朝寝昼寝

 怠惰な人間か勤勉な人間か、その差は朝に出るとジタンは思った。ベッドから起き上がれない。いつまでだってこうしていたい。俺は布団を愛しているし、布団も俺を愛している、だからほら、こんなに優しく暖かい、大好きだ布団、愛してる、ほんとにもう、罪作りな恋人だよ。完全に布団に飲み込まれている自分自身を、ジタンは半覚醒ながら理論的に働く頭で、怠惰であると断じた。こうして十一時を過ぎても、いい匂いの布団に包まってだるだるしている自分はきっとどこで切っても、生温い血が流れ出す。

「……いい加減起きなよ」

 寝室のドアを空けて、ビビが入ってきた。完全に呆れた声でそう言う。頭の回転はいいが身体の動きは甚だ緩慢である寝起きのジタンは、ビビの顔をじっと見つめて、あの子だって本当は怠惰なんだ、今日はたまたま八時にはベッドから出ていたけれど、前夜もう少し可愛がっていたなら、きっとまだベッドの中、夢の螺旋のいちばん底に、丸まってよだれを垂らしているに違いないのだ。そろそろ起きようよと言って揺すったところで、絞りたての蜂蜜みたいな声で「ねむいよう……」って自分のパジャマをきゅっと掴むような子なのだ。

「……ジタンってば」

 顔を見つめるばかりで動きを見せないジタンに、ビビは苛立って、布団を剥しにかかる。しかし、毛布と掛け布団を内側からぎゅうと握って動かない。ジタンが輪っかを作った指の中でするする動くほどの手首に、そんな力があるはずも無い。

「……『お兄ちゃん』は……?」

 ジタンは絡むような声で聞いた。

「お風呂入ってるよ、今年最初のお風呂、朝に入りたかったんだって……」

「お前は……? 一緒に入らなかったの?」

「僕、みんなのおうちまわってご挨拶してたから。今帰ってきたんだ」

「……ふうん」

 僕はジタンと入ろうと思ったから……、なんて言う理由なら、悶えるほどに可愛かったのだろうが。

 でも、まあそこまでワガママになるのはいけないなとも思う。もう十八歳、子供じゃない。だけどまだ十八歳、大人じゃない。ビビ、と甘ったるい声を出して、

「おいでよ……、起きるから、おいでよ」

「……僕はもう眠くないよ」

「ちょっとだけさ……、外は寒かっただろう? 俺が温めてあげるから」

「どうせまた二度寝するんでしょう?」

「しないよ、約束する」

 と、いけないな恋人に嘘をつくのは。

 思っていながら、ね? ビビに優しく微笑みかける、目頭に目脂さえついていなければ完璧なのだが。

 真面目なビビは渋々ながらも、結局ジタンが好きなので、布団にそっと潜り込む。確かに、外は寒かった、息がすごく白く流れ、足下で霜が鳴った、寒いのを忘れて日陰で足を踏み踏みしていたら、気付いた頃には芯まで冷えていて、友だちに挨拶をしながら鼻を啜っていた。だから、布団の中は確かに魅力的だったのだ。

 ジタンはビビの冷たい身体を、きゅっと包み込む、こんなに冷えるのに外に出る理由なんてあるもんかい、そうだよ、やっぱり寝てるかブランクのように風呂に入るのが正解。大人の言うことは聞いておいた方が良いよビビ。

「そうだ、年賀状、届いてたよ、みんなから」

「……そう」

「読むでしょ? テーブルの上にあるから」

「……うん」

 ビビは言葉を不器用に繋ぐ。

「フラットレイさんが見つかったって、フライヤが」

「……そうか」

 黙ったら、その隙を見つけてジタンに唇を塞がれてしまう予感が確かにあったから。実際、ビビの太股には朝だからの主張が存在している。

「……それで、エーコがね」

「……」

「あの……」

「……」

「……その……」

「……」

「……う……」

「……構わないな……?」

 キス。ビビの冷たくなった左耳を右手のひらで包んで暖めながら、一度、二度、三度、四度。五度目の離れ際、舌を伸ばし唇を舐める、少し唇が荒れてるのに気付いて、一度では終わらない、二度舐める、三度舐める。

