祭祀様は夢を見ない
2010/08/30 Mon
m25
しばし、自分が今まで見ていた都合の良すぎる夢を恥じた。
グスタフの直属の上司であるゲーニッツに恋情を抱いたのは昨日今日の話ではない。
初めは海より深い崇拝だったはずなのに、姿を見かけるたびに、声を掛けられるたびに、
胸の内に齎される敬愛は姿を変えて、胸を掻き毟りたくなるほどの浅ましい感情に変化していた。
己には過ぎた、そして報われぬ恋慕だと思い知っていただけに、グスタフの内心は荒れに荒れた。
昼は従順な部下としてゲーニッツの隣に侍りながら、夜は嘔吐するまで酒を呑み、
まるで息絶えるように眠った――どちらかと言えば気絶と評する方が正しい――時期もある。
自分の中の感情を散々詰り、否定に否定を重ねても拭いきれるものではないと悟ると、
とうとう諦めたように胸にその感情をしまいこみ、最近漸く落ち着いてきた所なのだ。
己の感情に鍵を掛けることは今でも苦労するが、それを外に出すような真似は決してしなかった。
どんなに荒んだ夜を過ごしても、次の日には一糸乱れぬ佇まいでゲーニッツの傍に控えた。
それは長く、それこそ両手では足りぬほど長い年月、
グスタフを傍に置いているゲーニッツすら気がつかない程の徹底ぶりだった。
「………此処のところ、毎日だな」
一人ごちるように感情を押し殺したような低い声を出して、今一度息を吐く。
どれほど丁寧に、頑丈に心に鍵を掛けたとしても、無意識のうちにゲーニッツを求めてしまう。
夢も見ないほど深く眠ろうとしても、空が白ばんでくる明け方は必ずゲーニッツの夢を見てしまうのだ。
脳内で作り出した都合の良い偶像だと分かっていながら、
グスタフはその夢に毎回歓喜を覚え、今日のように目覚めた途端、自己嫌悪に陥ることも少なくない。
想像の中では決して感じない唇の冷たさも、夢の中なら感じられる。
それはまだ人間に近いグスタフの体質の所為かもしれないが、
グスタフからしてみれば、殺しきってしまおうとしている感情を煽るには十分で、
頭を切り替えるまで暫しの時間を要する。
それでも、体内時計が敬愛する上司の起床時間を知らせると無理やり寝台から身体を引き剥がし、
己の衝動も欲望も包み込む黒いスーツに身を包むのだった。
「おはようございます、グスタフ」
「おはようございます祭祀様、お加減は如何ですか?」
[7] << [9] >>
-
-
<< 保健室へようこそ
小休憩 >>
[0] [top]