もう一人の恋人の名前

 鮒原昴星には二人の「恋人」がいるのだ。そして一人っ子でありながら二人の「兄弟」がいるのだ。

 その、道徳的見地に立ったときには非難の対象となる状況を、しかし昴星は「いーじゃん」という言葉一つでやり過ごす。「恋人」はそれぞれ相手の存在を認めているし、昴星含めて「三人兄弟」はいつも仲良し。自分たちが幸せだとすれば、外部からの苦情に一切耳を傾ける必要はない。事実才斗は「もう一人の恋人」に対して一定以上の信頼を置いているようだし、昴星に二人いる「兄弟」の弟の方は才斗にとってこそ「弟」と扱うべき、牧坂流斗、才斗の従弟であるからして。

 だから、昴星の「もう一人の恋人」と「兄弟の兄のほう」が同一人物であるという事実もまた、何ら問題にはならないどころか、下着の汚れと無縁ではいられない昴星という少年の生きる日々に好ましいスパイスとなっているのである。

 実は昴星はその「兄」であり「恋人」である男の名前を、よく知らない。ゆーいちくん、と呼ばれていたのを知っているが、別に名前なんでどうでもいい。昴星にとっては大好きな「おにーさん」であり、昴星が昴星のままあることを心から喜び、昴星のことを喜ばせようと心を砕いてくれるというだけでいい。彼は二十代の、つまり成人した男で、要するに「ショタコン」と呼ばれて世間からはつまはじきされるべき人間であるのだが、昴星は何にせよ「おにーさん」が才斗と同じくらい大好きなのである。

 重要なこと、と昴星自身も理解しているのは、それでも才斗のことを優先しなければならない、という点だ。やっぱり才斗はおれの最初の「恋人」だし、「おにーさん」にはおれの他にも「恋人」がいるけど才斗にはいまんところおれしかいない、だから才斗にさみしい思いをさせないように、でも、おれが楽しいように。

 昴星はそんな次第で、この土曜日の午後にも「おにーさん」の部屋へと足を運ぶ。前夜は才斗とたくさん遊んだので、後ろめたいところは一つもなく正々堂々と。通学路からちょっと逸れたところにある、通称「うんこ橋(欄干にそれによく似たモニュメントが付いているので)」のそば、川沿いの木造アパートの二階。

「こんにちは、昴星」

 玄関の鍵が開くなり、嬉しそうに微笑んで「おにーさん」は昴星の髪を撫ぜた。そんなことがまず、何だかくすぐったいくらい嬉しい。おにーさんはおれと会うのをすげー楽しみにしててくれんだ、という理解は容易で、素直に求められることは十二歳の少年にもかけがえのない喜びとなるのだ。

「流は? まだ来てねーの?」

「うん。……昴星と一緒に来るもんだと思ってたけど」

「あーじゃあ才斗んとこ寄って来るんだ」

 流斗がこちらに到着すれば、流斗はこの大人の男の人のことを「お兄ちゃん」と呼ぶし、昴星のことは「昴兄ちゃん」と呼ぶ。流斗が到着すれば「兄弟」が全員揃うことになるし、同時にもう一組の「恋人」が成立することにもなる……、即ち、昴星の「恋人/おにーさん」であるところのこの青年は同時に流斗にとってもそういう存在であるのだ。

 とはいえ、三人揃って仲良くしているばかりだ。「おにーさん」といる時間は、流斗が加わることによって一層楽しいものとなる。だって流斗は、とても可愛いから。

「お、メール来た」

 ポケットの中で昴星のスマートフォンが震えた。流斗からで、『さいにいちゃんと少し遊んでから行くよ』とある。「少し」がどれくらいか判らないが、

「じゃー、おれはおにーさんと『少し』遊んで流待ってようかなー」

 二人きりの時間が出来たことは素直に嬉しいのである。「おにーさん、今日は何して遊ぶ?」

 背中におぶさり、訊く。「おにーさん」はいつものように、少し困って喜んでいる。

「ぼくは昴星が楽しいなら何でも楽しいよ」

 って、優しい声で言う。「おにーさん」は背が高くて優しくて、頭が良くてトータルでカッコイイ男なのだが、決して威張ったりしない。それどころか、何だかいつでも自分に自信がないみたいにしている。その一方で昴星の裸を撮りたがる、好ましきヘンタイでもある。

 そういう「おにーさん」が、自分なんかで興奮してくれるという事実が昴星にはとても重い。

「ひひ……、じゃーさ、おにーさんちんこ見して」

 背中から降り、畳の上で膝を揃えて座る。彼は少し恥ずかしそうに頷いた。本当はこんなことやっちゃいけないんだぞ、知らない大人と……、でももう、「知らない大人」じゃない。親を含めたあらゆる「大人」の中でも昴星は、この青年に断トツで詳しくなっているのだ。

 昴星がこの青年と出会ったのは、去年の夏の終わり、二学期になったばかりのある夜。

 一人で銭湯に行った帰り道、城址公園のトイレで一人遊びをした。昴星のような少年のする「一人遊び」であるから内容は推して知るべしで、せっかく銭湯で身体を綺麗にした後だというのに下着を濡らして帰る途中だった。ビニール袋の中にはタオルを入れ、ハーフパンツの中には濡らしたブリーフを隠し穿いて歩いていたが、ふと銭湯まで穿いていたブリーフが一枚見当たらないことに気付く。見れば、手提げのビニール袋に穴が空いていて、そこから落ちたに違いなかった。……別に一枚ぐらい落としたっていいけれど、やっぱり惜しい気がして(だって、汚れた下着をプレゼントすれば才斗はとても喜ぶのだ)足元をキョロキョロ見やりながら来た道を戻る途中、……屈み込み、昴星の落し物を拾って固まっている「おにーさん」と出会った。……いや、正確を期して書くならば昴星は最初彼のことを「おっさん」と呼んでしまったのだ。

 この人は、おれのパンツどうするつもりなんだろう?

 その解は昴星の中からすぐに生じた。彼の指は、昴星が気遣いなく付けてしまう黄色い汚れに当てられていたのだ。世の中にはおれみてーな男子に興奮する「ショタコン」っていう、悪い大人がいるって聴いたぞ、……ふーん、じゃあこのおっさんが、「ショタコン」か。見るのは初めてだなー。

 はじめは、ちょっとからかってやるつもりで、

「そんなにおれのオシッコ好きならさ、おれのオモラシするとこ、見たい? みんなに内緒で見せてやろっか」

 そんなことを、昴星は言って見た。翌早朝と時間を決めて同じ場所を指定して……、昴星はまだその段階では、「ヘンタイだなーあのおっさん」と思っていただけだ。当然翌朝も、早起きなんて馬鹿らしいし、約束をすっぽかしてやるつもりでいた、

 しかし、ベッドに入ってからもずっと昴星は考えることとなったのだ。

 これまでこの世に、才斗しかいないと信じていたような人、……すなわち、「おれのオシッコで興奮するようなやつ」が、もう一人いた、という事実と直面して、……はっきりと、あの青年に対する積極的な興味が芽生えていた。

 結局昴星は翌朝、眠い目を擦って公園に行くことにしたのだ。本当に来るのかな、来なかったら……、そんときゃ一人で遊んで帰ろう、そんなことを思いつつ、着替えや遊び道具も用意して、木陰に身を潜めてじっと待っていた。

 寝不足気味の顔をして、あの「おっさん」が姿を現したときにはもう、昴星がこの青年とこういう関係になることは決まっていたも同然だった。来てくれたことが嬉しくて、サービスをいっぱいした。大人の性器にも触らせてもらった。あの日からずっと、昴星は二人目の「恋人」に夢中なのだ。

