i-SWITCH 03

 鮒原昴星は渕脇才斗の味が大好きな変態である。

 加えて言うならば、彼は最近「失禁」という一般的には快感とはほど遠い行為を好んでするようになった。ひょっとしたらおれ「変態」どころの騒ぎじゃねーのかもしんねーなーなどと暢気に構えているうちに、もうその行為と自分とを、どう足掻いても切り離せなくなった。しかし少年自身はさほどの不安も抱いていないのである。何故って、

「おれだけが変態なわけじゃねーし」

 ということだ。少年の相棒であるところの渕脇才斗は、昴星の汚れたパンツの匂いが好きという、これまた「変態」であるから。一人ぼっちだったらもう少し不安を覚えて、「気をつけよう」と考えるのが自然であるところ、才斗が自分の汚したパンツに悦びを覚えるような人間であるから、歯止めが利かなくなる。だから昴星自身は断じて、自分のみの責任で此処まで至ったとは思っていないのである。

 五時間目は、算数の授業だった。昨日のテストが早くも返され、決して褒められたものではないが一応は親に叱られなくても済む程度の答案を鞄にしまう。一方で、離れた席の才斗はおなじみの百点だったようで、女子たちからの尊敬の眼差しをかわすことで精一杯の様子である。おれのオシッコの匂いが好きな変態のくせに、と思えば、悔しくも何ともない。寧ろ、自分がいま穿いているものに重大な価値があるように思えてくる。

 テストの答え合わせにそう長い時間が掛かるはずもなく、授業の残り大半は退屈な時間となる。時間的に不可避な少しの眠気に、教室中にはのどかな空気が流れているように思われた。昴星の席はいちばん壁際の前から三列目で、中途半端に教師の目が届く場所だ。おちおちノートの隅っこに落書きも出来ない。もちろん、居眠りなどもってのほか。いつでも眠気の格闘を強いられる時間帯である。

 しかし、今日の昴星にはするべきことがある。

 二時間目の授業は体育だった。着替えの際にはさらりと乾いて真ッ白だった下着は、まあ、相手が男子なら誰に見られたって恥ずかしくないものだったろうと昴星は思っている。

 然るに、五時間目を迎えた昴星の穿くブリーフには、才斗以外の誰にも見せるわけには行かないほど汚れている。

 事の発端は、今朝まで遡る。

 五年生ながら、昴星は未だにオネショ癖が治らない。原因は多々考えられ、両親も解決に苦心していたが、最大の理由はと言えば昴星が寝る前にトイレに行くのを忘れてそのまま寝てしまう、その上ベッドに入る前でも平気で水分を取るという一点に集約される。そろそろ夏が近くて、夕べは風呂に入った後なかなか汗が引かなかったもので、立て続けに麦茶を二杯飲んだ。その上、ベッドの上で漫画を読んでいるうちに眠ってしまった。少年の膀胱の容量を考えれば、自業自得も良いところである。

 オネショをして目を醒ます朝は、当然ながら全く爽やかなものではない。目を開けて違和感に気付き「あ」と声を漏らしてタオルケットを捲って確認するという一連の動作は、何度繰り返しても慣れることはない。母親ももう慣れたもので小言の一つや二つで済ませてくれるから良いようなものの。

 ただ、このところ「爽やかなものではない」目覚めは、全く違った意味を持って昴星の朝に訪れる。即ち、覚醒時に故意の失禁をして自分の下着を尿で汚す快楽を身体が覚えてしまったからだ。もちろん昴星だって無尽蔵にブリーフを持っているわけではないから、四六時中失禁の機会を伺っているわけではない。しかし、……この朝なら、「やっちまったもんはしょうがねーじゃん」という勝手な理論が通用する。タオルケットを退かして昴星が見るのは、大きな水溜りの上に横たわる自分の身体、ぐしょ濡れのブリーフ、そしてくっきりと膨らんだペニスの輪郭である。……そういえば、夢の中でもオモラシしてたような気がする……、無意識の領域でも、昴星の肉体は濡れたブリーフの貼り付く感触に心地良さを覚えるようになっているらしい。

 そういう機会だっただけ。結論付けて、昴星は前開きから勃起した幼根を取り出して、オナニーをした。まだ何となく温もりの残る下着の感触を味わうために、股下に手を入れ押し付けるようにしながら、幾度か扱いているうちに精液はあっという間に昴星の腹に零れる。息を弾ませ、カーテンの隙間から青い空を見上げながら余韻に浸り、「ひひ、……やべー、やっぱ、すっげー気持ちィ……」べっとりと精液の付着した掌を広げて、諦めたように昴星は笑ったのだ。

 パンツを汚せば、才斗が悦ぶ。才斗が悦べば、色々と昴星にとっても得なことがある。……才斗はおれの匂い嗅ぐとちんこ硬くするだろ? でもって、そのちんこを舐めれば、才斗はせーし出してくれるじゃん? 才斗のせーし、すっげー美味しいし、おれ、大好き。

 失禁、からの射精で一先ずの欲を片付けることには成功したが、今度は舌が騒ぎ出す。才斗のちんこ欲しい、せーし舐めたい、喚く。だとすれば、今日、昴星がするべきことはひとつしかないのだった。

 即ち、学校に居る間にブリーフにたっぷりと尿を染み込ませて、それで才斗を誘う。

 流れ星が当たったように思いついた瞬間から、昴星はその構想に取り憑かれた。二時間目が体育であることももちろん忘れていない。身体測定はつい先日に行ったばかりだから大丈夫。三時間目の授業中から昴星は行動を開始した。もちろん派手に失禁しては大恥をかくから、トイレにはきちんと行くものの、尿を最後まで絞りきることはせずにブリーフの中に零す。じわりと温かい感触が広がって、陰茎に吸い付くように思えた瞬間、危うく勃起しそうになる。授業中にも頃合を見計らって、少しずつ尿を搾り出していた。周囲に気付かれでもしたら取り返しの付かない事態になることは判っているから、表面張力で保たれたグラスを扱うように、事は慎重に運ばなければならない。

