VVITCH DO YOU LIKE?

 エロガキです! 淫乱です! 尻軽ビッチの総受けです! そう自己紹介して憚らないカノンだが、其処まで言っておきながら「だけどバノッサさんが一番好きです、きりんさんも好きですがバノッサさんの象さんの方がもっと好きです」と言ってのける、そしてそのどれもが本気なのだから、十九歳でありながら何処からどう見たって五歳は下に見えるこの半鬼少年は手に負えない。

 手に負えないと思っているのは彼の恋人のバノッサのみならず。

 とびきり飄然として、何処までも快楽主義に見せて、バノッサ以外の四人ともセックスが出来て、当に本人言う通りの在り様なのだが、しかし一番性質が悪いのはカノン自身極めて真面目に生きているという一点である。尻軽で淫乱で、「いいですよー、しましょうか」、足を開いて見せるのだとしても、例えばハヤトとソルが今日もある種の企みと共に部屋を訪れたのにお茶を淹れてやっている間、彼はどこまでも冷静に考えている、ただセックスが好きなだけの男ではないのだ。

 バノッサ以外の男とセックスが出来るという表現がそもそもの誤解の始まりだ。カノンがセックスを出来る相手というのは、実はバノッサ以外にはほんの五人しか居ない、うち一人は向こうの世界に置いて来てしまったので、現状は四人しか居ない、即ちハヤト、トウヤ、ソル、そしてキールの四人である。済し崩しでも居心地のいい世界の定義上、そうなっているが、仮令世界が「済し崩し」で構成されていたとしても、境界線は金型のようにこれ以上歪ませても都合定員六人分の面積しか無いのだ。

 だって好きでもない人とセックスなんかしたくないでしょう?

 好きだから、する。好きだから、したい。それ以外の人とは、したくない。くっきり、きっぱり、……其れは信じがたいことでは在るが、純潔とさえ言える頑なさである。

 僕らは同性愛者です、胸を張ってゲイです。六人集まりました。単なる同性愛者じゃありません、何処までも美しい六人組です、町田ラヴァーズです、大切な友達、……友達? そんな言葉じゃ括れません、同じ悲しみ同じ苦しみ同じ痛み、六人だから乗り越えて来られたんです、だったら。

 カノンは理由に拠って改めて自己紹介する、「エロガキの淫乱の尻軽ビッチ総受けの、僕はバノッサさんのお嫁さんのカノンです!」。

 理解してくれと懇願するようなみっともない真似もしません、理解しろとごり押しするような傲慢な態度も取りません、ただ此れが僕らViva la LOVERS 変わる事無くこの先も、此処が僕らの世界なら其処は僕らの世界の外、違う世界が在るんだと、其れぐらいで認めてやって下さいな。

 要はバノッサが病気なほどに愛しいカノン、セックスの境界を超えすぎたところに彼が居るものだから、好きと言って何ら問題の無い他の少年たちも気付けば相対的に超えていた、……詭弁ですか? カノンは意地を張って、此れでいいのですと言う。僕が幸せで居ることを、僕の恋人が「其れでいい」と言ってくれる、僕の友達も「其れでいい」と言ってくれる、この構造そのものを幸せと呼ばないこと、どうして僕に出来るしょうか。

 そしてハヤトがキールのことを、ソルがトウヤのことを、自分などよりもずっと愛しんでいることをカノンは信じられる。では何故、僕に触りたいと思うのだろう? 抱きたいと思うのだろう? そして僕もまた、この二人に抱かれたいと思うのだろう? 答えは簡単だ、僕が、僕らが、男だからだ、……其の身体に女の心を宿した事の無いカノンは極めて無責任に女性蔑視とも男性蔑視とも取れることを思う。男ですから、僕は、おちんちん大好きな男ですから。持て余した退屈を救いに来てくれた大好きな友達、形も大きさも少し違うけれど、似た体温を分けてくれるというのなら、そして僕が気持ち良くなれるなら、……僕が気持ち良くなることで一緒に気持ち良くなってくれるなら、どんな問題が在るでしょう?

 無責任に、しかし冷静にカノンはそう思う。

 此れは互いに「浮気」ですらないのだ。だって、思いは変わらず恋人のところに、しっかりと在るのだ。セックスをしながら恋人でなくても「好き」という言葉を使う、そのことの妥当性は、「恋人でない人間とセックスをしてはいけない」ことの妥当性よりは、割合堅牢であるようにカノンは結論付けるし、他の五人が一斉に同意して補強するから世界の壁は簡単には崩れない。

「うわあ……」

 ハヤトが溜め息を吐いた、「イメージ崩れますか?」、くすりとカノンは笑って、息を吐く、「僕だってこれぐらい、出来るんですよー?」。

 煙草を吸って見せたのだ。バノッサが現場に持って行き忘れた煙草、ひょいと指に挟んで唇を付けた。正直美味しいとも思わないのだが、バノッサ自身の口中と、感覚を同じくしたのだという思いは楽しく、時折こうして吸って吐く。

「見せたことありませんでしたっけ?」

「ないよー、初めてだよう……、うわあ……、すげえ、なんか、すげえな」

「俺は一度だけあるな」

 ソルは付け加える、「……驚いたけど」。

 灰皿に煙草を押し付けて、カノンは二人の待つ炬燵に入る。今日は黒のジーンズに黒の長袖Tシャツ、黒尽くめのカノンも珍しいと言えば珍しい。少し伸びた髪を、二箇所、ピンで留めている。癖のある襟足はふんわりと優しいカーヴを描いていた。

