町田ラヴァーズナイトラバー

 籐矢は童貞だと思っていた。

「……え?」

 そういうことには慎重な男だと思っていたから。

「……え、って?」

「いや、……え?まじで?まじで言ってんの?」

 ソルと、もう、とっくのとうにセックスをしたという意味の言葉を聞いて、思わずハヤトは聞き返したのだ。ソルのどういうところが可愛いのと聞いたとき、籐矢はこう答えた、「君がキール君のどういうところを好きと思うか、それと同じだと思うよ」、ここまではもういい、「相性が合うというのもあると思う。自分で言うのも照れ臭いけどさ、僕はソルと、すごく相性が合うと思うんだ、心の、身体の」。……「身体の?」、「うん、身体の……。ソルと繋がるたび、僕は、何て言うかな、そのたび生まれ変わるような気がするんだ」、問題の言葉の後のポエミーな表現は脇において、「……繋がる?」、新堂勇人、十・七・歳、「……え?」。

「キールさん、ちょっといいかしら」

 自室の卓袱台に、背筋を伸ばして冷たい麦茶を飲みながら、小説を読んでいる知的な僕の彼。

 ハヤトは薄笑いで言って、キールの向かいに座る。

「うん?」

 きょとんとした表情にはまるで罪がなくて、真ん中のすらりと高い鼻がなんだか急に憎たらしく思えて、摘んだ。その美しい顔の、……優しい目!

「……思いっきり言われたぞ!籐矢に!『え?勇人君はキール君とまだ……』、絶句しやがったぞ籐矢のヤツ!しばらくキョトンとかしてたぞあいつ!それからいきなり話題変えやがった!ウニャー!!」

 鼻を摘まれたままのキールはハヤトの烈しい動きに目に涙を浮かべた。ハヤトの指が外れたあと、一頻りクシャミをし、嘘のように大人しくしおらしく項垂れて、「チクショウ」、そう呟く恋人に困惑する。

「……俺よりあんなに可愛いカノンだって……されてんのに……」

 詳しい経緯をここに記すことは出来ないが……。

 リィンバウムより、バノッサとカノンがやって来た。周知のとおり、バノッサは魔王に憑依され、誓約者の前に、カノンはオルドレイクの凶刃の前に、倒れた。それぞれその傷の深さから推すに、間違いなくその命を……落し、ていて、おかしくはなかった。

 だが、キールは見た。後に再び、訪れたリィンバウムで、かすかに息のある、バノッサを。

 そして、ソルは見た。かすかに息のある、カノンを。

 ――キールがソルと「兄弟」として、今この町田という街を背景に存在できるのは何故か?

 かくして、召喚士は奇跡を起こした。離れ離れになった恋人同士を再会させ、悲しみよりも確かで好都合な喜びを作り出した。

 キールもハヤトも、そしてもう一方の一組も、それぞれ、バノッサとカノンが単なる「義兄弟」などという関係ではないことを見出していた。正確を期して書くならば、キールとソルはリィンバウムにて二人を見たときから、ハヤトとトウヤはこちらへ来て、それぞれの召喚士と今のような関係になってからしばらくして。「僕とバノッサさんは義兄弟なんですよ」、愛らしい微笑み、誇らしげに言ったあの子の顔は二つの世界で共通。

「……ひ、ひとと、比べるようなものでも、ないと思う、よ?」

 顔を青ざめさせて引きつらせたキールが訳の判らないことを言うので、ハヤトはギィと睨む。

 「君を傷つけてしまうかもしれないから」、そればかり何度も何度も繰り返し、結局ハヤトが飲み込めたのはキールの人差し指一本。指四本をまとめて握ったくらいあるキールのそれを飲み込める身体ではないのは、ひとえにキールが飲み込ませようとしないから。

 臆病なところも含めて大好きで、だから恋人のつもりだ。そして、キールはソルとは違う、バノッサともカノンとも違う、自分だけの恋人なのだから、それを尊重していかなければならない。それも判っているつもりだ。だけど、だけど、だけど。

