エブラとダレンがセックスをするようになってから、三ヶ月半が経っていた。二人がセックスをするようになった日が、すなわち二人が単なる友達ではなくなった日であるから、互いのことを「彼氏」と言っても不都合はなくなった。しかし、ダレンもエブラも、見た目は今までと少しも変わるところなど無く。ただ、気付いている者も数人、しかし、彼らも何も言わない。
ただ、鈍感なるクレプスリーは、二人が「仲が良いのは。まあ、いいことだな」などと呑気にミスター・トールに呟いて呆れられている。
三ヶ月半も経てば、いろいろなことが起こるわけで、今までもそうだった。二週間に一度くらいは、小さな諍いを起こす。口論だけで終わることも、取っ組み合いのケンカに発展することもあるが、必ずどちらかが折れて、決着がつく。そういうことを繰り返して、仲が良くなっていったのだと二人は思っている。しかし、エブラはケンカのたびに、ダレンに嫌われてしまうのではもう口を利いてくれなくなってしまうのでは一人ぼっちに戻ってしまうのではと、気が気でない。
ただの友だちではなくなってからした、初めてのケンカは、今まで以上にエブラを怖がらせた。緑色の唇を、戦慄かせて、顔には出なくとも、青ざめて。ダレンはエブラの気弱なところをもう十分理解してはいるのに、乱暴な形をした言葉を、投げ付けるのを止められない。
「嘘吐き」
「……、嘘、なんて、嘘なんてついてない」
「ついたじゃないか。……付き合ってたんだろ、コーマックと」
「……つっ……、付き合ってない」
「嘘吐き。そうやってぼくのこと、また騙すんだ。おまえは」
コーマックが隠しとおせなかった嘘を、心に凹凸の無いエブラが隠せるはずも無い。言えば言うほど怪しくなって、
「なんか文句あるのかよ、おれが誰と付き合ってたってそんなの関係ないだろ」
つまらないことを言う。言って、激しく後悔するが、もう遅い。
「関係あるから言ってるんだろ!」
ダレンは顔を引きつらせて、怒鳴る。
「おれはおまえをコーマックから奪ったんだ!」
「誰がそんなこと思うよ」
「他でもない、おれとコーマックが思うんだよ!」
「何をしているのだ、騒々しい……!」
覗き込んだクレプスリーの顔に、ダレンが投げてエブラが避けた枕が当たった。
「エブラのバカ!」
ダレンはクレプスリーにも構わず、テントから駆けて出て行った。
「待てよ!」
振り返ったエブラは、ようやく枕を持ったクレプスリーに気付いた。
「……なんだ、びっくりした、聞いてたのか……?」
「……嫌でも聞こえてくるわい。何をケンカしていたのだ? コーマックがどうとか言っとったようだが?」
クレプスリーは鼻を擦りながら、訊ねた。
エブラは、興奮のあとに、心がすっと冷たくなるのを感じ、嫌な汗がたらりたらりと鱗の表面ににじみ出てきた。
「あなたには関係ない」
エブラも、立ち上がると、クレプスリーの脇を抜けて、夜霧立ち込める外に出て行った。
じめじめした青草の匂いが、いやでも鼻に感じられる。彼の鱗はすぐにびしょびしょになった。ダレンはどっちに行ったのだろう? 自分から逃げているのだろうか。だとしたら。彼は耳が利くから追いつけない。どこまでもダレンは逃げるつもりだろうか。それとも適当に戻ってくるつもりなのだろうか。追いついたところでおれを無視したりするんじゃないだろうか。きっとするだろう。ケンカしたのだから。謝って許してくれるだろうか。でも、謝るってどうやって? おれは何が悪かったの? ダレンは、どうして怒ったの? どうしたら許してくれるのだろう。どうしたら。
断片的なことをいくつもいくつも思い、エブラは裸足のまま走った。途中で、幾つかの小石を踏み、枯れ枝を砕いた。そのたび、鋭い痛みが駆け上ってきた。それでも足を止めないのは、いまダレンを見つけられなかったらきっと一生見つけられないという根拠の無い確信があったからだ。
