オープンマイラー

 そういった生活の中に散らばる諸々のアクシデントの種を、踏んづけて割って靴を濡らして染みを作って、誰かには笑われても、四人も笑って居られたならば十分過ぎるハッピーデイズ。

 ビビが下着と床を濡らした。更に言えば履いていた白いタイツと、黒いヒールも濡らした。特有の、ジタンに言わせれば「かぐわしい」匂いの水溜まりの上、スカートの裾を摘んでビビは呆然と立ち尽くす。其処はこの家の一番奥、トイレの扉のすぐ前である。

 蛇口が緩いと誤解されがちなこの小さな少年であるが、決してしょっちゅう失禁してズボンの中を濡らして居るわけではないということは、その誇りのためにも注記しておくべきだろう。多くの場合、ブランクの「言霊」とでも呼ぶべき魔法や薬によってか、性行為の最中に気が抜けてしまうがゆえに引き起こされるものであり、この一年で二回しかおねしょをしたことがないという点からも少年の括約筋の機能に問題がないことは明らかだ。

 然るに、ビビはトイレまであと数歩というところで床に水溜まりを作った。純粋なアクシデントとしては、ほぼ二ヶ月振りのことである。

 ところで今日のビビが身に着けているのは、このところ普段着として定着しつつある「メイド服」である。ジタンもブランクも大変な変態であって、まだ十歳のビビに清楚可憐なメイドの衣服を着させては眼福とする因習を持って居り、今日もビビは朝からその格好で掃除と洗濯をした。スカートの下に履いて居るのはピンクのサイドリボンという念の入れようであるが、少年自身男たちの欲を咎めるよりは多少の羞恥心と引き換えに彼らの笑顔を得られるならばと思うのだ。

 そこまで気合いを込めるからこそ、ビビはヒールを履く。歩き辛いことは事実だが、白のストッキングにスニーカーでは画竜点睛を欠くというやつで、夕方には足がだるくなると分かって居ても脱がない。何も無い処ですら転ぶような少年には無謀とも言える勇気である。

 数十秒前、危うい足下に気を使いながらビビはトイレに急いでいた。もう少し早くに行けばいいものを、洗濯物を干し終えてからとつまらぬことを考えていたのが悪かった。猶予のない膀胱に振動を与えぬように気を払いながら、あと少しでトイレ、そしたらパンツのリボンを解いて。

 そこで、……かくん、足下を誤った。危うく転びかけたところをどうにか持ち堪えた瞬間に、幼い体に力の隙間が生まれて。

 あとはご覧のとおり。

 溜まり切っていた尿は薄い生地のサイドリボンなどではもちろん吸い切れるような量では無い。生温かく両太腿の内側を伝って流れる二つのせせらぎと、足の間にぱたぱたと垂れる滴、それらはまさに覆水であり、一度覆してその身から溢れ出てしまえばもう取り返しも付かない。

「う……、あう……」

 もう十歳なのに。屈辱に肌がぼっと燃え出すように思えて、しかしすぐに冷たくなり始めたパンツもストッキングも咄嗟に何処かへ隠し切れるようなものでもない。もう十歳なのに……、絶望的なまでの情けなさ心細さに、涙が浮かんだ。

 そんな少年の姿を、居間からひょいと顔を覗かせたジタンが見付ける、「おお」、春浅い日に咲いた小さな花を見たようにぱあっと笑う。笑顔とは裏腹に、

「あー……、チクショウ見逃したあ!」

 口走るのはそんな下衆な言葉。馬鹿げた軽口にもビビを傷つけまいという優しさが無意識のうちに滲み出て、確かに馨る。

「おー……」

 遅れてブランクも顔を覗かせて、のどかに笑う。但しこちらはもう少し正常で「風呂沸かして入ろうか。風邪ひいちゃったらつまんないもんな」。ジタンを「ジタン」と呼び、ブランクを「お兄ちゃん」と呼ぶ理由がそこに透ける。

 ビビはすぐ泣きやんだ。「気にすんなって、可愛いんだからさ」、風呂には延々五分揉めた挙句にジタンが入れることとなり、一番目の恋人である彼に何度も撫で回されては、いつまでもめそめそしているビビではない。

