What you like.

 ビビの体重は九歳が十歳になったからといってそう重たくなってしまうわけでもなく、例えば三人の男たちの中で一番腕力に乏しい288号だって長時間膝に乗せていて平気だし、抱き上げてキスだって出来る。大きいことはいいことだと言うが、小さいことだっていいことだと彼らが思うのは当然と言えた。288号はもう一時間も前からビビを乗せたままソファに身を委ね、ビビの読む魔道書の影にならないように身を傾けて自身も読書に耽りつつ、その身に何の負担も感じていないのである。なお、本日の凄腕黒魔道士二人の服装に付いて記述しておくと、288号は丈の妙に短いジーンズにジャストサイズの半袖シャツ、言うまでもなくどちらもジタンのもので、其処へ身を委ねるビビは紺色のプリーツスカートに白のブラウス、カチューシャ、細い足にはオーバーニー、要するに例のメイド服である。本を読む邪魔になるから、さすがに白手袋は外しているけれど。

 ジタンとブランクはテーブルについている。彼らの服装については省略する。夕食後、歯を磨きはしたがまだ眠るには早いというこの時間、彼らは退屈そうな顔でカードゲームに興じている。頭の回転の速いブランクの方がずっと強いに違いないと決め付けるのは早計で、二人の実力は意外なことに拮抗している。ジタンの働きにムラのある頭は、カードに関しては鋭く廻るのだ。伊達にあの旅の最中、擦れ違った相手にさえカードの対戦を挑むマニアではない。そんなジタンにしても、ビビや288号には敵わないのだけど。

 眠ったっていい、そもそも眠る為の夜を迎える前に、こんな退屈、こんな暇、丹念に潰して時間を過ごすのは、正三角形の重心にビビが居るからだ。物理的には288号の膝の上にいて、机を挟んだ向こう側のブランクは遠いけれど、精神的には等距離に居て、三人が六十度分動けば円を描く。

 此れが幸せだと、288号は断じていい気がしている。窓から吹き込む夜風は涼しい、虫除けの結界を巡らせているから蚊や蛾やビビの怖いものの一つであるアブラネズミも入ってこない。ビビの、自分の、銀の髪先を擽って流れて、288号は冷めたコーヒーを飲むために首を傾ける。いつもの如く、コンデヤ=パタから買って来るもので、冷めても味はあまり落ちない。目を閉じて嚥下すると、鼻へ解れて抜ける香りと舌先に僅かに残る酸味が心を満たしてくれる。此れが幸せでなかったら、何が幸せだろうか。世界ってそんなに広いもの? 広くてどんな意味があるもの? そんなことを嘯いてみる自分も、きっと悪くない。

 288号は常に冷静である。ビビを抱いているときだってほとんど落ち着き払っていると言っていい。無論、彼はビビを心底から可愛いと思っているし、少年の裸を前にしてその性器が硬くならないはずも無いのだが、そんな自分の中心から、自分の魂が勢いに任せて逸れないようにしっかりと繋ぎとめる術を持って居る。ブランクに比べてずっと大人だし、ジタンなど孫のようなものだ。

 先程から、その音がする度にブランクがちらりと目線を向けている。ジタンも気付いていて、何かにつけては斜め後ろのビビを振り返る。到底十歳児の読めるようなものではない魔道書を、すらすらと読み解いていく少年は、書かれた呪文の中に埋もれて自分の立てている音に気付いていない。

 ……ちゅ、……っちゅ、……。

 其れは甘く、かすかにしょっぱい音だ。

 288号は本から意識を反らして、どうしたものだろうかと、膝の上の少年に思いを巡らせる。音は途絶えたかと思うと、忘れた頃にまた鳴り出して、その度にブランクもジタンも眼を向ける。

 其れがビビの癖となりきっていることは、288号も少し前から気付いていた。膝の上に居ないときでも、少年が何かに没頭するときには、知らない間にそうしてしまうらしく、時折そのちゅぷちゅぷという音を立ててしまうのだ。

 ジタンとブランクがその音を止めようとせず、寧ろ向ける視線に不適切な愛情を篭めているのを見れば、どちらかと言えば「悪い」その癖を、しかし安易に止めてしまうことを彼らが躊躇っているのは明らかだ。そして彼らは来年になっても再来年になってもビビに指摘しないだろうとの想像は、余りに容易だった。

