指紋が見える

 変わったら困る日々だから、何一つ、変わらせることはしない。

 本当はビビだって、もう十歳と六ヶ月で、髪型だって時々変わる、背丈だって伸びている。

 しかし、変わる必要だって実は、何処にも在りはしない、在りたいがまま在るがまま、在ればいいのだ。

雪の精の口付けを一身に受けた膚は抜けるように白く、だからこそ「綺麗」と言ってやったとき仄かに染まった頬の色は胸が苦しくなるぐらいせつないピンクになる。今は何処を舐めたって甘い子供、これがいつしか「美少年」になり、「美青年」になっていくのだろうか。どうも、そんな日が来ることがあまり想像が出来ない。というか、十年後もビビはこんな風にちっこくって、俺らの膝の上に変わりばんこで落ち着いているのではないかと、ジタンは考える時がある。

 288号は結局、三人の家の隅っこに住み着いた。

新しい家を建てるには時間が掛かりすぎるし、ビビがそれを望んだからだ。ビビの幸福は即ちジタンとブランクの幸福であり、目の前で自分たちよりずっと美しい288号が、黒魔道士のローブを着、傍らに帽子を置き、午後三時の温かな部屋でソファに座りビビを膝に載せ、しかし猥褻な行為に及ぶことは一切無く、純白のセーターにクリーム色のパンツといういでたちのビビがそのまま居眠りに落ちたって平気な顔でいつまでも載せたままの彼を、憎いとも思わない。自分が、ブランクが、変態なのはどうしようもないことなので、ビビには288号のような存在だって絶対に必要なはずと、ジタンは多少の情けなさと共に決め付ける。新しい人間がこの屋根の下に入って、益々自分がビビを占有する時間は減るとしても、幸せで居てくれよと常に願う気持ちが少しも変わらない、自分だけを見てくれと言いたい気を抑えつつ、自分以外でも目の届く範囲でビビに幸いを降らせる者が居てくれることが、どうして幸せでないだろう。

変わらせないものは変わらせないし、変えないもの、変えられないもの、変われないもの、自分の周囲に今在る全ての物の「今」の在り様を、ジタンは肯定する気で居る。

「あんたさ」

 ビビのセーターはいい匂いがする。ビビが半日着たというそれだけで、本当にいい匂いがする。それを知っているから、お腹に顔を突っ込んでスーハースーハーハァハァハァと深呼吸したいのだけれど、288号だったら絶対にそんなことしないだろうし、ブランクも多分自重するはずだと思うから、ジタンは不足を感じながらも、マグカップの中の紅茶の匂いを嗅ぐ。何というブレンドかは知らないが林檎らしきドライフルーツが冬に温かな色を差す、紅い紅茶だ。

「よく、平気だな」

 288号はビビの銀髪を撫ぜる手を止めない。艶を帯びるはずの髪の質感がどこかマットなのは、今朝ブランクがヘア・ワックスで手を入れたからで、緩やかに毛束が流れる。

「平気?」

 彼は紅茶に手を伸ばすことすらしない。ただ、それだけが自分の仕事だと言うように、ビビの髪の毛を撫ぜている。その手が止まらぬ限り、ビビは優しい夢の中にあるはずだ。

「俺だったらさあ……、何て言うの、そんな風にビビが無防備にさ、膝の上で甘えん坊だったりしたら、そのまんまいろんなとこ弄っちゃうんだけどなあ」

 甘い匂い、高い体温、軽くても間違いなく体重を、自分の中に閉じ込めたとき、十七歳の少年の胸の裡で稚拙な征服欲がむくむくと膨れ上がる。閉じ込めて、何処へも出したくなくて、「……だって愛してんだ」の言葉で全てを片付ける気で、耳を噛む。ビビが嫌がればブレーキにもなるが、少年もそうされることを嫌うわけではないので、結局ジタンは自分のなりたい自分から益々遠ざかっていく。