「んひひ……、やっぱでかいなー、おにーさんのちんこ。っつーか、なんでもう勃起してんの?」

 ひざまずいた昴星の前に掲げられた大人のペニスに、気安く触れる。仲間内で一番大きくて大人びている才斗のそれよりもずっと大きく、帯びる熱や硬さも段違い。何より形が素晴らしいのだと昴星は思う。

「それは……、だって」

「おにーさん」は恥ずかしそうに言う。「昴星とするんだって思ったら、それだけで……、ねえ」

 こんな風に、「おにーさん」は素直だ。才斗だって身体はごく素直だけど、なかなかここまではっきりと言ってはくれない。

「昨日の夜、してねーの?」

「おにーさん」は一瞬言葉に詰まって、「……したよ」とやはり素直に認めた。

「マジで? 何でしたの?」

「昴星と……、流斗が、去年の年末に一緒にしてくれたときの……、見て。二人のパンツ、嗅ぎながら……」

 まだ、昴星の手のひらはゆるゆると大人のペニスを撫ぜているだけ。しかし「おにーさん」は昨晩の記憶を蘇らせたようにそこを震わせる。

「おにーさん、ほんとにおれらのパンツ好きなー……」

 頬を当てて……、その熱が、昴星の心に火をつける。「いま穿いてんのも……、もっと汚したら、おにーさんにあげる」

 才斗に、「おにーさん」に、これまで譲った使用済みブリーフの枚数はいったいどれほどの量になるだろう? 譲ることに昴星が喜びを感じるのは、恋人たちが一人の時間、間違いなくその汚れた布切れで自分を慰めているということが判るからだ。

 自分の存在が誰かを喜ばせるための役に立っていると、判るからだ。

 たいして顔よくない、という自覚を昴星は持っている。才斗みてーにカッコよくねーし、流みてーに可愛くもねーし、そのくせ女子とよく間違えられる。でも、こんな自分を「好き」って言って、こうして一緒にいるだけでちんこ硬くしてくれる人が、おれにはいるんだ……。

「昴星……」

「おにーさん」の手のひらが昴星の髪に乗せられた。口いっぱいに頬張ったとき、舌の上で上顎の下で、性的な肉が弾む。「おにーさん」の性器は臭いも味も薄くて、でもとても逞しくて、こうして口にするだけで昴星はいつも激しく興奮する。

「んふー……」

 見上げたところで「おにーさん」はぎこちなく微笑む、「本当に……、可愛いね、昴星は……」自分には似合わない形容詞でも、この人は本気でそう言っているのだと判る。もっともっと幸せになってもらわなきゃ。おれがうれしいのの何倍も、この人をうれしい気持ちにさせなきゃ。その思いをこめて、昴星は舌を動かす。

 けれど、才斗のそれよりも大きいものをずっと口に入れっぱなしには出来ない。頭を何度か往復させたところで口を外す。しかし顎の筋肉を癒す間にさみしがらせてはいけないと、昴星は舌先で自分の唾液に濡れたペニスをくるりくるりと舐め回す。

「ん……、おにーさんの……、ちんこ、おっきいの、超好き……。熱くってさ、ぴくぴくひてんの……、ひひ、ふっげーエロい……」

 口の周りもよだれでべしょべしょだ。しかし拭くことさえ思いつかない。夢中になって唇を当てていたところで、先端に腺液が滲んでいるのを見つける。

 それを、舌で掬い取る。

「んン……!」

 粘りけを伴うしょっぱさが、昴星には最高に甘美なものだ。愛しい人の、欲の募った証。この味を感じられるから、昴星はフェラチオという行為そのものが好きなのだ。……こんな嬉しくっていいのかな、おれはおんなじぐらい嬉しくさしてあげられてんのかな……。「おにーさん」の喜びの証にさえそう思ってしまう昴星である。

「口に、出してよ……? ちんこ、いっぱいするからさ……」

 そう強請って、再び口の中に収める。「おにーさん」の息が震える。こうなればもう、多少苦しく思えたとしても口は外さない。喉の奥を貫かれたって構わない気持ちで頭を動かし、どんなに下品な音を立てても平気でただ「恋人」の快楽を生み出すために……。口の中は昴星自身の唾液と「おにーさん」の腺液でぬるぬるのびちょびちょで、それさえ滑りがよくなるならいいと思って。

「昴星」

 掠れた声で「おにーさん」が言う。「いくよ……」

 うん、欲しい欲しい、おにーさんのせーし、ちょうだい早く早く早く! そんな思いで心が満ちたとき、ただでさえ器用な昴星の舌は一層よく動く。それがどれほど「おにーさん」を喜ばせるものなのかは昴星自身もよく判ってはいないのだけど、……少なくとも少年の舌が一番いとおしく思える味の粘液が、褒美のように齎されることになる。

 口の中で苦しいくらいに熱くなっていたものが、弾けるように思われて。

 舌は、どろっとした雄の体液の味と重みを感じる。

 すぐには、飲み込みたくない。もっともっと味わっていたいから喉を堪えて、でも一滴たりとも零さぬように吸い上げながら頭を引く。口の中では青い臭いの味の、大好きな「おにーさん」の幸せの証が満ちている。

 それを、

「んん……んー、っふ……」

 一息に飲み込む。

「ぷはー……」

 胃に落ち行く液体の臭いが自分の息に乗って余韻となる。よく知りもしないくせにそれを「のどごし」だと思っている昴星である。

「ありがとう……、昴星、本当に気持ち良かった……」

 昴星は男性器の味が、そこからもたらされる液体の味が、とりわけ好きだ。才斗が昴星の臭いに物凄く興奮するのに呼応するように、昴星の場合は「味」なのである。それが一組の恋人として相応しく一致するものだとするならば、

「ひひ……」

 自分のような、……一般的には「ヘンタイ」と言われるような嗜好の男子を欲しがってくれる「おにーさん」は、間違いなくおれの恋人だ。

「ごちそーさま。おにーさんのせーし、やっぱおいしーね。いっつもすげー濃くって、いっぱいでさ」

「う……、ごめんね」

 いいのだ、それだけ、たくさん、おいしいからいいのだ。昴星はまだ余韻で震えている立派な肉に口付けをする。そして立ち上がり、「おれのもさー……、して欲しい……」とねだる。

「ああ、そうだよね。……ごめんねぼくだけ先に」

「いいよ。おれがさして欲しいっつったんだもん」

 布団は卓袱台横に敷かれたままだが、それは敷きっぱなしという訳ではない。「おにーさん」は案外几帳面な人だから、きっと午前のうちに干してしまったのだ。昴星も、そして流斗も、この部屋に泊まりその布団で「おにーさん」と一緒に寝るのが好きだ。ただそういう夜は尿道の緩い昴星であるから、「おにーさん」の布団をあまり臭くすることのないようにオムツの着用は避けられない。……どうもこの部屋に泊まるときは普段以上にオネショをしてしまう昴星である。家で寝るときにはこのところちゃんと寝る前にトイレに行くようにしている(六年生になる頃までそうしなかった方がどうかしている)から比較的安全に朝を迎えられることが多くなって来ているのに、ここに泊まると悪癖が露呈してしまう。……オネショをしても「おにーさん」が片付けてくれるし、甘えてしまうのかもしれない。いやそれ以上に、この部屋に来るときは自分の恥ずかしい姿をたくさん見てもらいたく思うがゆえに、水分摂取量が増えるということが大きな理由だろう。

