i-SWITCH 02

 渕脇才斗は鮒原昴星の匂いを愛して止まない変態である。

 そう安易に括られてしまうことに、才斗が素直に応じられるはずもない。確かに昴星はいい匂いがする、いい匂いがしすぎる。その匂いが好きな自分で在る事は事実であるし、具体的には言えないし言いたくないようなことをその匂いでしていることも事実ではあるが、

「おれを変態呼ばわりする前に、あいつを何と呼べばいいのか教えてくれ!」

 と、才斗は思うのである。

 昴星は悪ふざけが過ぎる。元々調子に乗りやすい方であることは知っていたけれど、才斗が己の匂いが好きと知って以降、自らの汚れた下着をプレゼントするという奇行を行うようになった。

 それは、筋金入りの変態だよ、変態以上の何かだよ。

 才斗はそう思いながらも、昴星からのプレゼントを受け取る。受け取って、何に使うかと言えば一つしかない、嗅ぐのである。昴星の匂いは才斗にとって抗いようもないほど魅力的なものであるからして。

 じこじこと若い蝉が啼く声を降らせる川沿いの道を、真っ直ぐ蒸留に向かって歩いている。さっきの橋を渡って右に折れれば彼らの住む団地の方で、途中に大規模な書店がある。今日は二人が愛読する漫画雑誌の発売日で、昴星の小遣いが足りないと言うから才斗は半額出して、二人で一冊を買うつもりで居たのだ。それなのに昴星の足は通学路から逸れて、「どこ行くんだよ」の問いには背伸びの囁きで返って来た。ぴくりと才斗の身が強張ったところを見たものは、幸いにしていない。五年生にしてはすらりと背が高く、端正な顔立ちに頭脳も明晰と来ればクラスの女子からの指示を一身に受けるのも当然な才斗が、まさかそんな言葉で理性を失するところを誰かに見られるわけには行かないのだ。

 パンツ、あげる。

 昴星はそう囁いたのだ。

 普段は仕事で家を開けていることの多いそれぞれの母親は、今日に限って在宅している。麦茶やおやつを出してくれるのは嬉しいけれど、まさか母親の目の届くところで昴星がパンツを渡すとも思えない。

「変態。そんなにおれのパンツ好きかよ」

 だから、通学路から逸れて人気のない城址公園へと二人は向かっているのだ。

 変態と罵られることには納得が行かないが、昴星の匂い、及びそれの染み付いたブリーフには逆らえない。何故こうまで其れが好きなのかと問われたって、才斗には答えようがない。ただ、「いい匂いだから」とぶすりと言うのが関の山だ。

 重層的な匂いを掻き分けていけば、……まず、汗の匂い。今日は体育の授業があった。短パンの中で、元々汗っかきの昴星のブリーフはその匂いをたっぷりと吸い込んでいるに違いない。想像するだけで才斗の喉は鳴る。

 加えて、昴星は下半身の管理能力に甘さがある。具体的には、五年生になった今でも時折オネショをするし、トイレが近い、また排尿し終わった際の処理も手緩い。結果的に生み出されるのは、白いブリーフに滲んだ黄色い尿の染みである。

 もちろん才斗だって、人の下着の匂い、特に後者の匂いに関して欲情するような自分だとは思いたくない。いや、先日その匂いすらも昴星の物ならば甘く感じられるのだと知るまでは、夢にも思わなかった。

 しかし、一度嗅いでしまったら、もう虜も同然である。囚われ切って逃れられないような官能的な匂いである。最早その匂いなく才斗の生活は円滑に回転しない程だ。「プレゼント」として渡される昴星のブリーフには例外なく汗と尿の匂いが染み付いており、才斗を幸福で満たすのだ。

 しかし、以上の要件を満たしてもなお、才斗は自らが「変態」であることを認めたくはない。昴星の方が余ッ程だと思っている。

 何故って、昴星はそういう才斗の相棒として汚れた下着をプレゼントするうちに、才斗の理解を超えた行為に興じるようになったからだ。

 それは、「失禁」である。

 いま、才斗の鍵の掛かる引き出しには昴星から贈られた下着が、白ブリーフ三枚とボクサーブリーフ一枚の計四枚しまわれている。ブリーフの一枚目と二枚目には、さほどの差も見られない。ただ、二枚目の方がもう少し汚れが酷いかというくらいである。

 然るに、ブリーフの三枚目は「酷い」どころではない。排尿の後の汚れとは到底思えないほど大きな染みが、その陰茎が当たる部分から股下、尻にかけて広がって居るのだ。昴星は才斗が自分の尿の匂いに欲情すると知るや、故意的に失禁することでその染みを拡大生産するようになったのである。ボクサーブリーフは色がグレーで目立たないが、それも先日才斗の見ている前で昴星が失禁して製作したものであるから、やはり匂いはきつい。

 こういうのを変態と言うなら、おれはもう少しマシなもんだろう。

 それでもおれを変態と言うのなら、……昴星を呼ぶための言葉を誰かおれに教えてくれ。

 斯様なことを、才斗は思っている。

 昴星は二年生の時に教室で失禁するという男子として最大級の屈辱を味わっている。普通に考えれば、そういう経験のある少年は自分の下着の清潔さを保つことに、人並み以上に気を遣うはずである。要するに昴星は「普通」じゃない、と才斗は断言する。いくら相棒のおれのためとはいえ、故意に失禁するなどと。

