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 圧倒的にインドア派の趣味を持って居る四人である。

 性生活の充実を目指すことが「趣味」の範疇に入るかは判らないけれど。

 外の世界が愉快な事物で溢れていることを否定する気は毛頭ないが、目の前に居る十歳の少年が現状足りないところも無い程の愉楽を与えてくれて、更に今後その身の緩やかな成長と共に愛しさの減る兆候も無いのだから、わざわざこの子を置いて表に出てくる必要はまるで無いのだ。もっとも、その十歳の少年が一緒に行こうと言えば、仮令地の果てまでも旅をする気も在る彼らではあるのだが、「お前の傍が俺の居場所」と言い切る彼らならば、其れは仮令背景が月の裏側であろうとも家の中に居るのと同じことだ。

 夜は夜で、例えばその日ならブランクのベッドで寝ることに決まっていたビビである。夜は寝るだけだから――「寝る」といっても其れは些か特殊な「寝方」だが――、雨が降ろうと雪が降ろうと雷が鳴ろうと、……雷が鳴ると自分で稲妻を操れるくせにビビは少し怖がるので遠慮被りたいが、問題は無いはず。どうせベッドの汚れることも気にせずビビの顔に雪色の精液の雨を振り撒くのだし、穿ち抱いてはビビの身体には快楽のイナヅマが走るのだ。彼らにとって天気とは、ただチョコボでの移動が必要となるコンデヤ=パタへ食料品の買い出しに行く予定にとってのみ重要視され得るものだった。

 しかし、いつもより早起きをして288号と二回して、昼下がりにはおもらしをした煽りを受けてジタンと三回して、夕方まだ浅い時間に二時間の昼寝をしたその日に限っては、「神様明日はきっと天気になるように」、昨夜寝る前に小さく祈ったビビだ。

 くだらないこと、かもしれない。ただ普段と少しだけ違う夜に、ビビはブランクに後ろからぎゅと抱き締められたまま、空を見上げた。自分の息で曇らせてしまうのも憚られるほど透き通った宇宙に、砂を零してしまったような具合に星が散らばる、届く光は胸が痛くなるほどに美しく、どこか、眩い。

 この間二人きりでベッドに入った夜に、星を見ようとブランクは言った。「星。お星様。この季節は空気が乾いて透き通ってるから、きっと綺麗だぞ」、言われて、「でも」と言い掛けた、お兄ちゃんが見たいならいいよ、一緒に行くよ、思ったけれど、この身体は、じゃあ、どうすれば? 「たまにはさ」、ビビの小さな耳にキスをしながらブランクは言ったのだ、「俺だって、しなくて平気な夜、あるんだよ、……たまーにはね。ってかぶっちゃけさ、俺はお前が一緒に居てくれんなら、何も出来ないでもいい、空気吸って吐いてるだけの植物でもいいぐらいだ」、そんなのやだよと、ビビはキスを返した。

 セックスに飽きることはない、永遠にないと、まだ十歳のビビは思うし、十七歳のジタンも思うし、十九歳のブランクも思うし、二十四歳の288号も思うのだ。この先永遠に、肉体を持って生まれてきたからには、至上の喜びに触れ続けていけることは勿体無いほどの喜びであると。

 ただ、人生時間の大半が其れのみで塗り潰されることに問題を感じない訳ではない。何処にも行かなくていいと決め付けている一方で、矛盾するようだが他に似たもののない自分たちの関係で、色々なものを見てみたいという欲もまた在るのだ、控え目に、恐らくは、潜在的に。ビビは其処を擽られたのかもしれない。星を、見たいと思った。その為には晴れた夜で在ってくれなくては困る。

 そして晴れた。

 しかし、寒い。

 「お兄ちゃんと一緒に星を見に行くよ」と言って、温かい黒魔道士の装束にマフラーを巻いて、肩に温かなミルクティを入れた魔法瓶をかけて出かけるときに、ジタンは物好きなと苦笑したし、288号は風邪をひかないようにひかせないようにと注言した。午後九時を過ぎた屋外、しばらくは衣服の中に溜まっていた暖気のおかげか、平気に歩いていたが、村の外に出て森を抜ける頃にはすっかりと冷え切った。ブランクはそんなビビにすぐ気付き、紅茶を注いで後ろから抱き締めて、ゆっくりと飲ませた。