 だけど。

 これまで考えもしなかったようなことさえ考える。それは多分、男が考えるようなことじゃない。

「俺、可愛くないか?」

 キールを困らせるようなことを、言ってしまうのだ。

 答えを知っていて呈する疑問だから性質が悪い。

「俺、なあ、俺の身体魅力ないか。俺の尻そんな可愛くないか」

「ハヤト」

「俺の中に入れたいとか思わないのかよ」

 どうしたんだろうな、と思う。冷静な上半身が思う。

 キールはいつだって俺のことを愛してくれてる、ハヤトは熟知していると言ってもいいくらいだ。そのキスでハヤトに点火。その舌がハヤトを昇華。もう、一体何度、ハヤトはキールの口で到達しただろう。そして幾度キールの精液を飲んだかわからない。キールの精液は好きだった。味も匂いも苦しさはなく、有体に言えばキールの性器が好きだった。立派に胸を張って「俺はゲイです」と大っぴらに言えなくとも、そういう「男」であることはハヤトの誇りだった。もう俺女の子じゃ全然ダメだよ、な、だから、責任取れよ、俺も一生お前に添い遂げるって約束するから、そこまで本気で考えている。

 欲望は堆積しては地面になる。もう一段高いところが見たくなる。そして、手の届きそうなすぐ其処からの景色を、ソルも、カノンも見ていて、自分だけ見ていない。それが、瞭然と目の前に現れたときに、痛烈な寂しさと悔しさがハヤトを包んだ。

 僕は君を傷つけるのが怖い。

 何度言われたか判らない、そのたびに、「優しい恋人」「俺のことを誰より思ってくれてる」、そう信じて納得していた。

「思ってるよ、いつだって思ってるよ」

 キールは端正な顔で、割りといつも冷静で、こういうとき、下半身の暴走に駆られているような自分を一人に感じる。いつも冷静な顔で、跳ね回る心臓を抑えているのだと知っていても、どうして自分の前でそんな抑制を利かせるのかと。

「だけど、……言っただろ、僕は……」

「痛がらないよ。寧ろ痛がりたいよ。痛くして欲しいよ」

「でも」

「俺よりずっと年下の頃のソル抱いて、そのソルを籐矢が抱いて、俺よりずっとちっちゃいカノンをバノッサが抱いて……、なのに俺はお前から指一本しかもらえないのかよ」

 判らない事を言っている自覚もあった。キールが最大限に自分のことを考えてくれているのに、どうしてそれを無碍にするようなことを言うのか。ひとえにそれは欲望だ。それを回避する術も持たない、子供で、……だから、どうせ……、キールは入れてくれないんだ。そもそも、やっともらえた掛け替えのない指一本で、感じることもぎこちないような自分なのだ。

 一つひとつが併合し、大きな悲しみとなる。

 どこかから力が抜けた。風船の口が解けたように、ハヤトはまた、がっくりと項垂れて、

「悪かったよ、悪かった、気にしないで。困らせてごめんなさい」

 困惑しきるキールを尻目に、「俺のこういう態度を見てキールがどう思う?」、判っていながら、不貞腐れたように言って、部屋を出た。

困らせた。ごめんなさい。

その場の解決で判った気にもならないくらいに、新堂勇人は十七歳だった。

 

 

 

 

 自分を神格化するつもりもなければ、必要以上に卑下するつもりもない。ただ、この年齢としては仕方のないことだろうと、ハヤトは考察している。キールのいてくれる肉体的な悦びを知ってしまったから、更に欲しくなるのであるし、恐らく常にキールがいないような生活だったら、何度オナニーしたって追いつかないんじゃないか。猿と同じだ、だけど、俺のいる時間ならば、それもきっと許される。