 しかし、昴星の後を歩く才斗は、昴星の足の向きを修正しないのだ。城址公園に入って、森の中の散策道から逸れ、藪の中に入る。橡の木の下、二人で身を寄せてやっとどの枝にも触れない薄暗がりには、夏の葉の蒸れた匂いが満ちていた。ぴったりと身を寄せて、

「ひひ」

 と笑う昴星に引っ付かれたとき、その首筋から髪から、……昴星の全てから漂う匂いが、才斗を捕えて離さない。

「……あんまり、ひっつくな、男同士だろ」

 平静を装って言う才斗の顔を間近に覗き込んで、昴星はまた「ひひひ」と笑う。普段クラスメートたちの前で被った仮面の内側を、昴星だけには知られているのだ。「同じ『男』のパンツの匂いが好きなくせに」……好きなのはパンツの匂いだけじゃない! 声を上げかけたのを堪える。成績は才斗の方がずっと良いのに、なぜか口車は昴星の方がずっと器用に回してみせることを、才斗は経験上知っていた。

「したらさー、才斗、おれのパンツ見たいんだろ? だったらさ、座って。おれのズボン脱がしてよ」

「なんで……、そんなん、おまえ、自分で脱げばいいだろ……」

「えー、だって、おまえ見たいんだろ? でもって、どうせ匂いも嗅ぐんだろ? したら、顔んとこにパンツあった方がいいべ」

 目の前のハーフパンツの向こうに、昴星の汚れを半日間吸収したブリーフがある。もちろん汗ばんだ肌からも、そのシャツからも、浮遊する匂いの微粒子は才斗を刺激している。白状すれば、もう勃起している才斗である。昴星にそれを気付かれているかどうかは知れない。呼吸は無意識に上がり、一度でも多くその匂いを吸い込みたくて仕方がない。平静な表情と顔色は裏腹だった。

「……わかったよ……、おまえが、そんな言うなら、脱がす……」

 昴星はニヤニヤ笑ったまま見下ろしていた。全てを見透かされているようで気分が悪い。欲しいものを手にするために何かを犠牲にしなければいけないとすれば、まず「意地」なるものが其れに当たるらしい。

 よく似合う紅いTシャツの裾を捲って、不細工な蝶の羽を解く。緩いゴムのウエストに指を入れ、五センチ下ろしたところにブリーフのウエストゴムが覗けた。ゴムの色が紺色だということに、才斗は一瞬指を止めた。

「ん? どした?」

 ニヤニヤ笑ったまま、自らシャツを捲り上げて腹部を晒す。

 昴星は小さく才斗が負ぶってもさほど重たくないが、才斗のように少年らしい引き締まった身体をしてはいない。どちらかと言えばあちこち柔らかいところを見付けられるような中性的な肉体だ。その上髪が長くて襟足は項にかかるしサイドは耳を隠す。二次成長のとば口に立った今もなお、女子に間違えられるほどだ。もちろんその相貌が幼い甘ったるさを纏っていることも重大な要件ではあったが。

 滑らかで甘い円味で描かれる腹部からも隠されていた汗の匂いが広がる。その匂いに意識を奪われたのも事実である。しかし才斗が指を止めたのは、寧ろ昴星の穿く紺色のゴムである。

 昴星のブリーフには詳しい才斗だ。何故って、年がら年中一緒に居て、その上性的な好意をしていれば、昴星が――というより昴星の母親が――一定のローテーションでブリーフを穿き回していることは判るし、其処に新しい一枚が加わればすぐに判別出来るのである。

 なお昴星の箪笥の中にある下着はほとんど全てが白いゴムのブリーフであり、一応トランクスやボクサーブリーフも持っていないわけではなかったが、雨が続かなければそれらを穿くことは滅多にない。

「指が止まってんぞ」

「……うるさい……」

 才斗の思考は昴星の声で途絶えた。そうだ、どんなブリーフであっても構わない、一度でも昴星が穿けば其れは昴星の匂いが染み付いたこの世に二つとない存在となるのだ。

 才斗は意を決して、昴星のハーフパンツを引き下ろした。太腿までずらしたら、指を離してもそれだけですとんと昴星のスニーカーの足元に落ちる。それを確認してから、首を軋ませて顔を上げて。

 才斗は言葉を失う。

「ひひ……、どうだー? 嬉しいだろー」

 呆気に取られる才斗の鼻に、「ふぎゅ」昴星が股間を突き出した。弾力のある感触と共に、たちまち広がる、強烈な尿の匂い、……。

 昴星の、紺色のウエストゴムのブリーフの汚れは酷いものだった。股間には濃厚な染みが大きく広がり、それは到底数滴の残尿だけでは説明のつくものではない。

「おまえ……っ、これ……、どっ……」

 もちろん汗の匂いもある、少し湿っぽく感じられるのはそのせいだろう。しかし刺すような尿の匂いが何もかもを支配する。

「ひひ。おまえがさー、嬉しいと思ってさー、ずっとね、トイレでオシッコしたあとも振らないでしまってた、ってか、ちょびっとだけ中で出してたりとか、……あとな、授業中とかも、ほんのちょっと、もちろん外にバレねーようにだけどさ、オシッコしてた」

「そ、んなんっ……、なに……、何考えっ……」

「ひひ」

 昴星は平然と笑っている、どこか得意げで、意地が悪くて、それでも総じて愛らしく見えてしまうのが益々憎たらしい笑顔は才斗を見下ろして、

「だってさ、おれがいっぱいパンツ汚しておまえにとっての『いい匂い』にしたら、おまえ興奮すんだろ、でもって、おまえ興奮したらおれのこと気持ちよくしてくれるし、おれの好きなもん、くれるじゃん」

