私の女王様、私だけの女王様

 性格の問題上、秋の和やかな陽の降る四人の家には小さな少年を重心とした正三角形が成り立つと同時に、重心へと伸びる線は一種のベクトルになる。其れらは同一の太さであるが、色がまるで違うのが実態なのだ。

 ビビはブランクのことを「お兄ちゃん」と呼ぶ。当初より、そう呼んでいる。

 ビビはジタンのことを「ジタン」と呼ぶ。

 ビビは288号のことを「288号」と呼ぶが、時に他の二人の居ない場所では「お兄ちゃん」と、ブランクに等しい呼称を使う。

 この現象を以って安易に、少年がジタンを尊敬していないと指摘するのは性急に過ぎる。十歳の少年は少年なりにジタンのことを尊敬している、というよりは、ビビは人のことを尊敬することが大の得意だ。その気になれば彼らの住まう村を中心に半径一キロを焦土と変えてしまえるほどの魔力を宿す黒魔道士でありながら、少年には決定的に自信というものがなく、それは恐らく近隣の野生動物が平和な生活を営むということにおいては重要と言えるだろうが、ビビは例えば初めて会った誰かが、ほんの小さなことでもいい、例えば正方形の色紙で鶴を上手に折って見せたとしたら、それだけで彼或いは彼女のことを尊敬する。ビビは聡い少年であり、知識欲を持ち、次々と色んなことをマスターしては行くけれど、其れは「世界は自分のまだ知り得ぬ神秘的な物事で満ち溢れている」と学ぶことと同義であるのだ。

 さて、ビビは今日もジタンを「ジタン」と呼ぶし、ブランクを「お兄ちゃん」と呼ぶ。二人のことを同様に尊敬する少年ではあったが、ジタンとブランクを比したとき、どうもブランクのほうが色々と賢いのかもしれないと思う瞬間があることは否めないようだ。例えば同じケーキを焼くにしても、ジタンは大体何処かおかしなものを焼く、ブランクはお店に出したっていいような出来栄えのものを。

 また、ジタンはすぐにお腹を壊す、腸が弱い訳ではない、人並み外れて丈夫であるのだが、そのくせ夜寝苦しいとすぐに腹を出して寝る、ビビが知り合ってからもう十回は「腹痛い」と涙ぐんでトイレに閉じこもって、他の三人に迷惑を掛けた。ビビが通り掛かった廊下に汗だくでひっくり返っていたりして、思わず腰を抜かしたこともある。ブランクの調合した薬を飲んで「わかった、うん、俺、今夜から腹巻して寝る」と宣言するのだが、三日後にはもう忘れているのだ。

 だから、ブランクの方が多分、賢い。ブランクだって風邪ぐらいひくのだが。

 遠回りすることなく核心を指で差すならば、夜の在り方だってジタンはあまり美しくは無い。無論ビビはそんなジタンであっても愛しているし、抱かれることには悦びしか伴わないのだが。

 「288号に抱かれる夜」という言葉に、ビビは少しく違和感を感じる、「違和感を感じる」という言い回しと同じくらい、違和感を覚えるのだ。最後にはその腕に抱かれて夢心地であったとしても、288号がそういうモードになるまでにはワンステップ、ツーステップ、スリーステップほどの時間が必要であり、またその段を上がるためにはビビの指であったり声であったり唇であったりが必要なのだ。その気になればジタン以上に変態的な行為にだって及んでしまうのに、「その気」になかなかならない。ただ、この人はこういう奥床しいところが素敵なのであって、僕はこの人が何かを隠したりする労力を払わなくてもいいように、するんだ、ビビはそう決めている。

 ブランクに抱かれる夜、ビビは何処までもその腕に委ねることで夢心地。その言霊の魔法で、僕は何処まで壊れてしまうんだろう? 考えると時々怖くなる。ブランクのベッドに入る前には、ちゃんとおしっこをしてからでないと不安だ。しても不安なのだからもう、完全に虜になっている。と言って、ブランクにそういうことをされるのは嬉しいし、半面自由でもあるのだ。ブランクはいつでも優しくビビの我が侭を、そんなこと我が侭でもなんでもないと言うように聞いてくれるから。

 問題はやはりジタンなのだ。288号、ブランク、ジタン、みんなで。何となくそういうローテーションが出来上がり、それぞれの夜にそれぞれの喜びが満ち溢れているし、ジタンとする行為だって楽しいのだが。

 ジタンはその性欲が、素直過ぎる。

 素直であるから、強過ぎる。

 ビビの裸を、次の時にはああしたいこうしたい、多分、そういうことばかり考えて暮らしている。だから他のことがおろそかになる、腹巻を忘れてお腹を壊したりもするのだ。

「それが、彼なりの愛情表現なんだろうと思うよ?」

 お腹痛いお腹痛いと、当の本人はトイレに篭っている。ブランクは面倒臭そうに薬を調合し、288号は三人分の紅茶を入れて。

 288号の言葉はとても優しく、

「……っていうか、馬鹿だから、あいつは」

 ブランクは、もう少し手厳しい。

「お前は可愛いからなあ。可愛くって、でもって優しいから、何でもさせてくれる。遠慮ってもんがねーし」

「でも、ジタンだってちゃんと優しくしてくれるでしょう?」

 288号に訊かれて、うん、とビビは頷く。男同士、ましてやビビのように小さな身体をした少年を相手にする以上、生じる痛みとは無縁ではいられないはずなのに、三人の男を代わる代わる受け入れるビビの身体に少しの負担も掛からないのは、やはりジタンを含めて、壊れ物を扱うように繊細な指でビビに触れるからに他ならない。