 ハヤトが自分勝手な形の謝罪で区切ったから、ぎこちないまま、夕飯を食べ、本当なら二人で入る風呂にバラバラに入り、言葉少なに就寝時間を迎え、とうに日付が変わっている。キールは既に眠ったのだろうか、規則正しい呼吸の音が聞こえる。ただ、大いなる憂鬱を抱えているに違いない。ちょっとしたトラブルのあった後なら、必ず風呂に一緒に入って仲直りをしているのに、今夜はそれさえしなかった。普段は五回以上するキスも、していない。ネガティブな彼は「ハヤトに嫌われた」と信じ込み、一人で枯れ葉のようにリィンバウムに戻りかねない。

 けど、それも、一つで解決するんだ、しかも抜本的に。

 ハヤトは腹に乗せたタオルケットを捲って起き上がった。足音を立てぬように、自分の机、鍵のかかる引き出しの中から、ゼリーと、この夜を逸してはもう使われる機会は無いであろう、コンドームを取り出した。三箱合計三十六個で税込千円を割っていたから買ったのに、外のパッケージすら破られていない。腐った頃には一緒にいなかったりして。空寒い気持ちで想像する。

 Tシャツと、トランクスを脱いだ。暗い部屋の中、裸で立つ。

 闇に目が慣れる、キールの表情は、眠っているのに眉間に皺が寄って、辛そうに見える、悪い夢を見ているのだと判る、自分がいないのだと、判る。

 熱帯夜でもタオルケットを肩までかけているのがやや滑稽だ。ハヤトのTシャツとハーフパンツが、キールのパジャマ代わりだった。

 闇の中を掻き分けて、ハヤトはキールの匂いに辿り付く。ハーフパンツはハヤトのものだったはず、なのに緩い、なんだよウエストお前のほうが細いのかよ。

 好都合だった。

 ゴムをそっと引っ張り、中から宿主同様大人しく眠る性器を取り出した。ああ、やばい、いい匂いだ、……どうかしてる、自覚しながら、ハヤトはキールを嗅いだ。その匂いが官能に障り、これが欲しい、本気で思う。しかし、受け付けようのない体の、何と寂しいことよ。

 切なさに身体の芯が疼く。

 ハヤトは柔かいキールを口に含んだ。

 かぶったタオルケットの中はキールの匂い、音と空気が篭る。やばい、キールのちんちん、いいな……、チクショウ。美味しい、そう感じる自分がいて、徐々に硬くなってくれたなら、本当に欲しいと、括約筋がひくつきそうになる。

キールはまだ目覚めない。かすかに肩の辺りが揺れた気がした。気にせずハヤトがフェラチオを続ければ、妨げにしかならぬ理性の眠るその隙に、キールの体を性欲が支配し、完全に勃起し、鈍い熱を孕む。

 普段もこれくらい素直に俺のこと欲しがってくれよ、俺に悦んでくれよ。

 ハヤトはタオルケットを退かした。既にキールの顔の陰影が判るほどに、視界が開ける。眉間に皺を寄せて、首の向きがさっきと違っている。

「馬鹿キール」

 俺にさせんじゃねえや、こんなこと。

 俺は男で、まだ十七で、高二なんだぞ?ついこの間まで同性愛者じゃなかったはずなんだぞ?それをお前、こんな風に、男のちんちんしゃぶって勃起するようにしやがったのは、お前なのに。

 大サービスだ。

 キールの体を跨ぐ。ゼリーを指に垂らし、自分の後孔に塗りつけた。冷たくぬるつく感じに息を抑える自分を醜いとは思わない、愛する男に見せてやりたいくらいには、悪くない姿であろうと確信している。なあ、それなのにお前は見ないでおこうって言うんだから、贅沢だ。これ以上の贅沢はないくらいだ。

 たっぷり濡らす、キールのシャツに、少し垂れる。指先を、そっと、入れてみる。

 たまに一人の時に、弄ったりするようになった。もちろん、その時の自分の指は自分の指ではなくて、キールの人差し指だ。どんなにせがんでも、中指までは入れてくれない。何で俺自分で開かなきゃなんないんだ。唇を噛みながら、まず、人差し指を入れる。括約筋が引き締まると同時に、尿道に染みるような痛みを覚え、かすかな尿意を催す。それを飲み込んでなお、自分のペニスは熱く震える。慎重に、しかし、キールがする時よりもずっと大胆に、指を動かし、自分の内奥を広げていく過程で、また熱がどこかに生れる。キールが優しく吸い、舌で転がす乳首を左手で弄った。