 布団が自分を呼んでいるように思われる。しかし寝るなんてもったいない。

 外は寒いが部屋の中は暖かい。布団に入るよりももっと温かくなる方法を、昴星は知っている。

「おにーさん、おれのパンツ見たい?」

 下着を穿き直した「おにーさん」が顔を上げる。

「……うん、見たい」

 原則、彼は昴星のことを愛していても、自分から欲を口にすることを禁じているようだ。それは彼自身、自分の抱く欲の危うさを自覚しているからかもしれない。昴星は何をされたって構わない気持ちでいるのだが、こうして自分のペースでことを運ぶことが出来ることに文句もない。

「したらー、いいよ。ズボン脱がして」

 昴星はいつもウエストゴムのハーフパンツを穿く。長ズボンも持っているが、やはり脱ぎ履きしやすいハーフパンツを一番好んでいる。

 先程とは逆に、立った昴星の前に「おにーさん」がひざまずく。ブリーフも、その中身さえも幾度となく見せてきたのみならず「恋人」らしい各種の行為を数えきれないほど重ねて来たのに、彼はいまだに新鮮味と緊張感を失わないらしい。現役DSである昴星には「おれのなんて見てそんな面白いのかな……」と疑問なのだが、どうやら「ショタコン」にとって男児の下半身は相当に貴重なものであるらしい。

 ……まー、変な人に声掛けられたら大声出して逃げろって学校でも言われてるもんなー。

「じゃあ……、脱がす、よ?」

 目の前の男は、「変な人」に他ならない。

 本当だったらこんな風に喋ることだって問題が伴うような相手だ。……でも、いわゆる「変な人」の顔じゃねーよな、と昴星は思う。おれにイタズラするときのおにーさんの顔、ちっとも変じゃない、悪そうでもない。

「おにーさん」の指が、ぎこちなくハーフパンツを膝まで降ろした。はっ……、と彼の息は震えて、

「いつも……、通りなんだけど、やっぱり可愛いなあ……」

 微かな笑みとともに言葉をこぼす。

「おにーさん、白いの好きだよな」

「そう……、そんなことないよ。昴星の穿いてるのならどれでも好きだよ」

「さわんないの?」

 くい、と腰を突き出して昴星は訊いた。恋人の精液を飲み下した時には硬くなっていた幼茎はひとまず落ち着きを取り戻し、そこには主に陰嚢由来の膨らみがある。陰茎が短く小さい割りに、陰嚢は人並の大きさがある昴星の陰部である。

 前に「おにーさん」は昴星の陰茎を、「小さなタマネギみたいだ」と評したことがある。その小さなタマネギを才斗の買い物に付いて行ったスーパーで見かけたとき、「これかー……」としみじみ眺めてしまったものだ。まんまるで、先っぽちょっと尖ってる。……さすがに昴星の陰茎は「まんまる」ではないが、それでも「似ている」と思う気持ちは理解できた。

 ただそれ以来、あまりラッキョウを食べなくなった昴星である。

「おにーさん」の指が、ブリーフの上から昴星の膨らみに触れた。すぐに、まだ弾力があるそこに触れているだけでは足りなくなったか鼻を押し当てて、吸い上げた。

「ん……、ひひ。臭い?」

「おにーさん」はやや躊躇ってから、「……うん」とそれを認めた。

「でも、くせーの好き?」

「うん」

 今度は即答だった。

 あー、おにーさんはこういうとこがいいよなー……、昴星はまたも嬉しくなる。昴星自身も自覚出来ないような価値をことさらありがたがって可愛がってくれる人。だものだから昴星としても、この「ショタコン」の人のことを思い切り喜ばせてあげたくなってしまうのだ。

「じゃーさ……、ひひ」

 腰を一旦引いて、ウエストゴムを下げる。先ほどよりもほんのり硬くなっているのは、「おにーさん」に嗅がれているという幸福が快感を喚起するからだ。

「直接してよ。……こっちのほうが臭いよ?」

 硬くなりつつあっても、腰を揺らせばぷるんと弾む。この「おにーさん」はそうやって陰茎が揺れるところを見るのがことさら好きなようで、目の色が変わる。それでもなお、「いいの……?」と遠慮がちに訊かないではいられないような人だということも、昴星はよく知っている。

「うん。おれの臭い『好き』ってゆってくれる人ならおれのちんこ好きにしていーの」

 また、腰を突き出す。もう昴星の短い茎はすっかり上を向いていた。勃起しても角度が変わるばかりで膨張率という点ではほとんど変化を見せないのが「まんまる」であることと並ぶ昴星のペニスの特徴である。

「おにーさん」はいつものように慎重な手付きで、昴星の包皮をそっとめくる。射精の機能こそ備えてはいるもののご覧の通りの幼い輪郭で、真性包茎である。亀頭に触れられることにはあまり慣れてはいない。しかし皮の中から漂う臭いは他の誰よりも強いものだということは、……もちろん大いに恥ずべきことだと自覚してはいるけれど、それで喜んでくれる人のことが好きである以上は、昴星にとっては誇りである。

「すごいね……」

「おにーさん」は薄い目眩を覚えたように、一度ぎゅっと目を閉じて開いてから、言った。「いつもすごいけど、……今日は、なんだろう、いつもよりすごい気がする……」

「んー? ひひ……」

 そうやって褒めてもらうことを予定していた。予定通りであるから、想定以上の嬉しさに頬がひくひくする。

「午前中にさ……、才斗と遊んで、……才斗と遊んだらさ、パンツ、濡らすじゃん……?」

 別にそんなルールはない。しかし「うん」と彼は答える。だってこの人と遊ぶときに昴星のブリーフが最後まで乾いたままだったことなど一度もない。

「濡らした後……、お風呂には入ってるんだよね? その……」

 彼は、鼻が利く。才斗の嗅覚が先天的な才能のごときものだとすれば、この人のそれは努力の末に会得するに至ったものであると位置づけられるだろう。昴星に流斗、下着を汚す二人の「恋人」の側にあって、「どちらがどちらか判らない」ようではいられない。

 だから「おにーさん」は昴星の下半身の臭さが、その焦点たる陰茎からのみのものであり、他の肌からは漂わないことなどすぐに判別するだろう。

「一応、洗ったよ。洗ってないって言えば洗ってないけど」

 昴星のその言葉で、彼は察したようだ。

「……嬉しいけど、皮の中もちゃんと洗った方がいいよ?」

 複雑な笑みを浮かべて、改めて彼は昴星の「皮の中」に視線をやった。小さな尿道口が潤んでいる。昴星はその歳の男子としてはあるまじきほど尿道括約筋が緩い。その影響かどうかは判らないが、腺液の分泌量が多く、勃起するとすぐ濡れる。ブリーフを身に着けた状態でしばらく勃起しているだけで白布の内側に擦り付けたような跡がついてしまうことなど日常茶飯事だ。

 そういうことを思い出して、「ちょっと待って」と恋人を止める。中途半端に太ももで引っかかっていたブリーフを足元まで引き下ろして脱ぎ、裏返して広げる。やはりそこに、まだ新しい粘液の跡が付着していた。

「おにーさんのちんこしてて濡れたよ」

 下着は、汚れている。まだ穿き替えてから一時間程しか経過していないし、トイレにも一回しか行っていない。それでいて、五百円玉大の黄ばみがまさしくその場所にはあって、その中央にほど近いところ、出来たばかりの粘液跡はあるのだった。

「おお……」

 というような声が、「おにーさん」の口からは溢れる。

 この人、おれのきたねーパンツで今の声出してんだよなー……。

 ということはつまり、やっぱり、「おにーさん」はヘンタイだ、ということになる。昴星にとっては嬉しいことに、……嬉しくてたまらないことに。

 汚れた下着が恥ずかしいものであるということぐらい、昴星だって判っているのだ。だから今だって何の恥ずかしさもなくそうする訳ではない、……いや、そこらの六年生よりはずっと恥ずかしさへの耐性はあるつもりでいるけれど、事実として昴星の頬はほんのりと赤らんでいる。