「さてー、それじゃあ一応伺っておきましょうか」

「ん?」

「お二人とも、今日はいかがされました」

 ソルとハヤトは顔を見合わせる。

「キールをトウヤに取られた」

「トウヤが取ったんじゃない、キールがトウヤを取ったんだろ」

「……ええと、よく判りませんが。また調べ物ですか」

「そう、レポートだっけ、提出物あるから、今日は俺の休みに合わせて授業組んでない日なのに、学校行かなきゃならなくって」

 ソルが唇を尖らせれば、

「したらさ、『僕が手伝って上げればその分早く終わるだろう、君はソルの暇潰しに付き合ってあげればいい』ってキールが」

 ハヤトも恨めしそうに言う。

「こいつと一緒に居たって面白くないし」

 二人、声を揃えて言って、じろりと睨み合う。

「……それで僕の処に来たと。事情は大体判りました。まあ僕もバノッサさんが居ないと退屈ですし、今日みたいに寒い日に、炬燵つける口実も出来ました。午前中にお掃除もお洗濯もお買い物も全部やっちゃいましたから、ぶっちゃけお二人が来てくださるまではすっごく暇だったので、ええと、ありがとうございます」

 どういたしまして、二人が頭を下げる。

「それじゃあ、どうしましょ。お布団敷きますか?」

 ストレートを、カノンは投げる。

 いい音を立ててミットに納めたハヤトが、「布団要る?」、ソルに訊く、其れはある種の変化球で、「……え? 何で?」、タイミングを外されたソルは泳ぐ。

「それじゃあ……、まあ一応敷いておきましょうか。……お二人とも、きっと後から来るんですよね?」

「うん、六時半ぐらいかな」

「じゃあ、二時間はお昼寝も出来ますね」

 ソルは時計を見た、ハヤトは見るまでもない、まだ、午後の二時を少し回ったところである。カノンはするりと立ち上がり、押入れから二つ布団を引っ張り出して、丁寧にメイクしていく。「こうさ、カノンを真ん中にして川の字に寝るんだ」、「皮の字?」、「そっちの皮じゃないよ。……どんだけ身体柔かいんだよ」。ハヤトとソルが下らぬことを話している間に、枕も三つ出して、しかし掛け布団は、まだ要らない。

 炬燵のスイッチを切った。だが炬燵の魔力、二人は性欲を抱えつつも、まだ立ち上がらない。ああ、確かに炬燵は魔性の魅力を持って居る、それはカノンも認めるところだ。だが簡単に負けてしまうのは悔しいので。

「今日の僕のコーディネイトはどうでしょう」

 過ごそうと思えば冬場でもTシャツ一枚で過ごせてしまう。寒いとは思っても、風邪をひかないのだから気持ちでコントロール出来るのだ。布団の前に立って、両手を開いてみせる、黒のシャツは、恐らくバノッサのものだろうとハヤトは想像する、丈が長くブカブカで、襟元はフェイクレイヤード騙しのインナーは白、三つ首の髑髏をバックに、英文がずらりと書かれているのだが筆記体なのでハヤトには読めない。多分「英文」なのだろうと思う。

「カッコいいと思うけど、似合ってるかどうかに関しては微妙だな」

 正直に、ハヤトは答える。

「僕自身もそう思います。本当はバノッサさんみたいなカッコいい服装が似合うようになってみたいんですけどね。でも、ごらんのとおりの幼児体型な僕なので。でも今日は近所にお買い物ぐらいしか出掛ける予定も無かったので、自己満足でこうして黒でまとめてみたわけです。だからヘアピンも黒なのです。と言っても黒しか持ってないのです」

 ひらり、シャツを捲ってみせる、「バノッサさんはお肌がすごく白いので、黒を着るとぞっとするぐらい綺麗に見えちゃって困るんです」、カノンの肌も白いが、バノッサよりはずっと健康的な色をして居る。太っているわけでは決して無いが、それでも何処と無く柔らかな印象のある腹部の中央、へそを見て、二人は食欲をそそられる。シャツの丈に隠れていて見えなかったが、ジーンズのボタンは外れていた。シャツはバノッサのLサイズ、しかしジーンズはレディース、細身のシルエットで、アンバランスだ。細い腰にはそれで十分なのだろう。

「僕自身も其処まで黒が似合うとは思っていませんがー、せっかくこだわってみたので、出来ればしっかりと、内側まで。問題です、今日僕はどんなパンツを穿いてるでしょうー」

 ソルとハヤトは九十度半身を傾けて、頬杖をついたまま思案する。

「黒に合うパンツ……?」

「紅いの、持ってたよな、黒のファーがついた……」

「持ってます、でもアレはジーンズの下には穿けませんね。あくまで単品で穿くものだと思います。あ、ちなみにですねえ、まだお二人には見せたことのないパンツです、この間バノッサさんが買ってくださったばっかりの、まだバノッサさんにだって一度しか見せてあげたことないパンツなんですよー」

「じゃあ判んないよそんなの」

 降参したソルに、にこ、とカノンは笑う、「僕もそんなに意地悪はしませんよー」。

 二人の少年の顔色の良いことを、カノンは心より喜ばしく思う。此れは愛の在るセックス、しかし、バノッサと交わすものとは明らかに「違う」もの。

 こんな時間を共有できる、この関係がありがたい。

「正解はー」

 ファスナーを下ろして、くい、とジーンズを太腿まで下げる。

「こんなのでしたー」

 黒地に、ピンクのフリル、センターにピンクのリボン、サイドに向けて鋭く切れ上がり、布地の面積は普段通りに少ない扇情的なデザインの中心で、僅かな膨らみが矛盾を訴える。愛らしいが、そういう下着が二千円もしないのだということはハヤトもソルも知っていた。先々月、「これあげる」と二人で千円ずつ出し合って一枚プレゼントしたのである。それは黄色のレースだった。

「へええ……」

 ハヤトが興味深そうに声を上げる。

「それ、後ろどうなってんの?」

 自分は穿いたってどうせ似合わない、ただキールがめそめそ泣くぐらいなので、人に穿かせて愛でて居る。一度悪戯でキールに「お前の穿いてるとこ、観てみたいなあ」と言ったら、キールは青褪めてまた泣いた、しかし、穿いてくれた。