 尊敬されたいなあ、とは思う。ビビに、「ジタンってカッコいい」と思ってもらいたい、と。

 例えばブランクならば、豊富な薬の知識があり、飯を作るのも上手、自分などよりずっと穏やかだし、ちんちんもでかい。288号はそんなブランクを上回る穏やかさを持ち、また卓抜した黒魔法の技術がある、言うまでもなく頭が良くて、時折ビビと二人で、ブランクの理解さえも超える単語の飛び交う会話をしていたりする。然るに自分は、ビビの顔を見ては欲を盛らせ、抱き締めたい、キスしたい、脱がせたい、舐めたい、入れたい……。

「僕にそういう欲がないと思ったら、それは間違いだ」

 実際にはジタンはビビに「カッコいい」と思われているし、ブランクも288号もその相貌の端々に在る華やかな男らしさを評価する。ただ、自己採点では自覚の在る以上、甘い点をつけられないのである。

「僕だってこの子を弄るのは好きだし」

 288号は言い切る。

確かにこの物静かで真面目に見える男は、ビビを大層上手に弄っているようなのだ。朝に起こしに行くと、ビビの眠りがいつもよりもずいぶん深いように見えて、288号の腕枕から少しもずれることなく、ジタンが「おはよう」を言ってもまだ目を覚まさない。

「でも、今は眠っている。いい夢を見ていて欲しいと願う」

「……んー、まー、俺もそれは思うんだけど」

 ジタンは煙草でも吸いたいような気になった。テーブルの上に灰皿はあるが、煙草もマッチもない。コンデヤ・パタへ買出しに行ったブランクが持って行ってしまったようだ。

 288号が溜め息を吐いたジタンを見て、ビビを撫ぜる手を止めた。

「……ん……」

 ビビの瞼が微かに動き、ゆっくりと、その双眸が開かれた。銀の瞳が今見た夢と現実の境界線を探るように虚空を彷徨い、……ゆっくりと、ジタンに焦点を結んだ。

「おはよう、ビビ」

 288号は静かな声で語りかけ、

「ジタンがしたいらしい」

 と囁いた。ぱちぱちぱちと三度瞬きをした少年は、言われたことの意味を悟り、むっとする。今更恥じるところもないジタンは、平気でだらしない笑顔を浮かべる。288号の拡大解釈には、素直に「ありがとう」を言う。

「……どんな夢を見てたの?」

 288号は暢気に訊き、「ボビィ=コーウェン=jrに乗ってダゲレオに行く夢」と、ビビはちゃんと応える。

「お兄さん、ビビのセーターを捲って上げてください」

 288号はじっとジタンの眼を見る。銀の睫毛はビビ同様に長く、些か美しすぎるとジタンは思う。ビビがそういう系統の顔にならないはずはなく、二十歳のビビだってやっぱり今と同じで胸が苦しく息が荒くなるほど可愛いに決まっているのだと想像し、我が身の幸せが少し、恐ろしくもなった。

「……僕は、あまり賛成はしないけれど」

 ジタンの顔から読み取ったのは何か、288号はそれでもそのまま、ビビの白いセーターを捲り上げる、「288号」とビビが、ほんの少し咎めるように言ったのに、ぴたりと手を止めた。

「……あんたは、偉いなあ」

 ジタンは感心して、溜め息を吐く。彼が困っているのは、あまり類の多くない表情でも判る。ビビとセックスが出来る、その膚の隅々まで味わい、あまつさえその腸管粘膜さえ借りて快感を得られる。彼の膝の上のビビを、彼にも味わわせないつもりもジタンにはないのに、未だ決めかねているように、手を止める。

 ビビはジタンとブランクの全面的な肯定に基づいて、既に288号の腕の中に幾度か抱かれたはずだ。その「幾度」が、果たして何回在ったのだろうか、……そもそも一度でもそんなことをしたのだろうかと、ジタンは訝る。

 ともあれ、288号はビビとジタンの板挟みに遭い、丁度ビビのセーターと内側に来たTシャツを、その痩せた腹部、へそを見せる処まで捲り上げて、硬直した。

「偉いっていうか……、損な性質って言った方がいいか」

 ビビ、と頬に触れる。

 この少年は、愛情行為を決して拒みはしない。ジタンと、ブランクと、そして288号と、膚を重ね、砂糖壺に溺れるのは好きだ。そのまま頭の中まで白く薄れて意識さえも危ういような感覚、薬物よりも癖になり、クロレラよりも身体に優しい、ベッドの上へ運ばれる時にはいつだって咽喉の辺りで鳴る鼓動を隠すのに苦労するようなビビである。