「ごめん……、なさい」

 していることの逐一を分析するのは野暮というもので、ビビは良い子なのである。そんな子を中心に置いた男たちが、是が非でもこの子を心身ともに幸せにしてあげたいと思い、結果的に世間の失笑を買うのは必然とも言えるだろう。

 風呂の沸くまでの短い時間、ビビの脱いだブラウスとプリーツスカート、それからカチューシャをブランクに渡して、……但し、ぐっしょり濡れたパンツは渡さない。

「……いいよ、パンツは俺が使うから」

「『洗う』じゃなくて『使う』なのか」

「正確に言えば『飲む』だな」

「本当にお前は死んでしまえばいいのにそして甦らなければいいのに二度と」

 

 

 

 

 晩秋、柔らかな窓外からの光に湯気を濛々と立てる浴室には、傷心のビビを癒す幸福が満ちている。昼からの入浴という行為自体の持つイレギュラーさが和みを与える。

 それぐらいの効果は判っている。だからこそ、ジタンはビビのまだ洗っていない下半身を舐めようと思いついて、しかし止めるぐらいの努力だって出来るのである。

彼は病的な恋愛生物であり、ビビには届かない引き出しの中にビビの洗濯していない下着が入っていてそれを偶然見付けてしまった288号にやんわりと詰問されて「だって誰だってパンだけで生きていける訳じゃない、ジャムとかバターとかベーコンエッグとかそういうのがなきゃつまらないだろ」「君は何を言っているんだ」「生憎俺はあんたやブランクみたいな大人じゃないんでね、最低でも二日にいっぺんは、……いや一日にいっぺん、理想は一日に二回ぐらいは! しておかないと!」、そんなことを言い張るジタンを見て、ブランクは「猿が」と呟いた。だが他方、恋人の感情に無頓着な人間でもない。欲求だけに衝かれて動くならばビビの嫌がるかもしれない事だって幾らでも思いつくのだが、「変態」なりに働く理性で其れを押し止めるぐらいのことは平気でして見せる。

 湯をその白い身体にかける前に、熱くないかをきちんと確かめたり。

 それでも慎重を期して、まず小さな足の指先にかけてやって反応を見たり。

 自他共に認める変態であっても、愛情が伴うがゆえに、挙動の一つ一つには優しさを纏う。理性と非理性の狭間に揺らぐ男の欲を、ぎりぎりの若さで綱渡りするのだ。

「んじゃあ、綺麗にしような」

 ただ、其処に湯をかけてやる前に、甘酸っぱいような小ささの性器を目にして、思わず口が開いたままになっていることを、彼は気付かない。一方で、ビビがまだ悲しそうな顔をしていることには気付ける。

「……あんま気にすんなよー、お前が悪い訳じゃないんだから」

 其処ではなく、ほんの少しの円味を帯びた腹に、唇をひとつ当てた。

「メイド服着てなかったら、……ヒール履いてなかったら、ちゃんと間に合ったんだろ? それに十歳ぐらいだったら、たまにおもらしするぐらい全然恥ずかしくないよ、大丈夫。他のところにいるお前の兄弟たちだって時々はしてるだろうさ。おねしょしてる子だって居るかもしれない。お前は十分いい子だよ」

 それに俺は、俺たちは、時々はそんなお前の身悶えしちまいそうなぐらい可愛いところ見せてもらえて幸せだよ、……其処までは、言わないが。

 自信なさげに、でも、こっくりとビビが頷く。

「ビビはいい子、可愛い子。俺たちの、世界で一番大好きな男の子」

 唄うように言葉を並べて、小さな耳に口付けて、……やっと、少し、ビビが笑った。石鹸を泡立てて丁寧に洗ってやれば、十一月の漏陽を受けた少年の純白の肌に銀の髪はほとんど芸術品のようなきらめきを帯びて眩しいほどだ。俺はこの子の恋人なのだという思いは、誇りとなってジタンの中で息衝き、今後十年二十年、自分の息が止まるその日まで、総身能う限りの力を注いでこの子の全てを幸福にするのだという、「変態」という自らの括りから逸脱するほどの雄々しさ凛々しさを無自覚のうちにジタンは纏う。

