i-SWITCH 06

 人にはそれぞれ違いがあって、それでいい、だからいい、例えばそれを「個性」と呼ぶことを、鮒原昴星も諭良=ファン=デル=エルレンバルトも、十二歳という歳でいながらもうよく知っているのである。

 ごく簡単に、二人のこれまでとこれからを回顧し見渡す。二人は現在かけがえのない友人である。しかし少し前まで昴星は諭良のことが憎たらしく思えてならなかった。

 昨年、二学期に転校してきた諭良は背が高く頭がよく運動が出来て、よりによって昴星の最愛の才斗がそれまで一身に受けていた女子からの支持をほとんどすべて持って行ってしまったのだ。それで才斗が(別に、才斗は昴星にさえ愛されていれば女子の支持などどうでもいいと思っているけれど)落ち込んでいるように見えれば昴星だって元気をなくす。二学期の頭ごろ仲良くなった近所の青年、昴星呼ぶところの「おにーさん」にも相談し、寂しさを慰めてもらったが、なかなか気持ちの晴れない日々が続いていた。

 昴星は、当人の自覚もあることではあるが、性格がよくない。昴星は諭良が才斗のブリーフに自分同様強い執着心を持っていることを知り、諭良を脅し、自分たちの軍門に下ることを求め、それを承諾させた。

 傍目には欠点の一つもない美少年である諭良が、本質的には昴星や才斗、才斗の二歳年下の従弟であり昴星がその嗜好を目覚めさせるきっかけを与えた流斗同様に、どこに出したって恥ずかしい、いや恥ずかしいのでどこにも出せないレベルの「ヘンタイ」であったという事実は昴星には「都合がいい」どころの話ではなく、……もういっそ、愛するに足るほどのことであった。才斗という恋人がありながらその従弟の流斗や、近所に住む「おにーさん」とさえもそういった行為に興じる昴星にとって、いまさら遊び相手が一人増えることなど何でもない。

 かくして、昴星は諭良への憎しみを捨て、諭良と「ともだち」になった。

 しかしこの時間がそう長くは続かないことを、昴星は知っている。諭良は三月の卒業と同時に外国へと行ってしまう。そうなったら、……もう会えない。

 昴星にとって、諭良を自分の「仲間」だとか「ともだち」だとか、肯定的な言葉で認めてしまうことはすなわち、遠からず訪れる別れのときを何倍も辛いものとしてしまうことと同義だった。

 しかし昴星は、今更諭良との関係を清算しようとは思わない。限りある「いま」を散々に楽しんで、別れるときは思いきり泣いてやればいい。中途半端が一番嫌いな少年は、例えばそんな風に考えてその日の帰りに諭良の家に寄り道をして、そのまま泊まってしまう予定を五分で立てた。

 そうして、お互いの「個性」というものをたっぷり確認しあおうとしているのだった。

「……いいの?」

 諭良は「はらへった」と言った昴星のために宅配の中華料理を頼んでくれた。諭良の家も昴星と才斗が住む家も、集合住宅という点では全く変わらないが、背後にある経済事情では段違いのものがある。諭良の家は要するに金持ちであり、そのことがかつての昴星にはまたずいぶんと憎たらしかったものだ。しかるにいまはこうして美味いご飯を食べさせてくれる。……もちろん才斗の作ってくれる素朴なご飯も、昴星は大好きだけれど。

「ん? いいのって?」

 エビチリのソースを手の甲でぐいと拭って、昴星はテーブルの向かいでかたやきそばを食べる諭良に訊いた。諭良はハーフのくせに、箸の使い方は昴星よりずっと上手で、食べ方も上品だ。

「その……、才斗には言ったの? ぼくのところへ泊まるって」

 諭良が案じるのは、その優しさの一端の現れだ。諭良は昴星と才斗の間に確たる絆があることをよく知っている。これを才斗が「浮気」と解釈して気分を害するのではないか、と気にしているのだ。

 しかし、それは心配の必要はない。

「だっておれ、流と二人で遊ぶこともあるし」

 それに、「おにーさん」とこに何度も泊まってる。いっぱいエロいことして遊んでる。才斗はそういう昴星のことをほぼ全面的に認めてくれている。だから昴星の「恋人」なのである。

「っつーか、おまえが才斗いねーのつまんねーんじゃねーの?」

 ひひひ、と意地悪く昴星が笑うと、諭良は純情そうに頬を赤らめた。学校では無口で滅多に表情を変えないけれど、恥ずかしがってたり泣きそうになったり、……何より優しい笑顔を浮かべたり。そういう顔の方がずっといいと、今の昴星は思っている。

 諭良は、才斗のことが好きなのだ。

 昴星が握った諭良の「秘密」……、それは、諭良が水泳教室のロッカーで、才斗のブリーフの臭いを嗅いでオナニーをしていたというもの。

 諭良は、昴星が思うのと同じくらい本気で才斗のことを思っている。

 才斗を取られてなるものか、と思っていた。しかし今ではまるで違う。自分同様に、才斗に諭良が愛されることを嬉しいとさえ思う。自分の恋人がこんな美少年に愛されるだけの男なのだという理解は、昴星にとっては嬉しいのである。

「そんな、ことは、ないよ」

 こうして付き合ってみるまでわからないことがたくさんある。諭良は見た目に反した「ヘンタイ」なところをたくさん持っている一方、基本的には見た目通りにとても真面目な奴だということも、こういう関係になって初めてわかる。

「そ、それにね、ぼくは……、才斗とだけじゃない、昴星と遊ぶのだって楽しいと思うし」

「お」

 真面目である、ということは、真っ直ぐである、とも言える。

 才斗だって大いに真面目だけど、「あいつは素直じゃない」と自分のことを棚に上げて評する昴星である。

「ぼくは、だって、……昴星のことを、大切な友達だって思ってるから。ぼくのことを理解してくれて、……ぼくも昴星の感覚を、ちゃんと理解できる、だから大切な友達だって……」

 結局昴星も紅くならざるを得ない。何でこいつこんな素直なんだろう、小憎らしくも不思議に思う。やっぱりハーフだからおれらとちょっと考えることの中身とか違ったりすんのかな……?

「だから、……こうやって来てくれたんだし、昴星にたくさん楽しんでもらえたらいいなって思うよ。ご飯、足りた? もっと食べたかったら……」

「い、いいよ、バカ……」

 昴星の食欲はいつでも旺盛だが、考えなしに大食いするなといつも才斗に言われている。もともとあちこち柔らかくなりやすい体質の昴星であり、自分が女っぽい顔をしていることも自覚している。この上、身体があっちこっちぷにぷにしてくるのは避けたい。

 そう思っても、現実の問題として昴星は既にあちこちが生甘い弾力が備わってしまっている。腹や尻は言わずもがなのこととして、「これはやばい」と本人も思っているのは胸である。

 もちろんこのところは水泳の授業もないのではっきり見知られることはないのだが、「おにーさん」には「昴星のおっぱいは柔らかくって可愛いね」なんて言われる。

「おっぱい」とは女子のその場所のことであって、男子の場合は厳然と「胸」であるべきなのだが、鏡に写して見てみるに、やっぱりほんのり膨らんでいて、触って見てもはっきりわかるくらい、柔らかい。だからこのところ、ダイエット……、と呼べるほどのものでもないが、ちょっと足りないぐらいで箸を置こうという努力はしている昴星なのだった。

「お風呂、いつでも入れるよ」

 食べ終わった容器類を片付けて、諭良が言った。まだ七時にもなっていない。昴星や才斗の家と同じで、この家も親が家を開けがちだ。昴星の場合、炊事洗濯などの家事のほとんどは才斗が面倒を見てくれているが、諭良は全部一人でやらなければならない。しかしその割りに、家の中は片付いている。部屋の中で寝そべる大型犬の抜け毛があっちこっちに舞うということもない。

「んー、風呂でもいいけどさ、……おまえ、例えばいま才斗と二人きりだったらすぐ風呂入っちゃうの?」

 諭良は、昴星の言葉の意味を判じかねるように首を傾げた。

「才斗はさ、……まあ、もちろんいっしょに風呂入るんだけど、でもすぐには入んねーんだ。あいつはおれの臭いが好きだから、……自分じゃくせーだけだって思うけど、でも、洗う前に嗅ぎたいって言うからさ」

 昴星は諭良の自室の扉を勝手に開ける。机やベッドの配置は昴星の部屋ともよく似ているが、倍ぐらい広いし、本棚に漫画ばかり並んでいるということはない。ベッドも広くて、前に才斗と一緒に泊まりにきたときも三人で並んで寝るのが全く窮屈でなかったほどだ。

「おまえがおれの臭いに興味ねーならいいけど」

 諭良の、目の色が変わったように思う。

「どーせさ、おれらのやり方だと身体汚れちゃうんだし、もうとっととやっちゃうのがいいんじゃねーかなって、おれは思う」

 何の勇気もなくこう言うのではないということを、きっと諭良もわかっている。だから、

「ぼくも、……昴星の臭いを嗅ぎたい」

 諭良も勇気を出して言うのだ。

 

 

 

 

 諭良の広いベッド、布団をめくるともちろんシーツがあるわけだが、そのシーツの一部分にはシミが広がっている。言うまでもなく、諭良の六年生男子としては恥ずかしい失敗の記録である。

 とはいえ同様の記録は、他ならぬ昴星のシーツにもより濃く刻まれている。二人してオネショが治らない「同病」であり、だからこそお互い何の隠し事もいらないと思うのだ。

「今朝は?」

「しなかった。でも、トイレちょっと間に合わなくって、パンツ濡らしちゃった……。昴星は?」

「思いっきりした」

 諭良のブリーフは灰色のゴムに縁取られた紺色で、スマートな印象。細身の身体にもよく似合っていて、大人っぽい。

 一方で昴星は、自分の引き出しに一番多く入っている白いブリーフだ。今日は四時間目が体育だったから、汗をたっぷり染み込ませている。才斗好みの臭いになっているはずだ。それが、諭良にとっても心地よい臭いであればいいなと昴星は思う。

「ぼくのパンツ、……その、夕べから替えてないんだ」

 昴星の視線は再び諭良のブリーフに向けられた。「その……、雪が降りそうだったでしょ? 洗濯しても、乾かすのお風呂になっちゃうし、億劫だったから……」

 なるほど、昴星のような白ブリーフならば体育の着替えの際に色で露見してしまう。しかし紺色ならばまず目立たない。実際観察して見ても尿が染み込んでいることなど判らない。

