この尻の落ち着け場所

 人生の先輩はブランクだが、ビビと重ねた恋人としての時間なら、ジタンの方が長い。自分はあくまでも間借り人であるという自覚は相変わらずブランクの中に在って、二人に必要とされなくなったなら、もうここにはいられないという覚悟がある。言うまでもないことだが、ビビはブランクのことを「お兄ちゃん」と呼び、ジタンが嫉妬を禁じえないほど慕っているし、ジタンも自分一人ではついつい暴走してしまいがちな感情を、少しだけ年上のブランクが適度な抑制となるとともに、ビビに向かう恋心の貴重なライバルであり、またそもそもが愛すべき存在として、水や空気と同列に必要を感じているから、ブランクの考えは杞憂以外の何物でもない。だが当人がそう考えることで日々の輝きが増すと思うなら、それは趣味の領域である。

 日々、メインイベントというのは朝昼夜の区別なく、場所も択ぶことなく、行なわれている広義の「愛し合い」であって、そこが充実すれば日々は大体上手くいくような気でいる。それは大人二人に限ったことではなくて、ビビも同意を求められれば、多少の躊躇いも、しぶしぶという表情も無くすことは出来ないが、頷く他ない。ブランクとしては、何とか今後も自分の尻を、ビビを挿んでジタンと並んで、二人分のソファに意地でも維持していくためには、もっと平常な生活においても自己を発揮していく以上に、セックス・ライフで二人に幸福を与えていくことを重視せざるを得ない。ブランクにはジタンを心地良くしてきた経験がある、それは平行移動して、ビビを幸福にする術となる。ジタンはブランクの管理と庇護のもとでビビをより善くしてやれるとも思っているし、ビビはブランクがいてくれるから、存分に甘えられるとも思っている。二人にとって当にブランクは必要不可欠な存在だ。手品のように生み出す快感に、心底痺れて、酔いきっている。正三角形の生活は続く、何の不安もない。だが、悩みたいなら悩みたいだけ悩めばいい、それがまた幸せなのだと言うのだろう。

 

 

 

 

 さて、アントリオンが産卵の際に分泌された汁が結晶化したものが「砂漠の光」であり、古くより熱病の特効薬として知られている。アントリオン自体が非常に希少価値の高い生き物ではあるが、砂漠の光は未だに薬品としての需要が多く、近年になって開発されたイソプロピルアンチピリンやアセチルサリチル酸などを主とした薬よりも、副作用などの心配もないため、市場においては幅を利かせている。既に何度か書いてきたとおり、ブランクは本業の薬剤師顔負けの調剤技術がある。これは危険の多い盗賊稼業において、必要とされて身につけてきたものであるが、独自のルートというのは長年の積み重ねによって構築されるもので、気付けば懇意にしている薬種商の幾人かは世界中に散らばっている。よって、ブランクがそれを望み、またいくばくかの金を積めば、砂漠の光などいくらでも手に入れることができる。もっとも、正真正銘の砂漠の光は大変貴重なものであるため、現状出回っているもののほとんどは、ハーブなどを調合して作られた類似品である。正規品と比べても、効能は一切変わらない上、驚くほど安価である。

 ところで「砂漠の光」は、解熱剤として用いられるが、もう一つ、重要な役割がある。これを知っているか否かは、薬種取り扱いの心得の有無を計る一つの物差しになる。元々は、アントリオンの繊毛から分泌される汁であり、それは栄養の宝庫である。用法としては、球体化した結晶の放つ光を患者に照射することで解熱することが知られているが、他方、優れた滋養強壮効果が期待できると言われている。具体的に言えば、常温では淡い光を帯びた固い球に過ぎないが、三十六度程の温度で表面から溶解していく。だから砂漠の光を扱う際には手袋をはめ、球を解かさぬようにするのが常識である。だが、球体の核、光を生み出す部分は、常温で透明な軟膏状に変化すると粘膜に作用し、発熱させ、過敏にする効果を持つ、すなわち媚薬軟膏となりえるのである。一部の好色な者たちを除けば、薬剤に知識を持つ者しか知らぬことである。つまり、ブランクはそんなことはよく知っている。熟知していると言ってもいい。