 散りばめられた星は、美しい。

 ビビは、月が出ていないことに気付く。ほとんど同時に、ブランクが今宵を選んだ理由を知る。光の消えた夜だから、星はその明るさを一層増して、降り注ぐ。この美しい夜空を見せたいと思ったに違いなかった。

「でもまあ、お前が一番綺麗だけどな」

 後ろから、頼もしい両腕に抱かれながらビビは耳元にくすぐったい言葉を貰う。

 何の不足もないほどに、星は美しい。十歳のビビは、それではまだ足りない処に居る。ブランクの、男の、腕の中だ。こうして一緒に出てきたのだ、くっついていれば温かいのだ、そして「今宵僕はあなたのものなのだ」。

 手袋を外して、「おしっこ」、と腕の中からすり抜けると、途端に寒くなる。そこらへんでやっちゃえばと言われる不道徳を咎めない。そこらへんと大雑把な括りにしながら、あの木立の中にまで入って行く気もない、だって離れれば、尚更寒い。

「……其処ですんの?」

 寄りかかった岩くれのすぐ裏に、背中を向けてコートの前を開けたビビを振り返る。ビビはすぐ肩越しにブランクが覗いているのをはっきりと自覚しながら、した。

 淫乱という言葉があることは、知っている。そして自分もその範疇に入るのかもと思うことも在る。こんな風にするひとのことを当にそう呼ぶのだ。そして変態という言葉のあることも、ビビは知っている。普段は見られたくないと思っていることを、こうして見られることを前提にして居るのだ、特定の目的が其処に付帯すればこそ、ラベルを帯びる。

「可愛いな、ビビのおしっこしてるとこ」

 そんな風に言うひとのことを、そう呼ぶのだ。

 ビビがそう呼ばなければブランクは変態ではないし、呼ばれなければビビも淫乱ではない。ただ互いのことが好きなだけの、恋人同士でしかない。

「……遠くまで行かなくて良かったの?」

 足元に、湯気が立つ。少し、震えが走る。月の無い夜に薄っすらと光を帯びて在るようなビビの白い膚は、其れだけで男の心をかき乱す危険な代物である。

「……とおく……、行くと、寒いし、……ちょっと、怖いし……」

「そっか。確かに此処なら俺がちゃんと見ててあげられるし。……一日に二回もおもらし出来ないもんな?」

「……もう、しないもん」

「それに、こんな寒い処で服濡らしたら風邪ひいちゃうもんな」

 ズボンを上げたビビは、また元の通りブランクの腕の中に入る。やはり其処は温かく、心の安らぐ場所である。此処から何処へも行きたくないと本能は謳う。そして此処に居られるならば、どんな恥ずかしい事だって平気だと。

 其れは嘘だ。平気も何も、其れを望むのはビビである。手袋を外したままの手を、ブランクが両手で包み込んで温かな息を吐き掛ける、……何処へも、行きたく、ない。

 恋人は温かい。温かくて、気持ちがいい。

 ブランクも同じように思う。自分より相手が温かく感じられるのは体温の不思議で、互いに高い熱が在る訳でもないのに、重なったところで生まれて満たす。

 屈んで銀髪に頬を当てて、その滑らかな膚触りに、溜め息さえ漏れそうになる。自分から頭一つ以上小さな身体に、しかし溢れるほどの愛情を詰め込んで、三人がかりで愛したって枯渇する気配はまるで見せない。

 性欲がある。

 こんな小さな子に、どうしてと問われたって答えようのない。最初に在ったのは恐らく悪意で、其の延長線上に在る今持つ感情を「愛」と呼ぶことに少しの躊躇いもない訳ではない。倫理的にどうとか、鬱陶しいことを考え始めれば、とてもその身に触れることは出来なくなる。

 天涯孤独なビビを守り育て、今後も幸福で包んで育てて行くと誓えるからこそ、何だって出来るのだ。

「温かい身体、……もう眠いか?」

 コートの中、セーターを捲って、熱を篭めた身体で掌を温める。ふるふると首を振った恋人は、これから何をし、何をされるのか、全て飲み込んだ上で自分に委ねきっている。何の為に此処に来たのかを、知りすぎるぐらいに知っていて、同時に此処で無ければいけない理由もない、風呂に入ってからだって、ベッドに戻ってからだって、いくらだって。