 みんなが真面目な顔して授業を受けているのに、おれ、いま、オモラシしてんだ……。

 三時間目以降、この時間まで繰り返してきて、きっともうパンツはえらいことになっているはずだ。一体どの程度汚せば才斗が喜んでくれるかは、実のところ判らない。汚れていれば汚れているほどいいのかもしれないとは思う一方で、ポスターカラーで色を塗るように、何度同じ場所に重ねたところで汚れは増えないのかもしれないという懸念もある。この算数の授業が終われば帰りの会をやって終わり、いよいよ念願の行為に移れるわけだ。逆に言えば、汚れを増やすのは此れがラストチャンスである。

 昴星は黒板に顔を向け、右手で鉛筆をゆらゆらと揺らしながら、真面目に授業を受けている姿勢だけは取る。ただ左手はハーフパンツのポケットの中に突っ込んで、ブリーフの裾から指を入れて、ペニスの向きを調整する。それからハーフパンツに染みが付かないように、内側から布地を少し持ち上げる。

 緊張が喉の辺りを熱くしているのを覚える。いつのまにか鉛筆を揺らす動きは止まっていて、まるで昴星は氷のように硬くなっている。括約筋に力を入れて、股間に集中しながらも、集中しすぎると何も出なくなると午前中に学んだので、ほんの少し、気を緩める。

 じわり。

 こうしてパンツに搾り出すと、尿は普段以上に熱く感じられるのが不思議だった。体温よりもずっと高いように思われる。勃起しないように慎重に、再びポケットの中で指を動かす。メッシュ地のポケットは財布や携帯電話を入れるとゴツゴツ当たって痛いのだが、指で細かな作業をするには適して居るように昴星は思う。無論、設計者だってこんな変態的所業のためにポケットをメッシュ地にしようと思いついた訳ではないだろうが、ブリーフの濡れ染みの大きさを確認し、それからまたペニスの先の向きを変えるという一連の作業にはもってこいである。

 授業は既に半ばを過ぎている。興奮しているからか、時間が経つのが妙に速く感じられた。

 もう一度……。

 力を、先程と同じ要領でコントロールする。ポケットのメッシュ地とブリーフのコットン化繊合織の布地を透かして、触れた指先が自らの尿で濡れた。何ということをしているのだろうと慄くよりも、「すっげぇ……!」と少年はある種の感動すら覚えて。

 と。

「っあ!」

 ガタン、と椅子を引ッ繰り返す勢いで、立ち上がった。教室中の視線が昴星に集中する。

「あ、あ、あっと、あの、しょんべん! しょんべん行って来ていいですか!」

 教師は呆れたような顔をして頷き、クラスメートたちはクスクスと笑いを漏らす。才斗は、溜め息混じりに窓外に視線を移した。「ごめんなさい、行ってきます!」バタバタと慌しく、ポケットに手を突っ込んだまま教室の後部の扉から出て、トイレへと駆けて行く昴星の姿は、きっと「本当にオシッコが漏れそうな少年」のものと映っただろう。

「あっぶねぇえ……」

 個室に入って、ハーフパンツを下ろす。ポケットのメッシュ地も随分濡れていたが、ブリーフには一度目に付けた小さな濡れ染みの何倍も大きな染みが、中央やや左から裾のゴムに掛けて広がっていた。つい勢い付いて出しすぎてしまったのである。パンツを下ろし見下ろせば、縮み上がったペニスの陰の嚢まで濡れててらてらと光っている。

「んでも……、結構、汚れたなー……」

 一度、パンツを脱いで広げて観察する。顔をほんの少し近付けただけで、乾いたものと出したてのもの、合わさった尿の匂いが鼻を刺激した。昴星には悪臭としてしか捉えられないその匂いは、きっと才斗の興奮を強烈に煽るものとなるはずだ。

 そう思うだけで、昴星も興奮する。濡れたペニスのままブリーフを穿きなおすと、早くも冷たく感じられる濡れた感触に、今朝方のオナニーのことも思い出す。前開きから取り出した昴星の幼物はもうすっかり勃起していた。

「ひひ、……やっべ……、どうしよ、すげー興奮する……」

 自分で汚した下着から顔を出すペニスは、何だかとてもエロティックなもののように見える。尻の穴を締めれば、連動してピクンと震え、摘んで動かすとにちゃにちゃと薄汚い音を立てる。昴星のペニスはその体型に比例したように小振りで、ほんの少し丸っこい。身体測定の指数は「痩せ気味」を示すし、人一倍――無駄なほど――活発に身体を動かすわりには、何故だかあちこちぷにぷにしている。服を着た昴星を見てその体型から想像される通りのペニスの形である。

 勃起しても先にふにゃりと尖って皺の寄る包皮を剥き下ろすと、すぐに行き詰まる。それ以上引っ張ると痛いし、亀頭に触るのもまだ怖い。ただ、もちろん尿道口の周辺はそれでも覗ける。鈴口からは透明な汁が滲んでいて、……オシッコ、まだ出るのかな、そんな風に思ってそっと触れてみたら、糸を引いた。

 どうしよ……、ここでしちまおうかな……。

 学校でオモラシまがいのことをして、こんな風にトイレで勃起してる、なんて、何て、すげー。

 昴星は自分の下着を見下ろしながら、自分のいましている行為に頭の天辺から浸かりきっていた。其処を泥沼と呼ぶ。息を弾ませながらポケットから携帯電話を取り出し、立て続けに何枚も自分の痴態をカメラに収めていく。

 才斗を美形だと思う昴星は、自分は――相変わらず女に間違われるくらいに――子供っぽくて凛々しさに欠如した顔立ちと認識している。今ならば、異常な快楽に堕し切って蕩けた、浅ましい表情。……ぶっちゃけ、ひでーな、そう思う。しかし汚れた下着から顔を出すペニスは益々勢い付いて誇らしげでさえある。こんな写真を才斗が見たらどれだけ興奮するだろうと想像するだけで、堪らない気持ちになる。

