真っ赤な嘘の香る花

目を開けると、覗き込む顔と思いきりぶつかった。
「おはよう」
 目の前の顔は、にっこり笑った。続けてさっととんがり帽子を外され、額に手を当てられ、ビビは一瞬で何がなんだかわからない状態になった。
「……熱は、ないな」
 薄暗い部屋、ビビはドクドクと暴れまわる心臓を何とか抑えようと努力し、努めて冷静に、声を出した。しかしその声は、悲しいほどに震えて上擦ってしまった。
「こ、こは?」
「ここはプリマビスタ、俺たちタンタラスの劇場艇の中の小部屋の一つ、今お前が寝てるのは、普段俺が寝てるベッド。……何があったか思い出せたか?」
「……」
じーっと考えて、はっと顔を上げた。
「僕……」
「プリズンケージって言うんだよ、あのモンスター。……アブないところだったな、ジタンに感謝しとけ」
「は、はい……っ、んっ」
 身体を強ばらせ、頭を抱えた。頭の中を、誰かに拳骨で叩かれたような、そんな痛みだ。
「い、た……」
「……毒が回ってるんだ。奴の種子がお前の中で、お前を支配しようとして暴れまわってる。お前のことを養分にして、成長しようとしてるんだ」
 言われて数秒、ビビはすぐにその言葉の意味を理解した。
「ぼ、僕……」
 毒以外の理由によって蒼ざめた顔で、銀色の瞳が一層際立って見える。
「僕、死んじゃうの……?」
 男は安心させるように頭を撫でた。自分よりもずっと小さな子供を相手にしているのだという優越感にも似た安らかな笑みとともに。
「大丈夫だ。このブランク様特製の解毒薬を飲めばすぐに治るよ」
 男――ブランクは、濃緑色の小瓶を取り出し、蓋を外した。この瓶の色がこんなに濃い色をしているのは、中の薬がかなりショッキングな色をしているからであり、小さい子供に恐怖心を抱かせないために彼が瓶を移し替えたためである。ちなみにスタイナーのもとには、今ごろマーカスが透明の小瓶に入れられた解毒薬が行っているはずである。
「……にがくない?」
「苦くは、ないな」
 でもちょっと酸っぱくって辛くって甘くって塩っぱいけど。
「鼻摘まんで、一気に飲んじゃうと楽だぞ」
「うん……」
 不安げなビビに瓶を渡し、励ますように頭を撫でた。

ビビはギュッと目を瞑り、一気に瓶を傾けた。大した量ではないが、ビビの小さな口にしたら凡そ三口分、三回舌の上を通過した不味い液体に、ビビは噎せた。目に涙が浮かぶ。
「全部飲んだな、偉いぞ」
 笑顔で、瓶を受け取る。代りに、きれいな水の入ったグラスを渡す。ビビはすがりつくように、それを二口飲んだ。
「大丈夫か?」
「うん……。美味しくなかった……」
「ゴメンな。いろいろ、ややこしい薬とか一杯混ぜなくちゃイケナイから、どうしても味の方は後回しになっちまうんだ。でも、よく飲んだな、いい子だ」
 大した事をしたわけでもないのに、こんな風に頭を撫でて褒められると、何だかすごく嬉しい。甘やかされているということに、何ともいえない心地よさを憶えてしまうのは、まだビビが九歳だから、そして長いこと祖父に会えなかったからだ。胸の奥がツンと痛くなって、触れてもらえる事に、一種の悦楽を憶えた。
「ブランクのお兄ちゃん」
 ビビはおずおずと、ブランクを見上げて、言った。
「どうした? ……まだ苦しい、イタイ?」
 ふるふると首を振り、頭の上のブランクの手に触れた。
「……その……」
 淋しさに後押しされて、ビビは少しの躊躇いの後、口を開いた。
「……抱っこして、くれる?」
 ブランクは、一瞬目を丸くしたが、すぐにまた微笑んで、ビビをベッドから抱き上げた。ベッドに腰をかけて、膝の上にビビを抱き締める。
「怖かったんだな。……解かるぜ、劇場艇は落っこちたし、妙なバケモノには捕まったし、毒吹きかけられて倒れたし……。大変だったな」
 背中を摩り、ゆっくりと揺すってやる。ビビは目を閉じて、ブランクの手のひらが暖かいことをどこか遠いことの様に感じる。 だが、今確かにブランクに触れられていることによって、ゆっくりと、動悸が治まっていくのを、全身の感覚が少しずつ鈍くなっていくのを、感じていた。 そして、暫く経ったのだろうか、時間の感覚が一瞬無くなった。夢を見た、ような気がする。
「ご、ごめんなさい」
 ビビは慌てて、ブランクの首に埋めていた顔を上げた。面食らったように、ブランクが見下ろした。
「寝てていいのに。トイレか?」
「そ、そうじゃなくて、その、ごめんなさい、初めて会った人に、こんな……」
 ビビは真っ赤になった。
 一瞬、「淋しい」と思っただけで、こんな風に初対面のひとに甘えてしまった自分が滑稽で、そして恥ずかしい。再び鼓動が弾け出す。
「もう、抱っこしなくていいのか?」
「は、はい、ごめんなさい」
「謝んなくてもいいのに」
 クスッと笑い、ベッドに下ろされる。