 彼はくだくだと知識を披瀝することはなかった。首尾よく手に入れた砂漠の光の包みを見せて、ジタンを呼び寄せ、肩を組んで耳打ちをした、

「ビビがすんげぇ可愛くなんぜ」

 と。

 ビビは元から大いに可愛い。可愛すぎて困ると苦情が来たっていいくらいだとジタンは思っている。そのうちビビの可愛さゆえに遠くの街で事故が起こったって良いくらいだと思っている。だが実際に起こるのは、彼自身がビビに見惚れてスープを口の端から零したり、ビビの小便を飲みたい飲みたいと駄々を捏ねて当のビビに失望されたりすることぐらいである。しかしそのビビが、更に可愛くなるというのであれば。ジタンの胸はブランクの指で鷲掴みにされた。肺が押し潰されて息が溢れた。目を閉じる、ビビがいる、可愛い可愛い俺の恋人、大好き大好き大好き、ただでさえ可愛過ぎるビビが、もっともっともっ、ともっとも、っと、はぁ、はぁ。

「はええな」

 ブランクはジタンの膨らんだ下半身に苦笑する。だが、気持ちは大いに判っている。

「今夜は三人でだ。いいな?」

 がく、がくがく、がく、首のもげんばかりに頷いたジタンを、ブランクは愛しく思う。これでとりあえず、また俺には価値が生まれる。大事な大事な、砂漠の光、二つの粒。ビビがこれで気持ちよくなってくれんなら、俺だって、生きてたっていい。

 そんな次第の午後七時には、もう夕食も終えて、風呂を沸かして、「先に入るぞ」、幸せなこの夜の未来に期待。足を伸ばして大きく息を吐き、可愛い可愛い恋人たちと今宵も共にする時間の在ることは、身に余る光栄と認識し、大事に、大事に。

 髪にタオルをかけて、浴室を明渡す。ビビはジタンの腕の中で、タオルと着替え一式を持って準備万端だ。

「のぼせさせんなよ」

「判ってるよ」

「判っててもやるからな、てめぇは」

 ビビを風呂に入れるのは楽しい。汗をかいていたって綺麗に見えるその身体を、本当に隅々まで石鹸の泡で包み込んで洗い清めるという大義名分を持った上で裸体に触れることが出来るのだ。何の理由もなく何処も彼処も触れる立場の今もなお、ジタンもブランクも楽しみと感じているのは、石鹸の持つ滑らかな手触りに依るところも大きい。リンドブルムやアレクサンドリアといった「街」に出れば、ボトルに入って五百ギルあたりの価格帯で、特に男性同士の恋愛イベントに重宝な透明粘液を売っているが、薬とは違い、辺境の地では望むべくもない。

 風呂上り、煙草を一本吸って空を見上げれば、村外れの墓地の天に掛かった三日月が笑っているようで、……「物好きめ」、賢者の広い心ゆえに、笑って許してもらえるのだと肝に銘じる。第二の第三者としてここに在り、幸福を貪る権利をどうもありがとう。これからも尽くしていくからどうか、これからも。

 比較的短い時間で、ジタンはビビをつれて上がってきた。ビビを独り占めしたいところをグッと我慢、このあともっと美味しい時間を堪能するために。ビビはぽうっと桃色に染まった肌にタオルを一つだけという極めて無防備な姿で、ブランクの注いだ水を美味しそうに飲み干した。経験上、夜八時以降がどんな時間であるかは少年だって判っている。羞恥心のないわけではないが、二人の望みの在り処を知っている以上、服を脱ぎ着する手間は省いてあげようという、優しさの為せるわざである。といって、淫乱のつもりもない。二人のことを変態呼ばわりする気もない。水準が他と違う領域なのだと、少なくともビビは納得している。