「ん、ン……っ」

 思わずペニスをぎゅっと握って、扱き始める。立ったままオナニーをするのなんて初めてだ。下腹部辺りに熱と力が集まって、膝に力が入らなくなりそうだ。

「あ、う……、すっげぇ……、すっげぇ、きもちぃ……っ」

 射精までさほどの時間も要らないだろう。

 しかし、昴星は無理矢理に自分の右手を開いた。掌の圧迫から解放された陰茎はヒクヒクと震えながら、不満そうに涙を浮かべている。

「……ひひ……、まだ……、おあずけ」

 そう呟いて、昴星はブリーフを上げる。

「だって……、あとでさ、いっぱい、気持ちよくなれんだもん……、あいつと一緒にさ……」

 ハーフパンツを上げかけて、思い出したように包皮を濡らす露も内側に擦り付けた。才斗はこの匂いに気付くことは出来るだろうか。

 勃起はなかなか収まらず、昴星はポケットに手を突っ込んで教室に戻った。「時間掛かったなあ」「漏らしたんじゃねーのか」などという同級生に「バーカ、漏らすわけねーだろ」と応じて席に着く。まだガキのおまえらにはわかんねーだろうなー、自分の下腹部に当たる勃起の熱をやり過ごしながら、昴星はどこか得意げな気持ちで残りの授業時間を過ごすのだった。

 

 

 

 

 汚れた下着は努力の結晶と言ってもいい。これで才斗が少しの反応もしなかったら、恐らくおれは怒るんだろう、そんなことさえ昴星は考えていたが、杞憂に終わった。通学路から逸れて潜り込んだ城址公園の雑木林でハーフパンツを下ろして見せたら、途端に才斗の顔色は変わったのだ。

 普段は誰よりもカッコよくて、女子にもちやほやされる才斗が、おれのオシッコで汚れたパンツ見ただけで顔色を変える。

「嗅ぎたいだけ嗅げよ、おれのオシッコの匂い嗅いで、ちんこ気持ちよくなれんの、嬉しいだろー?」

 其れは昴星にとっては痛快な事実だ。思い立って足で股間を探ってやったら、案の定、其処からはごりごりと硬い感触が返って来た。昴星よりも頭一つ近く背の高い才斗は、其処も昴星よりも長い。顔に下着の、まだ柔らかな膨らみを押し付けてやったら、昴星の相棒は我を失ったように昴星の尻を抱いて鼻を埋めて匂いを嗅ぎ始めた。

「もう……、んっとに、変態だなー、おまえは……」

 才斗のスウェットの上から、バランスを崩さないように右足の裏を当てて刺激してやると、才斗は眉間に皺を寄せてひくりひくりと身体を震わせる。昴星の股間は才斗の呼吸の度に暑くなったり涼しくなったりした。合間に、「ん」とか「う」とか、声が混じる。

 こんな汚ねーパンツが、そんなに好きかよ。

 嘲笑の思いが浮かぶとき、やっぱり「おれは一人じゃない」という気持ちが強くなる。泥沼に浸かって沈んでいくのは、一人ぼっちでは心細いけれど、こんな風にしっかり抱き締めて貰えているなら不安はずいぶん薄らぐ。一緒ならもっと深いところへ行ってみようか、そんな勇ましい気持ちにだってなるのだ。

 気持ちばかりでなく、才斗の鼻にぐりぐり刺激される其処もそういう形になる。

「こう、せい……」

 才斗が濡れた目をして見上げる。こんな才斗の顔を見ることが出来るのは、おれだけだ。他の連中が見たら幻滅するのかもしれない、しかし昴星だけはそのペニスを踏んでいる立場から、「悪くねー」と言ってやるつもりだ。

「その……」

「射精したいのか?」

 足の指を広げて、くいと才斗のペニスを其処に挟む。才斗は一瞬不服そうな表情を見せて、「おまえだって……、したいんだろ。こんな……、汚れたパンツの中で、ちんこ硬くして……」呟く。

「おまえはおれのせーしの匂いだって好きだもんなー。……したら、そうだなー、射精さしてやってもいいけど、言うこと二つ聞いてくれたらな」

「……ふたつ……?」

 ひひ、と昴星は笑って、自分の下着の股間を指差す。

「一つめはねー、おまえが嗅いでる此処さ、……何の匂い? 当ててみてよ。当てられたら射精さしてやってもいいよ」

「何の……、って」

 才斗は困惑したような表情を浮かべながら、「そんなの……、オシッコと、汗と、……あと、ちょっとだけどガマン汁の匂いがする、けど……」

「……へえ」

 一瞬で三つを全て当てて見せた。昴星は思わずウエストゴムを引っ張って自分のペニスを覗いて、まだ「今」はペニスの先端は濡れていないことを確かめる。あっさりと嗅ぎ当ててしまうのは、何の才能か。いや、どうしたって才斗が酷いくらいの変態で在ることの証拠だろう。

「他に……、何か匂いがするのか……?」

「いーや……、正解。正解したから、ちゃんと射精さしてやる」

「え……? ちょ、ちょっと……、『二つ』って、もう一つはなんだよ!」

 片足立ちで靴下も脱いで、才斗のスウェットの中に足を滑り込ませた。体育の授業のときには確かめなかったが、昴星は足の裏の感触で才斗が今日穿いていたのがブリーフだったことを知る。「今日はおそろいか」と言ってやったら、才斗は少し恥ずかしそうに頷く。才斗のブリーフにはきっと染みなんて付いていないのだろう、付いていたとしたって内側に目を凝らさなければ判らないようなものが一滴あるかないか。そんなところまで優等生の必要はない、どーせおれだけしかいねーんだもん……。

「ひひ……、おれ、おまえのためにたくさんパンツ汚したんだぞ、おまえもおれのために、パンツ穿いたまんま射精しちゃえよ」

 両手で才斗の頭を抑えて股間を押し付けて擦り付ける。それだけで才斗の抗いの手は止まり、代わりに昴星の身体の割に肉付きの良い尻を掴む。才斗はもう、窒息するんじゃねーのかと昴星が心配になるぐらいの勢いで夢中になって下着の匂いを嗅いでいる。昴星は息を弾ませて哂いながら、才斗のブリーフの上から親指と人差し指の間に挟んだペニスを小刻みに扱いて、追い詰めて行く。

「んンっ……んぅ、ふ、ぅンんん……っ、んぅ、ン、んンンっ……」

 足の裏から才斗の鼓動がはっきりと伝わってきた。才斗は昴星の尻を抱えたまま、ひくひくと震えている。確かめるように親指の腹でブリーフをそっと探ってみると、しっとりと湿り気を帯びて、ペニスと布がぬるりと滑った。

