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祭祀様は夢を見ない

2010/08/30 Mon
m25


グスタフは引かずに、そのまま短い揉み上げを辿り、額にそっと掌を宛がった。
振り解きたそうにゲーニッツの指先がピクリと震えたが、それも見ない振りをした。

「熱は無いようですが……」
「ただの寝不足ですよ」
「最近はお忙しいようでしたし、無理をなさっているのではありませんか?」
「だとしても、貴方には関係のないことです。二度は言いません、グスタフ」

ばっさりと切って捨てられた挙句、暗に退室を促されるとグスタフも言葉を続けられない。
冷たい青の瞳に唇の裏を浅く噛んで、自らの力不足を痛感する。

「――…私では、貴方のお役に立つことも出来ないのでしょうか」
「…………うざいですねぇ」

普段から低めの声が更に低くなり、硬度を増してグスタフに突き刺さる。
額に添えていた指先が小さく震えて、唇を結ぶとゲーニッツは明確な苛立ちを交えて指先を払った。

「祭……っ」

それでも食い下がろうとするグスタフに足払いを掛け、
油断していたグスタフは受身も取れずにゲーニッツの寝台に沈んだ。
柔らかなマットは衝撃を全て吸い込んだが、グスタフの精神に齎された動揺は受け止められなかった。
しかも、混乱収まらぬうちにゲーニッツの顔が目の前までズイ、と迫ってきて瞠目する。
オロチの血を示す縦長の瞳孔はグスタフが持つそれより獣に近く、濃い血を感じた。

「哀れな羊を牧する職務についていますが、貴方の面倒まで見る気はありません」
「……ッ! ―――…存じております」
「それでも役に立ちたいと願いますか?」
「祭祀様のお役に立てることこそが私の喜びなのです」

何の迷いもなく応じたグスタフにやれやれ、と声を漏らしてゲーニッツは溜息を吐き出した。
たとえ、どれほど呆れられようともグスタフにとっての真理であり真情であった。
飲み込まれぬようにグスタフも眼差しに力を込めて真っ向から双眸を覗き込む。

「私の本音が、貴方に理解出来るはずも有りません」
「祭祀様……、」

吐息がぶつかるほど近い顔貌に息を飲む。
オロチ一族の頂点に立ち、最も神に近いゲーニッツの憂いなど如何すれば良いのか。
グスタフは自らの無力を痛感しながら、小さくゲーニッツにすがるような声を出す。
しかし、続きに添えようとした言葉は声にならず、喉の奥へ逆戻りした。

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[Serene Bach 2.23R]