「したら……、ビビ、こっちおいで」

 ブランクはシャツとトランクス、脱ぐのに差し支えのない格好で、ジタンに至ってはタオルすら巻いていない。粗末とブランクに蔑まれるものを隠すこともしないで、正々堂々、ビビを抱き上げたブランクの後ろについていく。数分後のことを考えるだけで下半身には血流が集まりかけるが、一先ずはただ、四十二度の湯温の余韻で垂下る袋の中身が今宵も大活躍するのだから、今から暴走するのもみっともない。腹筋の下、金色の縮れ毛を戯れに一本引っ張った。

 ビビを下ろしたベッドの先、ビビはいつもの無垢な表情に、ほんの少しの困惑と、さらにかすかな侮蔑とを浮かべ、それら全ては恋心に覆い隠されて、大人二人の目に映る。毎度のこと、よく飽きないね、こんな体の何処がいいの?価値を共有するから高まる喜びは、外が雨だって嵐だって吹雪だって、この屋根の有り難味を忘れることはない、つまりは一瞬足りとも、二人を愛し損ねることもない。

 だから、愛の証、形は色々あろうけれど、最初はいつだってキスからだ。ジタンは唇へ、ブランクは小さな手の甲へ。場所が変わる、ポジションも変わる、かわるがわる可愛がる、上がるテンション――スクリプトオン――。薄くて華奢な体だから、触る手付きも繊細になる。俺の指はこんなに優しい動きをしてみせる、ほんの少し、ナルシスト、だって隣に最高のヒロイン。

 流れはスムーズに、だが一つひとつを拾い上げれば愛の満ちた遣り取りで、キスが下半身に至る過程、ビビは見たいと願われている物を隠したりはしないし、二人も必要のない意地悪はしない。タオルを外すのも望まれるままに二人任せ、下着を身に着けているときにしろ、脱ぎやすいように腰を浮かせる。露わになったビビの幼茎を見詰めて(実際毎日だって、つい先ほどまでだって、目にしているものではあるのだが)、やけに湿っぽく熱い息をジタンは吐き、ブランクは飽かずビビと舌を絡め合う。常に童貞喪失のような緊張と興奮を背負い、ビビを抱くたび胸はいとおしさに溺れそうになる。

 ジタンはビビの眼前にいきりたつ性器を掲げる。ブランクは瑞々しい尻に掌を乗せた。

赤黒い腫瘍のような欲の塊は苦しげで、僕がこの手と舌で楽にしてあげるのだと思う。いつもしていることでも、ぎりぎり習慣に堕するのを回避して、熱い決意と共に行なう。濡れた唇でのキス、赤い舌の愛撫、見下ろすジタンの胸には背徳のつららが突き刺さる。ジタンが不意にそれをひくつかせるのを、甘ったるい息を絡めて嬉しげに見上げる。

「ジタンの、……あついね」

 喜んでくれるのならば何だって。純粋すぎるから危ない動機に基づいて言葉はするりと発される。もとより天性のような淫らさを持ってはいたが、このところ、ますます磨きがかかってきたように思われる。素面のときに問うことはしないが、問えば、素面のときにだって「おちんちん好き」などと素直に言ってしまうのではないかとの危惧さえあった。

「ビビ」

 尻の穴を舐めて濡らしていたブランクは顔を上げて、例の球体を包みから取り出した。ビー球のように透明で、淡い光を帯び、それは命の原型にも思える。ビビはジタンのものから口を離し、目をぱちくりとさせる。