「紐です。お二人もTバックはお好きでしょ?」

 「俺たちだけじゃない」、ソルがぶつっと言う、そう、トウヤだって大好きだ。彼の恋人は面白がって彼にそういう下着を穿かせる。穿かせて「可愛い」と、どういう倒錯趣味に拠るものかソルには到底理解出来ないのだが、言う。

「確かにまあ、バノッサさんもお好きみたいです。こう……、穿いててもお尻見えちゃうのが良いみたいですね。僕はすけすけのとかレースなんかもいいかなあって思うんですが」

 コンセプトは黒だと言ったが、黒にピンクは映えるのだ。三つ首髑髏のおどろおどろしいシャツを着て、買い物籠をぶら下げて、今日はお豆腐が安いなあ、おうどん買っておこう、今日あたり皆さん来る頃だから、じゃあお肉、……切り落としでいいかな、そんな風に考えてスーパーマーケットを歩く少年が、ジーンズの中にこんな下着を身に着けていることなど、一体誰が。

「そんな訳で、こんな感じでした。どうでしょう」

 はあ、とソルが溜め息を吐く、「わざわざ訊くようなことか」。ハヤトは当然のように、「似合ってる」。にっこり、カノンは微笑んで、シャツを脱いでジーンズを脱いで、丁寧に畳んで、また布団の前に立つ。二人はまだ、座ったままだ。

「もう……、おこたの方が好きですか?」

 少し唇を尖らせる、「僕もお二人よりもおこたの方が好きになっちゃいますよ?」。其れは困る、非常に困ると、そそくさと抜け出すのが二人である。「そりゃあいいや……」、ごろんと向こうむきに寝返りを打って、「炬燵の方がいい……」、言い切ってしまって、「あああ嘘ですごめんなさいバノッサさんが大好きですー」と前言全撤回を強いるのが、バノッサである。

「ダメです」

 パンツに手を伸ばした手をぺちんと叩く。

「すぐ出てこなかったから、お二人ともおあずけです。だいたい、何で僕だけ裸なんですか? 服着たままお布団入るのはルール違反です」

 それもそうかと顔を見合わせて、二人はせかせかと服を脱ぐ。脱げばさすがに寒い部屋――四季に渡って外気温との差がさほどない部屋だ――鳥肌が立つ、しかし、既に勃つ。

 下着の上からソルのものをぎゅっと掴んで「もうこんなになってたんですか?」、背伸びして、ソルの耳元で囁く。ソルもハヤトも、穿いているのは変哲のないトランクスである。ズボンの中で半日、くしゃくしゃになって耐えている男の下着、ハヤトのものに至っては前のボタンが取れかかっている。二人とも恋人が居る割に下着には無頓着なのだ。

「ハヤトお兄さんも。……お二人ともカッコつけたがりですねえ、脱げばすぐ判っちゃうのに」

 くす、とカノンは笑う。幼い響き幼い声、しかし紡がれる言葉の淫らさ、裏打ちするのは透明な無邪気さ。バノッサ以外としか過ごせないこの時間を、「楽しい」と定義することには確固たる信念があり躊躇いは微塵もない。

「仕方ないだろ」

 ソルが言い訳がましく言う、「……こういうの、……バノッサみたいに慣れてれば、平気だろうけど。お前のこういうところ、ああいうところ、……俺たちは」。

「慣れなくっていいです」

 カノンは二人の性器から手を離して、布団の上に足を揃えて座る。

「僕だって、慣れてなんか居ませんから」

 えーとー、と指折り数える、「特にキールお兄さんとは全然慣れてないです。ハヤトお兄さんに指令、今度キールお兄さんをちゃんと連れてきてください」、あい、とハヤトは頷く。「その時に、上手なお口の仕方、教えてあげますから」、……あい、とハヤトはもう一度頷く。

「ってか、実地っていうか、この身に教えて貰ったほうが手っ取り早いよ」

「それでもいいんですけどね。やっぱり対象があって、其れを見ながらのほうがハヤトお兄さんも判りやすいと思うんです」

「そういうもんかなー……」

「はい、ちゃんとしてあげますからそんな残念そうな顔しちゃダメです」

 おちんちん出してください、カノンの要請に、ハヤトとソルは顔を見合わせる。譲り合うような振りをする一方で、先んじたい気もあって。ぎこちない数秒に焦れて、「一緒で良いです」、少し低い声を出して、カノンは言った。

「誤解をされては困るんですが」

 左手にソル、右手にハヤト、二本の性器を捉えてカノンは言う。

「僕はそんなに尻軽じゃないんですよ?」

 言いながら、まずハヤトの性器の先端を一度、れろ、と舐めた。

「本当に好きな人とじゃなかったら、こんなことしないです。つまり僕はお二人のことが本当に好きだからするんです。単におちんちん触ったり触られたりするのが好きなだけじゃないんですからね? お二人が僕の、バノッサさんの次に大切な人たちだから、こういうことが出来るわけです」

 ソルの裏筋を、舐めて上がる。

「……俺だって、お前のことは好きだ。トウヤの次に好きだ」

 ソルが真面目な声で顔で言った、びんびんのおちんちん出したままでもカッコいいです、カノンは思う。

「俺だって。キールの次にお前やバノッサが好きだよ」

「ええ、……やってることはいっしょでも。……不思議ですね、どうしてでしょう、どうして此れが罪深いことになるんでしょう?」

「さあ……、判んない」

「どっちだっていいさ」

 ソルが乱暴に総括する、「世界の外の決まり事だ」、ああ、何処までもカッコいいです、おちんちんピクッてしてますけど、そんなあなたが大好きです。

「その『世界の外』において……、性欲っていうのは、厄介なものです。恋人が居たって、その恋人と会えない間は呼吸のように必要なことなのに、抱え込んだまま果たすことに寂しさを伴ってしまう……。僕は僕の大好きなバノッサさんが大切に思う皆さんが、そんな寂しい気持ちを抱えていることはとても辛いです」