かわいい子だな。

自分が最初から抱いていた印象に間違いはないはずだし誰にも文句は言われないはずだ、うん、この子はかわいいな、ブランクは思った。
「……そうだ、忘れてた」
 ブランクはふと、ビビがベッドにぽてんと座り、とんがり帽子を抱えてもじもじとしているのを見て、思い出したように言った。

帽子や肩に、小さなホコリのようなものが付いている。
「えっと……、名前、なんだっけ」
「なまえ……、ビビ、です」

「そうか。ビビ、可愛い名前だな。……ビビ、悪いけど、服脱いでくれないか?」
ぎょっとして、ビビが何か言いかけた、が言葉にならない。

「プリズンケージの出した種、まだお前の服にも残ってるみたいなんだ。…ほら、これ」
ブランクは自分の腰のベルトに付いていた小さな種を摘み上げ、ビビに見せた。

「身体に着いたヤツはさっきの薬で全部、芽生えた瞬間に死んじまうように出来てるんだけど、服に付いたヤツは、払っとかないと服の繊維に根を張って芽ぇ出して来るから。俺も脱がなきゃ」
 ビビは自分のローブの袖を見た。確かに、所々、タンポポの綿毛のようなものが引っ掛かっている。ブランクの身体にも、いくつも綿毛が付いている。自分が移してしまったのだということに、間もなくビビは気付いた。
「ごめんなさい……」
「いいよ、謝んなくても。……ほら、上も下も全部脱いで。……手袋も、あと靴下もな。靴の中から芽が出てきたらヤだろ?」
 ビビは手袋を外し、服を脱ぎ始めた。不器用で、とてもテキパキとは行かない。苦笑して、既に脱ぎ終えたブランクが手を貸す。上着を脱がせ、ベルトを外し、ベッドに寝かせてズボンと下着を一度に脱がせる。窓の外に向けて、一枚一枚大きく振って、綿毛を払う。ビビが掛け布団にも種を見つけたので、ブランクは掛け布団を外し、窓に掛けた。
「しばらく、陰干しした方がいいかもな。最後に一回はたけば、多分種は残んないと思う」
「……す、すいません」
「だから、謝んなくて良いって。……ビビは別に悪いことしてないんだから」
 そう言って、ブランクはビビが寝そべる隣に、同じように横たわる。
「え?」
「毒が身体のなかに廻ってないか、チェックするから。ビビは目を瞑って、じっとしてればいいよ」
 優しい口調に言われた通りに、ビビは目を瞑る。
「どこから忍び込んでるか、解からないからな。身体の隅々まで、チェックしないと……」
 言いながら、ブランクはビビの頬を撫で、唇に唇を押し当てた。ビビが全く抗わないことに微かな驚きを感じながらも、無抵抗ならば都合がいい、舌で唇を開き、中へと滑り込ませる。身体のうちに巣食う毒を、伝染すために。
「……口の中には、大して入ってないみたいだな」
 柔らかい口腔の中を存分に味わって、ブランクは真面目な顔で笑った。
「……その……、毒が入ってたところは、どうなるの?」
 ブランクが純粋に自分の治療にあたってくれていると信じきっているビビは、真剣に聴いた。ほんの少しだけ、頬が染まっている。しかし「これは治療なんだ」と信じて。
「すぐに解かるよ。多分、自分でも分かると思うぜ、すぐに」
「ど、どんなふうになるの……?」

