風の巡る場所

 僕の生きるこの日々の幸せの大きさを、僕は知らない。

 ビビはその年の子供が考える必要もないようなことを考える。自分が勿体無いほどに幸せだと思っている。幸福の量は計り知れない。コップに一杯、水が今にも溢れそうで、ブランクにジタンに、抱き締められて、キスをされて、愛されて、その度、零してしまう。ただ、コップの大きさが判らない。どれほど大きいコップなのかが、計れない。ひょっとしたら海よりも深く広い器なのかもしれない。

「お前がされて嬉しい、幸せって、思うことそのまんまあいつにしてやりゃいいじゃん」

 ジタンは言った。その口調はちっとも責任を帯びていないが、ビビの身体を洗う手は、真面目そのものだった。

「お前も俺もブランクも、同じ形の身体してんだ。こんだけ一緒にいんだから、同じ形の心してんだ。だからお前が幸せって思うことを、あいつが幸せって思わんはずないべさ」

 流すよ、と、頭のてっぺんからぬるめのお湯で泡を流していく。ぴかぴかになった体の中で、ジタンが其処ばかり不必要なほど丁寧に洗ったものだから、少しだけ形を変えた下半身が、目立つ。

「可愛い」

 つん、と指で突かれて、思わず声を出してしまったビビを見て、ジタンがこの上なく嬉しそうな微笑みを浮かべる。

「な? お前がここ、こうなんの見んの俺、好き。あいつも好き。でさ、お前もブランクが勃起すんの、嬉しいだろ? ああ、自分でお兄ちゃんこんななってくれてんだなあって思うだろ?」

 生まれた性欲は、お兄ちゃんのために。ジタンは優しくビビの細い身体を拭いてゆく。どうせぐしゃぐしゃになることが前提の髪も、丁寧に拭いて、ブラシを入れる。

「だから、難しく考えんでさ、同じことあいつに、してやりゃいいんだと俺は思うぜ?」

 ジタンの言葉には力感が篭っていなかったが、ビビには説得力があるように思えた。自分たちの幸せが同じ形をしているのなら、そんな好運はない。よそから仕入れてくる必要はない、自家製のハピネスを分け合えばいいだけのことだ。

 ……理屈は、賢いビビ、判っている。

「でも、……できるかなあ……」

 半ばまで力の篭っていた性器は、ビビが不安げにうつむくときには、もう緊張で縮こまっていた。ジタンはそれを見て笑い、脱がせるための清潔な下着を穿かせ、ぐりぐり、頭を撫ぜた。さっきまでの勢いはどこへ行ったよ? 勢い任せで行きゃいいんだ。

 うん、それを……、僕に、出来るかなあ?

 「大丈夫だよ」と言わないでも、僕に「大丈夫かもしれない」と思わせる掌。僕のこの掌の何処に、そんな力が?

「お前の本気を、あいつに見してやれ」

 言って、ジタンは下着をビビの手に握らせた。

 

 

 

 

 ブランクは昼食を何にしようか考えていなかった。くつろいで料理の本を眺めながら考えようと思っていたのだが、早起きに買い物に家事で、案外疲れていたのかもしれない。夕べだって烈しい愛し合いをしたのであって、気付けば口を開けて眠っていた。起きたときには、口の中が乾いて、ベタベタしていた。

「お兄ちゃん」

 耳に届くのは銀色の小さな堕天使の声だ。薄く目を開けたとき、そこにその顔がある、……おお、この身の幸せよ、身に余る幸せよ、降る光一杯に浴びて、胸の上に二十数キロ、……愛に満ち、幸福なる、我が生よ。

「……おお、ビビ、どした」

 胸に乗っかってくるのは珍しいことではない。もちろん、猫とは違う、人にしては軽いとはいえ、重量感はある。だが、ビビはいつも上手にブランクに体重を委ね、甘えた。ブランクも、ビビに自分の身体の重さを意識させぬために、決して重たがる素振りは見せないのが常だった。

 そしていつものように、細い背中に手を回し、襟足から銀の髪をかきあげようと、して、先回りする唇に戸惑う。

 ちゅ、と音を立てて、ビビはブランクの鼻先に、唇を当てた。

「……どした、それ、おまえ」

 目が、丸くなった。そういう、自覚をした。見開かれた赤い三白眼の中、澄んだ色で描かれるビビの姿は、輪郭からして普段と違う。

「お兄ちゃんサービスデイ」

 ビビは聡明な子で、また、素直な子で、優しい子で、だから、俺の大好きな子で。そんなビビが、判らないことを言っている。それだけで、ブランクは大いに混乱した。「え?」と聞き返す、目の前の姿の理由と、初めて耳にした複合語が、まるで繋がらず、前と後ろからブランクを叩く。