 だから、またその音が立ったとき、288号は止めた。

「ビビ?」

 不意に名を呼ばれたことに、膝の上の少年はぴくんと肩を震わせて振り向いた。銀色の眼は、いつ見ても透き通っていて愛らしく、睫毛だって長く。

「……お腹空いたの?」

 聡明な少年は言われたことの意味にすぐ行き当たる。「あーあ」とジタンがあからさまな落胆の声を上げ、ブランクは複雑そうな眼で288号を見た。

「……ん、んーん、空いてない、よ」

 ずっとしゃぶっていた左の人差し指の先をスカートの裾で拭いて、ビビは何事も無かったかのようにまた本に目を戻す。幼稚な癖を見抜かれて、その耳はほんのり赤かった。

 要らん事を言うな。

 二人からの視線が痛い。しかし、二人がそう言うならば、僕はこう言わなくてはいけないとも思う。其れは膝の上の少年を愛しく思うが故のこと、呼吸のように当然のこと。だってこの子の手が汚れているとは思わないけれど、それでもお腹を壊して痛い痛いと泣いているのは見たくない。此れが僕なりの。

 だから、「此れでいいんだ」と納得して、再び本に目を戻して、何処まで読んでいたかを探して。

 ……ちゅぷ、……ちゅ、ぷ、ちゅ……。

「……ビビ」

「ん? ……んあ」

 意識が追いつくまでの一秒半にビビが浮かべて居た無垢な表情に大なる価値があることを、288号は確かに認める。人差し指を咥えたその顔を間近に見ては、揺らがないのは嘘だろうとも思う。

「赤ちゃんみたいだ」

 288号の心臓はこういうときに少し早くなる。

 彼は自分の本を閉じて、ビビの本に左手を添える。自由になるとつい口へ運んでしまう小さな左手は、自分の右手で包んで。

 まだ、爪を噛むような癖でなくて良かったと288号は思うことにする。ビビに関することならば何処までもポジティヴに評価しようとする姿勢はジタンやブランクと全く同じである。ビビの身体が――仮令其の爪の先ばかりであったとしても――傷ついてしまうのは耐えられそうにない。

 無くて七癖という言葉がある。自分にも何らかの癖があるに決まっている。誰かを不快にするものでなければいいと願うが、あまり自信は無い。ただ288号はビビの癖が愛らしいもので、やはりこの子は可愛いのだと、もはやジタンとブランクよりも冷静と胸を張って言えないようなことを考えていて。

 ちゅぷ。

「……っお」

 そんな声を出した。

 彼の右手の人差し指の先は、小さなビビの口腔の中に在って、快い圧力で吸い上げられて居て、その瞬間を目にしたジタンとブランクの表情たるや凄まじいもので。

「びっ……、ビビっ」

 頁を捲る手を止めて、ビビが気付く、「うあっ……」、自分が口にしていたものが自分の指ではなかったと気付いてようやくそんな声を上げるのだから、この子のコンセントレーションの高さは特筆すべきものがあると言える。

「ご、ごめっ、ごめんなさい……」

「いや、あの……」

 カードゲームどころではなくなったジタンとブランクが椅子を立ってやってくる。

 もっと楽しいことが側にあると知りながら、そう熱中できるものでもなかっただろう。

「全く……、悪い赤ちゃんだなあ。そんなにお母さんのおっぱいが恋しいの?」

 ジタンの目は愛情と悪意に満ちていて、悪意の動機となる嫉妬を向けられる288号の胃はチリリと痛む。ビビの右手を取って、「う、あう、う」、指を三本まるごとぱくんと咥えたジタンは、じゅ、と強く吸う。

「ずうっとそうだもんなあ……、俺がこの家来た頃にはもう癖になってたもん」

 ブランクは左手を取って、手の甲にキスをする。

 二つの上目遣いの目線を受け取った288号は、後悔していた。すみません、余計なことをしました、申し訳無い、……ビビ、ごめんね。

「う、う、も、もう、しないよう……」

「ビビの『もうしない』は信用出来ないからな」

 ブランクは飛び切り意地悪く言った、「おもらしだってもうしないって言ったのに、すぐしちゃうんだもんなあ」、288号には出来ない芸当である。

「え、マジ? ビビまたおもらししちゃったの?」

「そう、……本当に悪い子、悪い赤ちゃん」

 膝の上に載せた身体が少し小さくなった気がする。真っ赤になって、今にも泣き出しそうな子が、二人だって不憫でないはずがないだろうに、わざとそんな風に言って傷つける。

 しかし此れだって愛情だろ、二人は言う。

 288号は知る。彼ら二人がビビの癖を見るのを愉しんでいながらも、いつかは止めなければならないという保護者として当然の自覚を持って居り、先刻288号が撒いた種を機会としたのだ。二度指摘されても止めなかった子が、三度指摘されて止めるとは思いがたく、彼らだって眼で愛でられなくなることより腹を壊されることを怖れる以上、手段は辛辣でも確実性の高いものを選ぶのだ。