「お兄ちゃんも、あったかいよ」

 上に手を伸ばして、ビビがブランクの頬に触れた、「いっしょなら、あったかい」。

「俺たちには、……言葉で確認しあったわけじゃないけどさ、ジタンも288号も、ちゃんと判ってるはずの決め事があってさ」

 ベルトの穴、一番きついところで止めている。其の上、元々随分切ったものだ。痩せた腰周りに、尻も小さければ仕方がない。

「お前のことを幸せにする、それはもちろんのことで、……例えばどんな小さな病気だってお前にはさせたくない。一日で治るような風邪だってひかせたくないって思っててさ」

 だからさ、と指の背でベルトのバックルを撫ぜる。

「ある意味、すっげえ、弱い」

「……よわい?」

「お前がいいよって言ってくれればね……、此処でだって始められるんだけど」

 言霊使いは小さな耳の傍らで笑い声を潰す。ビビがひくんと震えたのを見ながら、衝動を堪えるのに一苦労。

「……僕、風邪なんかひかないよ。お兄ちゃんと一緒に暮らすようになって、まだ一回も風邪ひいたことないよ」

 その言葉を、ほんの少しだけはぐらかすように待ってから、

288号は頭がいいからな、そして優しい男だから、……きっと風呂を沸かして待ってる」

 ベルトを外した。身体の熱を閉じ込めたズボンの中は、溜め息が漏れるような温かさだ。下着のゴムを掻い潜って、まだ力無く垂れたままの性器を、右手で包み込んだ。

「……お兄ちゃんの、手、冷たい」

 其れは疎む響きではなかった。ビビはズボンの上から、もうその手を逃さないと言うように押さえる。

「ビビのちんちんは温かいな」

 柔らかな包皮、滑らかな陰嚢、……先週、ジタンが気まぐれを起こして、288号とパンを焼いた。「生地は耳朶かビビのちんこの先っぽぐらいの硬さで」と288号を辟易させていたのを思い出す、「だから、ちんぽの先っぽの皮と同じ」、「判ったから、二度も三度も言わなくたって……」、「判ってない! ビビの皮はもっとやらかい!」。

「……ちんちん見てもいい?」

 こく、とビビが頷いたのを待ってから、ズボンのジッパーを下ろした。そのまますとんと膝まで落ちる。白い下着を下ろしてながら、「よく見せてくれる?」、訊けば、その言葉にも頷く。岩にビビの身を少しの間任せて、ビビの身体の前に跪く。真っ白な膝、細い太腿、上がっていって、まだ竦んだままの性器を指先でそっと弾いた。

 格好つけるのは俺たち三人とも、大いに苦手だとブランクは思う。

 好きという気持ちに駆られてしまえば、もう止めることに意義は何一つ、見つけられない。

「すっげえ可愛い、ビビのちんちん」

 顔を見上げれば、ほんの少し、紅い。一口で収まってしまうように見える性器は、相変わらずまだ性器と呼ぶには相応しくない輪郭だ。「いい匂いがする。おしっこしたばっかりだからかな……、美味しそうだ」、余った皮の先を、唇で吸った。ほんの微かな味だって香りだって、ブランクの、一人前の男のつもりの胸をかき乱す。

「……う……」

 甘酸っぱい、という言葉で表現するのが誤りであることは判っている。どちらかといえば其処は塩っぱいのだ。人の膚、ならば当然。だがビビは自分にとっては天使か妖精、であれば果実のような味と香りを持っていたって、何の不思議もないだろう。不味いに違いないはずの自分の精液を飲んで、美味しいとこの子が笑うなら。

「……ほんのすこし、汗かいてるか? こんな寒いのに」

 陰嚢まで舌を伝わせて、訊く。寒さにか、ほんの少し縮まった袋の中の片方を口に入れて、吸ってから口を離す。皺の寄った陰嚢は、ブランクの鼻の先で音もなく蠢いていた。ビビの性器が緩やかなスピードで、勃ち上がり、ひくん、ひくん、震えるたびに角度を変えてゆき、やがておしっこの後から下着の中で口を閉じていた皮の先端を、微かに開いて上を向いた。

「お外なのに勃っちゃったな、ビビの……」

「……お兄ちゃんが……、いじるから……」

「うん、俺が弄ったから勃った。ビビのちんちんのさ、柔かくって垂れてるのも可愛いし、こんな風に勃起してヒクヒクしてんのも可愛いと思う。でもって、お前が自分でおちんちん弄ってるとこなんかはもう、やばいくらいに可愛いに違いないって確信する」