「……ひひ、オモラシ才斗。どうだよ、パンツ汚すの、楽しくって気持ちィだろー?」

 才斗はようやく昴星のブリーフから顔を上げて、蕩けた目を向ける。

「『二つめ』は、おまえがパンツん中にせーしオモラシしろって言おうと思ってたんだけどさ、言ってもやらねーだろーし、だから言わなかった。でもちゃんと射精出来たんだし、文句ねーだろ?」

 足を抜いて、靴下を履き直す。靴を履くのは面倒で、靴下の底真ッ黒になってもいいやとそのまま下土の上に立った。才斗はいかにも気持ち悪そうに、自分の下半身を見下ろし、スウェットとブリーフを引っ張って肌から剥がす。昴星はもちろん経験があるが、尿と精液とでは質感がまるで違う。尿のさらりとしてすぐに布に染み込む感触も、精液がべとつく感触も、どちらも好ましいなどと考えている。

「したらさ、……おれもちんこいきたいな。でもって、おまえおれの匂い腹いっぱい嗅いだろ? おれもおまえのせーしとかちんことか欲しい」

 射精直後だというのに、才斗は恐らく昴星が自分のペニスを美味そうに舐める顔を想像したのだろう。昴星は才斗に匂いというプレゼントを贈った、同じくらい価値あるものを、昴星が欲しいと思うのは当然の権利だ。

「でなー、……おれ、このパンツ、おまえにあげようと思う」

「……そん……、なの……、いいよ、もう、四枚も貰ってるし……」

「でも、何枚あったって困るもんじゃねーだろ?」

 才斗は何やら少し口篭って、「そんなしょっちゅうおれにくれてたら……、おまえの穿くパンツなくなっちゃうじゃんか……」と口を尖らせて言った。

「だいじょぶだよ、パンツぐらい新しく買えばいいんだし」

 と、ブリーフの紺色のゴムを引っ張ってぺちんと鳴らして見せた。

「……それ……」

「んー、こないだ買った。箪笥ん中のパンツ、何か少なくなってきちゃったからさ、補充したの。でもまた新しく買わなきゃだな」

 ほんの少し呆れたような顔をされたのは少々心外だ。だって、おまえにあげるために小遣い削って買ってんじゃねーか。

 でも、まあいい。

「どーせこのパンツもおまえにあげんだし、どーせだったらもっと汚ねーほうがおまえも嬉しいだろ? だからおれ、これからオモラシして、このパンツ、もうどうしようもねーくらいぐちょぐちょにしてやろうと思う」

 そういう異常な言葉を発するとき、昴星は何の恥ずかしさも覚えなかった。寧ろ、才斗が慌てるのが却って面白い。

「ぐ、ぐちょぐちょって……?」

「いいじゃんか、おまえだって嬉しいんだろ? おまえが嬉しいこと何でもしてあげちゃうおれってすげーいい奴」

 息を落ち着けて、出来るだけ別の事を考えて、勃起を収める。

「そんな……、パンツびしょびしょにしてどうやって帰るんだよ」

「そんなん、おまえだって一緒だろ、せーしでべっとべとのパンツ穿いて帰れねーだろ? だから一緒にノーパンで帰ろうぜ。それに」

 背中を丸めて才斗の耳元に、言葉を差し込んだ。才斗はそれだけで言葉を失う。まるで呪文のようで、それだけの力を自分が手にしているという考えは昴星には誇らしくすらあった。小さくて性的にもあまり強くはない、それでも魔法の出所である自分のペニスを、本当に大事にしてやらなくては。

「したら、オモラシするから、……まばたきしねーで見てろよー……?」

 一歩引いて、シャツを胸まで捲り上げる。ここはもう教室ではない、誰に見られる心配も多分――こんな林の中まで潜り込むような物好きは恐らく居ないだろう――ない。先程はほんの少し零しすぎて慌てたけれど、いまは一杯出た方がいいくらいだ。大丈夫、そのために学校を出る前に腹がたぷんたぷんになるくらい水を飲んだし、此処へ来る途中で既に、尿意はかなりこみあげていたのだから。

 力を緩めた。「あ……、出る……」途端に、昴星自身の想像を超える勢いでブリーフの中、尿が吹き出した。

「ひひ……、出てきた、オシッコ……」

 迸る水音は案外に大きく響く。ブリーフの中は洪水のようで、布の堤防は呆気なく決壊し、両足の内腿を幾筋も伝って流れて、白いソックスを濡らす。そして股間からは雨のように夥しい量が垂れ落ち、足元でぴちゃぴちゃと軽やかに鳴った。……膀胱ははちきれんばかりに膨れていたのかもしれない。もう結構な量を出したはずなのに、昴星のペニスの先端からはまだ幾らだって尿が溢れてくる。

「すっげー……、オシッコ、いっぱい出てる、まだ……、まだ止まんねーや……」

 吹き出した尿は一旦は障壁となるブリーフで行き止まり、昴星のペニスを濯いで汚してから下着の外に溢れてくる。漏水の被害は既に股間に留まらず、尻にまで広がっていた。昴星は右手だけでシャツを抑え、左手で自分の尻に触れる。じっとりと自分の掌よりも熱い尿が其処を濡らしているという事態に、放尿を継続する陰茎に針が刺さったような快感が走った。見下ろせば、足元に水溜り、漂う尿の匂い。昴星のペニスは放尿しながらも、見る見るうちに勃起していく。完全に上を向くと、それまで辛うじて被害を免れていた紺色のウエストゴムにまで浸食が起こる。百三十、ぴったりのサイズのブリーフを買って穿いているはずなのに、少しく窮屈なゴムがあっという間に湿り気を帯びてゆく。オネショのときには腹まで濡れることも多いが、立ったままの失禁では濡れ難い場所まで汚していると思うだけで、昴星は放尿しながらいっそこのまま射精したいような気持ちに支配される。

「はぁ……あ……、オシッコ……すんの、オモラシすんの……、すっげー……、気持ちぃ……」

 どうすればオシッコ出しながら射精できるんだろう……、本気でそんなことを考えている間に、ようやく昴星の尿の勢いが弱まり始める。音は遠退くように去り行き、後にはこの草陰に充満する匂いと、生温かい下着が身体に貼り付く、途方もなく不快で幸福な感触が残った。