 もう、二人の返事はなかった。右も左も器用な手に拠る愛撫を施されては、もう意識は其方には傾かない。本当に素直な人たち、その有り様は美しくすらあると、カノンは決めてまずハヤトの性器にしゃぶりついた。

「お……」

 そんな声がハヤトの口から漏れたのを、ソルが羨むように見る、「……すっげ……」、微かに掠れた息に気を取られたら、優しい手が性器を扱き始めた。ただの手が、どうして、訝りたくなるほど、ソルの息は詰まった。

「順番ですよー……」

 ハヤトの亀頭に舌を這わせながら、カノンはソルに言う。その顔の、余りに自然な淫らさに掌の中でソルが一つ跳ねたことに、カノンは恐らく大いなる満足を得る。

「ハヤトお兄さん、判ります?」

「……うえ?」

「こんな風に……」

 れ、と唾液を先端から垂らして、茎を掴んだ掌を先端から根元まで幾往復かスライドさせて、「してあげると、気持ちいい以上に、すごく、えっちな感じになりますよね?」、濡れた手は、陰嚢を通り過ぎて、蟻の門渡りに、そして、「うあ……」、肛門にまで至る。口の中に再び収められて、たっぷりと濡れた口の中での愛撫。

「……、こんな風にね、お尻のほうもしてあげると、きっとキールお兄さんすごくどきどきすると思います。ってゆうか、どきどきしないはずがありません。ちょっと悪戯して指先入れてあげたりすると、もう辛抱たまらなくなっちゃうと思います」

 実際辛抱たまらなくなってるものな、とソルは眺めながら思う。ハヤトが切なげに歪ませる顔は、友人の自認に基づいても色っぽい。

「カノン……」

 ソルお兄さん、ちょっと待っててくださいね、と手を離されて。寂しい思いはあるけれど、折角なのでソルも参考にする。無理をしなくていいよとトウヤに言われるほど悲しいことはない。カノンは右の指先をハヤトの内部に潜らせ、右手で陰嚢を揉みながら、品のない音を立てつつもハヤトの性器に口腔愛撫、僅かに頬を窄ませて、……なるほどああやってちょっと吸う感じにすればいいのかと、頭の中にメモを記す。カノンの口許に付着する唾液の細かな泡、倫理が失神するぐらいにいやらしい。

「ッくぅ……っ」

 口中に、ハヤトが射精した。その、頭の真っ白くなるぐらいの快楽を、自分も恋人に与えなくてはとソルは雄々しく決意した。

 カノンはゆっくりと口を引き、にこ、とハヤトに微笑む。それから口を開いて舌を出し、自分の身体にハヤトの出したばかりの精液を、だらしなく垂らしていく。ぽたり、とろり、少年の身体へ下着へ、今自分の出したばかりの欲の澱が汚らわしさを伴って流れてゆくのを見て、ハヤトは微かに身を震わせた。

「えへへ……」

 唇を舐めて、口中に残った半分をこくんと嚥下したカノンは到底そんな生き物とは見えない無邪気さを、相変わらず纏っている、「前に一度、こんな風にして見せたらバノッサさん、すごく興奮してくださいました。ご存知のとおりいつもクールでカッコいいバノッサさんが、すごく夜更かしして僕のお尻の穴の中がバノッサさんのおちんちんの形になっちゃうぐらい愛してくださいました。なので、これもオススメです」。あ、でも、バノッサさんとキールお兄さんが同じように興奮する保証までは出来ませんので悪しからずー、まあご兄弟なんで多分一緒です。

 ね? ソルお兄さん。ソルは言われて、……俺今耳まで紅いんだからあんま見るな。

「……すっげぇ……」

 ぺたん、ハヤトは布団の上に尻をついた。

「愛情が加わればもっとすごくなります」

 けろりとした顔でカノンは言う。まだその身に垂れた精液を拭いもしないまま、「後でキールお兄さんにしてあげてみてくださいね。僕ももう一度お手本見せながらしてあげますから」、身体をとろとろ、とろとろ、粘液が伝う。

「……あい、頑張る」

「じゃあ、ソルお兄さんの番です、お待たせしました」

「……うん」

 にこ、と笑って、

「ソルお兄さん、僕にオナニーするとこ見せてください」

 ソルの浮かべた困惑をどう表したって大人しすぎるとカノンとハヤトは思う。

「……何……?」

 表面上は冷静を装っては居るが、一瞬で変わった顔色が何より雄弁だった。カノンはちらりと上目遣いで、ハヤトの精液の垂れた腹から胸へ、掌を這わせてべとつく粘液を広げる。