ビビは不安いっぱいの目で見上げる、ブランクは優しく微笑んで、
「大丈夫、イタイとかクルシイとか、そういう辛いものじゃないから。……ちょっと経てばすぐに治る。俺が治してやるよ」
 もう一度、もう当たり前のようにキスをして、ブランクはちいさな身体の細い首筋に口付けて、舌を這わせ、毒の在処を捜す。
 存在自体に何の意味も持たない胸の飾りを舌先で軽くなぞると、ビビの身体がひとつ小さく戦慄いた。
「……あるみたいだな、ここに」
 クスッと笑い、吸い上げる。ツンと立ち上がった乳首を軽く噛んだり、反対側を指で摘まんだりする。ビビはその旅に、耐えるように、小さく震える。
「解かるだろ? これが、毒なんだ」
「ん……」
「どう?」

ビビは眉を八の字にして、首を振る。
「ん?」

「な、なんか……へん、くすぐったくって、なんか、でも……」

「笑えないかんじ?」

「ん」

「そっか、解った、じゃあ、ちょっと我慢できる?」

「……」

ブランクは返答を待たず、もう一度ビビの乳首を、吸った、今度はやや強く吸い上げる。

「ひゃう……」

かわいい声。

あの無愛想で自分のことをないがしろにする誰かよりも、下手をしたら。少なくとも、こうしてちょっとしたいたずらをする分にはこの子の方が。

……俺は変態か? 危ないおじさんか?

「んっ、んん……んっ」

ジタンにも責任は……、ないか。これって立派な浮気かなあ。舌先に転がる乳首の味を楽しむ、そんな罪悪、しかしこんな快楽。

「声抑えないほうが楽だよ?」

ビビはふるふると首を振る、目が潤んでいる。
「だ、だって、恥ずかしいもん、……こんな、変な声出して……」
 ブランクは吹き出した。
「恥ずかしくなんてないさ。毒をこのまま身体の中に抱えて、あっちこっちから木の芽出す方が恥ずかしくないか?」
「う……」
 ブランクは再び、乳首への愛撫を再開した。ビビはもう、声を押さえることはしなかった。ちゅっと吸われる度に、電流が流れたようにびくりと震えて、声を上げる。
「身体の中にも入っちゃってるかもしれないからな。それも、綺麗にしてやらないと」
 ただ、さすがに底まで悪辣鬼畜ドロップキックな自分でもないと思いたい。とりあえずこれはちょっとしたお遊びのつもり、この子には何の恨みも無いし、っていうか、かわいいし。うん……、かわいい、よな。

無条件にきゅってしてあげたくなっちゃうような、それでいてちょっと、苛めたくなっちゃうような。

ビビは四つん這いにされ、尻を高く上げた。

ブランクは全く無垢な後蕾を、そっと指で撫ぜた。
「ひゃっ!? ……どっ、どこ触わってっ」
 途端、思わず振り向いて、尻ががくんと下がった。一瞬で顔が林檎のように紅くなる。安心させるように微笑み、ブランクは頬に口付け、耳元で囁いた。露になった前が先程からの愛撫で少しずつ鼓動を集め始めているのが見えた。小さくても立つんだね、そう、ジタンのヤツもそうだったよー。可愛かったんだあ、あいつ。今じゃ偉そうで俺のこと嫌いって言うし、セックスも一年くらいしてないよ。
「痛くしたりしないからさ。お尻の中も、一応調べないと」
「で、で、でも」
「大丈夫、安心して。ここには俺とお前しかいないんだから」
「でもぉ……」
「な?」
 自分はどこまで行こうとしているんだろうとブランクは訝った。いや、何の罪もないこんなかわいい子をこんな風にして良いものかどうか。