 右手の手袋、外してみるとこんなに小さい。

「……ビビはオナニーなんてすることあるの?」

 掌を導いて、そっと握らせて訊いた。

「……さいきん、は、……ぜんぜん、しない……」

「昔は、時々してた?」

「……まだ、あの、……こうゆうの、覚えた、ばっかりだったときに、ちょっとだけ……」

「そうだよな、今は俺らがかわるがわる弄るから、オナニーなんかしなくても平気だもんな。じゃあ、久しぶり?」

 ん、と頷く。目許はほの紅く、純性と淫性の混ざった色は、初恋に高鳴る鼓動を持て余しているだけのようにも見える。その顔だけならば、何んて純粋な子供。

「じゃあ、ちんちん弄ってみてよ。出そうになったら、俺が仕上げに舐めてあげる。お前が美味しいって言うみたいに、俺もお前のちんちんのミルクが美味しい」

 シャツを、セーターを、捲り上げれば白く細く、しかし和みの丸さを帯びた腹部が晒される。ブランクは其処を冷やさぬようにと掌を当て、あくまでそのついでを装って乳輪に指先を当てる、「おっぱいも見せて」、言ったらビビは素直に、もう少しだけ捲り上げる。

「ンッん……、……っう……ぅ……」

 密やかな息に声が混じる。くしゅくしゅと、乾いた掌の擦れる音ばかり続いていた其処に、やがて水っぽい音が重なり、ブランクが掌を当てた腹部が時折ひくんと強張った。自分の掌の中に収めたときにはあれほど華奢に見える性器が、少年自身の掌の中に在っては少しく男らしくも見えるのが不思議だった。もっとも、相変わらず先端まで皮に包まれたままであるが。

「お外なのに、カウパー漏らすくらい感じちゃってるんだね、ビビ」

「っ、んっ、だ、って……っ」

「俺の目の前なのに、手ぇ止まんない?」

「とまんっ、なっ……、だってっ、だって、しゅ、ごい、……っ、おちんちんっ、きもちぃっ……」

 久しぶりの自慰の味に、すっかり酔い痴れている。膝の震えを助ける為に尻を抱き、脇腹を舐めて、その膚から漂う微かな汗の匂いにブランクの眼の奥は痺れた。此れならばとりあえず風邪はひかない、だけど、冷えないうちに連れて帰ってやらないと。

「いい匂い、……お前の体の、何処も彼処も。ちんちんからも、すっげえ、エロい匂いがする」

 ……もう出ちゃう? 「んっ……、出そう……っ、出ちゃう……ぅ」、素直すぎる答えに満足して、その手を止めさせる。赤く染まって熱を帯びた其れは温かく、隠し持った欲の熱は過激すぎるほどで、小さな太陽だ。

「でも、まだ出しちゃダメ」

 にこ、と微笑んでブランクは言う。片眉にツギハギの強面も、ビビにだけは優しく賢い男の顔として映る。

「多分だけど、……朝は288号としただろ? でもって昼はあの馬鹿とした。少なく見積もって四回か五回はもう出しちゃった後だ。だからあんまりたくさんは出ない、……ビビの大事なミルクだ、とても貴重な」

 この中、と指先に射精の間近い輪郭となった陰嚢を捉える。其処は瑞々しく張って、自分やジタンに比べれば、ずっと清潔な印象を帯びていた。中には二つきり、小さな小さな宝珠、早起きの今日には少し、疲れているはずだ。

「だから、ちょっとおあずけな」

「え……?」

 あんま長いことこんなカッコで居たら風邪ひいちゃうと、パンツを上げてズボンを上げて、ベルトもきちんと止めてやったら、……ずるずるぺたん、呆然とビビは、ブランクを見上げる。口許から白い息が流れた。

「それにさ、……俺、今朝から、いや昨日、おとといからしてない。きっと今夜もお前のことを、思いっきり欲に任せて可愛がりたいって思ってる。だけどこのまんまでお前を抱いちまったら、やっぱりお前を疲れさせちゃうだろうからさ」

 意地悪を言っていながら、此れは半分本音のつもりもある。288号やジタンに恨み言を言う気は無いし、そもそもおもらしをしなければジタンだって浴室でイレギュラーな時間を過ごすことにはならなかったのだが、……もうちょっと手加減してくれたってよかったのに。馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが温水浣腸など。