 不機嫌の理由は、穏やかな午睡の強制終了、ただそればかり。

 知っているから、ジタンは「ごめん」と謝って、唇にキスをする。キスが終われば、ビビの表情はふわりと軽くなり、間近に見詰めるジタンのことを、「とても格好良い」と錯覚することだって容易になる。

「セーター、捲ってやって」

「……しかし……」

「大丈夫。ね、ビビ」

 こっくりと頷く後頭部を、何と見るだろう。まだ同居してから日も浅い、重ねた経験だってまだまだ足りない、だからこの知的な人の頬に眼に緊張が走るのは無理からぬことだと思う。変わらなくってもいい、しかし、変わっていかないものもない。288号もいつしか慣れて、そのいかにも繊細な細く長い指で、ビビを快楽の渦に巻き込んでやればいい。

「もっと、……もっとだって。おっぱい見えない」

 288号にはそんな自覚はなかろうが、狂おしく焦らされて、やっと対面の叶ったビビの乳首に、遠慮なくジタンは吸い付いた、「ひゃ」、ビビの細く上げる声に、288号が益々緊張する。

「……なー、あんたもさ」

 指で、粒のように隆起したビビの乳首を濡らす自分の唾液を拭く、その刺戟にも、ビビの腹がぴく、ぴく、動いた。

「ビビのおっぱい弄ってあげなよ。俺、ちんちんもらう」

「ちょっ、……まだ、そんな……!」、ジタンは呼吸するように自然に言って、ビビのパンツのボタンを外す。痩せた腹に細い腰、ウエストに手を入れて腰からするりと脱がすのも、ほら、こんな簡単。足の間に零れて弾む、どこか木の芽を思わせるような幼茎を、「まだ勃ってないね、当たり前か」、指で掬って首を屈めて、わざとらしく恭しく、口付けをした。

「ほら、288号」

 まだセーターを握ったままの288号は、困ったようにジタンを見る、ジタンはビビのものを優しく摘み、皮を捲って見せた。

「ビビ……」

 ジタンの指に、皮を捲られたり、被らされたり、繰り返し弄られて、その度溢れそうになる声を息の中に隠すビビは、288号の言葉にこくんと頷く。行為の正常異常を問う立場には三人ともない。至上命題はビビ=オルニティアを幸せにすること、それ以外に優先されるべきものはないと信じている。

 288号の両手が、ビビの薄い胸を覆った。中指で、薬指で、人差し指で、ささやかな胸の先を優しく擦り、ビビが唇から聞く者の耳朶を濡らすような声を上げるたび、ぎこちなく手を止める。ジタンの手の中でビビの性器はもうすっかり勃ち上がり、288号の掌に柔かくもない胸を揉みしだかれるたびに力を篭め、先端からにかすかな涙を浮かべる。ジタンが摘んだ指で扱くたび、泡の伴う粘液の音が288号の耳にも届く。

「は……んっ……、ん・……っ、んっ……」

 288号はビビの後ろ手が自分の腹部へ回り、ベルトから更に下がり、シルエットは十分にゆったりしたものでは在るが、今は其処だけ窮屈に感じられる、当に「其処」に触れるのを感じ、身を強張らせる。

「……ビビ……、いいよ……、僕は」

 ビビが何をしているのかぐらい、ビビに関してのみ勘の働くジタンは見通せる。何と奥床しいことか。そんな風だから、ビビだって余計にあんたにしたくなっちゃうんだろう。俺も見習って、もうちょっと清楚可憐でいようかしら。

 そんな風に思いながらも、目の前の美味しそうな濡茎を前に食欲が抑えられない。おねだりしてもらいたいなあ、「早くしてよぅ」って、それ、可愛いなあ、そんな風に思いつつも、やっぱり腹がぐうと鳴るから、素直にしゃぶりついた。