「ジタンにね、どうしたらお兄ちゃんのこと幸せにしてあげられるのか、聞いたら、教えてくれた」

 意志の力に満ち溢れた少年の銀色の瞳はまっすぐにブランクを見つめ、その声は、格好の照れ臭さを超えて、凛と張られている。

「……俺は……、いつだって幸せだよ? ビビと一緒にいられんだから……、十分すぎるくらい、勿体ねえくらい」

 まだ、寝ぼけている、目をこすったら、目頭で目脂がちくりと痛かった。

「お兄ちゃんはもっと贅沢しなくちゃダメ」

「……はい?」

「お兄ちゃん、いっつも僕たちのことばっかり考えて、自分のこと二番目なんだもん。ごはんだって、僕やジタンの好きなもの作ってばっかりだし、夜寝る時だって一人のことが多いし……」

 だから、息継ぎをして、ビビは言う。

「僕は、お兄ちゃんのことを、幸せにしてあげたい」

 透明感溢れる、ビビの外見、瞳、内側まで、こんがらがることなくの張り詰めた一本の糸を辿ることで着くことが出来る。そこにあるまっさらだった心には、ジタンと自分とが垂らした黒い蜜が確かにある。それでも少年の純粋さを失わせるどころか、黒い点が在ることで帰って白地が眩く光を放つ。

 どこまでも無垢で、だからこそどこか滑稽なものと感じる。ブランクは、目が醒めた。

「・……それで、そのカッコ?」

「ジタンが、お兄ちゃんが喜ぶって言ったから」

 はあ、とブランクは溜め息混じりに笑みを漏らした。少年の双眸を見れば真剣そのもの、波動を伴って伝わる、決して笑ってはいけないと、飲み込み飲み込みしているうちに、口許には本当に和やかな笑みが浮かんでいた。

 ブランクの裸の腹の上、ビビは可愛らしいメイドさんの格好をしていたのである。

 寝起きに見たら何と思うか。永遠の眠りに就いてしまったのだ、此処は天国なのだと、観念するほかないのではなかろうか。

「似合ってるよ」

 丁寧に櫛を入れた銀の髪にバレッタまで嵌めて、足元には室内でありながら艶を帯びたミディアム・ヒール、細い足には純白のタイツを履いているし、肘までの白手袋も嵌めているという念の入れようだ。白のブラウスに、紺のワン・ピース、胸元にあしらわれたフリルも愛らしい。

「ジタンに用意して貰ったん?」

「ん。ジタンが、持ってた」

 馬鹿かアイツ。いや、それはよく知っている、俺が一番よく知っている、アイツは馬鹿だ。

「……で? ……それで、どうするの?」

 手袋は黒魔道士共通の衣服を身に纏っていた際にもしていたはずだが、あれはビビの手にはやや大きいように見えた。メイド・ファッションの白手袋ならば、ビビの指の繊細なラインがより強調される。

言ってしまえば「女装」であるが、それが滑稽に映らないのが、何ら不思議ではない気がするブランクである。ビビの頬は甘やかな曲線で描かれ、ぱっちりとした目元に険もない。そもそも、まだ身体自体がどちらの性に落ち着こうか――もちろん、男の子ではあるのだけれど――迷っているかのように見えるビビだから、そういう格好の似合わないはずがないのだ。

ジタンの狙うところはよく判った、それでこそジタンだなどと、見直してやりたい気持ちになった。

「……このカッコで、お兄ちゃん、してあげたら、きっとお兄ちゃん幸せになれるって、言ってた」

「するって……?」

 ビビは、一度だけ、ブランクから目を逸らす、「えっちなこと」。

 そりゃあそのカッコでしてもらったらどんな男だって、ぶっちゃけノンケだって幸せになれんだろうよと、ブランクは胸の内で呟く。ビビ自身の持つ淫性が、色を為すとすれば赤であり、それが頬に差した瞬間、少年の表情は、愛し愛されの天賦の才、発揮して、ブランクの心の琴線を爪弾いて軽やかな音色を奏でるものとなる。

「してくれるの?」

 ビビは、こくんと頷く。胸をそっと押されたような、甘ったるい息がブランクの唇から零れた。極めて卑猥な幻想の、具現化した姿を自ら選び、胸の上にあるビビを見て、「愛しい」と思える自分が、ビビの恋人として認められた地位に在るのだと、己が心の置き場所の高さに、ほんの少しの眩暈と共に、誇りを感じる。

 

 

 

 

 乾いた風の吹く場所で酒を呑むと、其処に巡る存在と言葉を交わす事だって出来るような気がしている。要するに軽い酩酊状態で、まだ太陽の真上にくる前の時間にアルコールと親しむのは大いに問題ありとも思うのだが、今日ぐらいはいいだろう、