「これ、なーんだ」

 左手はジタンの性器に添えたまま、口が離されると寒いとでも言うようにひくんと震えたから、謝るようにひと舐めしてから、

「……砂漠の、光。……、でも僕……」

 ちゅ、ちゅ、二つ、キス。

「熱、ないよ……?」

 体のあちこちは、弾けそうに熱いけれど。

「ビビは砂漠の光、どうやって出来るか知ってる?」

「アントリオンが、たまご生むときに……、たまごに入りきらなかった栄養が、そういうふうに丸く固まって……」

「そう、よく知ってるな」

 既に砂漠の光は溶解をはじめ、ブランクの指を濡らしていた。

「お利口さん」

ご褒美だよと、ビビの尻を、割開く。そこまではいつものことで、ビビも驚かない。だが、ぬるりと濡れた球体を押し当てられて、「うや!?」、身を強張らせる。

「な、な、なに、なに?」

「ビビは、お利口さん。でも、これにはもうひとつ、楽しい使い方があるんだよ。教えてあげる」

 表面の潤った球体は、押し込めばぬるりとビビの胎内へと吸い込まれる。直径は三センチ足らず、だがその大きさ一杯に広げられたビビの肛門に、それよりずっと太いものが日常的に出入りしている場所であるとはいえ、ブランクはひやりと息を呑む。人差し指で更に奥へ押し込む。閉じきらない入口から、ビビの内部が戸惑いながら、球体を受け入れるべきかどうか、戸惑っているのが覗けた。

「すごいね、ビビの中……、動いてるの見える」

 暗い洞穴の中、球体の表面から溶け出した液体が、赤い肉壁の表面を這う。小指の先で開いた入口の内側を触れていたら、内部から球体が音もなく押し出されてくる。広げられたビビの環状筋の隙間から、ぷちぷちと泡の潰れるような音を立てて、液体が漏れ出した。

「……ん、や、ああっ……」

 ジタンへの愛撫もおざなりになる。ジタンはよしよしと銀の髪をとりあえず撫ぜて、俺も見たいとブランクの横から尻の穴を覗き込む。溶け出した分だけ小さくなった球体が、ぬるつく液に潤んで、ブランクが指でそっと押すと、その分だけ中へと押し戻された。だがすぐに、再び拒まれるように、入口まで戻ってくる。ビビの秘められているはずの場所はジタンとブランクの目の前、球体を産み出すために広がった。

「すっげ……」

 倒錯なしではいられなくも、素直にジタンは言った。珠は内壁を押し広げて行き来する。排泄との酷似は否定しようもないが、それがかえって興奮を喚起する。境目、半ばまで、外へと顔を出した球体は、「ひう……」、ビビの短い声と共に、粘液質の音を残し、ブランクの掌の上に転がり落ちた。

「ダメだろ?ちゃんと漏らさないように、中に入れておかなきゃ……」

 わざとそんな風に笑って意地悪を言う。そして、ジタンの掌の上に転がし、入れるよう促がす。ジタンは唾を飲み込んで、滑稽なほどおそるおそるの手付きで、ビビの内部へと再び押し入れる。

「もっと奥入れてやらないと、また漏らしちゃうぞ」

 ブランクに言われて、指で、更に、奥へと。一番奥へ、辿り着いたところ、ぷつりと指先で弾けたような感触を受ける。

「ひあ、あああ!」

 遅れて、ビビが、烈しく身体を震わせた。ジタンがそっと指を引くと、薄黄色に濁った濃厚な蜂蜜のような液体が指に絡んでいた。

「これが……?」

「そう、砂漠の光のコア、……ビビ?」

 直腸粘膜から瞬間的に吸収される媚薬成分が、ビビの四肢から力を奪う。残滓としての蜂蜜が泡となって溢れる過程で、極めて下品な音を立てて溢れ出す。

「ひあ、う、あっ……、んっ、ふ、やうっ」

 ベッドの上、ビビは打ち上げられた魚のようにのたうった。ビビの胎内で起きていることを、ジタンは想像すら出来ない。ブランクも、自身の体験に基づくものではないが、構造は理解する。人間の肉体の中でもとりわけ吸収効率の高い直腸内に媚薬成分を直接注入したのだ、全身へ、あっという間に行き渡り、その体の隅から隅まで、快感を求める淫らな生き物となる。

「……大丈夫なん?こんななって」

「心配ない、大人だったら大きいの二粒使うところだ」

 熱い息を浅いところで繰り返す少年の性器は、見ている方の胸も苦しくなるほどの震えを繰り返していた。両目は涙に濡れて、しかし、その泣き顔は決して悲しみを帯びたものではない。零れるのは、欲を掲げ、それを手にしたいがための、ごく安直で幼稚な涙だ。