「う……やっ、じた……」

「……ん……、ビビ、美味しいよ」

「……ふ……っ……」

 ジタンの目論見どおりに落ちてしまった自分が悔しい。息は上がってしまったし、ジタンの腹部につっかえる存在をささやかに押し付ける。ジタンはようやく少しずつ眠気が覚め、その代わりに理性が遠のくのを自覚していながら、もう一度キスをして、温かい手のひらを冷たい背中へ滑り込ませる。

 ジタンの舌に臆病に答えるだけだった舌、様子見にジタンが引いてみると、ついて来て、ジタンの唇を舐める。可愛いことこの上なし、本人気付いていないらしいビビのいけないところ。ジタンの、そう量の多くない理性を砕き撒き散らし、後片付けを大変にしてくれる。悪い子、いけない子。

 扉が開く。風呂から上がったブランクが、布団の中でもごもごしている二人を見て、赤い髪を拭いていたバスタオルを椅子に掛けて、自分に気付かないビビの無我夢中なキスの様子を観察する。無論、ジタンは気付いていて、ちらりとブランクに目線を送る。邪魔をするなという意味か、歓迎されているのか、判然としなかったが、ブランクは都合のいいほうに解釈する。布団の中にそっと忍び込み、ジタンの手が退けられた小さな耳へ、ぱくん。

「ひゃう!」

 びっ、と身体を強張らせたのを解すために、優しく髪を愛撫、しながら耳の細かなラインに沿って舌を這わせる。

「ん、ん、や、あぁ……」

「可愛い声……」

 ジタンが嬉しげに、もう完全に覚醒した顔で言う。ブランクは歓迎されていたのだと知り、もう少しの躊躇いも無く、ビビの耳を好きにする。くすぐったいだけじゃなくて、何故かそこから対角線上にある左の腰がむずむずする、恐らくは耳から生まれた電流が斜め下に下りていって、そこで反射して恥ずかしいところに行くのだろうとビビは想像している。ブランクはその想像を以前ビビに聞いたことがあるから、そっと手のひらをビビの左の腰へあてがう。その奥で何が起こっているのか判らないけれど、ブランクの手のひらはかすかに返す力を貰ったような気がする。

「……風呂入ったばっかりなのにな、俺……」

「……別に呼んでないんだけど?」

「まあそう言うな。書初めだ。今年最初の筆なんだから」

「言うことが下品だよな」

「することも下品だよ」

 布団の中でビビは裸を触られる。上半身はジタンに、下半身はブランクに。合わせて四つの手のひらに撫でられ、摘まれ、包まれ、揉まれ、幸せでありながら羞恥心で一杯。自分の身体のコントロールが効かなくなる、こうされていると、自分の身体は自分のものではないのではないかという危惧すら、ビビの中に浮かんでくる。しかし、それは望むところなのであって、ビビも右手でジタンの、左手でブランクの、身体のどこかに触れることで溢れそうな安堵を覚えることが出来るのだった。

 ビビの身体を撫でる腕の一本ずつが抜かれ、ブランクの顔が回りこんでビビの唇に重なる、ビビは舌を出し、ブランクもそれに応じる、暫くそのキスを楽しんで、それからふっとブランクの頭が無くなり、上の方で一度二度、キスの音が聞こえた。

 抱き起こされたビビは、あれだけ触れられてもまだ、自分はちゃんと服を着ているのだということに、そぐわなさを感じる。しかし、布団の中三人で動いたから、うっすら汗ばむほどに温かくなった。

 もちろん、温かいどころか、熱くなってむずむずするところだってある。

 それはブランクもジタンも同じことで、さあ、やることは一つしかない、今年最初の――

「……にゃ……っ」

 早業で裸、真っ白な裸、ジタンは後からブランクは足の間から、肌を寄せる。

「ブランク」

「あ?」

「ビビのお尻、慣らしてよ」

「……てめえが入れるために何で俺がしなきゃいけねえんだよ」

「違えよ、あんたにビビのお尻弄らしてあげるっつってんだよ」

 自分の身体の一部の所有権を巡る程度の低い言い争いを聞きながら、満足する自分の精神構造というのはひょっとして物凄く恥ずかしいものなのではないだろうか、ビビはうすぼんやりと浮かんだが、今はそんな小難しいことを転がす余裕は無い、後で考えよう、と心に決めてどうせ忘れる程度のことなのだ。