「……ダレンッ」
濃い霧の中、がむしゃらにしがみ付いた。強張った体が、エブラを振りほどこうともがく。エブラは腕がちぎれたってというほど必死に、ダレンをしがみ付いていた。ようやく、ダレンが動きを緩めたときにはもう、二人とも泣いていた。
泣くくらいなら、あんなこと言わなきゃいいのに。
泣くくらいなら、あんなこと言わなきゃいいのに。
二人とも同じことを考えて、もうケンカなんて。しかし二週間後にはまた、きっと。それが二人のリズムになればいい。
「ごめんね……、エブラ、……ごめん」
ダレンは濁った声で言う。エブラはただ、首を振る。ダレンの肩に鼻を押し付けて、首を振った。
「……ごめん」
やっと言えたその科白も、喉に絡んだ汚い声だ。
ダレンのシャツを濡らすことを気にしながら、エブラはダレンを抱きしめた。ダレンもそれに、素直に答える。
「……酷いこと言って、ごめんなさい」
「もう、……いいよ。気にしてないよ」
「困っただけなんだ、ぼくが、少し。エブラのせいじゃない」
「ダレンが困ったのは、おれのせいだよ。でも、おれはどうしたら責任とれるか、わからないんだ」
「エブラは悪くないんだ。だから……、責任なんかとらなくたって」
「でも」
コーマックは、エブラにもダレンにも、以前と同じように笑うようになった。なあ、幸せっていいよな、ほんとに、おれ、おまえたちの側にいられて、よかったよ……、どうしてそれを、素直に受け止められる? 臆病な二人は、困惑するほか無い。自分たちの行動がゆえに、コーマックを困らせて、辛い思いをさせている……、そう信じてしまう二人なのだ。
「ダレンは本当に、おれがコーマックとつきあったことあるって知ってたら、おれとつきあわなかった?」
ダレンは即座に首を振った。
「うん、おれも、ダレンがおれと会う前に、おれの知らないところで、誰かを好きになったりしても、それはおれは、それで、構わない。昔のことも、これからのことも、おれたちにはわからないよ」
ダレンはエブラの腕の中で、不安げに顔を上げた。エブラは、出来ることといえばとりあえず口付けのみだと解釈して、汗と露に濡れた額に。
「おれたちは、いまを見るんだ。……今。コーマックと……、おれは、これからもあの人と仲良くしたい。あの人はおれにとって大切な人だから。でも、もうあの人とおれとは、恋人じゃない。だけど……」
「わかるよ」
「ありがとう。……ダレンは?」
「おれも、コーマックのこと、好きだよ」
「……どうしたらいいか……。考えよう。今は、きっとそうするのが一番いい。昔を忘れて、でも、昔を踏まえて、今……、ダレン?」
ダレンは甘えるように、エブラの胸に顔を埋めた。
「今しばらくはこうしていさせてください」
ダレンの声に、エブラは心が、ようやく平熱に戻るのを自覚していた。
しかしおれの本当の幸せはどこにあるのかな。
コーマックはエブラとダレンを見るにつけ、そればかり考えている。
エブラには悪いことをしたな、そうは思っているのだが、エブラにも非があるように思えてならない。しかし、そう思う自分の心は辞書に載るほどに典型的なエゴだということくらい、解かっていないわけではない。
自分が今になってあの頃の幸福に拘泥し、取り戻したいなどと思うのは、やはり今もエブラが好きだからだ。それは、解かっている。理解している。しかし、エブラにはもう、可愛いダレンがいる。ダレンがいる以上、自分が二人の中に分け入って行くことはただ、愚かの一言だ。本当にエブラを好きだと思うのであれば、ただ自分は潔くあればいい。頭でそうわかってはいるのだが、心は守っていると思っていたものに、守られていたのだ。エブラではない。側にいなくてはダメだったのは、自分だったのだ。