「ひぁ、ぅ、……っ、あ、っ、つい、よぉ……っ、おし、りの、なか、っ、あついぃ……っ」

 尻は、触れられてもいないのにビクンビクンと、心臓が其処へ移ったかのように、脈動している。

 ブランクはビビの傍らにひざまずき、銀の髪をさらりさらりと撫ぜた。

「熱いか、そうか……。大変だなあ、どうしたら治るのかなあ」

「おしりぃ……、おしりのなかぁ、おちんちん、いれて、いっぱい……」

 うわごとのように、淫らな言葉を口走るビビの危うい様を目にして、ジタンは生唾を幾度も飲み込む。普段もスイッチが入ると何とも淫らにおねだりをしてくれるビビではあるが、こうまで乱れる様は、恋人同士になって数え切れぬほどの夜を重ねたジタンにしろ初見であり、大変に刺激的だ。

 気付いたときには、もう、扱き始めていた。見上げるビビが、泣き声を上げる、

「やだぁ、かけちゃだめえぇっ」

せっかく出すのだったら、「中で」、……言い終えることなく、その身体には欲の澱が振り撒かれた。熱を帯びた体には温くさえ感じられる精液を、普段ならばかけられることにだってこの上ない喜びを感じていたはずも、今は深く穿たれ内奥へ、奥の扉も開くほどの勢いを求める。緊張と弛緩を無意味に繰り返すビビの幼蕾からは、淫性の素が相変わらず溢れ出していた。射精直後のジタンのぼやけた頭は、それを「愛液」と呼ぶのだと信じる。

肉欲での遣り取り、悪魔の宴が始まった。だが中央に存在するビビが、仮令狂おしいほどに淫らであっても天使然とした美しさを失わないものだから、ごく当たり前の恋人同士にしか見えないのは救いであったろう。手に負えない在り様を認め合えば、三人一緒のこの世はパラダイス。

「もうちょい我慢しろよな、早漏」

 ビビの身体をべたべたに汚したジタンはベッドに尻を落とし、乱れた息はまだ収まらぬまま、ビビを見る。その目は空ろで、頬は赤く染まっている。からかいながらもブランクの声は嬉しさを隠せない。目論見どおりに、二人が愉しむフィールドを作り出した。自分の手に力の在ることを、実感するのだ。こんな瞬間に、自分の居場所を見つけ、「なあ?いてもいいよなあ?」、二人の恋人に腕を回して抱き寄せたっていいような気になる。

 感傷に浸る様など見せないで、

「すっげぇえっちな子に見えるよ、体中に精液垂らしてさ、そんな目に遭ってちんちん、濡らすほど固くなっちゃうんだもんなあ……?」

 それでも扱きたい手をタオルケットを握って必死に堪えている辺りは、ジタンよりも分別がある。それでも、泣いた顔にすら淫らさの影は差し、薄く開いた唇は、

「欲しいよお……」

 極めて危うい言葉を紡ぐ。

「おちんちん欲しいか、ビビ」

「……欲しい……、おかしく、な、っちゃう、……もお……」

 そっか、とビビの髪をくしゃくしゃ撫ぜる。その手に縋り付いて、

「お兄ちゃんの、おちんちん、入れて」

 普段は二人の男の望みに応じて紡ぎだされる言葉、今は、己が望みそのまま言葉に乗せて零すばかりだ。平気な顔をして――無論、ブランクだってトランクスの中では烈しい勢いで自己主張するものを抱えている――ビビの髪をもうしばらく撫ぜて、ただ、額に穏やかな口付けを一つ。