 しかしながら、やっぱり自分の恥ずかしいところで「おにーさん」が喜んでくれるということには、かけがえのない価値があるように昴星は信じている。

「このまんまであげる? それとも、もっと汚くしてからあげる?」

「それは……」

 きっと、「どっちでもいい」って言うんだ、「昴星の好きなほうで」って。

 でもって、「昴星の幸せなのが、ぼくにとっても幸せだから」なんてを

 それは昴星も同じことである。

「じゃー、これはこのままあげる。いっつも真っ黄色なのばっかじゃちんこだらしねーみてーだしな」

「おにーさん」は何か言いかけたが、昴星の差し出した下着を受け取り「ありがとう」ぺこりと頭を下げた。

「でも、替えのパンツもあるし」ちらりとカバンに目をやる。昴星はこの部屋で遊ぶときには、いつでも「着替え」という言葉では括りきれない量のブリーフ他を持参するのが常だった。「あとでオモラシしていい?」

「おにーさん」はこっくりと頷いて紅くなる。昴星にとっては、喜びそのものの色である。うつむいて手元の柔らかなブリーフの汚れをじっと見つめている恋人に、「ちんこして」と昴星はねだった。

「うん……、じゃあ、いただきます」

 お腹こわさねーのかな、と咥えられる寸前に思った。臭い、ということは「汚い」と同じだと、昴星は理解している。……しかしながら、ときに才斗の尿を飲むことがあってもそれほど腹が痛くなることはない。ということは、おにーさんもきっと大丈夫……。

「うは……」

 小さなペニスが一口に収められる。温かい舌はいつも器用で、昴星の陰茎のフォルムを包み込むように愛してくれるのだ。しばらく口の中でくるりくるりと弄ぶように舐めまわされ、腰が震えを催す。

「ん、ひ……、おにーさん、キンタマもぉ……」

 昴星がそう請えば、恋人はすぐ口から抜いてそちらを咥える。歳より幼い場所ながらそこばかりは発達した機能を持つ、二つの珠が収まりふっくらした場所を丹念に舐められるのが、昴星は好きだった。「おにーさん」の視線が、陰嚢を口に含まれてピクピクと強張る幼い芯を間近に見つめている。それが焼けるように思えるほど、どきどきする。

「おにーさん、おれの、……ちんこ、好き……? ちっこいの、好き……?」

「うん……」

 恋人の吐息は熱かった。「すごく、好きだよ……。昴星のおちんちん、すごく、可愛い……」

 正直すぎる思いがくすぐったい。けれど反応するのは心ばかりではなかった。昴星は肛門が無意識のうちにギュッと引き締まり、ビリビリと「おちんちん」なんて可愛い呼ばれ方をされた場所に震えを走らせる。

「ごめんね、待たせちゃったね……」

 優しく微笑んだ恋人は、再び昴星の茎へと唇を当てる。ぬるつく欲の証はもう、勃起状態でも先まですっぽり覆うのみならず余った皮の縁まで濡らしていた。「おにーさん」はそっとそれを吸い上げて、そのまま口の中へ差し込む。

 舌先は皮をにゅるにゅるとくすぐり、時折敏感な亀頭にまで届いた。

「お、おにぃさ……っ、ひ、ひっ、きもち、いっ」

 スイッチが入ったように、声が止まらなくなる。しっかりと腰に尻に「おにーさん」の両手が回されていた、しかしそれがなかったら、腰を前後に揺すっていたはずだ。舌は器用に昴星の皮を剥き、茎を舐め回す。吸い上げられて、昴星は陰嚢がきゅんと染みるような心地になる。

 そうなると、

「お、おっ、ちんこぉっ、すっげ、おにぃさっ、ちんこっちんこすごいっ、すごいっちんこちんこっ」

 言葉がひたすらに零れ落ちるようになってしまう。……いつからか、こうなのだ。昴星は快感が高まると自分が何を言っているのかさえわからなくなる。「おにーさん」に、「いつもたくさん言ってるよ」と指摘されても、……そうかなあ? と思うのだけど、後からそんなシーンを撮影した動画を見せられ事実と直面して真っ赤になる。この悪癖にしたってオモラシと同じで、恋人が「可愛い」と言ってくれなかったなら恥ずかしいだけのことだ。

 昴星の声を耳にして、「おにーさん」の舌遣いは一層激しいものとなる。

 そうなれば当然、

「んひっ、あ、あっもぉっ……ちんこいきそっちんこぉっおほっにぃさっあっ」

 昴星の上げる声もより弾む。

 二人で幸せをやり取りしあって、どんどんと大きくして行くのである。

「いっ、ちゃっ、おにさっおれいっちゃういっちゃうっちんこいっひゃぁっ! っぁあ!」

 そのまま、昴星は恋人の口の中で幼茎を弾ませた。濃くて、熱い塊が尿道を押し広げて恋人に受け止められることとなる。

「ふあぁ……は……ぁ、せーし……、出た……、せーし出たぁ……」

「おにーさん」にされると、いつもこうだ。恥ずかしい声をたくさん上げて、あっという間に射精まで至ることとなってしまう。一人でするときはこんなじゃねーぞ、もっとこう、あんまそんな何か言ったりしねーし、あと、もうちょっとガマンできるし……。

 要は、「おにーさん」は上手なのだ。そしてそれ以前の問題として、愛してくれているのだ。だからこの身体ははしたなくなる。……それで問題があるなら改善の努力もするのだが。

「おっと」

 恋人の手が離れるなり、腰から力が抜けて身体が崩れかけた。「おにーさん」は慌てず騒がずしっかりと昴星を抱え、そのまま自分の膝の上に座らせた。「おにーさん」はトランクスを穿き、昴星は裸だが、上半身はともにまだ温かいセーターを着たままでいるのが少しおかしい。

「大丈夫?」

 問いを口にした唇に、そのまま昴星は唇を重ねる。彼は一瞬驚いたようだったが、すぐに昴星の髪へと手を乗せ優しく撫ぜながら応えてくれた。……こうゆーの、流ぐらい可愛いとか、あとまだ四年生とかならいいんだろうな……、と思う。しかし、したい、されたい、……優しく、甘ったるく。恋人の口は、昴星の出したものの味がしたけれど。

「ふー……」

 ひとまず、人心地。父親の膝にだってもう乗らなくなって久しいのに、この体勢に落ち着いてしまう。

「気持ち良くしてあげられたかな」

「ん、っつーか、せーし出たじゃん、気持ちよくなきゃ出ないよ」

「ま、まあそうだけどさ……、でも、出来る限り上手にしてあげられたらって思うし……」

「おにーさん最初っからすげー上手だと思うよ? おれのちんこあんなおいしそうにしゃぶんの、おにーさんだけだよ」

 才斗はいつも「臭い」と言うのだ。臭いのが好きなくせに。

「あと……、何だろう、ぼくが昴星に興奮するのはね、あんまり一般的じゃないだろうけど、でも、自然なことだとも思うんだよ。昴星はすごく可愛いから」

 それにはあまり納得が出来ないけど、まあいい。昴星は続きを促す。

「でもね、昴星から見てぼくは、そんなに魅力的じゃないと思うから。……ただのヘンタイの、ショタコンだからさ」

 自信なさそうに笑う。

 昴星は「おにーさん」の頬をつねった。「いーんだよ、おにーさんがヘンタイのショタコンでなかったら、おれおにーさんにちんこしゃぶってもらえなくなっちゃうだろ? それにおにーさんは、魅力的かどうかはわかんねーけど、おれの『恋人』だからいいの。才斗とおんなじくらいおれのこと知ってて、おれが好きな人だからいいの」