「おれは替えちゃった。……あーでも洗面器につけただけ。洗剤の粉と一緒にさ」

「それで落ちる?」

「うん、だいたい落ちる。でも才斗には『漂白剤いっしょに入れなきゃダメだ』って言われるかな。……おまえのパンツ、嗅いでいい?」

 股間を覗き込み、上目遣いに訊くと、恥ずかしそうに、

「昴星のも、嗅がせてくれるなら……」

 頷く。

「……知ってるだろうけどおれの、くさいよ?」

「そうかも、しれないけど……、でも、昴星の臭いでしょ? だったら……」

 二人して、横たわる。昴星の横たわった頭のすぐそばには諭良のオネショシミがあった。しかし気にならない。紺色の膨らみに鼻を当てると同時に、諭良が昴星の股間に鼻を押し当てて、やや恐る恐るの体で吸い込むのがわかった。

 昴星も目を閉じ、諭良のブリーフを嗅ぐ。

「お……」

「ふあ……」

 二人して、思いのほか強い尿臭にそんな声が出た。

「こ、昴星……、オネショしたあとパンツ替えたんだよね? 昼間、オモラシしたわけでもないよね……?」

「だ、だから言ったじゃんおれのくせーって……、っつーかおまえのだってすげーくせーし……」

 才斗よりもずいぶん臭いし、流斗とは比ぶべくもない。少量とはいえ朝一番のオシッコを吸い込んでいるのだから無理からぬことだとは言えようが。

「……ぼくは……、昴星の、臭いとは、思わない……」

 諭良は再び鼻を当て、深く吸い込む。「ぼくはこの臭い……、好きだよ……。才斗が好きだって思う気持ち、わかる……」

 先日、年下の女子、それから同い年の男子二人、才斗に流斗に「おにーさん」とずいぶん派手に遊んだ際、散々「臭い」と言われた。それが「嫌な臭い」という意味ではないと言い添えられても、何だか悲しいような気持ちになってしまった昴星だった。気を遣っているのかも知れないが、諭良がそんな風に言ってくれるのは嬉しい気持ちが大きいし、

「おまえのだって、……ちょっと、ビックリしたけど、でも、やなにおいじゃ、ない……」

 この臭いの良さをわかりあえる関係なのだという事実は、きっと素晴らしい。

 鼻を当てた布の奥から、諭良の体温が伝わってくる。まず表層から飛び込んできて昴星の嗅上皮を覆う乾いたオシッコの臭い、……それに遅れて、諭良自身のペニスの臭いが届く。まったりとした尿臭に比べてツンと刺すような強さがあるが、諭良が昴星のそれを感じたら、……気絶しちゃうかもしれない。

 しかし諭良は、とうにその臭いに辿り着いているはずなのに、「はぁ……、昴星のパンツ……、ふふ……、昴星の臭い……」嬉しそうに鼻を擦り付け、昴星のペニスが涼しく感じられるぐらい盛んに嗅いでいる。のみならず、昴星に布の向こう側からペニスが固くなっていることさえ伝えてくる。

「諭良、おまえ、おれのパンツで勃起してんの……?」

「ん……? うん……、だって……、こんな風にえっちなことしてるんだもの……、昴星のパンツ、ぼく好きだよ……、タマタマのふかふかなの、すごく気持ちいいし、あったかくて、いいにおい……」

 恍惚とした声で諭良のくれる言葉が、まるで才斗や「おにーさん」からもらうそれのように、昴星の心を熱くする。

「おまえの……、パンツの、オシッコくせーのも……、いいにおい」

 昴星は勃起した同い年の男子のペニスにぐりぐりと鼻を押し付けて、一気に深く嗅ぎ上げた。炸裂する臭いが下半身への刺激となる。昴星のそこが鼻先の諭良と同じ反応を示すまでに、ほとんど時間は要らなかった。

「なー……、諭良、ちんこ見ていい……?」

「ん……、あの、でも、ぼくのおちんちん……」

「ん?」

「その……、ぼくの、皮余ってて、変だよ……?」

「んなの、知ってるよ。それにおれだって余ってるし……、おまえのより、ちっこいし……」

 もともと小さいし、勃起しても硬くなり角度が変わりこそすれ、サイズ的にはほとんど変化しないのが昴星のペニスである。先ほど諭良が「ふかふか」と評したように、陰嚢は普通の大きさであるものだから陰茎の小ささが余計に目立つ。もちろんまだ毛も生えてこなければ皮も剥けない。才斗のものと見比べるたび、「ほんとに同い年かなぁ」と思ってしまう昴星である。そしてオネショが治らないという点でも、あまりにも幼い自分の下半身だということにコンプレックスを持っている。

 しかし、諭良もそれは同じなのだろう。

「じゃー、いっしょに見せっこしようぜ」

 起き上がり、座り直す。諭良もすぐにそうした。向かい合って、……どっちが先に見せるのかというためらいが少しの間、二人の間でせめぎ合う。

 ブリーフのウエストゴムを下げたのは、同時だった。

ころん、と昴星の、「小さなタマネギみたい」とかつて「おにーさん」に評されたペニスが露わになる。諭良の、昴星より長く、しかし先に皮がたっぷり余り垂れているペニスも同時に。

「ひひ……、ちんこ、ぜんぜんちげーな。おれの丸っこくて小っちぇーし、おまえの、やっぱめっちゃ皮余ってる……」

「うん……、でも昴星はタマタマ、立派だよね……、ぼくの、貧相だから……」

「ヒンソーってゆーのはおれのみてーなちっこいの言うんだろ、おまえのはさ、ちんこじたいはちゃんとしてんじゃん」

 相手に見られている、という恥ずかしさを当然昴星は感じる。諭良のペニスは率直に言って、……確かに皮が余っているし、陰嚢は痩せているようにも見える。しかしながら、ごく白くて、何だかやたらに綺麗に見える。ほんとにそのちんこ、オネショしたりすんのかよ。そんな風に思ってしまうほどで、そう見ると先に余って砲身そのものは上を向いているというのにへにゃりと垂れる余り皮がいいアクセントになっているように思える。

「……恥ずかしいね、おちんちんの見せっこ……」

 諭良が紅い顔で白状した。昴星も、なぜだかわからないが才斗や流斗や「おにーさん」に見られるときよりもずいぶん恥ずかしさを催す。多分、まだこの相手に慣れていないからだろう、勝手がわからないからだろう。

「じゃー、しまう……?」

「ん……」

 慌てて隠すように、元の通りブリーフの中にしまう。その尖りの正体をお互いはっきり視認した後でありながら、何だか惜しいような、却っていやらしいような、不思議な興奮を昴星は覚えた。

「……なー、おまえって、なんでパンツそういうのなの?」

そういうの、ブリーフ。六年生となったいまでは教室でこの形の下着を穿くのは昴星と諭良と、昴星が「おまえもお揃いにしろ!」と言って穿かせている才斗を含めてもごく少数である。ほとんどがボクサーブリーフかトランクスだ。

「だって……、こっちのほうが落ち着くもの。トランクスも穿いたことあるけど、なんだかフラフラして気持ちが悪かった……」

 ああ、同じなのだ。そういう理解が、昴星にひときわ強い友情を感じさせる。

「わかる。ちんこぶらぶらすんの落ち着かねーよな。やっぱさ、上向かしてぴったりしてんのがいい」

「それに……、自分で言うの変だけど、……おちんちんが膨らんでるのわかるの、えっちだと思うんだ……。あと、今のだとわからないけど、白いの穿いて、黄色くなってるの……、好き……」

 白いのを穿いて、黄色くしている昴星である。朝の失敗の後に穿き替えているとは言え、内側にははっきり黄ばみが付いているし、それは外側にもほんのりと浮かび上がっている。それでも今日は、普段よりマシだ。

 お互いの膨らみはまるで収まる気配がない。見比べているうちにその場所が引き付け合うように重なるのは、自然の成り行きでさえあったろう。

「あ……、ちんこ、あったけ……」

 思わず声が漏れる。擦れ合う膨らみ、二枚、いや四枚の布を間に挟んでいたとしても、自分に刺激を与えるものが諭良の高まる欲と、それを包むブリーフなのだという理解が昴星には幸福以外の何物でもないのだ。

「すごい……、これ……、えっちだね……」

 諭良の方が背が高いし、足もずっと長い。それでも諭良は昴星とブリーフを重ねるために足を広げて膝で立ち、腰を上下に動かして擦り付ける。

「昴星の……、濡れてきた……」

 ブリーフの尖端にジワリと蜜が浮かび上がっている。恥ずかしい、と思いながらも、そのシミを更に広げる結果を招く腰振りは止まらない、止めたくない。

「だ、だって……、こんなの……」

 遠くもどかしいような快感だから、余計に股間の内側が痺れてくる。括約筋が勝手に動く、陰嚢と肛門を結ぶラインがぞくぞくする。

 それは、諭良も感じているはずだ。布越しに鼓動が響いてくる。心が同じように鳴っている。パンツ一丁の二人で貪り合う快感を、諭良が心の底から愉しんでいる……。

「んぅ……、ん……、おちんちん……すっごい、パンツの中でヒクヒクしてる……」

「おれのも……、おまえの、と、パンツ、くっつけてんの、すっげー……、ちんこ……、ちんこ、してんの……、ちんこきもちぃ……っ」

 こんなところ、誰にも見せられない。黄色いシミの付いた昴星のブリーフ、朝の失敗の臭いが漂う諭良のブリーフ、……どこで切り取っても、「秘密」だ。

 しかしこうして共有できたとき、「秘密」は二人の少年を強く結びつける力となる。

「あ、あっ、やば……っ、ちんこっ、ちんこ、ッちゃうっきもちよくなっちゃうっ出ちゃう出ちゃういっちゃうせーしっパンツに出ちゃっ……!」

 密閉と呼べるほど塞がれてはいない、しかし閉じ込められた中で昴星の短い茎がのたうち、失態を教えるように濡れる。行き止まりで跳ね返り、茎をとっぷりと汚した精液が、熱い。