「ジタンのバカが一人でいっちゃうからなあ。ビビのこと待たせるなんてひどいよなあ?」

 時として、穏やかで優しい声が一番悪質に聞こえることをブランクは知っている。敢えてそれを択ぶことで、この尻の落ち着け場所を確保するのだ。

「でも、大丈夫だよ。こいつ早漏だけど、回復も早いからさ。またすぐ出来るようになる。それまでちゃんと入れるように、お尻慣らしておこうな」

 だけど、俺はしないよ。ブランクは自分の笑顔がどういうからくりでビビを安心させるかを知っている。一から百まで熟知した心の動きを転がして、ビビに微笑みかけて、細い左手首を掴んで少年自身の股間へ導いた。

「いい子だから、出来るよな?その間に俺の、な?出来るよな?」

 念押しに首を傾げられては、素直さと聡明さを誉められる十歳としては抗う術はなく、ブランクの手が離れても動きはオートマチック、珠に広げられ、たっぷりと濡れた穴はビビの細い指など楽に吸い込んでいく。自分の中の熱いこと、そして、細くとも指の気持ち良いことに、ビビは恍惚となる。ジタンがまたごくりと唾を飲み込み、ブランクが満足げに頷く、四つの眼球を一つ所に捕える僕の身体は、……どんなだ?

「自分の指、気持ちいいか?」

 こく、こく、頷く。危ういと、ブランクは思う。何とも壊れかけな風情の美少年を、壊してしまわぬように、でも、ぎりぎりまで、皮を剥いで、まだいけるか、もう少し大丈夫か、そんな風にびくびくと様子見、それがまた楽しい。

「でも、自分ばっか気持ちよくなってちゃダメだよな?」

 意地悪な人になっていくのも、意地悪自身にリスクがなければ心躍るアトラクションだ。抜き身を晒し、恨めしげな目をやり過ごしたら、空いた右手に触れさせる。熱いだろう?欲しいだろう?

 導かれるように、咥えた。満たされないと判っている、与えるだけの快感にも、それが快感であり、幸福を生み出す手段であると知っている少年は、愛情を超えた原始的な欲で咥えて、舐めて、扱く。赤い舌が自分の性器の先を這い回り、唾液の細い糸を引くのを見て、ブランクは十全なる幸せなど遠くまで探しに行かなくともこのベッドの上にある、小さな体のビビが持っているとしみじみ思う。既に粘性を失い、細い裸を伝って流れるジタンの精液に塗れた体に、巧みな舌使いと熱に浮かされたような表情、左手は相変わらず胎内を弄っている。淫らに過ぎる血を内に宿していながら、ブランクの目には崇高で、背中に白い羽が生えたら天使そのもののように思える。一方で、羽の色が黒ければそのまま悪魔にだってなり得るとも。

「ブランク……」

 ジタンが喘ぐような声で言った。うん、判ってるよと思いながら、纏わりつくビビの舌の心地良さから腰を引くのも名残惜しい。重ねた回数とビビの学習能力ゆえに、ブランクはビビの口でどこまでだって幸せになれるし、ビビも幸せにしたいと思ってやっている。それから身を引くことが、果たして正しいのかどうか。

「ん、みゃ……っ」

 それでも腰を引いた。俺は引き立て役でいい。そういう「役名」でもここにいられるなら、それでいい。

「早漏の準備が出来たってさ」

 ビビの、物欲しげに開けられた口を、顎を撫ぜて閉じさせた。濡れた頬の赤味さえなければ、無垢で純情なお風呂上りの十歳児でしかない。

自分の外見への自覚に乏しいことは疑いようもない。大人二人をこれだけ狂わせていながら、平時には平然と、「どうしてお兄ちゃんたちが僕に『好き』って言ってくれるのかが判らない」などと贅沢なことを思っている。意図的なものであれば途端に厭味に感じられるところ、謙虚さを失うことはない。

だから、

「いれて、くれる、の?」

 自分にそれだけの価値があるのかどうか、……二度の期待外れの後であれば、疑いたくもなる。ブランクにしろジタンにしろ、可愛いビビの中に入らないままこの夜を終わらせるつもりもないのに。