 そんなたいしたことを言ったとは思っていない。しかし昴星は抱き締められた。それはシンプルに、ごくシンプルに、嬉しい。だから頬を摺り寄せる。こんな風に甘やかしてくれる人のことを、多分「魅力的」って思っていいはずだ。

「……なー、おにーさん、オシッコしたい」

 流斗がいたらこんな風には甘えないだろう。そういうのは、あいつのほうがずっと上手いし、可愛いと思うから。

「オシッコ……、わかった」

 腕が解かれ、昴星は膝から下りる。座ったままの「おにーさん」のちょうど目の高さで、勃起のすっかり収まった幼茎を揺らして見せてから、もうセーターもシャツも靴下も脱いでしまう。恋人は眩しそうに昴星の全裸を見ていた。

 カバンの、「どれがいい?」口を開けて中を見せる。今日穿いてきたのと同じ白ブリーフが二枚に、青と黒の男らしいボーダー、それから細かな濃淡グレーのボーダー、そしてピンク色の女児下着に、紺色の水着もまた男女両方のものが入っている。

 これだけのものを、いつも持って来る。「おにーさん」が「見たい」と思ってくれたものを穿いて失禁することこそ、自分のしなければいけないことだと昴星は信じて疑わない。

「どれでもいーよ」

 これだけ持っていても、昴星の下着はすぐになくなる。才斗と「おにーさん」に次から次へ譲ってしまうからだ。異工同曲で臭いだって毎度変わらないと思うのだけど、それでも「欲しい」と思われることがまず喜びだし、恋人が自分のいないところでその下着でオナニーをしているかもしれないと想像するのははっきりと幸せなのだ。

「……こんなの、持ってたっけ?」

 彼はやはりピンクの女児下着が気になったらしい。

「こないだ、才斗と買ったんだ。あいつと一緒にさ、服屋行ってさ」

 昴星にとっては自分が何と無く「女っぽい」顔立ち身体つきをしていることは別に嬉しくもなんともない。そりゃーちんこちっちゃいかもしんねーけどさ、でもちゃんとおれ、男だし。性格はこの通り男らしく雑であるのだが、その柔らかな曲線で描かれる顔や身体によって(ちゃんと男らしく活動的な格好でいるのに)いまだに女と間違えられる。

 そんな昴星であるから、より背が高く大人びた才斗と一緒に手でも繋いで、髪の毛にもちゃんと櫛を通して少しばかりおすまししてやれば服屋の店員の目を欺くことなど容易く、可愛らしい女児下着を自力で入手することだって出来るのだ。以前にも一度、この「おにーさん」の部屋を女装して訪れて彼を驚かせたことがある。

「ぜんぜんバレなかったよ。いやひょっとしたらバレてたのかもしんねーけど、なんも言われなかったし」

「はあ……、そうなの」

「じゃー、これにしよ。……ひひ、これなー、すげーんだよ、ほら」

 特に変哲のあるものではない。ブリーフに比べてやや窮屈なのは仕方が無いとしても。それより特筆すべきなのは、「じゃーん」と取り出す、その下着の「相棒」とも呼ぶべきもの。

「ブラ。これとセットで売ってた」

「おにーさん」は口を開けたままだ。

「おにーさんさ、ショタコンだけどロリコンじゃん」

 彼が真っ赤になって否定しようともそれは事実であって、この「おにーさん」は昴星と流斗という「恋人」がありながら、他方では年齢的には二人の丁度間、五年生の少女ともそういう付き合いがあるのだ。けしからんという思いはあるものの、……昴星としても女子の身体に興味がないわけではない。彼を介して女子と「エロいこと」が出来るというのは喜ばしいことだ。

 問題は、「おにーさん」が男子のみならず女子の裸にも興奮する、という点である。これは男子でありながら女子に間違われやすい昴星にとっては、むしろ好都合であるとさえ言える。女児下着の上下を抱えて、

「おにーさん、おれが『いいよ』っつったら入って来てよ。……ちゃんとカメラも持ってさ」

 昴星は言って、トイレに入る。

 自分の痴態を撮影させる、というのがどれほどリスクのあることかとは、理解しているつもりだ。

 しかし、「おにーさん」は誰かにそれを見せるだろうか? ……そんなことはありえない。だって彼は、自分のしていることの罪深さを常に自覚している。だから記録されたものは常に、個人的な寂しさを埋めるためだけにしか用いられない。

 だから下着を譲るように、どこまで追求したって喜びにしかならない。

「えーと……、こうか。……っと、よ……、っと、あいてててて!」

 慣れないブラジャーを着けようとして、危うく腕がつりそうになる。「大丈夫?」と慌てたような「おにーさん」の声、昴星も慌てて「だいじょぶ!」と答えるが、……女子っていっつもこんなんしてんだなー、あいつら大変だなーと心から感心する。

 昴星は男子であるからもちろん「乳房」と呼べるようなものはない……、はずなのだが、自分のその場所がほんのり膨らんでいることまでは否定出来ない。才斗にはしょっちゅう「痩せろ」と言われる。実際、数値的にはそれほど肥満しているわけでもない昴星なのだが、身体のフォルムは何と無くだらしなくて、お腹も丸い。背が低く、まだ身体が未発達であるがゆえに現れてしまう身体の「無駄」ということにはなるのだろうが、あまりみっともいいものではないとは思っている。くいしんぼうであることもまた、本当である。

 しかし結果として、ちゃんとバストのある女子には小さめであろうブラジャーも、昴星にはちょうどいい。ほんのりした胸の膨らみ、……谷間、と呼ぶかどうかは見る人が決めればいいこととして、多分、似合ってしまっている。

 しかるのちに、陰茎が小さいとはいえブリーフより窮屈なパンツを上げ、便座に腰を下ろしたところで、

「いいよー」

 ドアの外に向けて昴星は言う。

 呼吸ひとつ分の時間を挟んで、「おにーさん」がドアを開けた。

「ああ……、……ああ」

 彼の口からはそんなため息交じりの声が漏れた。

 手にはカメラ。昴星は「おにーさん」とカメラのレンズに微笑んだ。

「どう? コーフンする?」

「する……、すごい、可愛い……。前に水着見せてくれたときも思ったけど、昴星にそういう格好って本当によく似合ってるよ……」

 他にもこの人に見せたのは、……ガーゼで作った褌、オムツ、など。どんな格好をしたときでも、この人は必ず喜んでくれるのである。そういう人であるからこそ、昴星としても頑張らなくちゃと思える。

「ひひ。おにーさんこれから女子とすんだよ?」

 前の膨らみを隠して、挑むように言った昴星は両手を恋人に伸ばす。恋人は嬉しそうに顔を寄せ、昴星の望むままにキスをして、「嬉しいよ。こんな可愛い子と出来るの、すごい嬉しい。……でも」

「……でも?」

「いまの昴星はそんじょそこらの女の子より可愛い。本当に、すごいと思う……。ぼくは幸せ者だね」

 言って、またキスをくれる。

「もー……、あんまキスすると、オシッコ出なくなる……」

 キスだけでそんな風になれる関係ってすげーよな、と昴星は反応しそうな身体さえ誇りに思って恋人を離した。彼は便座の上に立ち上がった昴星の全身をくまなく撮り、とりわけ下着の中央の丸い膨らみへ、舐めるようにカメラを寄せた。

「男の子のパンツより、生地が薄いね……。タマタマとおちんちんの形が見える」

「んー、女子はここ何もねーもんな。あ、でも内側のさ、アソコあたるとこは布が二枚重ねになってたよ。そうゆうのは男子のといっしょだよなー」

 きっと女子も、そこがオシッコでちょっと汚れちゃうんだろうな。だけど表から見たときには大丈夫なようにそういう形になってるんだ……。

「したら……、オシッコしていい? もう出ちゃいそう」

 妙な話だが、下着を身に着けてから急激に尿意が強まった感がある。昴星の尿は常に、それを悦ぶ者のためにある。……本当にいつでもそうならいい、けれどそういうわけにも行かないから、学校ではもちろん休み時間のたびにトイレへ行くのだが。