 水を含んだブリーフは矢鱈に重たい。普段は穿いていることも忘れてしまうような薄布なのに、今はこれほど存在感がある。いや、今日は「三時間目」以降、ずっと昴星にとってその布は重大な気配とともに自分の陰部を覆っていたのだ。

 最後の一滴まで搾り出して、未だ雨粒を垂らす自分のペニスを見下ろして、余韻の震えが全身を走ったとき、あまりの快感にそのまま射精まで至ってしまったように錯覚した。ブリーフに浮かび上がる勃起した陰茎のフォルムが狂おしいくらいに生々しくて、力を篭めるたびにヒクヒクと震えるのがダイレクトに覗ける様を目にすると、自分の身体ながらすっげーエロい、昴星は益々興奮を覚える。眼の高さで自分の失禁する一部始終を見詰めていた才斗は、口を開けたままで居る。しかし射精直後の無気力な顔色では、決してない。

 いま一つの欲を、もう満たさないでは居られない。

なあ、才斗……、おれ、才斗のちんこしゃぶりたい……、でもって、ちんこいきたい、オシッコじゃないのもいっぱいパンツの中に出しちゃいたい……」

 才斗もそうだが、昴星も、初めての精液を零した先は自分の下着の中だった。熱い熱い液体はどろりと強い粘性を持ち、下着の中にしばらく留まり、やがてじわじわと硬さを残した幼い茎を伝いながら、時間をかけてブリーフの前に染みを浮かべる。

 尿とはまるで違うその感触を最高の快楽の後に味わうという行為は、自分の変態性を思い知り慄くと共に、ついこの間まで記憶の奥底に閉じ込めて決して覗こうとはしなかった過去の記憶を掘り返す。

 昴星は二年生のとき、教室で失禁した経験が在った。

 「トイレに行きたい」の一言が恥ずかしくてなかなか言えないで居るうちに、少年として考えうる最大級の屈辱に塗れたのだ。あのときのことは正直に言って、思いだしたくもない。いまだってそうだ。才斗が居なかったら今のように、元気一杯の太陽のような昴星は居なかったに違いない。

 然るに、いましているのはそれと何が違う?

 尿と精液がブリーフの中で交じり合うとき、昴星はそう自問する。答えは出ない。しかし、自分がこうすることで悦ぶ才斗が居るという事実は、「今」という時間にしか手にしようのない、宝物なのだ。

 シャツを脱ぎ捨て。仰向けになった才斗の顔に跨るために、少しずつ身を動かすたびに、昴星のブリーフからは出したての尿が溢れ出し、太腿を伝い、滴った。才斗の顔に、目に、自分が間違いなくいま失禁した姿を晒しているのだと思うだけで、昴星の心は熱を帯び弾けそうになるのだ。

 おれの……、漏らしたオシッコでびしょ濡れの、……ちんこの周りだけじゃなくって、足の間んとこの縫い目も、お尻も、全部才斗に見られてんだ……!

 すっげー、恥ずかしい。

 少年自身がこういう思いを抱く事を、才斗は知らないだろう。確認しておくべきことは、昴星は失禁と言う行為をただ興味だけでやっているのではないということだ。トラウマと直結する行為、併存する羞恥心が、より強い快感を喚起することを覚えた身体が求め、心が抗えない。

 そしてその異常性を正当化しようと思っている。才斗の膚の味、排泄される尿や精液の味も求めて止まないのは、まったく同じ道理だ。

「ひひ……、才斗の……、せーしオモラシしたパンツ……」

 鼻を寄せると、ブリーフごしに精液の匂いが届く。そして、……そりゃそうだよな、うん……、才斗のブリーフには漏精以外の汚れは見えないが、微かに汗と、やはり小便の匂いだって漂う。息を弾ませながら、自分自身を焦らすようにブリーフを引き下ろすと、匂いは一際強くなった。柔らかさを取り戻した才斗の細い性器が、精液を纏って横たわっている。性器に絡んだものは乾き始めていたが、ブリーフの股間に当たる部分には未だ艶を帯びてぷるぷると震える精液がたっぷりとこびり付いていた。

 昴星は迷いなく才斗の膨らみを口に含み、本能のまま吸い上げた。

あはぁ……っ、才斗の……、せーし、すっげ……、おいひぃ……!」

 舌がその独特のとろみ粘り気を帯びた青臭い蜜を味わう暇もなく、喉が欲しがってしまう。口の中で起きる小さな戦争だ。支配権はいつでも舌を使役する喉の方にあるようだった。しかしその舌にも意地がある。幾度も幾度も才斗のブリーフの染みを吸い上げて、僅かに残る味を貪欲に追い求める。……ほとんど自分の唾液の味ばかりになったところで、冷え始めた股間に何かが触れた。才斗の鼻だと気付くのに少しも時間は要らなかった。

「んン、さいとぉ……、もっと、お尻……っ」

「……お尻?」

「んん、おれ、オモラシしたんだって、もっと、もっと教えて……! お尻の穴んとこまで濡れてんの、すっげ、恥ずかしくって、気持ちぃからぁ……」

 昴星の尻は、本人の意識とは関係なくふるふると揺れた。してくれなきゃやだ、してくんなきゃ死んじゃうと、まるで幼子のように強請るのだ、本物の幼子のように小便で汚れた下着を穿いて。

 願いは呆気なく叶えられる。才斗が昴星を裏切るはずがないのだ。尻の穴の窪みの辺りに才斗の形のいい鼻が差し込まれ、その温かい手がペニスをブリーフの上から包み込む。それだけのことなのに、まるで才斗に抱き締められているような感覚に溺れる。圧迫された布から、また尿が溢れ、太腿を伝う感触に「ふぁああ……!」と、馬鹿みたいに幼い声が溢れた。

「嬉しいのかよ……、こんな、オモラシ、して……」

「ん……っ、だって、だって、すっげ、気持ちィもん……!」

 もう、何を言ってもそういう声になってしまう。普段は器用にこういう自分を包み隠して、怖いものなんて何もないと言うように振る舞う術を持っていても、才斗には何も隠せないのだと昴星は思い知る。