「入れる。入る」

 暴走焦熱ミサイルに再び点火して、ブランクの目の前でビビを押し倒し、ひょろりと白い足に何度もキスをして、ジタンは相当なスムーズさでビビの胎内に押し入った。とろりとろりとビビの腸壁を濡らしていた媚薬の残滓は最高の潤滑油となり、奥まで突き入るやジタンは息を詰まらせる。ビビは恋人の一突きで背を逸らし、ぶるぶると身を震わせると、頬と同じ色に染まった性器の先から精液を射ち出した。濃厚で、シルクのような質感の粘液は、ようやくジタンの液体が乾き始めた少年自身の身体へと散り、ブランクにとっては最も贅沢なトッピングとなる。

「う、あ……あ……、あ、……う……」

 幾度も、幾度も、ビビの幼器は鼓動と共に弾む。暫し目を奪われていたジタンだったが、やがて一気に油を注がれたように、粗暴に腰を振り始めた。

 感じきった体を、

「ひあああ!」

 穿たれて、ビビは悲鳴を上げた。ジタンは壊れた機械のように、……例えて言うならばオーバーヒートで耳から黒煙を出すように、ビビを責めたてる。傍らで見守るブランクが、腰の勢いに気圧され、止めようかと腰を浮かせたところ、収まることのないまま再び力を集め始めていたビビの幼茎の先から黄金色の飛沫が溢れ出した。爛れたように熱い尿管を劈いて、迸る液体に伴う力は、ジタンの性器を押し返すように内部で働く。跳ねる音と共にビビ自身の胸に降りかかる液体を見て、ジタンは完全に理性を手放した。押し返す力が止まるや、液体は勢いを持ち、清らかな流れとなってビビの体を潤して行く。ジタンは俄かに呆けたように、ビビの痴態を見詰めていたが遅れて数秒、

「っ、あ!うあ!あっ、んっ、い、あっ」

 壊れろと念じるかのように無慈悲なほどに、腰を叩き付ける。傍らに一人冷静なつもりのブランクが気圧されるほどの勢いだが、ビビの上げる声は決して悲痛なものではない。

「ん、あっ……はぁっ、ぁんっ」

 砂漠の光が全身に回りきった体は、身体を破壊しかねぬ勢いで齎される乱雑な突き上げすらも快感と受け止める。まるで直腸のとば口に引っ掛かってビビを苛む、得体の知れない、なにかとても淫らなものが、度重なる性器の頭突きによって破壊され、剥落し、今に胸のすくような解放感が訪れるに違いないと信じるから、

「もっと……、もっと……」

 息を乱したジタンが腰を緩めれば、淫乱と罵られようと自らの欲のために、言う。濡れた体の中央で、くん、くん、幾度となく背伸びをして、その身を赤く染めて涙を浮かべる性器を見下ろしながら、ブランクはほとんど感心していた。

 俺たちの生活の中心にいるこの子は、ひょっとしたらとんでもない――

 ビビの淫性が感染しきったジタンの、眼がぐらぐらと煮えている。過呼吸頻脈、果ての肉体疲労は計り知れまい。

「……ッぐ……ウ、ウゥ」

 獣の唸り声にも似た声を篭らせて射精した。「また置いていかれた」、といって、そこに至る前にまた出したばかりで、また求める、いまはどこまでも愚かで哀れな子供のビビは不平の声を上げた。

 ジタンが尽きた。電池が切れたのだ。赤く腫れた性器をビビから抜き取り、がっくりと膝をつき、眉間に皺を寄せる。荒い息に声を混ぜて、全身を包み込む疲労感に翻弄され、ごろん、ベッドに横たわった。疲れきったその頬に、しかし喜悦を通り越して真っ白になった幸福感が現れているのをブランクは見た。

 だがビビは、身を起こして文句を言う。

「なんでぇ……、やめちゃやだよぉ、もっと……っ、もっとして欲しいっ、ジタンのバカ、いじわるっ」

 クリスマスイブに仕事入ったってこんなこと言わないぜ、この子の心の根と毛の生えない身の根。真剣に怒った目なんて見るの初めてだ、でもこんなシチュで見るとは思わんかった。

