それよりも三人

 ビビには半そでに半ズボンという、純正健康美少年スタイルが良く似合う。細い足を、腕を、存分に晒して、雪色の肌を太陽に染めていく。夏も終りになると、銀の髪と目が一層生えるほどにこんがりといい色に焼けて、それが丁度、この時期になると元の雪色に戻る。こうなるともう半そで半ズボンは望むべくもなく、ビビ自身、冬の装いになって行く。ビビには夏も冬も良く似合う。無論、たんぽぽ見つけたと微笑む春も、紅く染まって散り落ちるもみじのひとひらを手のひらに載せる秋も、ビビには良く似合う。要するに、結論を言ってしまえばビビは可愛い。しかし、結論を言うだけだと「何を今更」と一笑に伏されてしまうだろう。だからこれだけぐだぐだと前に置くのだ。そうして、ビビが可愛いということは、それだけの労力を俺に厭わなくさせるほどのことなのだ。

 と、以上のようなことをブランクは考えながら、ビビと一緒に小川のへりの芝生に座っていた。今日のビビは真っ白いセーター、生地は薄いが長袖。ズボンも白で、雪が一足早く降り立ってしまったかのような装い、融けてしまわぬように、まだ触れない。生暖かいような色の唇は、しばらく困惑したように少しの隙間を生じていたが、それはキスするのに一番適しているように見える。ブランクは誘われてもいないことを自覚しながら、ビビの可愛いことを理由に、隣りに座る子供の唇に、キスをした。

「ん……」

 一瞬びくりとしても、すぐに「お兄ちゃん」の指に指を絡める。図らずももらえた柔らかな質感に、ブランクは肺がぎゅっと固まったようになる。

「……安心して。今はビビのことも、すごく好きだよ」

 二人は、話の途中だった。「お兄ちゃんは、ジタンのことが好き?」「さあ」「ちゃんと教えて」「好きだよ、ああ、好きだ」「でも……、それじゃあ」、ここまで。

「そう……、そ、そうじゃなくって。ジタンは……」

「ジタンだってお前のこと好きだよ」

「……」

「加えて、自己陶酔、わかるよな自己陶酔、含めて言わせてもらえば、お前もジタンも俺のことが好きだ。だから雪が降って、雪が止んで、春が来て夏が来てもうすぐ雪が降る、でも俺はここに、追い出されないでいることが出来るんだって解釈してる」

「僕もお兄ちゃんのこと好きだよ」

「うん。判ってる、っていうか、そう願っているし信じていたい。だから、俺はここにいるだろ? ビビの隣りに」

 ビビの頬が、少し赤くなった。

「僕は……、ジタンのことも好きだし、でも、お兄ちゃんのことも、同じくらい、今は好きだよ……」

 膝を抱えた腕に鼻から下を埋めているせいで、声は少しく聞き取りづらい。

 ブランクはビビの横顔を見る。

「三人一緒が、僕は、いちばん、嬉しい。我が侭なのかもしれないけど、三人でずっと、一緒にいたい」

 さらさらと静かな音で流れる川面に、二人の姿は映らない。だが、三人だったら判らないな、判らない自分でありたいな、ブランクはそんなことを思う。

 ブランクとビビが当たり前のように並ぶまでにはいろいろあったような気がするが、ブランクもビビも、そんな課程は大切な宝物、鍵のかかる引き出しに入れっぱなしにしておいたので、あまり顧みはしない。ただ、今こうして二人でいられることだけは、現在進行形で常に目の前にぶら下がっているから、じっと見つめる機会も多い。三人のバランスの悪い関係も、今こうしてなんだか幸せなら、これを守ることに精を出したいと考えている。

 整理すれば、ブランクは元々ジタン、それからビビ。ジタンは元々ブランク、それからビビ。ビビは、元々ブランク、それからビビ。順番に微妙なズレがある。しかし、思いの後先よりも、好きな人を好きでいつづける気持ちと、好きな人に幸せでいて欲しいという願いが、三人に共通してあったから、全ての問題は解決することが出来たのだ。

「帰ろう、ビビ。寒くなってきた。風呂沸かしてさ、一緒に入ろう」

「ん」

 ビビを立ち上がらせるために取った指が、ひんやり冷たくなっていた。ブランクは繋いだまま歩き始めた。

「風呂から上がった頃にはあいつも帰ってくるだろ」

 一年なんてあっという間だと、ブランクは思う。一年前とやっていることはあまり変わりないのだ。ただ、心の中で「雪が降るまえに」、それを連呼していて、結局雪は降ってしまって。今では眠るベッドも三人一緒。

「久しぶりに二人でしようか、なあ?」

 しんみりした気分を無理に打ち払うように言って、ビビが紅くなるのを愉快な気持ちで見る。大きな夕焼けが後から追いかけてくる道、

「きゃ」

 ひょいと抱き上げて、お姫様抱っこ。村の黒魔道士とジェノムたちは、もうそれが当たり前の光景になっているから、別に注目もしない。それでもビビは恥ずかしい。

 