 我慢しなくてはいけないという思いが尿意を募らせることはある。……授業中や、電車に乗っている時など特に。他方、「いつでもいい」というリラックス状態ならばずいぶん長いこと我慢が出来そうなものだけど。

 パンツを穿いて、恋人を前にして、……尿意は自分が歓迎されていると思うのだろうか。

「はぁ……!」

 放尿のために何処かに力を入れたり、逆に力を抜いたりという行為は全く必要なかった。上から下へ、膀胱から尿道へとただ流れ落ちるように(実際はそういうもんでもない、と才斗が教えてくれたことがあるが)溢れ出し、下着の膨らみを勢いよく自らの尿で濡らして行く。盛大な失禁だ、……みるみるうちに下着は濡れ、吸い込める量をあっという間にオーバーし、股下から、あるいは太ももを伝って垂れ流れる。

 その液体の出処が人より臭いと言われることが多いなら、そもそもこうして溢れさせる液体の臭いだって昴星自身、才斗や流斗と比べても強いことを自覚している。足元から漂い上がってくるのは強烈な尿臭で、新しくはない割に清潔感のある恋人のトイレをこんな臭いで覆ってしまうことに申し訳なさすら感じてしまう。

 しかし、その「臭い」液体を吸い込んだことによって、それ自体が吸い付くような女児下着の感触は甘ったるいものだ。昴星の放尿の勢いは未だ収まらない。布の内側から湧き出す液体は少年自身も驚きを覚えるほど金色で、熱い。

 それを長々と噴き出させる昴星のペニスは、とっくの昔に硬くなっているのだった。「おにーさん」を興奮させるための行為で昴星自身も興奮を催すのだから、これは先ほどのフェラチオと質的に少しも変わるものか。

「ひひ。オシッコ、金色してんの……っ」

 肛門をきゅっと引き締めて、一度、昴星は尿を止める。「おにーさん」の前で便座に尻をというより背中を預け、下着からペニスを取り出す、……その間も、震えを伴って尿道に強い尿意が刺さり、間歇泉のようにぴしゅ、ぴしゅっと噴き出してくる。でも、まだ出せる。そんな確信を得て、昴星は残りの尿を自分の身体目掛けて一気に放出するべく、肛門に力を込めた。

「うふぁっ……」

 少々勢いが強過ぎた。顔に直接、黄金色の噴水がかかってしまった。しかし昴星の意図通り、新品のブラジャーも黄色く汚れて行く、……右も、左も。

 ようやく尿の勢いが収まり始めた。胸から腹へ伝い、やっと、全て出し切った感覚を得る。と同時に全身に震えが走った。

「ふ……はぁ、……ひひ、オシッコ全部出たよー……、超あったけーの……」

 下着の中にペニスをしまう。じっとり濡れて悪臭を放つ膨らみを左手で包み、カメラを真っ直ぐ見上げてピースサインを送って見せた。恋人が下着の中でまた性器をがちがちに硬くしているのが見える。……おれを見て、おれのオシッコの臭いで、おにーさんそんななってんだ……、嬉しくって嬉しくって、どうしたって笑ってしまう。

 サービスしたい、という衝動が止まらない。「おにーさん」昴星は両手で自分のブラジャーを、上にずらした。湿っぽい自分の乳首を見せる。そんな風にするとき、昴星は自分の胸が女子のそれのように「本当は見せちゃいけないところ」であるかに思えるのだった。

 おかしなことだと自覚してはいるのだが、……このみっともない「オモラシ」や、大して見栄えのいいわけでもない「おちんちん」に「おっぱい」も、そもそも自分という存在そのもの、敢えて誰かに見せるべきではないと思えば思うほど、「おにーさんには見て欲しい」という気持ちになる。

 しまったばかりのペニスを思い直して取り出して、陰嚢の下まで下着を下ろす。

「ひひ……、女子のパンツとブラだけど、男子だよ。ちゃんとちんこ付いてるし、あと女子のアソコはないけど、でも、おにーさんとエロいこと出来るんだ」

 乾いた段階からして全くいい臭いなどしなかった場所は失禁を経てますます臭くなっているはずだ。「おにーさん、ちんこ撮ってよ、アンドおっぱいもー……、オシッコでびちょびちょにしたから、きっとおいしーよ……?」

 皮を、また、剥いて見せる。勇気を出して指先を亀頭に当ててみればすぐ、ぬるんと滑る。興奮の露がもう止まらない。……もっとそばで見て欲しいな……、などという願いは、声に出すまでもなく叶えられた。

「もう……、オシッコだけじゃないね、ぬるぬるが出てる……」

「んひひ……」

 嬉しいから、腰を浮かせて突き出す。レンズに触れてしまいそうなところまで寄せて、まだ弱々しい色の亀頭と潤んだ尿道口を見せびらかすのだ。

「だってさ、オモラシ、すげー気持ちィもん……、おにーさんにね、オモラシするとこ見てもらうの、好きだもん」

 指を離すとまた皮は被る。丸く、「タマネギ」みたいになる。しかしタマネギの芽の部分、余った包皮の隙間には残尿と腺液が混ざったものがきらきら光っていて、自分のものながらその様子はちょっと綺麗であるようにも思う。指先を突っ込んで抜けばトロトロで、長く糸を引いた。

 粘液を纏った指先を、両方の乳首に触れる。片手だけでは足りず、両手で乳首を捏ね回しているだけで、

「ん……、んん……ふぅ……ン……」

 声は零れ出す。男はほんとはこんなとこで気持ちよくなったりしねーんだぞきっと……、恥ずかしいけれど、自分の身体全体をフル活用して恋人を煽る。

「ひ、ひひ……、おっぱいって、ちんことおんなじ……、いじるとコリコリしてくんのなー……」

 流斗ほどではないが、才斗よりもずいぶん色の薄い乳首は、粘液の艶を帯びて白くしこりとなった。こんな小さい粒では「ちんこ」とは言い難いと解ってはいるけれど、……あまり勉強が得意でなく頭も良くないという自覚でいる昴星ながら、性質の類似性を言い当てた気になるのだ。

「昴星……」

「おにーさん」は名を呼んでしばし、じっと乳首を撮影していたが、糸が切れたように昴星の右の乳首に吸い付いた。不意に強く座れて、

「んぉあ、お、おっ……!」

 昴星は激しく震える。不思議なもので、吸われている場所に端を発して腰に電流が走ったようにビリビリ、痺れるのだ。思わず恋人の頭を抱き締める。「おにーさん」は口の中で昴星の乳首を執拗に舐め、転がしている。

「お……、はぁ……っ」

 ぽん、と口から乳首が解き放たれる。吸われた方ばかり、ほんのり赤味を帯びて、やたらとエロくさいものに映る。今まで口にしていた右の乳首を指で摘み、左に「おにーさん」の口が移る。同じように強く吸い上げられながら、昴星は腰を譲り、無自覚のままに少量の尿を陰茎の先から噴き出させていた。

「昴星、すごい、おっぱいがえっちだ……」

 乳首のみならず、胸全体にキスを落として「おにーさん」が囁く。

「お……、おっぱい、えっち……?」

「うん……、その、男の子なのに……、こんなにおっぱい可愛いなんて……」

「そう、……なの? 由利香のほうが、ちゃんとあるじゃん……、あいつのはもっとやらかいんじゃ、ねーの……?」

 由利香、昴星や流斗と同じく「おにーさん」にとっては特別な存在であり、唯一の女子である。昴星と流斗と「おにーさん」は三人同時に由利香と出会い、以降はこういう愉楽の時間を共有することとなっている。