 そして、それはきっと才斗も同じことだろう。昴星の眼前で才斗のペニスは再び少しずつ硬くなり始めている。昴星のものよりは大きいが、それでも未だ幼い甘さが抜けきらず、内心で「すっげー可愛い」と思っている才斗のペニスだ。ガマンなんて、もう出来ない、したくない、しなくてもいい、……しゃぶりついた。

 世界でいちばん、昴星の好きな味だ。

 茎を丹念に舌でなぞった後には、唇を使って少し皮に隙間を作り、内側へと舌を突っ込む。既に勃起しきった才斗の其処は、オシッコの匂いが鼻に抜ける。始めに感じた味は、まさにその味だったろう。しかし舌を先端に当てると、ぬるりと滑る腺液の味に届いた。

 至上の悦びに触れるのは舌だけではない。下半身では、才斗が匂いに酔いきっているようで、執拗に昴星の股間を嗅ぎながら、じっとりと濡れたブリーフの上からぐしゅぐしゅと音を立てながらペニスを扱いてくれている。今朝ベッドの上でオナニーをしたときも、昴星は右手で自分のペニスを扱きながら左手を股間に当てていた。濡れた布の感触を自分に教えることで、倒錯がより強いものとなることをいつのまにか覚えていた。

「ンぅうん!」

 才斗の指の動き方が変わった。射精という終着点に向けて、昴星を追い込み始めたのだ。

 やだ、まだ、いきたくない、おまえのせーしもらえるまで、いきたくない!

 昴星も、才斗の性器を味わいながらもより濃厚な味を求めて舌の動きを変える。そうすれば、才斗の性器は優しく腺液を溢れさせる。その味を感じれば、益々昴星の快感は募り、早くもペニスの根元にこみ上げて来る熱を覚え、持て余し始める。でも、まだ、……まだ……!

「ふ、、ぅンっ……、ッく……、こぉせ……!」

「んん! んっ、ンん! んぅっ、ンっ……ンンぅうっ」

 才斗の声に、頭が真っ白になった。……出る、と思った瞬間に、舌先で鼓動が弾み、ずっと待ち侘びていた精液が迸った。二回目だからか、ブリーフに付着していたものよりほんの少し味は薄く思える。それでも、……それでも、こんなに美味しい……。

 昴星も射精していた。才斗の強張った指とブリーフの内側で、五時間目のトイレで手を止めたことが間違いではなかったことを告げるように、滲みるような熱を伴って尿道を押し広げた精液が、激しい勢いでブリーフの中に溢れ出す。オモラシしてる……、オモラシしてる……! 味と、身体に感じる穢れの感触、昴星にとって最上の快楽は、幼いその身を貫いた。

 喉も、すぐには働かなかった。口の中にはいましばらく才斗の精液が留まる。舌に絡むその味を、自分の唾液と混ぜてしまうのも勿体無い。それでもやがて、息が苦しくなって、昴星は大切に飲み込む。僅かな残り香まで含めて、一口だって零す気はなかった。

「……ひひ……、才斗の、ちんこも、せーしも、……すっげー美味しかったぁ」

 泣きそうなくらいに幸せだった。オモラシをした自分相手に欲情して、いちばん好きなものをくれる才斗が、いとおしくていとおしくて堪らないような気がする。股の間にある顔はいましばらく昴星の失禁ブリーフを嗅いでいたが、やがて満足したように自分を見る。一瞬、困ったように眉間に皺が寄ったが、すぐにそれを隠すように唇を尖らせる。

 昴星は身体についた火が、消えていないことに気付く。重たい下着を身に纏ったまま、もっと、もっと、愉しいことをしたい、二人だけで秘密を重ねていきたい……、そんな思いが、次から次へと溢れ出して来る。目の前の、自分の唾液というまったく価値のないもので濡れた才斗のペニスがまた小さくなった。小さくなると、細ッこくて、何だかお菓子のようにも見えて、やっぱり可愛い。先っぽに皮が余ってんのもおれと同じだ、嬉しい。

 でも、おっきくなってんのも好き。おっきくなってる才斗のちんこは、おれにせーしくれるし……。

「……なー、才斗、……おれ、またオモラシしてもいい……?」

 だから、昴星は自分のブリーフの中に手を入れて、ぬるつく精液を指に絡め、その指を才斗の鼻の前に掲げた。

「さっきしたばっかりだろ……」

「ん、でもな、学校出るときに、水、たくさん飲んだから、またしたくなっちゃった……。ダメ?」

 これは本当のことだ。水分を過量に摂ると、いつでも「またかよ!」と才斗に呆れられるくらいにトイレが近くなる昴星なのだ。

 勝手にしろよ、と才斗がぶっつりと応えた。

「ん、サンキュ」

 それは何より優しい「もう一回」を認める言葉だった。昴星のペニスは通常時のサイズに縮んでいたが、もちろん一度きりで打ち止めの訳がない。舌だって、まだ満足しきったわけでは決してない。

「……おれ、才斗のオシッコも呑みたい」

 才斗は、精液は飲ませてくれるけれど、尿に関しては昴星よりもずっと抵抗があるようだ。其れが当然なのかもしれないけれど、昴星には「才斗のはオシッコだってすげー美味しいから呑みたいもん」といつだって強請る。散々強請ったって実際に口の中に零してくれる回数は、精液に比べれば随分少ないのだが。

 それに、オシッコはさらさらだ。

 一回に齎される量では尿の方がずっと多いかもしれないが、すぐに流れてどっかに行ってしまう、だから慌てて呑まなくてはいけない、味わう暇もない。

 だとしたら。

 昴星は、目の前の湿っぽいペニスを、同様に湿っぽい下着で隠した。虚を突いたのは、才斗が短く声を上げたことで判る。

「才斗もー……、おれと一緒にオモラシ、しようよ」

 むじゅ、と昴星の尻に才斗の顔面が当たった。

「んなっ、なっ、何……」

「ダメ? おれ、才斗と一緒にオモラシしたい、……オモラシしてくれたら、これからも、もっと、もっと、おれ、才斗のためにいっぱいオモラシして、才斗にパンツ、あげるからさ、……ダメ?」

 尿意はもう、切羽詰っていた。元々括約筋の強い昴星ではない。いけない、と思ったときには、もう自分の吐き出した精液を濯ぐように、少量の尿が漏れ出していた。

「ん、まだ……っ」

 必死になって身を捩り、股間を握り締めて堪えようとするが、その甲斐もなく指の隙間から溢れ出してしまう。失禁をするのが好きな少年でも、この状態にはただ我慢出来なくなって漏らしてしまうだけの情けなさを味わう。