「う、ンっ、……っん! んーっ!」

 激しく擦り付けるようにして、諭良も達した。いつからか、繋いでいた手がほどけそうになる。どちらからともなく、もう一度、しっかり繋ぎ直した。

「……あは、……パンツの中、……精液、漏らしちゃった……、昴星とオモラシ、しちゃった……、ね……」

 ブリーフの中で自分の陰茎が精液に溺れている。昴星の精通は才斗の「味」で迎え、同時期にオナニーも才斗とするそれ以上の行為も覚えてしまったので、夢精の経験はない。それでも下着の中を尿以外の液体で汚すことには、何とも言えない後ろめたさを覚えるのだ。失禁はほとんど何の抵抗もなく出来るのだけど。

「……ひー……、パンツ、ベトベト……」

 何より、恥ずかしい。射精まで至ってしまうことは正直なところ想定していなかったのだ。それは諭良も同じらしく、濡れてもそれほど目立たない紺色のブリーフの股間を見る顔には気恥ずかしさが満ちている。

「すごい……、ドキドキしちゃったね……、パンツのくっつけっこ……。こんなのしたの、初めてだよ……」

「おれだって……。その、パンツの中にちんこ入れんの、何度もしたことあるけど、穿いたまんま誰かとこんなの、すんの……」

 目立たないとはいえ諭良のブリーフも濡れているのがわかる。しかし濡れ方で言えば昴星の方がずっと大きい。……陰嚢の大きさに比例するのかわからないが、昴星は才斗や流斗と比べても自分の精液の量が少し多いことを自覚していた。

 それを「美味しいよ」と言って飲んでくれる人が、昴星は好きだ。例えば才斗、例えば流斗、そして「おにーさん」に、……きっと、諭良も。

「昴星の……、射精したおちんちん、見てもいい……? ぼくのも見せるから……」

「……うん」

相手のブリーフに手を伸ばす。ウエストゴムを引っ張り、中を覗き込ませ合って、

「うわ……、昴星の、すごいね……!」

「う、うるせーな、おまえだって……」

 それぞれの、少し力を失いつつある精液まみれのペニスを見比べる。昴星の方がべっとりと粘っこい液体がブリーフの前部に付着し、ぷるぷるとゼリー菓子のように揺れている。一方で諭良は、色は薄いとはいえ紺色の生地に絹糸のような精液がはっきりと見える。お互いに、青い臭いが鼻に届くと、また鼓動のスピードが速まるような感覚に陥るのだ。

 諭良のちんこ、可愛いな……。

 そんなことを、昴星は思った。

 おれのよりかでけーけど、でも、先っぽ皮がぷるぷるしてんの、可愛いな。

「……昴星の、おちんちん……、あのね、初めて見たときから昴星のおちんちん、可愛いなって思ってた……」

「え……?」

 自分が思ったことをそのまま諭良が口にしているような気になって、思わず顔を上げた。諭良は照れ臭そうに笑って、「ちっちゃくって……、丸っこくて、触ってみたいって思ったんだ。昴星のおちんちんはどんな味がするのかな、とか、どんな臭いがするのかな……、って。ぼくは、昴星のおちんちん……、才斗が大好きって思うの、すごくよくわかってるつもりでいるんだ」

 みんな、そう言ってくれる。

 試みに自分の脱いだブリーフを嗅いでみたことがある。

 才斗や流斗のそれとは明らかに異なる強い臭いで、まあ自分のだからガマンできるけどこんなん人のだったら絶対嗅ぎたくねー、と思った。それなのにみんな、「臭い臭い」と言いながらも同時に「好き」と言ってくれる。その仕組みはよくわからないが、実際昴星にも諭良のブリーフが、中から立ち上る精液の臭いが「好き」だと思えてしまうのだ。

「……なー、諭良?」

 徐々に力を失いゆくペニス、ブリーフのウエストを離してしまった。「おれの……、オシッコの臭い、嗅ぐ?」

「……ん。いいの?」

「そんかわり、おまえのも嗅がせろよ……」

 ここで、「お風呂」という選択肢が出て来るのだ。昴星にとってこういうシチュエーションでする「オシッコ」は下着の中に出してしまうものと決まっていたし、どうやら諭良もそれはわかっているらしかった。

家でするときもそうだし、「おにーさん」のところでするときも、……まあこのところは尿吸収シートやオムツの着用など、派手に濡らすことは少ないとはいえ、やはり布団というのは意図的に汚してはいけないものではある。

 広いベッドから下りかけた昴星を、「待って」諭良が止めた。

「ここで……、ここでいいよ」

 黄色いシミの広がるシーツを手のひらでなぜて、言う。

「こ、ここでって……」

「一応、シーツの下、シート敷いてあるし、……それにね、今夜はこのベッドでいっしょに寝るんだよ?」

だったらなおさら、汚しちゃダメじゃん……。

 諭良は、にっこり、美しいことが昴星にもすぐわかる微笑みを浮かべて、「昴星のオシッコの臭いの中で寝るの、いいなって思うんだ……」言う。

「……何度も言うけど、おれの、臭いよ?」

 この部屋は、……このベッドの上を含めていい匂いがする。多分、高い柔軟剤の匂いなのだ。

 そこに自分の尿臭は、合わない。

「ぼくも、いっしょにするから……、ね? 昴星に、ここでオモラシして欲しいんだ」

 いっしょに、オモラシ。

 才斗はめったにしてくれない。流斗はしてくれるけれど、そういうときには一応年上の自覚もあって流斗の快感を優先してやりたく思うので、自分のことばかり考えることはできない。

 しかし対等な立場にある諭良ならば……。

 昴星はこの「ともだち」を、自分と対等な存在であると、もう無意識のうちに認めていた。

「まー……、どーせちんこべとべとだし、風呂あとで入るし……」

「うん。オシッコでおちんちん洗えばいいと思うし、……あと」

「あと?」

「あの……、昴星の、オシッコ味のおちんちん、舐めてみたい……」

 人の口から出るのを耳にして、常軌を逸した欲求だと改めてわかる。味にこだわりを持つ昴星だ。流斗も「おにーさん」も、昴星のそこを舐めたいと言うし、オシッコを飲んでくれる。これは昴星が好きな人たちが例外なく持つ欲らしい。

 だいいち、昴星だって諭良の味を舌に乗せたいのだ。

「じゃー……、じゃーさ、いっしょにオモラシしたら、そのあと、ちんこいっしょにしようぜ。おれのほうがたぶんくせーけど、びちょびちょのちんこ、いっしょにさ」

 うん、と嬉しそうに微笑んで頷くときには、童顔で背も低い昴星の目にも、諭良が少し年下になったように見えた。

 こいつほんとキレイな顔してんな……。

 才斗がどうして、他の誰でもなく自分を選んでくれたのか、昴星にはわからない。ただ、判断基準はどうやら「顔」ではなかったようだ。恐らく才斗が最重要視したのは、昴星の持つ(あるいは、昴星しか持たない)臭いだった。

「じゃあ……、しよう?」

 諭良が横たわる。毎朝、とまでは言わないが頻発する失敗の再現を、昴星と一緒にしたいらしい。そのアイディアを面白いと昴星は思う、隣に横たわるのもなんのためらいもない。頭の位置を合わせてこうして比べると、身長は全く違うはずなのに腰の位置はそれほど変わらないのだった。

「やっぱりちょっと、恥ずかしいね……」

「そう? ……おれ慣れてるからかなー……」

 嘘だ、諭良と一緒にすることにはまだ慣れていない。しかし横たわって手を繋ぎ、何処かでまだ不慣れな頃の流斗とするときみたいに「おれがリードしなきゃ」なんてことを考える。

 目を閉じて、普段の感覚を掴み直す。いい加減べとべとしてきた陰茎周辺、しかし尿意は確かにある。

ゆっくりと、腰から力を抜いて、……勃起しているわけでもないのに少し熱く感じられる尿道が少し広がったようだ。

「あ……、出る……」

 溜め息を吐き、目を開ける。丸っこいペニスの先端からじんわり漏れ出した尿の液温は思いのほか高く、噴き上がるなりブリーフの内側を迸り、「蛇口」そのものを濡らして行く。陰茎の付け根を下腹部を一通り巡りながら、陰嚢を辿り、尻へと水分を広げていく。

 濡れたブリーフは温かく、まとわりつくような感触もいい。

「んはぁ……」

 諭良も同じ悦びに浸り始めたようだ。「ああ……、出てる……オシッコ……オシッコ出てる……」うっとりと声を漏らして、まるでそこを舐められているときのように喘いでいる。そっちの方が気持ちよさそうだと思えて、

「あ……ったけー……オシッコ……、ちんこ、あったかくて、きもちぃ……」

 昴星も恥じらいを捨てて真似した。変態的な快楽を自覚して口に出していると、濡れた布に愛撫されているかのようで、放尿を続けながらもどんどん硬く勃ち上がってしまう。しかしそっと諭良の紺色ブリーフを伺えば、そこも痩せた腹の向こうで盛り上がっているのだった。

 二人の臭いが混じる。自分のものはわかる。しかし諭良の尿臭も、昴星を「臭い」と言えない程度には十分に臭いのだった。

「んぉ、お……」

 ブルブル、身に震えが走る。盛大な失禁だった。いつの間にこんなにガマンしていたんだろう? そっと身を起こせば、まだ諭良は失禁の真っ最中で、テントの支柱のようなペニスからジワジワとシミを広げていた。

 シーツに付いた汚れを見比べてみるに、昴星のほうが色がずっと濃い。人のシーツをこんなに汚してしまったことに、…了承済みであるとはいえ、やはり少々の申し訳なさを感じざるを得ない。

「勃起しちゃった……」

 放尿後の震えに甘ったるい息を吐き、自分で諭良は申告した。昴星も「おれも」と見せる。黄色く濡れているのは当然のことながら、寝そべってしたのだから、

「すごいね、昴星のパンツ真っ黄色……」

「ちんこよりこっちのほうがすげーよ」

 と尻を見せる。身を起こした諭良が「本当だ……。ぼくもお尻ビショビショだよ。でももう冷たくなってきちゃった」

「出してるときはすっげーあったけーのにな」

「うん。でもこの冷たいのも好きだよ。……おちんちん、見せっこする?」

 うん、と頷いてから、ウエストを下ろそうとする諭良を止める。「それよりも、窓から出そうぜ。そっちのほうがさ、オモラシしたちんこって感じして恥ずかしいから」

「そう……?」

 昴星の真似をして、細長い皮余りペニスを取り出す。「本当だね……、お尻とか、股の間の冷たいの恥ずかしいし、そんなパンツから勃起したおちんちん出すの……、恥ずかしい……」