 

 

 

 二人きりで風呂に入るのなんて、正確には三週間ぶりで、これはこの家の浴室のサイズからしたら異常なことだ。三人で入るとなると、ブランクとジタンは常に交代で浴槽から出ていなければならなくなる。いつもビビは「僕が出るよ」と言うのだが、ビビに風邪をひかせるくらいなら自分は死んでもいいと思っているような二人だから、震えながら、何度もお湯を浴びながら、待つ。

 今日はその点、ゆったりだ。

 誰に気兼ねなく、膝の上に軽い身体を載せて、細いおなかにベルトのように手を回す。ビビは、指摘されるまで気付かないだろうが、甘えるように背中を重ね、ゆるやかなお湯の温度と時間の流れに身を埋めている。

「なんかこう……、いいよな」

 ビビが寝てしまわないように、声をかける。ビビははっと顔を上げる。

「……なにが……?」

「うん。こうやって、大好きな子と一緒にお風呂はいるのって、何かすごく幸せな気がする。裸で、体温感じあって、いっしょで気持ちいい。なあ? セックスもいっしょだよ。そう思わない?」

 ビビは、ブランクからは死角になる表情を赤らめた。どうせ見えやしないのに、赤くしてしまったのをお湯のせいにしようと決める。

「冗談だよ。すると思った?」

 笑い声で言われて、なんだかきまりが悪くて、ビビは無言で首を振った。

「可愛いなあ」

 湿った髪に、キスをする音を立てる。

「そ、そろそろジタン、帰ってくる頃だよ」

 どぎまぎして、良く分からないことを言っていると自覚しながら、良く解からないことをビビは言った。ブランクは本気で可愛いと思いながら、

「うん、わかってる。だから、もうすぐ出ようね」

「ん……」

「でも、ビビ、出られる?」

「え?」

「ほら……」

 ベルトが解かれて、ブランクの右手はビビの太股の間へと忍び込んだ。ビビは、声を上げる間もなく、幼い茎をブランクの手に包み込まれていた。

「大きくなってるのに気付かないんだね……」

「や、……な、なんで……?」

「俺が『セックス』って言ったときから、ちょっとだけ大きくなってたんだよ。可愛いなあビビは。ほんっとに可愛いよ……」

 どうにも誤魔化しきれずに、顔はますます紅くなる。

「……出る前に出しとくか?」

「え、で、でも、あの」

「俺は別に構わんよ。お前のこと可愛がるのは、大好きだからね」

 ブランクはそう言って、ビビの細い太股と太股の根本で、指摘されて以降、本格的に勃起するに至ったそれを、親指と人差し指で摘んで、そっと扱き始めた。

「う、や……」

「出そうになったら言うんだよ」

 左手では、当然のように薄桃の乳首をなぞりながら、

「ん、っ……、ひゅっ、ぅんん」

 言ったことが伝わったのか、理解してもらえたのか、判別できないから、仕方なくブランクは太股を支えて抱き上げ、そのまま脱衣所を素通りして、ベッドルームへビビを運んだ。二人の通ったあとには、夥しい量の水滴が散ったが、このようなものはあとで拭けばよい。

「おにいちゃん……」

「今、気持ち良くしてあげるからな」

 仰向けにベッドへ下ろし、足を大きく広げさせる。指を一度咥え、唾液を纏わせたら、その指の向かう先は一つ。

「ひゃん!」

「力、抜いて」

 そして、口では、括約筋に応じて跳ねるところへ施す。

 指が、強い力で締め上げられる。この子の、この細い体躯の、一体何処にこのような力があるのだろうかとブランクは訝るが、押し返そうとするその力に酔う。ようやく指が奥まで至り、顔を上げて見下ろしてみると、ビビは切ないとしか形容できないような表情をして、ブランクを見上げている。ブランクの人差し指を、ぎゅ、ぎゅっと咥えこむ、清純な蕾が、清純に見えるだけにかえっていやらしい。

「指、動かしたほうがいい?」

 こく、と頷く。

 ベッドに運んできた頃には、まだずっと大人しかったブランクの陰茎は、ここに至り力を帯び始めていた。が、ここで堪えきれなくなるジタンよりも多少なりとも大人の彼は、ビビに施すことのみが今自分のすべきことだと理解しているから、襲い掛かったりはしない。ビビは何も考えないでブランクの奉仕に酔い痴れていればいいということを、無意識的に理解しているから、ブランクとの性交はある種の「甘え」が許されるものであり、嬉しいと感じている。指を動かす前に一旦抜かれ、細かな花弁へ潤滑油がわりとなる唾液を、直接丹念に舐めつける、そんな行為にも、優しさが篭められているように、ビビは思う。