 誰かのことを好きになってまだ変態にならないなら、其れは其処までその子のことを好きじゃないってことだよ、ジタンは胸を張って嘯いてみせる。

 少年の身体の冷える一瞬だってあってはいけないと思うから、先に浴槽に入れる。自分の身体は随分適当に洗うが、それでも最低限、美しいこの子を抱けるぐらいには綺麗になったつもりだ。もちろんジタンはこの浴室でビビを抱く気でいる。

 ビビだってそうだろう、と思う。自分の視線が、例えば浴槽の縁を跨ぐときにふるりと揺れた小さな性器に向かっていたことはビビにも気付かれていたはずだし、ビビの視線はジタンの体幹で迷うように歩いた。一緒に浴槽に浸かり、膝の間に少年の体を入れて、小さな体を後ろから抱くという一連の動きがあまりにスムーズなのは、双方の同意が、それなりに逞しいいジタンの胸板と、華奢なビビの背中との間に重なるからだ。

 好きな歌を、ワンコーラス歌う。……我ながら音楽的センスはまるでないと思いつつも、わざわざ時間をかけて唄うのは、風邪の菌には弱そうなビビの体がしっかり温まるのを待つために。黙ってビビが聴いているのは、ジタンの肩が温まるのを待つために。

「なあ、ビビ」

 ジタンの手は、先ほどからずっとビビのへその前で組まれたままだ。濡れた銀髪、雪色の項から届く甘い石鹸の香りはおそろいのはずなのに、ビビの体から漂う香りの方が、ずっと、もっと、優しく溶ける。「ビビのちんちんさあ、俺、すげえ弄りたいです」、素直なことが必ずしも美しいとは限らないのかもしれないが、嘘をつくような俺はまず俺が嫌いだと思うから、ジタンは不必要なまでに自らを曝け出して言う。

「本当はね、さっき、おしっこで濡れて縮こまってたちっこいちんちん見て、めちゃめちゃ美味しそうでさ、しゃぶりつきたくなったんだけどさ、我慢してたのね、俺。だからって訳じゃないんだけど、お前がさせてくれるって言うんなら、あったかくってほこほこしてるお前のさ、……今お湯の中でぷわぷわしてて可愛いのをさ、しゃぶらせて頂けるなら是非しゃぶりたいものだなあと」

 ビビの表情は伺えない。伺えないが、素直に自分が全て晒して見せて、許可を求めた以上、怒られはしないだろうと思うのだ。仮にいまはそういうことをしたくないと言うのであれば、ジタンとしてもしつこく求める気はない。

 どうしましょ、とジタンが腕を解く。立ち上がったビビが湯温ばかりではない理由で赤らんだ頬で向き直るまでに掛かった時間は、ジタンの持つ時間の類の中で最も幸福なもののひとつだ。

「……いい?」

 これだけ「ベッドメイキング」しておいて「いい?」もないものだ。

 こくん、頷く。「それじゃあ、いただきます」、おどけて言って、まだ勃起していない陰茎と湯の温かさで弛んだ袋、一口に収めた。

「うぁ……っ」

 小さい身体の恋人は、本当にあっちこっち小さくって、陰茎だって握るのではなく摘むもの。その身を抱くのは例えば生まれたばかりの子猫を扱うようで臆病さだって伴うのが本当のところ、よくよく考えてみれば随分と無茶なことをしているとも思うのだが、互い其れが一番に幸せなのだから仕方がない。

 洗っても消えることのない匂いを探しながら舌を絡めれば、あっさりとビビの性器はジタンの上顎を押すように成長を始める。口から抜いて、其処ばかりぬるりとした光を絡めて徐々に上を向き始めるものを間近に見詰めていれば、ジタンの辛うじて大人しかった湯の中の物も、湯が温く思えるほどの熱を得る。