しかし自分の中でぞよぞよ蠢く何者かの存在には気付いている。これは性欲のみではない。

じっと見つめているとたまらなくなる……、あほらしいアホらしいあほらしい、恋か、一目ぼれってか俺、うわあ。ジタンはどうする、ジタンはどうなる、っていうかこの子はどうなる。

「ん……、じゃあ……、して? お兄ちゃん……」
 可愛いものを素直に「かわいいっ」と思う気持ちが存在していて、それは正常なことで。罪はあるだろう、しかし罰はあるまい、そんな解答、バツにはなるまい。

 ちょろすぎる自分が、にっこり微笑んだ。

「……それじゃあ、こっちにお尻向けて」
「う、ん」
 再び猫の様に、ベッドの上で両手を前に付く。言われた通りに、ブランクが見やすいように、足を広げ、努めて力を抜く。ブランクのひとさし指が、ビビの後孔の皺をもう一度そっと撫でる。ビビはまた漏れそうになる妙な声を、やはり恥じて押さえつつも、ブランクの言う「毒」を感じ始めていた。身体が、熱くて。 両手で双丘を開かれ、そこに暖かいものが押し当てられた。
(なんだろう……、薬……?)
 ビビにその正体は解からなかったが、ただその何かに触発されて、自分の中の毒が一層猛るのを感じた。痺れ、しかし同時に、体表の感覚は危険なほどに鋭敏になっていく。不気味な感覚に支配された身体は、ブランクの指と舌の動き一つに、完全に掌握された。ブランクの舌から伝う唾液が、すっかり立ち上がった「毒」の捌け口の先から、分泌液と共に垂れる。 入口をしっかりと濡らされた後に、ブランクの指が侵入してきた。ビビは思わず声を上げ、仰け反った。
「んっ、あぁうっ、あっ」
「力抜いて。……でないと痛いぜ」

俺、どこへ行こうとしてるんだろう。
「っ、んぁっ、無理だよぉ、っ、いっ、たいぃ……」
「優しくしてやるから。ほら、ビビ、解かるだろ?」

どこへ……。

ブランクは、濡れたビビの砲身に指をかけた。指を飲み込む肛門の下に、下斜め前方を向くそこは、妖しく震え、持ち主の意志にはそんな言葉はまだ無いにも関わらず、解放を、到達を激しく望んでいるように見えた。

いけそうじゃない?

そう思って、もう自分を食い止めるものが何も無いことに気付いて、焦る。
「ここがこんなに腫れてる……。すぐ、毒抜いてやるからな。ちょっとだけ我慢しろよ? 男の子だろ?」
 そろそろと進めていた指を一旦抜く。ブランクは、枕の下に隠してある錠剤を、ビビの唇に押し当てた。

いや待てよそれはやばいって……、ダメだって!!
「これ飲むと、少し楽になるぜ」
「ほ、ほんと……? ……苦くない?」
「ああ。……今度のは、甘い薬だ。……とろけるように」
 ビビは従順にその薬を飲み込んだ。
 素直な子だ、ブランクは微笑む。
「さ、続きやるぜ」
「ん……」
 再び、ブランクの指がビビの入口からゆっくりと忍び込む。途端、ビビの身体がびくっと激しく震えた。
「や、やっ、……あ、んっ……」
「どうした?」
「んやぁ……、っ、お兄ちゃん、っ、僕、っ、変だよぉ……なんか、変……」
「毒のせいだ。……毒を抜くためには……、お前のここにちょっと薬を流し込まなきゃいけないんだけど?」

ぎゃあ。
「は、早く入れてぇ…、もぉ、だめ、おかしくなっちゃうよぉ」

ふぎゃあ。
先程までとは桁違いに、ビビの肛門はブランクの指を締め付ける。尻を揺らめかせて、言葉にならない欲求を訴える。

「……解かった」

 解るなよ!