「……でも、あのね」

 ビビは言う、

「ジタンは、あれしたいこれしたいって言って、僕にはあんまりさせてくれないんだよ。……こないだ288号にしたみたいなこと、僕もジタンにしたいなって思うんだけど」

「あんたビビに何してもらったの」

「……は」

「……紅茶零さないでね、零したら拭いといて」

「……はい」

 布巾を取りに席を立ったビビに、「……何してあげたの?」と小声でブランクは訊く。

「えっと……」

 声を潜めて、「……おしっこ、するとこ、見せてあげた」、ブランクはスマートに紅茶を零す。

「……サービス精神が旺盛なことで」

「だ、だって、……お兄ちゃんもジタンも、見るの好きってゆってたから」

「うん、好き。っていうかね、男は大体、大好きな子のおしっこするとこ見るのは大好きなもんだよ」

「……だから、288号も嬉しいかなって」

 布巾を手に戻ってきた288号は、丁寧にテーブルを拭いていく。ずっと端正な頬に視線を当てられていることに気付きながら、無表情を保ってブランクの零した分まで綺麗に拭いていく。

 今夜は、ジタンの部屋で寝るビビなのだ。今は腹が痛い腹が痛いとそれどころではなくても、ブランクの薬も効果を発揮するだろうし、夜になればまた迷惑な性獣が復活するわけだ。

「……ビビは、たまにはアイツのことリードしてやりたいんだ?」

 やや乱暴を意識して、ブランクが総括する。ビビは少し頬を赤らめてこっくり頷く。

「ただ、……彼はいつも自分の欲が先走ってしまうから、君の思うようには出来ない?」

 288号も、この坩堝の如き家の中で短からぬときを過ごして来たから――無論多少の動揺無しでは受け止められないに違いないけれど――恋人の悩みに真ッ直ぐ向き合う。ビビがまたこっくり頷いたら、微力と自覚していても何らかの手助けはしてあげたいと思う男である。

「……あいつはさあ、ビビに話したことあったと思うけど」

 ブランクは窓辺に立って、煙草を吸い始めた、「昔は、お前みたいに尻弄られるの好きだったから、……拭いとけよ」、288号は鼻から噴き出した紅茶をまた丁寧に拭く。

「だから、ああ見えて案外、押しに弱いところもある」

「……そう、なの?」

「うん。だからお前がもし、本気であいつにしてみたいって思うなら、それをさ、そのまんまぶつけてみりゃいいんだと思う。あいつの体の根っこには其れを悦ぶ部分だってあるんだから、……まあ、自信無いって言うんならちょっと手伝ってやったっていいけど」

 煙を窓の外に吐き出したブランクが、口元に薄い微笑を浮かべて振り返る、「どうする?」。

 そんなときのブランクが、神秘的に見える。自分が魔法使いであることも忘れて、手に負えないほどの魔力を持て余して居る強大な魔獣のように見える。288号もテーブルを拭く手を止めて、暫しブランクの顔を見ていた。

 

 

 

 

 何度繰り返して書いても問題ないくらいに、ビビは凄まじい魔力を持った黒魔道士なのだ。五百年くらいしたらもう、生きながらにして伝説と化し、多くの子供たちの夢になるような。

 黒魔法即ち攻撃魔法、破壊の旋律はその細い指から奏でられる。しかし、ビビが普段することといえば、お風呂の釜に点火するために「ファイア」を使ったり、アイスコーヒーに浮かべる氷を作るために「小さなブリザド」、あるいは冷える部屋の暖房のために「小指の先でフレア」ぐらいのもので、平和主義の少年は黒魔法を生活の充実のために役立てているわけだ。

 古の魔道書には、割れ物を括る秘術が載っていた。欠けてしまったマグカップも派手に割れたプレートも、欠片を全て揃えれば元通り、水を注いでも漏らしはしない。言うなれば「ストップ」の応用である。

「えーと」

 ジタンは、そういう魔力を宿し秘術を扱う最強の少年魔道士に今宵、メイド服を着せて愛でるつもりだった。銀髪少年が恥ずかしそうに着こなすメイド服はすげーすげー可愛いし、「ご主人さま」ってつっかえつっかえ言うのとかやばいくらい萌えるし、もう、散々意地悪をして可愛がってやるつもりでこの夜を迎えた。

 腹痛は夕方には治まって、夕飯は問題なく食した。よって、体調も万全、漲る性欲、迸れ俺の精液。自分で洗濯もあまりしないくせに、メイド服を精液塗れにすることに何の遠慮もない。

 然るに。

 馬鹿はベッドに「括られ」ているのだ。全裸で。

 メイド服ビビはベッドの上に仁王立ち、しかしちゃんとヒールは脱いでベッドの下に、きちんと揃えて置くあたり、淫乱だが品性に事欠くわけではない。「今日はね、ジタン」

 にこ、と微笑んでビビは言う。

「僕がジタンのこと、いっぱい可愛がって、いっぱい気持ちよくして、いっぱい愛して、いっぱいいっぱいにするんだ」

「……いっぱい?」

 声が裏返った。

 ベッドに丁度「万歳」の格好で「括られて」いるジタンは、ビビの異様な迫力にごくりと唾を飲む。何かに縛られているわけではない、ただベッドから身体がまるで動かない。「ジタン、えっとね」、ついさっきビビは言ったのだ、とっても可愛く、「すっぽんぽんになって、横になって」、ああ、メイドさん、どんなご奉仕してくれんだろう?

 ……なんて呑気に考えていたらこのザマだよ!