「い、っぅ……んん……」

 ぱくんと口に覆われたペニス、その下で唾液に塗れた指が一本の毛もまだ生えてこない菊門をくしゅくしゅとなぞる。ブランクの舌の上で、一つぴくんと跳ねた。

「ビビ、どうよ、ブランクのフェラ、上手だろ?」

「ん、ん、お兄ちゃんの……っ、おくち、……気持ちい……」

「だろ? やっぱりなあ、元祖ショタコンは違えよなあ」

「……、誰が元祖ショタコンだ」

「あんただよ」

「どっちがだ。よく言うぜお前あんときもう十三だったろ。ビビはまだ十一になったばっかだぞ」

「年季でいったらあんたの方が入ってる」

 横に滑る恋人を困って見つめる。ブランクは入れっぱなしの指に寂しげに食いつく肉にはっとして、ごめんよと微笑み、「上手」な口奉仕の続きを行なう。

 自分ではそう上手とも思わないのだが、経験しているジタンがそう言うからには、やはり一定の水準以上に達していると考えても良いのだろう。ブランクの髪に、ビビが手を当て、その舌の感触に酔い痴れる、ブランクの指を強く噛み締める。二本に増やされて、押し広げる力が強くなると、ビビは細い足を震わせて、射精しそうになる。

「う、やっ、んっ、いっ……っちゃうよ……」

 そのタイミングで、ブランクは口から抜いた、ビビから抜いた。

「な、なんでぇ……、おちんちんいきたいよう」

 とろんとした、もう理性など何処にもない銀の眼で見下ろされながら、ブランクは微笑む。

「ごめんな。ビビ、もうちょっと待って。ジタンのちんちん欲しいだろ?」

「う……ん、ほしい……」

「そしたら、ビビももっと気持ちよくなれるもんな?」

「ん……」

 ジタンはにやりと笑う。

「サンキュウ」

「どういたまして」

 ビビの腰を持ち上げて、自分のものの先端で、穴を突く。

「ひゃ……」

「判るでしょ? 俺の……、ビビ、ね?」

「ん……」

 ビビはジタンのペニスを導く、そっと、身体の中に入ってくる、それは入るというよりは、穿つといったほうが良いようなやり方だが、ビビはそれを欲しがる。

「どう?」

「……あつい……」

「ん?」

「ジタンの、おちんちん、あつい……」

「そっか、……ビビの中も、あったかくて気持ち良いぜ。……って」

 ジタンは身体を強張らせ、ブランクを見た、ブランクはビビに再びフェラチオをしようとしていたところで、ジタンを無視した。

「やぁん……」

 再びビビが声を上げる。

「ちょ……、止せよ」

 居心地の悪そうな声で言うジタンを無視して、ブランクはビビの股の下に刺さったジタンの袋を優しく揉み、ビビの肉の入口の辺り、ジタンの根元の裏側を指でなぞる。

 ビビの中は当然の如く気持ちいい、痛いくらいにジタンのことを締め上げる。中身自体がぬるぬると動いているように思える、本当に、息を飲むほどに気持ち良いのだ。まして、今はブランクがフェラをしているから、きつさは強くなる。快感二割増、そこに、さらに外側までそんなことをされる。

 なんだか急にいってしまいそうな危機感を覚える。

「ビビ……、動かすよ……」

「ん……、はっ」

 自分を無視するブランクを無視して、ジタンはビビを揺すり始めた。ブランクはさすがに動きに対応できないで、口からビビを抜き、身を引いた。仕方がないと諦めて、一歩引いて見る。銀髪を揺らしながら、ビビは切ない声を存分に散らし、その後、ジタンの妖しくも男らしい息遣いが響く。接合面もはっきりと目視できる、非常に良い眺めと言える。ブランクももちろん、とうの昔にペニスを硬化させていたが、ジタンよりも年が上である分、冷静に状況を見ていられた。

 そんなブランクに、ジタンはなんだか申し訳な気になる。

 年の初めなのだし、多少ぜいたくをしても、誰かに咎められることはあるまい、そう判断して、ジタンはゆっくりとビビのことを四つん這いに降ろした。

「ブランク」

「ん?」

「してもらいなよ、ビビに」

「……たいへんだろ、後ででいいよ」

 そう辞退したブランクの、ペニスを見て、それからブランクの顔を見て、

「お兄ちゃん……」

 と呟くビビに、ブランクはあっさり折れた。

「……バチが当たるわな、ビビの好意を受け取らなかったら」

 などと言って。

 ブランクの性器を口に入れる、少し、苦しげな顔になる。それでも、口の中、舌を器用に小刻みに動かす。ジタンもブランクも、基本的に感じる場所は一緒だということを、ビビは既に学んでいる。先っぽの、僕のまだ見せられないところの、うらっかわのすじのところ、ビビは一旦口から抜いて舌先でちろちろ舐めて、根本まで降りて袋をしゃぶる、しゃぶりながら手で扱く、たまらずブランクの鈴口から、透明な汁が滲み出す、少しだけの潮の味を、ビビは吸い取って味わう。