 ほら、こいつの方が変態だろう。

 昴星が「好きなもん」は、才斗の持つ「味」である。「匂い」と「味」のどちらの嗜好が異常かということに付いて、才斗は絶対的な自信とともに「味」と言い張るつもりで居る。才斗の肌、汗、唾液、もっと言えば性器や、其処から噴き出る尿や精液が昴星にとっては最高のご馳走なのだ。

「ちょっと、待って」

 昴星が才斗の頭を抑えて、足だけで右の靴を脱ぐ。その間、才斗の鼻先には昴星の黄ばんだ下着があって、その匂いを苦しいくらいに嗅いで、このまま窒息したっていいくらいの気に才斗はなっている。

「よ、っと」

 昴星が靴を履いた左足だけで立つ。一度二度、バランスを取り直すために跳ねて、右足が降りたのは才斗の穿いたスウェットの股間だった。

「お、おいっ……」

「ひひ……、やっぱすっげー勃起してる」

 体重の半分以上は掛けないようにしてくれているのだろう。しかし足で股間を探られるというのはあまり嬉しいものではない。その上其処が目の前に漂う匂いで形を変じていると来れば尚更だ。滑りのいいスウェットと靴下のせいで、しゅくしゅくと音を立てながら昴星の足の裏はよく動き、才斗の性器を刺激する。

「嗅ぎたいだけ嗅げよ、おれのオシッコの匂い嗅いで、ちんこ気持ちよくなれんの、嬉しいだろー?」

 くしゅくしゅ、くしゅくしゅ、昴星の白いソックスの足が、才斗の理性をスクラッチのように削り取っていく。目の前のブリーフの染みが、無言のまま自分を呼んでいるように思える。

「……ひゃっ……ン」

 両手で昴星の尻を抱えて、才斗は昴星の股間の膨らみに顔を埋めていた。どうやら下ろしたてらしい紺色ウエストゴムのブリーフは滑らかで少しく湿っぽい感触で、……胸を満たす匂いがする。甘いような潮っぱいような匂いは才斗の鼻腔から体内へ這入り、まず脳を染め上げる。全身を司る其処が壊れれば、あとはもう、何も考えなくてもいい。右手を忙しなく動かす必要もなく、昴星が足で快楽を生み出し続けるのだ。

「もう……、んっとに、変態だなー、おまえは……」

 吹っ飛ぶだけの理性がまだ残っているかどうかは全く覚束ないが、もう頭ごとどこかへ言ってしまいそうだ。しかし頭部はいまの才斗にとってはペニス同様最重要な部位である。だってこの鼻がなくなってしまったら、大好きなこの匂いを嗅ぐ事だって出来なくなってしまう。頭上で微かに昴星が嘲笑した気がした。しかし少しも気に障らない。ただひたすらに、黄色く汚れた昴星の下着が嬉しかった。もちろん、ブリーフごしの陰茎の弾むような柔らかさも愛らしかったが。それは繰り返し繰り返し鼻を押し当てているうちに、少しずつ硬さを帯び始めているようだった。

 昴星の足は、足であることを忘れてしまいそうなほどに器用である。幾度か声が漏れて、恐らくその先端からは腺液ももう漏れ出している。下着が汚れてしまう……、そんなことを気に出来る状況はとうに抜け出している。

 このまま射精してしまえたらどんなに幸せだろう……!

「こう、せい……」

 自分の顔、浮かべる表情に責任を負わず、才斗は顔を上げた。鼻の頭にはべっとりと匂いの塊が纏わり付いているかのようで、顔を離してもなお呼吸一つの度に才斗を鋭く突く。

「その……」

「射精したいのか?」

 余裕綽々の表情で、昴星は見下ろしている。まだどこかに誇りが残っていたらしい、才斗は安易に頷くことが躊躇われた。

「おまえだって……、したいんだろ。こんな……、汚れたパンツの中で、ちんこ硬くして……」

 昴星は少しも恥らった様子もない。

「おまえはおれのせーしの匂いだって好きだもんなー。……したら、そうだなー、射精さしてやってもいいけど、言うこと二つ聞いてくれたらな」

「……ふたつ……?」

 昴星は「ひひ」と笑って、汚れた股間を指差した。

「一つめはねー、おまえが嗅いでる此処さ、……何の匂い? 当ててみてよ。当てられたら射精さしてやってもいいよ」

 匂い、この、いい匂い。「何の、……って」

 才斗は二つの匂いを確実に嗅ぎ取っていた。最も濃厚なのは尿の匂い、いくらだって嗅いで居たいぐらいのいい匂いだ。そして其処に添えられた汗の匂い。尿の匂いに甘酸っぱさをプラスして、此れが間違いなく昴星のブリーフだということを才斗に知らせる。