 もちろんジタンの性器は勃起していないのである。「粗チン」とブランクに言われて言い返す材料のないそれは、足の間でだらんとみすぼらしく垂れている。

「だから、じっとしててね」

「……ってか、動けません」

「ん、ジタンがばたばたしたら僕じゃ抑えられないから、魔法をかけたの。ちょっとだけ我慢してね」

 言葉は優しいが、有無を言わさぬ響きだ。

「……見える? ジタン」

 ぴらり、スカートの裾をビビが捲り上げる。

 こんな風に恋人を「括って」は居るけれど、スカートの内側にはジタンのリクエスト通りにパステルグリーンとホワイトのしましまパンツを穿いているのだ。

「女の子のパンツ。……恥ずかしいけど、ジタンが穿いてって言ったから、穿いてるんだよ。おちんちんのとこ、ちょっと窮屈だけど、でも、ちゃんと、ね」

 女の子には余計なものが付いていないわけだ。「余計? 馬鹿言うな、ビビのちんこが余計なわけないだろうが!」、馬鹿を言っているのがどちらかということにはジタンは馬鹿なので気付かない。ただ、そのしましまパンツの「しましま」が、ビビの股間に楚々として在るものによって膨らみの波を帯びているのを見て。

「……嬉しいんだ? ジタン」

 呆気なく、身体は反応する。ビビはジタンの性器を見下ろして、妖艶な微笑を唇に浮かべた。

「僕のパンツ見るだけでおちんちん硬くなっちゃうんだね、……いけないんだ」

 スカートを摘んでいた手を離す。丈は少し短めに作ってあるとはいえ、こうなると斜め下からの視線でもビビの下着を拝むことは出来なくなる。あからさまに残念そうな顔をしたジタンに、「おあずけ」とビビは悪戯っぽい言い回しをする。

「大丈夫だよ、ちゃんと、あとで嫌ってくらい見せてあげるんだから……。でも、順番だよ」

「え……?」

 ビビが右足を上げた、いわゆるところのチラリズム、縞模様一瞬目にして悦んだのは浅はかなることこの上なく。

「ひゃ、っ、び、びびっ、ビビっ……」

「僕のパンツ見ただけで硬くなっちゃうおちんちんに、おしおき」

 白いソックスの足が、勃起して完全に反り返った性器に載せられる。ぷっくりとして柔らかい足の裏の肉感とは裏腹な、微かにざらつくソックスの布の感触が、茎の裏側を滑って思わず息を呑む。

「……気持ちいい? ジタン、……ぴくぴくしてるよ」

 ジタンの反応を楽しむようにビビは緩やかに足を前後に動かし、時折思いついたように指を曲げて先端を刺激する。思わずまた、性器を弾ませたジタンに、

「っん……、ジタン、くすぐったいよぉ」

 どこまでも無邪気な声で言うのだ。

 ……なんだこれ、なんだこれ、なんだよこれ。

 ジタンは激しい困惑の中に居る。積極的なビビというのは、珍しくはあってもジタンの辞書の中にちゃんと居る。然るに、……これは積極的とかそういうんじゃなくって、……なんだこれ。

「えっと……」

 ぐりぐりと、足の裏でジタンの性器を愛撫していたビビがしばらく言葉を捜す。それから思い出したように、ポケットからメモを取り出した、「……ええと、そっか」。改めて、銀の眼はジタンを射抜く。

「こんな風に、男の子の足でおちんちんぐりぐりされてジタンは感じるんだね、……変態だね、ジタン」

 瞬間的に理解しないわけが無い、ブランクが何か妙なことを吹き込んだに決まっている! 身体を捩ろうとしたが、ぴくりとも動かない。「暴れちゃダメだよ」とビビは言うが、暴れる余地などありはしない。

「ブランクか……、あいつに、何言われた、ビビっ……」

「んー、なんにも言われてないよ。ただ僕が、ジタンのこといっぱい気持ちよくしてあげたいって、お願いしただけだもん」

 仮に其れが本当だとして、……今更何を望む? ジタンはビビこのベッドでころんと横たわっていてくれるだけで嬉しいし、気持ちよくだってなれるのだ。

「しなくていいっ、そんな……、こんなの、しなくても……!」

「ダメ。僕、決めたんだもん」

 ひらり、人差し指を閃かせて、「サイレス」……、初歩的な白魔法ならば容易に使えるビビである。呆気なく言葉は失われ、残るは息遣いに混じるかすかな声ばかり。

「……ね? 気持ちいいでしょ? 何にも我慢なんかしないで……、ジタンが僕の足でぐりぐりされて、我慢できなくてせーし出しちゃうとこ、僕に見せて……」

 くしゅ、くしゅ、足の裏の不器用な愛撫が責め立てる。

 ……こんなの……!

 必死の抵抗、意地の牙城を、ビビは指一本で切り崩して見せた。

「……ほら、僕の、しましまパンツ」

 視線を言葉一つで招き、縛る力を、幼いながらも既に会得している。足の裏を幾度も押すようにジタンの性器が震えたのを見下ろして、その唇には嫣然とした笑みが描かれる。

 

 

 

 

 常識人であるところの288号、俺だって常識人だと言い張るつもりのブランクは、隣の部屋の壁に開けた穴から代わる代わる覗いて、ビビの淫らな責め様を観察している。

「……すげーなあ……、ほんとに」

 ブランクは煙草の灰をトンと灰皿に落としながら、満足げに微笑んでいる。今宵のビビが平時と比べ段違いに性的な強さを得ているのは、もちろんブランクの力によるところが大きい。この、ビビさえ敬うような「言霊使い」及び「薬師」は、今宵もビビに魔法をかけたのだ。即ち、

「お前はとっても淫らで強い女王様」

 と、その小さな耳に言葉を吹き込んで。

 288号の遠慮がちに覗き込んだ先、ビビは淫らな言い回しを択んでしながらジタンが零した精液を唇で掬って行く。288号の知るビビは、真面目で恥ずかしがりで、遠慮がちでそして慎ましい。それでも、それ以上に288号にそういうところがあるものだから、少年なりに努力して淫らに振る舞おうとする。もちろん無邪気さだって並存するに違いないのだが。

 だが、今のビビの姿は。

 普段とは、まるで違う。真性の淫乱であるように思える。ビビが本当に真性の淫乱ではないのかという点については議論の余地が在るが、少なくとも288号は一人、ビビはどこまでも清純な少年と思い込んでいるので、だからビビの一連の行動を見せられては緊張する。