「そうだけど……、でも、いまの昴星は誰かと比べられない。それぐらい、えっちだと思う……」

 絞り出すような恋人の言葉に、昴星の心もぎゅっと引き搾られる。

 この人が欲しい。

 身体の中で思いが熱となり、止められなくなる。……まだこれから流が来るんだ、そしたら三人でもっともっと楽しく遊ぶんだ、……そういう予定をきちんと理解しているくせに。

「おにーさん、おにーさん、おにーさんも服脱いでさ、抱っこしてよ」

 ぎゅっと抱きしめて、またねだる。「おれ、おにーさんのちんこ欲しい。うんこするとこ撮って。でもって、お尻やらかくなったら、おにーさんのちんこ入れて」

 その願いを全て、「おにーさん」は叶えてくれる。

 だからこの人は、昴星の「恋人」なのだ。

「わかった……、待っててね」

 一旦トイレから飛び出して行った恋人は、三脚を持って戻ってきた。便器の正面にカメラを据え付けて裸になり、昴星を後ろから抱き上げて座る。

「いいよ……、して見せて」

「ん……」

「おにーさん」が昴星のパンツを脱がせ、太ももを抱え上げた。大きく開かれた足と足の間、きっと、肛門まで撮られてしまっているのだ……。

「ひひ、……じゃー、うんこ、するよ? おれのうんこするとこ、おにーさん、前と後ろから、見ててね……?」

 いま自分を抱き締めてくれる人が、一人のときに寂しくないように。

 そう願いながら、昴星は肛門に外向きの力を入れる。大きなガス放出の音がトイレの中に響いた。

「んくっ……、あ、あは、すっげー、太いの出るよぉ……!」

 自分の身体の大きさで同性の性器をそこに受け止めるのは容易ではない。だから考えついたのは、腸内環境を良好に保ち、太く健康的な便をすることで解すというやり方だ。

「んんっ……、んふー……ッくんっ……」

 小便の我慢の能力については、未だにオネショが治らないほど問題のある昴星ではあるが、大便で失敗したことはない、……いや、全くないかと問われればそうとも言い切れないものの、派手に「やらかした」ことは幸いにしてない。元々胃腸は丈夫で、だいたいいつでも快便である。その上にバランスのとれた食事をしたり、繊維質を意識的に摂取したりすれば少年の肛門からは大人顔負けに立派な便が排出されこととなる。

 全く緩んでいないところに指や男根を突っ込まれれば痛いに決まっているが、どっしりとした便を排出した後であれば……。実際に昴星も流斗も、そのやり方でこの「おにーさん」の頑丈なペニスを受け入れて来ているし、痔の兆候も見られない。

 それに、

「おにーさん、んっ、うんこ、見て、……おれのうんこでっ、いっぱいちんこ気持ちよくなって、くれよなっ……」

 太いものをひり出す自分のそこが性的なものであろうとも、昴星は思うのだ。

「うん、……昴星のうんちも、お尻もおっぱいも可愛いおちんぽも、いっぱい見てたくさんオナニーするよ……!」

 後ろから、両方の胸を鷲掴みにして揉みしだきながら「おにーさん」が囁く。

「んひひっ、ん、ちんぽっ、おれのちんぽ、オシッコまた出てるぅ……っ、ちんぽ見て見てっ……」

 排便の勢いのままに再び吹き上がった尿が自らの身体へ温かく降り注ぐ。

 この人が嬉しいと思ってくれるのならば、自分がこういう形の生き物であってよかったと昴星は思うのだ。膀胱括約筋が緩くて、六年生の三学期に入ってもオネショが治らなくて、……そもそも失禁をしたり、自分の尿をこうして身体に浴びても平気な自分にどれほどの問題が伴ったとしても、こうして、

「可愛い……、本当に大好きだよ、昴星……」

 幸せになってくれる人がいてくれるのならば。

 ……ちゃぽん、と音を立てて、便器の中に昴星の太い便が滑り落ちた。しばらくはまだ、開きっぱなしになっているはずだ。自分では直接見られるはずもない場所がどんな風だか、……流みてーに可愛い感じだと嬉しいな、と昴星は願わずにいられない。

「ん……、おにーさん、ちんぽ」

「うん……、どうしよう、ここでする? 布団の方がいいかな……」

 どっちでもいいよ、と思うが、少し考えて「ふとん」と言う。キスがしたい、でもって、もっとエロいとこおにーさんに見せたい!

 それにそもそも、……いくら太いものをしたってこのまますんなり入れられるわけではないことぐらい昴星だって了解済みである。ちゃんとぬるぬるつけて、アンドおにーさんもゴムつけて。

「抱っこ」

 甘えれば、甘えた分より多く甘えさせてくれる。「っお……」まさか、いわゆる「お姫さま抱っこ」されるとは思っていなかったけれど、

「女の子の格好して可愛い昴星だからね」

 恋人は優しく笑う。

「もー……、『お姫さま』がこんなデブなの、ダメじゃん……、つーか、もうパンツ脱いじゃってるから女子でもねーし」

「多少お肉が余ってるぐらいが、昴星は美味しそうに見えるよ」

「そうなのかなー……」

 昴星としては正直なところ、複雑である。同い年でありながら背が高くスラッとスマートな才斗の体型をカッコいいと思うし、大人になったら「おにーさんみてーに背ぇ高くなりたいな」と思うのだ。

 このまま成長して行ったら、あんまいい感じにはならなさそうだな……、という不安も抱いている。でもせめて、……いくつになってもこんな風に、大好きな恋人に「抱っこ」してもらえるぐらいの身体ではいたいと願う。

 布団に下ろされ、尻を拭かれ、……ローションは、昴星自身が自分で塗り付け、穴も指で広げる。

「おにーさん、見てー」

 自分の肛門が、器用な力の抜き方によって指を三本まとめて深々と飲み込んでいるところを見せる。ゴムを装着していた「おにーさん」は、

「おお……、すごいね……!」

 正直に驚いて見せてくれた。

「んひひ……、だってさ、ダテにおにーさんのでけーちんぽ入るお尻じゃねーもん、……勃起した? ちんぽ入れたくなった?」

「それは、さっきからずっとだよ……」

「見して、……おー……」

 ガチガチに硬くなっているのに、ピンク色のゴムをかぶっている様は「エロい」と同時に「なんか、変なの」と思わされる。何だかちんぽにリボンつけてるみてーなんだよな、ゴムって……、昴星はそんな思いを抱き、「あ、そっか」と自分がなぜそう思うのかに納得がいく。

「ん……?」

「ゴムってさー、おにーさんのちんぽに着けるオムツみてーなもんだよな」

「はい?」

「だってさ、せーしがおれのお尻の中に出ねーようにしてんじゃん? だったらそれさ、パジャマのズボンの中にオムツ穿いてズボン濡らさねーようにすんのとおんなじじゃん」

 おれは別におにーさんがおれのお尻に「オモラシ」してくれてもぜんぜん平気だと思うけどなー、……しかし(男同士では子供が出来ないことを双方了解の上でも)恋人がそれをしない理由はなんとなくわかっている。いくらおにーさんのこと好きだしおにーさんが好きでいてくれるってわかってても、……ちんぽ、うんこに突っ込んで欲しいとは思わないな。

「まーいいや、おにーさん横んなって」

「うん……、こう、仰向けになればいいのかな」

「そうそう。でもって、えーと」

 トイレに置き去りの三脚付きカメラを持ってきて、「こう、……こんな感じかな?」恋人の頭の後ろ、三本の脚を思い切り広げて視座を低く固定する。自分の顔まで映ればいい、あとは、おれがちゃんとおにーさんのとつながってるところも、出来れば。