 後ろ髪を揺らす風が外から入って来た。

「……今更何も驚きゃしねえけどさ」

 コンデヤ・パタの産品をたっぷり買い込んで帰ってきたブランクは荷物を解き、野菜、肉、魚、それぞれ手早く纏めてから手を洗い、うがいをし、それから予定通りにジタンの後ろ頭を小突いた。

「あんたまで一緒に何やってんの」

 288号に向けて溜め息を吐く。

「いや、僕は……」

「別にいいんだけどさ、……ビビ、ただいま」

 ジタンを脇に追い遣って、潤んだ目ににっこり笑う、「おかえり」、ビビも、にこおと微笑んで、冷えたブランクの耳にキスをした。

「始めたのは誰だ」

「……ジタンが……」、ブランクはビビのペニスの単眼から湧き出た銀色の蜜が茎まで面積を広げているのを見る。美味しそうと、やはりブランクも思いはすれど、一先ずは食欲をまだ満たせていないジタンを振り返る。

「ちょっとしたら帰って来んの判ってたろうがよ、何で待ってらんねえんだテメェは」

「……だってさ、あんた昨日の夜、ビビと二人きりだったじゃんか」

「関係ねえだろそんなの。……あんたもな、そういうときはあんたが止めなきゃダメだろ」

「いやあの……、僕は、……、申し訳ない」

 性欲は連鎖し、伝染する。ドアを開けるまで、家に帰ったらまず煙草を一本吸って、それから買って来た胡瓜と小タマネギでピクルスを作ろうと、ブランクは思っていた。それが今は、生の膚を晒しているというただそれだけで身体から甘酸っぱい柘榴が馨るようなビビを前に、優先順位も理性も瓦解する。残ったものをとりあえず平らに敷き詰めて、白い布でもかけてやればベッドの出来上がりだ。

 ジタンはくるりと振り向いたブランクの眼を見れば、色々なことを読み取ることが出来るぐらいには、ブランクにだって詳しい。

「始めたばっかりか」

 問いかけに、ニヤリと頷いて「うん」と頷く。288号の両の掌が、ビビの胸を隠すように覆っているのを頭の片隅で訝りながらも、ブランクが部屋の中の温度とビビの興奮の度合と、自分と288号の欲のレヴェルを計るのを、ジタンは見る。それから玄関の鍵もちゃんと閉めたことを確かめてから、

「じゃあ、続きしようか。四人でさ」

 ビビの髪を撫ぜる、それから、288号の髪も撫ぜる。ジタンはぺちんと叩かれた。

 288号の膝の上からビビを下ろし、裸にして、カーペットの上に座らせた。ブランクの計算通り、裸にして、靴下まで脱がせても、ビビは寒がる素振りは一切見せない。身体の中心で息衝く欲を持て余しながらも、座らされ目の前にブランクが立った時点で、賢い少年は自分が何をすべきかを悟る。ジタンも同調して、ブランクの隣に立ち、ベルトを外した。

「……えー……?」

 288号が困惑しきった声を出した。

「いいの、此れがViva la 俺らスタイル」

 ジタンは笑う、ブランクはまだ垂れたままの自分の肉茎、大事そうに舐め始める少年の顔を見下ろす。288号は端正な顔に狼狽の影を淡く走らせ、まだソファから立ち上がれない。

 そんな彼を、事もあろうに、ビビが誘う、「288号」、右手にジタンのを握って、ゆるゆると動かしながら、「一緒がいいよ」。

「あんただけ背ぇ高いし足長いからやり辛いかもだけどな」

 ジタンが茶化すと、ビビが首を横に振る。

「出来るよ……、僕」

 迷いのない銀の眼は同じ銀の眼にどれほど強く刺さるだろうか。288号は恐々と、ビビの前に立つ。ビビは器用に彼のベルトを外し、窓を開き、中から冷たい熱を帯びた性器を取り出して、キスをした。

 こんなのって、……288号はビビの左手に扱かれながら、軋みながら廻る頭で考えた。

 自分の足元に膝を付き、汚らわしい印象しかないような男性器を三本並べて頬張って扱いて、……そんな行為に、躊躇いも、恥じらいも、まるでない。どころかビビはその行為に悦びすら伴っている。