「ご、ごめっ、ごめんっ、なさい……っ」

 涙が眼に満ちた瞬間を、後ろ頭を見ているだけの288号も正確に読み取る。

「いい子」

「大好き」

 ブランクとジタンは同じタイミングで、ビビの頬にキスをする。仮に涙が零れていたって、その唇に吸い上げられるならば、……この男の子は泣いてなどいない。

「俺は知ってるよ、ビビが指咥える癖の理由」

 ジタンが言う。

柔らかな癖のある銀髪は少し伸び、襟足はふわりとした毛束が愛らしく跳ねたり巻いたり。その毛先の小刻みに震えていないことに、288号は安堵する。

「ビビは、俺らのちんちん舐めるの好きだからなあ。ちんちんしゃぶりたくなっちゃったんだろ」

 ぴく、と毛先が震えた。撫でる手はカチューシャを邪魔とも思わない。

「ああ……、なるほどな。……ってかテメェはそう言うことになると本当に頭の回転がよくなるな」

「おかげさまで。愛してますから」

「下品なだけだろうが」

「俺が下品で誰か困りますか?」

 ビビが困る。

 と、288号は言えない気がする。ジタンの仮説というか品亡き冗談は、あまりに据わりがいい。ビビが、……この美しい銀髪の少年が、男性器を嫌いであるはずがないのだ。

「ち……っ、違うよっ、そんなんじゃなくってっ……」

「違わないだろー、なあ、ビビは俺らのちんちん大好きなえっちな子だ。ちんちんの先っぽにしゃぶりついたり、袋をさ、器用に舌の先でくすぐったり。そんだけじゃない、ちっちゃくって、本当はこんなことしちゃいけないって判ってても、我慢出来なくってむずむずしちゃってるお尻の穴に、ギンギンに熱くなったちんちん入れられるの大好きなんだもんなあ?」

 ジタンの悪質な言葉を聞きながら、ブランクはビビの頬に掌を当てて、優しく微笑む。

「悪いことじゃない……、俺らだってビビのちんちんは好きだ、……いや、ちんちんだけじゃない、ひくひくしてるお尻の穴も、柔かいタマタマも、うすーいピンク色ですっげえ綺麗なおっぱいも、……ビビの身体の隅から隅まで全部好き。こんだけ恋してるお前に俺のちんちんが好かれてるって、そんな幸せな話は無いよなあ」

 二人は「意地悪」「変態」などと言われるのには慣れていて、寧ろビビだけは彼らに何度そう言っても構わない立場に居るのだと288号は思う。まだそれらの言葉に慣れておらず、つまり重ねた時間も短い自分、追い着くつもりが在ることに、今更ながら288号は驚く。

「ほんとになあ……、ビビはほんとに、美味しそうだ。美味しそうなだけじゃなくって実際美味しいから困るんだ。この舌が、お前を求めて止まんなくなる」

 ジタンは瑞々しい唇を指ですうっと撫ぜて、微笑んだ。

 ビビの尻は288号の丁度股の上に乗っている。スカートの内側の下着の食い込みが気になって、落ち着き無く尻を動かすたびに刺激を生む。288号の足を挟むように崩した正座のままでは、窮屈な下着の中で少年の性が息衝くのを、どう頑張ったって隠し果せる訳が無くて、ぎゅう、と掴んだスカートの裾をブランクが見咎める。

「……あんた、退屈だろ」

 288号に、「ビビのこと、ぎゅうってしてあげなよ。……嬉しいよな、ビビ。288号にぎゅうってされたら」、要請する。戸惑いながら彼がごく臆病な力を篭めた両腕をビビの身体に廻すと、「おりこうさん」、ブランクは左手でビビの、右手で288号の銀髪を撫ぜた。

「う、やあっ、やだよぉっ」

 遠慮なくジタンが、解けたスカートの裾を摘んで捲りあげる。

 黙っていれば少女にも見える少年に斯様な格好をさせることまではビビの相貌の甘さに免じて許されるだろうか。然るに、小さいとはいえ性機能をも備えたものを包む下着がこのようなフォルムをしていることを世間が知れば、大層な影響を生むことは間違いない、「銀髪少年にはメイド服が似合う」ということが全世界のコンセンサスを得て、法律の二つ三つは変えてしまうだろう。