 しかし手加減する気が無いのは二人の男ではない、どこまでも、ビビだ。

「ほら」

 求められている自分を知れば、応じなければと思う。それは三人の男の要請に基づくのではなく、ビビ自身がそうすべきだと思い、実行する、ある種の男らしい決意に拠る。目の前に勃起した性器を出されれば、それは自分の口で悦びで満たさなければならない。

 少年自身が勃起した男性器を好きと思う気持ちの在ることも、否定は出来ないが。

「お前の温かいお口でさ、俺の、気持ち良くしてよ」

 ブランクがそう言い終えるより先に、ビビはとろりと滑らかな口へ男根の先を収めた。毛糸の手袋の両手を大事そうに添えて、冷たい土の上に膝立ちのまま、口一杯に性器を頬張る。夕べから風呂に入っていない自分の性器には、独特の臭いがあるはずだ。しかし見下ろすビビは酔いの廻ったような顔で、口から出した性器の臭いを嗅いだ。寧ろ其処に臭いの在ることを悦ぶように、目許の赤味を一層鮮やかにして、裏筋に舌を伸ばす、傘の裏を舌先で辿る。

「美味しい?」

 こくん、頷く。

「そっか。……すっげえ気持ちよくて、すっげえ嬉しいよ」

 ブランクの、ジタンの、288号の、大好きな眺めだ。愛らしさは三人がかりで保証する銀髪の幼い少年が、最上級の愛を纏って勃起した男性器を口に含む顔は、ほとんど神がかりの威力で男の欲を衝く。幾度か力が篭るうちに、ブランクが滲ませた潮を口にして喜色を帯びた頬に、「好きだよ」と言ってやれば、「ん……、好き、だよ」、陰嚢を舌で弄って応える。生温かい息が絡んだ。

「ん……、お兄ちゃんの……、おちんちん、好き……」

「……ちんちんだけ?」

「んん、ぜんぶ。……お兄ちゃんのぜんぶ好き、だけど……、いまは……」

 スープも上手に飲むビビなのに、しゅぶ、と音を立ててまた咥え込む。手袋の手のまま優しく扱きながら、「出して……ね? いっぱい、お兄ちゃんの、溜まってるの……」、欲をそのまま口にする。この少年は自分の美しいことには何処までも無意識で、そんな顔でそんなことを言う危うさに、まるで頓着していない。

 汚らわしい男根をその顔に突きつけるのが好きな自分たちの恋人が、それの味が好き臭いが好きと言って憚らない、幸せなことだとブランクは思う、嬉しいことだと。

 再び柔かく甘い口の中に収まって、裏筋を舌が擦る――ビビはもう、何処をどうすれば男が喜ぶかを知りすぎるくらいに知っていた――に至っては、我慢強いブランクも意地など持ってはいられない。「いくよ」、髪を撫ぜる手に最後の優しさを残して、あとはただ、蜂蜜を入れたミルクティが好きな喉へ、苦く重たい液を叩き込むだけだ。ぴくん、ブランクの到達を知り、吸い上げるように頭を引き、……もっと、もっと、強請るように幾度も頭を往復させる。その口の中に精液の味と匂いをが満ち、……その濃厚なことに、ビビは心底から悦ぶ。

「……ありがとな、……気持ちよかった」

 跪いて、紅い顔のビビの額にキスをした。それから、甦りし優しい力でそっと抱き締める。……ビビの身体がほんの少し震えているのに気付く、「寒い?」、聞いたら、ぴくんと身を強張らせて、「……お兄ちゃん……」、甘ったるい泣き声を出す。