「……あんたにも魔法かけてあげようか」

 蒼いような紅いような顔をして壁から目を離した288号に、ブランクは言う。

「は?」

「だから、言霊。あんただって強くなれるかも知れない」

「……無理でしょう、そんなの。僕はだって、あの子と違って言霊のカラクリを知ってしまっているんだから」

 そういやそうだな、とブランクはまた新しい煙草に火をつける。288号は眼を逸らす振りをして、しかし、かすかに聞こえてくるビビの責め言葉に惹かれて、そっと眼を向ける。

 だが、既にブランクが覗き込んでいる。

 

 

 

 

 ジタンの精液を全て舐め取ったビビは、にこーと微笑んで、恋人の頬を指で捕らえる。「いっぱい出たねえ、ジタン……」、その妖艶な微笑み、此れまでジタンが一度だって見たことの無いもので、だから苦しいような痛みと震えるような悦びが満ちる。……そう、悦びだ、形はどんなであれ、恋人が自分との性行為に積極的な姿勢を見せてくれるということが、悦びでなくて何であろう。

「……ッん……!」

 乳首をちろり、ビビが舐める。熱い膚の上を純白のブラウスが滑り、かすかに甘い石鹸の匂いが脳に響く。銀色の髪の少年、存在そのものがまるで媚薬、……いったばっかりだぞ? なのに、ジタンの欲の矛は納まるところを知らない、収まることなど、ビビが許さない。

「……ええと」

 ちゅぱちゅぱと乳首に吸い付いて、その度にジタンが腰を震わせる。それはそれでビビの心を満たしはするが、もっと色々するつもりだった気がする、しなきゃいけなかった気がする。また、メモを取り出して、「……あ、そっか……」。

 ビビは、ブランクお兄ちゃんは頭がいいなあ、と思う。

 ジタンは、ブランクは性根の腐った最低野郎だ、と思う。

「ジタン、僕のおちんちん好きだよね……?」

 ジタンの肩を跨ぐように足を広げて、股間を覗かせる。「しましまパンツがいい」とビビに薦めたのはブランクだ。どうして、と首を傾げたビビに、箪笥から少年の穿く少女物下着を数枚取り出して、其の中から最もオーソドックスで問題の少ないフォルムの一枚を摘み上げて、ブランクは言ったのだ、「透けすけだったり、後ろやサイドが紐だったりするのも確かにすごいエロいし、お前が穿くともう、どうしようもなく可愛くなる。だけどな、本当に一番やばいのは、こういうシンプルで甘ったるいもんなんだ、当たり前に在って、其処から日常性が垣間見られるような」。そんなこと言ったら別に女の子のパンツじゃなくっても、普段穿いてるような男の子の白いパンツだっていいんじゃないのかな、と思いはしたが、自分よりブランクの方が頭が良いということは疑いようもないことで。

 そして、ジタンの視線が其処から離れなくなるのを見れば、やはりお兄ちゃんは正しいんだとビビは納得する。

 本当のところを言えば、ちょっと窮屈でもあるのだ。おちんちんがついてないひとのために作られたものだから仕方ないよね、思いはすれど、布地も何だか薄くて頼りない気がする。大きくなっちゃうと、はっきりくっきりしちゃって。

 普段だったらやっぱり恥ずかしい。

 しかし今は、不思議と感じない。それもひとえにブランクの魔法の力ゆえだ。

「ジタン、……僕のおちんちん見たい?」

 スカートを捲り上げて、訊くまでもなくとも。

「……でも、どうしようかなあ。ジタン、僕の足でぐりぐりされていっちゃうような変態なんだもん、もっとおしおきしなきゃダメだよねえ?」

 不思議なのだ、普段なら言えない、そもそもしようとも思えないことも、今は出来る。こんなことを言ったらいけないんだ、変態なんだ、そう判っているから、多分ビビの中の何処からも生まれては来ないはずの諸々の言葉、しかし今は、微塵の躊躇いも無い。

 強さと呼ぶかどうかは判らなくても、今自分が強いような錯覚は紛れもなく心地よいものだった。お兄ちゃんやジタンはきっとこうやってもっともっと熱くなっていくんだろう、そんな気がする。そして288号は今よりもっともっと熱くなれるんだ、そう思う。

「ん、だからね、まだ見せてあげないんだ」

 困惑するジタンは、そっとビビの顔を伺う。楽しげに微笑んでいる顔は何処か酔っ払っているようだ。声を言葉を失ったまま、己が欲を望みとは違う形で解放することを強いられた、不平を言いたいし、普段のビビならばちゃんと気遣ってくれるはず。

 だが、ブランクのマリオネット。

「ん……ッ、ん!」

 暗闇包まれる。

 普段だったら無様に「幸せだ」と言うに違いないのに、今は焦りと息苦しさにもがく、腕の自由を奪われていても。

「おしおきにならないかなあ……? ジタン、これも嬉しいんだよね、きっと」

 苦しい、……でも、良い匂いの体温。

 仰天したままのジタンの顔に跨って、股下でその鼻を押し潰すのだ。思わず涙目になって、噎せかけて、しかし鼻から眼へ繋がる通路を大好きなビビの陰部の匂いで満たされては、……やっぱり、あの、すげえ、嬉しいです、……ごめんなさい変態で。

「悪い子、ジタン」

 全体重を乗せられても、多分ジタンの鼻は耐えられる。それほどにビビの身体は羽のように軽い。反転して再びビビがジタンの顔面に騎乗する。

「こんなことされて……、おちんちんからよだれ垂らしてるの?」

 ぐり、ぐりぐり、しましまパンツの股下に鼻を潰されるのは仮令相手が恋人であっても屈辱的なものだ。普段は頼んで顔面に騎乗してもらうようなジタンであっても。

 正直、ビビがちょっと、怖い。

 かさこそ、音がして、またポケットからメモを取り出して読んでいる気配だ。その間、ビビの体幹の重量全てを鼻と顔面で支えることとなる。もちろんビビはすうすうと下半身が涼しいせいで、「変態」のジタンが自分の股下の匂いを嗅いでいることには気付いている。

 ブランクから渡されたメモを呼んで、「ええ……?」、思わず声が漏れた。

 ……これも、するの?