 お兄ちゃんに甘えたい、大切にされたい、愛されたい。そんな欲が、幼いビビにはまだ、ある。

「じゃあ……、入れるよ」

「ん……、ん!」

 くちゅ、くちゅ、くちゅ、とゆっくり指を前後させる。ビビはシーツをぎゅっと掴んで、右の目尻からぽろりと涙を零す。泣くくらいなら、それにしても何で欲しいと思うんだろう、ブランクは答えのわかっていることを、幸せを感じるために考えた。嬉しくて流す涙だと、知らないふりをする自分に教えてやって、胸に満ちる喜びを味わう。

 ビビは時折、腰を浮かせるように動かす仕草を見せる。まるでそれは、卑猥な部分をもっと見て欲しいと言っているように見える。実際には、触れて欲しいと言う素直すぎる要求。ジタンにそんな仕草をされれば、百の言葉で責め苦を与えるところだが、ビビにそんなことは出来ない。異なった愛の形でも大きさは同じと判断されるところだろう。ブランクは優しい声音で、

「触って欲しいのか?」

 ビビはこくんこくんと頷いて、ブランクを見上げる。真っ直ぐな、その視線が熱くて痛いように感じられた。

「いいよ、自分で触っても」

 今度は、ふるっと首を振る。

「どうして?」

 ビビは少しの躊躇いのあとで、

「お兄ちゃんに、触って欲しいから……」

 胸に太い刺の刺さるようなことを言う。

 ブランクは痛いように微笑んで、内部で指を小刻みに動かしながら、蜜の溢れて熱の走りの停まらない小さな太陽へ指を絡ませ、弄ぶように刺激する。

「あ、んん……っ、んっ、ん……!」

「気持ちいい?」

「んっ、いい……、いいよぉ、っ、あ、あぅん、んっ、ひぁっ!」

 く、く、く、とリズミカルに力を帯びた体の中心に熱が集まり、白く濁った粘液となって放射された。ぴちゃぴちゃ音を立ててビビ自身の身体へと飛び跳ねた幼く青い液は、かすかな香りをブランクの鼻へ届かせ、あらぶる心を揺り起こそうとする。ブランクは目を閉じて開いて、溜め息を吐いた。

 どうも、ジタンにするようには出来ない。この子の、可愛すぎるところがいけないのだろうとブランク自身は考えている。決して、どちらが上というわけではない。二人とも同じように可愛い。しかし、この子の可愛さはジタンにはない。ジタンにもジタンの可愛さがあるのだが、二人の可愛さの質は違いすぎるように思えるのだ。

 この子を、ジタンのように乱暴に抱いて喜ばせてみたいとは思わないのだ。この子に対しては、出来ればビビ自身がするような「お兄ちゃん」の、温かな手のひらで慈しんであげたいと思うのだ。

 ジタンもそうされることを望むし、ビビもまた、望んでいる。

「良かった?」

 涙の流れた塩辛いほっぺたに、キスをしてあげる。そして、飛び散った精液を残らず綺麗にしてあげる。ビビは時折身体を震わせながら、何もしないことでブランクに甘える。甘えさせてくれるブランクが、ビビは大好きだった。無条件の抱擁に、無限大の奉仕を、幼い欲求が叶えられていく満足感があった。ジタンのことも愛しく思う。しかし、ジタンはここまでストイックにビビを愛しはしない。そして、そんなジタンでもいいし、こんなブランクでもいい。同じように愛している。

「ん……」

 心臓の辺り、切ないウィルスがビビを蝕んで、涙をぽろぽろ流させる。ブランクは優しい微笑みのまま、抱き上げて、膝の上に載せて抱擁する。

「良かった。ビビが気持ちよくなってくれて良かったよ」

「ん……」

 何て幸せなんだろう。ビビはぎゅっと「お兄ちゃん」に抱きついて、止められなくなっていた。

 

 

 

 

 いいんだよ、ビビ。お前はお前の欲しいものを欲しがれば。俺も、俺の欲しいものを欲しがってるだけ。それでたまたま一緒に幸せになれるんだ、そんな幸せなことはない。

「ビビに、してもらえば、よかったんだよ」

 ブランクの精液を飲み込んで、ジタンは疲れたように言う。

「帰ってきていきなりこんなん、あるかよ」

「うるせえな。あんな泣かれてそれでも出来るやつなんているかよ。俺はお前じゃねえ」

「幸せだから泣いてんだろ、嬉しいから泣いてんだろ、だったら可愛がってやるのが本筋じゃねえのか」

「お前はな。俺にゃそんなん出来ねんだよ」

 涙を甘いと感じるか、塩辛いと感じるか、その舌の差、味覚の差。

「はあ」

 ブランクはソファに身体を弛緩させた。ジタンがソファに上がり、その肩にもたれかかる。

「……俺も、ときどきは」

 ジタンがぽつりと呟く。

「あ?」

「俺も時々は、ビビみたいに、その、なんだろうな……」

 ジタンはぽつぽつと、軒先の雨だれのようにじれったく呟いて。

「いい。もうビビも起きてるよきっと、三人でしようぜ」

 一人よりも二人がいい。

「……まあ、うん、二人よりも楽しい」

 それよりも。


top