「ん?」

「……う、……う、あの……」

「どした?」

 ぱく、ぱく、ぱく、言葉が幾度か空振りをして、俯いて。か細い声でも、静かな冬の夜には隠せない、「……出ちゃ……っ、た……」。

「……ん?」

「……お、に、ちゃんの、おちん、ちん、ミルク、出たら……、ぼく……」

 清純さは何処まで堕ちても残っている。いいや、俺たちはお前を絶対に淫乱呼ばわりなどしない、お前はどんな風でも、常に天使のように透き通っているのだ。

「精液美味しくって、感じちゃった?」

 浮かべた涙は全て飲む。

「俺のちんちんしゃぶって、感じちゃったんだ?」

 痛みは決して与えはしない。

「可愛いな……、お前はほんとに、困るぐらい可愛い。これからもっともっと、もっとずっと可愛くなってくんだ、どうしたらいいんだろうな、本当に」

 おうち戻って風呂入るか? 問うたらビビは意外にも首を横に振った。

「だって、……お風呂入ったらお兄ちゃん、そのまんま寝よって言うもん、……まだ……、眠くない……」

「だけど、もうそんなに出来ないだろ?」

 また、首を振る。

「いっぱい出来るもん……、出なくってもっ、お兄ちゃんと一緒に気持ち良く、なれるもん……」

 自分が気をつけるべきは、この子に風邪をひかせないこと、痛い思いをさせないこと、それはもちろんだけれど何よりも、迸る愛情に任せて抱き締めてこの子に窮屈な思いをさせないことだと悟る。

「……此処でしたい?」

 ビビが、眼に涙を浮かべて頷いた、「だって……、まだ、してもらってない」、ブランクの袖を掴んで言う、「……おっぱいも、お尻も、まだお兄ちゃんにしてもらってないもん……」。

 コートの汚れることなど気にしてはいられない。脱いで、土の上に広げて、横たえた。抱き締めたい衝動はビビの側にも在るようで、ブランクが背景に満天の星を背負っていてもまるで目に入らないように、濡れた瞳で見上げる。寒さから守るように身を重ねたら、両手両足総動員してしがみ付いた。そのまましばらくビビの力に任せてから、「脱ごうな」、言ったら、恥ずかしそうに頷いた。

 改めてズボンを脱がせる。やはり零された精液は少量で、白い下着の前に少しばかりの濡れ染みがついているだけだ。

「美味しそうだな、ビビの。ミルク垂らして……」

 量から推測するに、やはりもうさほど出すことは出来ないだろう。だが手加減など許されるはずもない……。

 おっぱい見せて、言えば、また素直にセーターを捲り上げて見せる。して欲しいとビビが言うことならば、何一つ忘れることなくすると決めている。乳輪の中の僅かな凹凸、その中央でぷくりと膨らんだ乳首、自分の言霊によって一番の性感帯となった場所で、見た目には変哲のない少年の胸でしかないのだが、本当ならばブラジャーぐらいつけていたっていい。

「ぅあ、あっ、おっぱいっ、そんなっ、強く擦っちゃやらぁ……っ」

 だが、ビビの腰は瞬間的にビクンと跳ねる。舌先で小刻みに弾いてやれば、力いっぱい握られたブランクのセーターが少し伸びる。どうせ安物だから気にしない。

「本当に……、お前はおっぱいされるのが好きだね」

「んううぅっ、おにいちゃんがしたんだもんっ……」

「でも、最初から素質がなかったらこんな感じたりはしなかっただろうね」

 言葉尻でまた一つ吸い上げる、「ちんちんだけじゃなくておっぱいもこんなに勃起してさ。ビビはおっぱいだけでいっちゃう、悪い子だもんな」、でも、「この世界」なら最高に良い子だ。

 こっちばかりじゃ不公平だなと、右の乳首へ移ってから、そう言えばいっつも左からしてるよなと思い出す。ジタンや288号もそうなのだろうか。今度四人でするときに、観察してみようと決める。ただそんなブランクの、そう学術的とも言えないような関心事とは全く関係なく、ビビは感じ切る。

 はじめはただ少しばかりくすぐったかっただけという気もする。ジタンが「ビビのおっぱい、すっげ可愛い」と甘えるように吸い付いたのを見ながら、其処は見られても恥ずかしくない場所であるし、ミルクだって出ないのに、どうしてジタンはこんなにといぶかしく思っているばかりだった。

 然るに今は、その先端を吸われることは、脆弱なペニスの皮の中を吸われるのに近い感覚がある。いや、脳に近い分、感覚はよりリアルだろうか。首筋まで駆け上がった羽毛のぞくぞくは、ビビの小さな耳朶を掠め、その穴に這い入って脳を染めるのだ。