いやらしい顔だなあ、ブランクは見下ろして満足感を味わう。自分の男根を口に頬張って美味しそうにしゃぶるビビという命の美しさを、それだけで言えてしまえるような気になったのだ。

「……ブランク、もう、動いていいだろ」

 ジタンが焦ったような表情でブランクに言う。少し笑いそうになったのを抑えて、

「ああ、どうぞ」

 と。ジタンは一瞬ほっとする、が、緩みかけた気を結びなおして、ビビの尻を見下ろし、腰を動かし始めた。

「ぁあん、っ、んっ、はっ、あぁっ、んっ、あんっ」

 こうなってはブランクに口淫することなど無理な話、ただ右手だけは執念深くブランクのそそり立ったペニスを握って離さない。ジタンにとっては好都合だった、ビビの可愛い声を、えっちな言葉を、存分に聞くことが出来る。

「気持ちいい?」

「んっ、ん、気持ちいよ、……ジタン、気持ちいい」

 言葉を掛ける間と待つ間は、腰の動きを緩める。震える欲深い声が、泣きながらジタンを満たす。

「何処が、どう気持ちいいのかな。教えて?」

「お尻の中……あのね、お尻の、中の、っ、ジタンの、おちんちんのっ、ひっかかるとこが、こするの……」

「擦られるのがいいの?」

「んっ、こすられるの……いい……、おなかんなか、おく、うえのほう、……」

「ここ?」

「はっ……、そう、そこ……そこ気持ちいいぃ……」

「いっちゃいそう?」

「んっ、いきそう、出ちゃう……」

「じゃあ……待って、俺もすぐいくよ。一緒にいこう」

 再び、腰を強く打ち振るう。下腹部とビビの尻が当たる音が、非常に扇情的、もちろん、ビビの尻の中から聞こえる泡のような音も。ブランクはビビに性器をきゅっと握られたまま、今年もこんな感じやな俺ら……、幸せを噛み締める。

「っ、いっ、くぅ……、僕、いくよぉっ」

「俺も出す……、な、ビビ……、っ、いいよ、いいよ、いっていいよ」

「っ、んっあ……出てるぅ……っ、んっ、やああ!」

 あ、ビビ、そんな握ったらちょお痛い……、一瞬だけ顔を顰めて、ブランクはビビの頭をぽんぽんと撫でた。全身を駆け抜けた稲妻を、小さな身体で受け止めて、それをこの少年は力として生きているのだ。

「うっ……、はぁ……」

 ビビから抜き取って、ジタンはぐったりと息を吐く。

 ジタンの抜かれたビビは、余韻など一瞬で排除したのか、あるいは余韻を垂らしたままなのか、ブランクには判別しかねたが、ブランクのペニスを再びしゃぶる。

「ああ……、ビビ、ストップ」

「ふえ……?」

「休まなくていいのか?」

 ビビは、まだ息はあがったまま。

 しかしきょとんとした顔で、ブランクのことを見上げる。子供がちょっと難しいことを言われたときにする顔で、それは本当に今の今までセックスをしていたのかどうか覚束ない。

「だって……、お兄ちゃんもしたいでしょう?」

「……そりゃあ、したいけども」

「だったら……、僕平気。……お口じゃないほうがいい?」

「う、へ?」

「だから……、あのね、お兄ちゃんも、僕の中……」

 布団に横たわっていたジタンが少し笑った。ブランクは邪気の無い目で見上げられて、……頷いた。大喜びで頷いた。ビビは、少し安心したように微笑んで、起き上がって、ブランクのあぐらの上に立つ。

「……大好きだよ、ビビ……」

 幼物はブランクの眼前でピンクに色づいてまた震えている。萎える暇も無い。先っぽはまだ濡れていて、僅かに除く亀頭はつるりと薄く光っているようにすら見える。思わず口に入れて、後残りの汁を吸い上げる。