「ハヤトお兄さんの出したのでこんなにべとべとな僕見ても、あんまり感じませんか?」

 黒い下着の上に付着した蜜を、内奥の勃起した性器を見せながら指で伸ばして、

「こんな僕は、嫌いですか?」

 ――こんな生き方は……――

 ソルの眼が泳ぐ、嫌いなはずがない、だって、こんな、可愛い子、淫らな子、借物だとしても仮の物だとしても、自分のために何処までも淫らに堕ちて見せる……。

「僕の、もうこんなに大きくなってるんですよー。大きくって言っても、ソルお兄さんのほうがずっと大きくて立派で」

 顔を寄せて、すん、と匂いを嗅ぐ、「いい匂いです」、ソルの右手を取って、彼自身の固く熱く滾る性器を、握らせる。

「ソルお兄さんのも、僕にいっぱいかけてください。顔にも、おっぱいにも、お腹にも、……ほら、こんなに熱い、おちんちんにも」

 ソルの息が止まる幾度かを、ハヤトは確かに見た。当事者ではないにしろ見せ付けられては、大人しくなどして居られようものかと容易に想像出来る。

「う……あ、あ……っ」

 ソルの右手のスイッチが入った。いちどきにヒートアップする劣情は、そのまま目盛りを振り切って、その様を以って「浅ましい」以外の形容は出来なくなる。

「あは……っ、ソルお兄さん、すごく可愛いです。もっといっぱいしこしこして、僕にたっぷりかけてくださいね?」

 ソルの思考には最早噛み合う歯車もなく。

 隣でハヤトはシーツを掴むことでどうにか理性を保つ。

 カノンはソルの性器には触れず、代わりに上目遣いに真っ直ぐソルを捉え、下着から幼い茎を取り出して見せる。

「見えますか……? 僕、ハヤトお兄さんにかけて頂いて、もうこんなにおつゆ漏らしてるんですよ? ソルお兄さんにもかけてもらえたらって……、思うだけで、こんなにぴくぴくしちゃうの我慢出来ないんです」

 カノンを見て居ると、狂おしい気持ちになってしまう。

 だからハヤトはソルを見る。しかしそのソルさえも、……美しすぎる、美しいという表現が誤っているなら、やっぱりどうしても、可愛い。薄く開いた唇から微かな声と生温かい吐息を零しながら、カノンを前に壊れたようにオナニーをするソルは、極端なほどの素直さを帯びている。

「ソルお兄さん、おつゆ出てますよ? もういっちゃいますか?」

 がく、がく、ソルが頷くのを見て、ハヤトの喉が鳴る。「うァ……ッ……、あっ……う、あ! はっ……ァあ!」、ソルの射精を、口を開けて見ていた。そしてソルの精液を身に浴びるカノンを、やはり口を開けたままで見ていた。

「うわあ……、すっごぉ……い」

 べとべとの液を身体に受けながら、カノンは喜声を上げる、「……すっごい……、すっごいたくさん……」。頬に、胸に、垂らしながら、あくまでも少年は無邪気だ。

「嬉しいですよぉ……? ソルお兄さんの濃い精液、いーっぱい掛けて頂けて。本当にトロトロですねー、夕べもその前もトウヤお兄さんにしてもらわなかったんですか? ほら……、こんなにぷるぷるしてますよー」

「う……あ……」

 すげーなー……、当事者しかし他人事、ハヤトは指に絡めた精液を陶然と見詰めるカノンを見て感心というか感動というか。カノンが自らの淫らで在るのを認めていることは判っていても、いつもながら、俺もこうならなくてはいけないか、それとも俺は俺のままでいいのか、なあキール、一生懸命、「キールのおちんちん俺の×××××の中で一杯気持ちよくなってね」と言うのにお前は泣くんだもん。

「っていうかソルお兄さん、オナニーなんかあんまりしなさそうですねー。トウヤお兄さんはすごいときはほんとにすごいですから……、余力残しておかないと搾り取られちゃいますか?」

 ハヤト同様、ぺたんと布団の上に落ちたソルは特に意識もないまま頷いた、驚いたように……、「だいじょぶ?」、ハヤトにとんとんと肩を叩かれて、ビクンと身を強張らせる。

「……凄い……、すごい、よ」

「……うん、……すっげー、の、な」

「何がですか?」

 ぺろぺろと身を拭った指を舐めながらカノンは首を傾げる。

「いや……、その、お前の、エロさがすごい」

「……うん」

「何て言うかな……、本当の意味でお前みたいなのがエロカッコいいんじゃないのかって思う」

「うん? ……うん」

 買い被りです、とカノンは微笑む。「僕よりもお二人のほうがずうっとエロカッコいいです」、これは本気で言っている。しかし少年は二人分の精液を浴び、まだ理性を保ったままで箪笥からローションのボトルを取り出して、

「三人一緒にぬるぬるしましょ」

 と、散歩に誘うようなのどかさ気安さで言うのだ。

 余談ながらこの部屋には常に二箱以上のコンドームが常備されている。いつの頃からかそうなっている。もちろんバノッサとカノンの暮らす部屋であり、二人が幾ら濃密に愛し合う関係であったとしたって一夜に箱の半分も使い切れないに決まっている。そもそもバノッサはカノンのごとき鬼の体力が在るわけでもないので。

 要するにイレギュラーな形あるいはリミックスバージョン、そのために。

「う、あっ、つ、め、てっ」

 ハヤトが声を上げる、カノンはにこにこ笑って「はい、男の子なんだから我慢ですよー」、ハヤトのそれなりに筋肉を纏ってそこそこ逞しいと言える上半身にボトルから粘液をとろとろと垂らしていく。実は本人も気付いておらず、逆に他の五人は認めているところでは在るのだが、ハヤトはこのコミュニティの中においてバノッサについで「いい身体」をしている。体脂肪率もトウヤより低いはずである。本人は自分だけ見た目が悪いとうじうじ悩み、その謙虚な姿が愛らしいと思うからこそ誰も告げないのである。

 ソルだって男の身体が好きだ、男の身体に抱かれるのが好きだからこういう場に居るので、ローションを纏ってぬめぬめと光るハヤトの裸身を見て、胸の少しく高鳴ることは否定できない。もちろんそれはカノンも同じだ。積極性においてソルを大いに上回る少年は、「いただきまーす」とハヤトの膚に膚を重ねて、「うわあ……、すごーい、ぬるぬるー」、無邪気に嬌声を上げる、その一方で、膝でハヤトの勃起しきった性器をぐりぐりと刺激している。

「何してるんですかー?」

 ソルをちらと、濡れた体に濡れた眼で振り返って、「全員参加ですよー?」、手を伸ばして誘う。

 どちらが真ッ当かをソルもハヤトも考察したことはないのだ。キールなどもっと無いだろう、トウヤはとうに結論を出していそうだ。バノッサとカノンはそれぞれ「極」からの視座を持っているから問題ないとしても。