「そんなの……、オシッコと、汗と……」

 しかしいま一つの匂いを、才斗の鼻は嗅ぎ分けていた。それはごく僅か、才斗でなければ恐らく気付くことなど出来ない、ほんの些細な。

 しかし、確かに。

「……あと、ちょっとだけどガマン汁の匂いがする、けど……」

 昴星は驚いたように眉を上げて「へえ」と呟く。確認するようにパンツの中を覗き込んで軽く首を傾げた。外れただろうか、才斗の脳裡には一瞬不安が過ぎった。

「他に……、何か匂いがするのか……?」

 昴星は才斗の懸念を打ち消すように首を降った。

「いーや……、正解。正解したから、ちゃんと射精さしてやる」

「え……? ちょ、ちょっと……、『二つ』って、もう一つはなんだよ!」

 昴星は才斗の頭に手を置いて、右足のソックスを脱ぐ。それから器用に才斗のスウェットのウエストゴムの中に足先を潜り込ませて、ブリーフの上から、ぴったり、素足の先を当てる。親指と、人差し指の間だと思われるが、その部分に勃起した才斗のペニスを挟んで捕える。

「今日はおそろいか」

 おれのパンツはそんな汚れてない、……そしていい匂いなんか絶対にしない、少し恥ずかしい気もして、才斗はこくんと頷いた。その部分を、昴星は更に器用にぐりぐりと刺激し始める。

「ひひ……、おれ、おまえのためにたくさんパンツ汚したんだぞ、おまえもおれのために、パンツ穿いたまんま射精しちゃえよ」

 無茶だ、そんなの、嫌だ、……言葉を上げる前に口、いや、鼻が塞がれた。昴星は才斗の鼻を押し潰すように腰を振って才斗を支配する。離れても嗅げると思っていたが、やはり直接嗅いだ方が余ッ程いい匂い、……抗うことなど黄色い誘惑で塗り潰されて、気付けば才斗は両手で昴星の尻を抱き締め、呼吸の仕方すら忘れてひたすら、吸って、吸って、吸って。何も考えられなくなっていく。昴星の足の指はブリーフの上からでも的確に才斗の茎を捉え、上下にスライドさせる。時折包皮が捲れて、昴星ほどではないにしろ敏感な亀頭がブリーフの内側に擦れるが、その些細な痛みが射精への妨げにまるでならない。才斗が感じ切っていることを隠せないで居るから、昴星は益々調子に乗ったように足先での愛撫をスピードアップさせる。

 間もなく才斗の肛門の辺りはじぃんと熱を帯び、陰嚢の辺りがちりちりと傷むほどの快感を訴え、肛門付近に居た熱の塊が一斉に尿道の根元の辺りに殺到するのを感じる……。

 全ての思考を放棄して、才斗は昴星のブリーフの匂いにだけ集中した。

「んンっ……んぅ、ふ、ぅンんん……っ、んぅ、ン、んンンっ……」

 射精。びくん、昴星の足の指に挟まれたまま、窮屈なブリーフの中へ、一度、二度、三度、四度、震えとともに精液を吐き出す。朦朧とした意識が徐々に明瞭さを取り戻して行くとともに、自分でも驚くほど大量の精液がブリーフの中に行き詰まり、茎に垂れ、べっとりと纏わり付く不快感に顔を顰める。才斗の失態を確かめるように、昴星の指先が一度ペニスをなぞった。

「……ひひ、オモラシ才斗。どうだよ、パンツ汚すの、楽しくって気持ちィだろー?」

 恨みを篭めて睨み上げてようとしても、恐らく何の効力もなかっただろう。目に力が入らない。昴星は得意げに、

「『二つめ』は、おまえがパンツん中にせーしオモラシしろって言おうと思ってたんだけどさ、言ってもやらねーだろーし、だから言わなかった。でもちゃんと射精出来たんだし、文句ねーだろ?」

 靴下を履き直しながら、昴星は理屈を後出しにする。もちろん、才斗だってこういう行為になれば昴星の望むものを贈り返すことはやぶさかではない。しかしそれはやはり、直接的に口に含まれて、舌を這わされて、……そういう形を望んでいたし、期待してもいたのだ。

 靴を履くのを億劫がった昴星が、ソックスのまま下土の上に立って、ニヤニヤ笑いながら、「したらさ、……おれもちんこいきたいな。でもって、おまえおれの匂い腹いっぱい嗅いだろ? おれもおまえのせーしとかちんことか欲しい」と強請る。小憎らしいが愛らしい顔をした昴星が自分の性器を美味そうにしゃぶるのを想像しなかったと言えば嘘になる。もちろん未だ他の誰ともしたことのない才斗だが、昴星の舌の動きは、味を求めて貪欲に動くものだから、恐ろしいほどに気持ちがいいのである。

「でなー、……おれ、このパンツ、おまえにあげようと思う」

 加えて昴星はそう言った。其れは才斗にとってはもちろん大いに魅力的な言葉ではある。

「……そん……、なの……、いいよ、もう、四枚も貰ってるし……」

 それでもこの少年は一応「遠慮」をするのである。自分がダイレクトな変態ではないと言うためのエクスキューズのつもりだ。

「でも、何枚あったって困るもんじゃねーだろ?」

 そんなに何枚も貰っていたら、昴星の穿く下着など一枚もなくなってしまうではないか。そういう意味の事を言ってやったら、「だいじょぶだよ」と平然と、「パンツぐらい新しく買えばいいんだし」ブリーフの紺色のウエストゴムをぺちんと弾いて見せた。

 そうだ、「それ……」はどうしたのか。

「んー、こないだ買った。箪笥ん中のパンツ、何か少なくなってきちゃったからさ、補充したの。でもまた新しく買わなきゃだな」

 昴星はさらさらぺらりとそう言う。道理で小遣いが足りなくなるわけだ。確かにパンツは高いものではないだろうけれど、だけど、それにしたって。

 要はこの行為は昴星にとって毎週欠かさず読んでいる漫画雑誌よりも価値あるものだということなのか。

「どーせこのパンツもおまえにあげんだし、どーせだったらもっと汚ねーほうがおまえも嬉しいだろ? だからおれ、これからオモラシして、このパンツ、もうどうしようもねーくらいぐちょぐちょにしてやろうと思う」