「じゃあ、薬入れてやるよ。またちょっとイタイかも知れんけど、我慢して」
十分慣れたと判断して、肛門から指を抜き、自分の肉を代りに押し当てる。完全に立ち上がり、蜜を浮かばせている己に絶望する。
 しかし、目の前にある宝はどんなことをしてでも手に入れなければイケナイ。それが、タンタラスの掟。
 この子の存在は……宝だ! 宝が世界にひとつしかないなんて誰も……言ってない!
「じゃあ、行くぜ」
「はやくぅ……、はやく、おくすり……、ちょうだい……」
 要するに、ちょっと太い注射のようなものだ。
 下品だと自分で思うが、一番いい喩えに思えた。
 ビビの心と身体を惑い狂わせた毒を抜くためには、一番の特効薬を注入するのだから。
「あぁぁっ、あ、あ、ああ」
 悲鳴に近い声を上げて、ブランクを迎え入れた。内部は極端に狭く、しかもブランクを貪欲に締め付けてくる。最後の一瞬に迷ったが、ブランクはゆっくりと腰を前後に動かし始めた。
「あんっ、あっ、あぁ……あっ、やっ、あ……変に、なっちゃ、う、っん……ひっ」
「いいよ、ビビ……もうすぐ、治るから。治してやるから」
 腰を停めて、ブランクはビビの身体に腕を回し、ビビを起こした。自分の胡座の中に繋がったまま座らせて、汗の流れる首筋をペロリと舐めた。それだけでビビはひくひくと震える。
「な、ビビ。見えるだろ? ……お前のちんちんがこんなに腫れてんの。ここから毒が出てこないと、いまのお前の、変になってるのは治らないんだ。……治し方教えてやるから、俺の言う通りにするんだぞ」

「ん……んっ、早く、あ……っ、ん」
ブランクはビビの手を取り、上を向く砲身を握らせた。手を添えたまま、上下にゆっくり動かす。

「はぁあっ、あっ、あ」
「な? ……こうやって、握って動かすと、そのうち白いのが出て来る。……いま、先っぽから透明なの出てきてるだろ?これが毒の出て来る前触れみたいなものなんだ。自分で動かして、……俺も後ろに薬入れてやるから、毒抜いちゃいな」
 精液が毒だというならば、ビビは毒を抜いたすぐ後にまた、毒を胎内に流し込まれることになる。しかし、ビビは自分の体の中に入り込んでいる物体がブランクの性器であるということに全く気付いていなかった。
「ん、うん。お兄、ちゃん、はやく、おくすり、ちょうだい……、ぼくの、おしり」
「OK。じゃあ、ビビも自分で動かして、抜くんだぞ」
 ブランクはビビの両の太股を抱え、上下に揺する。接合したポイントから粘液質の音が立つが、ビビにはその音が恥ずかしいものだという認識がなかった。全てにおいて無知だったから、「毒を抜くために」自分の性器を握り、早く正常に戻りたい一心で、自ら異常に身を落としていく。
「……あっ、あぁ、んっ、ぅんっ、出る……、お兄ちゃん、出ちゃうっ、出ちゃうよぉ」
「出していいぜ……。俺も……薬出してやるから」
 稲妻が迸るようないとおしい痺れが全身に駆け抜けた。ビビは握った性器の先から白い毒を放った。勢い良く飛び出した毒はビビの胸に飛び散り、濡らした。
「……出たな。……それじゃ、トドメの薬、入れてやるから」
 再びビビを四つん這いの体勢にし、激しく腰を振るう。
「あっ、ひ、っあっ、、っ、ああっ」
「……くっ……っ」
 鼓動が激昂し、ビビの胎内を白い薬で満たす。
「……これで、完了。もう、変な芽が出て来ることは、無いぜ」
 上がった呼吸を整えながら、ブランクはビビの肛門から己を抜いた。遅れて溢れ出す自らの「薬」を拭う。多少、胎内に残るだろう。薬はあとで、効いて来る。
「も、もう、変に、ならない……?」
 ビビは涙を流し、ブランクにしがみ付いた。震えている。おそろしい程重たい後悔が胸底に疵をつけた、うぎゃあ。うぎゃあ。……しかしタンタラスの理念に従った場合、こうするほか無かったのだ。彼ら盗賊団の掟は、絶対のもの。ジタンも同じようにして手に入れたのだ、罪があろうと、俺は罰からは逃げてみせる、さんかくくらいで逃げてみせる。
「うん、もう大丈夫……、怖かった?」
「ん、……へいき、なんか……、なんか、きもちよかったから……」

