諭良の右手の中で熱が暴走を始める。そこから伝う快感はいつも昴星の意志を奪い、出す気もない声を出し、紡ぐつもりもない言葉を紡ぐ。

「んっ、ん……、ちんこ……ぉっ」

「うん……、聴かせて。ぼくだけじゃなくって、みんなに聴かせようよ。昴星はお外ですっぽんぽんになって……、それから?」

「っん、ちんこっ、ちんこきもちぃっ……、ちんこすっげぇっ、ちんこぉっ」

 会話として成立するものではない。ただ、素直な気持ちを吐露するばかりのもの。

 諭良の指先で、おびただしく溢れる腺液がにちゃにちゃと音を立てる。それがトイレの中でやけに大きく響いて、それを聴いているだけでたまらない気持ちになる。その音一つとったって、昴星の淫らさをそのまま証明する材料となる。

 いや、そもそも、……この身体が、存在が、そのものが。

「いっ、ひぃっ、ぃいっ、ぃいいンっ!」

 背中を仰け反らせて、放った精液は白い陶の小便器に散った。尿道を押し広げる精液の熱さと量とが、どれだけの欲求をこの行為に伴って抱いたのかを昴星に知らせた。

 膝がガクガクと震える。それでも諭良が後ろからしっかりと抱き支え、

「ふふ。いっぱい出たね……、気持ちよかったでしょ……? 昴星、すっごく可愛かった……」

 唇の端からよだれの垂れていることにさえ無頓着な昴星の髪に、いとしげなキスをした。

「お、おれ……っ」

 射精の快楽が去ると同時に、後悔が浮かぶ。……とんでもないことしちゃった……、誰かに見られていたらどうしよう。今更のように再び泣きそうになる昴星を、励ますように諭良が優しい声を耳に差し込む。

「今にそんなこと、気にならなくなるよ。ぼくみたいに……、でもって、流斗が元からそうだったみたいにね……」

 諭良はどこまでも優しく甘ったるく言い、僅かに笑顔を翳らせた。

「……ぼくは、もうすぐいなくならなきゃいけない」

 それは、今二人でどんなことをしていたとしても決して変えることの出来ない事実だ。

「だからね、ここのところ、いっつも考えてるんだ。……どうしたらぼくがいなくなっても、誰も悲しまなくて済むかって」

「え……?」

「これまで、転校するときも、誰も悲しんだりなんてしてくれなかった。でも、……きっと昴星たちはぼくがいなくなったあと、寂しいって思ってくれると思う」

 もっと別の、ずっと大きな痛みを覚えていたはずの胸が、ずきんという衝撃とともによじれた。

「ぼくはこの街で、……昴星と才斗と、お兄さん、流斗に、由利香さま、みんなと出会えて、初めて友達が出来たんだ。たくさん幸せにしてもらって、……正直、そのお礼がぜんぜん出来ていないと思う。だけどせめて、ぼくがいたことでみんなに少しでも残してあげたいなって考えてたんだ。それは例えばお兄さんや才斗をいっぱい気持ち良くしてあげること、……ぼくがいなくなった後でも、昴星に、ぼくの代わりに、ぼくがしてたようなことをして二人を喜ばせてあげて欲しいなって思ったんだ。……もちろん昴星はぼくなんかよりずっと可愛いし、そうすることで昴星がいままでよりもっと気持ちよくなれたら嬉しいから」

 諭良は、昴星の頬にキスをした。

 諭良がいなくなってしまうことに関しては、昴星がどんなに願ったって変えられない未来だ。初めは仲が悪くて、「あんなやつ早くいなくなればいい!」とさえ思っていたのに、今は同じ相手を愛する者同士、同じくらいに愛しく思えている。

 キスは、そのまま顔を真っ直ぐ向き合わせてのものになった。

 裸であることの恐怖が去ったわけではない。しかし、諭良の真心のこもったキスに、昴星は執着したかった。

「昴星、大好きだよ。……ぼく、もっと昴星にいろんなこと教えてあげたい……」

 諭良の言葉に、……昴星は頷いた。鼻をずっと啜って、照れ隠しに少しだけ、笑う。

「……いいよ、じゃー、おまえのヘンタイなの、ぜんぶおれ、出来るようになる……」

 もう一度抱きしめ合って、キスをして、昴星は一つ深呼吸して、「じゃー、どうすりゃいい? こうやってフルチンのままいたらいいのか?」と、もう怖くなんかないぞぜんぜん平気だぞ嘘だけど! ……少しでも諭良の代わりになれるよう、努力しようと心に決める。

「うん……、すっぽんぽんの昴星も可愛いけど、今度はもっと違うことしてみようか」

 ひょっとしてフルチンのまま昼の公園を散歩するとか言い出されたらどうしようと内心戦々恐々としていた昴星は、安堵とともにやや拍子抜けする。いや別にそれは、フルチンで散歩してみたかったとかそういうんじゃなくて!

「……とりあえず、パンツ穿こうか。ぼくが最近一人のときにしてること、いっしょにしようよ」

 諭良は言い、乾き始めたとはいえ未だ湿っぽい昴星の失禁ブリーフで自分の下半身を覆った。


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