「……美味しそうだなあ……、なあ?」

 本当に涎が浮かんだのかは288号には判らないが、ジタンは唇を舐めて唾を飲み込んだ。檸檬イエローの下着は所謂一つのTバックで、「なあ、あんたは黄色と赤とどっちが好き?」とジタンに聞かれて黄色と答えた288号のリクエストに応じて買われたもので、もちろん288号は何の色について訊かれたのかを知らなかった。布地の面積は狭く、だから背の低いビビが性器の輪郭を少し変えるだけで、布の前面は持ち上がり、危うい隙が生じる。

「何かさあ、ビビが黄色いパンツ穿いてるとさ、おもらししちゃったみたいだなあ」

「し、し、してないもんっ、もうしないんだもんっ」

「うん、判ってるけどさ。でも、すっげ可愛い。……っていうかね、してもいいのよ俺らは。毎日とは言わないけど、時々さ、してくれたりしたらすっげえ可愛い」

 自分は何をやっているのかと問われて答えようが無い。ビビが尻をもぞもぞ動かすたびに受ける刺激は何処に逃せばいいのだろうか。そもそもいつまでこうやってビビを拘束していればいいのだろうか。

 第三者のふりをしていればいいのだろうか。

 彼も男であり性欲を持ち、ビビを愛するならば少年に欲が向かうのは適切ですらある。

「いい匂いだ、……食欲をそそられる」

 ブランクが鼻を寄せて嗅ぐ。

「やだぁ……、やだよぉ……っ」

 濡れて融けて流れるのが涙と、蜂蜜状に糸を引く声であり、其れは何れも甘い。重ねた少年の細い背中と自分の胸との間に体温がじわりじわりと広がっていく。

「んぅ!」

「つまみ食いかよ」

「テイスティング、一口だけね……、美味しいよ」

 きゅうう、とビビの括約筋が引き締まる。ブランクの舌先に下着の上から弾かれれば、元よりサイズの合わない288号のジーンズは一層きついものとなる。「次は俺の番ね。……いただきます」、細いけれど「太腿」と呼ばれる其処から、遊びの生じた陰嚢周囲の空間へ舌を辿らせる。

「んんっ……、だ、めっ、ダメっ……、ダメぇっ……」

半日以上このメイド服を着ているわけで、ビビだって汗をかく。身体の中で最も湿っぽくなりがちな場所を、嗅がれて舐められて、逃げるように――逃げる努力からも逃げるように――ビビは尻の窪みに288号の勃起しきった男根を無意識のうちに挟んだまま、前後に尻を振る。彼の豊富な知識の中には素股という単語があって、此れはその部類に入るのだろうかと、くらくらしながら検討する。

「ら、めらよぅっ……、た、あっ、タマタマしちゃだめなのぉ……!」

「どう、ダメなの?」

 ブランクがジタンにいじめさせながら問う。精彩を欠いていた、カードゲーム中の表情とはまるで違って、縫い目の走る顔でもそれなりに見られた物であると288号は思う。

「らっ、だっ、だってッ、んっ、お、あっ、あっ……、た、まっ、タマっ、ぃうンっ、ひ、も、ちっ、イっ、いっ、ぃっ、ひゃっァあっあ、あっ!」

 鼓動はダイレクトに288号の股間を直撃する。ビビがびくんと震えるたびに、この衝動をそのまま教えてあげたいと、288号の中で行き場を失った情熱が吠える。

「食前酒だ、……いや、スープか?」

 ジタンがニィと笑って口を外す。下着の脇から袋に舌を這わせるだけで「魔法」のかけられたビビは呆気なく射精して、「もうしない」と言っていたくせに「おもらし」をした。じっとりと薄い布地を濡らし、粘性の高い尿ならぬ液体を滲ませて、引っくり返した盆を持って覆水を呆然とビビは見る。

「う……、あ……、はっ……あ……」

「すごい……、濃いね、ぷるぷるしてる」

 下着の上からも、288号の眼にも、其れは判る。布の内側に弾性を伴って、なかなか茎へ伝って流れて行かない。

「夕べはしなかったん?」

 ちら、と視線を向けられて、288号は小さく頷いた。

「……寝かせてあげたかった、から」

「いい子だなあ……、あんたは」、むい、とジタンは288号のそう柔かくもない頬を摘んだ、「俺らがその分悪い子みたいになっちゃうじゃんか」。君らが悪い子であることに一体どんな疑いがあるというのだ。