「……そ、そっか。あー……、あと…、それからな。今日俺がお前に、薬を入れてやったことは、秘密な?」
ビビが不思議そうな顔をした。
「どうして?」
 ブランクは困って笑い、うーん、と一つ唸ったあと、
「ホントはな、男はこういう事、女の子にやってやらなきゃいけないことなんだよ。……男が男にするのって、ルール違反なんだ。それに、ビビみたいなちっちゃい子にも、あんまりやってあげないほうがいいことなんだ。……だから、バレたらちょっと、マズイ事になっちまう。だから、今日のことは二人だけの秘密ってことにしといてくれないか?」
 と応えた。
 ビビの表情が曇った。
「お兄ちゃん、ルール破ってまで、僕のこと、守ってくれたの……?」
「んー……あ、まぁ、うん、そう、……かな、ああ」
 とても歯切れの悪い答えをして、ブランクは笑って誤魔化した。
「それじゃ、服着るか。もうOKだと思うよ。……あ、そっか、出したの、拭かなきゃな」

ビビの胸からトロトロと流れる精液に気付き、ブランクはそれを何の考えもなしにペロリと舐めた。
「お兄ちゃんっ、それ毒……」
 ハッと気付いて、ブランクは慌てて言う。
「俺は、もう前に薬を中に入れてあるから、大丈夫なんだよ」
 誰に入れられたのだ、自問する。
 最後はティッシュで綺麗にされて、服を着せられて、ブランクの膝の上でもうしばらく身を任す。この優しく献身的なお兄さんが、何だか無性にいとおしい。背中に回された手のひらが暖かくて、幸せな気持ちになれる。
「あ……、そうだ」
 そう言えば、もう一人、僕を守ってくれたお兄さんがいたんだ…。
「……お兄ちゃん、……さっきの、あの、シッポのお兄ちゃん…」
「…シッポ? …アイツがどうかしたのか?」
「僕のこと、さっき守ってくれたから……。お礼が言いたいんだ」
「ああ。解かった、呼んできてやるよ。じゃあお前はもうちょっと寝てろよ」
 掛け布団を布団に運び、横たわったビビにかけてやり、ブランクは妙な執着心が胸に生まれたのを感じる。 それを首を振って振り払い、ジタンを呼びに部屋を出た。