「ぐ、ぐちょぐちょって……?」

「いいじゃんか、おまえだって嬉しいんだろ? おまえが嬉しいこと何でもしてあげちゃうおれってすげーいい奴」

 才斗でなければ知りようもないことだが、この世に生み出されたばかりの尿とブリーフに染み込んで黄色く乾いた尿とでは匂いが異なる。今はもちろん乾ききった染みの匂いをたらふく味わっている訳だが、……其処に更に、新鮮なものの匂いまで貰える……。

 しかし才斗はまだ自分の意地を売り渡しはしなかった。

「そんな……、パンツびしょびしょにしてどうやって帰るんだよ」

 仮に此処で昴星が立ち止まって、「じゃあやーめた」などと言おうものなら今夜眠れなくなるぐらい後悔するに決まっているのに、言わないでは居られないのだ。それで保護できる才斗の人権が一体どの程度残っているかは、才斗自身には判らないのだが。

「そんなん、おまえだって一緒だろ、せーしでべっとべとのパンツ穿いて帰れねーだろ? だから一緒にノーパンで帰ろうぜ。それに」

 昴星が、耳元で囁く。「おれのオシッコ、もっと嗅ぎたいだろ……?」

 変声期まで間遠い、甘さの残った声、普段より、ほんの少しだけ可愛らしく聴こえた。

「したら、オモラシするから、……まばたきしねーで見てろよー……?」

 昴星は靴とハーフパンツを足元から退かして、肩幅ほどに足を開いて立つ。器用なもので性器はいつの間にか小さくなっていて、黄ばみの中央部はほんのりと丸っこく小さな昴星のペニスによって膨らんでいるばかりだ。

「あ……、出る……」

 溜め息交じりの声で昴星が呟くと同時に、包茎の先が当たっていた部分に円状の濡れ染みが生じる。

「ひひ……、出てきた、オシッコ……」

 其れははじめ、一円玉ほどの大きさだったが、驚くほどの勢いで十円玉になり五百円玉になり円状ではなくなった。しゅうううというブリーフの中で尿の迸る音と同時に、新しい尿特有の匂いが爆発的な勢いで広がる。昴星のブリーフはあっという間に許容量を超え、太腿を伝うとともに股間からは雨が降っているような有り様だ。

 この間見たときよりも、勢いが強くないか、量が多くないか。

「すっげー……、オシッコ、いっぱい出てる、まだ……、まだ止まんねーや……」

 嬉しそうに自分の痴態を晒す昴星の尿の勢いはまるで収まらない。足元には既に大きな水溜りが出来ていて、靴下まで黄色く濡れている。既に灰色に濡れたブリーフの中で、昴星のペニスはいつからか上を向いていた。……オモラシ人に見せて勃起するなんて……、そう思いつつも、才斗もその匂いに駆られて先程「漏らした」ブリーフの中で性器がまたきつく硬くなっているのである。

「はぁ……あ……、オシッコ……すんの、オモラシすんの……、すっげー……、気持ちぃ……」

 ようやく尿の勢いが収まってきた。昴星は改めて自分の水浸しの下半身を見下ろして、恍惚の表情を浮かべ、最後にぶるりと震えた。先程までの生意気極まりない顔が嘘のように、甘えるような目をして、

「なあ、才斗……、おれ、才斗のちんこしゃぶりたい……、でもって、ちんこいきたい、オシッコじゃないのもいっぱいパンツの中に出しちゃいたい……」

 と濡れた声で切なげに強請る。

 だから手に負えないのだ……! 普段はあれだけ傍若無人に振る舞う、正直才斗だって「馬鹿だ」と思うような昴星なのに、こういうときは誰よりも可愛く思えてしまう。もちろん才斗自身は己に責任があることなど綺麗さっぱり上手に忘れて、「昴星のせいでおれはどんどん変態になってしまう」などと勝手に思うのである。

「なあ、こないだみてーに……、おれのさ、オモラシした、ちんこ弄ってもらいながら、才斗のしゃぶりたい」

 願ったり叶ったりとはこういうことを言うのだろう。昴星はシャツを脱ぎ捨て、才斗の頭の下に敷く。それを簡易的な枕にして、パンツ一丁の昴星があべこべの向きで昴星の身体の上に乗った。ブリーフからはほんの少しの足の動きにも未だぽたぽたと雫が垂れて、其れが自分の顔で跳ねるたびに才斗は狂おしいような気になる。

「ひひ……、才斗の……、せーしオモラシしたパンツ……」

 昴星は嬉しそうに才斗のスウェットを引き下ろし、ブリーフを捲る。既に乾き始めてべとつく性器ではなく、まず昴星はブリーフの方にしゃぶりついたようだ。「あはぁ……っ、才斗の……、せーし、すっげ……、おいひぃ……!」小さな子供が寝るときにタオルを咥えるように、ブリーフに吸い付いてこびり付いた精液を舐め、呑み込んで行く。才斗ももう何の遠慮もなく昴星のぐっしょり濡れたブリーフの股下に顔を埋めていた。顔を押し付けるだけでじゅわっと尿が溢れてきて、溺れそうだ。当然ながら口にも少量が入る。其れが、全く嫌とは思えない。海水にも似た潮っぱい尿の味も、昴星のならばと思える。そしてそれを嚥下すると、鼻に抜ける強烈な匂いが手に入るのだ。