「美味しいんだよなあ……」

「……え……?」

「ビビのちんちんさ、めっちゃ美味しい」

 そんな、味なんて、と言いかける唇を指先で撫ぜて、「俺もさ、俺のちんこなんて汚いばっかりだって思ってたけどね、お前が美味しいって言ってくれるならそっちが本当だと思うし」、指を先端に当てて、僅かに余ってぷくりとした皮の先をくるりと弄る、「不思議な現象だと思うよな。誰だって自分の精液は不味いはずで口に入れたいなんて思わないのにさ、大好きな相手のだったら同じもんでも欲しいし、美味しいって思えるようになる」、言いながら降りてゆき、普段より少し長く垂れ下がり、中に入った二つの珠の重さによってくびれた陰嚢を下から持ち上げる。小さな身体の恋人、そこだってやっぱり小さくて、いつもありがとうと感謝の言葉をかけたくもなる。

「う、ン……っ、……んあぁ……っ、タマタマ……したら、もうっ」

「ん?」

「出ちゃうからぁ……っ。タマタマとおっぱいとおしりとぉ……、したらすぐっ、おちんちんいっちゃうからぁ……」

「ビビは感じちゃうとこいっぱいあって大変だなあ……」

 そんな身体にしてみせてくれたブランクに、ジタンは大いに感謝する。

「いいよー、タマタマだけでいっちゃえ」

 今度は陰嚢だけを口の中に入れる。白い身体はやはり其処も白く、大事にしてならなきゃ壊れてしまいそう、陰嚢強打のあの苦しみは男に生まれてきたことによる屈指の不幸で何故こんな邪魔なものが俺の身体には付いているのかと思いはするが、ビビにはこんなにかわいいもんが付いてて良かったなあなどと、心底寿ぎながらちゅる、と音を立てて袋を吸い、指先で珠を優しすぎるほどの強さでくすぐる。

「ッン……んやァああっ、タマタマぁ……っ、おかひくなっ、ひゃっ、ひゃ、あっ……きゃ、あっ」

 すぐ鼻先にある狂おしい震え、勃起したところでまさかそんな性能があるのかと誰もが疑うに違いない、今の今まで刺激していたところから生み出される雄の証明は、やはり飲みたいのであって。

「ひあ! んッ、やあっァあっあ……うぁああっ」

 舌の上に零される。幾度も弾んで、その度に、……口中を生臭い匂いで満たす……?

「……う、あ……あ……ぅん」

「……んー?」

 こく、とさほどの重さもないままに飲み込んで、「……ああ」、なるほど、と思い至る。

「珍しく288号とやったんだ? ……この量と濃さ、そいから匂いから推測するに、夕べじゃなくて今朝だな。……それも二回、……いや、三回だ。六時とか其れぐらいかな」

「ふえ……?」

「伊達にお前の恋人を一番長くやってる俺じゃない、精液舐めたらそれくらいのことは判るよ」

 俺がベッドの上で鼾をかいているような間に、そんな幸せな時がすぐ側で流れていたのだと想像すると、少し妬ましくもなるジタンだ。彼は夕べ、彼にしては非常に珍しいことだが、夜寝る前にオナニーをしなかった。否、しようと思って例のタンスの中のパンツを取り出だしてパンツを脱ぐところまでは行ったのだが、眠気に負けてそのまま夢の中。だから今朝は下半身裸の状態で目を覚ました。

 次からは288号に委ねたときには、少し早起きをしてみよう、「アイツから言い出したんじゃないだろうから……、お前が誘ったんだろうね」、きっと可愛いものが見られるに違いない。

 真っ赤になったビビの頬、リンゴの味がしそうで舐めて、そのまま耳まで舌を伝わせて、「可愛い」、言葉を差し込む。

「ビビ、アイツとどんなことしたん?」

 左の手のひらで性器を包み込んで、ゆっくりと摩りながら訊く。時折、キスを挟む。

「……ぬる、ぬる、した」

「ぬるぬる?」

「……ぬるぬるの、あの、とろとろしたの、使って、……ッん! ……タマタマ、いっぱい、して、もらった……」

「そっか。気持ちよくなった?」

 判ってる、知ってる、くせに訊いて、恥ずかしそうに頷いてくれたら大満足だ。

「じゃあ、フェラは? してあげた?」

 首を振る、「珍しい。ビビはちんぽ咥えるの好きなんじゃないの?」、くすくす笑いを差し込んで、「ちょっとしょっぱいカウパー舐めるの好きなのに、我慢しちゃったんだ?」、朝から四度目の射精直後ながら、奥床しい顔して欲深い性器の、掌を押し返す力を楽しみながら。