「ひぅ、う、ううっ、うふぁあっ……」

「いいよ……、ビビ、好きなだけ、何回でもいっていい」

 ブランクは頭がいい。ジタンと比べれば月とすっぽん、というよりはビビに288号にブランクと、比較的頭のいい者たちが集まっている中に居るジタンが場違いなだけで、ブランクは一般十九歳相応の思考回路を持っているだけ。少年性愛者でなければ真ッ当な大人だ。だから明日の予定はもうきっちりと組んである。昼間ビビが失敗した時点で、午後のうちに明日の午前中分の家事まで全てこなしてある。全てはビビに明日の朝、大寝坊をさせてあげるため。

「ッんァっ、……う、ぅ、あっ……うやぁあ……っ、せえしっ、……せーしでないよぉっ……」

 ビビの尿道口先端には僅かにぬめりを帯びた液が滲むばかり、ただ、ビクビクと何度も何度も痙攣だけを繰り返す。先程失禁するような形で放射したのが、恐らくその身体に与えられた今日の「最後」の射精だったのだろう。そう思えば、其の最後の一滴は大層掛け替えの無いものだ、「うぁンっ!」、ぺろりと掬ってやったら、ぎゅっとブランクの髪を握ってそんな声を出す。

 ビビがその小さな身体一杯、幸せになったという証拠だ。其れはほとんど味も匂いもなく、舌の上にかすかにとろりとした粘り気だけを残してすぐ唾液と紛れて消えてしまった。良かった、と思う。ビビが幸せでよかったと。

「こんなこと、初めてじゃないか?」

 ひく、ひく、身を震わせながら自分の頭を胸に抱く少年に、ブランクは言ってやった。

「俺ら三人でさ、一日、お前のこと空っぽにしちゃった。その代わりにさ、お前の中に俺たちが詰まってる……。お前に食われんなら俺は幸せだ」

 良かった。心の底から思うのが本当なら、……でも、どうしよう、そう思うのもまた本当のことである。

 だって、俺まだ一回しか。

「……服着て、おうち帰ろう。いつまでもすっぽんぽんじゃ風邪ひいちゃうよ」

 ビビの腕の中から抜けて、……腕の中に居たと言っても、体重の四分の一だってその身にかけぬよう手で身を支えているのだ、上体が疲れた。

 思いのほか鋭い声が発された、「ダメ」。

「え?」

「まだ、ダメ。お兄ちゃん、一回しかいってないもんっ……、288号だって今朝は二回したし、ジタンは三回も出したよ」

「……ん?」

「お兄ちゃんだけ一回きりなんてダメだよ。だって、……お兄ちゃん、ずっと決めてたはずだよ、今日、此処で、こうやって、……一緒にお星様見て、……って」

 ビビは言って、いかにも寒そうな裸の肩で起き上がる。ただ、頬はほんのり上気している、風邪には負けないという決意は雄々しく凛々しい、たまにビビがこんな風に、大変に格好いい男の子に映るときが、確かに存在する。

「……うーんと……、それはつまり……」

 苦笑いして、ブランク、再びズボンのジッパーを下ろす、「此れを」、勃起したものを見て、「出せということでいいのかな」、ビビは怒ったような顔をして頷いた。

「だって、僕の身体は何のためにあるの?」

「それは……」

 お前のためだろ、と言い掛けて、違うのだとすぐに感付く。

「お前と288号と俺と、あとジタンのためだな」

「そうだよ。皆で幸せになるためにあるんだ。だから僕はお兄ちゃんのことも幸せにしてあげなきゃ」

 そう、教え込んだわけではない。そんなことするものか。

 ただビビはそう自己定義する。清々しく、そう言う。ブランクの身を横たえて、唾液のたっぷりと纏った舌をその男根に這わせ、更に先端から涎を伝わせていく。濡れた陰毛にくしゅりと指を潜らせて遊びながら、しばらくはフェラチオに興じた。

 起き上がり、自分の身を跨ぐビビを見ると、月のない夜に薄ぼんやりと甘ったるい光を集めてきらきらしている。その身のほぼ中央で、ほんのり紅い性器がぴくぴくと震えているのを見れば、ブランクも胸が苦しくなってくる。自分の指をちゅぷちゅぷと舐めて、右手では尻のすぐ下にあるブランクの男根を撫ぜ、左手は少年の「性器」と言ってもう差し支えの無い穴を開く。指は案外にすんなりと奥へ入ってゆく。