「んン、さいとぉ……、もっと、お尻……っ」

「……お尻?」

「んん、おれ、オモラシしたんだって、もっと、もっと教えて……! お尻の穴んとこまで濡れてんの、すっげ、恥ずかしくって、気持ちぃからぁ……」

 才斗はすぐに昴星の、体重の割に肉付きのいい尻にぴったりと吸い付き克明に描かれた谷間に鼻を突っ込み、右の掌を濡れた布地に熱を透かせる前部に当てて、握る。昴星が悦楽に溺れた声を上げる。

「嬉しいのかよ……、こんな、オモラシ、して……」

「ん……っ、だって、だって、すっげ、気持ちィもん……!」

 そこまで濡れそぼった声で言い切るとブリーフを味わい終えたらしい昴星が上体を折り曲げ、精液を纏った才斗のペニスにしゃぶり付く。茎に絡みつく粘液を吸い上げられると、そのまま射精まで至ってしまいそうに思えるほど心地良い。息が詰まりかけたところ、舌が皮の隙間に這入って、粘膜を腺液ごと味わっている様子だ。才斗を心地良くしようという意思よりも自分の舌の欲を満たすようなやり方だが、其れは無遠慮なだけに乱暴なほど気持ちいい。

 才斗も必死になって、昴星の生み出した尿の匂いを嗅ぎながら、右手を動かす。動かせば動かすほど下着から尿はまた滴って、首元まてびしょ濡れだ。今更遅いかと思いながら急いで寝たままシャツを脱ぐ、……シャツが土に汚れることに思いが至ったなら本気ではない。ほんの暫しの間顔を離していただけなのに、半裸になって再び顔を埋めると、其処は数秒前以上にいい匂いを醸しているようにさえ思われる。股間では昴星が夢中になって才斗のポールに吸い付いて、射精するまでは絶対離さないつもりのようだ。事此処に至って唯一才斗が持ち合わせている誇りは、「先に射精してはいけない」ということだけで。

「ンぅうん!」

 鼻の頭で丁度肛門の辺りに失禁の証を教えながら匂いを嗅ぎ、右手はびしょ濡れの下着ごと勃起しても余り長さの伸びない昴星の幼物を扱く。匂いの波に引き摺られながら、絡みつく貪欲な舌の動きに才斗は間もなく射精する覚悟を決めるが、それでも必死になって右手を動かしていた。

「ふ、、ぅンっ……、ッく……、こぉせ……!」

「んん! んっ、ンん! んぅっ、ンっ……ンンぅうっ」

 右手にリズムが届いたのと、その口にリズムを届けたのと、殆ど同じタイミングだったはずだ。……コンマ一秒くらいは、おれの方が早かったかもしれない、でも舌でされる方が気持ちいいに決まってる……!

 口の中に放出してやった精液を、昴星が美味そうに飲み込む音が聴こえた。才斗も陶然としながら、昴星の下着から漂う匂いをいましばらく嗅いでいたい気で、もういい加減首も痛くなり始めているが、まだ昴星の足の間に顔を寄せていた。

「……ひひ……、才斗の、ちんこも、せーしも、……すっげー美味しかったぁ……」

 先に才斗の股間から顔を離して状態を起こした昴星が見下ろして、無邪気な笑顔で言う。その笑顔は先程の淫靡なものとも、その前の意地悪なものとも違って、いちばん昴星らしいもののように思える。……夏の太陽と濃い緑を背にしたその笑顔は、本当に驚くくらい愛らしくて、ちくり、胸に棘が刺さったような気にさせられるのだ。

 変態であっても、可愛いんだから……、仕方がないじゃないか。

 才斗はむっつりと唇を尖らせたまま、そんな事を思う。

「……なー、才斗、……おれ、またオモラシしてもいい……?」

 勃起の収まったペニスを、昴星は下着の中手を突っ込んで弄る。何をしているのかと思ったら、抜き取られた指には精液が絡みついていて、その指を才斗の鼻先に近づけるのだ。青臭いと言って片付けるのは簡単だが、もちろん才斗にはそんな単純な言葉で括るつもりもない。しかしそれ以上の言葉で説明するだけの語彙を、才斗は持ち合わせても居なかった。

「さっきしたばっかりだろ……」

「ん、でもな、学校出るときに、水、たくさん飲んだから、またしたくなっちゃった……。ダメ?」

 今更、何を止められると言うのか。髪が多少汚れてしまうだろうし、其れがどんなにいい匂いだろうが此処から出たら水道で洗わなくてはならないだろう。しかし、「……勝手にしろよ」と才斗は言った。

「ん、サンキュ」

 にこ、と嬉しそうに昴星は笑う。昴星は「馬鹿」で「騒がしい」とクラスの女子から一見卑下され嫌われているように見えて、そんな愛らしい笑顔を持つ少年だ。だから水面下では女子にもてているのだということを、才斗は知っていた。

「……おれ、才斗のオシッコも呑みたい」

 再び陰茎に顔を寄せて、昴星は言う。それぐらいなら、……気は進まないけれど、してやってもいい。もう一度昴星の新しい尿の匂いを嗅げば、自分もまた勃起してしまうだろうという気がした。二度その口で射精できるのは二倍幸せなことである。