 少年を、……とりわけカノンのように美しく愛嬌がありまたサービス精神旺盛な少年のことを可愛らしく思い、また性的な対象として捉えることは、同義的にどうであれ、まだ真ッ当な存在価値というか、存在感を認めてもらえるような気が、ソルはする。だからこそ自分の中途半端に発育しながら、しかし逞しくもない身体が恨めしいのだ。もっと俺が可愛かったらトウヤだって嬉しいだろうに。しかしトウヤはトウヤで別に少年性愛者ではないから「君でいいよ」と言うのだ。それはハヤトに対してのキールの言葉と同じ。といって、バノッサが単純な小児性愛者ではないことは明らかだ。だってバノッサは、必要が生じればカノン以外、つまりソルを含めた男たちのことを抱くのだ。其れは可能性論ではなくて、必要だから抱くのだ。抱かれるほうだって其れを必要視するからそうするので。

 逆に自分は男が好きなのか、男の身体が好きなのか。カノンと一緒になって、ローション塗れのハヤトに身を重ねながらソルは思う。

 カノンは男が好きらしい。バノッサのような逞しい体、ハヤトも筋肉を持っている、あるいは、トウヤのようなしなやかな。キールはやせっぽっちだけど、「キールお兄さんの腰は見てるとどきどきしますねえ」と言ったのを聞いたことがある、要するにその場にはソルも居て、「あはっ、ソルお兄さんのおっぱい可愛いです」と言われて以来、そんなに変な形してるだろうかと多少コンプレックスになった。自分に対しての評価はよく判らないなりに、しかしソルも男が好きで、バノッサやハヤト、キール、そして何よりキールの裸を何のフィルタも無しに直視することが出来ない。

 然るに、……そうだ前提が間違っていた、とソルはハヤトとキスをしながら思う、ハヤトの湿っぽく濡れた息を呑み、舌を絡めてやりながら思う。

 俺たちは男が好きなんじゃない、こいつらが好きなだけなんだ。ハヤトが舌を伸ばしてきた、上顎の裏を舐められて思わず「う」と声を出したら、底意地の悪い笑みを浮かべる。ハヤトがキールのために死ねることを、ソルは知っている。一方で、ひょっとしたらこの男は俺のためにも死ぬかもしれないと思う。カノンもまたそうだ。翻って俺だって、ハヤトが、カノンが、俺によって救われるなら喜んで命を落とす気がある。何故って。

 こいつらは、俺の恋人を幸福にしてくれる。

 俺の恋人が幸福ならば俺は大体幸福だから。

「何、難しい顔してんだよ……」

 粘液の纏ったハヤトの手で、べったり、頬を撫ぜられて思わず「うああ」とソルは声を上げた。「あたしのキスが苦かったかしら?」、あはは、ハヤトは笑って、「どうすんの?」、カノンに訊く。

「どうしましょ。ハヤトお兄さんもソルお兄さんも、とりあえず僕のお尻にお入りになりたいんですよね?」

「まー、最初はそのつもりだったよ。その可愛いぷりぷりのお尻の中にお邪魔させていただけたらいいなあと思ってこの部屋にお邪魔している訳だよな」

「回りくど……」

「僕も、お二人に遊びにいらしたお二人におもてなしをしたのはお二人が僕のお尻の中に遊びにいらっしゃるおつもりだろうと思ったのであらかじめおもてなしの準備はしているわけです」

「んー」

 ハヤトはくすくす笑って起き上がり、一度カノンの唇の匂いを嗅いでから、キスをした。始めは唇を重ねあうだけ、それから吸いあい、やがて貪るように舌を絡めて、「ソル、先にいい?」、長いキスの後にハヤトが振り返って訊いた、「どうぞ」と溜め息交じりで言ってやったら、「退屈だったら、お前もどーぞ」、ぬるぬるの指でぐいと自分の尻を開いて見せた、「……僕も後でいいですか?」、カノンがハヤトの乳首を弄りながら訊く。

「入れたいん? お前が? 俺の中に?」

「たまには。だってハヤトお兄さん、えっちのときすごくエロくさくって萌えるんですよ?」

「萌える。……お前からそんな風に言われるとは思わなかったなあ」

 エロくさくて萌える俺のけつだよ、とハヤトが振り返る、それはもう、嬉しそうに振り返る。溜め息を吐いて、「あー、よかったな、確かにエロくさいことは認める、萌えるかどうかは判らないけど」、言いながらも、ソルの頬は笑顔で引きつった。

 俺たちは、俺たちのために生きている。

 僕たちは。

 全員が快い形であるために、光ある方へ進んだつもり、手を繋いで、解けないように気をつけながら。互いの罪の苦さを飲み込み、「甘い」と言い合うために。そのためにカノンは「淫乱です!」と言うし、ハヤトも己が淫らさを隠しはしない。友達と恋人との間に厳然と存在する愛情に頬を寄せて「あったかい」と笑うのだ。ソルは思う、俺たちは男が好きだ、俺たちは俺たちという男が好きだ、と。

 考察の時間は終わり。

 ゴムを装着して、カノンの後孔の中に、ハヤトは自分の性器を沈め込んだ、「……普段……」、苦しげに其れでも笑って、「バノッサ入ってるんだろ? 毎日、毎日、毎日……」、言わんとするところを正確に読み取って、ぎゅう、ハヤトに抱きついたカノンがその耳元で小さく笑う、「鍛えてますから」。どうやって、とソルが訊く暇も無く、ハヤトの腰は拙く動き始める。