「んーじゃあ、ビビたんの一番絞りはあんたに飲ませてあげよう。夕べビビに穏やかな眠りをくれたあんたにお礼って言うかご褒美だ」

 結局288号は最後までビビを離さなかった。首筋に薄く滲んだ汗は美味しそうないい匂いで、だから離してしまう気にはなれなかったのである。288号からビビを譲り受けたブランクはビビを立たせると後ろからそのスカートを捲って、「召し上がれ」。ビビは未だ恍惚の中に居た。羞恥心が無い訳が無い、しかしその頬の赤味は其れとだけ片付けるには余りに複雑すぎる。自分に解釈出来るようなものではないと、288号は染み付きの下着に指をかけて、そっと、引き摺り下ろした。ビビは其れを拒みはしない、ただ、自由をブランクに奪われたまま、現状を由としていることばかり、288号には理解出来る。

「……濃いだろ……、ビビのタマタマの中に溜まってた、えっちなミルク。一晩じっくり煮詰めてトロットロになってる」

 薄紅色に色付いた幼茎に白い精液がようやく伝って流れ始めた様を、苺にシロップと評するのが安易に過ぎるのは、其れが余りに「其れ」を思わせて、最も一般的な喩えとなるからだ。

 そして其れはどう見ても「美味しそう」だし、288号の鼻腔に届くのは「いい匂い」。

 冷静なつもりの軸がぐらつく。動揺することにまだ慣れていないから、振幅はジタンやブランクの其れよりも、ずっと大きい。……衝動を、息を一つ呑むことでどうにか堪えるけれど、飲み込んだ息の中に存在するビビの粒子が内側から彼の精神を着々と蝕んでゆくのだ。

「どう? 俺こっからじゃよく見えないからさ、教えてよ」

 ブランクがビビを抱いたまま言う。288号はこくりと子供のように頷いた。

「……いい、においが……、する。上手く言えないけれど、春の太陽をたっぷり浴びた薄荷のような、……透き通ったいい匂いだ。……ビビの此処が……、震えるたびに、少しずつ少しずつ芳香が広がっている気がする……」

 愛らしいフォルムの下着の中で休眠していたビビの性器からは、熱の湿って蒸れたことによって生じる匂いも在る。だが288号は其れを含めて目を閉じて吸い込み、いい匂いだと言うのだ。「ビビが一晩熟成させて、それから半日下着の中でよーく蒸らして、……俺たちのためにね」、ジタンの言うことにもいちいち同意が出来た。

「本当に……、美味しそうだ。ひくひくして……、シロップがとろとろ零れてく。……僕が食べていいの?」

 三人の視線に拘束されては、少年がまともな感覚で居られるはずも無い。自由な下半身をくんと突き出して、「し、てよぉっ、僕のっ、おちんちん、見てるだけじゃやだよう!」、食べて欲しいと、愛らしく強請る。食べ頃を過ぎぬ内に頂くのがマナーだろう。

「ンはぁァあ……!」

 過敏になった袋から垂れ落ちそうになっている蜜を、舌先で掬い取った。舌の上で輪郭を失い融けて広がり、香りが弾ける。舌先は自然とビビの引き締まった陰嚢の裏側に触れ、密やかな凹凸一つひとつは、即ち舌触りである。

 288号は昨夜を思い返す。

 「しないでいいの?」、ビビが問うたのに、彼は月より優しく微笑んで、「おやすみ」と言って舌も絡めぬキスだけをした。

 唇を重ねるだけでかすかに甘さに舌が触れた気になる。それだけ満悦を得て、足らぬものなど何もない自分のつもりで居るのか、それともそんな自分で居たいのか。

「んぃっ、あう、あ……ァ……はッ……」

 耳に垂らされるその声さえ美味しいと知ってしまった僕は、もう穏やかでは居られない。

「う、やァ……ん! さきっぽっ、さきっぽぉ、しちゃ、うンッ、いァ、あ、はうァあ……!」

 声を泳がせるビビに、288号は益々食欲を募らせる。指で剥き下ろした皮の内側にまで、旨味の層は潜んでいて、舌先は精液とも尿とも違う味を見つけ出す。腹の鳴りそうな思いの中に埋もれて、止められないし、止まる必要も無いのだと気付く。