 しかし昴星は、才斗のブリーフをぐいと引き摺り上げる。もちろんまだ湿った下着の感触に「ひ」と思わず情けない声を上げた。

「才斗もー……、おれと一緒にオモラシ、しようよ」

 反射的に上半身を上げかけて、すぐ昴星の尻に顔を突っ込む羽目になる。「んなっ、なっ、何……」

「ダメ? おれ、才斗と一緒にオモラシしたい、……オモラシしてくれたら、これからも、もっと、もっと、おれ、才斗のためにいっぱいオモラシして、才斗にパンツ、あげるからさ、……ダメ?」

 言葉の途中で、昴星はぶるりと震える。かすかな音はすぐに止まったが、再び才斗の顔に僅かな雨が垂れた。昴星は切なげに股間を握って、「ん、まだ……っ、まだ、ダメなのに……っ、才斗と、一緒にオモラシっ……!」五年生にもなってオネショをするような昴星だ、括約筋が強いはずはなくて、腰を捩り必死にそれを堪えても、太腿はヒクヒク震え、短い放尿音が途切れ途切れに届く。

「あ……!」

 陰茎を握り締めていた昴星の指が緩んだ。才斗は真ッ赤になりながら、湿っぽく冷たかった自分のブリーフが、生温かくなるのを出来る限り無視するために、三度昴星の尻に顔を埋めていた。間近なところから届くせせらぎの音に躊躇いがなくなった。

「あはっ……、才斗の、才斗の……、オシッコ、いっぱいでてる……っ、さいと、オモラシしてる……っ」

 昴星が悦ぶからだ、嬉しがるからだ。そうでなければこんなこと、誰がするか……! 才斗の下着も既にぐっしょり濡れている。寝そべっている分、尻まで湿潤感が回るのが早い。丁度尻だけ水溜りに浸しているような感覚だ。その上、先程自分がしたように、昴星は鼻ではなく口を当てて染みの「味」を満喫している様子だ。昴星と異なるのは、才斗のペニスがそうされても力を集めるには至らないという点ぐらい。

「オシッコ……、すげぇ……、おいしい、才斗……、才斗、すごいね……、全部、こんな、すげー……、おいしいんだ……」

 口の周りをびしょ濡れにした昴星が蕩けた声でそう言う。二度目のオモラシを終えた昴星の陰茎がもう硬くなっていることは、触れなくても判ることだった。昴星は夢中になって才斗の下着に吸い付いていたが、やがて飽き足らなくなったかサイドから竿と嚢を引き出して、まだ縮み上がったままの其れを順に口に含んで吸い上げる。其処に至って才斗も、濡れた下着の不快感より昴星の齎す匂いと舌の快感が上回り始める。昴星のペニスがどんな匂いになっているか知りたくて、才斗も昴星の前開きから取り出すと昴星は自分のする事を判っているように足を開き、包茎の先を昴星の鼻に近づける。指で摘んで皮を剥くと、射精のような勢いで残尿が飛び散った。皮の内側からは一際濃い尿と精液の匂いが立ちこめるようだった。鼻の頭を濡らしながら一頻り嗅いでから、口に含む。濃淡の潮の味は、昴星が其れを欲しがる理由に納得が行くほど、才斗の舌にも美味と感じられる。

「才斗……、なぁ……、ちんこ、いっしょに気持ちよくなろ……」

 身を起こして、昴星がまた甘えた声を出す。

「ちんこ、くっつけっこして……、おれ、オモラシした才斗のちんこ、好き。おまえもおれのさ、オシッコまみれの、くさいちんこ好きだろ? だから……」

 言いながら、昴星は身体の向きを変える。たまに昴星はこれをしたがる。形の特徴も、大きさも少し違う互いのペニスを重ねて擦りあうのがどうやら楽しいらしい。

 ただ、昴星は身を重ねる前に、才斗のペニスを一度ブリーフの中にしまって、前開きから改めて取り出す。

「ひひ……、こうやってさ、キンタマびしょびしょなの、気持ちぃだろ……」

 いいや。

 しかし、才斗は黙っていた。黙っているうちに昴星は二本のペニスを重ねて、「ひひ……っ、すっげー、エロい……」蕩けながらもはしゃいだ声を上げる。「おそろいの、オモラシちんこ、キスしてんだ……」

 体型どおりに、昴星に比べて細長い才斗のペニスは勃起すると確かな太さを持つ。普段は丸っこく勃起してもほんの少し伸びるだけであまり太さは変わらない昴星のそれとは対照的である。もちろん、互いに毛はまだ一本も生えていなければ、先に皮が余っている生白いものだ。そして今はそれ以上に、昴星が「おそろい」と悦ぶ。

 唇が重ねられた。

「才斗……っ」

 直前まで自分の尿を舐め回していた口だと思っても、反射的に突き飛ばそうという気には不思議とならなかった。自分の口も同じような有り様だと思えばそれも「おそろい」だ。昴星の舌は才斗の口の中の味さえ逃さないつもりのようだ。蹂躙するような舐め方が終わったと思ったら、今一度未練を拭うように口を閉じてキスをして、「……おれの、しごいて、……おれも、おまえのしごくから。でもって、いっしょにちんこ、どろどろにしよ……?」と、また甘ったるく強請り、才斗の返答を待つこともなく茎に指が絡みつく。舌に比べればもちろん、足の指よりも不器用に感じられたが、きっと自分も似たようなものだろうと、才斗も昴星のものを摘む。自分のものとは角度も大きさも違う、多分、熱も違う、もちろん匂いも。そんなものに触れていると思えば、昴星の不器用な手遊みにも才斗は十分過ぎるほど興奮できたし、それは昴星も同じようだった。思い出したように混じるキスも、快楽を煽るようだ。