大人になりきれていないのも、自分だったのだ。
大好きだよ、エブラ。
しかし、もう二度と、自分は言わない。態度には、自然と出るだろう。その態度で、エブラが、ダレンの次くらいに自分を好きだと思ってくれるなら、それで十分だ。
「……だから、おれはもう、気になんかしてないよ」
バレてしまったなら、不自然な態度をとる必要も無くなった。このほうが、気分的に楽だ。
「おまえたちが、幸せならそれでいい。おれのことなんか考えなくてもいいんだよ。おれは、おまえたち二人が大好きだから」
エブラは、ダレンは、心細いような顔でコーマックの顔を見る。コーマックは、自分の思いを些細な物として、心の中で定義付けた。二人を困らせるような、乱暴な物であってはならない。
確かに、いまでもエブラのことは大好きだ。
しかし、エブラの、エブラの大切なダレンの、寂しがるのを強いてまで、自分のもとに留めておこうなどとは思わない。思えない。そういう自分でありたい。
「そんな顔すんなよ」
コーマックは固い笑いを浮かべて、ポケットからタバコを取り出した。我ながら陳腐だなと思いながら。火をつける手が、少し、ぎこちない。タバコを吸わないおまえたちには判らないだろうな。
「大体さ……」
可笑しそうに、コーマックは笑った。
「おれはそこまで心狭くなんかないよ。過去のことは過去のこと、今は今、ちゃんと見てる。それくらい、ちゃんとわかってるんだよ。エブラだって大きくなった。昔みたく、おれがいなきゃ何も出来ないような子供じゃあない。ダレンにとったらエブラは、もともと兄貴みたいなもんだろ? そういう風に見られるような大人になったんだよ、エブラは。おれだってそれくらい、ちゃあんとわかってる。むしろ、エブラが大人になったことを、おれは喜んでる。逆におれ、嬉しいよ、おまえたちが、まあ、ちょっとアレかもしれないけど、でも、一人前になれてさ」
ハハッ、と乾いた笑い。
「それにさ、なあ、エブラ。おれたちはもとから……、付き合ってたって言い方も、変かもしれなかったよな、友だちだったよな? ダレン、おまえたちみたいな関係じゃなかった。おれたちはさ、ただの友だちだったんだよ。今も昔も変わらない。そりゃ、昔は、セックスだってしたかもしれない。けど、なあ? してただけだよ、セックスしてただけ。お互いが気持ちよくなれれば、それでよかったんだもの。少なくとも俺はそうだった。おまえたちみたいな綺麗な気持ちじゃ、決してなかったと思うよ。」
おれの幸せはここにあると信じたい。この二人の目の前の、幸せを見ていることが自分の幸せなのだと、信じたいのだ。
苦しくとも。
「わかったろ? わかったなら、……仕事、まだあるだろ、ほら、行った行った。頑張んなよ」
おれだよ。
頑張れよ。
頑張るなよ。
……おれだよ。
コーマックの嘘など当然の如く二人のアンテナに引っかかる。しかしそれを口には出さない。二人ともコーマックのことを気遣いながら、二人でいるときにそんな素振りはおくびにも出さなかった。一週間はそれで過ぎた。
「……コーマックと」
エブラから話し始めた。
「どういう感じだったか、ダレンは聞きたいと思う?」
形ばかりはかけた毛布が疎ましく感じられるような蒸し暑い夜で、ダレンは彼の敏感な耳に障る蚊の羽音を鬱陶しがっていた。
「別に」
そっけなくそう言い放たれて、毛布の上に座るエブラは、飴色のランプの光を鱗に滲ませながら、一秒言葉を捜すのに手間取ってから、
「そうか」
と頷いた。頷いて、手から剥がれかけた鱗を摘み取り、何気ない風に光に透かした。ダレンは毛布を剥して起き上がり、白いTシャツをはためかせ涼む間だけ時間を置いて、
「……聞きたいと思うよ」
と応じた。
