保健室へようこそ
2010/08/28 Sat
m25
「………そうか」
ゲーニッツの言葉を聞いて、数秒考え込むように顎を引くと片手で頬を撫でてから視線を起こす。
妙な違和感を払拭できぬまま口を開き、軽く同僚を睨みつけた。
「……作為的なものを感じるんだが?」
「失礼ですね。貴方でも体調不良なのは見ていて分かるでしょう?」
「……まぁ、確かに様子が可笑しいとは感じてるが……」
今日の彼は何処か足取りも覚束なく、眼の下に薄いクマまで持っていた。
しかし、ルガールが心配して声を掛けても慌てたように話を誤魔化して逃げるだけで、
不調だろうということは分かったが、それ以上のことは分からない。
いっそと思い、直に聞いてみたが、何故か眦を赤くするばかりで要領は得なかった。
「そうでしょう?私とて職務で手を抜くつもりはありませんからね」
「ふむ……、それなら仕方あるまい。しかし―――」
ルガール自身、不調と縁遠いこともあって専門であるゲーニッツの言葉を無碍にすることも出来ない。
それでも、これだけは言わなければいけないと言う風に声を低くして、隻眼が青い瞳を覗く。
「ヨハンが嫌がることはするな」
きっぱりと告げる彼の名前。確固たる強さを持って告げる一言は教師が生徒を庇護する質のものとは明らかに一線を画していた。
真っ直ぐに言い切られた言葉に、ゲーニッツは冷たく瞳を細めて座っているルガールを見下ろし、感情の篭らない声が続く。
「貴方にとやかく言われることではありません。幾ら担任と言えど、職務の邪魔をするなら私も容赦しませんよ」
瞬間的に空気が張り詰め、職員室の温度が確実に二度は下がる。
しかし、威圧感を発してくるゲーニッツに臆した様子も無く、ルガールは金色の髪を揺らして首を左右に振った。
「違う」
露わになった否定的な態度にゲーニッツの片眉が小さく跳ねた。
明らかな不快感を隠そうともしない態度に、ルガールは語調を強めて続きを口にした。
「担任としてではなく、一個人として言っている」
「……なら、尚のこと、」
呆れたようにやれやれ、と息を吐き出してゲーニッツは口元に笑みを浮かべながら、人外の瞳を細めた。
「彼は私のものです」
堂々と言い切ったゲーニッツからひやりとした風が生まれた。
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