「あっ、あ、あっ……あ! ァ、っンん! う、ふぅァあ……あっあ……あン……ん、ん、んゥンっ」

 マナー違反と知りながら直接口を付けて食べて、内側から湧き出しては男の舌を喜ばせるとろみのあるスープを吸い上げていたら、弾けるように迸って、口の中にたっぷりと溢れるのが、至上の美味、味覚の愉悦。

「あ……あ……、……あ……、っや! やぁっ、す、っちゃ、ら、めらよぅ、ん、ひぃっ、も、もぉ、れないからぁあっ」

 赤子が母親の乳首に吸い付くような幼児性其のままに、288号は執拗にビビの陰茎を吸って、もっと欲しいよ、今の、美味しいの、もっと欲しいよと、我儘をそのまま舌に載せて、

「は、ひぁっ、アっ、あ、れうっ……おひっこでっ、ン! おしっこぉっ、も、れ、ひゃ、ぅ、っひぃいィンっ」

 ……君は、すごいね。288号は心底からビビを賞賛する。

 君は、こんなにも、美味しい。

「あーあ……。『おもらしはもうしない』んじゃなかったのか、ビビ?」

「あー、それこないだ俺が言ったから。……『しない』ほどしちゃうんだよなあ、ビビはサービス精神旺盛ないい子だから」

 口許を指で拭って288号が顔を上げたら、ブランクがゆっくりと床に、ずるずるぺたん。

「……綺麗に食べたな」

 床に零さなかった288号に、感心したようにジタンが言った。

「う……は……ぁう……」

 二度の射精と一度の失禁を、共に美味しく頂かれた銀髪のメイド少年は、捲れあがったスカートの裾から勃起したままの真性包茎を晒したまま、呆然と288号を見て居る。昇天直後であって、当然のように焦点は合っていなくて、其れが却って艶っぽい。

「したら……、本題に戻ろうか」

 ブランクが自らのベルトに手をかけて、そんなことを言い出す、「本題、ね。そうだな」、呼応してジタンも頷く。288号が一人、二人の言っている意味がまだ判らない。

「ビビ、……ほら、お前の大好きな、美味しい美味しいおちんちん」

 ジタンが勃起しきった男根をビビの目の前見せびらかすに至って、ようやく288号は解釈に至る。何という品の無さかとくらくらするけれど、ビビを見れば赤黒く晴れたような男の性器を前に、食欲の沸き出たような顔になっている。

「いいんだぜ、お前の好きなように……。だってお前は俺らのもの、俺らはお前のもの」

 はっ、はっ、と浮いた息を漏らしながら、右のブランク左のジタン、露茎と仮性、サイズにも色合いにも差があるが、どちらもビビの眼にはこの上なく美味なる物と映るのだろうか。

「おちんちん……」

 だから、左手に右手に性器を乗せて、ビビはうっとりと言う。

「しゃぶって」

 言ったジタンの性器に、唇を当てる。紅い舌を盛んに脈打つ性器に絡ませて、陰嚢の裏までぺろぺろと舐め、其処に存在する「全て」を余さず飲み込んでゆくのだ。

「本当にえっちなメイドさん。男のちんちんがそんなに美味しいの?」

「んン……、おい、し……」

「だったら、ビビのちんちんが美味しいっていう理由も判るよね?」

 目元に差した赤味は淫らさの証に違いないはずが、どこか無垢にすら見えることが、あまりにもけしからん。

「俺のも、美味しいよ」

 指で弄られているだけでは満足し切れなくなったか、そんなことを言い出したブランクに応えるべく、ジタンから口を離す。ごめんねと、唾液をたっぷり纏わせた舌でくるりと茎を湿らせて。扱くたびに、口腔愛撫以上に卑猥な音が立つ。

 二人を羨ましく思う288号は、ビビの愛撫が何かとんでもなく気持ち良い理由が判った気がする。とは言え288号は他の誰かと較べることが出来る訳でもないのだが、ブランクが彼の想像の正しさを保証する。「そんじょそこらの女の子よりも絶対上手だって。やっぱり男同士で何処が良いか知ってるからかなあ、でも……」、一番の理由を、288号は知った。ビビは男性器が好きなのだ。ジタンとブランクの性器の味が、匂いが、好きで仕方が無いのだ。だから貪欲に舌を伸ばすし、求める液体をちゃんと出して欲しいから上達もする。