「こうゆうの、ハメ撮りって言うんだろ?」

 昴星はにひひと笑って言う。「おにーさん」は、

「どうだろ……、どっちかっていうとそれは、ぼくがカメラを持って昴星と……、するのを言うんじゃないのかな」

「そうなの? んーでもいいや。……ほら見ておにーさん、おれのちんぽ」

 皮の隙間からもう、蜜が溢れ出している。それが陰嚢まで伝っている。嬉しくって嬉しくって仕方がない。この人と、一つになれる。

 肛門の奥が熱を求めているのを、昴星ははっきり感じた。いとおしい熱の塊に手を添えて、真っ直ぐにそこへ、腰を下ろして行く。

「んおぉ……!」

 十分広がったはずなのに、まだぬちぬちと音を立てて昴星は「開かれていく」感触を味わう。

「お……っ、ほぉ……、ちんぽ、……やっぱ、おにーさ、ちんぽ、でっけー……え、ん、んふっ、見える? おにーさんちんぽおれの中、入ってんの見える?」

 こく、と「おにーさん」は顎を引いた。「入ってる。昴星のお尻も、おちんちんも丸見えだよ。昴星が気持ち良くなってるの判って、すごい嬉しい……」

「んひっ、だってさ、だって、おにーさん、好きだもんっ、おにーさんのことっ、好きだから、おにーさんのちんぽだって大好きだよっ……」

 指では到底届かない最奥を、熱が突き上げる。無意識のうちに恋人と手を繋いでいた。

「重たく、ない……? おにーさん、へーき……?」

「うん。……何て言うか、ちょうどいい。昴星のお尻がこう……、ちゃんと昴星としてるって感じがしてさ、いい……」

 しょっちゅうこうして、くすぐってくれる。けれど身体は震える。言葉一つでこんな風に、恋人は昴星を高ぶらせる。

「おれ……、んっとに、おにーさんのこと好きだなー……。おにーさんとつながってんの、ほんとに、すっげーうれしい……」

 キスしたいな、でもしたら、おにーさんがちんぽ見えなくなっちゃうな……。

 そんなことを気にしていたのに、恋人は腹筋を使って起き上がり、唇を重ねてくれる。

「ぼくも嬉しい。昴星がいるってそれだけで嬉しいのに、こんなこと出来るんだもの……」

 昴星にも、伝わってるよね? 「おにーさん」が囁く。腹の底でピクリと熱が脈打つ。こく、と昴星は頷き、もう一度キスをする。

「……おにーさん、見ててね? おれの、エロいとこ、いっぱい……、ちんぽ、おれたぶんもう、お尻だけでいっちゃうから……。もう、ヌルヌルだし、……おれの、恥ずかしいけど、おにーさんが好きって言ってくれんの嬉しいから、だから、全部見せるから……」

 それが、中性的な外見でいながら極端なほど男らしい宣言であるということに、昴星は無自覚だった。「おにーさん」が再び横たわる。手を繋いだまま、身体を膝で支えて、

「んふっ、んッ、んっ、んンっ、お、にぃさっ、おにーさんっ、ちんぽっ、ちんぽ見てっ、おれのちんぽッ」

 声をあげて、身体を弾ませる。そんなに言わなくたって伝わるだろうよということは、冷静ではない今に考えられるはずもない。

「あはっ、ちんぽっ、ぺちぺち、ぺちぺちゆってるよぉ、おっ、ちんぽちんぽっひひっおれのっちんぽぺちぺちゆってるのぉっ」

「おにーさん」の腹部で小さく硬い球根のような陰茎は上下に弾む。快感の余りに粘っこい汁をあっちこっちへ撒き散らしながら喘ぎ、もう数え切れないほど「ちんぽ」と卑猥な言葉を口にする。全ては恋人の今のため、そして、一人で過ごすさみしい夜のため。

「昴星、……もう、そろそろいきそう……」

「おにーさん」が最大級の幸福を、昴星に贈る支度を始めた。

「あ、っん、おにーさんっ、おにーさんちんぽっせぇしっ、せーしだひてっ、おにーさんのせーしっ、ちんぽっ、ちんぽビクビクひゅるのっおしりっおれのおまんこっまんこっ、ちょうらいっ、いっ、ひっ、……んぉっ、おっ……おほっ……お、で、てりゅ、ちんぽっ、おにーさんのちんぽびくびくっ……ぅううン!」

 恋人の鼓動が昴星の性器を弾けさせた。……放尿と同じだ。堪えた分だけ、解放の快楽は増強される。熱い熱い塊が尿道を一気に押し広げ、白く濃い塊が射ち上がった。

 それだけで済めばまだ良かったが。

「お、は……っ、あはあぁあ!」

 精液が全て出終わった余韻に緩んだその場所から、続けざまに薄黄色のシャワーが迸る。

「あ、あ……あはっ、お、ひっこれちゃった……っ、オシッコぉ……、ひひっ、オシッコ、オシッコすんのも、っ、きもちぃっ……」

 昴星の精液ばかりか尿までも浴びる羽目になっても、「おにーさん」は怒らない。

「もう……、昴星のおちんぽはだらしないんだから……」

「ひひ、……おれ、ちんぽだらしない……?」

「うん、でもぼくは昴星のだらしないおちんぽが大好きだよ。いつまで経っても、もっと大人になっても恥ずかしいままでいたって、ぼくは昴星のことを好きでいるから……」

 嬉しかった。放尿が終わり震えが走った身体を、身を起こした恋人に抱きしめられ、幸せいっぱいのキスを受ける。

「おにーさん、ちんぽ気持ちよかった? おれ、重たくなかった……?」

「すごく気持ちよかった。っていうか、伝わってたでしょう?」

「うんっ、すっげービクビクしてた……。おにーさんのちんぽがね、おれのお尻で超いってんのわかって、嬉しかった……」

 流斗が着いたら、こんな風に「おにーさん」を独り占めするわけには行かなくなる。昴星としては流斗に「昴兄ちゃん」と呼ばれることは嬉しく誇らしく、そう呼んでもらえるからにはちゃんと「兄ちゃん」でいなければ、という使命感があるのだ。

 だから、繋がりを解き、恋人がゴムを外して口を結わくまでまって、全裸になって抱き着く。

「ひひ、おにーさん好きっ、大好きだよ、おれおにーさんの恋人っ」

「うん」

「おにーさん」はとても優しい手のひらで、昴星の髪を撫ぜた。才斗の手のひらの温もりも好き、しかし「おにーさん」のそれにも、かけがえのない価値を昴星は確かに感じる。「大好きだよ。昴星はぼくの恋人だ」

 たとえそう言ってもらえるという事実に、永遠にこの人を独占出来る日が来ないことが含まれていたとしても構わない気でいる。昴星一人では到底全てを叶えることは出来ない、……だから、流斗がいる。大好きな人を幸せにしてくれる流斗がいる。昴星にとっては流斗を抱き締めて幸せそうな恋人の姿も美しく見えるし、恋人に抱きしめられて嬉しそうな流斗の気持ちもよくわかるから、素直に「よかったなー」と思えるのだ。

 昴星のスマートフォンが唸った。流斗からのメールの着信、「いまから行くよ」と書いてある。昴星はもう一度背伸びをしてゆっくりとキスを楽しみ、

「じゃー、こんどは三人で遊ぼうぜ! おにーさんのちんこ、ちゃんと流にもしゃぶらせてやんないとな!」

 そう言うとき、昴星の胸の中は少しも軋まないのだった。

 


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