「ヘンタイだよな、こんなの……」

「うん……、でも、ぼくこういうの好き……。あのね」

 諭良は少しためらいがちに、ベッドの下に畳まれたズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。ロックを解除して、昴星に画面を見せた。

「ぼく、……恥ずかしいの好きだから、本当は、転校して来る前からね、こんなの、撮ってたんだ……」

 確か、諭良が前に通ってた学校って山梨の方だ……。背景の小学校の教室は、昴星たちが通う小学校のそれより古ぼけて見えるし、差し込む夕日の赤さもずっと濃い。

 カメラは机の上に置かれているようだ。放課後だろうか、ひと気のない教室に諭良が一人立っている。まだ暖かい季節なのだろう、転校してきてからはいつも長いジーンズを履いているが、七分丈である。

その七分丈のウエストを下げて、諭良が灰色のブリーフを晒す。緊張からか、微かに震えている指先で、窓から縮こまっているせいで余計に皮が長く見える陰茎を取り出した。

 不器用なやり方でその窓から覗かせるペニスをいじくるが、なかなか反応しない。やはり緊張の方が興奮より強いのだろう。しかし、

「すげーな……」

 昴星は驚かされた。もともとマゾヒストっぽいところがあるということは分かっていたが、自分たちと結びつく以前からこんなことをしていたとは思わなかった。

「ぼく、こうやって、……誰か来るかもしれないところでおちんちん出して、遊んでた。その頃はまだ、オモラシはしてなかったけど、……その、裸で歩いたり」

「そ、外?」

「うん、山とか森とかばっかりだったからね。そこで、オシッコしたり、オナニーしたりしてたんだ……」

 画面を幾度かスワイプして、……自転車が写った。山道だろうか。深い緑が風に揺れている。

 フレームに、全裸の諭良が姿を現した。今度はきっちりと勃起している。『六年一組の……、諭良=ファン・デル=エルレンバルトです……っ、いまから、ここで、オシッコと、オナニー、しますっ』

 もちろん誰に見せるわけでもない。それでも諭良は、誰かに見られることを想定して上を向いた皮余りからオシッコを噴き上げさせた。垂れていた皮が水圧でぷくりと膨らみ上を向いて、そこから金色の尿が噴水のように高く上がる様子を見て、昴星は思わずオモラシブリーフの股間に手を当ててしまった。

「流が……、あいつがさ、こういうの、自分でよく撮ってる。あいつも見られんの好きだから。おれの知らないとこで、なんか、女子に見せたりとかしてるらしいし……」

「女子に……?」

 画面の中の諭良は放尿を終え、『あう、ぼくっ、お外で……お外で勃起してっ、オナニーしてますっ……お外でオナニーするの、きもちぃっ』浅ましい声をあげて激しく右手を動かしている。

 流斗の持つ、露出狂的な側面については「すげーな」と思いはすれど、到底自分の真似できるような領域ではないとも思っている。そもそも流斗に失禁や同性愛の悦びを教えたのは昴星自身であるが、あの二歳下の弟のような少年は離れて住んでいて昴星たちと遊べない時間を埋めるように、その嗜好を独自に発展させてきたふしがある。

 最初のオモラシを通りすがりの女子に見られてべそをかいていたくせに、いまでは学校で日常的にズボンを濡らしているのだと言うから凄い。いつも「おにーさん」も「あんまり危ないことしないようにね?」と心配している。

「……おまえ、誰にも教わんねーでこういうことしようと思ったの?」

「ん? ……うん、そうだよ」

 諭良は動画を止め、じめじめしたブリーフの前に触れながら言うのだ。

「昔から、ぼく、人より恥ずかしがりで……、なんて言えばいいんだろう、ほら、ぼくって……、暗いでしょ?」

 真面目で大人しいとは思うが「暗い」かどうかは即断しがたい。まぁ、綺麗な顔をしていて女子にモテるのに、まるで平然としているのは「暗い」とは違うだろうから。

「あまり、目立つのが好きじゃなくて、だからね、『失敗』をしないようにしてきたんだ。うちは母親がずっと家にいなくて、年に何度かしか会えないから、自分で何でも出来るようにならなきゃってプレッシャーも感じていたし……。だから掃除とかご飯の支度とか、多分才斗もそうだろうけど、ずいぶん早くから出来るようになってたんだ。でもぼくは」

 シーツに目をやる。作ったばかりの二つの水溜りは、一部で重なっていた。「オネショしちゃう……、何でもちゃんと出来なきゃいけないのに、こんな恥ずかしい秘密を持ってるってことが、何だか、……うまく言えないけど、恥ずかしいの通り越して、嬉しいじゃないんだけど、……おちんちんが硬くなって気持ちよくなるのと繋がっちゃったんだ。ぼくはいい子でいなきゃいけない、目立たないように何でも一人でちゃんとやって行かなきゃって思うのに、こんな恥ずかしい秘密を持ってるんだってこと、思えば思うほど、変な気持ちになって……。誰かに見られたら、知られたらどうしようって思うのに、かえって興奮しちゃうんだ……」

 さすがにそこまでは、はっきりと共感することはできない。

 だが、……原因や理屈はどうあれ、諭良はいま昴星と同じところにいるのだ。一人でさまよった果てで、昴星と出会ったのだ。

 だから、

「……いーんじゃねーの?」

 と昴星は笑う。

「もしおまえがさ、その恥ずかしいの、……オネショ治んねーのとか、ちんこの皮長いのとか、そういうのをさ、恥ずかしくても誰かに見て欲しいって思うなら、……まーおれは手伝えねーしいっしょには行けねーけど、流に頼めばそういうことさしてさ、おまえのこと興奮さすような女子んとこ連れてってくれると思うぜ」

「女子の……」

「あいつさ、ちんこ見て欲しいもんだから女子に『男の子の勉強』っつってちんこ見せんだよ。だからおまえもいっしょに行ってさ、……ほら、『六年生のちんこ』って見せてやりゃいーじゃん」

 自分では絶対そんなことはできないくせに、無責任に昴星は言って笑った。それが諭良ちとっての幸せならば、流斗に話を通してやるぐらい何の手間でもない。

 ついでに言えば、と昴星は考える。「おにーさん」に会わせてやるのも面白いかも。

 おにーさんだって諭良の皮だるだるのちんこ見れたら嬉しいに決まってる。逆に諭良におにーさんのでけーちんこ見せたらびっくりするだろう……。

「昴星は……、優しくしてくれるんだね。ぼくなんかに……」

 ニヤニヤしながら考えていたら、不意にそんなことを言われた。

「ふえ? おれが優しい?」

「うん、……だって、ぼくは昴星に嫌われてるんだと思ってた。ぼく、才斗に手を出したし……」

 才斗がいまさら自分以外の誰かで気持ち良くなろうが気にするものか。たっぷり楽しい思いをすればいい。昴星が自由に遊び回ることに文句を言わないでいてくれる才斗の行動を制限するつもりもない。

「まー……、うーん、わかんねーや。才斗に訊けゃわかるだろーけど、おれぜんぜん性格よくねーし。っつーかほんとに優しかったらおまえの弱み握っておどしたりしねーだろ」

「まあ……、でもぼくは昴星が優しいって思うし、だから大好き。こんな風に誰かといっしょにオモラシする日が来るなんて思ってなかった……」

 真っ当な神経を持つ人間なら、「いっしょ」に「オモラシ」なんてそもそもするはずがないのだが、それは置いても諭良に「好き」なんて言われるのはおおいに気恥ずかしいことだった。

「そ、そんなことより、ちんこどうにかしようぜ、……いっしょにオシッコ味のちんこするんじゃなかったのかよ……」

 相変わらず窓から露出させた二人の子供ペニスは、既に一度の射精を遂げた後だというのにそのことを忘れたかのように震えている。

「そうだね……、ぼく、昴星のおちんちんの臭いもパンツの臭いも嗅ぎたい……」

そうだ、と思い立ったように、諭良は仰向けに横たわる。

「おいでよ、昴星のお尻、こっちにちょうだい」

 二人の身長の差を考えれば、その体位がベストだろうと昴星も思う。才斗とも、よくこうして身体を重ねる。そういうとき才斗はいつでも昴星の臀部に鼻を埋めるし、昴星のブリーフはいまと同じ色に濡れているのだ。

「おにーさん」とするときも、概ね同じだ。昴星にとってこの体位は大好きな「ちんこの味」を堪能しつつ、失禁ブリーフの感触をも愉しみ、かつ性器に直接的な快感を受けることさえ叶う理想的なものであるとも言える。

「だいじょぶ? おまえ、臭くない?」

 顔を跨いだところで、股間を覗き込む。諭良は遠慮なく昴星の双丘に手を当てて、

「臭いけど、平気だよ。……ぼくの方こそ、昴星大丈夫?」

 心配そうに訊く。

 ブリーフの色のせいか、それとも元々の肌の色のせいか、諭良のペニスは真っ白に見える。陽に焼けやすい昴星もいつだったか「おにーさん」に「おちんちん真っ白で可愛いね」と言われたことがあるけれど、多分おにーさんがこのちんこ見たらやっぱり「真っ白」って言うんだろうと昴星に想像させた。

その場所に、顔を寄せる。白いばかりではない。うっすら覗ける血管はいいとして、ほんのりピンクがかっているように見える。それが諭良の興奮の表現だ。そして問題の臭いは、

「ん……、オシッコ、の臭い……」

であって、才斗のものにしろ流斗のものにしろ、昴星の好きな類の臭気なのだった。ただ才斗たちに比べると少し生臭さが強いかもしれない。

 それより気になるのは、

「おまえの……、あんま濡れてない?」

ということ。

「え……? オシッコしたからぐしょぐしょでしょ……?」

「んーそうなんだけど……、ガマン汁あんま出ないほう?」

 諭良の性器の余り皮は確かに湿っぽいのだが、それは出したばかりの尿によるものだろう、臭いもまさしくそれだ。これぐらい勃起していれば、もっと「濡れて」いてもいいものなのにと自身の経験上、昴星は疑問を抱いた。