「やあん……」

 ビビがびくんと身を振るわせる。

「……ごめんよ、可愛くて美味しそうだったから」

 涙目で見下ろすビビに微笑む。

「欲しい?」

「……欲しいよう」

「じゃあ、おいで。ジタンのだけじゃ満足できないんだね」

「……だって」

 ジタンが背中の後で座りなおしている気配を感じながら、二人に向けてビビは言う。

「ふたりが恋人だもん」

 前後同時攻撃。一瞬ブランクもジタンも、心臓を後に押された気になって、胸を軽くそらした。

「……お兄ちゃん?」

「……うん……」

 ビビを、そっと抱きしめながら繋がる。

「俺たちも、同じ気持ちさ」

 ジタンはブランクが言ったことに、うんうんと頷く。そうして、恋人同士が繋がりあう場所を見つめ、その背中を、或いは、こちら向きの顔を見つめ、どっちもが大切なんだということを確認する。身体として欲しがるのはビビの方が回数的に多かろうが、精神的には心底からブランクに依存している訳であるし。ビビが俺たちを公平に好きと言ってくれるのであればそれは最高にハッピーなことに違いない。

「ビビ、判る?」

 しっかりと腰を落としたビビは、手で足でブランクにしがみつく。

「んう、わかるよぉ……、おにいちゃんの、おちんちん……、おっきぃ……」

 ジタンは天井を仰いで、少しまた笑いたくなった。

「……でも、ジタンのも気持ちいいんだろ?」

「ん、ジタンのおちんちんも好き……」

「えっちな子。そんな風に滅多に言ったら駄目だよ」

 ブランクが耳元を擽るように言うと、ビビは涙目になって、少し震えて、

「だって、……だって、好きなんだもん、おにいちゃんたちのおちんちん好きだから、好きって言うんだもん……」

 正直。とてもいい子だ。

「……そっか」

「……ダメ?」

「まさか。ビビが好きって言ってくれるから、喜んでるよ俺の。判るだろ?」

「……うん……」

 そんな二人の歯の浮くようなやりとりを見ながら、さっきブランクが思ったのと同じことをジタンも思っていた。即ち、今年もこんな感じやな……、そしてそれを歓迎する。

 年賀状は書かなかった恋人たちだ。リンドブルムの連中に出したら、こっちに帰ってきて欲しいということを、正面切って言いはしないだろうが、寂しい匂いを醸すのは火を見るより明らか。いいのだ、自分たちはここにいてこんな怠惰な空気で暮らしていきたいのだ。後回しにできるならしてしまおうと、ジタンは考えた。三人の連名で同じ住所で送るのは、確かに魅力的ではあったが。

「んっ、あ……、あっ、あっ」

 自分たちがこんな風に繋がりあう幸せを一杯に感じて生きている訳は、やっぱり本質的に怠け者だからかもしれない。

「気持ちいい? ビビ、気持ちいい?」

「んぅ、いい、すっごい、気持ちいぃっ、んっ、っ、あ、っ、また、……またいっちゃうよう」

 怠惰で、成長を意識せず、暮らしているからこうして、同じことの繰り返しが楽しい。

 同じことの繰り返しが、何よりもの幸せなのだ。

 し終わったら、風呂に入る。三人揃って風呂に入る。なんと言うか、こうなると怠惰を越えて馬鹿になってくるだろうが、自分たちを馬鹿だと言った誰かに対して、ビビの愛らしい顔を拝ませて、「こんな頭の良さそうな子を馬鹿と言うのかこのバカ!」と言って納得させる自信がジタンにはあった。

「もう一回……」

 リズムが幸せを作るのだろう。どんなリズムが合っているかは人による。ただ俺たちには、のんべんだらりんというリズムが合っているんだろうと決め付ける。これ以上悪くなることは無い。

「愛してる」

 そこに愛があればどんな風にだって幸せになれるだろう。

 大人だけど子供じゃないけど子供で大人じゃない自分らのような人間にはまだそういう程度の認識でいいんだと甘える。ジタン自身、ビビを完璧に幸せにしていると言う誇りと自負はある。誰にも迷惑はかけていないし、胸を張って生きている。怠惰でも何ら問題はあるまい。

 俺たちは幸せ、ちゃんとしてる。布団がそれを証明するわけだが、果たして誰に証明すればいいのか……。迷惑だから布団だって、いい加減精液をかけるのはよしてくれと嘆いている、同性愛に興味なきゃ精液だって美味しくないさと。……してみると、誰にも証明する必要は無いのかもしれない。


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