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バレンタイン・キッス

2011/03/01 Tue
m25



「―――…嘘をつくなんて、若らしくないですよ?」

穏やかな笑顔は何時もの張りつけたようなポーカーフェイスではなく、うっすらと性質の悪い色が混ざっていた。
とびきり低い声が間近で聞こえて、近すぎて赤いサングラスの向こうの瞳が鮮明に見える。
アーデルハイドは指先まで固まってしまったように、体中に緊張が走った。

「嘘…など、………んッ!」

する、と音も無く顔を近づけたオズワルドは、高い鼻をアーデルハイドの首筋に擦りつけ、耳裏を鼻梁で撫で上げた。
吐息が白い肌に染みて、ゾクリと首筋に電流が走る。
クン、と鼻を鳴らす声にも、一々心臓が跳ねあがり、アーデルハイドは首を竦めて胸板を押し返すように手を伸ばした。

「オ、オズさ……っ!?」
「チョコレートの香りがしますよ、若」
「な!? ………う、嘘です! 味見は昨日…、……っ!」
「――…なぜ、嘘だと分かるのか、教えていただいても?」
「…………!!」

これで送り主が分かりましたね。と念を押す完璧さは仕分けの鬼と呼ばれ、ルガール運送を支えてきた最古参らしい老獪さが見える。
革手袋に包まれた指先にフェイスラインを撫でられると、あまりの気持ち良さに眦が下がった。
そのトロリとした表情を窺いながら、オズワルドは首を引いて微笑んだ。

「私が責任を持って届けておきましょう」
「っ、…っ、オズ、…さんッ!」
「落ち着きたまえ、若」

ハタと我を取り戻したアーデルハイドは咎めるような大声を出す。
しかし、怪しい笑みにシフトチェンジしたオズワルドの親指が顎からスライドし、唇を封じた。
どこか悔しげに唇を一文字に結んで、指一本で閉じ込められた抗議を飲みこむ。
薄く柔らかい唇を軽く圧し、しっとりとした手袋越しの親指にからかわれる。

「たしか、三倍返しでしたね」

オズワルドの優しげで、それでいて色の含みを持つ声なんて初めて聞いた。
忙しない鼓動が止まることなく、寧ろ加速してゆく。
現状だけではなく、明らかに期待を抱いている自分にアーデルハイドは更に頬を染めた。
『好きです好きです』と無言で繰り返す小箱を意味が分からない人でなく、更に分かっていたら受け取らない人なのだ。
期待を持たせて裏切るような非道な真似はしない、それは色恋以外でも断言できる。

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[Serene Bach 2.23R]