 指を噛む力が和んだ、……無論少しの緊張も無い訳ではない、後悔するかもしれない、それでも、ハヤトは二本目の指を、既に深々と自分の肛門に嵌り込んだ人差し指に沿わせるように進め、入口を抉じ開ける。

「……、……ン……っ、ん……」

 自分はキールのためにここまでやるし、こういう声も出すし。

「……っは……ッ」

 そして、ちんちん硬くして感じきる。

 中指が最後まで入る。

 苦しみに伴って寂しさが溢れた。ハヤトが触らなくなったから、まだ勃起しているとは言え穏やかになったキールの顔を見ながら、「一人」を強く感じる。

 二本の指を、ぎこちなく、往復させる。自分の中はじめじめと湿っぽくて、なまなましくて、そのくせ無駄な頑なさを持っていて、……女は濡れるらしい、いいな、羨ましいな、俺もそうだったら便利だったのに……。

 時間は何もかもを解決する。中で指を折る、ほんのかすかな動きすら、ハヤトの四肢に稲妻を走らせる。

 もう、いいや。

 ハヤトは自分の衝動に妥協する。キールの体の脇に落したひとつつみを摘み上げ、歯でパッケージを千切る。……あんま不潔な手で触んないほうがいいのかな、でも、ああ、どうせ俺の中入るんだし、外側は汚れててもいいかな、先に乗せて、空気を抜いて……、別に中で精液漏れてもいいよな、関係ないよな、でも……、割れたりしたら痛そうだよな、慎重に、くるりと下まで。

「……え……!?」

 キールが目を覚ました。

 ハヤトは少しも構わなかった。

「……大人しく、寝てろよ、馬鹿キール」

「ちょ、ちょっとっ、ハヤト、何、何、何」

「夜遅いんだからはしゃぐな」

 コンドームのゼリー、それだけで足りない怖さもあって、片手で右手に出し、たっぷりとキールのペニスに塗り纏わせる。その心地良さに、キールの動きが一瞬止まる。ハヤトは最初から最後まで自分の責任でするつもりで、キールのペニスに、自分の腰をそろりそろりと下ろしていく。

「は、はや、ハヤトっ、ダメ、ダメだよ!ちょっとっ」

「うるさい」

 キールが起きてしまったことで、ハヤトは逡巡を全て棄てることが出来た。

「あ……!」

 ハヤトは息を飲み、キールは絶望的に情けない声を上げる。

 キールの先端とハヤトの入口が同じラインになる、そんな接触を感じたのは一瞬だけだった。

「黙って、感じてろ、俺の、処女、お前に、」

 捧げんだから。言葉には出来ないまま、ハヤトはキールを飲み込んだ。痛みよりも苦しみよりも優る愛情を知る。ゼリーが滑り、ゴムの膜の存在を忘れる。腰を落としきって、泣きそうな顔のキールを見たら、なんだか笑える力が生れた。

「……入っちゃったよ、キール」

 声は掠れた。

「なあ、俺の中にお前のちんちん入っちゃった」

 キールは唇を震わせながら、笑うハヤトを、呆然と見る。

「どうする?俺、傷ついてるか?痛がってるか?見てよ、ほら……、お前のちんちん入れられてこんな感じてるんだ」

 誇らしい気持ちにすら、ハヤトはなる。自分で自分の性器を一度扱いて見せた。

「放っておく気か?もうこれ以上俺を一人にするのはやめろよ」

 もう、籐矢とカノンに追いついたとかは問題じゃない。俺はキールの恋人だ。これが俺たちのやりかた、えーっと、アイメイドアワールール?