 ブランクが覗いているはずの壁の穴に、困惑気味の視線を送る。其処でいま覗いているのがブランクなのかそれとも288号なのかは判らないが、送られるサインは一つだ。

 ん、と一つ頷く。お兄ちゃんの言うことは、僕なんかの考えていることよりきっとずっと正しいんだと信じてしまうくらいには、ビビも愚かしい子供だった。

 ジタンの視界に光が差し込む。ビビが腰を上げたのだ。

「もう……、そんなに僕のお尻の匂いが好きなの? ほんとうに変態だね、ジタン」

 今夜は何故か―ブランクの「言霊」の力に違いないのだが―雄々しく凛々しい気合のようなものが腹の底に溜まっているという感覚がビビの中にはあった。

 普段はジタンに「おねがいします見せて下さい俺ちゃんと綺麗にしますしそのパンツでオナニーしたりしませんからお願いしますお願いします」と懇願されて怒って、それでも真ッ赤になってしてみせるのが関の山なのだが、今ならば、きっと、出来る気がする。

「でも……、いいよ。ジタンが変態でも僕、困らないから。変態のジタン大好き。ジタンが変態だから僕がいっぱいおしおきしてあげるんだもんね?」

 言いながら、自然と口元に笑みが浮かんだ。心臓はどきどき鳴っている、血も熱を帯びて全身を駆け回っているのだ、しかしブラウスの濡れたような背徳感も同時にビビの心をひやりと脅かす。

 ただ、ジタンの射精したばかりのジタンの性器がぴくぴくと震えているのを見て、身体に芯を差す。

「変態のジタンに、ごほうび」

 くす、と笑みは湧いて、淫靡なガスとなって唇から垂れた。改めて恋人の顔面の真上、相対するように股間を晒して膝で立ってスカートを捲り上げる。普段ならばこれほど淫らなことをしたなら、触られないままで呆気なく射精してしまうはずの性器も、今日はブランクの魔法によって我慢強い。まだ、腺液の染みだってついていない「しましまパンツ」である。

「んっ……、あ……、はっ……、ジタン、……ほらぁ……、ぼくの、ごほうび……」

 ぽつりと生じた液体の染みはすぐに滑らかな流れとなって下着の内外から細く引き締まった太腿へと這うように伝い、股下からジタンの顔へと雨を降らせる。生温かい液体を吸って纏わりつくような下着の感触に、腰から背中にかけてぞくぞくと震えが駆け抜けて、思わず恍惚の声が溢れた。

「……は……ぁン……っ、んっ……もぉ、ジタンが、変態だから……っ、ぼく、がんばって、こんなごほうびあげてるんだよ……!」

 呆気に取られたままのジタンは、ただ顔に降る体温の雨を浴びながら、―普段のビビならば自ら洗濯物を増やすような真似は決してしないのに―少年の豹変振りに掴み掛けていた理性の糸を再び離してしまう。口へと散った甘潮っぱい味に、壊れる。

「は……っ……、んッ……、ぜんぶ……、出ちゃった……」

 ぶる、と震えて、じっとりと濡れて自分の下半身を包む「しましまパンツ」を覗く。水を含んで吸い付くような薄地の布は勃起した幼茎の輪郭をくっきりと浮かび上がらせ、透けているも同然だ。こうまで淫らな、そして悪い事をしてしまった後悔よりも、自分の晒している姿の異常さにビビは完全に倒錯へ陥る。

「……まだ、足りない?」

 「しましまパンツ」を下ろす、ぴん、と雫を飛ばしてか細い茎を露わにして、自らを握った手をすぐ止めた。このまま扱いたらあっという間に射精してしまうことは明らかだ、そして射精した後もこのテンションがもつという保証はどこにもない。言わば今は魔法の刻、ならば今少し長く、先へ。

「もう……、ジタン、悪い子。……でも、可愛いジタン、大好きなジタン……、もっとごほうび、あげるからね」

 びしょ濡れの下着を脱いで、ジタンの前に広げてみせる。下着は性器のエリアから股下、尻に至るまで濡れ、無事なところを探す方が難しい。自らの失禁した下着をこんな風に晒して見せるという行為にまた、油は注がれ、勇気が漲る。

「はい、あげる」

 くちゅ、と丸めて、「んむぐぅ!」、無様な声を上げたジタンに構わず、その口の中へと押し込んだ。

「ジタン、僕のしましまパンツ大好きでしょう? でもって、僕のおしっこも大好きって言ってくれたよね。だから、僕のおもらししたパンツ、窒息するくらい味わうといいよ……」

 

 

 

 

「うわ……」

 思わず288号の口からそんな言葉が漏れた。

 覗いていたのは288号だったが、ブランクも壁に耳を当てて聴いている、「引くなよ、ビビが可哀想だろ」。

「いや、でも、あの、……あれは……」

「あんただってビビのしましまパンツ好きだろ? でもっておしっこ大好きだろ? だったらアレがご褒美でなくて何だ」

「……いや、でも、……ねえ?」

 288号の視線の先、ビビはもう完全に火がついた状態で、ジタンの身体の上に69の体勢で乗る。左手で自らの尻肉を広げて、

「見える? 僕のお尻の穴……、あはっ……、ジタン、またおちんちんぴくぴくしてる、……僕の『ごほうび』嬉しかったの?」

 挑発するように尻を揺らして見せる。

「よくさ、酔っ払うと人の本性が出るって言うじゃん?」

「……あれがビビの本性だと言いたいの?」

「そこまで雑には括らんけどさ、でも、ああいう一面も在るってこと。ってか、人間の多面性に関してはわざわざあんたみたいな賢い人に言うようなことでもねえべさ。人は鏡であり、だから、光学異性体である。或いは黒は白に、青は赤に、映し出す膜のようなもんだ」