「そんなこと、ないと思うけど……、オナニーしてるといっつもヌルヌルになるし、先っぽ泡だらけになっちゃうし……、あ、そうか……」

 諭良は、小さく笑う。ただし照れ臭そうに。

「皮……、剥いてみて……」

「皮?」

「うん……、すぐわかると思う……」

 言われるままに、他の誰かのペニスに触れるときより慎重に諭良を摘まむ。奥からピクピクと肉が脈打つ感触があまりにリアルで、同じ反応を昴星は示す。

 長く余った皮を、下へ向けてスライドさせる。ちょっとやそっとでは余った分が少し短くなる程度でしかない。もう少し思い切っていいのかな、それでも同性の敏感な場所だと思うからやっぱり慎重に、下へと引っ張る。にゅるんと先端が、やっと口を開いた。

「おお……」

 途端、弾けるように強い臭いが鼻を刺す。それでも顔を背けることはしなかった、その臭いが昴星は嫌いではないし、きっと才斗はもっと好きだ。

 苦労の末にやっと顔を出した亀頭は、粘膜の上に粘液を満遍なくコーティングしたようにツヤツヤ光っていた。剥き下ろした皮の内側も、それは同様。宝石のような煌めきに相応しくないほど鋭い尿臭が、かえって魅力的に感じられる。昴星自身や流斗同様、弱々しいピンク色をした亀頭を見た途端、涎が零れそうになった。

「……超ヌルヌルしてる……」

「ん……、いっつも、興奮するとそんななっちゃうんだ……」

「ちょっとチンカスついてる」

「えっ」

 さすがにそれには「恥ずかしい」程度では済まなかった様子で、慌てて顔を上げ、

「うお」

 ……昴星の尻に顔から突っ込むことになる。

「そ、その、嫌だったら、洗ってくる……」

「いや……、別に……。おれだって朝オネショのあと拭いただけだから、たぶん付いてるし……」

「そ、そう……?」

「うん。……なんか、安心した」

 安心? 足の間から戸惑ったような諭良の声が、昴星の陰茎の裏側を掠めて届く。

「おまえのちんこも、こんなヌルヌルになんだなーって、……おれとお揃いなんだなーって思って……」

 諭良は黙りこくって、昴星の尻にしばらく鼻を当てていた。肛門は、股間の前部の中でも昴星には心地よいところである。

「ぼくも……、昴星の、オシッコの臭いは安心する……。ぼくの、自分ですごく臭いって思ってたから……、昴星のも臭いから、おんなじって……」

 臭いと言いながらも、諭良のペニスは昴星の指を押し返すように震えている。ひとしきりすんすんと嗅ぎ回ってから、

「それに、昴星のおちんちん、濡れてるの見えたよ。嬉しかった」

 頭を下ろし、諭良は昴星の(諭良ほどではないにせよ)余った皮に指先を当てる。「すごい……、垂れてきそうなくらい濡れてるの、えっちだね……」

「……おれ、濡れやすいから……」

 それは男としてどうなのかとは思う。勃起するとすぐに分泌が始まってしまう。油断すると下着の接点に明らかなシミが付いてしまうのだ。

「なあ……、あのさ」

 自分から求めるのは、まだ少しためらわれた。それでも同じ立場なら断られる懸念はないはずだと信じて、

「おれの……、キンタマ、して欲しい……」

「うん、ぼくも……、昴星のタマタマ見たかったし、昴星に、して欲しいな……」

 それぞれに、窓から相手の陰嚢を引っ張り出す。諭良は小さくてするんと抜け出す。諭良は昴星の、肉体的には一番の急所を優しい手付きで取り出した。

「まんまるだね……、シワシワのところ、すごいオシッコの臭いする……。ふっくらしてて、可愛い」

「お、おまえのだってシワシワだしオシッコの臭いするぞ……」

 される前に、する。舌先を縦に走る縫い目に添わせて辿ると、諭良の小ぶりの陰嚢は音もなく蠢く。濡れた下着の中に浸っていたそこはざらついた舌触りの奥から濃い尿の塩味を昴星に教えてきた。

「ん、ふ……、タマタマされるの、ぼく、好きかも……」

「んぉ……」

 お返しに諭良の唇が当てられる。くすぐったくも甘ったるいキスをあちこちに当てられたかと思えば、諭良より大きな袋を左右それぞれ一度ずつ口に含み、舌の面をねっとりと這わせられる。思わず肛門が引き締まった。

「あはぁ……、昴星のタマタマ、おいしい……」

 おまえのだっておいしいよ、という言葉は諭良を真似して口に含み舐め回す昴星には言えなかった。

ここでこんだけおいしいんだから、ちんこの先っぽの、皮の中の、ヌルヌルはもっとおいしいに決まってる……。チンカスついててくせーの、絶対においしい……。

「ん、ふ、昴星の……、おつゆ、垂れてきてる……、すごい……、本当に濡れやすいんだね……!」

 思わず見てしまった、……本当だ。包皮の先から泡立った糸がつううと諭良の美しい顔へと垂れ下がっている。

 それを、諭良の口が受け入れる。

「ん!」

先の皮を吸われた。内側から露が絞り上げられ、ぬるつく皮がどぅるんと粘っこく弾む。

「昴星の、臭い……、臭いおちんちん、ほんと、おいしい……」

 皮が剥かれる。「ふふ、昴星のもカス付いてる……、でもきっとぼくのよりきれいだよね、皮、短いから……」

 ってことは、おまえのほうがおいしいちんこ、してる。

 その場所の臭いについて(自分がとびきり「臭(クサ)い」という自覚を持った上で)昴星には独自の考えがあった。これは昴星よりも「臭(ニオ)い」への執着の強い才斗は言葉にするまでもなくとうに認識済みのことかもしれない。

 やはり、皮が被っているほうが臭うのだ。その場所の臭いの原因は湿気であり、湿気が何によって生じるかといえば内奥から分泌される液(主に尿)とそれを日陰に閉じ込めておく皮である。諭良がそのだるんとした皮の中を生臭くするのも納得出来るし、昴星のそれが臭いのは人より尿の始末が悪いからだ。

逆に「おにーさんのちんこ」はあまり臭くない。その代わり、何だか大人っぽい臭いが薄くする。もちろん、昴星はそれも大好きだ。

 味という、昴星の方が才斗より詳しいものに視点を移すと、臭い方が味も濃い。諭良のように極端な包茎ならば、かなりの風味を伴ってえもいわれぬ味となっているはずだ。臭いと味は切っても切り離せないものなのだ。

「……おれのだって、オシッコいっぱいしてるし、ガマン汁すげー出てるから、きっときたねーよ。……でも、……たぶんそのほうがおまえ、おいしいって思うと思う。おれ、おまえのちんこ、すっげーおいしそうに見えるから……」

 先端にしゃぶりついてしまいたいが、そうすれば諭良はすぐいってしまうだろう。昴星は茎の根元を舐めることで心を慰める。しかし唾液はどんどんわいてくる……。再び尻に顔を突っ込まれて振り返れば、自分の皮の隙間からはまたもつうっと汁が糸を伸ばしている。興奮しすぎだ。

「なぁ、諭良、諭良、もういこ、……おれもするから、おまえもちんこして」

「ん……」

 諭良の形のいい鼻の上で誘うように腰を振って見せた。

 糸が、諭良の口に入る。

「あ、すご……、おつゆ、おいし……!」

誘われるように、吸い込まれるように、昴星の短い茎が収まった。皮の中に舌を突っ込まれて、腰が不随意の痙攣を催す。昴星も慌てて諭良の皮を剥き、頬張り、たっぷりと濡れてチンカスの付いた亀頭を舐め回す。

 諭良のちんこ……、超うめえ……!

 しょっぱさが甘さにさえ思える。才斗と比べてどうこうという話は、今は必要ない。ただ諭良の腺液の残尿の生臭い塩辛さで頭がいっぱいになる。夢中になって舐め回しているうちに、思考は真っ白になり、下腹部が引きつるように感じられる。

「……ん! んむ……っ、ん……! んぁっ、いくっこうせっ、いくよっいくっ……いくぅ!」

 射精の満足感に、更なる幸福が付け加えられる。肉が震え、どろっと濃い精液を脈の度に上顎へぶつけられる。諭良も射精したんだ、おれでせーし出したんだ、一緒にいるという事実が、昴星の心も身体も満足させる……。

 どうにか身体を支えていたが、圧倒的な多幸感に負けてごろんと隣に転がる。背中に諭良のオモラシ跡が当たるが、乾き始めたオシッコの臭いはこの時間のまだまだ続くことを昴星に予感させる。

「おちんちん、綺麗にしてもらっちゃった……」

 諭良は何とも申し訳なさそうな顔で皮を剥いている。確かにそこに付いていた垢は消えてなくなっている。精液と一緒に飲み込んでしまったのだろう。

「お腹……、昴星、壊しちゃったりしないかな……」

「んー……、平気だろ、たぶん。っつーかチンカスぐらいでお腹壊してたらオシッコ舐めんのだってダメじゃん」

「そうだけど……」

「それに、……たぶんだけど」

 摘まんで、自分の皮も剥いてみる。もちろん亀頭を晒せる面積は少ないが、見る限りつるりとしている。「おまえだっておれのチンカス食べちゃったんじゃん」

「ん……、あの、……臭かったけど、おいしかった……」

 身を起こして諭良が再び昴星のペニスに顔を近づけて、「昴星のおちんちん、本当においしかったよ」愛情さえこもっているかに思えるキスをして、照れ臭そうに笑う。

 昴星もすぐにそれを真似た。諭良の先まで皮に包まれたペニスを一口に加えて、二秒、ゆっくりと。

「……おまえのも、すげーおいしかった」

 照れ臭さを超えて笑える。諭良は少しぼんやりしていたが、同じように微笑んで「ぼく、幸せだよ。こんな風に遊べる同い年の友達が出来るなんて思ってなかった」と感動したように言う。