「はやと……」

「愛してるよ、キール。俺は本当にお前が愛しい。本気で、本気で、大好きだ。大好きだから、女みたいになる。お前のちんちん入れられてすっげ嬉しい」

 怯えきったような目をしている。ハヤトは腰をつなげたまま、慎重にキールと重なる。キスをした。

 キールの目が潤んでいる。そして、不意に、涙が零れるように言った。

「ごめんなさい」

 訊きなおしたハヤトに、もう一度、「ごめんなさい」。

「何も悪いことなんてしてないだろ」

 言って、

「悪いことしてる自覚があるなら、いい子になれよ」

 言い直す。

 キールのペニスが腹の底にかすかに脈を打つのがリアル過ぎる。それに感じるためのスキルはもうとうの昔に身に付けている、だから、先が、欲しい。出来れば……ゴムの膜の中であっても、自分で覚えた快感を形で表現してもらいたい。

「……お前が悪い子だから、俺が全部やんなきゃなんないんだ。準備も、後始末も、全部、ぜんぶな。でも安心しろよキール、俺はそのくらい朝飯前なくらい、お前のことが大好きなんだ」

 聞こえてるか?伝わってるか?キールの顔がいつまでたっても怯えた色を消さないのが悲しい。

 それでも、ペニスの筋肉が正常に機能していてくれればとりあえずはイイやなんて、淫乱めいたことを考えた。自分の尻の中はキールでぎゅうぎゅうに詰まっている、そこに多少の汚れも無いとは言えなくても、自分のことなのに、ハヤトは便利に忘れる。

 尻の穴の中に入るもので、上手に感じる術をいつしか身につけていた。はじめてのとき、寝たまま起きなかったペニスは、細くはないキールを飲み込みきって、その熱さに震える。

 その自分に触らせるために、手を引っ張って誘った。

「判るだろ」

 ふと気付く、自分は窓を背にしている、つまり、キールの見る自分は、黒い。

 悪い、怖い、夢、そんな程度の認識としてしか残らなくともいいや。

「な、キール、扱いて」

「……ハヤト……」

「扱いて」

 ハヤトは腹の内側、上のほう、生れた青い感情に基づいて行動する。

 不慣れに膝で体を支え、ゆっくり、体を上下に揺する。中で動く一ミリを幾らだって厳密に言えた。慣れ、舐め、親しんだ、キールのペニスの何処が如何自分を刺激しているのかが判った。キールの好きなところ、俺も感じさせてあげたい、ちんちんの裏っ側のイイところ、キールがかすかに息を震わす、イイところ。けど尻の穴って結局円筒形だよな入ってる時は、じゃあ全部イイところか、なあ。

 いいよ、今夜は、全部俺が悪い。

 キールの手が、恐々、ハヤトを扱く。そののろのろした動きがもどかしいから、自然、ハヤト自身の腰のスピードも上がった。キールのは熱く硬く、感じきっていることをハヤトに知らせる。その頑固な理性をどうやって溶かすかが焦点だった。

「愛……して、る、よ?キィ、ル……、おれ、お前、を愛してる、よ?」

 自分の責任で。

 俺が。

 そう思ってしている割には、言葉に返事がないと、とても悲しくて、泣きそうになってしまうのが、冷静な頭なら滑稽だったろう。

 そして恐らく、気持ちは体以上にいつも繋がっているのだ。

 キールが上半身を起こした、そして、ハヤトにキスをしたがった。ハヤトは腰を止め、腕をしっかりと回して、キールの舌に委ねる。嬉しくて笑いそうになった。気の触れたような笑いになりそうだったから止めたけれど、迸るような嬉しさだった。

「もっと……」

 往復するから意味があることはよく判っている。舌を絡めあいながら、腰を振った。やがて唇が放れる。互いが開放に向かって走り始める。上り詰める。声を殺すことも忘れる。髪の毛が乱れて頬に当たる。胃の下あたりから零れた滴が膀胱のあたりを痺れさせて括約筋が思うままに動かなくなりほとんど触れられてもいないペニスが震える、震える、震える――


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