「なあ?」

 ジタンは石段に腰掛けて、隣に座っていると規定する存在に声をかけた。

「……まあ、いいんだけどね。ビビ、俺の事だって好きなはずだよ、なあ?」

 「うん、僕もそう思う」、賢者は優しい声でジタンの頬を撫ぜた。

「あの子は間違いなく君を愛している。君を愛しているからこそ、彼のことも愛するんだ。彼が君を幸せにしていることを知っているから」

「ああ……、そうだよなあ。うん、ブランクいるのは幸せだしさ、あいつがいて、ビビと一緒にいるのが余計に楽しくなるってのはもちろんある。夕べもさ、砂漠の光、判る? あれをあいつが仕入れてきてさ、すげえ遊んだんだ」

「……まだ十歳だよね? ビビは」

「うん。でも、ビビすごいよ、どんどん成長してる。見た目はほとんど変わんないけど」

「それは、知ってる。一日に一回は必ず来てくれるからね」

「へえ……、そうなん。知らんかった。いつごろ?」

「大体は朝だね。朝早い時間……、たまには夕方になるときもある。朝来ないと『ああ、夕べはたくさん遊んだんだなあ』って判る」

「つまりは、今朝だな」

「うん。……夕べは君たちの匂いが此処まで流れてきた。安眠妨害もいいところだ」

 すいませんでした、とジタンは墓石に背を委ねて、笑った。

 

 

 

 

 家での寝姿に責任を持つつもりもないブランクで、シャツにトランクス一枚、暑い日にはシャツすら除かれてトランクス一枚。それでも最後の一枚の鎧を平気で脱いでしまわないあたり、ジタンとは一線を画す。とは言え、脱がせやすい格好であることは確かで、白手袋の手は下着の上からブランクの性器を撫ぜる。

「……えっちなメイドさん」

 ビビの幼い肉体に宿るのが、不適切に淫らであることを、ブランクは当然ながら歓迎する。それで社会に対して何の不都合もないように、努めて行くのが俺らの仕事と自覚している。

「……えっちな僕は嫌い?」

 清楚可憐なる容姿に、真反対の淫らさが宿るから、尚のこと胸に堪える。とんでもございませんと、おどけて言ったら、白い手は淫ら以前に優しい手付きでブランクの性器を擦り始める。薄布二枚向こうにビビの柔らかな手のひらがあり、僅かに抜けて体温が届く。ビビの手は小さく、指も細く、一方でブランクは立派と評するに問題のない性器を持っているから、その部分だけ切り取って見た時点で、既に危うい。下着の中で既に鋭い熱を帯びた性器の勃起している様が、くっきりと尖った輪郭として浮かび上がるとき、ブランクの性器は殺傷能力すら秘めて在るように映る。

「今日は、全部、お兄ちゃんのしてほしいこと、なんでもしてあげる。お兄ちゃんのしたいこと、何でもさせてあげる」

 ジタンにそう言えって言われたん? 訊いてみたい気がしたが、そんな余裕もない。穢れ無き銀の瞳、真っ直ぐに向けられて、鏡のように映る自分の目を見る。喜色を孕み、邪悪に光る。ああ、ひでえ顔してんなあ、そんな風に思って少しは格好付けたくもなるけれど、ビビはそんなブランクの顔を見て、心臓の蕩けそうになるのをどうにか堪えているのだ。

「……んーじゃあさ、……ビビ」

 手を、止めさせた。もっと撫ぜさせていたいが、あっさりと「直に触ってよ」「キスしてよ」「しゃぶってよ」、欲のとめどなく溢れてしまうのは容易に想像が出来た。

「ビビの可愛いカッコ、俺、もう少し見たいな。ちょっと立って見せて」

 そんなことでいいの? もっと何でもするよ? ビビはぱちくりと瞬きをした。物事には順番ってものがあると、ブランクは頬を撫ぜた。何のためのメイドさんの格好か。行為自体は普段とさほど変わらないし、得る快感もいつもと同じ。ならば、その前段階だって楽しみたいじゃないか。

 ビビはソファから降りて、立ち上がった。

元々少女のように愛らしいビビである。この格好のビビを連れてジタンと外を歩けば非難の目を向けられるのは明白だ。だが、スカートの中はどこまで行っても男の子、……のはずだが、メイドの格好をしていると、それさえ覚束ない、「確か男の子だったよな?」、平時には小さくてぷにぷにで、勃ったところで一口に収まる、「とびきり可愛らしいちんちんがとびきり可愛い」とジタンが称える陰茎をつけていることが、本当だったのどうか。

 だから、ブランクは訊いた。

「なあ、パンツ、どんなん穿いてるの? 普段と同じの?」

 ビビは、自分のスカートを見る。

「……見たいの?」

「ん、見たいな。普段と違うのなんだ?」

 こっくりと頷く。ブランクが手を伸ばさないのを見て、自分で、裾を摘んで持ち上げた。当然、見せることになるのは判っていたし、ジタンが「これ見たらアイツ喜ぶぜ」と言っていた、見せることを前提に穿いているのだ。