「才斗、皮、剥いて……」

「……こう、か……?」

 才斗が剥いてやると、昴星も同じように才斗の亀頭を露出させる。ぴたりと其処をくっつけて、同じタイミングで震えたと思ったら、昴星の鈴口から透明な液体がぱたぱたと散って、才斗のペニスを濡らす。

「……まだ……、出るのかよ」

 さすがに少々呆れたが、昴星は「まだ、何度だって出せるもん……」得意げですらある。「でも、いまは、せーし、出したい……。せーしも何度だって出したいし、出せるよ……?」

 その言葉を確かめるために、才斗は再び皮の上から指を動かし始めた。たちまち昴星の唇からは甘い声が漏れ、その指も同じ動きをし始める。もちろんフェラチオに比べれば数段落ちるが、それでも穏やかで確実な心地良さがこの行為には在った。

「才斗……、もぉ、いく……よ……?」

 昴星の声も、切羽詰まったものではなく、蜂蜜のように甘くとろとろと零れる。「ん……」と答える才斗の声も、もちろん震えはしたものの、自分自身の耳で聴いたとき居た堪れなくなるような物にはならなかった。とくん、と指の間で昴星のペニスが遠慮がちに跳ねて、才斗のものへと薄い精液を幾度か跳ねさせる。才斗を握っていた昴星の手で振り撒かれた精液がくちゅくちゅと音を立て、滑る。其れが昴星の精液だということをじっくりと認識する暇もなく、才斗も昴星のペニスに向けて吐精していた。

 身を重ねて、一先ずは少し休憩をしようとどちらも言わなかった。ただ、キスを繰り返しているうちに、何とも名付けようのない幸福感が互いの身体の中で満ち溢れていくのが判る。

「やっぱ、二回目だから薄いなー」

「当たり前だろ。おまえだって、少なくなってるし……」

 昴星は才斗の下腹部に散った才斗自身の精液を大事そうに一つずつ舐めて行く。それから自分の精液を纏ってくたりといまは力尽きたようなペニスも、僅かな逡巡を挟んでから舐めた。自分の性器に付着した精液を指で掬い取って舐める動きにはもう何の躊躇いもなくて、

「ひひ、やっぱ、美味しいや」

 と笑うのだ。

「……パンツ、脱いでいいか」

 さすがに、ぐずぐずに濡れているものはもう穿いて居たくない。ノーパンで帰るのは嫌に決まっていたが、こんな不潔なパンツを穿いて街を歩くことなど才斗には考えられない。

「えー、似合ってんのにー」

「似合っててたまるか……!」

「ちぇ、わかったよ、しょうがねーなー。お尻上げろ」

 昴星は仰向けの才斗の足元に膝を付いてペニスを仕舞い直してからウエストゴムに手を入れ、ぐいと引き上げる。やっと乾いた外気に触れて、才斗はほっと息を吐いた。しかしは昴星は太腿までブリーフを上げたところで、

「えい」

 と才斗の両足を担ぎ上げる。

「なんっ、なにっ……!」

 足の向こうで、ひひ、と笑う声が聴こえた。

「なんかさー、こういうのって、赤ちゃんのオムツ替えてるみてー」

「ばっ、バカなこと言ってないで、離せっ」

「しわしわのキンタマの裏ッ側も、お尻の穴もオシッコでびしょびしょ」

「一々そんなの言わなくていいからっ……、ひ!」

 指摘されたその場所、昴星の舌がぺろりと辿った。「ひひ。やっぱ、すげー、美味しいや……」そのことに気付いたらしい昴星が、堰を切ったように舐め始める。上半身を捩って跳ね除けようとしても、太腿はブリーフで拘束されているも同然だし、昴星の頭を本気で蹴ることが出来るような才斗ではない。そしてなにより、肛門を舐められるたびに全身にむずがゆいような震えが走り、力が抜ける。

「んなとこっ、舐めんなぁ……っ、このっ、変態っ……」

 違う。肛門、……うんこ出てくるとこだぞ? そんなとこを舐めるのは、やっぱり変態以上の何かだ!

 いや。

 そんなところを舐められて、二度目の射精をしたばかりだというのに、徐々にまたちんこが硬くなってしまうようなおれのほうが、変態なんだろうか……。

「もっかい、だなー」

 昴星が足を離しても、もう才斗には抗えなかった。昴星は唇をぺろりと舐めて、再び才斗へのフェラチオへと向かいかける。が、その前に小さく身体に震えを走らせて、「ん……、こっちも、もっかい……」一度濡らしてからは乾く瞬間もないブリーフの中で、放尿を始める。膝に引っ掛かった才斗の、尿と土に塗れた冷たいブリーフが、俄かに温かくなった。

「オシッコとせーしと、どっちが先に出なくなるかなー……、ひひ、試してみようぜー?」

 昴星は恐ろしい言葉を平気で吐きながら失禁を終えると、「んじゃ、いただきます」と冗談めかして言って、陰嚢にぱくんと食いついた。もう、三度目の精液が口に零されるときまではその辺りから決して口を離さないだろう。

 取り殺される懸念を、才斗は本気で抱く。

 苦しげな才斗の顔を上目遣いで見上げ、才斗は嬉しそうに顔を綻ばせながら、雫を散らしながらオナニーを始めていた。


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