 ジタンとビビが二人きりでどんなプレイをしているかということを、288号は知らない。と言って、そこまで非常識なことをしているとも思っていない。ただジタンは僕よりもずっと積極的だから、素直に「ビビのちんこ見して」「しゃぶらして」「おしっこして」とか言うのだろうとは思っている。

 そんなこと口が裂けても言えない、というか辞書にない288号の前でビビがどれほど寄ったとしても、ああいうことはするまい。ほんのちょっぴり意地悪なことを言ったとしても、そして淫らな振る舞いをしたとしても、それはあくまで自分に火をつけるための。

「……ねえ、ブランク。どうしてビビはあんなに我慢強いの?」

「ん?」

「普段だったらもう、……推測に過ぎないけど、その……、おちんちんとお尻の穴の間のあたりをぐりぐりしただけで我慢できなくなっちゃうんじゃないかなって……」

 これ、とブランクは小瓶を掌に載せた。中には銀色の丸薬が数粒。

「……なに?」

「前にイヴゼロって黒魔道士が来ただろ。あいつがくれた薬の材料で作ってみた。まあ、一種の麻酔みたいなもんだね。過敏すぎる神経と精神の働きを抑制するの。作りようによっちゃ寝付かれない夜の鎮静剤になるけど、ちょっと改良してね、ビビのちんちんを普段より男の子らしく、我慢強くしてあげようってね」

 イヴゼロの名前で、びくりと288号がブランクを見た。ブランクは大事そうに小瓶をポケットにしまう。

「……身体に悪いものでは無いんだね?」

「もちろん、自分の身体で試したからね」

 まさか「本人」もそんなことに使われることとは思わなかったか。

 いや、或いは使われることを判っていて置いて行ったのかも知れない。

 いずれにせよ、

「ここに……、後で、入れさせてあげるからね? でも、まだだよ、まだダメ、もっとお仕置きしてから。そしたらごほうびに、おちんちん、僕のお尻でいっぱい可愛がってあげる」

 当の本人はいま、自分の指で後ろの穴を穿って見せながらジタンの性器を扱き、二度目の射精まで追い込もうとしている。

 

 

 

 

 顔射されるのが、いつからか嬉しいと思えるようになった。恋人が自分に欲情するのは愛してくれていることの証と信じられるし、奇麗事を抜きにして、精液の味が好きだ。

 そして何より、顔が汚されると、もうあとは何処を汚されたっていい気になって、羞恥心をかなぐり捨てられるのだ。精液というのは今更説明の必要もないが大層厄介なもので、とりあえず、べとべとしてねばねばする、そういうものが顔に付着するとそれはもうはっきりいって収拾が付かなくなるのだが、……その収拾の付かなさを言い訳にして、淫らであっても許されるような気になるのだ。

「ん……はあ……、すっごぉい……、まだ、こんなにたくさん出るんだねえ……」

 頬に鼻に額に髪に散った精液を舐りながら、ジタンの胸の上に座る。唇の端で風船様に精液の泡を膨らませたビビの顔を見て、ジタンは理性ばかりか人間として最低限持ち合わせていなければいけないようなものまでも、何処にやってしまったか判らなくなる。

「んーと……?」

 もう、ビビはジタンの見ている前で平気でメモを開く。

 『ジタンを括って足でちんちんぐりぐりしてやる』、『ジタンの顔に乗っかって鼻をぐりぐりしてやる。きっとあいつは大喜びであろう』、『しましまパンツを見せびらかしながらあいつの顔の上でおもらししたらそりゃあもう大フィーバーであろう』、『お尻の穴見せびらかしながらフェラしてやるとかしたらすごいと思われる』、ここまでは、順にこなして来た。

 最後は。

『ここまでよく頑張りました、大変良い子、可愛い子。最後はお前のお尻であいつの粗チンを気持ちよくしてあげればおっけー、あとはお兄ちゃんたちに任せなさい』

 きゅ、と胸が詰まる。普段よりもずっと我慢強い心身であっても、やはりもう、限界はとうに超えている。淫らなる少年はもう、自分の内奥で疼く熱をこれ以上どうにかする方法を持ち合わせては居なかった。

「じゃあ……、ここまで頑張ったジタンに、ちゃんとごほうびあげるね」

 にっこり微笑んで、ブラウスを脱ぐ、スカートを脱ぐ、ただ、『靴下はそのまんまでね、可愛いから』、メモに従って、靴下は脱がない。これだけ射精しても勢いが収まらない性器は、さすがに若さゆえ。だが若さで言えばそれ以上にビビの方が上なのであって、そのビビはまだ一回も射精していないのである。

 ジタンの亀頭の熱を入口に感じて、ぞくぞくと背中を走る官能に、もう止まらない。

「……ッンんっ……はぁっ……、おちんちんっ……、入ってくる……ジタンのっ、おちんちん……、あはぁっ……」

 細い体を反らして、身体に性の熱を行き渡らせるとき、ビビの膀胱の最下部に近いところでびりりと痙攣が起こる。びくびくと性器は震えるのだが、射精には至らない。ただ、じわりじわりと性器の痺れたような快楽が、その呼吸の自由さえ奪いそうな快感が全身を襲い、意識が遠退く。

「あ……あ……ァんっ……にゅ、っ、しゅ、ごい……っ、なにこれ……っ、はぅンんんっ……、お、ひっ、ンっ……ひんっ、おかひくなっひゃうよ……」

 しかし、恐ろしさはまるで感じないのだ。視線を緩めれば、「しましまパンツ」で口呼吸を封じられたジタンが真ッ赤になって眼を潤ませて、それでもはっきりと性欲を感じさせる顔で自分の媚態を見上げている。