「うお……」

 ブランクの口から、思わずそんな音が零れた。

 細い足にフィットしたソックスの質感が、艶かしくも感じられる。太股、細い足でも締め付ける圧力を感じさせる括れと瑞々しい肌を経て、目線の辿り着いたビビの局部を覆っているのは、下着と呼ぶにはあまりに頼りない、白いレースのショーツだった。

「……すげ……。これ、すげえな、ビビ……」

 心臓が数拍、空足を踏んだ。舌の下から甘酸っぱいような唾液が滲んで、それを飲み込めばみっともないのは判っていたけれど、涎を垂らすよりはマシだと、ごくん、嚥下する。ビビの小さな性器ですら窮屈そうな印象があるのは、当然それが女性物であって、突起物の収容に適していないからだ。薄い生地とフリルを透かして、肌色の性器が身を捩ってどうにかこうにか収まっているのは、淫靡とか猥褻といった言葉が羞恥心を感じるほど、超越してブランクの肺を押し潰す。

「……へん、じゃ、ない?」

 自分のこんな姿も、ブランクにとっての喜びになればいいと願う半面、自分のこんな姿が喜びとなる人の気持ちを判れないものだから、ビビの声には不安の数滴が混じる。ブランクはその無垢なる表情こそが、飲み干したとき最高に痺れる果汁なのだ。

「……うん、へんじゃ、ない。……ってか、マジ、すげえ……」

 心臓に毛が生えている自覚はあるし、人より図太い神経を張り巡らせているはずなのに、ブランクは自分の頬がほの赤くなったのを感じる。目が眩み、喉が渇き、唇は戦慄く。それらをどうにか落ち着けて、改めて、見入った。

「……可愛い、な」

 その瞬間、ブランクは語彙の少なさを呪う。どれだけ言える? もっと、もっと、もっと、お前の可愛さを、賛美したい! 謳い上げたい! 韻踏んで!

 脳内大音響に目を回すブランクに気付くことなく、ビビは喜んで貰えてよかったと、ただ安堵する。こんな滑稽な格好の自分で本当にお兄ちゃんが喜んでくれるのだろうかという懸念を、ようやく払拭するに至る。

 ただ、あまりじろじろと見詰められるのは、ほんの少しの困惑を孕む。少年にとっては自分の身体など、他の誰とも変わらない、何の特徴もないもので、何故ブランクやジタンがこれほどまでに執着するのかという問いの答えは未だに出ない。

 僕はお兄ちゃんたちのの方が、かっこよくて好きだけどな。

「ビビ……、なあ、ほんとに、すっげ可愛い。お前の……、透けて見える、な」

 縛られたようにその場から目線を外せないブランクは、ずいぶんと醜い自分を自覚しながらも、言った。声は童貞のように震えて掠れる。一方でその声を聞くビビは、欲を搾って溢れる汁のようなブランクの声を、セクシーだと思うし、耳の中に一滴垂れて、脳を赤く染めるものと受け止める。

 いけない、と思った時にはもう遅い、愛しい視線に晒されて、性器を巡る血が加速する。

「……ん……っ……、やだ……」

 ひく、とかすかに下着の中、蠢いた性器が、熱を持て余して困る。窮屈な布を押すように尖り、呼吸をするように、ぴくり、ぴくりと震える様を見て、ブランクは軽い眩暈を覚える。穿いているのは女性物の下着、身につけているのは清純なる少年、しかし俺の視線に纏われて勃起して、頬を赤く染めている。矛盾が錯綜し、現状の把握すら困難になる。ただ、ブランクは気道の焼けつくような熱い息を繰り返し、完全に勃起してしまったビビの性器に、ますます縛られる。「見られて感じちゃうんだ?」ぐらいのことを言ってやってもいい気がする。だが、いつものようにクールな声を出せる気はしなかった。全くジタンはよく判っている、……女装少年に焦点の合う自分であるということ、自分すら知らなかったことを、見抜いていた。

「……おにいちゃん……、恥ずかしいよ……」

 スカートをぎゅっと握って、ビビが声を上げる。その声に我に返る。一度ぎゅっと目を閉じて、開いて、唇を一つ舐めた。

「……本当に、よく似合ってる。えっちな下着、えっちなビビに、すっげえ似合ってるよ」

 言って、前のめりになっていた身を起こす。溜め息を一つ、ゆっくりと吐いて、手の汗をソファで拭いて、ビビを抱き締めた。

「可愛いなあ……、可愛いなあ、ビビは……、ほんとに、困るくらい可愛い」

 ぎゅっと抱き締められて、ビビはひくんと身を震わせる。少し熱い体温の中に包まれると、安堵しきって、弛緩しきって、だけど膀胱の辺りが染みるような気持ちになって、全てをこの人に委ねきってしまいたいような気になる。甘えれば、どこまでだって甘やかしてくれることを知っている、どんな幸福にだって連れて行ってくれることを、知っている。

 だが、ビビはそれを留める。自分がこの格好をしている理由に、思い至る。

「……お兄ちゃんは、かっこいい、よ?」

 ブランクの頬を両手で包んで、間近に見詰めて言った。派手な縫い目の走る顔、はじめに見たとき何と思っただろう?