「別に、知らなくってもいいんだけどな。ぼくにとってのエブラは、ぼくと会ってからのエブラなんだから。それ以外知らないし、知らなかったときになにがあったって、ぼくは何もいえないし。でも、おまえはいま、ぼくの一番大切な人だ」
エブラは透かした鱗をくしゅっと音を立てて手のひらに握りこむ。次に手のひらを開いたときには、ほのかな糸を引いて床に落ちているだろう。ダレンはそう思いながら、それがとても何とも無いことで、自分の身体に時折緑色の欠片が張り付いているのを見つけることが、それに喜びを抱く次元は既に超えていて、もう習慣になっていた。鱗一枚に拘泥することも無い、肌をくっつけあえばそんなもの、いくらでも移って来る。
エブラに話したい気持ちは無いに違いなかった。しかし、律儀なエブラは自分の身に起こった事を全て告白しないことは罪とでも思っているのだろうとダレンは思う。そんなこと、しなくてもいいのに。きっと自分の過去にあったことを、告白することで共有させたいんだろう。意地悪な見方をして、エブラがそんな真似をするはずがないとすぐに気付く。そうではなくて、今でも大切に思うコーマック=リムズのあんな物言いを、弁護したいと思ったに違いない。その方が優しいエブラ、ぼくの知るエブラだ、ダレンは確信した。エブラは右手を握ったまま、膝を抱えてぽつりぽつりと話し始めた。言葉を慎重に選びつつ。
「おれが始めてこのサーカスに来たときの経緯は、前に話したよな。ミスター・トールに助けられて、ここでおれはやっと、人間の扱いを受けるようになった。ミスター・トールにはほんとに、心から、感謝してもし足りないと思ってる。あの人は、おれがここで一人の独立した人間になれるように、助けてくれた一番の人だからね。
ミスター・トールは、ダレンにおれがついたように、そのころ、まだ怖がりで一人前じゃないおれに、ここでの生活の仕方だけじゃない、人間としての真っ当な生活の送り方を教えるために、世話役をひとりつけた。……それが、コーマック=リムズだったんだ。いまじゃ売れっ子だけど、あのころはまだそんなでもなくって、時間があったからおれの面倒も細かいところまで、コーマックはちゃんと見てくれたよ。コーマックが面倒見良いのは知ってるだろ? 普段はぶっきらぼうだけどさ。きっとミスター・トールはコーマックのそう言うところを見抜いていて、だからおれをコーマックに任せたんだろうと思う。
コーマックにはいろいろ教えてもらったよ。たくさん。おれ、最初の頃、どんなものでも怖くってさ。コーマックのことすらも、最初は怖かった。あいつほら、指とか千切るだろ、おれを笑わせようと思ったらしくってさ、あれやって見せたんだよ。そしたらおれ、ぶっ倒れちゃってさ。最初はそんな具合で、おれの臆病に、あいつは相当手を焼いたと思う。だけど、少しずつ、少しずつ、この世は決して怖いことばっかりじゃないよって、あいつ、おれに飲み込ませていったんだ。ちょっとずつ、おれは笑えるようになってた。
そんな頃だよ。おれが唐突にあいつに『ひとりで寝たい』って言い出したのはね。……わかるかい?」
ダレンの顔をちらりと覗く。ダレンは俯いたままだが、その頬を確かに紅く染めた。
「こんなこと言ったらあいつには悪いけど、今思うとちょっと笑える。可笑しかった。すっごく慌ててさ。ミスター・トールの部屋の前うろうろして、結局諦めて戻ってきた。頭抱えて、どうしたらいいか必死に考えてた。おれは何でコーマックがああまで困惑してるのかわからないから、きょとんとしてるほかない。だけど、まあ、おれも最初はオネショしたと思ったから、誰かと一緒になんて寝たくないと思ったし。……ただ、一人で寝るのも寂しいなとは思ったけど。