「ダメなのに……っ、才斗と、一緒にオモラシっ……!」

 尿道が焼けるように熱くなる、……オシッコ、止まんない……! 全ての力を失い、涙が溢れかけたときだったか。才斗の腹筋に微かに力が入ったのは。

「あ……!」

 才斗のブリーフに、新しい染みがぽつりと浮かんだのを見て、気が抜けて、強く股間を握り締めていた力が緩んだ。間近に放尿音を聞きながら顔を寄せれば、強い臭いを伴ってその染みはみるみるうちに広がっていく。……恥ずかしく、ないはず、ないのに。才斗は自棄のように昴星の、決壊した尿道から溢れ出す尿の染み行くブリーフの股間で顔を塞いでいた。

「あはっ……、才斗の、才斗の……、オシッコ、いっぱいでてる……っ、さいと、オモラシしてる……っ」

 ひょっとして、才斗もどっかでおれにオシッコくれるつもりだったんじゃないのか、そんな嬉しい妄想をさせるくらい、才斗の尿は溢れてくる。昴星が普段目にしている自分の尿よりも色が濃くて、ブリーフに染み込んでも黄金色がすぐ見て取れるほどだ。もちろん、夢中になって吸い付いた。こんな風にブリーフに染み込んでいれば、ゆっくりと味わうことも出来るし、味も余計に濃く思えた。もう自分の唾液の味しかしないと思っていたのに、其処には微かに精液の味も混ざるような気さえする。もう何の躊躇いもなく自分の尿を出し切って、ペニスをきつく硬くしながら昴星はしばらく才斗の長く続く放尿に酔い痴れた。舌に僅かに届くせせらぎの音さえもご馳走だ。

「オシッコ……、すげぇ……、おいしい、才斗……、才斗、すごいね……、全部、こんな、すげー……、おいしいんだ……」

 本当に、この相棒は宝物だ。

 才斗の失禁が終わった。昴星も才斗のペニスが勃起したことに気付いたのだろう。ブリーフの前開きから、其れを引き出した。才斗のために短い矛先を鼻に近づけてやってから、肛門を引き締めて残尿を散らした。咎められることなどなく、才斗はひとしきり昴星の性器を嗅いでから、口の中に収める。遠慮がちな舌が、却って嬉しかった。

 昴星の知る限り、才斗は心優しい少年である。いつでも澄まして冷静で、それでも温かい心をしている。だからこそ、二年生の時の失敗からも才斗は昴星を救い出したし、今もこうして一緒に、秘密の愉楽に手を繋いで溺れてくれる。

 そういう相手の「味」が美味しくないはずがない。その言葉の正しい意味を昴星はまだ知らなかったが、もういっそ「愛してる」と言ったっていいくらい。

「才斗……、なぁ……、ちんこ、いっしょに気持ちよくなろ……。ちんこ、くっつけっこして……、おれ、オモラシした才斗のちんこ、好き。おまえもおれのさ、オシッコまみれの、くさいちんこ好きだろ? だから……」

 二人は、まだ男性同士における最高の密着を知らない。それはまだ先の話として、いまはこんな風に陰茎の先をこすりつけ合ったり、互いに相手のその部分を愛撫しあったりすることが、言うなればセックスに一番近い。昴星は自分のものも才斗のものも同じようにブリーフの前開きから取り出して、ひひ……、こうやってさ、キンタマびしょびしょなの、気持ちぃだろ……」と、同意を期待せずに聞いた。

 特徴の違う一対の性器、同じように小便臭い反社会的な窓から顔を出して、ぴったりとくっつけ合った。

、「ひひ……っ、すっげー、エロい……」蕩けながらもはしゃいだ声を上げる。「おそろいの、オモラシちんこ、キスしてんだ……」皮を剥かずに先端を付けると、互いの余った皮同士、啄ばみ合うようにキスをしているように見えた。

「才斗……」

 そんな風に口付け合う自分たちのペニスを見ているうちに、辛抱が効かなくなる。失禁や射精を堪えきれないのなら、キスの欲だってまた同じか。同じ味のはずの唾液すら才斗のものなら嬉しいし、舌を才斗が返してくれた瞬間に、昴星の肛門はきゅうんと引き締まった。ほんとにもう、ほんとにっ、もうっ、何でおまえはこんなおいしいんだ……!

 キスの合間に、

「おれの、しごいて、……おれも、おまえのしごくから。でもって、いっしょにちんこ、どろどろにしよ……?」

 擦り付けながら強請り、返答も待たずに才斗のペニスを握り込む。自分のものと同じように器用に動かしてやることは出来ないけれど、その分大切な大切な其処を、精一杯の情熱を篭めて動かすのだ。待つほどもなく、昴星の小さなペニスにも才斗の指が絡みついた。

「才斗、皮、剥いて……」

 唇を唇に触れさせながら、請う。「……こう、か……?」才斗が慎重に皮を剥く、と言ってもほんの少し亀頭を露出させただけだが、才斗の皮は昴星に比べもう少し低く剥ける。それでも互いに敏感過ぎる粘膜だ。其処にぴったりと重ね合わせて、昴星は少量の尿を其処に振り掛ける。

「……まだ……、出るのかよ」

 怒られるかな、と思ったのに、才斗は少し呆れたようにそう言っただけだ。

「まだ、何度だって出せるもん……」

 膀胱の中にはまだ熱い尿が相当量残っているように思えて、何故だか其れが誇らしい。才斗の其処は昴星が小便を引っ掛けたら、ますます硬くなったように感じられた。才斗を悦ばせるものを、おれはまだこんなに持っていると思えば、こんな自分に価値が在るように思えてくる。

「でも、いまは、せーし、出したい……。せーしも何度だって出したいし、出せるよ……?」

 才斗はそれを疑っただろうか。指が、確かめるかのように皮を被せ、皮の上から亀頭の根元辺りを執拗に扱き始める。不器用なのにどうしてか、こんなにも気持ちいい。もう、ゆっくりとキスをしている余裕もなくなってしまう。しかし、気持ちは何故だかとても穏やかだ。