「ッ……ン! んっ……、あ……、はぁんっ……ッ、お尻……っ、ンッ、すごい……!」

 言葉の隙間を縫って、ハヤトとカノンはキスをする。恐らくは言葉がないからいけないのだ、彼らの関係を示す、明確な言葉がないから。

「あんっ……んッ、んん! んっ……はぁ……! あっ、はっ、お兄さんのっ、おちんちんっ……、もう、限界ですか?」

 少しサディスティックにカノンが言う、ハヤトの腰は射精を堪えるように止まった。

「ソルお兄さん、……どうぞ。ハヤトお兄さんにトドメを刺してあげてくださいなー」

 自分の身ではないのに所有権をはっきりと主張して、カノンは言った。ソルもスキンを装着した。ハヤトが途中の薬屋で買ってきたもので、「一番高いやつにしようか、ほら、うすうすぴたぴたローションたっぷり、素肌の温もりリアル感ジル南関競馬って」「お前がしたいならどうぞ、……最後のは何だ」「じゃあ五百円貸してくれ」「……普通のでいいだろもう」、店員は男二人金を出し合ってコンドームを買う俺たちのことをどう思ったろう? その俺たちが実は恋人同士ではないのだと知ったらどう思うだろう?

 そしてそのくせ、セックスをしてこんなに幸せだって知ったら。

 いや、もういい。

「ふ、ぐ、ぁっ……!」

 ハヤトの中に、侵入する。思わず息を呑むような圧迫に、思考が止まり掛ける。

「……これ、すごい、ですねえ……」

 言いながらも、ハヤトの性器をきゅうきゅうと締め付けているカノンは感心する。「……ハヤトお兄さんの、おちんちんの、熱いの、びくびくしてるの、……すごく、リアルに届きます。今夜ちょっと分けて頂いてもいいですか?」、返答できないハヤトの代わりにソルが答える、が、ただ頷いただけだ。

「ありがとうございます、バノッサさんに付けて、お腹の中がおちんちんの形になっちゃうくらいにし、っ、ン……! あ……、すご……っ、ハヤトお兄さん、いっちゃった」

 言うまでもなく、もちろんソルに伝わる。動きを止めていたハヤトの中を擦ったのは他ならぬソルだ。

「すごい、すごい、感じて、……解けちゃいそうですよぉ?」

 ああ、……はあ、ハヤトの口から熱く色っぽい声が漏れる。強く引き絞られてソルもまた、声を漏らす。生で入れてはいけないし入れたこともないし、正直入れようとも思わない、だって、「……これ……、すっげ……!」、思わずソルだってそんな風に口走って、激しく腰を振りたい衝動を止めて、ハヤトのナカから腰を引く。自分の性器にはぴっちりと0.02ミリの

「うっあー……、すげ……、マジ、何ッだ、これ……」

 ごろ、と、湿っぽい布団に横倒れて、「……うーわメッチャ出た……、すっげ……」、しばし呆然と眼を丸くして、自分がゴムの中に吐き出した精液を見下ろして、ハヤトが呟く。腰を妙な体勢で止めたままのソルを見て、「あー……、ごめん」。早漏、とぶつり呟いて、カノンに向き直る。

「ソルお兄さんは我慢できますかー?」

 くすくすと笑ってカノンは挑発する。足を大きく上げて、太腿の下から尻を広げて見せて、「此れでハヤトお兄さんより早かったら恥ずかしいですよねえ」。売られた「喧嘩」は、ソルだって買う。買わないのはキールとバノッサだ。あの二人ほど奥床しいつもりもないソルは、躊躇いを捨てて。代打の代打の代打の代打、ハヤトの代わりのカノンのハヤトの代わりのソルである。「うーあ……、此れシャレならんな……」、背後でハヤトがようやくむっくりと起き上がるのを意識の半分で聞きながら、夢中になって腰を打ち付けている。カノンの上げる嬉しげな声になぶられ、突き入れた肉の壁はうっとりするぐらいに甘酸っぱく性器を噛んだ。ハヤトの中とどう違うのか、其れを今のソルに説明するのは難しい。ただ、ハヤトは懇切丁寧に説明できる。「カノンの方がさ、何ていうか、すごく、慣れてて力の入れ方が上手いよな、俺なんかよりも」。ただ、力の巧拙が自分の肉茎に与える快感と比例するかと問われればそうではない。「バノッサさんのナカはすっごくきつくってぎちぎちで、でも壊れちゃいそうなぐらい気持ちいいんですよー」といつだったかカノンが言っていたのを思い出すし、「勇人の此処は吸い付いてくるみたいだね」と矢鱈冷静な声のトウヤが言ったことも覚えている。何にせよ自分の身体にも一つの価値があることを五人がかりで認めてもらえるのだから幸せなことだ。ソルの中は、「きついね」、キールと、トウヤと、共通認識としてハヤトは持っている。バノッサは何も言わなかったが、きっと彼からすれば全員の中が苦しいぐらいに窮屈か、もしくはカノンの小さな身体に慣れていれば其れよりサイズの大きな他の四人は其処まで苦しくも無いのだろうか。でもね、「きつい」のがやだったら、其れを確かめようともしないはずだよね、ハヤトはくるりんポイとゴムを捨て、ソルから借金して買ったゴムの二つ目の封を切って填めた。確かめたい。……っていうか俺だけ早漏とかシャクだし。

「う、おっ、ちょっ、ま! お前ッ……」

 背中に回ってローションを塗り付けたら、腰が止まった。「待ってろよー」、クスクス笑って、「トドメ刺してやるからさ」。滑りを良くしたところですんなり「ずぶり」とは入らない。指一本、どうにか潜りこませて、中でぐりぐりと動かして、「ンッ……、馬鹿! おまえ……っ」、腰が止まったままピクリとも動かなくなる。

「ソル、可愛いなあ……」

 ぎゅう、ぎゅう、ぎゅう、ぎゅう、ぎゅう、引き締める力の扉を開くためにトウヤが使うのは卓越した言語能力に基づく卑猥な言葉の群れで、そこら当たりは見習えキール、ハヤトは同じようにトウヤの言葉になぶられたときに思った。