 288号は甦った夜にビビを抱いたことを思い出した。止まったり動いたりを繰り返す心臓で、しかし何の問題もなく動けた一日が満足と共に終わる。明日も同じようにくればいいと望みながら、一緒に寝たいというビビをベッドに招じ入れて抱き締めて目を閉じた。そのまま夢の尻尾を探し始めたところに、ビビが胸の上にもぞもぞと乗り、キスをして来た、耳を舐めた、「288号」と湿った声で囁き、切なげに眉を下げて、「もう、寝ちゃう……?」、それは本当にどこまで行っても純粋な子供のそれで、しかし臨まんとする行為は。

 それでも僕は君を抱いた……。

288号もビビの持つ、彼の語彙を以ってしても表すことの出来ない異様な艶に飲み込まれた。ほんの十歳かそこらの子供が、どうしてこれほど美しくなれるのか、……いや、美しくなっている訳ではない、顔の形も振る舞いも、少しだって普段と変わらないはずなのに、……それでも僕は、君を抱かずには居られなかった。

 隣のブランク、更にその隣のジタンが、この少年にこうまで呑まれているのも判る。しかし、そもそもきっかけは彼らだったはずで。だが、彼らを責めることは誰にも出来はしないはずだ、ビビの持つものを、誰も把握出来はしない。

「わ、ふっ……」

 ジタンがビビの顔目掛けて射精した。驚いて首を竦めたから、その口中で限界に到ったブランクのものが、たっぷりと鼻に胸に降りかけられる。

「……、もうちょっと、待ってくれれば、いいのに……」

 はっ、とブランクは短く笑って、「終わったらみんなで風呂に入ろう」、引き取ってジタンが言う、「だからあんま何も気にせんでいいから、一杯汚れよう」。

「……汚れるって……、僕ばっかり……」

「かけてみたいなら俺の顔にぶっかけてもいいんよ? 何度も言うように俺はお前のおしっこだって一気呑み出来るんだから」

 変態め、お互い様です、そんな風に言い合う二人は日常会話の趣だった。

 ビビの膚を、粘性を失った二人分の精液が流れる。未熟な苺の色した乳首を掠め、細い腹を辿り、弾けそうに震える性器まで垂れ落ちる。どちらのものとも知れぬ精液が絡んだ性器を、一度、密やかにビビが扱いたのを、三人とも見ていた。

「ほら、ビビ、288号待ってるぞ」

「いや……、僕は……」

 顔を上げたビビは微笑んでみせる。その表情は無垢で、聡明で、結局「可愛い」という言葉を選ぶほかなくても、きっと、もっと、それ以上、288号に自らの頭の悪さを嘆かせる。

 ビビはそんな288号の思考を、優しい声で止めた。

「僕、288号のこと、大好きだよ」

 其れが何であれ、ビビの「幸せ」と呼ぶ物であり、尊重されるべきものだと知れば、その裸体を流れ倫理を汚す液も価値を持つ、……男のどす黒い欲を浴びたビビが、どうしてか、神々しく、綺麗に見える。

「何も、遠慮なんてしないで。気持ち良くなって欲しいよ」

 言い切って、ビビは両手で288号を包み込むと、茎に舌を這わせる。丁寧に、丁寧に、首を傾けて、乾いている処など少しも無いようにと。銀色の性毛に指を潜らせ、茎をスライドさせながら、咥え込んで頭を動かす。

 男性器を頬張るビビの横顔を見ながら、ジタンは何となくビビの髪が少し伸びたかと思う。寒い間は長い髪の頬がいいのだが、短いのもそれはそれで可愛らしく似合うことを知っている。いつだったかブランクが、ずいぶん大胆にはさみを入れて、その上でワックスを使って、あっちこっちへ髪を跳ねさせて、それもまたずいぶんキュートだと思った。変わらないものなど、何一つない、変えていきたくなければ変えなくてもいいという、要は自由、手にする未来は努力次第。