「ッン……、ジタン、きもちぃ? ぼく……、すっごく、すっごくきもちぃよぉ……」

 「愛してる」という感情が暴走するもっともっと気持ちよくしてあげたいもっともっともっと僕で気持ちしてあげたい。

 砕けそうな腰を叱咤して上下に揺すりながら、淡いピンク色した乳首の先端、精液混じりの唾液で濡らした指でぬるぬると弄くって勃たせて甘い声をとろとろと漏らすことで、今以上、もっと、これまでにないくらい、ジタンの悦ぶ淫らな男の子になってみせるために。

「あぅ、ンは、あっ……、あっ、ジタンっ、ジタンのでてるっ、僕のっ、おま○このなかぁ……っ、……もっと、もっと、もっと、もっと出して、もっと、おなか、っ、ぼくのなかぁ、ジタンのせーしでいっぱいにしてくんなきゃ許さないんだから……!」

 ジタンが声にならない声を上げる。地獄のような快楽を与えながら未だ飽き足らず、ビビは容赦なく腰を振る。

 

 

 

 

「そろそろ、かな」

 節穴の観察から眼を外し、ブランクは立ち上がる。

「……あんた何してんの?」

 288号はもうほとんど青褪めた顔でブランクを見上げている。その眼にはある種の恐怖さえ覗けた。周知の通り、この男の表情は出にくい。それがこれだけはっきりと描き出す表情には、見た目以上に濃い意味が在る。

「んーな心配すんなって。すぐ元通りのあの子になるんだから、さ」

 ぐい、と288号を引っ張り上げる。ブランクが勃起しているなら当然288号も、恐怖に駆られている割りにはズボンの上からはっきりと判るぐらいに勃起していて、ブランクに膝でぐいと推されて、「あう」と妙に可愛い声を上げた。

 彼の手を引いて、修羅場といえば修羅場の隣室に入る。

「ビビ、ちゃんとジタンのこと気持ちよくしてあげてるか?」

 腰を間断なく振りながら、ビビは蕩けた笑顔でブランクを見上げる。

「ん、んっ、ちゃんとぉ、ジタンの、おちんちん、いっぱい、してるよお、……ッン、っん! あっ……はう、また、ジタン、せーし……、びくびくって……、ひぁあああんっ……」

 言いながら、精液の出ない到達に再びビビは酔いしれる。288号は眩暈を堪えるようにブランクの肩に額を当てた。

「よく頑張ったね、良い子、ホントにビビはえっちで、大変に良い子」

 ぐりぐり、ビビの髪を撫ぜて、「そのおりこうさんは、俺たちのことも満足させてくれるよね?」、訊く。

「ん、……、ん、でも、ジタン、まだ、せーし出るよ……?」

「んー。でも、明日も明後日も明々後日も、百年後もジタンの精液は欲しいだろ? 今日空っぽにしちゃったらもったいない」

「……んぁ、そっかぁ……」

 ジタンの性器から、腰を上げる。とぷ、と音を立てて少なからずの量の精液がその後孔から零れ落ちた。ジタンはと見れば、既に失神している。

「どうだった? おちんちんいっぱいピクピクして、精子出さないっての、……新鮮だったろ」

「ん。……なんでか、わかんないけど……、ずーっと、ずーっと……、いまも、せーし出てないのに、……わかんないんだけど、ずーっとおもらししてるみたいで、おちんちん、きもちぃ……」

「そういう薬だからね、イヴゼロがくれたのは」

「イヴゼロ! ……ああ、イヴゼロ……」

 288号は眩暈に堪えきれずにしゃがみこんだ。この淫らな姿が君の本質だとするならば、ああ、確かに、それくらいはしてしまうのかもしれない、そしてこの子の傍に居る僕たちも、きっと同様に。

 腰を曲げて、ブランクはビビのペニスをつんと指で突く、「いっぱい溜まってるんだろうなあ、……何回くらい気持ちよくなった?」。

「ん……、わかんない、もう……、いっぱい」

「そっか。じゃあ、きっとすっごい濃い精液が、いっぱい溜まってるんだろうね」

 柔らかな陰膿をそっと撫ぜる。「んん……」、其処もビビの性感帯である、力を持て余したペニスが、また壊れたように震える。

「……とりあえず、そうだなあ、……一気に栓抜いたらお前の身体がもたないかも知んないから、ちょっとずつ抜いて行こうね。……俺たちのちんこ、欲しい?」

「欲しい」

 こくん、こくんこくん、ビビは頷いて、

「お兄ちゃんのも、288号のも、お尻いっぱい欲しいっ」

 自ら、四つんばいになって既に開かれた肛門を向けて誘う。蹲った288号に、「ビビは本当に可愛いよな」とブランクは意地悪く笑って、ズボンから焦熱を帯びた男根を取り出す。小さな尻に手を置けば、自ら強請るように尻を寄せ、つぷりと収める。