「おれはまー……、才斗だけじゃなくて流もいるけど、やっぱ多い方がいいや。おまえのちんこ、形おもしれーし、ヌルヌルのガマン汁すげーおいしかったし」

 乾き始めた互いのブリーフを見比べる。もっとずっと穿いていたっていいけれど、これだけで終わらせないのならば、

「……お風呂、行く?」

 諭良の誘いに頷いて、脱ぎ捨てる。諭良が同じように全裸になると、ひょいと「ともだち」のオモラシブリーフを摘み上げて、「んー」と顔に当てて思い切り吸い込む。

 ちょっと、クラクラした。

「あ、あ、昴星……」

「……ひひ。なー、パンツ取り替えっこしねー? 遊べねーときにさ、パンツの臭い嗅いでオナニーすんの。おまえきっとさ、前にあげた才斗のでしてんだろ?」

 諭良は恥ずかしそうに頷いて、「いいの?」と案じる。

「その……、才斗に全部あげなくても……」

「いーのいーの、だっておれのパンツ持ってんの、才斗だけじゃねーし」

 枚数で言えば「おにーさん」の所持している分は才斗に匹敵する。

「……ありがとう、大事にする」

 諭良も湿った昴星のブリーフを胸に抱き締める。

「何枚だって欲しいだけやるよ。別に大事になんかしなくていいし」

 この美しい「ともだち」が、自分の下着でオナニーするときのことを想像するのは楽しかった。自分がそばにいなくとも、諭良の精液を浴びているような気持ちになれそうだ。

 全裸のまま浴室に移動して、

「やっぱ広いなー」

 床暖房さえ完備されたそこに感動する。自分たちの家では才斗と入るのも少し窮屈だし、「おにーさん」の部屋でもそれは同様。これなら二人で足を伸ばして浸かれる。

「そうかな……、ぼくはあんまり広いのより、少し狭い方がさみしくなくていいって思うよ。ちょっとぐらい狭くても誰かとくっついて入るの、幸せだし……」

 贅沢な悩みだ。

「誰かと狭い風呂入ったことなんてあんの?」

 昴星が何気なく問うと、何故だか一瞬、諭良はハッとした表情を浮かべる。すぐに誤魔化すように首を振ったから、昴星も気にしないことにして、洗面器を床に置く。

 もっと遊ぶために。

「なー、この洗面器汚してもいい?」

 この発言は、諭良に次を想像させた。

「うん! いっぱい汚しても、漂白剤入れておけば大丈夫だよ」

「ひひ。……じゃー超汚す。おまえも汚すだろ?」

「うん、汚す」

 二人にとって、それは符合。

「おまえさ、こうやって立ったまましたことある?」

こっくり、諭良は頷いて洗面器を跨いだ昴星の前、床に膝を揃えて座った。

「何度か……。外でとか」

「おれも外でしたことある! なんかさ、しゃがんでするより楽だよな」

「うん。……ぼくしゃがんでするよあんまり得意じゃないんだ、足がしびれちゃうし、それに……」

「それに?」

「……お尻、丸出しにしてるとこ誰かに見られたらどうしようって思うと勃起しちゃって、オシッコこぼしちゃうから……」

「あー……、なるほど」

 それは何とも諭良らしい話だ。和式に踏ん張りながらオシッコを噴水のように噴き上げる諭良の姿はきっと面白い。滑稽であるとともに、興奮する光景だろう。

 視覚的に欲を煽る光景ならば、昴星も一つ知っている。ペニスの滾りもひと段落付いている、好都合だ。

「諭良、見てみ」

 胸を張り、腰に手を当てて股間にぶら下がる短い茎を突き出す。誇示出来るほど立派なものでは全くないのだが、恥じらいも何もなく、

「ひひっ、ちんこぷるぷるー」

 腰を小刻みに左右に振って見せる。

「おにーさん」はこれが大好きなのだ。何だか「男の子のおちんちんの可愛さがそのプルプルする動きに詰まってる」とかなんとか言っていたが、昴星には正直よくわからない。とにかく、昴星と流斗がそうやって腰を振り、陰茎を弾ませて見せると「おにーさん」は喜んでくれるし、彼が喜ぶと昴星も流斗も嬉しい。だって美味しい大人の精液を口にか肛門にか貰えることになるのだから。

 しかし諭良は、喜んではいないようだった。きょとんと目を丸くして、

「昴星、それ……」

 と言いかけて、口を噤む。

「ん?」

「ん、ううん、なんでもない。……あのね、ぼくがそれやると、おちんちんの根っこと先っぽで揺れ方が変わるんだ。昴星はぜんぶいっしょ……、じゃないね、タマタマは揺れ方が違う」

 諭良はひょいと立ち上がると、同じほどの広さで足を広げているのに昴星の腰あたりにある陰茎を、同じように揺らして見せた。なるほど、

「おー、ほんとだ。皮めっちゃしなってる!」

「うん……、昴星ももう一回して」

 おにーさん見たら大喜びすんだろーなー……、諭良と向かい合って陰茎を弾ませながら昴星は思う。やっぱり諭良のこと、おにーさんに紹介してやんなきゃ。

 そう思ったところで、肛門が少し熱くなってきた。

「っと。うんこ出そう」

 腰を止めて、「どっちから見る? 前からでも後ろからでも、……あーでも前からだとおまえにオシッコ思いっきりかかっちゃうな」訊く。諭良はぺたんとまた座り、

「後ろからは、この間見せてもらったから前からがいいな」

 とリクエストした。初めてここに来たときは才斗も一緒で、昴星は諭良の前で、女児スクール水着を身に付けて排便した。そのときは確かに「後ろから」ではあった。膝をタイルにつき、四つん這いの状態で便を尻から長くぶら下げて見せたのだった。

「じゃーこのまんまする」

「オシッコ、飲んでいい?」

「おー、いいよ。……お、出る出る……」

 やや膝を曲げて、目の前に座った諭良の肩に手を置かせてもらう。力を入れて押し出す勢いのままに、諭良の顔面目掛けて尿が迸った。諭良は口を開けてそれを迎え入れる。三口ほど飲み下して「おいしい……」と微笑む顔が美しかった。

「昴星は、……この間のときも思ったけど、うんち、すごく太いよね」

まだ顔を出さない。放尿は止んだ。ポタポタ垂れるのを唇で吸い取って、諭良が覗き込む。

「んっ……、なんか、昔からそう……、だからさ、おれ、うんこしたあとなら、ちんこ入りやすい……。はじめて才斗としたときもさ、うんこのあとだったから、ぜんぜん痛くなかった……、出てきた」

 流斗のするところを何度も見せてもらったことがあるとはいえ、自分のするところはさすがに自分では見ることはできない。それでも普段通りか、……あるいは普段以上の太さのものが、重苦しく窮屈な音を立てながら肛門を押し広げ熱くさせる。

「あ……あ、すごい……、昴星、すごいの出てきた……!」

 諭良は丸裸の驚きに口をぽかんと開ける。驚かせていると思えば、なんだか得意な気持ちにさえなってくる。

「ん、ひひっ……、すげーだろ……、っおれの、うんこっ……!」

 諭良はタイルに手をついて覗き上げている。

「すごい……、お尻の穴、裂けちゃいそうなくらい、広がってる……、黒くて硬いうんち、ああ……、すっごい臭いの、出てる……!」

 真正面から見ているだけでは足りなくなってしまったのか、諭良は慌ただしく後ろへ回る。そこを見るならばやはり後ろからの方がずっと見やすいだろう。

「あは……、尻尾みたい、昴星のうんち、本当に……、立派で、逞しくって……」

 それ自体の重さによってジリジリと下がってくる便は昴星の場合いつも硬く太く、ちょっとやそっとでは切れない。それがまるで、才斗や「おにーさん」に挿入されているような錯覚に陥ることができる。諭良のように和式のポーズだけで勃起することはないにしても、その行為は昴星にとっても愉快なものなのだ。

「あー……、切れそう……、っと」

 すぽん、と抜けた。洗面器が落下の衝撃で揺れるのも収まらないうちに、第二便がゆっくりと溢れ出してくる。

「いま……、いま昴星のお尻の穴、ぱっくり開いてた……」

「んー……?」

 膝に手を当てて股間を覗き込む。諭良は這いつくばるようにして昴星の「産出」を見上げているのだった。

「だって……、太いもん、あたりまえじゃん……。おまえのだって太いのしたらさ、おれみてーに……っん、うんこのあと、お尻、ゆるんでんだ……、んーっ」

 二本目は、スムーズに落下する。硬くボリュームのある一本目は、蓋の役割をなしているのかもしれない。

「んほー……、出た出た、すっきりしたー……」

 我ながら、いいのが出た、と昴星は身を起こして振り返る。太いのが二本も。

「やっぱり……、昴星はすごいね……、ほんとうに……」

 諭良は目を潤ませて昴星の産みたての物体を見つめていた。

「苦しいぐらいに……、臭いのに、でも、ぜんぜん嫌じゃない……。ぼく、昴星と友達になれてよかった。こんな大きいうんちするところ見せてくれる昴星と……」

「うんこぐらい、別におまえが見てーならいくらだって見せていーよ。そんかわりおまえもちゃんと見せろよな」

 半分ほど力を集め、ちょうどタイルと水平になったペニスを指でふるんと弾いて昴星は言う。「おまえのとおれの、いっしょにしちゃおうぜ」

「うん……、うん、する……!」

 諭良は興奮した面持ちで昴星が便器に使った洗面器を跨ぐ。もちろんもう勃起しているが、昴星は一つ思いつきを口にした。

「おまえはさ、立ったままじゃなくてもっとちがうカッコでうんこしろよ」

「立ったまま、じゃなくて……?」

「うん。えーと……、そうだ、ちょびっとだけガマンな」

 確か、リビングの窓辺に植木鉢を乗せた台があったはずだ。それを持って、昴星はすぐさま浴室に戻り、「お、やっぱおんなじ」と腰掛けと高さを比べる。

 洗面器の左右に木の台と腰掛けを挟むように並べて、

「ここの上で、しゃがんでしろよ」

 言った。

 しゃがんでするの苦手、と言っていた。その理由が恥ずかしいからだとも。

「お尻の下スッカスカでさ、うんこ出るところもちんこもぜんぶ丸見えになんの……、おまえたぶんこういうの嬉しいんだろ」

 頬を赤らめた様子は静かな純情さを、しかし呼吸を弾ませるとともに股間で性器を弾ませるさまは、隠しようのない変態性欲をアピールする。

「ぼ、ぼくの、うんち……、丸見えに……」

「おまえがさー、もしガマンできるんなら、どっか外のトイレ連れてって覗いてやるんだけど、今夜さみーし、これからお風呂入るしさ」

「外」

 きゅん、と諭良のペニスがまた弾んだ。

「……もし、……もし昴星がいいなら、あの、……お風呂出たら、外行かない……? 外でぼく、どんなことしてるか、見てもらいたい……」

「んー?」

 外、さみーんだよな……。

 でも、諭良が濡れた視線を送る。もうこの「ともだち」の恥部を何もかも見たいという気持ちになっている。まして、これから排便を見るのだ。

「わーったよ。じゃーあったまったらな、アンド、もっかい気持ちよくなったらな」

 結局昴星は認め、「それよりいまは早くうんこしちゃえよ。あんまおれのうんこ置きっぱなしにしてるとお風呂場ぜんぶ臭くなっておまえのおとーさんにバレちゃうぞ」と諭良に催促した。