 こんなにかっこいい、こんなに綺麗な人に、愛されている自分なのだと思えば、目が潤みそうになる。

「大好き」

 キスをして、そのまま鎖骨に、逞しい胸板に、ブランクの身を横たえ、唇を落して誤魔化した。窮屈な下着の中で、どうにも逃しようのない熱が渦巻いているのを感じている。でもこれぐらい、お兄ちゃんは平気でやりすごすはずだと呑み込んで、ブランクのトランクスに辿り着く。少しばかりの汗の匂いに、またどこかの糸をぴんと弾かれたような気になった。下着の上から、キスをした。

 ビビの舌が、布一枚を隔て、熱と湿り気をブランクに与える。直接舌を這わせるよりもずっと不器用で、ずっと遠い。だが、下着の上を這う舌と唇の濡れている様を見れば、尿道に刺さるような刺激が走る。裾から、白手袋の手が這入って来た。陰嚢をさらさらした手触りの指で擽られながら、蓄積されていく快感を数える。

「……ビビ、……」

 賢い子はその言葉で全て把握する。ブランクのトランクスを引き摺り下ろして、

「……たくさん、出してね」

 でも、一回だけじゃ、終わらないで。いっぱい、いっぱい、してね? 赤黒く勃起するブランクの性器に、唇を当てた。白い手によって描き出される鮮やかなコントラスト、包み込んだ手袋の指を濡らすぐらいに唾液を絡ませて、ブランクの性器が震えるのを、いとおしげに見詰める。舌を一つ、這わせて、ブランクが一つ、見せる震えに、ビビは尻の奥がむず痒くなる。「欲しい」、言えば、きっとすぐに叶えてくれる。

 でも。

 ビビは、愛撫を止めない。唾液に粘っこい光の絡む性器を咥えて、衣服と最高に裏腹な下品な吸い音を構わず立てて、舌を巡らせる、愛を絡ませる、どんな自分でも認めてくれるこの人のために、この人の望む僕で居たいと、ビビは願う。

「お兄ちゃん……、好きだよ」

 そう言う為だけに、ビビは一瞬、口を離した。

 ブランクは息一つすら猶予のない自分に気付く。ビビの唇の端に、細かい泡が立って、それがビビの頭を動かすたびに潰れてはかなく消えるのを見て、……息を止めて射精する。

 

 

 

 

「アイツがいるからさあ。アイツがいるからね、……俺一人じゃ、ね」

 ジタンはひんやりとした友の肌に頬を当てて、苦笑いと共に零す。

「俺一人じゃビビのことあそこまで良くはできんし、……それだけじゃない、アイツに俺がされたいって思う時もあるわけ。ビビがすっげえ優しくされてんの見てさ、時々嫉妬しそうになることもあるんよ、……ビビにだよ?」

 賢者も、ジタンの零す甘ったるい苦笑いが伝染したような表情で、頷く。

「あの人は……、優しいからね」

 知ってんの? というジタンの問いに、あっさりと彼は頷く。

「悩んでいたよ、彼は。……すごく、悩んでいた。この村に、まだ来たばかりの頃だ。君たちの幸せを目の当たりにして、……君のことが恋しい、ビビのことが愛しい、そんな気持ちを自分の中に生んでしまったことを、酷く悔やんでいた。君たちが君たちのまま幸せで居るところに、自分が来ることでそれを壊してしまいたくない、……だけど自分の欲を諦めるのも辛い。その挟間で、ずっと悩んでいた。だから、……夜遅い時間によく此処へ来ていた」

 今日、ビビを、やっちゃいました。

……「お兄ちゃん、一緒にお風呂入ろ?」、俺の分のタオルを、ちゃんと用意して、……下から見上げる目線に、俺、どうにかなりそうだった。可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛いって、病気みたいに、病気みたいに。俺の前で、ジタンに見せるのと同じ裸を見せて。触りたいっつったら、触らせてくれた。俺が一番最初にあの子に悪戯したときのこと、ちゃんと覚えてた。「あの時はありがとう」って。俺が抱き締めたら、ぎゅって、抱き締め返してくれた。涙が出そうだった。実際、泣いてたかも知れない。でも、止まんなかった。止められんかった。小さい身体の隅から隅までキスした。最初はさ、くすぐったがってた。だけど、途中からすっげ、感じてくれてた。可愛くって可愛くって可愛くって、ちんちん弄ってやったらすぐいった。なのにあの子は、俺の手をぎゅって握って、「お兄ちゃんも、気持ち良くなろう?」って。