「俺の、しゃぶりたい?」

 立ち上がって、もう随分前から硬さを持て余していたものを見せる。ビビにだけは、誇らしく見せびらかす。288号にしてもブランクにしても、自分よりも大きいのだ。せめてビビの口や後孔を苦しめないで済むサイズなのだと思うことで納得をする。彼らに比べて早漏であることも、全く同じロジックで。

「ほら、俺のちんこ、もうこんなに大きくって、硬くなってんの。……もうちょっと気持ちよくなったら、きっととろとろの我慢汁、ビビのお口にあげられると思うなあ」

 勃起したジタンのものを見て、ビビの目に欲が膜を張るのを、ジタンは見る。縁に座るまで、ビビが其れを目で追う。

「したくないならいいよ、俺は一人でも気持ちよくなれちゃうからさ」、言って、掴んでゆっくり動かす、「うあ」、ビビが、声を上げた。

「したい、したい、したいよ、僕、ジタンの……、したい……」

「んーじゃあ、言ってよ。『ご主人さまのおちんぽしゃぶらせてください』って。……今はすっぽんぽんだけど、一応ホラ、今日はビビ、可愛い可愛いおもらしメイドさんだろ?」

 ジタンはもう、一分の隙もないほど変態である。それでいいと思う馬鹿な男である。

 だがその馬鹿な男を愛する少年がいる。だからこの世界は肯定される。

 ぺたんと浴槽の中、ひざまずいたビビが言う。

「ごしゅじんさまの……っ、おちんぽ、ぼくに、……しゃぶらせて、ください……」

「んー、苦しゅうない、ってか、すっげえ可愛い」

 こういうところを「死ねばいいのに」と言われることに、本人はまるで気付いていないで、「俺は生きる!」などと痴れたことを言うのだ。

「でも、アレだよビビ、俺一昨日の夜から一回も抜いてないからさ、結構溜まってるから、きっとどろどろで苦くて臭いのが出るよ。それでもいいの?」

 敢えてそう聞くのは、ビビは切迫した顔で何度も頷くのが見たいから。

 ビビという少年が――どこからどう見たって穢れと無縁な少年が――己が淫らさを肯定するのが見たいから。

「いいの、……いい、ジタンのっ、苦くて臭くて濃くってどろどろの精液、僕、欲しいよ……」

 例えばそんな少年の有り様を以って「変態」と誰が言えるだろう。口が裂けても言えないなら、俺だって許されたようなものだ、……其処まで頭は回らないジタンではあったが。

「んじゃ、いいよ」

 くい、と揺らして、「俺の精液、全部ビビに飲ましてあげる。もちろんお口だけじゃなくて、お腹の中にも一杯飲ましてあげる」。

 頚木から解かれたビビは、焦ったように性器を掴むと、紅い舌でジタンの亀頭を小刻みに舐め始めた。いきなりしゃぶりついてしまえば、いつジタンがカウパーを漏らしたのか判らなくなってしまう。大好きなあのとろりとした潮を味わいたいから、はやる気持ちを抑えているのだ。もちろん、右手では茎をスライドさせ、左手に袋を弄ることも忘れない。

「俺のちんぽ美味しい?」

 涎が垂れて、性器に伝う、扱くたびにくちゅくちゅと音が立つ、蕩けそうな微笑を向けて、「おいしい……」、ビビは言う、「おいしい、ジタンの、おちんぽ、美味しいよう」。何を言わせたくて何を言うのか、ある種の狡猾さで以ってビビは受け容れ求めるよりももっと良いものをジタンに齎してみせる。

「うあ……、ジタン、がまんのおつゆ出てきた……」

 先端に浮かんだ露を見て、嬉しそうに言った。

「うん、ビビが上手にしてくれたから、もう出てきたな」

 いい子、と撫ぜられて嬉しそうに笑う顔は、本当に「いい子」そのものの顔だ。時々おもらしをして見せる、えっちなことで誰かを幸せにするのが好きな、恋愛生物、其れは間違いなく「いい子」なのであって、だからその言葉でいいのだ。