「うん……、今度、今夜じゃなくていいから、外でうんちするとこ……」

「あー、覗くよ、才斗と流もいっしょにな」

 諭良はよほどそうして欲しいらしい。納得したように、やっと「便器」に跨った。昴星には尻を向ける格好で、流斗よりもシワの一本一本がやや長いかに思われる肛門は全体的にピンクがかっていて、昴星の視線に戸惑っているのか窄まる。

 その向こう側には袋が垂れていて、更にその向こうに陰茎を見ることは出来ない。諭良が勃起しているからだ。

「昴星……、あの……」

「んー?」

「あんまり、顔近付けると、……その、……オナラ、出ちゃったら……」

「これからうんこするとこ見んのに、オナラなんてそんな気にしねーよ」

「う、うんちもよくないけど、オナラは……、ほら、ガスとおんなじだから、吸い込んじゃダメだよ、身体によくない……!」

 ガス、と言われて「あー……」と納得する。いつだったかネットで、「屁を着火させる」という動画を見てオシッコをちびるくらいに笑い転げたことがある昴星だ。火がつくってことは、確かに身体に悪いだろう。諭良はやはり頭がいい。

「じゃー、ちょっと引いて見る」

「うん……、そうして」

 諭良は心配そうに振り返り、下手をしたら昴星よりも小さいように見える尻を一度揺すって、「んん……っ」といきみ始めた。途端、オシッコが噴き出したようだ。高い噴水がほとばしり、タイルにビチャビチャと音を立てる。その音に混じって、しかしかき消すことは出来ないボリュームで、諭良は放屁した。

「あ、くせー」

 思わず率直すぎる感想を述べてしまった。

「だ、だからっ……」

「だいじょぶだよ、そんな嗅いでねーし。うんこも出る?」

「う、ん……っ」

 重たいがゆえに出すのも一苦労であった昴星のものとはまるで趣が違う。放屁の瞬間少しだけ開いたかに見える穴は、ほとんど拡張されることもないままニュルニュルと細い便を生み出し始めた。便器の中の黒く逞しい先客の上に、それと比べると色の薄く柔らかいものを纏わせていく。

「おまえ、うんこ細いなー……、いっつもこんな感じ?」

「ふ、太いときも、ちゃんとあるよ……」

「太いうんこ、食べもん気ぃつければ出てくるようになるよ」

 昴星は整腸剤を朝に一錠だけ飲んでいる。正規の量を服用するとどうも効きすぎてしまうのだが、一錠ならばしっかりとしたものが心地よく出るのだ。

「んん……っ」

細いが、量はたっぷりしている。つまりそれだけ臭いということで、その臭いの広がり方は諭良の方が大きいかもしれない。無論昴星のそれの影が薄くなるわけでもなかったが。

「諭良、嬉しいんだろ、おれにうんこ超見られて」

 こころみに訊いてみただけだ、否定されるかもしれないとも思ったが、諭良の裸身には昴星の言葉が物理的に這いずったようにぞくぞくとした震えが走った。

「んうっ」

 諭良は便をぶら下げる尻をもどかしげに揺すって声を上げる。「う、れしい……っ、うんち……っ、するところ、見られてるの……!」

 クールで格好良くて、女子の人気を一身に集める少年が口にするものとは到底思えないような、濡れて粘っこい言葉だ。

「くせーの、超出てんのな、きったねー音立ててさ、アンド、ちんこもガチガチになってんのなー」

 いじめられるの、本当に好きらしい。諭良はガクガクうなずいて、「んん、ぼく、うんち見られてる……、こぉせに、汚いうんちひてぅの、見られてるのっ……」興奮の余り舌足らずになってまで言う。

 赤ちゃんみてーだ。

 そんな諭良の振る舞いに、昴星もちょっと恥ずかしくなる。というのも、昴星も感じすぎると言動に責任が取れなくなってしまいがちな自覚があるのだ。

「おにーさん」のところで、流斗と「おにーさん」二人掛かりで意地悪をされたときには本当に赤ん坊のようになって、オムツの中に脱糞までしてしまった、言葉も赤ん坊のごときものになっていた。その記憶が昴星にはまるでないのだが、「おにーさん」が撮影したビデオを見た限り、事実なのだった。そりゃあもう目を背けたくなるくらい浅ましく大喜びで「見て見てっ、おれの、おれのうんこっ」と……。どうやらおれはほんとにおかしくなるとああなっちゃうらしいぞ、ということを昴星は学んだ。そしてそういう傾向を持つのが自分一人だけではないらしいぞということも。

 いっしょ、というのは嬉しいものだ。

「あ……はぁ……っ、うんち、ぜんぶ、出たぁ……」

「おー、すっげーな、超くせー」

「ん……、ふふ、きたないのいっぱい、昴星に見せちゃった……」

「こんなの初めてだろ」

 驚いたことに、諭良は首を振った。

「え、あんのかよ、誰かに見せたの?」

「ん……」

 諭良は口ごもる。言いたくないなら無理に言葉を引っ張り出す必要はないが、(内に秘めているものはどうあれ)奥ゆかしく見えるこの同級生に、自分や才斗の他にそういう相手がいたことがあるというのは驚きだ。

「えっと……、あのね、……これ、ナイショだよ?」

「あー……、うん」

「ぼく、……いま、才斗のこと好きで、もちろん、あの、昴星のこと好きだし、きっと流斗ともっと仲良くなったら、流斗のことも好きになると思う、けど……、あのね、ぼく、もう一人、好きな人、いるんだ……」

「だれ?」

「名前は……、言えない。誰にもナイショって約束だし、言うとその人に迷惑かかっちゃうから……」

 諭良は屈んだままの体勢が疲れたか、足を下ろし、洗面器を挟んだ向こうに座る。

「男子、なんだよなきっと」

「うん……、男の人。……あのね、前にみんな……、流斗の連れて来た、リト、だっけ、あの子もいっしょに遊んだ公園があるでしょ?」

 昴星たちにとってもお馴染みの「城址公園」だ。才斗とも「おにーさん」とも、もう数え切れないほどあの公園で遊んだ。昴星はあそこを夜に全裸で歩き回ったことさえある。

「あそこの、トイレでね、……転校してきたばっかりぐらいの頃、前の学校のときにしてたみたいな、……おちんちん出してみたりとか、してたんだ。そのときに、何だか、普段よりすごく興奮してて……、恥ずかしいけど誰かに見られないかなって思ってたら、トイレに入って行く人がいて、……その人の隣で、ぼく、小さい子みたいにね、ズボンもパンツも膝まで下ろしてオシッコ、したんだ」

 流斗が好んでする格好だ。去年の夏、いっしょに海に行ったとき、サービスエリアのトイレで流斗はそうやっていた。手軽な露出である。

「その……、そんで、そいつと……?」

「ううん、そのときは、それだけ。でもぼく、勃起したおちんちん見られてすごく嬉しくって、……だからね、その人にまた会えないかなって、そのトイレによく行くようになって、……その次のときには、トイレの中でオナニーしてるときに、誰か来た音がして、ドアの隙間から覗いたらその人だったんだ。また会えたの嬉しくって、うんちしながらそのままいっちゃって……、でもいっちゃったあと急に恥ずかしくなって、怖くなって、そのまま逃げちゃった。でもそのとき決めたんだ。次にもし会えることがあったら、その人に、……友達になってもらおうって」

 昴星の脳裏に、やたらと焦点の合った記憶が蘇る。

「あのさぁ……」

 口にしかけて、「いや、なんでもねーや。そんで?」昴星は首を振った。まだ、決め付けるのは早過ぎる……。

「うん、……三回目に会ったとき、また、トイレでお尻を出してオシッコして、……勇気出して、話しかけたんだ。そうしたら、……『いいよ』って言ってくれて、……それから、今も、遊んでもらってる。一緒にいるとき、二人きりのときは、『恋人になってもいいですか』って言ったら、いいよって言ってもらえて……、それで……」

「ちょっと待てちょっと待て、そいつ、大人か」

 やっぱりそうだ……、昴星は確信するに至る。

「そう……。ぼくみたいな、男の子、好きなんだって言ってた。あのね、その人、ぼくのオモラシ見てみたいって……」

「……訊くけど、その人さ、背ぇ高くって割りとカッコよくって、仕事帰りスーツで、優しい人だろ」

 ぽかん、諭良が目を丸くする。

「ど……、どうして……、そう思うの?」

 間違いない。

「おにーさん」だ。

 昴星は、

「んーっとにもー……!」

 と眉間に指を当てて嘆いた。

「おにーさん」はショタコンである。でも、無害なショタコンである。いつだって昴星の味方でいてくれて、優しく、賢く、幸せにしてくれる。昴星が悩めば一緒になって悩み、昴星が嬉しいことを一緒に喜び、セックスをするときにも「もっとやりてーよーにやりゃーいーのに」と思うくらいに気遣いを忘れない。

そういう人だ。

 転校してきたばかりの頃だと諭良は言った。ということは、諭良にはまだ友達もおらず、心細く寂しい気持ちでいたに違いない。昴星の知る「おにーさん」がそういう少年の思いを敏感に察知し、……その心を慰めようとしたとしても、何ら不思議はない。というか、「おにーさん」はそういう人だ。

 それにしても、あぶねーなー……!

 昴星がどきどきするのはまさにその点だ。おれや流ならいい。けど、諭良みてーに何も知らないやつと(声掛けられたからと言って)そんなことしちゃうなんて、あぶなっかしすぎる!