「彼の気持ちは、……判ってしまうんだ、僕には。そして、僕は彼に少しだけ嫉妬する。君に対してするほどの嫉妬ではないけれどね。僕は自分がどんな立場に在るのかも忘れて、彼を許したい気になった。……だって、仕方がないことだもの。でも、じゃあ、どうしたらいいって、僕に確たる考えがある訳でもない。現実は全てを超越して優しかった。今の彼は、壊れそうなほど繊細な幸せを、君とビビとを最大限に尊重することで護ろうとしている。君の笑顔が、ビビの笑顔が、僕にとって心底から、涙ぐみたくなるほど、幸せであるように、彼にとってもそうなんだよ。だから彼は、自分に出来るあらゆることを考える。美味しいご飯を作ること、三人で幸せなセックスをするために薬を手に入れること」

「でも、それは、……ビビだって、俺だって」

「うん、……だから、僕はますます嫉妬する。君たちは最高の三角関係に在る。君もビビも、彼が幸せであることを心から願っている。もちろん、ビビは君の笑顔を護りたいと思うし、君だってビビのことを心底、ね。……だからこうして、朝昼夜、君たちの顔を見せられている僕は、……どうしたらいいのかな」

 ジタンはあははと笑って、友の肌にキスをした。自分の体温が移って、ほのかに温かい。

 

 

 

 

 ビビは躊躇ったが、ブランクが「したい」と言ったから、ブランクの膝の上に身を任せた。本当はもっとこの手と舌でブランクのことを幸せにしなければいけないと思っている。それでも、それが彼の望みであるならばと。

 後ろから、ブランクはビビを嗅ぐ。首筋、耳、優しい石鹸の匂いは清潔感すら漂う。柔らかく、瑞々しい頬は、ブランクに敏感な腺のラインをなぞられると、すぐに林檎のように赤くなった。小さな耳へ、ちゅ、ちゅ、とわざとらしい音を立ててキスをするたび、連動して震えるのを、「可愛い」と言葉を差し込んだら、ふるふると首を横に振った。

「こんなに可愛いのに。……お前は気付いてないんだなあ……。もったいないの」

 くすくすと笑って、ブランクはビビのブラウスのボタンを上から三つ、外した。当然のことながら、少年に膨らんだ乳房はない。胸元を開き、パットの入ったブラジャーを外しても、平べったい胸があるばかりだ。ただ、そこにはほんの小さな薄紅色の果実が実り、目にも麗しい。

「なあ、例えばビビのおっぱい。可愛い、俺とジタンには、すっげえ可愛い」

「……なんにも、ないよ? 柔かくないし……、おっぱいも、出ないし」

「ぺったんこでいいの、出なくたっていいの。ビビのおっぱいってだけで、俺たちにはおなかいっぱい。でも、そうだなあ……、例えばこの色、うすピンク色、えっちな色」

 耳元、転がされる言葉に、ビビは反論も異論も用意出来ない。他の男の子だって同じようなもののはずだと信じて疑わないのだ。だが他の同世代の男の子は、乳首を指で弾かれて、甘い声と共にひくりと震えるようなこともない。ビビにとって重大な性感帯の一つである。

「ビビの耳、首、肩、手、足の指だって、爪だって、背中も腰も、俺たちにとっちゃ特別。お前そのもの、お前の身体、お前の心、お前から切り離されるもの、……お前に纏わるもの、全てが、たまらなく俺たちは、愛しい」

 体温、匂い、鼓動、重さ、抱き締めて感じる全てが。

「……此処だって」

 ブランクはビビのスカートを捲り、窮屈な性器をどうにか隠匿する下着を、ビビの肩越しに見下ろして、「……見てもいい?」、ビビが頷くのを待ってから、そっと、ウエストのゴムを引っ張って、ブランクの手で簡単に隠せてしまう性器を取り出した。

「今、めっちゃ元気になってる。震えて、……ちょっと赤くなって、先っぽ、ほんの少しだけど、ね、おしっこの割れ目が見える。濡れてるのも判る」

 一つひとつを、丁寧に掌に載せて、ブランクは優しいキスをするように称える。真っ直ぐな目線に邪悪さなど微塵も感じられないのに、愛撫するような言葉にビビは性器を何度も弾ませる。止めの利かない幼い性欲、既に勃起した状態で、ブランクの精液を飲み、キスを幾つも貰い、……どうしよう、もう。

 触ってと、いう前に、ブランクはビビを膝から下ろし、ソファに座らせると、ぴんと背伸びする性器に鼻を寄せて微笑む。

「いい匂いがするんだ」

 わざとらしく嗅ぐ音を立てる。

「んあ……っ」

だが、いい匂いがするのは本当なのだ。甘酸っぱくも、潮の香り。それを分析して、単なる垢の匂いとしたり顔で言うような無粋は蚊帳の外、ブランクにとってはどんなに嗅いだって飽きることのない匂いで、いっそタオルケットの端っこがこの匂いだったらいいとまで思う。多分ぎゅうっと鼻に押し当てて、毎夜素敵な夢を見るはずだ。