結局コーマックが出した結論って言うのは、おれがダレンにしたようなことだったんだ。ただ、決定的に違ったのは、おまえのときは、おれがおまえのことを好きで、……あんまり自分で言うのもなんだけど、裏には多少の欲求があった。だけど、おれのとき、コーマックはおれにそういう感情は一切持ってなかったと思うんだ。だから、余計に厄介だったって言うことも出来るんだけど。
ちょっと不気味な感じにあったかい春の夜だったよ。
その時はそれだけ、おれが自分でするやり方を覚えたらそれでおしまいになるはずだったんだ。ところが……、そうはならなかった。おれじゃない、コーマックが、終わらなくなっちゃったんだ。
どうしてかはわからない。おれみたいなヘビ人間のどういうところをあいつが気に入ってくれたのか。ただ、あの辺りからあいつ、ちょっと変になった。おれが『暑いから離れてよ』って言っても、始めて会った頃、おれが夜怖くて寝られなかった頃みたいに、抱きしめて眠りたがったり、盛んに『ひとりで出来るか? 大丈夫か?』って聞いてきたり。……で、まあ、終いには……、うん、『ひとりでやるより、おれとしようよ』って言われて……」
エブラは、恥ずかしいような、懐かしむような表情、その色は、優しい。
ダレンは少し妬ましいような気持ちになった。
「したんだ。だからね、ダレン、おれがおまえを最初に抱いたとき、おれがあれだけ臆病だったのは、おれは身を持ってあの痛みを知ってるから。心配だったし、不安だったからだよ。
……でも、結局おれたちは、恋人同士じゃなかった。さっきコーマックが言っていたとおりにね、もっと割り切って考えてた。おれはコーマックのことは好きだったけど、ダレンに対して抱く『好き』とはまるで性質の違うものだったと思うし、コーマックもそうだろう。ただ、おれの身体に興味があった、それくらいのもんだったんだろうと思う。だから、コーマックとセックスしたのなんて、半年もなかったと思うよ。段々、あいつもおれも、一人でいる時間が長くなって、あいつも売れ初めて、いろいろなサーカスを回るようになって。あいつが帰ってきても、軽く挨拶するくらいになっちゃって。だから……、うん、でも、変わらないね。変わらない。コーマックとおれとは、友だちだよ。友だち」
ダレンは視線をエブラから外した。そして、布団の上で一度座りなおした。
何をどう言おうかが纏まらなくて、口を尖らす。エブラはその唇を見ながら、恋人の言葉を待っていた。
「……いい、よ、ぼくは、いいよ」
「ん?」
今のはカッコ悪かったな。ダレンはそう少し後悔して、唇を一度噛んだ。
「だからね、ぼくは、いいんだ。聞きたかったのは、エブラが、幸せだったら良いなって。もしそうでも、ぼくは別に嫉妬とかしたりは、しないから。エブラがいつでも幸せでいてくれることを、ぼくは願うから。エブラが怖い思いしてたところから助けてくれたミスター・トールにも、それからエブラのことを抱きしめてくれたコーマックにも、ぼくは同じように感謝してる、から」
エブラはしばらくダレンを見つめていて、その唇が物足りなさげに言葉を捜しているのに気付く。エブラは俯いて微笑んで、
「ダレン、おいで」
抱きしめて、キスをする。
「おれは、おれのことを一番に思ってくれるダレン・シャンに、感謝する」
ダレンは、少し、唇をゆがめた。
「別に。ぼくは感謝されるような筋合いはない。ただ、ぼくがエブラのことを好きなだけだから」
エブラは微笑んで、またゆっくり、ゆったりと、その身を抱きしめる。
「ああ、それでいいよ、それが最高だよ。ダレン……、大好きだ」
頬に、ダレンの冷たい耳が当たるのを感じる。その柔らかな硬さが、エブラには当面の間の幸せであり、出来れば永遠に続けば良いと思うものだった。
「エブラ、……セックスしようか……?」
「うん……、そうだね、しよう」