「……んぁ……、しょっぱいの……、でてきた……」

 ブランクの性器を間近で見詰めて、亀裂に人差し指を押し当てる。引いた指につうと短い糸を伸ばす腺液を見て、とろんと笑って、指を舐める。

「……ビビは……、其れが、好きなの?」

 288号の問いに、こくんと頷く。ついさっき本を読みながらしゃぶっていたのと同じ指で拭い、同じ指を舐める。無意識の内側に秘められた物は、斯様に、余りにも大きい。

「好き、……ちょっとしょっぱいの……、美味しくって、好き」

「通だな、カウパー好きなんて」

「かうぱあ?」

「カウパー腺液、そう、呼ばれているね」

「……通称先走り、我慢汁と言った方が通りはいいか」

「さきばしり……、がまんじる……?」

 健全な青少年の育成という観点からは、全く必要の無いもの? ……「我慢汁」も知らない大人ほど不健全で気色の悪いものもあるものかと、288号は全面的にビビを肯定する。

「……うん、ぼく、カウパー好き、だよ。お兄ちゃんのも、ジタンのも、288号のも、おつゆ大好きだよ」

 順不同の三人目として並べられた以上、其れは暗に求められているに違いない。

彼が手をベルトに掛けると、ビビは明らかに頬を綻ばせる。

288号のも、おっきい……」

無邪気と言い切ることに何ら問題が無い少年の笑顔を見ては、自分の行動に間違いが無かったことを保証された気がして、なんだか安心する。指に撫でられる間から滲んでいたジタンのものを吸ってから、288号の性器をぱくんと咥える。カウパー、飲ませて、僕に、頂戴、言葉の篭り、食欲が動機のフェラチオが、心地良くないはずは無い。両手に二本の性器を愛撫しながら、まだカチューシャだって外していない黒魔道士の少年は、確かにこうまで淫らではあるけれど、例えばお手伝いはちゃんとするし、お勉強だってするし、食べ物の好き嫌いもあまり言わない、命の大切さは誰よりも判っている、思ったとおりに行かないことにも根気よく向かい合う、……日々を大切に思い、明日もどうかみんな笑っていられますようにと祈るのは、四人でこんな風に遊ぶのを幸せと思って、願わくば永遠に四人でこうして過ごして居たいと切ないほど強く願うからだ。

 だって僕ら、飲まず食わずじゃ生きていけない。

「んはァ……、288号のも……」

 その笑顔を作り出せることを、ジタンとブランクは心底から誇りに思っている。

 僕もそう思わないでは居られないと、288号は思う。

 ビビはちうと唇を当てて288号の尿道口を吸って、また微笑んだ。きぃんと硬くなった少年自身の性器からは、こんこんと美味なる腺液が水晶を煮溶かしたように耐えず湧き出て収まらない。

「……そろそろ、さ、ビビ、メインディッシュ、欲しくない?」

 細い指で――ビビほど感じることは無いとは言え、全く平気で居られるわけも無い――陰嚢を揉まれるジタンが、ぎこちなく笑って言う。

「だなよあ、……そろそろ頃合いだよ、俺らのもだいぶ煮詰まってる、でもってビビのお腹ももう、空いちゃって大変だろ?」

 288号、とブランクが指差す、「ビビのこと満腹にしてあげよう」。

「……僕が? ……僕でいいの?」

「ああ。……いいよな?」

「もちろん、ってか、どうせ一回じゃ終わらんしね」

 半刻前までは本を読む為に載せていた体が、今度は繋がって載るのだとはイメージ出来なかった。身を重ねているのだから其れは導き出される結論だったのだと、想像力の欠如を認めざるを得ない。スカートの中で瑞々しく引き締まった小さな尻の奥、息を潜めながらも落ち着き無い動きの場所だって、今日一日下着の中で汗ばんで谷間は塩っぱいはずだから、本当は舐めてみたい。だけど今は、お腹を空かせて待っている子の為に。「ぅん……、ン、あ……、……んむ……、ん、っ」、尻の穴を開かれながらもビビは、目の前の二本に対しての愛撫を中断しない。性的には我慢強い方ではないビビであるが、優先順位を誤ったりしないようにと払われる努力は涙ぐましくすらある。