「んん、はぁ……っ、んっ……」

 「やだ」とは、言わないと決めたから、唇を噛んだ。胸からお腹へ、お腹から、おちんちんへ、走る……、それが何かを、少年は未だに判らない。ジタンに、ブランクに、愛撫を重ねられて、限界が近付くたびに、ぞくぞくと走る感覚に伴って、触られても居ない乳首の先がちりりと熱くなって、涙が浮かぶ。「飲ませてな?」、ブランクはビビの後孔に触れても居ないのに、内側を擦るような声を這わせ、幼根を口の中に収めた。

「あ……っんっ、……んん! ふ、あっ、あ……!」

 太股に絡む下着がもどかしく感じられる。こうなってはもう裸と変わらない。だがブランクはビビがスカートの裾をぎゅっと握る手にも、淫らに開かれたブラウスの胸元にも、心躍る。

「っく……! んっ」

 びく、とビビの性器が、弾ける。口へ広がった甘酸っぱい潮の味、一度、二度、三度、年相応に量は多くない、それでも、いい、味わう、心置きなく、舌に絡めて、ゆっくりと飲み込む。

「……っ、に、ちゃん……っ……」

 濡れた目、見下ろす。唇、戦慄く。……たまんないよ。

「ふあ! っ、……、だ、だめっ、まだ、……だめだよぉ……!」

 濡れてるから、と泣き声を上げたのも構わず、下着を上げた。そのままくるんとうつ伏せにして、……ああ、Tバックだったんですか、溜め息が溢れる。つるりとした尻はほぼ完全に露出していて、頬を寄せれば滑らかで瑞々しい。変哲もない少年の小さな尻のはずなのに、どうしてか、こんなに淫らに映るのは、この子の内側から隠しようもない淫性が滲み出るから。

「っあ、あっ……ん! まだぁ……っ、った、ばっかり、だからぁ……っ」

 すべすべの双丘に、唇を当て舌を這わせ、足と足の間から射精の余韻残る陰茎に掌を当てる。先端の突っ張るレースが、じわりと濡れていた。

「だめだよぉ……っ」

 ビビは、悲しげに鳴く、「僕が、……っ、ぼくが、して、あげなきゃ……っ」、ブランクは喉元で笑みを殺して、尻を縦に割る赤い糸に指を入れた。

「ビビにすんの、幸せだよ? すっげ、幸せだよ?」

 ぷつりぷつりと皺を成す、幼く小さな穴へ指を当てる。分析は要らない、俺とジタンにとってはしばしば入口となり、受け入れてくれる、場所だ。

「せっかく可愛いパンツ穿いてくれてんだもん、脱がしたら勿体無いだろ?」

 ブランクは笑ってそう言い、指をそっと。

 

 

 

 

 殻のジャム瓶を灰皿代わりに、ジタンは暫く煙草を吸っていた。賢者と話をするのは、とても心が平らかになる。解脱の境地に居る賢者は、しかし俗っぽさを少しも失うことはなく、極めて好色な、しかし高貴な老人のように、風の形をして其処に在った。

「あんたはさ、……ビビを抱きたいって思う?」

「ん?」

「ビビのことを……、ぶっちゃけ言ってさ、ビビのお尻の中にちんちん入れて、中で射精してみたいって」

「ああ、うん、またしたいね。出来ることならば」

 ジタンが邪悪な声で聞き返した。彼は風なものだから、平気に、

「うん、……いつだったか、お風呂に入れてあげたことがあったろう。あのときにね。……僕にだって良心がある、同時に性欲がある、しかし同時に罪悪感があり、また愛情も在るんだ」

 煙草を挿んだジタンの右手は力なく瓶の上に降りた。

「……あの子さ……、俺さ、これ、判ってるつもりなんだけどさ」

 賢者がくすくすと笑う、ジタンが背中をもたせるのではなく、ジタンに頼るように、そっと甘えかかるように。

「淫乱な……、とても淫乱な、悪い子だね」

 でもしょうがない、あの子、どうしたって可愛い。ジタンは全面的な同意に基づいて頷いた。ビビのことが好きだ。大好きだ。正義と書いて何と読む? 愛情と書いて何と読む? 果てない思いなら、果てまで行くことに意味もない。だったら程ほど、答えて貰える限りの、その声の聞こえる場所で、満足するのが本当のところ。