「……っ、ビビ……、もうっ……」

 ビビの口から逃げるように288号が性器を引いた。全てを判った上で、ビビは目を閉じる。その身に浴びる液を、神々しいものと信じ、……信じれば実際其れは神々しくもなる。

「ビビ、……すっげえ」

 ブランクが笑う。三人分の精液を浴びた体、かけられたものの不純性を指摘するような愚はしない、砂糖菓子みたいだと言って笑う。青い雄の匂いを身一杯に纏ったビビは感じきり、身体の中央、びしょ濡れの性器を、そろそろ本当に持て余している。

「いつだったかな、……精液浴びて感じちゃってオナニーしたことあったね、ビビ」

 しゃがんで言うブランクに、どうにもむず痒そうな幼根を、その手で弄って欲しいと、切ない眼でビビは見る。

288号にも見せてあげなよ、……お前がすっごいえっちで、精液かけられてこんなになっちゃうような子だってこと。だから遠慮なんか何もしないで、愛して欲しいって」

 288号を見上げて、尻を落としてへたり込んだビビは、きゅっと自分の性器を握り込むと、もう何の我慢も効かず理性も捨てて、性器を扱き始めた。

「ん……あっ、あん……っ、んっ、あ……、はぁ……っ」

「気持ちいい?」

 ブランクの問う声に、「気持ちぃ……っ、おちんちん気持ちいよぉ……っ」、扱く場所に纏わりつく性器の音を高く立てながら、ビビは叫ぶような声で言った。

「ひっ、ちゃ、うぅ、もう……」

「精液出る?」

「出る……っ、せえぇき、っ、出るっ……っ、出るっ……! っひゃっ、あんっんっ、んあぁっ」

 一際高く濡れた声と共に、放物線を描いて散った液が、その胸に跳ねる。三人の眼に晒されての到達に、しかしビビは恥じる様子もなく感じきり、くったりと、ブランクの腕に身を委ねる。射精したばかりだと言うのに288号は自分の熱がどうにも去らないのを、呆然と感じ、ビビの耳元で「もっともっと気持ちよくなりたいよね?」とブランクが囁き、こっくりとビビが頷くのを見て、眩暈に襲われる。しかし、彼の居場所は幸福すぎるこの屋根の下だった。ただぼんやりと、小さな身体から溢れそうなほどの淫性と愛情を二つながら持つ少年を、288号は確かに、抱きたいと、欲を持って見る。自分が抱くことでこの子を幸せにしてあげられるのなら、何度だって、この腰が壊れるまで、抱きたいと。

 自分以外に二人の男がビビを幸せにしてくれる、存在そのものが猥褻な家の中で、幸福を享受する。

「洗ってからする? それとも拭くだけにする?」

 言いながら、シャワーの時間だって我慢出来ないジタンはしゃがみこんで、ビビの精液を指に絡め、そのほんの小さな蕾に塗りたくり、「んやぁ……っ、まだ、だめだよぉ……」、ほんの些細な抗いに、胸をちくちく傷ませる。

「ビビ、この匂い好きだもんな?」

 ダイヤモンドよりも美しい涙が銀の目尻に膨らみ、零れ、

「すき」

 と、か細い声で言った。それから眼を覚ましたように、

「もっと、もっと欲しい。お兄ちゃんたちの、……僕の……、枯れるまで、全部、欲しい」

 言い切る。

 自分以外に触れる者の、体液までも染み込んだ身体だ。しかし、違う角度から見る恋人は、例えばその横顔も後ろ頭も、理性ではどうにも出来ないほど愛せてしまう。自分だけのものではない、自分がこの子の虜、何処へも行かない、何処へも行かない。指紋も見えてしまうこの眼を持つからこそ、自分だけを見るこの子を見ない。

「ビビの耳はちっこくって可愛いなあ……」

 真横からだから見つけられる、新しい好い所、この角度からキスするなんて、二人きりじゃ中々出来ない。三人目の場所に立ってみると、益々以って、愛しさが込み上げる。等距離を計って、改めて足したらどうしても「1」以上になってしまう愛情を享受しながら、変わらないもの変えられないもの変われないものそして変わっていくもの、ひっくるめての日々を行く。


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