 まだ未完成の幸せを前に、許された気になって、ブランクはようやく腰を上げた。ビビが反射よくブランクを見る。ブランクの身体の中心の、燃え滾るような熱を真っ直ぐに見詰めて、

「お兄ちゃんの入れて。僕の中にそれ、欲しい」

 俺たちの、……天使……。天使が聞いて泣く。けど、天使、変わらず天子、俺はかしずいていればいい。つう、と内腿に、ジタンの吐き出した精液が伝っていく。目算で三回分、と言っても最後の一回はほとんど到達しただけで、尿道を通過したのは僅かな量だろう。

「ジタンのだけじゃ満足できないか?」

 うん、と頷く。こんな意志の強さ、滅多には見せない。

「二人の、欲しい。同時に入ったらいいって思う。けど無理だから、ジタンの、たくさん、中出してくれたけど、お兄ちゃんのも欲しい」

 声が安定感を帯び始めた。そろそろ媚薬の効果も切れつつあるのだろう。それでも尚、身体の中央で放置状態の、可愛い天使?の性器は、背伸びをつづけ、……脹脛でもつらなきゃいいけどと、ブランクは心配する。

「そっか」

 んん、じゃあ、おいで。手招きした膝の上で、足を大きく広げることも今はみっともないとは思えないらしい。身体の平静に心が追いつかず、いまだアップテンポで踊り続けているのだ。絡みついた腕の細いことが、ブランクの胸をチクリと刺す。ぬるぬるに濡れた胎内で、ぎゅっと、その手で握られたような圧迫感を受け取った性器が、ピクリと動いてはビビを感じさせることで、自分の身体に価値があることを信じるこれ以上ない材料となり、安心する。

「う、ご、いて……、お兄ちゃんのも……っ、中、出して」

「いいの?」

「出してくんなきゃやだ……、お兄ちゃん、まだ、出して、ない、から、……いっぱい……」

 抱き締める体からは、精液と尿の、悪臭と言う方が相応しいはずの匂いが漂う。あとで痒くなっちゃうぞと、一瞬不安になりはしたけれど、俺の盛る匂いを用意してくれたのかもしれないし違っても俺はそう解釈して悦に入って、乱暴にされて悦んでいたような小さな身体を、ブランクはそれでも丁寧に横たえた。

「ビビの中、すっげえな。めっちゃぬるぬるしてる。ほら」

 腰を一往復、亀頭の周囲を巡る粘液が絡みつき、くぐもった音を立てる。しっかり、しっかり、しっかり、抱き付く腕の力は、間違いなく「俺、必要」、ブランクに信じさせる。俺はここにいていいんだ、ビビを喜ばせられている。ビビが喜んで、ジタンが幸せでないはずもない。素敵な素敵な三角形、荒唐無稽なこの関係、作るために不可欠なこのピース、役与えてくれてサンキュー。

 動いてと要請されていて、それで腰は今にも壊れるほど動き出しそう、なのに息を止めるように、もうひと辛抱、して、小さな耳朶を噛んで。

「ビビの身体、すっげいい、おしっこの匂い」

 ぎゅ、と抱き付く力が強くなった。心の鈴を揺らして鳴らす、ビビの反応一つひとつ、困っちまうくらい、本当に可愛い。「いい」匂い、嗅ぐ音で同じくらいに困らせて、

「あとで、三人で一緒にお風呂、入ろな」

 ラスト、場違いにすら感じられたかもしれないそんな言葉にも、ビビは頷いた。開け放たれた扉、遮るものなどもう何もない。あとは愛情に、ちょっぴりの傲慢さを混ぜて、腰を振ればいいばかり。

 愛しているという言葉が本当になる。互いの心を受け止めあう。自分のビビを愛しいと思う心が、対になる相手を見つけて安堵する、……俺が俺でいられる場所がここに在る。

 ブランクは変態と称されることを甘受する。ただ、幸せ一杯の気持ちになって、腰を動かし始めた。


back