「……えへへ……、お兄ちゃんの、お薬、効いてる、ね」

 ビビはそう言って笑う。

「……気付いてたん?」

「ん……、だって、ずっと、じんじんしてた、から……」

 内壁に塗ってやったのは炎症鎮めの軟膏ではあったが、せっかくビビに塗るのだから、そして今夜は星を観に行くのだからと、其処をかすかに痺れさせる微量の麻酔を混ぜてある。其処が極端に感じなければ、既に何遍かされた後であろうビビも、さほど苦しみ無くゆったりと自分とのセックスを楽しんでくれるに違いないと思ったから。麻酔が切れる頃には炎症も治まっているはずで、ビビの肛門は明日も健康であるはずだ。

 先端が、ビビの「入り口」に触れる。ビビ自身の指と唾液で広げられ、滑りもよくなった其の場所は、見た目よりも楽に飲み込まれてゆく。亀頭が埋もれて見えなくなり、徐々にその茎までも、ズブズブとビビに飲み込まれてゆく。

「あ……はぁっ……、ぁンっ……、おっきぃ……」

 腰を落としきったビビは、全身でブランクのペニスを感じているように、ぶるりと身を震わせた。ビビの腰はもちろん細い。ブランクはその腰と自分の男根のサイズの比率について、一度正確な考察を行う必要性を思った。実際、自分のペニスはビビの其れの何倍あるのか。

「お兄ちゃんっ……、おにいちゃん……、ぼく、もぉ、動いても、いい……?」

 眼に涙を浮かべて、かすかに微笑みさえ湛えながら、ビビが訊く。ああ、いいよ、好きにして、言うと、自分で腰を振り始めた。声を散らす、音を、愉楽を。

「ッン、んっ、あっ……、ふああぁ……ン……おちんちんッ……、おちんちん気持ちぃ……っ」

 うん、俺も、すっげー気持ちいい。ビビの中、ぬるぬるで、ぎゅうって、すっげー絞まって。頭の中に並べる言葉の半分はジタンの使うそれに等しいほどに「酷い」が、ビビの中での評価には影響を及ぼさない、彼はそういうことをあまり口には出さないからだ。

「ん……あっ、あ! あ、ア……っ、も、ぉっ、早く、はやくっ、早くおにーちゃんのっ、おにーちゃんのせーしっ、せぇし、せえしっ、せーし出してぇ……っ」

 空を見れば星が見詰め返す、お前らはホントに幸せだなと、そうかお前らもそんな風に祝福してくれんのか。愛らしい銀髪少年のつむじを見せてあげたお返しに。

「……出して欲しいの? 俺の」

「んっ、ん、はやくっ……、お兄ちゃんのっ、せーしナカ、にぼくのっ、ぼくのナカに、欲しいっ……」

「何で『早く』?」

「んぁっ、だって、っ、だってもぉっ、ぼく……いっちゃうからァあッ、はやくおにいちゃんのせーし欲しいよぉ……!」

 はやく、はやく、おしっこを我慢する子供のように、ぎゅうっと自分のペニスを抑えてビビは強請る。

 もう、何が要るものか。星から目を逸らして、ビビだけを見た。螺旋状の圧力が加われば、焦らす事も無い、「……ほら、……いくよ、ビビ」。

「ふあ、ア! おっ……、お、ひンッ、……しゅ、ごっ、びくびくひて……ッ……うあぁあっ、あっ、れ、てるっ、おにいひゃ、のっ、せーしっ……せーしれてる……っ」

 陶然と、ビビが性器を震わせて欲を空撃ちする。ブランクに横たえられ、下土の上に濁った液を零すのを、嫌だと我侭を言ったことは覚えていない。「だってっ……、おにぃちゃんっ、僕のおま○このナカにくれたせーしだもんっ……」、一日は二十四時間、うち生活時間に割くのは平均十六時間前後か。ようやく言うことを訊いて、白濁を零してから、「すき」、ビビは服を着せるより先にブランクに甘えて、「すき、お兄ちゃん、好き」、首に頬を擦り寄せる。そのまま眠りに落ちてしまう。風呂は明日の朝で良いか、ただお尻の中はもう少し洗ってあげなきゃ、そんなことを考えるブランクもそろそろ眠気を催してはいるのだが、其処までやって本当に恋人、其処までやって本当に。

「俺だって好きだからね」

 抱っこをして家路を辿る。眠りの中と知りながら、言葉を届けに行くのは、此処までやって本当に。


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