「……入れるよ、ビビ」

 応えは、ビビ自身が浮かせた尻を、288号が手を添えた彼の性器の先端に遇わせることだった。

「うはぁ……ぁあん……、おちんち……ンっ……、入ってるよぅ……」

「うん……、入ってく……、すごい……、ビビ……」

 締め付けられて苦しいのは何も性器だけではなくて、気道まで狭まるような感覚に288号は捕われる。太腿に掛かる全ての体重は、あべこべにビビが味わう圧迫だ。小さな身体である、対応して当然、直腸だってごく小さなものであるはずだ。ジタンとブランクのを見れば、自分のものは決して小さいとは思わない、何という、何という、……、歓びだろうか、「おっきぃ……っ、おっきくってぇ……」、ビビを悦ばせることが出来る、此れが僕の歓びでないとすれば、だとすれば、何だって言うんだ。

「……ビビ、出来る?」

 くい、とブランクがビビの鼻先に性器を揺らして見せる。

「ん、する……、ン……はァ……ん、するよ……」

 ジタンのものを扱き、ブランクのものをに舌を絡めて二往復。今度は左のジタンのものに舌を当て、右手でブランクを扱く。其の間に、ビビは288号の上で自ら腰を上下に弾ませ、その度、濃紺のプリーツスカートから顔を出したままの幼茎の先が上下に揺れて、288号のジーンズに腺液を散らす。「いくよ、ビビっ……、飲んで……!」、ジタンが音を上げる、素直にジタンの尿道口に舌を当て、穿るように上下に小刻みに動かして、ジタンの息を止める、「ッく……ぅ、おっ……!」、半分程はその口に入っただろう。ビビはこくんと飲み込んで、その手で射精直後の性器を緩く掴み、ジタンに余韻を与えつつ、反対側のブランクの男根にしゃぶりつく。

「……ん、ン! んぅ……っ、ぅ……ふぁう、……っは、ぅ、ぅンっ……!」

 舌の上でブランクの性器が弾んで、ビビは全てを口の中に受け止める。雄の性そのものを愛し、じゅっと音を立てて吸い上げて、……一滴も残したりはするまいと。

「ッん! あっ、……あ、あっ、あ! あん!」

 ビビの口が自由になるまで待てたことが、彼の彼たる所以だろうか。288号は下からビビの腰を突き上げ、親愛なる二人の目に最高の一品の仕上げを見せんと、強く、強く、強く。其れはあまり筋力のない、いっそ脆弱と言っていいような288号にとっては負担を伴うが、止めるつもりは毛頭無かった、砕けたっていい。

「……ビビ、いっちゃうの? おちんちんもおっぱいもタマタマも触られないで、お尻だけで」

 ジタンが息を整えながら笑う。

「俺の、コイツの、ビビの大好きなおちんちんミルク、一杯呑んじゃったから、ビビもまたびゅーって出したいんだよなぁ?」

 ブランクも、笑う。笑顔って、誰のものでも素敵だと288号は思う。自分はそういえば、あまり笑わない。もっと、笑えるときにはたくさん笑おうと決めた。

「ん、ぅっ、おちんちんっ、……好きだよぉ……、大好きぃっ、もっと……んン! もっと、ッ、ぼく、のっ、うァンっ……ンぅ、ん、ん、あ、あ! いっぱいっ……、いっぱい飲ませっ、ひ、は、あ、は、アっ、は! あ!」

 抱えた体を貫いて、288号は射精した。ただ彼の快感のみならず、ビビの快感のみならず、……根源的に命が抱える食欲を満たす為の。

「あぅう……ン……ぁはァ……」

 288号の性器を締め付ける鼓動と共に、ビビの幼茎は再びシロップを纏った苺になる。其れは愛らしい色と震えで男二人の食欲を刺戟した。言わば「宴」はまだ始まったばかり、それでも第一の皿は一先ず「ごちそうさま」か。

「ん、ひゃぅ! ぅああんっ、ま、まだぁっ、らめだよぉ」

 上品とは言いがたい、直接口を付けるのは犬食いである。高貴な衣装のメイド少年は、今度はおっぱいを弄って欲しいと言うより先に、ジタンの頭と288号の足を跨いで仁王立ちするブランクの性器を目の前に突きつけられて、……またお腹が空いて。

 

 

 

 

 リンドブルムの三ツ星レストランにおける、フルコースをオーダーした客の平均滞在時間は三時間弱である。どう控え目に見積もったって、彼らの夜が此れからそれ以上掛かるのは疑いも無い。だってビビはまだ、ブラジャーによってほのかに胸の膨らんだブラウスだって脱いでいないのだ。ミルクの出るわけでもない其処を吸いたいと男たちが思わないはずが無くて。だが其の前にまずは一風呂浴びることだろう、銀髪少年メイドの練乳仕立て苺色の生地で粘膜を包んで。


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