「才斗……、もぉ、いく……よ……?」

 才斗が、其れを認めてくれた。ひょっとしたら才斗ももういってくれるのかもしれない。安心しきって、昴星は射精する。二回目、それでも身体の底に溜まった精液は幾度も昴星の性器の先端から、才斗の茎へと向かって放たれる。

 昴星は余韻を愉しむことを自分に禁じた。自分の指に絡んだ自分の精液を塗りつけるように、才斗のことを幸せにする。のんびりするのは、その後でも全く遅くはない。

 才斗が、いく……。指先にしっかりと鼓動を捕らえて、矛先を自分のペニスへと向けた。勢いよく飛び散った精液が昴星の幼茎で跳ねたとき、二人の其処は味も匂いも同じものになるのだ。

 心の色も。

 キスをしながら昴星はこんな形で心底幸せと感じ入る。幼馴染、親友、相棒、どう呼んだって差し支えのない相手だが、こんな風にキスをして、一緒に幸せになって、……ひょっとしたら別の呼び方の方が相応しいのではないか。

「やっぱ、二回目だから薄いなー」

 やっと身を離して見下ろす。自分の性器には才斗の放った物が絡んでいるし、それは腹部の辺りにも散っていたが、それ以上に才斗自身の腹も昴星が放ったものと才斗が放ったものが混じってとろとろに濡れている。

「当たり前だろ。おまえだって、少なくなってるし……」

 そう言う、少し緊張したような才斗の腹部を、……たぶん、こっちがおれの、思いながら一つひとつ舐め取っていく。多少は混ざっていても仕方ないが、どうも、味の違いはないように思われる。ちんこ、……これ多分、ほとんどおれのだよな、でも、先っぽからちょっと出てんのはやっぱり才斗のだろう。思い切って其れもぱくんと食い付いて吸い上げる。ふにふにと柔らかい舌触りはやっぱり「可愛い」と思うようなものだった。最後は、自分のペニスに付いたもの。もう迷いはなく指に絡めて舐め取る。

「ひひ、やっぱ、美味しいや」

 才斗は困惑したような顔で居た。「……パンツ、脱いでいいか」と、黄色く汚れたブリーフを持て余している。

「えー、似合ってんのにー」

「似合っててたまるか……!」

「ちぇ、わかったよ、しょうがねーなー。お尻上げろ」

 才斗の尻の下からウエストを指に引っ掛ける。水溜りの上に尻を乗せていたから、ちょうどその下の土が滲んで、……なんかうんこ漏らしたみてーに見えるな……。残念ながら土が溶けているせいで、漂う匂いにも少しく不純物が混じっている。

 ただ、どろどろの下着を太腿まで上げたところでふと、思いつく。

「えい」

 と太腿のところまでぐいと引き上げて、抱え上げた。

「なんっ、なにっ……!」

 才斗には、二つ年下の従弟が居る。流斗という名前の、本当に可愛らしい少年だ。才斗と同じ血を引いているから顔はとても綺麗だが、其処に「格好付ける」ということを知らない無垢さがあって、とてもいい。

 記憶の彼方。才斗の家に、まだオムツをしているような流斗が遊びに来て、才斗のおばさんが流斗のオムツを替えるところを見たような記憶がある。そのときはオシッコにもちんこにも興味なんてなかったんだよな……。

 いま自分が才斗に取らせているのは、ちょうどそんな格好である。オモラシをして、オシッコに塗れた陰嚢の裏や肛門の窪みまで、見たいだけ見ることが出来る。

「なんかさー、こういうのって、赤ちゃんのオムツ替えてるみてー」

「ばっ、バカなこと言ってないで、離せっ」

「しわしわのキンタマの裏ッ側も、お尻の穴もオシッコでびしょびしょ」

「一々そんなの言わなくていいからっ……、ひ!」

 うんこ出てくるとこだぞ、と自分の耳に自分の声で、誰かが問うた。

 別にいいし、……才斗のだし、綺麗だし。

 間近で肛門を見ることなど始めてだ。白っぽい才斗の臀部と比べると、少しくすんだような色の其処は、漫画でときどき表現されるように放射状の短い皺を集めて、何だかヒクヒク動いている。其処に、未だ数滴分の才斗の尿が溜まっているように見えて、あとはもう、食欲だけがただただ刺激される。

「んなとこっ、舐めんなぁ……っ、このっ、変態っ……」

 変態でいいもん、一緒に変態だからいいんだもん。

 ふと見れば、才斗のペニスはどういう訳か、肛門を舐められたのに少し硬くなり始めているように見えた。……肛門、気持ちいいもんなのかな……、こんどおれもやってもらおうかな……、してくれねーか、いや、頼めばやってくれるかも。今日みたく、オモラシして、おれの恥ずかしいとこいっぱい見して、匂い嗅いで貰ったら、きっと。

「もっかい、だなー」

 才斗の足を下ろして、跨ぐ。ぺろり、唇を舐めて、……今度はもっと薄くなってんだろう、でも、濃いのも好き、薄いのも好き、才斗のせーしだったら全部好き。そんなことを思いながら、フェラチオに臨みかけたところで、ピッタリと身体に張り付き冷たいブリーフの中でもう一種類の欲が声を上げていることに気付く。

「ん……、こっちも、もっかい……」

 陰茎を前開きからしまって、才斗の視線が其処に注がれているのを確かめてから、……才斗の膝と、其処に引っ掛かったままのブリーフに温かい雨を降らせる。

 誰の手にも届かないところにある、この世界だ。

 もちろん、誰も触りたがらないことを昴星は判っているし、「その方がいいや、二人きりでいる方が愉しいし」と思っている。

「オシッコとせーしと、どっちが先に出なくなるかなー……、ひひ、試してみようぜー?」

 このまま二人三脚で突っ走って何処まで行けるだろう。……案外すぐ転ぶ? 足を結び合った才斗が途中で走る気をなくしそうな懸念がある。もちろん、それならそれで一緒に其の場に倒れこんで、一つの結論として「其処」をおれたちの布団にすればいいだけのことだ。

 才斗のペニスに吸い付きながら、……三回目の射精、続く四回目、五回目に向けて、昴星は下着の上から自分のペニスを虐め始めた。


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