「あはっ……、ソルお兄さんのっ……、おちんちん、もう弾けちゃいそうですよー?」

 小悪魔というよりは大鬼を秘めたカノンが意地悪く笑った。恐らくソルの射精のタイミングを、少年はその胎内の圧力でコントロールできるのだ。「……ン……ふ、っ、ほら、ハヤトお兄さん、早くしないとソルお兄さんいっちゃいますよ?」、判ってるよと先端を宛がう、「あ……あ……!」、ソルが切なげな声で鳴いた。

「馬鹿……、お前、もっと、力……抜けって……!」

 挿入すると言うよりは捻り込むと言ったほうが近いかもしれない。ハヤトの亀頭がひしゃげそうになったところで、……恐らくは此れもカノンの圧力に拠ってだろう、頑固な力に隙間が生まれた。その拍子に、ずるんと奥底まで一気に突き上げる。ソルは声も出せないまま、カノンの身体に倒れ伏す。カノンが「いい子」とでも言うように、ソルの後頭部を撫ぜながら、その射精を受け止める。ハヤトは頑なな力の満ち引きに、「お……」、からかいの言葉も忘れる。

「……く、あ……ッ……、あっ……ばっ、馬鹿! バカッ、うごく、ンッ、うごくにゃっ」

「動くよ、だって、お前の中でいくんだもん」

 前はカノンの中、後ろはハヤトが中、此れを例えば入れ替えたって良いし、前も後ろもトウヤでいいのだが、余り前にバノッサやキールがが居る図というのはソルは想像しない。したことがあっても想像はあまりしないことにしている。何にせよ、魅力的な相手の身体に挟まれて、脳の芯が千切れる。

「もっと、……もっと、僕の中でっ、……いってください、ね、僕に、届けてください」

 カノンが謳うように喘ぐ。

「おちんっ、ちんのぉ……、お兄さんのっ……、鼓動、大好きな、ひとのっ……」

 ソルの接合後二度目の射精より先に、カノンが括約筋のコントロールを手放して、ソルと自分の胸へと精液を引っ掛ける。僅かに遅れてソルが極まり、その放精の圧力に耐えかねて、ハヤトもソルの中へ鼓動を送る。どうにか解けて、それでも折り重なるように布団に倒れた三人は、しばらく呆然と、恐らくはその身に余る幸福の余韻に浸ることを互いに許す。ただ、ソルが、ハヤトが、カノンの身に散らばった少年の味の精液を啜り始め、カノンがまた嬉しそうに身を震わせる、幾らだって続けられる気で、しかし三十分も後にはハヤトもソルも眠くて仕方がなくなるのだ。

 淫乱です! エロガキです! 尻軽ビッチの総受です! でも割りと攻もおっけーです、バノッサさんの象さん大好き、だけどお尻の穴まで愛してます!

 自分の身体で男が射精するのが嬉しいのだと、カノンは言う。

「だって、……僕は其の瞬間、何よりも確かに、バノッサさんのお役に立てたって思えますから」

 眠りに落ちた二人に布団をかけて、裸にエプロンだけ付けてバノッサに「おかえりなさい」を言ったカノンは、料理の手を中断して汗の匂いの身体に頬をすり寄せてこう言ったのだ、「僕、今日もお役に立ちましたよ」と。バノッサは少しく草臥れた体のまま、カノンにシャワーを浴びることを許してはもらえず、手を繋いですやすや眠るハヤトとソルをちらりと見て、内心で感謝の気持ちを呟くのだ。巡り巡って今日も幸せは一回り大きくなって自分の手元まで戻ってきた、雄の精液の、良い匂いをたっぷりと纏って。

「……ふあ……、バノッサさんの……、すごく、おいひぃですよ……」

 他の誰に抱かれる瞬間よりも甘ったるい声を出して、フェラチオしながらカノンは耐え切れずに自分の性器に手を伸ばす。その手首を掴んで、ぐいと腰を押し付けたら、「ごめんなふぁ……っ」、カノンは涙目で謝る。触れられなくとも性器は何度も何度もピクピク弾み、透明な蜜は暗い部屋でもくっきりと光る。

「……淫乱が」

 と呟くバノッサが、其れを喜ぶ。ハヤトをソルをトウヤをキールを幸福にすることで、この俺を幸福にするからだ。

 例えばこの部屋にまだ来ていないトウヤとキールが、互いに互いを幸福にしているのなら、今この瞬間に俺が幸福だからだ。

 そして今この世界には居ない、いとしきもの、同じように幸福に触れていてくれればいいと思う。

 選択しなければならないわけではないが、選択をするのだ、全員で同じ方を見ている、互いの顔を見ている、「お前たちが好きだ」と言い合えるこの空間の、甘やかな居心地を選んだ。誰より愛しい者に幸福を与えてくれる存在が、愛しくないとはどうしても言えない。バノッサはカノンの口中に射精した。カノンは半分を飲み込み、「……えへへ……、嬉しいです、いっぱい……」、残り半分を自分の身体に垂らして見せた。

「……おー……、やっぱすげえ、エロい」

 いつからか起きていたハヤトが肘を突いて見ている。こっくりとソルが同意を篭めて肯いた。

「バノッサも」

「……ああ」

 纏わり付く愛情を鬱陶しげに払う素振り、「甘い自分」など、恥ずかしくて仕方が無いのだから其れぐらいの演技はさせろとバノッサは思う、

「汗臭いな」

「男臭い」

「でもすごくいい匂いでしょう?」

「うん」

 もう少ししたらトウヤとキールも帰ってくるはずだ。夕飯は何にするつもりかと、バノッサが考えた一瞬が、蓋をされた鍋の縁を滑って零れた。


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