「ジタンのおつゆ……、舐めてもいい……?」

「おお、いいよ、ビビが出してくれたもんだし、お前のものだよ」

 言ってやれば、大事そうに尿道口に浮かんだ熱い潮を舌でそっと掬い取り、火がついたようにしゃぶりつく。茎を上下に動かしながら、口の周りを涎で濡らしながら、一心不乱という言葉がその細い背中で安定する。

「はあ……」

 ジタンは膝下より低いところだけを湯に浸していながら、全身湯に使ってリラックスしきったような声を出す。もちろんリラックスとは正反対の状態にあるのだが、どうしてかそんな声がだらだらと垂れてしまう。何とも不愉快な生き物ではあるのだが、ビビはそれに気付きもしない。ジタンは大好きな大好きな大好きな僕の、そう蜂蜜に溺れて息継ぎに喜悦の声を上げるのだ。

「……そろそろ、……お前の、一番欲しいの、あげる」

 ビビに、更なる勢いを与える言葉を、ジタンは齎した。深々と喉の奥に当たりそうなほど咥え込まれて少年が息を乱すのを聞いて自分の貧相な男根が実は壮絶に大きなものなのだと錯覚するのもいつもの通り、ぬるりと口が少し引かれて、余裕を得た口の中、舌が鎌首の裏を丁寧に丁寧に舐める。ジタンの熱が弾ける寸前に、ビビは恋人の最も喜ぶ裏筋へと舌を当て、小刻みに動かしながら吸い上げる、「お……ッ」、そんな声を上げて、掌が濡れた髪に載る悦びに、ビビはこの恋の間違いの無さを、本気で信じる。

 少年の無毒な口中へ、「苦くて臭くて濃い」精液を、ジタン自身も驚くほど制御できない勢いで放つ。口腔愛撫の仕方についてはもうジタンなどより余ッ程上手なビビだから、性器が弾んでいる最中も環を作った指で茎を扱きながら、頭を動かすのを止めない、……出し切って、言葉にならぬ言葉で言う、もう、溜まってるの、全部、僕に、出し切って。ただ空っぽになられては困ると思うから、「……うあ……」、ジタンがそんな声を上げたのをしおに止める。小さな少年の、柔らかくて甘い舌の上にはどっぷりと重たい粘液が齎される。其れをあっさりと飲み込んでしまうのが勿体無く思えるのはいつものこと。だってせっかく出してもらえた、僕で気持ちよくなってもらえた、大切な大切な大切な、僕の恋人の、精液。

 其れでも、こくん、飲み込むところをジタンに見せる、「ぷぁ……」、青いと自覚する息を漏らしてビビは微笑む、「すごい……、ね、ジタン、の、おちんぽのミルク、いっぱい、出たね」。

 無邪気な少年の、余りに淫らな在り様を見せられてジタンが感じるのは、どくん、と、射精にも似た反射、鼓動を滞らせて鳴る。

「ひゃっ、ン!」

「やべー……、俺の恋人マジ可愛い、超可愛い、やべえ」

 口走りながら浴槽の中に身を落とし、抱きしめた小さな少年の、もちろん小さな尻に手をかける。すべすべ、つるつる、何度美しいと言ったって足りないと、ジタンは別に聞かされることを求めてもいない世界に向かって「超可愛い」とほざくのだ。

「う、やっ……、ンぁ、あっ」

 両手で湯の中の臀部を割り開き、少年の清潔感すらある肛門を左右の人差し指でくいと引っ張る。

「う、あっ……、やだよぉ……っ」

 ビビは括約筋をきつく引き絞り、拒む。ただジタンが額に優しいキスをいくつも落としていくと、握った手を解くように、力が緩んでいく。両手でジタンの身体に縋り付いて、「う、ふ、あ……ぁっ……、ダメ……、ダメだよぉ……っそんなの……!」、湯の中の秘所に指を突っ込むジタンに首を振る。もちろんそんなしぐさの一つ一つだって、寧ろジタンの変態性欲を煽り立てる。ビビは聡明な少年だが、その辺りはまだ幼かった。