「あの子はきっと、世界中の人に愛される。それはあの子の見た目の可愛さに基づくものではない。与えられた短い命の中で、一つでも多くの愛に触れたいという願いが、あの子の指のこなし一つから滲み出るのだと思う。愛される為に、誰かを幸せにするために、次分に出来ることは何なのか、……恐らくそれは、命そのものの在り様ではなかったかと、僕は想像する」

「俺がいくらだって愛してやるのに」

「最初はそれで良かったのだろうね。ところが、彼は思いのほか長い命を手に入れてしまった。其処に欲を見出すなと言うのは無理な話だ」

「……その長い命をくれたのは」

「まあ、……僕も多少の手助けをしたことは認めるよ。だけど……だから、僕は、今のビビの在り様には誇りを持っている」

 賢者の微笑みは、其処にある種の欲の在ることなど、ジタンには到底信じられないほど、穏やかなものだった。ジタンは元々あんたに勝つ気もないと、卑小な自分の中にある欲、昼間中は我慢して、夜、ビビに見せて、どうにかしてもらおうと決めて、家の方を見た。

 今頃どんなことしてんだろと、思った視線の端に、大事そうにビビを抱いたブランクが歩いてくるのが見えた。ビビの目は潤んでいて頬は真っ赤に染まっている。

「……どうしたんだよ、まだ……」

「リクエストにお応えいただきましてどうもありがとう」

 ブランクはにぃと笑って、下ろしたビビの髪を撫ぜた。ビビは今にも泣き出しそうな顔に見える。だがそれが、悲しみによるものではなく、果たせない欲によるものだということは、ビビの色んな種類の表情を間近に見続けてきたジタンにはすぐに判別出来る。

「お前の準備で俺が良くなれたからさ、今度は俺の準備でお前のこと良くしてやるよ。……ビビ?」

「……お兄ちゃん……、僕……」

 困惑しきった目に、隠しようのない欲深さを湛えて、見上げたビビに、ブランクは心底から優しい微笑で返した。

「お兄ちゃんはビビを愛してる。俺のためにそんな風になってくれるビビのことを、本当に本当に大事に思ってる。でもな、俺は」

 屈んで、小さな耳にキス、「三人一緒が一番幸せ」、ちょっとの嫉妬を、羨望を、この身の底にとろ火で置いて、だからこそ熱くなる思いと共に在る、……そんな居場所、損な居場所、この立ち位置に誇りを持っている。

「見せてあげなよ」

 困惑しきって立ち尽くすジタンの前で、ビビは、自分のスカートを、震える指で摘んで、捲って見せた。

 風が一つ、噎せるように吹いた。

「……おま……、それ……っ」

「好きだろ、こういうの」

 ビビが開いたジタンの目線の先、ビビの下半身を覆う下着はその性器に纏いつく液で、じっとりと湿っぽい。某過日の一件で、ビビの失禁するのを見るのは大好きなジタンである。下着を身に付けたまま射精に到ってしまったビビの姿に、官能が激しく掻き鳴らされる。

「ちなみに、お尻には『砂漠の光』もスタンバイ中。……つっても、抱っこしてここ来る最中に割れちゃってるけどな?」

 言って、ブランクはジタンに、ビビの尻も晒した。太股に伝う蜂蜜のような液を見て、白紙状態に陥ったジタンの脳内とは遠く離れた下半身で、性器が痺れるように痛んだ。

「ビビが俺のこと幸せにしたいって気持ちは判ったし、実際、このカッコのビビで俺はすっげえ幸せになれた。けど、俺だけが幸せになってる間にお前がこうして一人で待ってるっていうのは俺の性に合わない。ビビだって、俺一人だけじゃなくて、お前と二人でいじってあげれば、もっとずっと幸せになれる。そうだろ?」

 心臓が暫く、動きを怠けていたかもしれない。血が巡り始めると、顔が真っ赤になる自分に、ジタンは気付いた。そして、誘われるようにビビにキスをした。唾液の味が既にいやらしい気がする。舌と舌を絡め合うそれだけで、酔いが廻るような気もする。

「ビビ、……超、可愛い」

 スカートの中の、濡れた下着に触れた。粘っこい白蜜が指先で滑る。布の中で、次の射精を待ち侘びて震えている。屋外であることも気にならない。膝の上に載せて、キスをしながら、……もっとこの子の下着を汚してやりたい、そして恥しさに塗れた顔を見たい、マゾヒストの中にも存在するサディズムが頭を擡げた。「んやあっ……」、下着の上から擦って、それだけで全身をびくびくと震わせて、ビビが射精するまでの間、ジタンの口はずっと空いたままだった。

「……三人でしようや。な?」

 ブランクは笑う。卑猥なことに誘っているようには、到底見えない笑顔は、いっそ爽やかと言ってよかった。ジタンは腕の中のビビが、未だ尽きない炎に内側を舐められ、浅い呼吸を繰り返しているのを見て、砂漠の光の妖しい力が伝染したように赤い頬をして、こくんと頷いた。


back