祭祀様は夢を見ない
2010/08/30 Mon
m25
「口付けをされると、誰にでも腕を回すのですか?」
茶化すような言葉だが、声は酷く硬質で、怒りさえ孕んでいるように感じた。
その言葉を残し部屋の扉が閉まる音が続く。
ただ言葉の意味を理解するには長い時間はいらなかった。
先ほどのグスタフは完全に動けずにいたのだ。
敬愛する祭祀様に不遜にも腕を回したことがあるのは夢の中だけだ。
―――グスタフが夢だと思い込み、現実ではないと決めつけていた唇の冷たさ。
唇合わせた時に生まれる燃えるような熱さ、まざまざと思い出して心臓が早鐘を打つ。
唇に伝わったのは冷たさと喰われるような熱だけだったはずなのに、
今は触れあった場所から火が付きそうなほどの熱が放出し、グスタフの肌をうっそりと染めていた。
グスタフの唇から始まった熱は肺腑すら焼いて、心音が鼓膜の傍で聞こえた。
口元に運ぶ指さえ震える、これは未だ自分が見ている都合の良い夢なのか。
こめかみにチリチリとした痛みが走り、眼頭がピクピクと痙攣する。
「……なんと言う事だ」
呟いた声は熱に掠れて、声と言うには覚束なかったが、グスタフは瞼を伏せた。
口元に掌を宛がい、込み上げてくる感情を噛み締めるように息を吐きだした。
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