 後日談。

(ジタンの野郎、やっぱダメージ大きいのかな。チッ、俺なんか、年がら年中アイツに振られてるのに。まぁ、いいか。俺の気持ちもちったぁ分かるだろう。ざまあみろ……でもかわいそうにな)
 快晴の空の下、酒場を出てルビィの小劇場方面へと軽く駆けていたブランクは、そんなことを考えていた。そのせいで、走行の軌道は決して直線では無かった。 どすん、と太股の当りに何かがぶつかる。
「ビビ……? ……ビビじゃねぇか!久し振り!!」
 自分の臍の辺りまでしかない黒魔道士の子供は、呼ばれて上を向いた。眩しそうな目でブランクを見、自分のぶつかった正体が誰であったか認識する。
「あっ、ブランクお兄ちゃん!」
 積もる話しを一つ一つ崩して言ってやりたい衝動に駆られる。が、前方からマーカスが呼ぶ声がする。ルビィとビビ、選択肢なら当然ビビだが、ルビィを怒らせると後がコワイ。
「俺、行かなきゃ。じゃあ、ビビ、またな」
「うん」
 一歩歩いて、ブランクはふと立ち止まり、しゃがみ込んでビビの耳元、呟く。
「……またいつか、毒抜いてやるよ」
 クックックッと笑い、ブランクは走り出した。
 あの夜の事など、その三十分後には既に忘れてしまっていたビビは、首を捻ってジタンのいる酒場へ入っていったのだった。次に思い出すのは、彼の新しい恋人がそれを「処女喪失の夜」と位置付ける夜まで待たねばならない。




さらに、その後。

「全く……、アイツ、怒り過ぎだよなぁ」
いつまでも機嫌を直さないルビィにつかれて、ブランクは弟分二人を連れて外に出る。

「……ゼネロたちもどっか行っちまったしなぁ。ジタンは、なんだっけ? トレノに行くとか行ってたんだっけか?」

また置いていかれた。しかも何の挨拶も無しに。久々に会ったのだ、「石になってまで俺のことを守ってくれて有り難う」のヒトコトもない。ああいう奴なんだ、どうせ。機嫌がどうにも悪くなる。ふんだ、いいんだ、どうせ俺なんか。俺にはビビが……いないか。
「しょうがねぇ。ホトボリ冷めるまで、飲むか。なぁ?」
 くるりと振り返っても、弟分たちは困ったように顔を見合わせる。
「なんだよ、辛気臭ぇツラして」
 シナが言いづらそうに玄翁を弄繰り回す。
「いや、その、別に、何でもないズラよ。なぁ、マーカス?」
「そ、そうッスよ。別に、可笑しくなんてないッスよ。きっと、……あと二十五年くらいしたら、そういうの、流行るんじゃないッスか?」

「はぁ? ……何言ってんだお前ら」
「…………」
「なんだよ、俺の顔に何か付いてるのか?」
「いや、顔じゃなくて、背中に……」
「背中? ……げっ」
 後ろに回した手が、何かに振れる。
「な、な、何だこれッ、おいっ、なんだよこれッ」
「……それ、ファッションじゃなかったんスか?」
「アホかこんなファッションがあるか! 大体俺は、見た目なんか気にしねえ主義なんだよっ、ていうか、何だよっこれッ」
 掴んでぶちりと引く、目の前に出した手のひらの中に、青々とした葉が数枚。
「……ど、道具屋ッ、道具屋行くぞ! 薬作るから、おめーらも手伝えっ」
 ポーションやら迷惑チンやらを抱え込んで駆け帰ってきたブランクは、即座に酒屋のキッチンを借り、薬を調合しはじめた。
「何だってアニキそんなコトに……」
 背中から生えているのは紛れも無く植物だった。しかも、十センチほどまで成長し、花まで咲かせている。それがまた、なかなかキレイな花なのである。それ故に、何かのアクセサリーなのではないかと、シナとマーカスは言い出せないでいたのだ。 命じられて調合の手伝いをしつつ、ふたりともその背中の植物が気になって仕方が無い。

「アニキ、プリズンケージの毒にはやられてなかったハズっスよね?」
「いや……これには色々事情があって……」
 シドロモドロに、ブランクが答える。
「プリズンケージってことは、魔の森の花ズラ」

「……そ、そうだけど」
「赤い花もそのせいっスね。……でも、ここまで鮮やかに真っ赤なの、初めてっスよ」
「…………」
「突然変異ッスかね」
「……う、うるさいっ、おらっ、無駄口叩いてねぇで、これとそれ混ぜんだよッ」
 誤魔化すように大声を上げ、ブランクはマーカスの持つ迷惑チン三本を明けた器にハイポーションを溶かした。


top