「う……ぁあんっ……ぅ、っぅうあ……!」

 こぽり、こぽり、音を立てて、自分の身の中から空気が追い出され、変わりに湯が入ってくる。十歳の言語能力では到底表現出来ない不快感、言葉に出来ないから、代わりに口元から溢れるのは言葉未満の物となるのも仕方ないことだ。

「どうだー? お尻の中、どんどん濡れてきちゃうだろー。……もうちょっと入るのかな、……ってかどんくらい入るもんなんだろ」

 短く浅い呼吸を繰り返すビビは、ただジタンの首にしがみついて、痛いような、苦しいような、感覚に翻弄されながらも、ジタンの声には間違いなく愉楽が孕んで暖かく濡れていることばかり感じている。

 ようやく、指が抜かれた。反射的にぎゅっと括約筋を締めるが、極めて浅いところを縫って漏れ出そうな湯が熱く感じられて、思わず震える。

「……漏れちゃいそう?」

 ジタンは下品な声で囁く、「この中で漏らしちゃダメだぞー? お湯が濁っちゃうからなー」。真赤になって、ビビはただ震えるだけしか出来ない。優しくその腹をさすってやりながら、ジタンはキスを繰り返す。この少年と青年の間、しかし極めて中年に近い感覚を持った男は、腹の底から突き上げる便意に耐える銀髪少年を見て、心底から幸せを噛み締めているのである。

 もうほとんど動けない身体を湯から抱き上げて、タイルの上に降ろす、「う……あ……、っ……」、それでも、優しい――納得が行かないのは外の世界――掌は窄まって震える小さな尻を撫ぜて、「いいよ」、ビビはジタンの前に子猫のように膝をついて、俯いて顔を隠すも耳まで真赤に染めていることを露にして、「あ……あ……う、あ……!」、案外に透き通った水音を立てて、胎内に滞留した温湯を排泄していく、「ああ、何だ。綺麗なもんじゃん、……ってかお前の中から出てんだから当たり前だなあ」、ジタンの独り言は、遥か遠くから聞こえてくるようだった。

 ビビの薄桃色の肛門から溢れて、細い太腿を伝って流れて行く温湯は、もちろん多少濁ってはいるものの、ジタンの言葉どおり、想像していたよりもずっと透き通って綺麗なものだ。もちろんさしもの変態も其れを飲んだりはしない訳だが、そういえばいつだったかその胎内に収めた宝珠が掌の上に零れ落ちたのを見て大いに興奮したことがあったジタンであるが、多分そんなことを口にすればビビは本気で怒るだろうということぐらいは判る、……幾らなんでも其処まで馬鹿ではない。

「はっ……、はっ……、う……、うぅ……」

 中味が全部出切ったらしく、ビビは苦しげに息を吐きながら涙声を零す。四つん這いになって肘を折ったビビの尻は高く上げられていて、その肛門はジタンを誘うように未だぱっくりと濡れた口を開けていた。

「空っぽになったんだから、……スースーするだろ、また温めてあげないとお腹壊しちゃうよなー?」

 ジタンは何処までも悪趣味に言う。ただ、ジタンが勃起しきった男性器の先端を押し当てても、ビビは拒まなかった。空気の逃れる品の無い音を残して繋がって甘ったるい悦声を上げたビビが薄く思ったのは、……後ろからじゃなくて、抱っこがいいな……。しかしそんな些細な願いはもちろん叶えられる。それぐらい出来ないでビビの恋人でいるつもりもないジタンである。

 

 

 

 馬鹿が馬鹿をしたせいで、流石にビビは夕方少しの休息を必要とした。「……大丈夫か? 痛いところないな?」、ブランクにその場所を覗かれながら、真ッ赤になって「ん」と答えるのがやっと。

「見た感じ大丈夫そうだけど……、まあ、な、一応薬塗って置いた方が安心か?」

「……ん」

 軟膏の指が入ってきて、またぞくぞくと声を震わせる。しかしブランクが何処かの誰かに比べて大人なのは、此れを持ってスタートとはしないところで。

「あとはお腹の薬も飲んでおくか。……まあ、ちんことか精液とか出されるよりはお湯の方がずっと無害だとは思うけど、一応な」

「……ん」

 何処かの誰かは288号が説教をしている。


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