「ひょ、ひょっとして、昴星、……その……」

 諭良の青ざめた顔で問うのに、「ん」と唇を尖らせて頷く。

「おにーさん、っておれは呼んでる。あれだろ、あの、うんこ橋のとこに住んでる……」

「うんこ……、うん、あの、橋の近くの、川沿いの……、う、ん……」

 諭良も昴星も黙りこくった。

 諭良がどうか知らないが昴星は、妙に納得してしまえるのだ。

 昴星と諭良、よく似た嗜好を持つ二人の仲が悪かったことを、彼は知っていたはずである。

 知っていたからには、二人がどうにか仲良くなれないかを、あの人は考えたはずだ。実際に出来たことは何もなかったにしても、頭を悩ませてはいたはずだ。

「お兄さん、は……、その、ぼくの他にも、『恋人』がいるって言ってた……。それって、つまり……」

「おれ。……アンド流。あと、女子も一人」

「……その、女子ってひょっとして……」

 諭良は、昴星の知る名前を口にした。昴星が頷くなり、諭良は大慌てで、

「ご、ごめんね、ぼく、知らなかった……、その、お兄さんの恋人が昴星だったなんて……!」

 謝る。諭良が昴星の恋人を好きになるのは才斗と立て続けに二例目ということになるのだから。

しかし、

「まー……、いいよ、しょーがねーよ、おにーさんショタコンだし、おれには才斗もいるし……」

 怒る気にはならないのだった。

「おれはさ、おにーさんに遊んでもらえんの楽しいし、……おにーさん、すげー優しいだろ? エロいし、ちんこしゃぶらしてくれるし。だから、おにーさんのことが好きだ。……でな、これは流がゆってたことなんだけど……」

 流斗は、誰より一番に「お兄ちゃんのおよめさんになりたい」という告白をおにーさんにした。

 しかし流斗はこうも言ったのだ。「ぼく一人だけじゃなくって、みんなに好かれてるお兄ちゃんが好き。だから昴兄ちゃんのことも、『恋人』って思って欲しい。そっちのほうがぼくは嬉しいから」と。それを機に、昴星も彼の「恋人」になったのである。

「なー、おまえも、おにーさんのこと、好きなんだよな?」

 すごく申し訳なさそうに、諭良はこっくりと頷く。

 昴星は顔を上げて、にーと笑った。

「おれも超好き。でもっておにーさんはおれらのことさ、きっとおんなじくらい好きって思ってくれてんだ」

「昴星……」

「考えてみたらさ、おれだって才斗いんのにおにーさんのこと『好き』って思うの、ほんとはダメじゃん。でも才斗はおれとおにーさんのこと知ってて、おにーさんとも付き合っていいって言ってくれたし、おれさ、流がおにーさんに可愛がられてんの見んのも好きなんだ。流といっしょなら、おにーさんのちんこさ、おれ一人ですんのよりもっと気持ち良くしてあげられるし。だから、きっと多い方がいいんだ。おまえもおれとおんなじ、おにーさんの『恋人』なんだ」

 それが一番幸せなことなのだという認識あるいは納得は、昴星の中でとても据わりがいい。

 諭良は目を潤ませていた。

「ぼくね……、才斗のこと、お兄さんに相談したんだ。お兄さんは、……『きっとうまく行くよ』ってぼくを勇気付けてくれた。きっとそれは、ぼくだけじゃなくて、才斗と昴星の幸せのことも考えて、言ってくれたんだ」

「うん。おにーさんってそういう人だ。優しくってさ、おひとよし。……あのさ、おれこれ今日ずっと考えてたことなんだけどさ、おまえがもしいいなら、おれおまえのことおにーさんとこ連れてって、大人ちんこいっしょにしゃぶろうぜって誘おうと思ってた」

 ぱちぱちと諭良が瞬きをする。

「ぼくも……。昴星が嫌じゃなかったら、お兄さんのところ誘ったら、昴星もお兄さんも嬉しいかもって……」

「決まりだな」

 ひひ、と昴星は立ち上がる。「今度さ、流も呼んで三人で行こうぜ。おにーさんおれらのちんこ大好きだからさ、ちんこ三本あったらきっと超喜ぶ」

 おにーさん、今頃クシャミしてたりして。昴星は愉快にそんな想像をする。

「ちんこ縮んじゃったな」

 諭良を立ち上がらせて、見比べる。「やっぱおれの、ちっこいなー……」

「でも、ぼくもおにーさんも、昴星のおちんちん大好きだよ」

「そっか。さっきのちんこプルプルするやつ、おにーさん好きなのおまえ知ってる?」

「うん。お兄さん喜んでくれるから、いっぱいしちゃう……」

「じゃー今度行ったときもいっぱい見せなきゃな!」

「うんっ」

 仲良しって、こういうことを言う。

「こんどさ、流呼んだら三人で動画撮ろうぜ。おにーさんのおかずにいっぱいなるやつ。ちんこプルプルとかさ、オモラシも、うんこするとこも」

「うん。……お兄さんは昴星といっしょのときもいっぱい撮るんだね?」

「おれ撮られんの好きだもん。おまえもだろ?」

「うん、あの……、ぼくのいないところでお兄さんがぼくでオナニーしてるかもって思うの、すごくドキドキするし、嬉しい……」

 お揃いの二人で二人分の山盛りをトイレに流してから浴室に戻ったら、身体を洗いっこする。誰かと一緒の入浴は昴星にとっては才斗と重ねる日常茶飯事だが、諭良の白くて綺麗な裸を洗うのは何だか気後れしそうになるぐらい高貴な仕事であるように思う。そして諭良の手で身体を洗ってもらうのは、まるで「おにーさん」にされるようで甘やかされている気分になれる。

 昴星も諭良も、ついつい相手の下半身を重点的に「洗って」しまった。泡を流す前からわかっていたことで、

「昴星の、本当に可愛い……、昴星は肌もきれいだし、顔も……、すごく可愛いから、あのね、本当に最初見たとき、女の子だって思ったんだ」

 しかしその「男の子」のシンボルに、諭良は自らの場所をくっつける。

「おれだってさー、おまえほんとに顔きれーだからさ、……すっげー焦ったんだぞ、おまえが才斗のこと好きだって知ったとき。おれおまえとそういうの比べて勝てるとこ一個もねーと思うし……」

「でも、ぼくは昴星と同じだよ。昴星と同じ人が好き、……二人もね。それに、ぼくたちはおんなじ秘密を持ってるし」

 余り具合こそ違うけれど、包茎である、そして年の割りにその性質も含めて幼いということも似ている。先ほどはブリーフ越しで味わった愛撫、今度は直接的に重ね合わせて、こすり合わせて。

「諭良、ちんこ、また濡れてる……?」

 すでに濡れていることが明らかな昴星は擦り付けながら強請る、「また、さ、皮、剥いて見して。ちんこの先っぽくっつけっこして気持ちよくなろうよ……」

「ん……、ふふ」

「……ん……?」

「こんなの、平気になっちゃうんだもん、……恥ずかしいところくっつけ合うの……、ね、不思議……。ちょっと前まで、考えたこともなかったのに……」

 昴星も濡れている、諭良もやはり、濡れている。粘膜同士のこすれ合うたび、耳を澄ませばかすかな音が鳴っているのがわかるし、それがまごうことなく一種のキスなのだという事実は、二つの幼い亀頭に繋がる、どちらのものなのか判然としない涎のような糸で証明される。

「ひひ……、恥ずかしいとこ、だけど、いちばん、きもちぃとこじゃん……、ちんこ……」

「ん。……ぼく、ずっと皮剥かないできたから、……お尻の穴とおんなじくらい恥ずかしいところだよ……」

 諭良の言葉は昴星に、彼や流斗がなぜ「露出」にハマるのかという理由を考えさせた。昴星にとってももちろん「ちんこ」は恥ずかしいところだし、気心の完全に知れた仲間というか恋人でなければじっくり見せようなどとは思わない。

 しかし、恥ずかしいところは例外なく「気持ちいいところ」なのだ。乳首しかり、肛門しかり。

 考えはそこまでで止まった。

「昴星は……、まだ、ガマン出来るの……?」

 諭良が髪を撫ぜて訊く。目は潤み頬は染まり、あ、こいつ超美人じゃん、昴星はそんな視覚情報によって、思考回路がストップする。「ぼくもう……、いきそう……、昴星のおちんちんに出ちゃいそう……」

 んく、と息を、唾を、飲み込む。

 諭良の尿道口から飛び出た精液が自分のペニスを熱く濡らすところを想像したのだ。

「おれの……、ちんこ……?」

「うん、だって、……ぼく昴星のおちんちん好き……、ぼくとおそろいの、オネショして、オモラシで気持ちよくなって、……臭いおちんちん、好きだから……!」

 諭良は執拗に亀頭を擦り付けてくる。その滑りの感触に、昴星の肛門もムズムズしてくる。

 感じ切った諭良の顔が目の前にある。

 考えてみるに、昴星はこれまで流斗以外の男子のことを「可愛い」と思っては来なかったのだ。しかるに、

「こうせ……っ、昴星の……っ、おちんちん、おちんちん……おちんちんっ……おちんちんっんっ、あ、はっ……! っんっ、んぅ!」

 声を跳ね散らかしながら、昴星のペニスにどっぷりと精液を吐き出した諭良の姿は、……何と可愛いことが。青い臭いの液に怪我されたことが、昴星にはただ嬉しくて。

「ごめん、……ごめんね、昴星……、ぼくだけ、出しちゃった……、おちんちん、ベトベトになっちゃったね……」

 亀頭と皮の縁を白く潤ませる諭良の体液は、それそのものが何らかの刺激を生じさせるものではないはずなのに。

「あ、あっ、ちんこ……っ、ちんこっ……」

 右手は止まらない。

「昴星……、ぼくので、オナニーしてる……」

「んっ、ん、おれ、諭良のせーしでオナニー、してっ、んっ、んぁ、あ、あ、あ、出るっ出る出るっ出るっ出るっ!」

 お揃いの性質を持つ二人の性器は互いの精液によってコーティングされた。

 余韻の震えに乗じてキスをするのももう恥ずかしくない。諭良は昴星を優しく抱き締めて、

「……いまの、ぼくらのおちんちん、きっとお兄さんにはすごく、おいしいね……」

 囁く。その言葉に昴星は息に声を混じらせながら、こくんと頷いた。

 


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