「……んんっ……ん、あ……、お兄ちゃん……っの、おっき……っ」

「ん、サンキュ……、奥まで届いたね」

「ん……、いちばん、おく……」

 小さな耳に、甘く囁く、「実はね、ビビ。お前がいっても精液出ないような力があの薬には在るんだけど……」。

「ん? ん」

「……俺と288号がちんこ挿れると、その薬の効果は切れるんだよ」

「え?」

 どくん、と、逆流の鼓動が少年の全身で弾ける。

「あ! あっ……ひああっ、あっ、やっ、にゃ! あっンぅあぁあっ、お、おちんっ、おひんひんぅっ、ひぅっ、ンッ!」

 びゅくん、と勢いよく射出された精液は傍目に見てもはっきりと判るほどに粘度の高いもので、重たさすら伴って、意識を失ったジタンの顔面に散る。

「ひっぅン! ンッ、やっ、あっ、ンっ、なっ、んでぇ……っ、せーしっ、せーしっ、せーしとまんにゃン、うやぁああっ」

「……ずっと我慢してたんだもんな、気持ち良いだろ……?」

 ブランクがぐいと腰を引き、ゆっくりとまた奥へ、魔法の種の眠る場所へ。

「んンぁあ……っ」

 再びビビの性器から、濃い精液が湧き出てとぷとぷと零れ落ちる。

「すっごいね、ビビ……、えっちなちんぽミルク、こんなに溜めてたんだ……? すっげーぬるぬるで、べとべと。ぴくぴくして、止まんないね」

 掌でか細い茎を包み込んでゆるゆると揉み、その震えをダイレクトに感じながらブランクはあくまで優しく笑う。ビビはすすり泣くような喘ぎ声を漏らしながら、今度こそ意識が壊れてしまいそうな快感を覚え、思考を奪い去られる。

「んっ、とまンにゃっ……、おちんぽみりゅくっ……、とまんないよぉ……っ」

「でも、アレだろ、すっげーいい気持ち、だろ?」

「んっ、ん、きもちぃっ、おかひくなっちゃうよう……」

「ずーっとイキっぱなしだもんな? いいんだよ、もう、おかしくなっちゃえ」

 引いて、また、奥を突く、「ひやあああン!」、甲高く透き通った濡れ声は、零れる精液が糸を引くようにだらしなく延びる。

「……288号」

「……う」

「いつまでそうやってんの? もう、あんただって限界だろ」

「……ん」

 ゆらり、立ち上がって、288号もペニスを取り出す。全身の自由を奪うほどの快楽に溺れながらも、自分に向かう熱のベクトルを見ればビビは本能で自らの肉体を叱咤し、手を伸ばす。

「おにぃ、ちゃんのぉ……」

 ブランクの前であることを忘れて、ビビは言う。288号も今はそんなことを気にもせず、ビビの口中に性器を突き立てる。ブランクはただ、「なあ、『お兄ちゃん』って幸せな立ち位置だよなあ」と笑っている。

 ようやく溜まっていた精液を出し切って、腰が抜けるほどだるくても、ビビは288号の精液を愛撫する舌も手も止めない。口いっぱい、喉の奥に届くほど深々と頬張って、288号の性器がびくんと震えるたび、白んだ思考ははっきりと、新しい苺の汁を垂らされて桃色に染まる。傘の裏の、茎の、陰膿の、性毛の、……雄の性を全て貪ってもまだ足りない。

「び、……ビビっ……」

 288号が苦しげに声を上げたのを聴いて、ブランクももう遠慮なく腰を振り始めた。これほど強い快楽に溺れさせてもなお、ビビは鋭い力でブランクの性器を握り締めて離そうとしない。

「……出るよ……」

 ブランクの掠れた声を聴いて、ビビは288号の性器に舌を這わせたまま、叫ぶ。

「ンっ、らひてっ……、なかぁ、っ、おっ、なかの、っ、おひりぉあかっ、らひてぇ……!」

 清純なはず相貌目掛けて、288号が。貪欲な一番奥へと、ブランクが。腸壁と顔面を精液塗れにして、……またビビの欲が奮い立つ。びくびくと痙攣させて、精液が薄い糸を引いて尿道から垂れ零れて、……すこし、ねむい、……けど、

「……もっと、もっと、……おにいちゃん、おちんちんもっとぉ……」

 甘い甘い甘い声を、ビビは上げる。

 

 

 

 

 さすがに翌朝は起きられなかったビビである。おちんちんがじんじんして、お尻もひりひり痛くって、ブランクに軟膏を塗ってもらった。今度は妙な効果のない、無毒なる薬である。

「すごかったね、昨夜は」

 もちろん、ジタンも起きてはこない。昨夜のビビの仕打ちが余程ショックだったらしく乙女のようにさめざめと枕を濡らしていた。288号はようやく立ち直り、ビビを膝に乗せて温いミルクティを飲んでいる。

 ブランクは盛大に汚れたシーツを全て洗い、丁度一息ついたところだ。

「……あんな、なっちゃうの、恥ずかしい」

 記憶はあまり残っていない。だから余計に、自分が何かとんでもないことをしでかしてしまったような気がしてならない。とりあえず、……ん、えっと、……ジタンのお顔の上でおもらししたのまでは、覚えてる……。記憶の尻尾に嬲られて、ビビは紅くなる。

「でも、すっげー可愛かったよ。でもってお前が本当に良い子なんだってこと、判った。俺たちのことを愛したい、俺たちのことを幸せにしたいっていう、清々しくって凛々しい気持ちを持ってるってことが再確認出来たね」

 288号は遠い眼をしてジタンの寝室を見た。可哀想に……、と思う。しばらくはビビが「しよう」なんて誘ったら怯えて震えるに違いない。

「あんたもそう思うべさ」

「う、ん……、まあ、それは、……ん」

 聡明なる黒魔道士としても、認めざるを得ない。結局顔射するだけでは飽き足らず、その胎内にも種付けをして288号も満足したのだから。

 ビビはしばらく自分のローブの裾をもじもじと弄っていたが、ふと顔を上げて、「あのね?」と言う。ぱっちりとした銀の瞳、長い睫毛、意を決した顔は、昨夜あれほど淫れ狂った少年と同一人物であるとは思えない。

「あの……、僕、別にジタンのこといじめたかったわけじゃないんだけど……」

「んー? そうだっけ」

 暢気に、ブランクは言う。

「まあ、心配すんなよ。あいつも別にいじめられたとは思っちゃいねーさ。むしろ『ご褒美でございます』ぐらいに思ってんじゃない?」

「そう……、なのかなあ……?」

「うん、大丈夫、きっとそう」

 和やかな会話の居間とドア一枚隔てて、ジタンは「ご褒美」のしましまパンツで。


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